A.え?早くない?
第n話
「とうとうこの日が来たわね」
「って言っても昨日から動いた作戦だけどな」
「はいそこ!変なツッコミを入れない!」
昨日の作戦立案から早一日。
俺たちはテストが始まる前に校長室へと集まり作戦の打ち合わせを行っていた。
「それで?作戦は昨日話していた通りか?」
「ええ、概ねその通りよ。ただし、天使に気付かれたらまずいから、書き換え要員の他に全員の注目を集める役目が要るわ」
「全員の注目を集める?」
ひさ子が代表して問う。
「なんか突拍子もないことをしてクラスにいる全員の目線を集めなさい。そして見ていないうちに答案をすり替えるわ」
「えっ……それって結構難易度高くないですか?」
「ええ。でも普段からNPCの注目を集めているあなた達なら楽勝でしょ?」
「いや状況が違いすぎるだろ」
珍しく雅美がツッコミを入れる。
「とにかく、やらないと作戦失敗で終わる可能性が出てくるわよ?」
「うぐっ……」
「それを言われるとなぁ……」
「やるしかないっていうか……」
「やるしかなくなりますよねぇ……」
「あさはかなり」
5人とも渋々ながら了承したようだ。
「ところでゆりっぺさん」
「なぁに?遊佐さん」
「もし天使の前の席が取れなかった場合の作戦は考えてあるんですか?」
「ないわよ」
「「「「「ないんかい(ですか)!」」」」」
全員の声がハモった。
まあ、俺も言いそうになったけどさ。
「ま、期待してるわよ、太一くん」
パチンとウインクをするゆり。
そんなに可愛くお願いされても保証はできないよ。
「あ、そうだ。今回の作戦中は私たちと太一くんの接触は一切禁止するわ」
「はぁ!?太一と会話できないのか!?」
反射的に驚く雅美。
「忘れているかもしれないけど、あなたたちはGirl's Dead Monsterよ。もし太一くんと付き合っていることがバレたら校内での人気が地に落ちる可能性があるわ。そうなると今後陽動部隊として使えなくなるもの」
「そりゃあ……まぁ……」
んまぁ、真っ当な理由だ。
「ゆり」
「どうしたの?椎名さん」
「私は話しかけてもいいと思うんだが」
「ん〜……正直問題はないのだけど……」
「だけど?」
「陽動班の4人に対して不公平じゃない。一応チームプレーの作戦だから、全員で足並みを揃える必要があるわ。この不公平さが原因で仲間割れを起こして作戦失敗になったり、今後の関係にヒビが入っても嫌ね」
「そうか……」
わかりやすく肩を落とす椎名。
「っていう訳で遊佐さん、例の物を」
「はい」
遊佐から俺に黒い物体が手渡された。
「これは……」
「トランシーバーよ。緊急で伝えなきゃいけないことがあるときは遊佐さんを通じて連絡するわ」
なるほど、これで不公平さを無くそうっていうわけか。
「私も勿論我慢するわ。3日間の辛抱よ」
「「「「「「3日間も!?」」」」」」
遊佐を除くの声が揃った。
「あの、ゆりさん、流石に俺も3日間も交流できないとなると寂しいんですが……」
「彼女たちはライブか食堂以外では滅多に生徒たちの前に出ないのよ。それが試験の時に教室に現れる。そうなると熱狂的なNPCが彼女たちをつけてくるかもしれないわ。その結果付き合っているのがバレるってことも十分考えられるわ」
確かに考えられなくもない。
「じゃあ、校長室ならいいんじゃないか?」
「尾行された結果NPCが校長室のトラップに引っ掛かったらどうするのよ。一般生徒は巻き込まないっていう戦線のルールが破られるわ」
ひさ子の提案も一蹴された。
「私だって本音を言えばここまで厳しい条件を出したくないわ。でもこの作戦を遂行するにあたって今後のことも考えるとこうするしかないのよ」
苦虫を噛み潰したような表情をするゆり。
「まぁ……仕方ないか……」
諦めたように呟く雅美。
「みんなには大きな負担を掛けて申し訳ないと思うわ。でも成功すれば天使の目を気にしながら交際する必要もなくなるから、今回の作戦、絶対に成功させましょ」
ゆりの言葉を聞いて全員が顔を見合わせる。
そしてひさ子が口を開いた。
「……うしっ!一丁やってやるか!たった3日間の我慢で今後の太一との生活が決まるんだ!頑張らねぇわけにはいかねぇだろ!」
やたらと威勢のいい声で喋るひさ子。
過去の経験からいくとこれは無理をしているときの声色だ。
しかし、ひさ子の無理で全員の表情が変わった。
「……そうだな、頑張るしかねぇな!」
「はい!私も全力を尽くすことを誓います!ね?みゆきち!」
「はい!私も誓います!」
「私も誓います」
「あさはかなり」
「みんな……」
全員から理解が得られてゆりの表情が明るくなる。
「もちろん、太一くんもいいわよね?」
「もちろん」
全員の意思を確認すると俺たちは校長室を後にし、天使のいるテスト部屋へと移動した。
テスト開始。
みんなそれぞれの席へと座り、テストを受けている。
もとい、テストを受けるフリをしている。
ガルデモが教室内に現れたことでテスト開始前はNPCたちが相当ざわついていた。
やっぱり凄いんだな、俺の彼女たち。心の底から尊敬する。
しかし、そのざわつきも教師の登場により鎮静化された。
ゆりから「真面目にテストを受けると消える可能性があるわ」と言われ、全員が思い思いの暇潰しをしている。
ちなみに、俺は無事に天使の前の席を確保できた。
ええ、自分でもかなりビックリしましたよ。
ビックリしたっていうか割と引きました。
くじ引きだけに。
つまんない?はは、ごめん。
さて、ゆりからは「バカみたいな答え並べといて」と指示をもらっている。
って訳で、上から将来なりたいものでも書き連ねていこうかと思う。
Q.20Ωの抵抗に3.0Vの電圧を加えたときに流れる電流は何Aか?
A.電車の車掌さんA〜
…………うん。これはヤバいほどのバカだ。
真面目に書いているのだとしたら救いようがない。
ちなみに本当の答えは0.15アンペ……おっと、いかんいかん。
真面目に答えちゃだめなんだった。
その後も将来なりたそうな職業ランキングを勝手に想像し、いよいよ一つ目のテストの終わりを迎えた。
チャイムがなると同時にしおりが席から立ち上がり、グラウンドの方を指さした。
「な、なんじゃありゃあ!グラウンドから超巨大なたけのこがニョキニョキとぉーー!!」
……………………。
誰も何事も無かったかのように答案用紙を後ろから前へ流している。
はぁ……、と項垂れるようにして席に座り直すしおり。
ゆりの口から「ったく……仕方ないわね」とつぶやかれた瞬間、しおりの椅子の下から推進エンジンが作動し、しおりは天井へと頭をぶつけた。
「グハッ……」
そのまま気絶をするしおり。
流石に全員の目線がしおりに行った。
俺はその隙に答案用紙を無事にすり替えることに成功した。
5分後。
「あなたがミスした時のために椅子の下に推進エンジンを積んでおいたのよ。どうだった?ちょっとした宇宙飛行士気分は」
サラリと恐ろしいことを述べますねゆりさんは。
「一瞬で天井に激突して落下しましたよ!ってか推進エンジンなんてよく作れましたね!」
しおり、かなりご立腹だ。
ちなみに俺はNPCと同じ制服を着てずっと自分の席で待機している。
この会話も彼女たちのものを盗み聞きしているものだ。
「フォローしてあげたんだから感謝なさいよ」
「うぐっ……」
やっぱり、ゆりは業務モードに入るとかなり横暴というか冷酷というか、作戦成功の為には手段を選ばないというか、そんな性格になるようだ。
……この作戦が終わったら思いっきりしおりのことを甘やかそう。
「とりあえず、作戦は成功したみたいね」
ゆりが俺の方にアイコンタクトを送ってくる。
事前にゆりから「肯定する時は1回咳払い、否定する時は上を見なさい」と言われている。
俺は一回咳払いをした。
「じゃ、次は岩沢さん」
特に俺の咳払いにリアクションを起こすことなく、淡々と作戦の打ち合わせを続ける。
まあ、変に反応する必要もないし、伝わっているだろうからそれで正解だ。
「私?」
「みんなの気を引く役ね」
「それは関根の役割じゃねえのか?」
「オオカミ少年の話、知ってる?」
「繰り返される嘘は信憑性を失っていく……」
「そう言うわけ♪」
満面の笑みで答えるゆり。
…………ドSだなぁ……。
「辞退してもいいか?」
「ふふ〜ん……やるのよ」
一切笑顔を崩さないところが凄いよね。
「諦めて飛んで下さい。そして天井に激突して下さい」
しおりが仲間欲しさに脅しをかける。
「絶対全員が注目する何かを考えださねぇと……」
お、珍しく雅美の焦っている様子を見られた。
これはレアだね。
って訳で2時間目。
世界史のテストだ。
う〜ん……地球は宇宙人に侵略されていることにして答えるか。
割と面白い設定で解答できたけど、これ完全に関○夫の世界観になったな。
まあ、妄想を膨らませて楽しく書けたし、2時間目もあっという間に終わった。
って訳で2時間目終了。
注目の我が幼馴染、岩沢雅美さんの出番だ。
「みんな聞いてくれ」
雅美が席から立ち上がり、そう一言言っただけで全員がそっちに注目した。
「今度またライブをやる。新曲も盛り込んで新メンバーも入れたスペシャルなライブだ。是非みんな見に来て欲しい」
そういうとNPCたちから歓声が上がった。
その隙に答案用紙をすり替える。
やっぱりスゲーな、俺の幼馴染。
驚くべきカリスマ性だ。
何点か引っかかる箇所があるけども。
5分後
「流石よ岩沢さん!」
「咄嗟に考えたんだけど……良かったか?」
「ええ!最高だったわ!」
「でも良かったのか?新曲とか新メンバーとか勝手に言っちゃって」
「いいのよ別に。新曲だってあるし新メンバーだっているもの」
「ちょっと待てぇーい!」
しおりが急に不服を申し立てた。
「なんで岩沢先輩の時だけみんな振り向くんですか!私の時は誰も注目しなかったのに!」
「そりゃあ大きなたけのこなんか生えてないもの。どう聞いても嘘の言葉なんか誰も聞く耳を持たないわ」
「うぐっ……」
そういう問題なのだろうか……?
まあ、あえて多くは語らないでおこう。
「じゃあ、次リベンジする?」
「ええ!リベンジします!」
何かしらの盛大なフラグが成立したことを確信した3時間目。
教科は英語だ。
う〜ん、全部カタカナで書いとくか。
内容は全て正解だが、表記は半角カナ。
バカみたいな答えというよりバカにしている答えだね。
文字を書いていると無駄にフォントとか凝り出してしまった。
あ、影とか付ければ素敵かもとか、立体的に書いたら素敵かもとか。
なんだかんだ退屈せずに3時間目終了。
そして、しおりのリベンジだ。
例の如くしおりは椅子から立ち上がり、さらには机の上に立った。
「みんな聞いて!今度のライブ、私も頑張って演奏する!いつもより気合い入れて練習してる!だからみんな、絶対聴きに来て!」
ミュージカルでやるような大袈裟な動作と媚を売るような表情を使うが、NPC達は我関せずといった感じで答案用紙を前に流し続ける。
その瞬間、机の下から再び推進エンジンが作動した。
「うぉおおお!?」
しおりの断末魔と同時にNPC達の視線が集まる。
その隙に三度答案用紙をすり替えることに成功した。
…………っていうか机にも仕込んであったのか……。
5分後
「なんで事実を言ったのにダメなんですか!って言うかなんで机にまで仕込んであるんですか!」
「万が一を考えて準備しただけよ」
「万が一が過ぎますって!」
「っていうか関根、お前人気無いな」
「うぐっ……!?」
ああ、雅美さん、火の玉ストレートです。
みんな内心思っていても口に出さなかったやつです。
「ほ、ほら!しおりんと私は縁の下の力持ちって言うか、基本あんまり目立たないポジションだから!わかる人はわかる言わば隠れた名店的な存在だから!」
みゆきが必死にフォローを入れている。
うん、この3日間が終わったら思いっきりしおりを慰めよう。
大丈夫、俺にはしおりの必要性、わかるぜって感じで。
「さて、今日のところはこれでおしまい。みんな、お昼にしましょ♪」
そういうとゆりはみんなを引き連れて教室の外へと出て行った。
全員すれ違いざまに俺の方をチラチラと見ていくが、俺はなにもリアクションできない。
…………思ったよりもこの生活、寂しいな……。
あと2日間も続くのか……。
…………耐えられるかな……。
さて、ところ変わって自室に戻ってきた。
「にゃ〜」
サクラがお出迎えしてくれた。
「おーサクラ。よしよし」
「んにゃ〜♪」
ゴロゴロと目を細めながら喉を鳴らすサクラ。
可愛いなぁ本当に。
さて、午後からどうしようか。
いつもなら彼女たちと過ごすため退屈のたの字も感じられないが、今日明日明後日は本当に退屈だ。
改めて俺の生活は彼女たちに支えられているんだなぁと実感する。
今後はもっと言葉に出して感謝していかなきゃ。
そんなことを考えていると部屋のドアがノックされた。
「あ、はーい」
ガチャリとドアを開けると、そこには日向がいた。
「よう!」
「お、おう。どうしたの?」
急すぎてビックリしたよ。
「んだよつれねーなぁ。ゆりっぺから聞いたぜ?今滅茶苦茶暇なんだってな?」
なんだその雑な説明。
まあ間違っては無いけどさ。
「つーわけで、これから俺の部屋で麻雀大会やるんだけど、どうだ?」
あら、とても魅力的なお誘い。
前回の親睦会麻雀の後もひさ子からちょくちょくルールと役を教わって、そろそろ実戦に移りたいなって思ってた頃なんだよね。
「うん、いいよ。やろう」
「っしゃ!面子ゲット!そんじゃ、早速行こうぜ」
「にゃ〜」
「え?行かないの?」
「にゃっ!にゃ〜ん」
「あ、それはナイスアイデア!サクラありがと〜!」
「んにゃあ〜♪」
サクラを持ち上げて抱きしめる。
「おいおい、俺にもサクラちゃんがなんで言ってるか教えてくれよ」
日向がやれやれという感じで聞いてくる。
「あ、ごめんごめん。サクラが日向の部屋には行かないけど、俺の彼女たちのところへ行って様子見て、夜報告してくれるってさ」
「ほー、その手があったか!やっぱりサクラちゃん頭いいなぁ!」
「にゃ!」
当然!と得意げになるサクラ。
「じゃあサクラよろしくね。夕飯は奮発するよ」
「にゃっ!」
了解!と言ってそのまま部屋を出ていくサクラ。
いやぁ、頭の良いペットがいると助かるよ。
え?頭良すぎ?
それは俺も思う。
「んじゃ、行こうぜ」
「はいよ」
日向に着いていきながら寮の廊下を歩く。
テスト週間ということもあり、廊下には沢山のNPCたちが出歩いていた。
なるほど、これはガルデモも尾行される可能性があるわけだ。
「さぁーて!始めるぞ!」
日向の部屋を訪れるとそこにはすでに麻雀卓と牌が並べられていた。
面子は俺と日向と……。
「よう、久しぶりじゃねえか」
藤巻と……。
「……なんでここにいるの?」
「ゆりっぺに用事があって来たんだがな、なにやら面白そうなことになっていると聞いてな」
チャーだ。
「チャーが卓囲むなんて珍しいな」
「ああ、俺も本来の予定通りならそのままギルドへ戻るんだがな、面白そうでつい」
いやいやいや、ついじゃないよ。
「まぁまぁ、打ちながら話そうぜ」
「ま、それもそうだな。今日は勝つのが目的というより篠宮の面白そうな話をギルドの土産にするのが目的だからな」
ハッキリいうね、チャーは。
まあ、そんなこんなで始まりました日向主催の麻雀大会。
今回は各々の所有する食券を賭けて勝負するようだ。
焼き鳥アリの馬は10-20、点数の端数は五捨六入。
10P毎に食券1枚トレードの全部終わってから精算だそうだ。
って言われてもよくわかんないや。
ま、勝てば良いんでしょ。
山を積んで親まで決め、配牌が終わったところからスタート。
東一局、親はチャー。南家は日向、西家は藤巻、北家は俺だ。
「んで、篠宮。お前彼女たちとどこまで行ったんだ」
「いやいや、話ぶっ込みすぎでしょ」
「そうだぞチャー、まずはABCのAくらいのエピソードから聞くもんだぞ」
「違う違う、もっとかるーい日常的なところとか、最近の様子とか聞いて場が温まってからだよ。あ、ツモ、地和、緑一色、四暗刻」
ツモっちった。
「はああぁぁぁぁぁ!?」
「トリプル役満……だと……!?」
「お前、積み込みとかやってねぇだろうな?」
まあ、疑われるよね。
「やってないよ。っていうか藤巻と日向の山から取ってたでしょ」
「た、確かに……」
はい、嫌疑不十分。
っていうかそもそもやってないし。
「そういやゆりっぺが言ってたなぁ。篠宮はとんでもねぇ強運の持ち主だって」
「トリプル役満一巡目ツモって強運どころじゃねぇだろ……」
「まぁ、疑うんなら今のノーカンでも大丈夫だよ。正直俺自身申し訳ないし」
「いや、麻雀に慈悲はいらねぇ。仮にテメェがイカサマしてたとしても現場を抑えられなかった俺らの落ち度だ」
なんか藤巻が男らしい。
っていうかイカサマはやってないって。
「ま、藤巻の言う通りだな。負けは負けだ」
「しゃーねぇ、受け入れるしかねぇかぁ」
「なんか、ごめんね」
「いやいや!篠宮が謝る必要なんてないんだぜ?」
「そうだ。って言うか今のは完全に運だから誰が悪いってこともねえよ」
あ、ホントに?
じゃあいいや。
「うし、じゃあ次始めっか」
「あ、俺一応山積まないどくよ。お願いしてもいい?」
「別に積んでもかまわねぇが……篠宮がそうしてぇっつうならいいぞ」
「ありがと、日向」
さてさて、そんなこんなで2回戦目。
東一局、親は俺、南家が日向、西家が藤巻、北家がチャー。
「さて、改めて聞くけどよ」
「なに?」
「あいつらとはどこまで行ったんだ?」
「いやいや、だからぶっ込み過ぎだって。あ、それカン」
「白カンかよ」
「俺の国士が……」
日向の国士が無くなったようだ。
「あ、發暗槓」
「おいおい……」
「あ、中暗槓」
「おいいいぃぃぃぃ!!!」
「二巡目で役満確定ってマジか……」
「だめだこんなの、運だ運。わかりゃしねぇよ」
「しかも親満だぞこれ……」
「いやぁ、なんか集まって来ちゃうね」
「『なんか集まって来ちゃうね』のレベルじゃねーぞこんなん!」
「篠宮、お前はもっと自分がやばいことをしてるのを自覚した方がいい」
「こんなん見たことねぇぜ……」
全員みるみるうちに顔色が変わっていった。
特に日向は「切るの怖ぇえよ!」と騒いでいる。
「い、いや流石にな?流石に大丈夫だよな?」
そう言って捨てたのは北。
「あ、カン」
「あっぶねぇぇぇぇぇ!けどやべええぇぇぇぇ!!!」
「おいおい、ダブル役満どころかまたトリプル役満狙えるぞこれ」
「やべ、四槓子とか初めて見たわ。チャー、カメラ持ってねぇか?」
「藤巻、気持ちはわかるが写真撮ってる場合じゃなさそうだぞ」
「あ、ツモ。大三元、四槓子、字一色」
「「「………………」」」
全員言葉を失ってしまった。
いや、ごめんて。
「………………も、もう今日は麻雀やめて他のことするか?」
「いや、ここまで来たらやってやろうじゃねぇか!」
逆に藤巻が燃えている。
「日向!チャー!お前ら食券は残り何枚だ!」
「俺は150枚あるけどよ……」
「俺は200枚ちょっとあるぞ」
「なら全ツッパすんぞ!」
「なら」の意味はわからないが、とりあえず続行するようだ。
そして1時間後。
「あ、ロン。人和、国士無双十三面待ち」
「うおおおぉぉぉ!すっげー!」
「だから一巡目に役満に絡みそうな牌は切るなとあれほど言っていただろう」
「くっそおおぉぉぉ!」
これで10戦目が終わった。
「いやー、無理無理。絶対お前には勝てねぇわ」
「毎局天文学的確率出されたら勝ち目なんかねえわな」
「ってか一回も東一局より後いってねぇぞ」
「はは、まあ、偶々だよ」
「これが偶々ってお前マジかよ……」
藤巻が信じられねぇという目で見てくる。
「んま、精算すっかぁ」
「そうだな。えーっと、篠宮が+1580……マジでバケモンじゃねぇか……。んで、日向が-618、チャーが-456、俺が-506と……」
「あ、みんな食券10枚ずつで大丈夫だよ。なんか貰いすぎちゃって申し訳ないし」
「いや、キチンと受け取ってくれ。ここをなぁなぁにしたら賭け事ってもんは成り立たなくなる」
やはり麻雀に対しては人一倍熱い男、藤巻。
そんなこんなで俺は一気に156枚の食券を手に入れた。
え?158枚じゃないのかって?
端数は切り捨て計算みたいよ。
「さぁ〜て、どーすっかなぁ」
「これ以上麻雀続けても傷口を広げるだけだぜ」
「お、麻雀狂の藤巻も流石にやめか」
「ったりめーだ。毎局トリプル役満で和了るバケモンがいるんだぜ?」
字面だけみたらギャグだよね。
「んで、篠宮」
「ん?」
「ゆりっぺたちとはどこまで行ったんだ?」
「いやいやいやいや」
いやいやいやいや。
なに改めてストレートに聞いてきてんのさ。
「麻雀中はそんなこと聞く余裕もなかったからな。改めて教えてくれ」
チャーがニヤニヤしながら聞いてくる。
こんにゃろうどうしてもギルドへの手土産をゲットするつもりだな。
「いや〜教えたいのは山々なんだけどさ〜。俺個人じゃなくて彼女たちのプライベートも言うことになっちゃうから、俺の口からは言えないな〜」
と白々しくチャーの質問をかわそうとしたその瞬間、ポケットに入っていたトランシーバーから声が聞こえた。
『篠宮さん、篠宮さん聞こえますか?』
「この声は……遊佐か?」
日向が反応する。
「あ、えーっと、聞こえるよ。何かトラブル?」
『いえ、特段トラブルということはありません』
「じゃあどうしたの?」
『少し、篠宮さんの声が聞きたくなりました』
なんじゃその理由。
「ごめん、今ちょっと日向の部屋にいるからさ、後ででも大丈夫?ざっと5分後くらい」
『はい。お待ちしております』
ザッというトランシーバー独特の音が鳴ったあと遊佐の声が途絶えた。
「お前まさか遊佐まで……」
最高の手土産を手に入れたと勘違いをするチャー。
「いや別に遊佐とはそんな関係じゃないよ……」
「いやいや、普段遊佐から話しかけてくるなんてあり得ねぇぞ?」
「しかも理由が『声が聞きたいだけ』とはなぁ……」
藤巻と日向もチャー側の人間のようだ。
3人ともニヤニヤしながら俺を見てくる。
「お、俺部屋に戻るね!」
「おう、ごゆっくり〜」
3人の暖かい目を背中で感じながら日向の部屋を後にする。
……暖かいというより生暖かいの方が適切だったな、あの目線。
と言うわけで戻ってきましたマイルーム。
サクラはまだ戻って来ていないようだ。
多分夜まで彼女たちに密着しているだろう。
椎名に捕まって身動きが取れなくなっていなければいいけど。
さて、サクラがどうなっているか身を案じるのも大事だが、今の最優先事項は遊佐だ。
遊佐のことだから本当に声が聞きたくなっただけということはあるまい。
きっと何か重大なトラブルが起きたに違いない。
俺は少し緊張しながらトランシーバーを取り出し、ボタンを押そうとした。
そのとき。
『篠宮さん、5分経ちました』
丁度遊佐から無線が入った。
「え?あ、ああ、ごめん」
タイミングの良さに思わず戸惑ってしまった。
『乙女との約束の時間を守れないと嫌われますよ?』
「ごめんって……善処するよ」
『冗談です』
「冗談かい……」
俺の予想と反して遊佐は軽口を叩いてくる。
…………本当にトラブルなんかなく、ただ話したかっただけ……?
「ねぇ遊佐」
『はい』
「一応確認なんだけど、特に重大なトラブルとか起きてない?」
『サクラさんが椎名さんに捕まって身動きが取れなくなっている以外で特にトラブルは起きていません』
あ、やっぱり捕まっていたか、サクラ。
「……ってことは本当にただ話したかっただけ……?」
『だから初めからそう申しているじゃないですか』
「はぁ〜……よかった……」
よかったよ、特にトラブルが無くて。
いやまぁサクラは今トラブルに鬼巻き込まれている最中なんだろうけど。
『そう言えば昨日の夕飯、とても美味しかったですよ』
「あ、本当?良かったぁ」
『今まで食べたご飯の中で間違いなく一番でした』
「あはは、みんな買い被りすぎだなぁ」
自分の作った料理を褒められるのはとても嬉しいが、あんまり高すぎる評価を受けすぎると背中がムズッとするね。
『照れ隠しですか』
まぁ照れ隠しの一種ではある。
「いやぁ、あんまり褒められるのに慣れてなくてさ」
『篠宮さんはもう少し自分が凄い人物であると自覚した方がいいですよ』
「別に俺は凄い人じゃないよ」
『6人も彼女がいる時点で胸を張るべきです』
「いやいや、俺よりも他の女の子と付き合っていることを受け入れている6人の方が凄いよ」
それでいてそこまでギクシャクしている感じは今のところないし。
もしかしたら俺の知らないところでなんかギクシャクしてるのかな?
今度何気なしに聞いてみようかな。
『確かにそうですね。あと、その心配は無いですよ。皆さん篠宮さんのいないところでも仲良くやっています』
「あ、本当に?良かった」
『おや、驚かないんですか?』
「ん?なにが?」
『どうして考えていることが分かったの?的なリアクションを期待していたのですが』
「あ〜……俺なんかみんなから考えていること見抜かれちゃうんだよね。だから多分慣れっこになっちゃったのかも」
『どれだけ顔に出やすいんですか』
「自分では意識してないんだけどなぁ……って、もしかして遊佐、俺の部屋覗いてる?」
『はい、覗いてますよ』
「えっ、マジで?」
『冗談です』
遊佐が言うと冗談かどうか分からないなぁ。
ま、遊佐のことを信じますか。
その後も遊佐との他愛もない雑談は2時間ほど続いた。
最近の出来事や俺の昔話、戦線の昔の話、それぞれのメンバーの近況など、本当に様々な話をした。
って言うか遊佐ってこんなに話すんだ。
ちょっとどころじゃなく、かなり意外。
「ははっ、それはユイも災難だったね」
『はい……っと、もうこんな時間ですね』
「あ、本当だ」
時計を見ると短針は5と6の間を指していた。
『そろそろ私はお風呂に入ってご飯を食べます』
「ん、じゃあそろそろお開きだね」
『はい、今日は長々とありがとうございました』
「ううん、こっちこそありがとう」
『では明日も頑張ってください』
「うん、遊佐も頑張ってね」
『はい。ではまた』
「うん、また」
軽くお別れの挨拶を済ませてトランシーバーを置く。
……今更ながらトランシーバーってこんな長話する為のもんじゃないよな……?
さて、俺もそろそろご飯の準備しますか、と思っていたその時。
「んにゃあ……」
サクラが帰ってきた。
「あ、おかえり、サクラ」
「にゃ……」
すんごい疲れている様子だ。
「やっぱり、椎名?」
「にゃっ」
その通りと訴えかけてくる。
「それは大変だったね〜」
そう言いながらサクラを抱きしめ、背中をさする。
「んにゃあ〜」
甘えた声で鳴きながらゴロゴロとのどを鳴らすサクラ。
ん〜、可愛い。
そこからサクラから雅美たちの様子を聞いた。
サクラ曰く、今日はみんなでゆりの部屋に集まって俺について語り合っていたらしい。
どんな内容?と聞いてもそこは教えてくれなかった。
なにも乙女の秘密だそうだ。
そういえばサクラも女の子だったね。
別に悪口とかは言ってないから安心して、だそうだ。
まぁ悪口言われてなきゃいいか。
まぁまぁ盛り上がってて、今もなお続いているとのことだ。
明日に響かなければいいけど。
さて、そろそろご飯作って風呂入ってサクラと遊んで寝るとしますか。
明日もあるし、今日も早めに寝よう。
3日目午後。
俺は音無と2人で屋上に来ていた。
「んで?どうだったんだ?今回の作戦」
音無が問う。
「まぁ、作戦自体はうまく行ったと思うよ」
「けど、こんなことで何が変わるのか?」
「さぁ?」
「さぁって……そんな悠長な……」
「結果が出るまで上手くいったかなんてわかんないよ」
「……そうか」
音無はこの作戦に消極的な意見を持っている様だ。
確かに、何か変わるなんて保証はないが、それにしてもこの作戦に肯定的ではないようだ。
そしてそんなこんなで孤独の3日間が終わった。
まぁ、孤独って言ってもサクラがいたからそこまでの孤独じゃなかったけど。
2日目には椎名が流石の身体能力を駆使し、サーカスのような技で生徒たちの注目を集めたり、しおりがまた推進エンジンで天井まで飛んでいったり。
3日目にみゆきが天使に告白したときには割とショックを受けたりした。
あと、ひさ子が教壇に登ってセクシーなポーズを取った時にはなんか嫉妬心が沸いてきた。
嫉妬心というか独占欲というか。
そしてその3日目も無事に終わり、俺たちは久し振りに校長室へと集まっていた。
「それじゃあみんなグラスは持った?かんぱ〜い!」
「「「「「「かんぱ〜い!」」」」」」
ゆりの音頭に始まり、俺たちは一足早い祝勝会を開いていたという訳だ。
「いや〜大変だったわね」
「主に私たちがな」
「ええ。とっても感謝してるわよ」
「……ま、それなら良いんだけどよ」
ひさ子からの冷たい目線もなんのそのと言った感じのゆり。
やっぱりリーダーたるものそのくらいで動揺なんてしていられないのかな。
「んで?本当に成功したんだろうな?」
「ええ、既に天使が全教科0点を取った噂はNPCの間で広まっているわ。しかもそれが教師を馬鹿にした解答ばかりだったってね」
「NPCのくせにミーハーな奴らだなぁ」
「NPCだからミーハーなのよ」
言い得て妙ではある。
「ま、時が来るのを待ちましょ。今出来ることは大人しく待つのみよ」
「てことは……」
なんか雅美が目を輝かせながらこっちを見ている。
「太一〜!」
「おわっ!?」
ギューっと抱きついてきた。
「3日間寂しかったぞ……!」
俺の胸に頭を擦り付けてくる雅美。
まるで3日分の穴を埋める様な感じだ。
思い返せば前世から含めて3日も雅美と口をきかないなんてことは無かったからな。
そんなことを思っていると、俺の手は自然と雅美のことを撫でていた。
「〜〜〜〜っっ!!」
声は出ていないが、喜んでいてくれるのはハッキリとわかった。
そして、その様子を見ていた他の面々からも声が上がった。
「おい太一、岩沢が終わったら次私な」
「はいはい、分かってるよ」
そんなこんなで俺と彼女たちは3日間の穴を埋める様に抱きしめ合ったり、愛を囁き合ったりして過ごした。
数日後。
戦線メンバー幹部とガルデモ4人は体育館前の踊り場に集まっていた。
そして、それは全校集会で告げられた。
「と、言うわけでありまして、立華奏さんは本日をもって生徒会長を辞任」
「そんな……!」
音無が反応する。
「つきましては生徒会副会長の直井くんが生徒会長代理として……」
なおも校長先生の話は続く。
「辞任じゃなく、解任ね」
「ゆりっぺ……」
「果たして一般生徒に成り下り、大義名分を失った彼女に私たちが止められるかしら?今夜オペレーショントルネード決行よ」
「え……?」
雅美から素っ頓狂な声が出る。
「聞こえなかった?オペレーショントルネード決行よ」
「いやゆり、そりゃ無理だ」
「はぁ!?無理だって、なんで無理なのよ!」
雅美の言葉に動揺を隠せない様だ。
って言うかやるならやるって事前に伝えておけよ……。
「テストの時に『次はスペシャルなライブをやる』って言っちゃっただろ?まだその準備は出来ていない」
「んなもん誰も覚えていないわよ!つかなんでそんな所律儀なのよ!」
「誰も覚えていなくてもそれはファンに対して失礼じゃないか?」
「お前らいっつもファンから食券巻き上げてるだろ!?それは良いのかよ!」
「あれはガルディストがチケット代の代わりに買ってくれてるものだろ?双方納得しているから問題ない」
「意外とその辺割り切ってるのな!ってかガルディストって何だよ!お前らファンのことをそんな名称で呼んでいたのか!?」
「いや」
「私たちは……」
「呼んでないです……」
ひさ子としおりとみゆきが否定する。
「ああ、私がたった今考えた適当な呼び名だ」
「なんだその小ボケは!?急に痛々しいアイドル気取りになったかと心配したわ!」
「ねぇゆりっぺ、盛り上がってるところ申し訳ないけど、結局今夜どうするの?」
「別に盛り上がってなんかないわよ!」
どう見ても盛り上がっていたが。
「そうね……もう一度確認するけど、ガルデモは今夜は無理なのね?」
「いや、いけるぞ」
「「「「「「「いけるんかい!!!」」」」」」
その場にいた全員がツッコミを入れた。
「じゃあなんでさっき無理って言ったのよ!?」
「私は太一を入れたライブを考えていたけど、よく考えたらユイがいたなって今思い出したんだ」
「ゆ、ユイか?」
ひさ子が不安そうに問う。
しかし、雅美は特に心配していない様子だ。
「ああ、以前校長室で披露してくれただろ?あの感じなら大丈夫だ。しかもガルデモの曲は全部できるって言ってたしな」
「……ま、関根みたいに変なアドリブとか入れなきゃ大丈夫か」
「ギクっ!」
しおり、流れ弾。
「そんなこんなで私たちは今夜大丈夫だぞ」
「了解。それじゃあ、今夜オペレーショントルネード決行よ」
ところ変わって夜の食堂。
スポットライトを浴びて全員の注目の的となっているのは、もちろんガルデモだ。
初めてお披露目となる5人体制のガルデモだが、今のところNPCたちの反応は悪く無い。寧ろ、良いと言っても良いくらいだ。
1曲目に演奏しているのは「Thousand Enemies」という曲らしい。なんでも、雅美が作った曲をユイがアレンジして、作詞したそうで。
そういえばこのフレーズ、この前空き教室で雅美が演奏していたなぁ。
さて、俺はと言うと、万が一天使が攻めて来た時の為、護衛についている。他の主な戦線メンバーは体育館の外で見張りをしているが、俺はゆりと遊佐と一緒だ。なんでも、最後の最後に食い止める役だそうで。
前回はキチンと許可を取ってからのライブだったが、今回は完全にゲリラでの開催だ。
いつ何時どんな妨害があってもおかしく無い。
曲も2回目のサビに差し掛かり、会場の熱気はかなり高まっている。
そして、その直後、体育館内の高松からハンドサインが送られた。
「天使っ……外は何してるのっ……?」
どうやら体育館内に天使が入って来たようだ。
ここは俺の出番かと身構えたが、天使の様子がおかしい。そして、それはゆりも感じ取ったようだ。
天使を目で追うと、ライブには目も暮れず、券売機へ向かっていた。
『どうしますか?』
高松から無線が入る。
「ちょっと待って」
少し慌ただしく返答するゆり。
「ねぇ、天使、様子いつもと違うよね……?」
「ええ……」
俺の問いかけにも生返事だ。リーダーとしての判断を求められる場面。これ以上は邪魔せず、天使の動向だけを見守ることにした。
さて、券売機前の天使に目を向けると、普通に食券を購入しているところだ。品目は麻婆豆腐。意外と辛いもの好きなのかな?と思っていると、ゆりが驚いた表情を浮かべていた。
……そんなに辛いのかな……?
まぁ、余りに辛すぎる麻婆豆腐を買ったから驚いた、なんてことはないか、流石に。
「ゆりっぺさん、盛り上がりは最高潮を迎えていると思いますが」
遊佐の冷静な声で我に返ったゆり。
曲はラスサビを迎え、確かに先程よりも盛り上がっている。
「あ、え……」
ゆりが一瞬たじろいだ。
「指示を」
なおも冷静な遊佐。
天使を目で追うゆり。
そして、一瞬覚悟を決める顔をして。
「回せ!」
「回して下さい」
ゆりの指示により、巨大ファンが回された。
そして、宙を舞う食券たち。
天使の麻婆豆腐も例外ではなかった。
鮮やかとも言える紙吹雪と、ガルデモの曲の融合は美しく、それが人混みの中で切ない表情を浮かべた天使と、痛々しいまでのコントラストを描いた。
俺やゆり、その他の戦線メンバーも、それを黙って見ていることしか出来なかった。
ライブ終了後のフードコート。戦線メンバーは、オペレーショントルネードによって手に入れた食券を持ち込み、各々好きな物を頼んでいた。
「何だお前?それ、誰も頼まないことで有名な激辛麻婆豆腐じゃん」
日向の声が耳に入った。
どうやら天使の食券は音無の元へ行ったようだ。
「猛者でも白いご飯と一緒にして、丼にして食うんだぜ?」
あ、本当にそんなにヤバい激辛だったんだ。
「これ掴んじまったんだから仕方ないだろ?」
そう言ってそのまま注文する音無。
そして、俺とゆりが隣り合って座った席の前に、2人が着席し、音無が一口食べた。
「う゛お゛ぉ゛!?一口で激辛っ……!」
オーバーでは?とも思えるリアクションをした音無。
「あ……でも、美味いぞ?」
ホント〜?
「日向、食ってみろよ!」
罠に嵌めて道連れを作りたいだけじゃないの〜?
……ま、音無はそんなことする奴じゃないけどさ。
多分本当に美味しいんだろう。
「じゃあ一口だけ……うわああああぁぁぁああぁぁあぁあ!?」
音無よりオーバーリアクションじゃん。
「痛い!辛い!痛い痛い痛い……!」
机をバンバン叩きながら辛さを表現する日向。
「……しかし、後から来るこの風味……なるほど、こいつは味わい深いかもしれない!」
しかし、その後に出る言葉は音無同様、麻婆豆腐を賞賛するものだった。
「だろ?こんな美味い麻婆豆腐、食ったことねえだろ?」
「案外当たりメニューなのかもな!」
気になるなぁ、麻婆豆腐。ちょっと一口貰おうかと思ったその時。
「それ、天使が買った食券よ」
リーダーが口を開いた。
「こ、これ?」
「そ」
その言葉を聞き、神妙な顔する音無。何やら思考を巡らせているようだ。
そして、数十秒後、口を開いた。
「もしかしたらさ」
「んー?」
「今の天使なら、俺たちの仲間になれるんじゃないかな?」
「はぁ〜!?バカ言ってんじゃねぇぜ!これまでどれだけの仲間がやつの餌食に……いやぁ……餌食っつうか……みんなピンピンしてっけど、どれだけ傷めつられてきたか!」
後ろに座っていた藤巻が声を荒げる。
「そうだそうだ!今日は大人しかったかもしれねぇが、いつまた牙を向くか!」
「寝首掻かれかねねぇぜ!」
その他のメンバーからも文句が吹き出した。
「愚問だったな、音無くん」
「みたいだな」
一旦は認めた音無だが、表情は尚も考え込んでいる様子だ。今回の作戦に消極的だった点も含めて気になるところでもある。
今回の作戦は元々と言えば俺たちの我儘が発端だったが、最終的には天使を生徒会長の座から降ろすことに成功した。このことに意味があるのか、今の段階ではわからないが、何かしらの変化は起こるはずだ。
…………正直言って、俺自身も天使と仲間になれるかもしれないと言う考えは無いことはない。確かにギルド降下作戦や球技大会での能力を見れば、今まで戦線が手こずって来たことは想像に難くない。
しかし、本当にそんな悪者なのだろうか。
前回のガルデモライブの時は邪魔をするどころか普通に楽しんでいたし、球技大会で俺に怪我をさせてしまった時は日が暮れるまで目が覚めるのを待っていてくれた。
…………………………わからない。
「どうしたの?太一くん」
「あ、いや、別に」
「ふーん」
考えを巡らせていると、ゆりが話しかけてきた。
このことについて少し話し合いたかったが、俺の考えが纏まっていないし、何より時と場所が悪すぎる。
戦線メンバーとして、今度ちゃんと話さないとな。
「さて、ご飯も食べ終わったし、俺はガルデモと合流して来るよ。また後でね」
「ええ、また後で」
ステージから捌け、そのままNPCたちの目に触れぬよういつもの空き教室へ帰ったガルデモメンバーに会うため、俺は一足早くフードコートを後にした。急に言われ、打ち合わせの時間も少なく、それでも完璧に任務を遂行した彼女たちを労わなくちゃね。
ガラガラっとドアを開けると、雅美、ひさ子、しおり、みゆきの4人が飛び付いてきた。
「「「「太一(先輩)〜!」」」」
俺は難なく4人を受け止める。
「みんなお疲れ様」
4人の頭を順番に撫でる。
「とりあえず、中でゆっくりお祝いしよっか」
「おっと、そうだな、わりぃわりぃ」
ひとまず抱きつきから解放された。
いやまぁ、続きはこの後教室の中でたっぷりやるんですけどね?
そして、改めて俺を含めた6人で、打ち上げを開始した
「さて、まずはユイ」
「は、はい!」
俺からの呼びかけに少し緊張した様子だ。
球技大会の時はリラックスしていたのは、日向のお陰だったのかな?
「お疲れ様。凄く良いステージだったよ」
自然とユイの頭に手が伸びていた。
そのままユイの頭を撫でる。
「え、えぇ〜……それ程でも……」
直球に褒められて、少し照れているようだ。
「急にステージに立てって言われて、そこから軽くしかリハ出来てないのに、他の4人と息ピッタリで演奏できたのは、普段のユイの努力の賜物だな」
雅美がユイを更に褒める。
「ほんとほんと!しかも岩沢先輩の曲もアレンジしてたとはね〜」
「歌詞もめっちゃ良い感じだったよ!」
しおりとみゆきも続く。
「新メンバーになるって聞いたときはどうなるかと思ったけど、この調子なら安心したぜ」
更にひさ子からも称賛が送られた。
「み、皆さん……」
ユイの目がウルウルしだした。
「よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛〜゛!」
そして泣き出した。
「おいおい、泣かなくても良いだろ?」
「だって……だってぇ……」
ステージ上では感じさせなかったけど、本当は滅茶苦茶緊張していたことは想像に難くない。
その緊張の糸が切れたんだろう。
ひとしきり泣いた後、落ち着いたユイから衝撃的な言葉が出て来た。
「先輩、お兄ちゃんって呼んでも良いですか?」
「えっ」
「なっ!?」
「はっ?」
「へっ?」
「ほっ?」
俺も他の4人も全員から素っ頓狂な声が出た。
「お兄ちゃんですよ!お兄ちゃん!私、昔から兄妹に憧れてたんだ〜!」
「えっと……なんで急に?」
「ほら、先輩ってなんて言うか、メッチャ優しくて包容力あるじゃないですか!すっごく強いのにそれもひけらかさないし、頭も良いし、私の理想のお兄ちゃん像にピッタリなんです!」
「買い被りすぎだよ」
「おいユイ」
雅美の声が響いた。
ユイに鋭い視線を送る雅美。
数秒の沈黙の後、雅美が口を開いた。
「お前よく分かってんな!太一は最高の男なんだよ!」
えぇ……何今の緊張……。
「そんだけ分かってるなら大丈夫だ。太一を本当の兄のように慕ってやってくれ」
「お、おい岩沢……」
「本当ですか!?わーい!」
ひさ子が止めようとしたがもう遅いようだ。ユイも雅美も、もう聴く耳を持っていない。
って言うか俺の意思は……ま、いっか。別に悪い気はしないし。
まぁ、直ぐ飽きるでしょ。
ひさ子としおりとみゆきは、「やれやれ」と言った感じだ。
「それじゃあ、これからも宜しくね!お兄ちゃん!」
今回の作戦は回り回って「妹ができる」という意外な結末で幕を閉じたのであった。
前回「次回は8年後」と言いましたが、6年も前倒しで投稿できました。
次回は年内目指します。