雅美の部屋で一晩を過ごした次の朝。目が覚めて体を起こそうとするとなにかがまとわりついていた。
「んっ……スー…スー…」
雅美だ。まあ状況から考えて雅美以外いるわけないんだけどさ。それにしても幸せそうな顔をしている。これは起こしたら悪いかな……。俺は雅美を起こさないようにそっとベッドを出ようとした。しかし……。
「た…太一……」
抱き枕のように俺をホールドしてるのですぐに気づかれる。こりゃあ起きるまで出れそうにないな。幸いまだ7時前だ。集合まで2時間ほど余裕がある。
しばらく雅美の寝顔でも拝見していようかね。
話は変わるが、正直言って雅美はかなり美人だと思う。なんせ昔から顔を見てきた俺ですらドキッとするのだから。最初に異性として意識したのはたしか中学に入ってからだったっけ。久しぶりに一緒に風呂に入ろうと言われて入った時だ。少し女の子らしく成長した身体を見た瞬間、俺は性的な興奮を覚えた。当時はこれがなんなのか分からなかったけど、とりあえず今後一緒に入るのはまずい気がしてそれ以降一緒に入っていない。
雅美からは何度か誘われていたが、もちろんその都度断ったさ。
さて改めて雅美の寝顔を見てみよう。……うん、やっぱり美人だ。まだアルコールが抜けていないのかまだ若干頬が赤い。
もうちょっと顔を近づけてみよう。寝息が顔に当たるくらいまで顔を近づけてみた。するとその瞬間
「ん……んん………」
雅美が起きてしまった。慌てて顔を離す。
「太一……?」
「な、なに?」
平常心を装いながらも明らかに動揺しながら言葉を返す。
「ギューッ♪」
「ちょ!ちょっと!」
何を考えたのか雅美は俺に思いっきり抱きついてきた。その……色々当たってて色々アレなんですが……。
「太一〜♪」
俺の胸に顔をスリスリしながら埋めてきた。いつもの雅美からは想像できない行動だ。
「ま、まだ酔ってるのか?」
「酔ってないぞ〜♪」
なおもスリスリしながら答える。これはまだアルコール抜けてないですわ。
「と、とりあえずさ、ベッドから出してくれない?」
「なんで〜?」
「シャワー浴びたりご飯食べたりしたいんだよ」
「じゃあ私も一緒にシャワー浴びる〜♪」
ダメダメ!ダメ!絶対ダメ!そこまでやられたら俺の理性が耐えられない!
「雅美、俺達はもう高校生なんだぞ」
「だからなんだよぉ〜……」
「もう子どもじゃないんだから一緒にお風呂とかシャワーとかはダメだろ」
「……太一は私の事嫌いなのか?」
そんなシュンとした顔しないでくれよ……。
「嫌いじゃないよ」
「ならいいじゃないかぁ〜」
いや、そうじゃないよ。
「と、とにかく!俺はシャワーを浴びたいんだ!」
そう言って無理やり雅美を引き剥がす。
「あっ……太一〜!」
ここは心を鬼にして雅美の声は無視させてもらう。そうしなければ俺が持たない。
「風呂、借りるぞ」
「……うん」
ちゃんと了承もとったところでレッツ、シャワー。
脱衣所で服を脱いでから風呂場に行く。まあ当たり前の行動だ。別に説明する必要はなかったかな。
蛇口をひねると冷たい水が出てくる。
「うっわ冷た!?」
思わず叫んでしまった。すると……。
「大丈夫か!?太一!」
ドタドタドタと雅美が脱衣所に来た。
「今助けるからな!」
そう言うと風呂場のドアを開けようとしてきた。
「だっ大丈夫だから!マジで!めっちゃ大丈夫だから!」
ドアを手で押さえながら叫ぶ。もちろん突入は阻止させてもらうさ。っていうか助けるって何からだよ。
「開けてくれ!太一!」
「いいから!俺は本当に大丈夫だから!」
「じゃあ背中流してやるから!」
「それも大丈夫!自分でできるよ!」
「流させてくれー!」
もう自分の願望じゃねえか!
「頼むよ!流させてくれよ!」
「なんでだよ!」
「……やっぱり太一は私のことが嫌いなんだ……」
うっ……。それを言われると断りづらくなるじゃないか……。
「嫌いじゃないって!」
「じゃあ背中流させてくれ!」
「なんでだよ!」
「やっぱり私のことが……」
「わーったよ!いいよ!流してくれ!」
「ほんとっ!?やったぁー♪」
押しに弱いなぁ、俺……。
「それじゃあ失礼しま〜す♪」
雅美、上機嫌。
「ささ、ここに座って」
「はいよ……」
ゴシゴシと雅美が俺の背中を洗ってくれている。
「相変わらず太一は良い身体してんなぁ」
「そ、そう?」
「だって余計な肉とか付いてないじゃん」
そう言われて嫌な気はしないな。
「雅美だってそうじゃん」
「え…?そ、そう?」
雅美、照れ笑い。
「うん。凄い理想的な体型だよ」
「ほ、本当か〜?」
雅美、更に照れ笑い。
「本当だよ」
「〜〜〜///!」
顔を真っ赤にしながら背中をペチペチ叩いてくる。めっちゃかわいい。
「も、もう!流すぞ!」
おっ、誤魔化したな?ちょっとゴシゴシが強くなった。
ジャバーっとお湯がかけられて背中流しは終わった。しかし……
「ほら、次は前も洗うからこっち向け」
前はまずい。何がまずいかってアレがアレだからだよ。
「い、いいって!前はダメ!」
「なんでだよ!いいじゃないか!」
「なんでって……そりゃあ……。………とにかくダメ!」
「やだやだ!」
駄々こねるなよ……。
「後で一緒にうどん食べてあげるから、な?とりあえず今回は勘弁してくれよ」
「う、うどん!?あ…いや…でも……」
くそっ、うどんでもダメか……。こうなったら……
「じゃあ分かった。毎日一緒に食べよう」
「毎日!?よ、よし分かった!」
「じゃあとりあえず出てくれる?」
「うん!」
ほっ……。ようやく出ていってくれた。さっさと洗って風呂場から出よう。
風呂場を出ると雅美がドアのすぐ近くで待っていた。
「ほら、行くぞ」
「行くって……どこへ?」
「決まってるだろ。食堂だよ」
「い、今から!?」
「そうだよ」
うどんのこととなると凄い行動力だな。
「ほ〜ら!早く行くぞ!」
「わ、分かった!分かったから押さなくていいよ!」
ん?普通に出たらバレるんじゃないか?
「ちょっと待った!」
「なんだよ!」
「このまま出たら俺が女子寮に入ったのバレる!」
「あっ……」
「だから外で待ち合わせしよう?」
「そうだな……」
よし、そうと決まればまた窓から出るか。
「じゃ、玄関の前でね」
「ちょっと待って!」
「なんだよ」
「太一が私をおぶれば一緒に行けるんじゃないか?」
「……名案だと思うけど…」
「思うけど?」
「危なくない?」
「大丈夫。この世界ならどんな怪我しても治るから」
「そ、そうなの?」
「うん」
ここに来て衝撃的な新事実だよ!
「じゃ、じゃあ……いいかな……」
「よし、じゃあ太一、しゃがんでくれ」
いやいや、ここは折角だからおんぶなんかしませんよ。
「太一、しゃがめって」
ここはやっぱり……
「よっ…と」
「キャッ!」
お姫様だっこだろ!
「た、太一!?」
「しっかり捕まってて!」
そう言うと雅美は戸惑いつつ俺の首に手を回す。必然的に顔が近くなる。
「行くぞ!」
雅美が強く目を瞑る。やはり怖いのだろう。
滞空時間はそこまで長くないのですぐに地面に着いた。
「ど、どうだった?」
「……怖かった」
ちょっと震えてるな。
「立てそう?」
「多分……」
そう言って立とうとすると、雅美は尻もちをついてしまった。
「ごめん……やっぱ無理そう」
まあ仕方ないか。普通あんな高さから落ちることなんて無いもんな。
「しょうがないなぁ」
俺は再び雅美をお姫様だっこする。
「な、なに!?」
「このまま食堂まで連れて行くよ。道案内よろしく」
最初は若干抵抗していたが時間が経つに連れ抵抗も無くなった。
さあて、もうすぐ久しぶりの雅美とのうどんだ。
あけましておめでとうございます