原作二巻分だったので長かったでしょうか?
それでも楽しんでいただいていたら幸いです
ところで、今回は読み返していて最後の方のシーンって我ながらよく書けたなって思います
それでは、彼が目を覚ます本編をお楽しみください!
吸血鬼の古城・黄金の玉座
「―――つうのが、オマエの知っている『カズマ』って奴の正体だ。衝撃的だったか、吸血姫?」
「いや、そうでもない。逆にこれでカズマの多少不可思議な部分に説明がついた。それに最後に本当の話を聞けたのは嬉しかった」
コーキと別れた後、白カズマは遅れて玉座の間に戻ると寝転がっていたのだ。
そして、玉座に縛られているレティシアの要望でカズマについて語ったのだった。
「カズマはまだ、話しているのか?」
そう本来ならすぐに終わる入れ替わりが未だに終わっていないのは、白カズマ曰くカズマが“カズマ”と話しているからだそうだ。
それでも徐々に入れ替わりが強制的に行われていっているのが目に見えて分かる。
「ああ、でもそう時間はかからねェよ。それよりも、テメェは諦めるのか?」
「仕方がないことだろう。これはこのゲームが始まったと同時に決まっていたことだ」
「そォかい。吸血姫がそれでいいンならオレがとやかく言うことじゃねェ」
「ああ、すまないな。それと、すぐにバレてしまうがこのことに関する記憶は共有しないでくれ。頼む」
「錬金術師の記憶をオレが共有するのは当然だが、その逆はありえねェよ」
「はは、そうか。ありがとう」
そう言うレティシアをつまらなそうな目で白カズマは見ていた。
◇◇◇
真っ白な空間にポツンと一つだけある入院患者のベットに寝ているいる10歳にも満たない少年いた。その空間には心電図の規則正しい音が鳴り響く。
カズマの手には深海のようなブラックブルーの本と優しそうなライトブルーの本の計二冊があった。
この本を見つけるのに9回もゲームオーバーになってしまった。
記憶はないが12回ある内の半分以上を失敗したと気づいた時には、もうこのまま消えようかと考えた程だ。
人間みたいに『
そもそも、カズマはクリア条件に書かれた“カズマ”の解釈を勘違いしていた。
“カズマ”を生前のカズマとして考えていたのだ。
生前のカズマはあまり生まれつき心臓を患っていた。
突発的に発作を起こしてしまうタイプでそのまま死に至るかもしれないものだ。
治療法はない。世に言う不治の病だった。
だからと言ってずっと入院暮らしをしていたのとかではない。
他の子と同じで、定期的に病院に通っている以外至って普通の生活を送っていた。
まぁ、それでも性格からしてあまり活発ではなかったので趣味は読書だった。
こういうことからカズマは、人か本かの形で“カズマ”は図書館にいると考えた。
図書館の場所などすぐに分かった。
なぜならゲーム盤は、世界の終焉がラジオで流れ悲鳴や怒号で埋めつくされたカズマの生まれた街だったからだ。
ありえないくらい広くなっている無人の図書館の中をひたすら走り続けた。
そしてようやくブラックブルーの本を見つけた。それでクリアだと思った。
でも、違った。そこには何も書かれていなかった。存在していなかった。
眩む。目眩がする。内側から崩れていく。消えていく。
その中でやけに頭がガンガンと痛かった。まるで抗うように、踏みとどまれというかのように。
警鐘が鳴り響いていた。
再び走った。まだ何か見落としてないか。まだ足りないものがあるのではないかと。
何も無いはずなのに、喪失感に襲われながら走って、走って、走って―――見つけた。
もう一つの本、ライトブルーの本を。
つまるところ、“
そして、ライトブルーの本には一文、
『初めましてもう一人の僕』と書かれていた。
「やぁ、カズマ。こうやって自分と話すことがあるなんてね、思わなかったよね」
「ああ」
「そんなところに立ってないでこっちに来なよ」
真っ白な空間の中にポツンと患者用のベットがあった。
「········」
「カズマ?」
カズマはしばし動かなかったが、すぐに音もなくベットの近くに置いてあった椅子に座った。
「改めて、会えて嬉しいよ。もう一人の僕」
「そう、····なのか?」
「うん。さっきに言っておくと、僕はあの日に死んだ僕の残留思念だから警戒しなくていいし、変な気とか使わなくていいよ」
「だが·····」
「変な気を使わなくて良いってば。僕は別に君に恨みとか憎悪とかそんなの全く感じてないから。
「感情」
「そう、それだよ。知識があっても感じたことがないとそれが何なのかは分からないし、どうしたらいいかもわからない。でも、君はそれで良いんだよ。ちょっと遅いかもしれないけど、これからの生活でそれらを理解していけるんだから」
「どうだろう。俺は確かに人間に近づいたかもしれない。けど、所詮は紛い物だ。これだって借り物だしな」
と自分身体を指す。
「自分をあくまで人間と認めないのはともかくとして、その身体を借り物なんて言わないでよ。それはもう僕の身体じゃないし、君と一緒に成長していったんだ。もう立派に君のものだよ」
そして僕のは身体こっちだ、と十歳にもみたいない彼は笑いながら言う。
「それに君は紛い物なんかじゃない。人間ていうのは神様が創ったものなんだよ。だったら、一緒だ」
「お前忘れたのか?神は人が信仰してるから存在しているんだ。だからその考えが全てじゃない」
「卵が先か鶏が先かって問題のこと?」
「ああ、だから本当に神に創られた人間っていうのは存在しない。ましてや、魂だけだなんて····」
カズマは大きな溜め息を吐く。
「そんなのでも、とりあえずは良いって気がしている。何だか不思議だ」
「そうかな?人ってどこかで妥協するものだよ。完璧なんてそうそう出来るものじゃないよ」
「確かにな。というか、こうして見ると俺ってネガティブな気がする」
「ネガティブじゃなくてちょっと頑固なだけじゃないかな。箱庭に来てからとか見ても協調性とかなかったし」
「大体一人で出来るからな」
「そう言えるのは、ちょっとオトナっぽくて憧れるなぁ。それに冷静なとことか冷酷なとことかもカッコ良くて羨ましいよ。今の僕とは正反対だ」
「そうだな。お前は柔らかくて優しそうだ。というか、冷酷って褒めてないだろ!」
「ははは!いや、そうじゃないんだ。僕って優柔不断だから捨てれる強さは羨ましいよ」
「優柔不断だった·····か?」
「うん。多分そうだと思うよ」
小さなカズマはそう言い笑うと、
「さて、そろそろ時間が無くなってきたね。もう一度言うけど、君は君のままでいて良いんだよ。今の君は紛い物とかじゃなく正真正銘のカズマ・N・エノモトなんだから」
「分かってる」
「それと、友達はいっぱい作った方が良いよ。そうすれば、君はその友達から感情というものを実体験しながら理解することが出来るはずだ」
「友達ねぇ······。今さら俺に作れるもかな?」
「可能だよ。友達作るのに『今さら』なんてない。そして、友達も大事だけどレティシアのことは特に大事にしてね」
「はぁ、また何で?」
「大体予想してるでしょ」
「まぁな。俺は今も前も鈍くはない」
「だよね。それじゃあ、出口はあっちだよ」
小さなカズマが指を指した先には、無地の大きな扉があった。
それは、あの引きずり込まれた扉だ。
今もあの中でインストールされた“真理”は頭の中に鮮明に残っている。
カズマは立ち上がると、一歩一歩と歩いて扉に近づいていく。
ふと立ち止まる。
そして振り返ると、小さなカズマはベットの上から手を振っている。
「なぁ、お前は――」
「うん。君がここを出ていけば僕は消える。でも、君の一部になるだけだから大丈夫だよ」
そう優しく微笑む。
カズマは再び歩き、扉の前に立った。
すると、ギィィと音を立て扉が開かれる。
その中から瞳が開き、カズマを見ると幾つもの手が伸びてきて絡まりついていく。
「最後に」
カズマは振り返らない。
「最後にコーキに伝えてくれないかな?僕のために頑張って医術を勉強してくれてありがとう。そして、死んじゃってごめんって」
次の瞬間には扉の中に引きずり込まれた。
返事はする必要性などない。
言わなくても同じカズマなんだから分かるはずだ。
そして、カズマは目を覚ました。
◇◇◇
カズマは、目蓋を開けるとぼんやりと石の地面を見つめる。
しばらくすると焦点が合うと顔を上げた。
「カズマ、気がついたのか!?」
そんな声が後ろから聞こえた。
首をのけ反らせて見ると、黒いドレスを着たレティシアが心配そうに見ていた。
そこで自分が玉座を背にしていたことに気づいた。
「ああ。大丈夫だ。問題ない」
カズマはそう言い立ち上がると、伸びをした。
「やっと起きたか。
「ああ"?」
そう声がした方を見れば、ボロボロの十六夜がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「おっかー、カズマ。流石だね~。戻ってくると信じてたよん!」
コーキは十六夜の傷の手当てをしている。
その隣では包帯を巻かれた耀が、
「本当にカズマだった·····」
と呟いている。
「なぁ、カズマ。お前は今、どういう状況か理解しているのか?お前の中のカミサマに教えてもらったか?」
「いや、全然。あいつはそこまで都合の良さそうな存在じゃない」
「ならコイツを見れば、分かると思うぜ」
十六夜は少しボロくなってる今回のゲームの“契約書類”を渡した。
「いや、いくらなんでも“契約書類”だけ渡しても意味わかんないでしょ」
「いやいや、そっちこそ何言ってんだコーキ?これさえ見れば、大体わかんだろ」
十六夜の言う通りカズマは理解した。
「理解した。それで?」
「外には、ゲーム開始と同時に巨龍が現れた。そして、第三勝利条件はあとこの欠片を填めれば終わる」
投げ渡された欠片を手にカズマは窪みを探す。
「そういえば、レティシア。もしかしたらって思ったんだが、外の巨龍ってお前自身じゃないのか?」
何気なく言った十六夜の言葉にその場にいた全員が驚いた。
「よく·····分かったな。その通りだ」
「ど、どういうこと?」
「ああ·····やっぱそうだったんだ。明らかにこのゲームは損得勘定みたいなゲームバランスが少し歪だからね。そんな気がしてたんだよー」
コーキの答えとは言えない独り言に耀が疑問符を浮かべていると、カズマは窪みを見つけた。
「ちょっといいか、レティシア」
「どうしたカズマ?」
「この欠片を填めて勝利条件を満たせば、このゲームは何の問題も起きず終わるんだな?」
カズマの相変わらずの光なき虚ろな瞳からは何の感情も感じられない。
「········ああ、そうだ。勝利条件を満たせば巨龍も消える。私も無力化されてゲームセットだ」
カズマはしばし思案していうのか動かず、ようやく手の欠片を填めた。
『ギフトゲーム名 “SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”
勝者・参加者側コミュニティ“ノーネーム”
敗者・“ ”
*上記の結果をもちまして、今ゲームは終了となります。
尚、第三勝利条件達成に伴って十二分後・大天幕の開放を行います。
それまではロスタイムとさせていただきますので、何卒ご了承下さい。
夜行種は死の恐れもありますので、七七五九一七五外門より退避して下さい。
参加者の皆様はお疲れ様でした』
「·······どういうこと?」
耀には意味が分からなかった。何度“契約書類”を読み直しても内容は変わらない。
「其処に書いてある通りだ。今から十二分後に箱庭の大天幕が開放され、太陽の光が降り注ぐ。その光で巨龍は太陽の軌道へと姿を消すはずだ」
大天幕がなくなり、太陽の光が直に降り注ぐことは吸血鬼であるレティシアの死を意味している。
つまり、このゲームはどの勝利条件を満たそうとしても彼女は死ぬことになっているということだ。
「騙すようなことをしてすまなかったな。でも、どうか分かってくれ。私はもう二度と·······同士を殺したくはないのだ」
そう儚く笑うレティシアに耀はこれ以上何も言えなかった。
レティシアは耀、十六夜、コーキと順に顔を見てカズマでその視線は止まった。
深呼吸を一つし顔を引き締めようとして、無理だったのか悲しそうな笑みを浮かべた。
「カズマ。最後にお前に伝えておきたいことがある。こんなことになってしまってもう遅すぎて手遅れだが、私は「嫌だ」·······カズマ?」
レティシアは呆然とした。ショックだった。言葉にすることすら許されなかった。
その当の本人のカズマは鋭い目付きでレティシアを見ていた。
「正直、今ここでお前の遺言めいた最後の言葉なんか聞くつもりはない」
淡々と言葉を述べながらカズマは玉座に歩いていく。
「レティシア、お前はこのまま諦めて潔くされるがままに死にたいのか?」
「カズマ、何を···?何を言っているんだ!?そんなわけないッ!しかし、これは仕方のないことだ!このゲームを一秒でも早く終わらさなければ、その分苦しむ人が死人が増ていく。もしかしたら、お前たちを殺していたかもしれないんだ·····。そう思うとゾッとする。言っただろう、私はもう同士を殺したくなんかないんだって」
「なら、問おう。
「何が――!?」
「だって、そうだろう?このまま何もせずにレティシアが死ぬところを見ているだけっていうのは、俺たちが殺したをも同然じゃないか」
「それは違う!違うぞ!」
「ああ、違うと思う。でも、残された奴らのことを考えろ。何か他に救う方法があったんじゃないか。あそこで何かしていたら結末は変わったのではないか。そもそも、再び魔王何かにならなくて済んだんじゃないか。そんな後悔と悲しみの深い傷をの痛みを味あわせたいのか?」
「違う違う違う違う違う違う!!!これは私の過去の罪だ!お前たちに責任はない!だから後悔する必要もない!私は!私は、ただ·····」
「人間っていうのはそれでも後悔をして悲しみ勝手に心に傷を負うものだ。死人に口無し。お前は自ら口を塞ぐのか?」
何故そんなこと言うのか。この問いに、言葉に何の意味があるのか。
全然レティシアにはカズマが分からなかった。
悲しかった。悔しかった。でも、少し嬉しくて·····心が痛い。
ポロポロと涙が出てきた。
レティシアだって生きたい、死にたくない、大切な仲間を悲しませたくなんかない。
でも、圧倒的な運命という力に抗うすべなど持っていない。
圧倒的にどうしようもないのに、
「なら―――なら、どうしたら良かったと言うのだッ!?私は一体どうしたら良かったと言うのだ!!!!!」
その顔をくしゃくしゃにしながらの問いの答えは、至ってシンプルで彼らしくないものだった。
「そんなの俺たちに頼めばいいんじゃないか。助けてくれって」
彼のことを
レティシアが「バカかッ!」と怒鳴ろうとした時、突然カズマの肩に腕が絡まれた。
「おうおう、随分と言うようになったじゃねぇかカズマ」
「いやいや~、ついにデレ期の到来ですかにゃー?」
いつの間にか隣には、十六夜とコーキがいてニヤニヤと笑っていた。
「正気かお前たちッ!?それが自殺行為であると何でわからん!」
「それはお前だろうがこの駄メイド。何一人で悲劇のヒロイン演じてんだ?そんなの俺たちが見たい結末じゃねぇ」
「そうそう。僕はそんな悲劇を喜劇に変えるためにここにいるんだから。というか、忘れたの?僕たちは、空前絶後の予想不能な最強問題児だよ」
「そんな俺らがこれくらいの状況もひっくり返せないと思われるなんて舐められたもんだぜ」
フッと笑う二人の間に挟まれているカズマはうんざりしたようにため息を吐くと、
「······まぁ、そういうわけだ。俺たちを信じて助けてさせてくれないか、レティシア?」
そう言いカズマは手を指し出した。
レティシアは躊躇した。自分にこの手を握る資格があるのか、と。
でも少し、ほんの少しでも希望を持ってもいいと言うのなら。まだ生きていいと言うのなら。
レティシアは手を伸ばし、
「············はい」
両手でその手を大切そうに包み込むと掠れた声でそう応えた。
また涙が溢れて止まらなかった。これが喜びの涙なのか同士を失うかもしれない不安の涙なのか、はたまた別の思いから来るものなのか今のレティシアには分からない。
そんな彼女をオッドアイのカズマは優しく撫でた。
“管理人さん”さんが入室しました。
管理人さん:やぁ、また会ったね
管理人さん:突然だけど、エウレカって言葉はね
管理人さん:古代ギリシャ語が由来の感嘆詞なんだよ
管理人さん:主に何かを発見・発明したことを喜ぶことに使われる
管理人さん:ちなみに古代ギリシャの数学者で発明家であるアルキメデスが叫んだ言葉なんだって
管理人さん:じゃあ肝心な意味なんだけど·····。それはねぇ、
管理人さん:私は見つけた、分かったって意味なんだ
管理人さん:これから人形の彼がどうなるか僕は知っているけど、
管理人さん:見たことがあるわけじゃない
管理人さん:百聞は一見にしかず
管理人さん:楽しみだね
管理人さん:そうだ、本当はいけないけどちょっと干渉しちゃおうかな?
管理人さん:脚本にない物語を見るために···
“管理人さん”さんが退室しました。