Devil/Over Time   作:a0o

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 いきなり戦闘から始まります。


最後の日

 

 

 川原の上方で眩い輝きを放つギルガメッシュ、下方では魔王が何よりも深い漆黒のオーラを発していた。一見すれば正反対だが当の本人達は似たもの同士と言えるような雰囲気を醸し出していた。

 

 そして訳が分からないまま外野に追いやられたセイバーと凛は身動きどころか声も出なかった。

 

 そんな二人など眼中に無いとばかりに先手を打ったのはギルガメッシュだった。眉一つ動かさないまま宝具を投擲、魔王に向かい一直線に向って放った。

 対して魔王は右手にオーラを集中させて防御、しかし今度の攻撃は消失せずに明後日の方向に軌道を変えるだけに終わった。

 

「塵は無理でも壊すぐらいは出来ると思ったんだがな」

 

「さっきみたいな贋作と一緒にするな。本物の重みと言うものを嘗めるなよ」

 

 様子見は終わりとばかりにギルガメッシュは雨あられの如く次々と宝具を放ち、魔王は密度を高めたオーラを薄く前面に展開することで全て防御し、外野は流れ弾に巻き込まれないように後退しながらも戦いを見ていた。

 

 攻めのギルガメッシュと守りの魔王、双方とも余裕を崩さずに構えているが膠着状態などをギルガメッシュが望むはずもなく三点の宝具を右手に取り、より魔力を込めて投擲しようとする。だが、その瞬間に右手周辺の空間が爆発し攻撃が止む、起こした張本人である魔王は人差し指と中指を揃えて、その空間を指していた。

 

「やはり直接宝具を放とうとすれば周囲への意識(視野)が狭まるか。使いこなせていない良い証拠だ」

 

 魔王の余裕に満ちた解説はギルガメッシュ()の神経を逆なでする。

 

「おのれぇええーーー!!」

 

 さらに王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を開こうと背後の空間に黄金色が現れ所々に歪が生じるが瞬く間に爆発していく。

 

「宝具をより多く出そうとすると空間の歪はより顕著になる。激昂した状態なら尚更タイミングを合わせるのも容易い」

 

「――――――!!!!」

 

 とうとうキレたギルガメッシュは落ちていた剣を拾い魔王に向かい斬りかかる。

 対して魔王は不敵な笑みを浮かべ言う。

 

「頭に血が上ると行動が予測し易くて助かる」

 

 魔王は足で地面を擦り飛び退いてかわす。

 ギルガメッシュが到達した瞬間に地面が爆発し、そのまま落ちて行きそうになるが寸でのところで鎖が魔王の腕に絡みつき留まる。

 

天の鎖(エルキドゥ)の前では貴様の宝具も役に立たん、我が行くまで踏ん張っていろ!」

 

「神なるものを縛る能力か」

 

 邪悪なる者とは言え神の名を冠する能力(ちから)、相性が悪いのはどうしようもない。されども外の出せないだけであり発動出来ない訳ではないし、繋がっている相手()に電気の如く〝そうでない物〟を伝えることは出来る。

 

「好都合だ」

 

 魔王は鎖に黒いオーラ高め天の鎖(エルキドゥ)が反応するがを〝そうでない物〟は鎖を通しギルガメッシュへと送られる。標的に到達して直ぐに分離し爆発、連鎖して地面に開いた穴からも続々と爆発が起こる。前後左右だけでなく上下からも起こる爆発は凶悪の一言に尽きる。

 

 勢いが増していく中、腕の鎖の拘束が緩くなったのを見計らい魔王は鎖を外してセイバー達に近づいて行く。

 警戒を強めるセイバーと凛だが魔王から出た言葉は完全に予想外のものだった。

 

「今のうち逃げるぞ。車まで走るから着いて来い」

 

「ちょっと、あっちはどうすんのよ?」

 

 未だ爆発が起きている穴を指差し凛が問う。

 返答はまたも予想外のものだった。

 

「ああ、もう爆薬が打ち止めになってしまってな。このままでは殺られてしまう、だから撤退だ。お前たちも色々聞きたいことがあるだろう、説明してやるから今は黙って来い」

 

「・・・・・・・・・」

 

 二の句が告げないが、ずっとそうしている訳にもいかず魔王に続いて走って行った。

 

 

 

 そして爆発が弱まった時、憤怒の表情のギルガメッシュが穴から出てきたが、その場には魔王でなく戦闘状態のアサシンが居ただけだった。

 

「魔王はまた逃げたか。雑種、差し詰め貴様は時間稼ぎの捨て駒か?」

 

「ええ、その通りです。力の全てを出し尽くして足止めさせていただきます。それと、魔王(マスター)からの伝言です。〝決着は相応しい舞台でつけよう〟と」

 

 彼女には魔王(マスター)から十二分の魔力を齎されており、更に令呪のバックアップも加わってこれ以上ない程に絶好調だった。

 それでも英雄王(ギルガメッシュ)には遠く及ばないだろうが、一矢報い魔王の最後の命令(・・)だけは絶対に果たすと奮い立っていた。

 

「フン」

 

 少しだが溜飲が下がったギルガメッシュは新たに宝具を展開、アサシンは躊躇う事無く全力で向って行った。

 

 

 

――――九日目

 

 

 朝も早い遠坂邸、凛とセイバーは魔王とテーブルを囲み説明を受けていた。

 

 十年前の最終決戦の夜、セイバーが消えた後でこの世全ての悪(アンリ・マユ)に汚染された聖杯の泥に飲まれた魔王とギルガメッシュは、それぞれ別の方法で打ち勝ってみせた。結果、魔王はそれから死んだ現在まで呪いに纏わり憑かれる事になり、ギルガメッシュは呪いを糧に受肉を果たした。

 

「アンリ・マユ、確かゾロアスター教の最高位の悪神よね」

 

 話しを聞き終わった凛は考えるように呟いた。

 

「正確にはその役割を負わされた普通の人間なんだがな。ただ、〝この世全ての悪であれ〟と摸造された〝願い〟その物の存在ゆえ色々と面倒な狂いが生じてしまった」

 

「聖杯はあらゆる願いを叶える願望機、考えるまでも無く最悪の組み合わせね。そして魔王(アンタ)にはこれ以上ないピッタリなモノは無いわね」

 

「そうでもないさ。事実、生きている間は不定期な頭痛にさえなまれ続けた、治療を頼んでみれば余計に酷くなり、肝心な場面でも引かざる得ない状況に陥ったこともあった。

 おかげでマスターに出会う事にもなったが、それでもチャラにはしがたいな」

 

「アンタと言う存在を顧みれば寧ろ丁度いいじゃない」

 

 その時、セイバーが深刻な表情で尋ねた。

 

「・・・・それでは私の求めていた聖杯は?」

 

「当の昔に別物に変わっている」

 

 キッパリと言い切る魔王にセイバーはおろか凛すら言葉が出で来なかった。

 

「今回の聖杯は完成に近づいている。そしてギルガメッシュが最も殺したい相手が俺だ」

 

「だから手を出すなって?アンタ、もう武器が無いんじゃないの?」

 

 協力を求めるニュアンスには聞こえず出た凛の疑問に魔王は笑みを浮かべて返す。

 

「秘策がある。黙ってみてても君達にはそんはない提案だと思うが?」

 

「魔王、貴様!」

 

 前回の最終決戦前を思い出すやり取りにセイバーが反論しようとする。

 

「いいわよ別に、どちらにせよアンタもあの金ぴかも倒さなきゃいけない敵なのは変わらないんだし」

 

 あっさりと提案を呑む凛、その目には言い表せない〝何か〟が込められておりに制される。

 そして満足のいく返答に魔王は立ち上がり邸を後にしようとする。

 

「・・・・・負けるんじゃないわよ」

 

 小さな声で言う凛に心の中で微笑み、最終決戦前の最後の一仕事に出向いた。

 

***

 

 

 冬木市新都、前回の決着の場所である公園のベンチで魔王は座りながら現状の確認をしていた。

 

 アサシンは最後の仕事を全うしてくれたようでギルガメッシュの現在地を感知できるマーキングは申し分なく機能していた。

 ギルガメッシュは間桐邸の周辺にいるようでサーヴァント()が居ないにも関わらずも用があるとすれば、聖杯の予備の器ぐらいだろう。網を張っているつもりかは断定できないが本来の器を手中にしている以上、出向くつもりは無かった。

 

 間桐の予備の器とキャスターが言っていた人間以外の何かは気にならない訳は無いが、仕掛けてくる気配は全くない以上は余計な事はしない方が良いだろう。

 

 そしてギルガメッシュが其処に居ると言うことは、マスターである言峰綺礼は一人で教会にいることになる。綺礼には現界した時からどうするかを決めていたので、今こそが絶好のチャンスと言えるだろう。

 バゼットと仁賀の二人のマスターを従えて第五次聖杯戦争を制すると言う計画を駄目にした一端を担ったことも含め(不合理ではあるが)借りを返しておく意味も兼ねて動くことを決心した。

 

(だがその前に)

 

 魔王は携帯電話を取り出し前日に配送した物がどうなっているか連絡を取った。返ってきた返答は、物はキチンと営業所に保管されており指定日には滞りなく届けられるとのことであった。

 完全な私用ではあるが、これで心置きなく動くことが出来ると魔王は携帯を切り立ち上がった。

 

(しかし、アサシン(サーヴァント)を失い教会に行く・・・ルールを鑑みれば保護を求めに行くみたいだな)

 

 これから行く目的とは全く真逆の思考に失笑を禁じえなかった。

 

 

 ***

 

 

 冬木教会の礼拝堂で言峰綺礼は珍客中の珍客を出迎えていた。

 

「こうして直に顔を合わすのは初めてだな、言峰綺礼」

 

 礼拝席に腰掛けながら魔王は悠然とした態度で祭壇に立つ綺礼に語りかけた。

 

「その筈だが、それでも懐かしいと感じてしまうな」

 

「まぁ無理も無いな。尤も私の方は感傷に浸りたい気分じゃないがな」

 

「神の御前だ。貴様の様な魔性にはさぞ居心地が悪かろう」

 

「それをお前に言われるのは心の底から不愉快だな。確かに俺は外道だが悪趣味ではないつもりだぞ」

 

 魔王の皮肉に綺礼は苦笑する。

 

「それでは、今回はどんな地獄を描き出すつもりなんだ?」

 

「期待を裏切って悪いが、今回は地獄ではなく楽園を作るつもりで参戦したんだ。神の定めた律を捻じ曲げ、愛に溢れたとまでは言えないまでも不条理に嘆く〝坊や〟たちに至福を与える楽園。

 そして、その是非において世界を終焉に導くのさ」

 

「なるほど、いかにもお前らしい迂遠な遣り口だ。

 しかも甘い餌(楽園)を用いて世界を終わらすとは、正に魔王の所業だな」

 

 実際の所、綺礼には魔王の言っていることは半分も分からなかったが、かつての広域封鎖事件を遥かに上回る所業であるだろう事は漠然と感じ取り、奇妙な期待感が溢れていた。

 

「結果としてそうなるかもしれないと言う話だ」

 

「ならば私が代わりに成そう。不確定だと言うなら補い導いてみせよう」

 

「まぁ、予想通りの答えだな、だから今ここに来た・・・前回の様な色々な意味での大番狂わせは御免だからな。

 貴様はここで排除する」

 

 魔王は立ち上がり綺礼の正面に足を進める。

 

「こちらも予想通りの答えだ。だがそう簡単にはいかないぞ、それに何より今の貴様は人殺しは出来ないんじゃなかったのか?」

 

「その通り、今の私は誰も殺せない」

 

 言っていることとは裏腹に魔王の殺意は確定しており、綺礼は黒剣を構えて臨戦態勢を取る。

 

「だがな、英霊(サーヴァント)同様に既に死んでいる者なら話は別だ」

 

 そう言い切った瞬間、不穏な鼓動が綺礼を襲う。

 綺礼は黒剣を落とし胸を押えながら膝を突き倒れこむ。

 

「十年前にお前はもう死んでいたんだ。その死者(お前)をこの世に繋ぎ止めている物の所有権は私にあるのでな、悪いが返して貰う」

 

「ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・・ハァ・・ハァ・・・・・・・・・」

 

 もやは言葉すら発することの出来ない綺礼を見て、十年前の再現のようだと思いながらこの世全ての悪(アンリ・マユ)の欠片を回収する魔王、同時にまだ繋がっているパスを一時的に支配しギルガメッシュ(メインデッシュ)に向かい宣戦布告する。

 

「今夜、柳洞寺・・・ランサーとの決闘の場所で待つ、決着をつけよう英雄王」

 

 そうして教会を去ろうとする魔王の頭に声が響いた。

 

『いいだろう望むところだ。その挑戦、確かに受けたぞ魔王』

 

 快諾を得て最終決戦の舞台が整ったことが確定し、魔王は心底楽しそうに笑いながら歩いて行った。

 

 

 




 次で決着を付けます。

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