今回でついに殿下sideの物語は終わりです
いかがでしたかな?
おっと、そんなことは後書きでやれって話ですね
それでは、本編をどうぞ
都立図書館、貸し出し・返却カウンター
草薙レンカは、カウンターの席に座って特に何をするでも考えるわけでもなく、利用者を待っていた。
ここの都立図書館に非正規雇用として入って二ヶ月ほど。利用者は多くもなければ、少なくもない。
ほどよく人がやって来るのが、この図書館の良い点だ。
「ん~~~~」
レンカは小さな声で唸りながら背伸びをした。こういう座り仕事中には、適度に歩いたり体をほぐさないとキツい。
さらに昨日まで借りてる工房に引き込もって神珍鉄を鍛えていたので、体にそれなりの疲労感があった。
(ホント、こちらに流された時、体が若返って良かった良かった。じゃなかったら、今頃爆睡中だったな~)
実はレンカがこの箱庭に流れ着く前は、こんな十代の若々しい姿ではなかった。
前の世界ではおよそ120年生きていたが、強さを求めて吸血鬼の細胞を埋め込んでいたので不老であった。
話し方が変なのは、細胞を埋め込んだ時が四十代のおじさんだったため。
では、なぜ箱庭に流れ付いた際に若返ったのか。
それはおそらくレンカを箱庭に送り込んだ“管理人”と名乗る者が気を効かせてくれたのだろう。
一般的に人間の身体は十代後半から三十代ぐらいまでが全盛期であるから。
さてと、もう一頑張りしますかねと気合いを入れ直していると、
「ちょっと、いいか」
「おお、構わないよ。どうしたんだい?この図書館で困っていることならおいちゃんが力になってあげられるよ。······おや?」
尋ねてきた利用者は見知った白髪の少年だった。
「こうしてお前が、副業をしているのを見るのは初めてだな」
「なんだ白髪のあんちゃんか。おいちゃん何か忘れ物でもしたかなぁ?コウちゃんの弁当ならちゃんと持ってきたはずだけど」
「違う。忘れ物を届けに来たんじゃない。ここを普通に利用しに来ただけだ」
「えぇ?白髪のあんちゃんが~?おいちゃん信じられないな~」
ニコニコと笑いながらレンカはそう言う。
「というか、そもそもきみがたった一人なんてことが珍しいことだよ。こういう場ではいつも誰かが側にいたろ?」
「ああ。今日はリンが白を誘って、その白が誘った鏡磨に誘われて来たんだ」
「成る程。芋づる式に来たというわけか。てっきり、おいちゃんの仕事姿を見に来たかと思ったよ」
「いや、それはないな。絶対にない。リンにそのような意図はなかったはずだ」
「······そこまで否定しなくていいんじゃない。おいちゃんも傷つくよ···」
殿下は客観的な推測を言っただけで何故レンカが若干落ち込んでいるかは分からず、目を丸くした。
レンカはそんな殿下を見て、やれやれと肩を竦めた。まだまだ殿下には“勉強”が必要なようだ。
「それで、他のみんなはどうしたんだい?近くにいないみたいだけど」
「今は各自自由行動ってことになっている」
「いくら、図書館という一つの施設の中だからってそれはあまり感心できる行動じゃないね。いや、おいちゃんがいるから敢えてそうしたのかな。そう考えると―――おっと、おいちゃんとしたことが無駄に考え込んでしまったな。それで、白髪のあんちゃんは何の用だい?」
ここでようやく、一番初めの会話に戻ってきた。
「図書館は本を借りたり、読んだりするところなんだろう?でも、こうも数が多いと何を読めばいいのか分からなくて。何かオススメの本はあるか?」
「ちなみに、あんちゃんはどんなジャンルの本が好き?」
「好きなジャンルは無い」
「・・・。じゃあ、おいちゃんの生まれ故郷、“日本”の本はどうだい?箱庭は結構西欧色が強いし、東洋系なら中国とが有名だ。これを機に、学んでみるのもどうだろう?」
「日本か···。鏡磨からたまに話を聞いていたし、丁度いいな。どこにあるんだ?」
「マイナーだから端の方にあるよ。どれ、おいちゃんが案内しよう」
そう言ってレンカは立ち上がると、奥の方に声をかけカウンターを出てきのだった。
◇◇◇
鏡磨は人生初の図書館を見て回り、人気の無い本棚の前に立っていた。
ジャンルは“日本”。
今日はその内一冊の歴史書を読んでいた。
「随分と懐かしいな···。箱庭の何処かで見れるんじゃないかとは思っていたけど、こんな形になるとは」
鏡磨の見ている本は、平安時代の主な出来事、貴族の暮らしなどが絵付きで載った物だった。
鳥居鏡磨は平安時代に生まれた陰陽師の少年である。式神を使役し、悪鬼羅刹を倒す者。
家系は代々貴族に使える誇り高き家柄だった。
その彼は今、ドリフターズとしてこの箱庭にいる。
何とも運命とは分からないものだなと鏡磨は思った。
クイクイ。
鏡磨が今は帰れない故郷に思いを馳せていると、服を引っ張られた。
振り向くと、白が立っていた。
「どうした、白?もしかして、集合の時間過ぎてて呼びに来たのか?」
もし、そうだったらマズイ。何故か鏡磨はリンから目の敵にされている節があるので、次のゲームメイクの時に生け贄にさせられかねん。
鏡磨が狼狽していると、白は声なく笑いながら首を振った。
「 」
喋っている。白はしっかり喋っているのだが、声が聞こえない。
さながら、口パクをしているようだった。
ここで、鏡磨はようやく目の前にいるのが白であって白でないことに気づいた。
「そうか。また抜け出して来たのか、ドッペル。白にきつく怒られるぞ」
彼女の名前はドッペル。白の分身であり、生霊であり、影である存在。
ギフト“ドッペルゲンガー”そのものである。
『そう言われましても、“ドッペルゲンガー”なのでオリジナルとは別に行動することは当たり前なのです。それに、鏡磨さんが直接オリジナルを遠ざけることなんて珍しい。これを見逃す手は無いと思います』
そう言って(読唇術による読み取り)、ぎゅっと背中に腕を回して抱き締めた。
そして、猫のように額を擦り付けながら鏡磨の顔を見上げる。
その表情は拗ねているようだった。
『オリジナルはズルいです。いつでもどこでも、好きな時にあなたに触れられる。話しが出来る。見てもらえる。だから、こんな時ぐらい私が鏡磨さんを独り占めしたいんです。少しだけでいいんです。······ダメ、ですか?』
頬を少し紅らめて上目遣いで見つめる。その目はじっと真っ直ぐ鏡磨だけを見ていた。
そんな女の子の頼みを断れる奴がいるだろうか。いや、
「ああ、もちろんだ!白が来るまで一緒にいよう。そして、ついでに一緒に怒られよう」
鏡磨は衝動的にドッペルを抱き締めながらそう言った。
チクリと少し胸が痛んだ。でも、それ以上に彼女を抱き締めていたかった。
ドッペルもドッペルで、今だけは自分だけの鏡磨の感触を堪能していのだった。
「さて、そう言ったものの何しようか?ドッペルも楽しめる方がいいよな。なら、別のとこに移動するか?」
ドッペルは首を横に振る。
『いえ、その、出来ればで良いのですが···。あなたのいた時代のことを教えてくれませんか···?あなたがどのような世界に生まれ、生活していたのか知りたいんです。丁度、ここには資料もいっぱいありますし。オリジナルも知らないあなたのこと、教えてくれませんか?』
ドッペルは期待と不安と多少の後ろめたさが混ざった瞳で見つめている。
前の世界での話。それは
もう帰れない世界。もしくは、その世界の全てを捨ててやって来た。
そんな者たちに、自分の生まれた世界のことを聞くことなど野暮なことだ。
白も当然、たまに鏡磨が話すのを聞くことはあっても自分から鏡磨に前の世界での話を聞こうなんてしなかった。
「そんな面白い話じゃないぞ?」
『構いません』
「本当にそんなことでいいのか?」
『“そんなこと”なんかじゃないです。あ、でも鏡磨さんが話したくないって言うならそれはそれで構いません!本当はこんなこと聞くのは失礼だって分かっていますので···。あのっ、だから、さっきの言葉は忘れて―――「そこまで言われたら話さないわけにはいかないな」えっ?』
ドッペルが驚いて顔を上げると、鏡磨がニヤリと笑っていた。
鏡磨はいくつかの本を取り出すと、ドッペルを近くにある長椅子に誘導した。
『ほ、本当にいいんですか!?』
「何言ってるんだ?聞きたいって言ったのはドッペルだろ」
『···はい、そうですね。ありがとうございます』
ドッペルは照れ笑いを浮かべながら座った。
(かわいい···///)
出来るだけ冷静を装いながら鏡磨はその隣に腰を下ろす。
そして、適当に本をパラパラと捲っていきながら何から話したものかと悩んだ。
結果として、平安京周辺の地図のページで止まった。
「俺は西暦941年の霜月に生まれたんだ。雪が積もらない程度に降っていたらしいから下旬ぐらいかな。鳥居家は陰陽道としての歴史は浅くて、貴族お抱えとまでいかなくてもちょくちょく呼ばれてたな。下の方の貴族にだけど」
そう自分のことを語る鏡磨にドッペルは寄り添いながら耳を傾けていた。
ドッペルは、オリジナルである白と違って年相応の可愛らしい女の子だ。
いや、別に白が年相応じゃないと言いたいわけではない。
でも、やっぱりクールで少し大人びている白と比べたら若干幼いので、年相応に見える。
彼女は白の分身であり、生霊であり、影であり、ギフトそのものである。そのため白の影響を大きく受ける。
だから、彼女はよく悩み苦しむ。自分の鏡磨に抱く気持ちはオリジナルの影響で偽物ではないのか、と。
否定をしたい。否定したいが、完全に否定することができない。所詮、自分は白の分身なのだから。
苦しくて苦しくて何度も涙を流した。今も幸福感と同時に胸が苦しい。
いっそのことこんな気持ち知らなければ良かった。何で私は自我を持ってしまったのだろう。どうして一人の人間として生まれなかったのか。
助けて欲しかった。でも、これは誰かに助けてもらって解決することじゃないこともわかっていた。
鏡磨はドッペルのことをどう思っているのだろうか。
白の分身だから、姿が同じだから優しく接してくれているのだろうか。抱き締めてくれるのだろうか。
実際、オリジナルの白とのギャップ萌えでそんな行動をしている節がある。
(本当は私のことなんか···)
「やっぱり、つまらないよな。悪い」
ばっと顔を上げると、首を振って全力で否定した。
『そんなことないです!全然楽しんでましたよ!ただちょっとぼーっとしゃちゃって。鏡磨さんは悪くないのです!悪いのは、お願いしたのにぼーっとしていた私なのですからっ!』
あまりの早口に鏡磨の読唇術は追い付かなかったが、ドッペルが言っていることはなんとなく分かった。
「ありがとうな」
『違っ――』
ぽすっとドッペルの上に鏡磨の手が置かれた。そして、なでなでと優しくドッペルの頭を撫でる。
『――気を···使ってたわけじゃ······ないんですからね。あぅ』
「分かってるよ、それくらい。でも、ドッペル。俺はさっきのお前がぼーっとしてるんじゃなくて暗く悩んでいるように見えた。何かあるなら俺に話してくれないか?」
心は現金なもので、頭を撫でられる心地よさと自分のことを見て心配されていると分かっただけで喜びで満ちてしまう。さっきまで鏡磨のことを疑っていたくせに、何とも都合の良いものだ。
(ああ、でもどうしようもなく幸せだ、私)
何だか急に悩んでいる自分がバカらしくなった。生霊だの、分身だの、影だの関係なく今の時間を大切にしたい。
せっかく鏡磨と一緒にいれる時間なのだ。不安になるなんてもったいない。今の時間を楽しまなくては。
そうドッペルは多少強引に気持ちを切り替えた。
「ドッペル?」
『何でもありません。本当にちょっとぼーっとしてただけですので』
「そ、そうか。ドッペルがそういうならそうなんだろう。でも、何かあったら言えよ。俺の出来ることなら力になるぜ!」
と鏡磨はニヤリと笑った。
それにドッペルも満面の笑みで応えた。
『はい!』
この時、幸せオーラに包まれた二人は気づいていなかった。鏡磨の後ろに白が立っていたことを。
彼女はハイライトの消えた瞳で見下ろしながら、うっとり笑っていた。
そして、まるで蛇が獲物を追いつめるようにゆっくりと鏡磨の首へと腕を伸ばす。
「きょ~う~ま~♡」
いかがでしたか?第四章殿下sideの最終話である今回は
私としては、やっと解放されると大喜びだったりします。ぶっちゃけ、書き始めたときは良かったんですが続けていると辛くて辛くて...
そんなことより、“隠れ屋”であるレンカさんや二人目の白さんことドッペルさんのことが明かされましたがどうでした?
鏡磨:ちょっと待て!俺は!?
みなさんがどう感じたかぜひ知りたいところですね
出来れば、感想を書いてくれると嬉しいです
鏡磨:安定の無視かよ!
次回は、コーキさんの話となるのでお楽しみに
久しぶりの“ノーネーム”です♪
それでは、また次回お会いしましょう!
鏡磨:終わっちゃったよ!
死人に口なしですから何も聞こえません
鏡磨:えっ?