私はその日珍しい夢を見た。幼馴染の夢だ。彼は私にとって本当にかけがえの無い人だった。優しくて男前で歌も上手い。なにより一緒にいると安心する。
そんな彼とは生まれた時から一緒だった。家が隣同士でよく遊びに行ったり来たりしていたので、物心がついたときから一緒というのが当たり前になっていた。
しかし、5歳の時に事件は起こった。彼が雷に打たれたのだ。幸いにも命に別状はなく彼は元気なままだったのだが、打たれた時にちょっと特殊な力を貰ったようだ。とんでもない怪力になってしまったのだ。それが彼の人生を大きく変えてしまった。
大人たちは彼を恐れた。彼が特になにかをしたという訳ではないが、ただ強大な力を持っているというだけで邪魔者のように扱った。
私にはなぜ彼をそう扱うのかが理解できなかった。どんな力を持っていても彼は彼だし、私にとってそれ以上でもそれ以下でもない。
小さい頃からの友達も何人かいたが、年々その友達も少しずつ離れていき、高校に入る頃には彼は完全に孤立していた。せめて私だけでも彼の味方でいよう。そう決心するまでにさほど時間は要さなかった。
……っと、だいぶ話がそれてしまったようだ。彼が夢に出てきたという話だったね。
さっきの話を聞いてもらったから彼は私にとって大切な存在だということは分って貰えただろう。
そんな大切な存在が久しぶりに夢に登場したんだ。もう嬉しくて嬉しくて仕方なかった。彼と二人きりでどこかへ出かけるという内容だった。ずっとこの夢を見ていたい。私は強くそう思った。
しかし現実とは無情なものですぐに目が覚めてしまった。二度寝をすればまた続きが見れるんじゃないかと思って私は二度寝した。次に起きた時にはすでに9時を回っていた。やばい、遅刻だ。すぐに身支度を済ませて校長室に行かなくては。
それから10分後。ようやく校長室前まで着いた。
「遅れてごめん!」
そう言いながら扉を開けた瞬間、私は目を疑ったね。だって目の前に彼のそっくりさんがいるんだもの。
「えっ……?」
「えっ……?」
彼も私の方を見て驚いた顔をする。
「………ま、まさみ?」
えっ……?なんで私の名前を……?まさか本当に……。
「た、太一?」
しばらく沈黙が流れた。そして……
「「ええええぇぇぇぇぇ!!??」」
私と太一の驚きが校長室に響き渡った。
「ま、まさみなのか!?」
「本当に太一か!?」
お互いにまだ状況を飲めていないらしい。そこでゆりから助け舟が出た。
「ちょっと二人共落ち着いて。こっちも状況がわからないわ。とりあえず二人共ソファーに座りなさい。そんでもってお茶でも飲んで頭を整理しなさい」
こんな時でもリーダーは冷静だ。
しばらくお茶を飲んで頭を整理していると
「さ、落ち着いた?」
と、リーダーが聞いてきた。
「まあ…さっきよりは」
「落ち着いたよ」
どうやら太一はまだ少し混乱してるらしい。
「それじゃあ改めて二人の関係について教えてもらえるかしら?」
ゆりがそう言うと太一は生前の話を始めた。私との出会い、力のこと、周りからの扱われ方。ただ、太一は少し気の弱いやつなので周りから避けられていたのは仕方のないことだと言いやがった。ふざけんな。仕方ないわけ無いだろ。私は我慢できなくなって途中から口を挟んでしまった。
30分ほどで話は終わった。
「なんで周りの奴らは太一を避けたんだろうな。こんなに良いやつなのに」
音無の問いかけに太一が答える。
「ははっ……仕方ないよ……だってこんな力があれば誰だって怖がるさ……」
まだ言うのか!?太一が怖い?ふざけんな!
「そんなことない!太一に怖いところなんてあるもんか!」
メンバーの視線が集まる。みんな驚いた顔をしている。中でも太一が一番驚いているようだ。
「太一は一度も誰かに暴力を振るったことなんてないんだっ……!それなに……それなのに……!」
みんな分かってくれ!太一は決して怖い人間じゃない!誰よりも優しい良いやつなんだ!
「岩沢さん、大丈夫よ。ここのみんなは誰も篠宮くんを恐がってなんかないわ」
私は顔をあげた。
「ったりめーだろ。仲間を怖がるやつがあるもんかっつーの」
藤巻……。
「そうだよ!篠宮くんは悪い人に見えないよ!」
大山……。
「うむ、話を聞く限り悪人ではないな」
松下五段……。
「あさはかなり」
椎名……?
「みんな……」
「ね?大丈夫でしょ?岩沢さん」
そうだな。このメンバーを疑うこと自体間違ってたよ。
「……ごめん……少し熱くなった……」
「いいわよ、あたしだって岩沢さんの立場ならそうなるもの」
「ありがとう……」
これは心の底からのお礼だ。太一に居場所を作ってくれてありがとう……。
ここで太一の方を見てみよう。やっぱり泣きそうになってる。こいつは昔から結構涙もろいところがあるんだよな。
「ど、どうしたの?」
ゆりが不安そうな顔で太一に尋ねる。
「いや……仲間ってこんなにいいものなんだなって……」
よし、ここは思いっきり泣かせてやるか。
「太一、もう大丈夫だ。お前は一人なんかじゃない」
そういって私は太一を抱きしめる。結構恥ずかしいな、これ。
案の定すぐに太一は泣き始めた。これで気が楽になるならいいことだろう。
10分くらいで太一は泣き止んだ。
「もう大丈夫か?」
「ごめん……ありがとう、まさみ」
「はーい、これにて暗い雰囲気はおしまい!ここからは明るく行くわよー!」
しんみりした雰囲気をゆりが突き破った。まあさすがリーダーと言うかなんと言うかだ。
その後、太一をどこに配属させるかという話になった。私としては是非とも陽動に来て欲しい。そしてまた一緒に音楽をやりたい。太一に視線を送ってみる。向こうも私の言いたいことが分かったのかコクンと頷いた。
「陽動部隊で」
私の気持ちが伝わったようだ。
「……そう。楽器はできるの?」
ゆりが心底残念そうなトーンで尋ねる。
「太一はこう見えてもめちゃくちゃ歌が上手いんだぞ」
そう、太一はめちゃくちゃ歌が上手い。そりゃあもうめちゃくちゃに。
その後、なんとか多少強引ではあるけどもなんとかまた一緒にバンドができるということが決まった。
これからの日々が楽しみで仕方がない。