岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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お久しぶりです(4年越し)


第二十四話「オペレーションも料理も下準備は大事」

翌日、昼休み、生徒会室前。

 

 

「失礼します」

 

 

昨日決心した通り、天使の元へ直談判に来ていた。

 

ちなみに今は彼女たちはいない。

 

もしかしたら急に襲われるかもしれないからね。

 

ちなみに、直井はバツが悪そうな顔をしながらパイプ椅子に座っていた。

 

 

「あら、どうしたの?」

 

 

天使は俺の方を見ると、表情を変えずに訊ねて来た。

 

 

「昨日の件なんだけどさ」

 

「昨日の件……ああ、あのことね」

 

「お願いします!彼女たちが男子寮に入ることを許してください!」

 

 

俺は腰を90度に曲げて深々とお辞儀をする。

 

 

「そんなのできるわけないじゃない」

 

 

予想通りといえば予想通りだが、いざ言われると少し悲しい気持ちになる。

 

だがこんなことでは諦めない。

 

 

「そこをなんとか!無理を承知で!」

 

 

頭を下げたままなおもお願いを続ける。

 

 

「常識的に考えて男子寮に女子を入れるなんて危ないわ。襲われたりしたらどうするの」

 

「俺が全力で助ける」

 

「そうね。あなたなら簡単に助けられると思うわ」

 

「なら!」

 

「でも助けられれば良いというわけではないわ。襲われたらそれだけで心に大きな傷を負うもの」

 

 

確かにその通りだ。

 

今現在では襲われてはいないが、今後もそうだとは限らない。

 

NPC全員が全員、善人であるという保証もない。

 

何か、何か打開策はないか。

 

天使を説得できるだけの。

 

 

「それなら、篠宮さんを女子寮に住まわせてはいかがでしょう?」

 

 

座っていた直井が話に入って来た。

 

 

「篠宮君を女子寮に?」

 

「はい、そうすれば彼女たちが襲われる心配もありません」

 

「確かに彼女たちが襲われる心配はないけど、逆に篠宮君が女子を襲ったりしないかしら」

 

「襲わないよ!なんで彼女がいるのに他の女子に手を出すのさ!」

 

「とはいっても、篠宮君を寮内で見たら女子から苦情が来るわ。それに篠宮くんにだけ許可を出したら他の恋人がいる生徒に不平等じゃない」

 

 

まあ、そりゃそうだ。

 

現に来てる苦情は男子寮内に女子がいるってことだもんな。

 

NPCだって恋愛はするだろうし。

 

やはり寮内での同棲は諦めるしかないのか…………。

 

そう思っていた矢先。

 

 

「では女子寮1階にある倉庫を使用するのはどうでしょう。あそこなら裏口から出入りできます。そうすれば寮内で姿を見られることもないでしょう」

 

 

なんかやけに直井が擁護してくれる。

 

 

「でもそうすると倉庫内の荷物が取り出せないじゃない」

 

「中身を近くの地下にしまっておくのはどうでしょう?篠宮さんに協力して貰えば入れるのも出すのも簡単に行えると思います」

 

「あ、ああ!そういう力仕事なら積極的にやるよ!」

 

「彼、彼女たちの青春のために一肌脱ぐというのも生徒会の務めではないでしょうか?ね?篠宮さん」

 

「その、お願いします!俺たちの青春のために!」

 

 

再び頭を下げる。

 

 

「青春……」

 

 

お、なんか天使の心が揺れている。ように見える。

 

ここはもうひと押し。

 

 

「お願いします!」

 

「僕からもお願いします」

 

 

目を横に向けると、俺と同じように頭を下げている直井の姿があった。

 

 

「何かあったら私が責任を取ります。生徒会副会長の名の下に」

 

「ダメよ」

 

「え!?」

 

「はっ!?」

 

 

俺も直井も素っ頓狂な声が出た

 

 

「な、なんで!?絶対OK出る流れだったでしょ!?」

 

「少し考えたけど、常識的に良いわけないじゃない。男子を女子寮に住まわせるなんて」

 

 

……そう整理されて言われるとぐうの音も出ない。

 

 

「で、ですから!篠宮さんを女子寮に住まわせると言うことは極秘として、他の生徒から不満も文句も出ないように……」

 

「そんな秘密、いつか絶対にバレるわ。どこで誰が見ているのか分からないじゃない」

 

「で、ですが!彼らの青春が……」

 

「ダメなものはダメ。諦めなさい」

 

「そんな……」

 

「と言うわけで篠宮くん、現段階であなたたちに交際をやめなさいとは言わないわ。ただ、節度と規則を弁えて交際してちょうだい」

 

 

そう言われると、俺は天使に生徒会室を追い出された。

 

 

「はぁ……とりあえずみんなに報告して考えるしかないか……」

 

 

恐らくあれ以上お願いしたところで判断は覆らないだろう。

 

いやむしろ逆効果になるかもしれない。

 

ここはひとまず引いて作戦を練るしか無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校長室。

 

 

「……ってわけでダメだった」

 

 

俺はことの一部始終を彼女たちに説明した。

 

 

「そう……まあ、そうなるわよね」

 

 

知らせを聞いた彼女たちは全員落胆の表情を浮かべていた。

 

 

「太一と離れ離れになるのか……」

 

「そう……だね。少なくとも夜間はそうなるね」

 

 

珍しく雅美が涙目になりながら話す。

 

 

「せっかく太一の温もりを感じながら寝られるようになったのに……」

 

「俺だってみんなとずっと一緒にいたいよ……」

 

 

校長室にいる7人全員が下を向きながら、誰かが何かを言うのをじっと待っていた。

 

そんな中、口を開いたのはひさ子だった。

 

 

「引き下がるのか?」

 

「まさか。当然、抗うに決まってるじゃない。太一くんもそのつもりでしょ?」

 

「まあね」

 

 

全員「だよな」という表情をしている。

 

湿っぽい雰囲気にはなったものの、諦めている訳ではない。

 

 

「でも、策はあるのか?」

 

「フフッ、もちろんよ。こんなこともあろうかと策を用意しといたわ」

 

 

ゆりは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「もうすぐ期末試験があるわよね?そこで天使を陥れればいいのよ」

 

 

胸を張って自慢げに言うゆり。

 

 

「天使の答案用紙を改変して、ふざけた解答を並べまくる。そうすれば教師からの信頼は失墜して生徒会長退任を余儀なくされるわ」

 

「それってできるの?」

 

 

純粋に浮かんだ疑問をそのままぶつけてみる。

 

 

「そうね……多分できるんじゃないかしら?」

 

「おいおい、用意しといた策じゃないのか?」

 

「用意はしていたけど……実行できるかかなり微妙だったからボツにしたやつなのよ」

 

 

ああ、だから自信ありげな顔をしてなかったのね。

 

 

「そもそも天使と同じ部屋で受けられるか分からないじゃないか」

 

 

珍しく雅美からまともなツッコミが飛んできた。

 

 

「そうね……そこが第一関門よ」

 

「ンモー!ゆりっぺ先輩!」

 

 

コボちゃんみたいなセリフを吐くしおり。

 

 

「…………あ!生徒会副会長にお願いしてみるのはどうかしら?」

 

「ああ、なるほど。確かに副会長は太一側に着いてるからできるかもな」

 

「でしょでしょ!ちょっと太一くんお願いしてみてちょうだい!」

 

 

打開案を見つけた、と言わんばかりにゆりの表情が明るくなる。

 

 

「いやいや、なんか怯えられてるだけだから、別に味方なわけじゃないと思うよ?」

 

「じゃあ脅してでも条件呑ませて頂戴!従わなかったらそうね……『目を潰して耳を剥いだ後四股引き裂く』とか!」

 

「うわっ……」

 

「ゆりっぺ先輩……」

 

「さすがにちょっと……」

 

「ロックすぎるだろ……」

 

「浅はかなり」

 

 

珍しい。

 

他の5人がドン引きしてる。

 

まあ俺も引いたっちゃ引いたけどさ。

 

っていうかロックすぎるってなんだよ。

 

 

「どういう頭してりゃそんな発想出るんだ?」

 

 

代表してひさ子が切り込んだ。

 

こういう時は大体ひさ子の役目だ。

 

 

「う……うっさいわね!長年争ってるとこうもなるわよ!」

 

「ゆりっぺより長年そういうことやってる椎名もドン引きしているが?」

 

「椎名さんは……そういうことなの!」

 

 

うまい言い訳が思いつかなかったようだ。

 

あたふたしている様は非常に可愛らしいものがあるが、残念ながらさっきの発言のマイナスと合わせて打ち消しあった。

 

 

「た、太一君は引いてないわよね!ね!?」

 

 

救済を乞う目で見られても、俺も若干引いたのは事実だ。

 

よって、とるべき行動は一つ。

 

 

「なんで目逸らすのよ!」

 

 

直視しないことだった。

 

 

「もう!いいわよ!早く副会長のところに行って来て頂戴!」

 

 

あ、その赤面した顔可愛い。

 

打ち消しあったポイントがプラスに転じた。

 

などと考える暇もなく背中を押される。

 

第一線で常に戦っているので、並みの人よりは断然力が強いゆりだが、やはり元は普通の女の子である。

 

背中を押す力は強いといえば強いが、そこまで驚くほどでも無い。

 

もっとも、俺に限った話かもしれないが。

 

さて、ゆりに押されたことを原動力とした俺の足は見慣れた廊下を進んで行き、今日2度目の訪問となる生徒会室の扉の前へとやって来ていた。

 

コンコンコンと3回ノックし、失礼しますと一声かけてから扉を開く。

 

それほど時間も経っていないこともあり、天使と直井は生徒会室のパイプ椅子に座ったままだ。

 

 

「あら、どうしたの?さっきも言ったけど、女子寮に入るのは……」

 

「ああ、今回は別件。ちょっと直井に話があって……」

 

 

僕?と自分の顔を指差す直井。

 

 

「ここだとちょっとアレだから、ちょっと外で……」

 

 

極めて適当な理由をつけて直井を生徒会室の外へ出した。

 

ほんと、極めて適当だよ。

 

「アレ」って。

 

「なんですか?」とさっそく本題に入ろうとする直井を「まぁまぁ」と、とりあえずなだめて自動販売機の並ぶ渡り廊下に連れて行く。

 

 

「まぁ、飲みなよ」

 

 

俺は自販機でkeyコーヒーを買って直井に差し出した。

 

とりあえず一緒に一服して話に入りやすくしようっていう魂胆だ。

 

決して賄賂的な意味を含むわけではない。

 

うん、決して。

 

 

「それで?話っていうのはなんだ?」

 

「もうすぐテストあるじゃん?その時に俺たちを天使と同じ部屋で受けられるように手配してほしいなって」

 

「天使の同じ部屋に?なぜだ?」

 

「実は……」

 

 

カクカクシカジカで理由を話す。

 

今回は直井に協力を要請するのだから、作戦の内容を話しても大丈夫……なはずだ。

 

 

「なるほど……そういうことか」

 

 

直井は顎に手を当てて色々考える。

 

 

「……そういうことならなんとかしよう」

 

「ほんと!?」

 

「ああ、全面的に協力しよう」

 

 

なんだか不敵な笑みを浮かべる。

 

気になる感じではあるが、あえてここでは何も言わない方が良いだろう。

 

ここで「なんか企んでる?」と聞こうものならこの話はご破算になるかもしれない。

 

とりあえずお礼を言ってゆりに報告。

 

これがベストだ。

 

 

「んじゃ、ありがとう直井!」

 

 

極めて友好的な笑顔で手を握る。

 

それに対し直井はやはり企みのあるような笑顔で返して来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことで、副会長から全面的な協力を得られたよ」

 

「いよっし!」

 

 

ゆりは特大のガッツポーズをした。

 

 

「これで私たちは勝ったも同然ね……」

 

 

すんごい悪い笑みを浮かべてるよ、この人。

 

 

「んで?期末試験っていうのはいつなんだ?」

 

「明日よ」

 

「あ、明日!?明日か!?」

 

 

ひさ子の声若干が裏返る。

 

 

「明日って……また急だね」

 

 

とんでもないご都合主義だよこりゃ。

 

 

「私もさっき確認して若干焦ったわ。でも大丈夫よ。遊佐さん」

 

「はい」

 

 

まぁたどこからともなく現れた。

 

最近は正直慣れてきちゃったよ。

 

 

「明日のオペレーション、あなたも参加するわよね?」

 

「もちろんです」

 

「へ?」

 

 

俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

「なにかしら?太一くん」

 

「あ、いや、遊佐を呼んだからてっきり戦線メンバーを緊急招集するのかなって思ったからさ」

 

「それもちょっと考えたわ。でも今回の動機はあくまで私たちの問題であって戦線の問題ではないわ」

 

「あー、なるほどね」

 

 

だから俺のことを「太一くん」って呼ぶわけか。

 

 

「いい?このオペレーションはさっきも言ったけど、元は私たちが交際を続けるためっていう動機から始まったイペレーションよ。でも、天使を生徒会長から降ろすことによって神への糸口をつかめるかもしれないわ」

 

 

その場にいる全員に言い聞かせるかのように話し始めるゆり。

 

実際に全員に話しかけているんですけどね。

 

 

「失敗は許されない重要なオペレーションよ。失敗すれば神へと糸口の一つを失うとともに……」

 

 

全員がゴクリと生唾を飲む。

 

 

「太一くんと一緒にいられなくなるわ」

 

「それは……何としても阻止しないと。俺だってみんなとずっと一緒にいたいし、もっとみんなを愛したい」

 

 

ぽかんとした顔で6人が俺を見てくる。

 

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いや……太一がそう言ってくれるとは……」

 

「え?」

 

 

雅美の言葉に思わず聞き返してしまった。

 

 

「いやな、いつも私達からラブコールを送ることはあっても太一が自発的にそういうこと言ってくれるっていうのは珍しくてさ……」

 

「ああ、確かに珍しいな」

 

 

ひさ子が同調する。

 

 

「割と仕草とか振る舞いで『大事にされてるな〜』って感じることはありますけど、言葉に出すことって少ないですよね」

 

 

しおりまでもが追随。

 

 

「…………もうちょっと口に出した方が……良い……かな……?」

 

「「「「「「もちろん」」」」」」

 

 

みんなの口が一斉に揃った。

 

いやね、心の底からみんなのこと本当に愛しているんですよ。

 

ただね、元々そんなに自分から喋るタイプでもないんですよ、私は。

 

生前は雅美以外の人間とほぼ関わらずに、というか関わることを望まれない状態で生きてきたわけじゃないですか。

 

つまり雅美以外の人との会話なんて皆無なわけですよ。

 

この世界に来てからは雅美の紹介とかもあってそれなりにいろんな人と関わったり喋るようになったりしましたけどね。

 

でも人間そう簡単には変われないもんですよ。

 

 

「って言いたそうな顔してるな」

 

「…………人の心の中読まないでくれます?」

 

「っていうかなんで岩沢はわかるんだよ……」

 

「細かすぎですぅ……」

 

「浅はかなり」

 

「んま、昔っからの付き合いだからな。ちなみに今は『顔から読み取れる情報細かすぎだろ』って顔してるぞ」

 

「……ご名答」

 

 

こりゃ隠し事もできないね。

 

元々隠してることなんて無いけどさ。

 

 

「はーい!そろそろ話戻すわよー!」

 

「ホラー映画の感想を言い合うのか?」

 

「戻しすぎだろ!それ昨日の話!」

 

 

雅美さん、こんなところで天然ボケ発揮しなくても良いんですよ。

 

気を取り直すかのようにゆりは咳払いをした。

 

 

「今回のオペレーションの内容よ。まず副会長の手配によって私たちは天使と同じ部屋でテストを受けられるわ。テストの席順はその日の朝くじ順で決定。これで天使の前の席じゃ無いと細工は一気に困難になるわ」

 

「細工っていうのは具体的にどうするんだ?」

 

「良い質問ねひさ子さん。簡単に言えば天使の答案を滅茶苦茶に書き換えるのよ」

 

「書き換える?」

 

「ええ、あらかじめ答案用紙を1枚余分に取る。それに滅茶苦茶な解答を書いて天使の答案用紙とすり替えるっていう作戦よ」

 

「なるほどな……そりゃ天使の前の席取らなきゃ厳しいな」

 

「もし天使が一番前の席になっちゃったらどうするんですか?」

 

「その時は太一くん、時間でも止めてちょうだい」

 

「無理だよ!できないよそんなこと!」

 

「冗談よ」

 

 

半分目がマジだった気もするが。

 

 

「ま、太一なら見事天使の前引き当てられるだろうよ」

 

「なんせ純正九蓮宝燈を配牌時にテンパイの男だからな」

 

「それじゃ、明日作戦決行よ」

 

 

ゆりの一言でその場は解散となった。

 

解散といっても一旦オペレーションの話が終わるだけでこの後みんなでご飯とか食べるんですけどね。

 

そう考えていたが、一つ忘れていたことがある。

 

 

「あ、そうだ。もう一つ報告いい?」

 

「なにかしら?」

 

「生徒会副会長、多分今回のオペレーションとかけて何か企んでる」

 

「……というと?」

 

「この話ってさ、俺らにメリットがあって別に副会長にはメリットないでしょ?なのに目的を話した瞬間すごい不敵な笑みを浮かべてた」

 

「なるほど……多分何かしらのメリットがあるようね。恐らく、会長の座に就けるってことだと思うわ」

 

「会長の座に就くとどんなメリットが?」

 

「生徒会の権限を全て掌握できることね。それを利用してどうするかまではわからなけど」

 

 

この学校の生徒会は絶大な権力を持っている。

 

その気になれば学校を私物化できるほどだ。

 

 

「わかったわ。報告ありがとう」

 

 

これにて本当に解散。

 

さて、ご飯でも食べにいきますかね。

 

とはいっても時刻は夕方の5時。

 

夕飯にはまだ早い時間だ。

 

 

「飯にはまだ早いよなぁ」

 

 

ひさ子も同意見のようだ。

 

 

「とはいっても今日はもうやることがないわね」

 

「このままボーッと過ごすのもアレですし……」

 

 

いやいや、練習しましょうよ、陽動班。

 

 

「そうだ!」

 

 

雅美がなにか閃いたようだ。

 

 

「太一!ご飯作ってくれ!」

 

「え?ご飯?」

 

「最近学食で食ってばっかりだっただろ?久しぶりに太一の手作りのご飯が食べたいんだ!」

 

「へぇ……太一くんの作るご飯ねぇ……」

 

「そういや、前作ってくれた時は滅茶苦茶美味かったな」

 

「ひさ子さん食べたことあるの?」

 

「以前にちょっとな。間違いなくこの世界に来て一番美味かった」

 

「そんな言い過ぎだよ」

 

 

多分恋人の手料理ってことで付加価値がプラスされているだけだろう。

 

 

「いいや、間違いなく世界一美味い」

 

「なんで岩沢が得意げに言うんだよ」

 

「太一の手料理を一番食べているのは私だからな」

 

 

にしても意味不明な理由である。

 

 

「じゃ、そう言うことで夕飯は俺が作るってことでいい?」

 

「異議なし!」

 

「賛成です!」

 

「同ずる」

 

「私も同席してもよろしいですか?」

 

「ええ、もちろん。ご飯を食べるときは大勢の方が美味しいもの」

 

 

ひとまず全員の了承が取れた。

 

 

「オッケー。ちなみにみんな何食べたい?」

 

「先輩が作るものならなんでも食べてみたいです!」

 

「そうねぇ……入江さんの言う通り太一くんの作るものならなんでも食べてみたいわ」

 

「右に同じ」

 

 

いっちゃん困る返答だね、コレ。

 

 

「ん〜……どうしようか」

 

「とりあえず家庭科室に移動しましょ。そこで食材を見てから決めてもいいと思うわ」

 

「そうだね。とりあえず移動しよっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ……」

 

 

思わず声が出た。

 

 

「すごいよコレ!なんでもあるじゃん!」

 

 

家庭科室に業務用の巨大な冷蔵庫があり、その中を開けると大量の食材たちが入っていた。

 

 

「いつ誰が補充しているかわからないけど、鮮度は大丈夫よ」

 

「そうだね、このマグロとかスジも均等だし、弾力があって肌の色がいいもん」

 

「って言うか解体前のマグロがあるのかよ……」

 

「流石に引くわね、この品揃えの良さ」

 

 

調味料も野菜も肉も魚も穀物類もなんでもとんでもない種類が揃っている。

 

 

「迷っちゃうね」

 

 

家庭科室に来て材料を見て決めようと思っていたが、ここまで材料が揃っていると余計に迷う。

 

 

「ん〜………………よし、決めた」

 

「お、何にするんだ?」

 

「出来てからのお楽しみってことで」

 

 

それから俺は調理に取り掛かった。

 

なんせ8人前を作らなければならない。

 

生前から作るときは雅美と俺の分の2人前、たまにお腹が空いてて3人前を作るくらいで、8人前は作ったことがない。

 

味付け等は大丈夫だと思うが、単純に考えて仕込み時間が2人前よりも確実に長くなる。

 

モタモタしていては最初にできた料理が冷めてしまう。

 

より手際よく、より効率よくこなさなければ。

 

 

「とりあえず…………よし」

 

 

やり始める前に一瞬考える時間が入る、あるあるだよね。

 

まずはお米を研ぐ。

 

俺と雅美で合わせて1合くらいだったから、4合くらいかな?

 

ちょっと多めに食べるかもしれないと予想して5合研げばいいか。

 

そして米を研いだら少し水にさらしておく。

 

次に鍋に水を張って乾燥した昆布を浸しておく。

 

本当は一晩中昆布を浸して出汁を取りたかったけど、今回は仕方ない。

 

できる範囲でやろう。

 

その後冷蔵庫からブリを取り出す。

 

そのままの姿のブリが学校の冷蔵庫に入っていることはもう突っ込まない。

 

 

「え?先輩魚さばけるんですか?」

 

「太一はなんでもできるぞ」

 

「だからなんで岩沢が答えるんだよ」

 

「あ、結構グロテスクだから苦手な人はちょっと目離してて」

 

 

みんなにそう注意した後、ウロコを取ってエラを取ってお腹を切って内臓を取り出して汚れを落とす。

 

 

「うわっ……本当に結構グロテスクね……」

 

「さっすが太一、いい手際だ」

 

「エラってあんな感じなんだな……」

 

「あんな真っ赤な大量の突起物が……」

 

「ちょっとしおりん!目瞑ってるんだからわざわざ言わないで!」

 

「浅はかなり」

 

 

三者三様のリアクションを頂いたところでふと疑問に思う。

 

 

「ところでさ、彼氏が『ご飯作るね!』って言っていきなり魚捌き出すのって彼女的にアリなものなの?」

 

「多分自分の部屋でやられたらドン引きしてたと思うわ」

 

「まぁここ家庭科室だしな」

 

「あ、やっぱり?」

 

 

そりゃ自分の部屋で解体ショーやり始めたら普通にドン引きするか。

 

次回からは気をつけよう。

 

 

「っていうかみんなずっと見てないで自分たちの用事済ませてきちゃっていいよ?多分まだ時間かかるし」

 

「いやいや、彼氏の調理シーンなんて胸が高鳴るだろ」

 

「どんな用事よりも最優先ですよ!」

 

 

そんなものなのか。

 

こっちとしては大人数のギャラリーに慣れてないからちょっと緊張しちゃうんだよね。

 

まあまあ、嬉しい緊張(?)として良しとしますか。

 

その後も6人の視線を集めながらブリを下ろし、着々と夕飯作りは進んでいった。

 

この場には俺を除いて7人いるが、みゆきが目を瞑っているため視線は6人分だ。

 

決して誰かを忘れたわけでは無い。

 

ブリを3枚に下ろして適度な大きさに切ったところで一度冷蔵庫で寝かせる。

 

他のメニューを作っている間に悪くなったら嫌だしね。

 

それと同時にみゆきへブリの処理が終わったと報告。

 

約15分ぶりに視界が開けてちょっとした安堵の表情を浮かべた。

 

かわいい。

 

次に人参、ジャガイモ、玉ねぎ、牛肉を食べやすい大きさに切る。

 

 

「やっぱり野菜切る手際も良いな」

 

「ちょっと女子として自信無くすわね……」

 

「一流の料理人みたいな手際です……」

 

「そんな大層なもんじゃないよ」

 

「ちなみになんで料理を始めたんですか?」

 

「ん〜……母さんが全然相手してくれなくて、俺がご飯を作れば一緒に食卓を囲めるかなって思ったからだね」

 

「結局それでも相手してもらえなくて、いっつも私と二人で食べてたもんな」

 

「ほんと、あの頃から雅美に助けられてたね」

 

「二人で食う飯も楽しかったよな」

 

 

ニシシという笑顔を向けてくる雅美。

 

 

「最高に楽しかったよ」

 

 

結果的に親のネグレクト脱出はできなかったけど、代わりに雅美との思い出が沢山出来たから良し。

 

 

「お母さんとの関係が修復できないってわかった瞬間から雅美を喜ばせるために作ってたからね」

 

「太一……!」

 

 

目を輝かせる雅美。

 

流石に包丁使っているときは抱きついて来ないようだ。

 

当たり前だけど。

 

 

「やっぱり羨ましいわね……」

 

「偶にもし太一と生前に出会ってたらって想像しちゃうもんな」

 

「あ〜分かる!私も偶にするわね」

 

 

全員が頷いている。

 

 

「へぇ、ちなみにどんな想像するの?」

 

「えっと……それは……」

 

 

顔を赤くして目を背けるひさ子。

 

普段こう言う仕草やらない子がやると破壊力がものすごい。

 

いま料理中じゃなかったら普通に抱きしめてるよ。

 

まあそんなこんなで野菜とお肉を切り終えた。

 

そうしたら昆布の入った鍋を火にかけ、だいたい10分で70℃〜80℃になる火加減で熱していく。

 

その過程でアクが出てくるので、それを取り除く。

 

 

「って言うか何してるんですか?」

 

 

しおりが問う。

 

 

「一番出汁を取ってるんだよ」

 

「カレーにも出汁って使うんですか?」

 

「カレー?」

 

「え?今先輩カレー作ってるんじゃないですか?」

 

「あ〜……確かに材料似てるね。和風出汁カレーとかもあるし。でも今回はカレーじゃないよ」

 

「ってことは今日は和食ですか?」

 

「うん、和食だよ」

 

「へぇ〜。今度作り方教えてくださいよ!」

 

「もちろん」

 

「あ、私も教えて欲しいわ」

 

「私もお願いできるか?」

 

「私も教えて欲しいですぅ」

 

「浅はかなり」

 

「じゃあ今度のデートは調理実習デートにしよっか」

 

 

デートと呼んでいいか微妙な内容だが、お家デート的な言葉があるんだから調理実習デートがあってもいいだろう。

 

そんな話をしているうちにお湯が温まった。

 

ここで一度火を弱めて昆布を取り除く。

 

そして今一度よくアクを取って再び加熱する。

 

そして沸騰したところで差し水をしてから鰹節を大量に投入。

 

再び沸騰したら火を止め、布でしっかりと濾す。

 

これにて一番出汁の完成。

 

そろそろお米も水から出していい頃だ。

 

ザルを使ってよく水を切る。

 

本当は土鍋で炊くと美味しいのだが、流石に面倒臭いので炊飯器で炊かせてもらおう。

 

ちなみに、お米を炊く時に氷水で炊くと、お米がしゃっきりして美味しくなる。

 

さてお次に白滝を茹でる。

 

小さな手鍋に水を張って火にかける。

 

沸騰したら白滝を入れて1分ほど茹でる。

 

1分経ったらザルにあげてよく水気を切る。

 

いやぁ、アク抜き不要タイプ様様だね。

 

食べやすい大きさに切ったら白滝の準備完了。

 

そうしたらいよいよ本調理だ。

 

鍋にサラダ油を入れて熱する。

 

鍋の温度がちょうど良くなったら玉ねぎを入れて炒め、牛肉も加える。

 

牛肉に火が通ったら人参、じゃがいも、白滝も入れて炒め合わせる。

 

ある程度炒めたら先ほど作った和風だしをいい感じの分量になるまで注ぐ。

 

沸騰したらアクを取り、醤油・酒・みりん・砂糖をそれぞれ適量ずつ入れる。

 

もうこの辺は感覚だよね。

 

本当は計った方がいいけどさ。

 

一煮立ちさせたらこれにて肉じゃがの出来上がり。

 

 

「あぁ〜この匂い!太一の肉じゃが!」

 

「懐かしい?」

 

「懐かしいなんてもんじゃねえよ!」

 

 

雅美のテンションがぐんぐん上がっている。

 

いやぁ、本当に作り甲斐がある。

 

作り手冥利に尽きるね。

 

さてそれじゃあ次は簡単に。

 

また鍋に水を張ってお湯を沸かす。

 

ほうれん草を入れて1分ほど茹でる。

 

茹で終わったらザルにあげて氷水でよく締める。

 

水気をよく切って食べやすい大きさに切る。

 

はい、ほうれん草のお浸しの出来上がり。

 

あとはお好みで鰹節とか醤油とかをかけてもらえばいい。

 

さてラスト。

 

生姜を摩り下ろす。

 

流石に生姜はチューブだと香りも全然違うから、ここだけは譲れない。

 

次に調味料類を準備。

 

醤油、砂糖、みりんを割合を2:1:1にしたタレを用意しておく。

 

今回は結構な量を焼くので、合計で150mlくらいになるよう準備しよう。

 

料理酒も別の器に準備しておく。

 

入れるタイミングが違うから別々にね。

 

そうしたら大きめのフライパンにサラダ油と生姜を入れる。

 

火をつけて香りが立つまで炒める。

 

香りがたったら冷蔵庫からブリを取り出し、焼いていく。

 

両面2分ずつくらいで大丈夫かな?

 

両面焼けたら料理酒を入れて蓋をして、蒸し焼きにする。

 

いい感じになったら先ほど作ったタレを入れて、ブリをひっくり返しながら汁気が半分くらいになるまで煮る。

 

これにてブリの照り焼きの完成。

 

とは言っても流石に一つのフライパンじゃ8人分一気に作れないから、もう一個フライパン取り出して同じことをするんですけどね。

 

 

「わぁ〜!いい匂い!」

 

「滅茶苦茶腹減ったぞ……」

 

「もうちょっと待ってね。まだご飯炊けてないから」

 

「えぇ〜!?あとどれくらいかかるんだ!?」

 

「えーっと……あと20分くらいだって」

 

「マジかよ!?腹減りすぎて死んじまうぞ!」

 

「ひさ子先輩の場合は死ぬ前にお胸におっきい脂肪があるのでエネルギー的に……」

 

 

しおり、ひさ子にゲンコツされる。

 

 

「いっつ〜!冗談じゃないですか!」

 

「冗談でも言うな!」

 

「Fカップあるもんな」

 

「岩沢も黙る!」

 

 

みんなひさ子のおっぱいの話になると生き生きするよね。

 

ちなみに俺の体感的に最近またちょっと大きくなった感じがある。

 

 

「おい太一、なんかいやらしいこと考えてないか?」

 

「……まあ多少は」

 

「〜〜〜!正直に言うんじゃねえよ!」

 

 

正直に言ったらひさ子の顔が真っ赤になった。

 

ちなみに俺は調理を終えて丁度手が空いたところ。

 

つまり、フリーである。

 

そして先ほど積極的にラブコールをしろと言われたところだ。

 

ここで取るべき行動は一つ。

 

 

「だってひさ子可愛いんだもん。そりゃあ考えちゃうよ」

 

 

そう言いながら抱きしめてみる。

 

 

「なっ……!」

 

 

みるみるうちにひさ子の体温が高くなっているのが肌を通じて感じられる。

 

 

「はわゎ〜!先輩が積極的に……!」

 

「どうしたの太一くん!?熱でもあるの!?」

 

「篠宮、大丈夫か?」

 

 

……言葉に出せって言われてその通りにしたら心配されたよ。

 

っていうか椎名にも普通に心配されたのが地味に心にくる。

 

まあせっかくだし、もうちょっとひさ子を愛でてみるか。

 

 

「ひさ子はよく気が強いって思われてるけど、実は誰よりも乙女で可愛らしい女の子だよね。そのギャップとかも最高に可愛いよ」

 

 

ちょっと抱きしめる力を強くして頭も撫でてみる。

 

 

「愛してるよ、ひさ子」

 

「あうぅ……た、太一……」

 

「なんだあのひさ子……」

 

「完全に乙女の顔になってるわ……」

 

「頭から湯気出てません?あれ」

 

 

ちょっとやりすぎたかな?

 

顔がゆでダコみたいに真っ赤になって俺の胸に顔を埋めている。

 

でも本当に思っていることを言っただけだから仕方がない。

 

そろそろ離れようかなと思ったその時。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!まだ離れたくないというか……いま顔がニヤケ過ぎてて顔をみられたくないと言うか……」

 

 

もうちょっとこのままがいいと言う要望があった。

 

俺としても全然嫌じゃないし、むしろ大歓迎だ。

 

 

「やっぱりひさ子先輩も乙女でしたか……」

 

「って言うか太一、今度それ私にもやれよな」

 

「うん、もちろん良いよ」

 

 

個別に一緒になった時に積極的にやることにするか。

 

結局ひさ子が元通りになるまで丁度20分くらいかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20分後

 

 

「あ、そうだ」

 

「どうした?」

 

「サクラにもご飯あげないと」

 

「ああ、そういえば姿が見えないわね」

 

「流石に調理中に猫を部屋に入れるわけにはいかないからね」

 

 

ほぼ毎日一緒にお風呂に入っているし、頭もいいから心配はないと思うけど、念の為。

 

 

「多分俺の部屋にいると思うからちょっと連れてきてもいい?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 

珍しく椎名が一番に返事をした。

 

それに続くように全員が賛同してくれたので、早いうちにサクラを迎えに行こう。

 

ま、ご飯を蒸らすのに丁度いいかな。

 

 

「んじゃ、ちょっと行ってくるね」

 

 

そう言うと俺は窓から飛び出した。

 

 

「えぇっ!?ちょ……!ここ4階……」

 

「関根、太一だぞ」

 

「ああ……そうでしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「ニャ〜……」

 

 

サクラが若干拗ねてる。

 

多分ご飯が無いからだろう。

 

 

「ごめんごめん」

 

 

頭を撫でてみる。

 

 

「んにゃ〜」

 

 

ふっ、ちょろいな。

 

目を細めて気持ちよさそうにしている。

 

 

「にゃ!?」

 

「ごめんごめん」

 

 

ちょろいと思われてちょっとご立腹なようだ。

 

 

「ほらほらほら」

 

 

顎の下も撫でてみる。

 

 

「んにゃ〜♪」

 

 

可愛いなぁ。

 

 

「んにゃ!?」

 

 

違う違うと首を振るサクラ。

 

ちょっとからかい過ぎたかな。

 

 

「サクラ、今日はみんなとご飯食べるよ」

 

「にゃ?」

 

「家庭科室で食べるから一緒に行こう」

 

「にゃ〜♪」

 

 

スルスルっと器用に俺の肩へ乗る。

 

やっぱり猫ってすごい。

 

 

「にゃっ!」

 

 

ビシッと右前脚を前に出し「よし行こう!」と意気込むサクラ。

 

よかった、みんなとご飯食べるのは嫌ではないようだ。

 

そのまま俺はみんなの待つ家庭科室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「いただきまーす」」」」」」」」

 

 

ご飯も炊けて肉じゃがとブリの照り焼きも温め直して8人分の配膳も終えてようやく夕飯だ。

 

温め直している間にサクラのご飯もちゃんと用意しましたよ。

 

時間は夜7時。

 

調理開始から2時間経ってしまった。

 

 

「うまい!いつも通りうまい!」

 

 

雅美が一口肉じゃがを食べて声を上げた。

 

 

「この味だよ!私が食べたかったのは!」

 

「確かに凄く美味しいわね……」

 

「だろだろ!?」

 

 

なんで雅美がそんなに胸を張っているかはさておき、俺自身も美味しいって言ってくれて素直に嬉しい。

 

 

「このブリの照り焼きもとっても美味しいですぅ〜!」

 

「このお味噌汁もダシが効いてて美味しいです!」

 

「浅はか……美味い……」

 

「女子力の塊ですね、篠宮さん」

 

「いやいや、そんなことないよ」

 

「っていうか先輩がこんなに料理上手だったら私の出る幕がないじゃないですか!」

 

「おっ、しおりも料理するの?」

 

「え、えっと……えへへ〜」

 

 

あ、これしないやつだ。

 

 

「関根、誤魔化せてないぞ」

 

「いやしませんよ!?しませんけど!彼氏においしいご飯を振る舞って頭とか撫でられたいじゃないですか!そんでもっていい雰囲気になって『あ、片付けは俺がやるから』『いえ!私がやります!先輩は休んでてください!』『いやいや、作っておいてもらってそれは悪いよ』『じゃあ2人でやりましょう!そうすれば早く終わるし、一緒にいられますし!』『しおり……』ってな流れになって最終的にいい雰囲気のまま一緒にゴールインっていう流れにできるじゃないですか!?」

 

 

雅美からのツッコミでしおりからボロボロと本心が出てきた。

 

 

「いやゴールインまでの過程すっ飛ばしすぎだろ……」

 

「あさはかなり」

 

 

ほら、ひさ子も呆れ気味だ。

 

 

「そう言えば太一くん」

 

「ん?」

 

「得意料理とかは何があるかしら?」

 

「得意料理……得意料理ねぇ……」

 

「そういや太一の得意料理って知らないな」

 

「得意料理っていう得意料理は無いかなぁ」

 

「今日のご飯は得意料理じゃないんですか?」

 

「特段得意って訳じゃないよ」

 

「えっ……このレベルで得意じゃないって……」

 

 

なんだかしおりの顔が絶望になった。

 

 

「これじゃあどんだけ修行しても追いつけないじゃないですか……」

 

 

凹みながらブリの照り焼きを一口。

 

 

「ん〜!一生先輩に作って貰えばいっかぁ〜!」

 

 

すぐに立ち直った。

 

 

「っていうか同棲すれば毎日このレベルの飯が食えるのか……」

 

「そうだぞ〜ひさ子。和食だけじゃなくて洋、中、伊、その他いろんなジャンルの飯が食えるぞ〜」

 

「こらこら雅美、あんまりハードル上げないでよ」

 

「えー、上げてもなお余裕で飛び越えれるからいいじゃん」

 

「その一言でまた余計なハードルが上がったよ……」

 

 

ほら、みんな目がキラキラしてる。

 

 

「よぉーし!今後も太一くんの美味しいご飯が食べられるよう、今後も太一くんと交際が続けられるよう、明日は頑張るわよ!」

 

「「「「「「「おー!」」」」」」

 

 

ゆりからの号令にその場にいた全員が反応する。

 

 

「あ、あと神への糸口を掴むためにも頑張るわよ!」

 

 

もとはそっちがメインの活動じゃないんですかね、死んだ世界戦線。

 

その後は他愛もない雑談を交えご飯を食べた。

 

ちょっと多いかな?と思っていたお米5合も気づけば完食されていた。

 

残ったらおにぎりにして冷凍でもしておこうかと思っていたが、その目論見は外れてしまった。

 

 

「ふぃ〜、美味しかったです〜」

 

「久々に大満足だ〜」

 

「私もここまで美味しいごはんは初めてでした」

 

「あさはかなり」

 

 

皆さん満足してくれたようでなによりです。

 

明日の作戦も朝早いということで、ぱぱっと片付けて解散という感じになった。

 

片付けが終わった頃にはすでに時計は8時30分を指していた。

 

 

「じゃあまた明日ね」

 

「じゃ、また明日な」

 

「ええ、明日は頑張りましょ」

 

「おう、また明日な」

 

「寝坊しちゃだめですからね!」

 

「先輩はしおりんみたいに寝坊なんかしないよ……」

 

「あさはかなり」

 

「おやすみなさい」

 

 

家庭科室を出て校舎の外へ出て、少し歩いて寮の前。

 

非常に名残惜しいが、今日はもう解散だ。

 

俺は彼女たちが寮の中へと消えていくまで見送った。

 

そして全員の姿が見えなくなった。

 

 

「にゃ〜」

 

「ん、帰ろっか」

 

 

全員の姿が見えなくなったのを確認すると、俺とサクラは俺の部屋へと戻った。

 

そしていつものように一緒にお風呂に入り、ちょっとサクラと遊んで時刻はもう10時。

 

高校生にとって10時といえばまだまだ寝る時間ではないだろう。

 

事実、俺自身も10時に寝るのを習慣にはしていない。

 

ただ明日は大切な大切な作戦の実行日ということもあり、もう寝ることにしよう。

 

 

「にゃ〜」

 

「ん?今日は一緒に寝る?」

 

「んにゃっ!」

 

 

そういえば最近は彼女たちが泊まりに来ててサクラと一緒に寝るってしばらく無かったな。

 

 

「ほらほら、こっちこっち」

 

「にゃ〜」

 

 

布団を捲るとその中にサクラが入って来る。

 

普通は布団の上とかで丸くなるもんじゃないの?って思ったそこのあなた。

 

私もそう思います。

 

が、なぜか知らないがサクラは俺の腕に頭を載せて丸くなって寝るのが好きらしい。

 

まあ、毎日彼女たちに腕枕してるし、俺の寝る体制はあんまり変わらない。

 

 

「それじゃ、おやすみ〜……」

 

「にゃ〜……」

 

 

明日の頑張り次第で今後の運命が大きく変わる。

 

そう思いながら俺は明日へと備えて意識を暗闇の中へと落とした。




次回は8年後
嘘です。なる早で投稿します。

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