Devil/Over Time   作:a0o

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 一度、凛の視点に戻ります。


始まりの夜

 敗北が目の前に迫っている寸前でも凛の思考は冷静だった。上空にいるサーヴァントは自分が求め止まなかったセイバーだと悟った。

 

(切り抜けるにはアーチャー本来の戦いに持ち込むしかない)

 

 その為には距離をとる僅かな時間が必要、最高の対魔力を待つ相手に魔術は通じない。令呪は無駄に消費できない、答えの出ない思考で浮かんだのは魔王との対面した場面だった。

 

『私は魔術師でないがキャスターは英霊にまでなった魔術師だ。当然、この部屋にも対策は施してある』

 

 部屋即ち空間、その瞬間凛は宝石を投げつけセイバーに当たる手前の空間で発動させた。それは一瞬の光となりセイバーの動作をほんの僅かだけ鈍らせた。

 その僅かな時間こそ凛が求めたモノ、先の令呪によりアーチャーは凛の意図が言葉にする事無く伝わっており、後方に飛び退き黒弓を構えて対峙するまで正に最速で行った。

 

「中々にいい判断だ魔術師(メイガス)、だが勝負はまだ付いていない」

 

 セイバーの口調は静かなれど必勝の気迫はハッキリと伝わって来る。その気迫に凛も負けない気迫で応じ、同様にマスターを背にするアーチャーも今までになく真剣な表情で矢に魔力を込めた。

 

 緊迫した空気が支配しセイバーが不可視の剣を構え乾坤一擲の勝負に出ようとする、アーチャーも怯む事無く応じる姿勢を取り互いに必殺のタイミングを窺う睨み合いが続く・・・・・・・・はずだった。

 

「待て!!セイバー!」

 

 その場に不釣合いな間抜けな声が響き全てが台無しになってしまった。

 凛は胡乱な目でセイバーは不満とも困惑とも取れる目で声の主、衛宮士郎を見た。

 

「・・・・セイバー、一先ず剣を引いて話をしない?貴方のマスター五里霧中の状態みたいだし、私としても今戦っても不本意な結末にしかならなく思えて来たし」

 

 前に出てアーチャーを消す凛にセイバーも納得しきれないまでも剣を下げた。

 

「改めて、今晩は衛宮君」

 

「え?・・・お前・・遠坂・・・・?」

 

 困惑を隠しきれない士郎を尻目に、説明は中でと屋敷に入っていく凛、士郎とセイバーもそれに続いた。

 

 

 

***

 

 

 同時刻、魔王はアサシンを後ろに控えさせ銀髪の少女と二メートル超えの巨人と向かい合っていた。

 

「アナタたちサーヴァントね。なら潰すと言いたいけど、今夜のわたしは大事な用があるの。見逃してあげるから去りなさい」

 

 イリヤはニッコリした表情で言うが声には絶対の含みがあった。

 

「解っている。衛宮士郎の所に行くのだろうアインツベルン」

 

 イリヤはパッチリと目を開き、その仕草で魔王は食いつかせるのに成功したと畳み掛けた。

 

「それにしても銀髪や容姿まで前のお人形(ホムンクルス)によく似ているのに、その幼さは何かの戦略か?それとも最後には金の杯に変わってしまうのだから関係ないのかな?」

 

「・・・・なんでアナタがそんな事を?一体何者なの?」

 

「私はアヴェンジャーのサーヴァント、生前は魔王と名乗り、前回の聖杯戦争ではキャスターのマスターとして参戦していた」

 

 右手を胸に添えて挨拶する魔王にイリヤは困惑を隠しきれなかった。

 

「ア、アヴェンジャーって・・・でもアナタどう見ても――――」

 

「ああ、私は生粋の日本人だ。三回目で君たちが呼び出し者とは別人、正確にはソイツを負かして成り代わった云わば二代目の復讐者(アヴェンジャー)だ」

 

「二代目・・・って事はアナタもスペックは人間とそう変わらないって事?」

 

「その通り、だが完全に唯の人間と言うわけではないし相応のカードも用意してある」

 

 魔王の自信に満ちた態度と側に居るアサシンを見ながらイリヤは困惑から持ち直した。

 

「へぇー。だからわたしを誘拐しに来たって訳?お生憎様、わたしのバーサーカーは最強なんだから、何人で来ようがどんな宝具だろうが蹴散らすわ。兎に角わたしは急いでるの!早く其処をどきなさい!!」

 

 語彙を強めて言うイリヤに魔王は慎重に言葉を選んだ。

 

「アインツベルン、君はまずどちらを殺したい。父親の愛情を掻っ攫っていった何も知らない義兄妹と両親を負かし悲願をうち砕いた男と?」

 

「どういう意味よ?」

 

「さっき言っただろう、私は前回マスターとして参戦していたと聖杯の器の事はアヴァンジャーとしてでなく実際にこの目で見たから知っていたのだ、そしてその時点で衛宮切嗣はマスターではなかった。つまり私もまた君の復讐の対象になりえると言うことだ」

 

 イリヤは魔王の説明にイライラを募らせた。

 

「つまりアナタはどうしてもこの場でわたしに殺されたいと?そんなに殺ってほしいなら殺ってあげるわよ」

 

 一見すれば魔王はピンチに立たされているが、イリヤは魔王のペースに巻き込まれつつある。後ろに控えているのがバーサーカーでなければイリヤを嗜めただろうが、たらればなど何の意味もない。

 

「まさか、それはまだ先が好ましい。そして更に先にはセイバーに遣って貰いたい事があるので、今夜は見逃してやってくれとお願いしに来たんだ」

 

「アナタの勝手な予定にあわせる義理はないわ!わたしはお兄ちゃんのところに行くの!どきなさい!!」

 

 この時、魔王は勝利を確信し本題を切り出した。

 

「アインツベルン、君もアンリマユの真実を知っているなら聖杯の降臨もご両親の願いの成就も不可能だと解ってるはず。君自身の興味は衛宮士郎にしかない」

 

「さっきからそう言ってるでしょ!わたしはお兄ちゃんをわたしの物にするの、どんな形だろうとね。悪い!!」

 

「いいや何も悪くない。悪くないが勿体無いと思わないか?」

 

「勿体無い?」

 

「君が衛宮士郎と絶対に心中すると決心しているなら何も言うことはない。だが死んでしまえばそれで終わり、生きてそれ以上のものを求め欲する心は全くないのかな?」

 

 話の流れが変わりイリヤだけでなくアサシンやバーサーカーの僅かな理性もそれに反応する。

 

「アナタに何が出来るの?」

 

 イリヤから発せられた言葉には静かながらも重い響きがあった。返答を誤れば魔王は終わりだろう。

 

「君の背負った業を肩代わりすることが出来る。その後で衛宮士郎と暮らせていけるだけの物を用意することも」

 

 魔王の返事はイリヤには大変魅力的だが〝はい。そうですか〟と応じるほど愚かではない。

 

「信じられないわね。その話を信じる証拠か根拠の提示を求めるわ」

 

「ご尤もなれど、その要求に現時点では応えられない。だからこそ取引したい数日中にサーヴァントを二、三体ほど倒す、そうすればその魂は君に回収される、そうなれば要求に応じることは可能だ。変わりに条件が整うまでは衛宮士郎とセイバーには手を出さないで貰いたい。無論、出来なかった時はアサシン共々魂を差し出そう」

 

 魔王の提案は少なくともイリヤには損はない。成功すれば本当の意味で望みが叶うし、失敗しても問答無用で落とし前を付けさせれば帳尻は合う。

 だがこの提案は魔王が勝利を求めているのが前提で成り立つ、聖杯の真実を知っているなら勝利して何をなすつもりなのかが解せなかった。

 

「アヴェンジャー、何を思ってこの戦いに参加してるの?一体何を求めているの?」

 

 イリヤの問いに魔王は不敵な笑みを浮かべる。

 

「私の望みはいくつか段階を踏むが、最終的に目指すのはこの世の全てを終わらせる。勿論、そうなるのはかなり先になるだろうから君は安心してくれて構わない」

 

 その答えに絶句するも何故か嘘で言っているようには思えなかった。

 かつて全く正反対の願いを抱いていた男を知っているからか、そう思ったときイリヤは少しだけ愉快な気分になった。

 

「へぇ、アナタ本当に魔王なのね・・・・・いいわ、その取引応じてあげる。でもアナタの言葉を信じる為には納得できる()()()()()することを条件に加えさせてもらうわ。それとお兄ちゃん、いや()()()()以外のサーヴァントをどうしようとも文句を言わないこともね」

 

 つまり成功しようがバーサーカーと戦え、失敗すると判断したら早々に潰しに行くと暗に言っていた。

 

「ああ、それで構わない」

 

 即答する魔王に頷き帰っていくイリヤ、魔王も計画を次の段階に移す為に車に戻りエンジンをかけ去っていった。

 

 

***

 

 

 凛から簡単な概要を説明され新都の冬木教会で言峰綺礼の前でマスターとして戦うことを宣言した衛宮士郎は深見町に戻ってきた。そして遠坂凛と別れるために挨拶をしようとしたが―――――――――

 

「ここでお別れよ。明日から敵同士、せいぜい気を付けなさい。セイバーが優れててもマスターがやられたらそれで終わりなんだから・・・・って言うかそれならいっそ一両日中に再戦しない?さっきの勝負も不完全燃焼だったし」

 

 グツグツと闘争心を滾らせる凛に士郎は少し引いて首を横に振る。

 

「いや遠慮しておく。それにしてもさっきも思ったが遠坂は本当に聖杯戦争に賭けてるんだな」

 

「解りきったことを言わないでよ。少し助けたからって情を移すなんて甘い真似してたら〝アイツ〟に辿り着くことすら出来ないわ」

 

「アイツって知り合いが参加してるのか?もしかしてライバルとかか?」

 

「強いて言えば十年越しの仇敵よ。これ以上は教えてあげない、アイツは私の獲物なんだから・・・・ああ、もし衛宮君が目を付けられたら知らない間に倒されてることもあるかもしれないから、そうなったら直ぐに教会に逃げ込みなさい、これは最後の忠告よ」

 

 凛は話しながらも闘争心が高まっていき、それを感じた士郎は顔も知らないアイツに同情した。尤も事情とアイツの正体を知ればそんな感情は一切起こらないだろうが・・・それどころか凛を差し置いてでも積極的に倒そうと躍起になるだろう。

 一方セイバーは凛にここまで言わせるまだ見ぬ敵を思い一層気を引き締めた。こちらもアイツの正体を知れば、ある意味誰よりも情を捨て倒すことに心血を注ぐだろう。

 

 そして今夜、その相手に知らない間に助けられたことを知ればさぞ複雑な気持ちを抱くのは間違いないだろう。その時が来ればの話だが・・・・・

 こうして聖杯戦争開始の夜は過ぎていった。

 

 

 

 

 




 正義の味方は魔王の野望を打ち砕き、果たして世界を守れるでしょうか?

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