岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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第二十一話「球技大会(前編)」

天使エリア侵入作戦の翌日。

 

幹部一同が再び校長室へと集結していた。

 

って言っても定例会だから当たり前なんだけどね。

 

今日の主な議題はユイのガルデモ加入について。

 

正確に言えばユイの加入は決定しているのでいわばお披露目会みたいなもんだ。

 

 

「誰こいつ?」

 

「聞いていなかったのか?ガルデモの新メンバーだってさ」

 

「ありえねぇ…」

 

「いいですか、ガールズデッドモンスターというのはロックバンドですよ」

 

「アイドルユニットにでもするつもりか……」

 

 

……幹部の男子からはあまり良い印象を持たれていないようだが……。

 

 

「ちゃんと歌えますから!どうか聞いてから判断してください!」

 

 

いつになくユイが真剣だ。

 

 

「形だけは様になってるな」

 

 

……やっぱり評価は低い。

 

まあ、普通に演奏を聴けばひっくり返るだろう。

 

普通に上手いし。

 

そんなこんなでユイの演奏が始まった。

 

曲はガルデモの代名詞でもある「Crow Song」。

 

雅美やひさ子くらいのレベルって訳では無いけど、下手くそと評する人はかなり少ないだろうって感じだ。

 

雅美を見ても納得している様子だ。

 

そしてユイの演奏が終わった。

 

 

「いえーい!今日はみんなありがとぅー!いぇ…グフっ!」

 

 

あ、これデジャブだ。

 

なんか前にも見た。

 

っていうかユイ学ばないな。

 

 

「何かのパフォーマンスですか?」

 

「デスメタルだったのか」

 

「Crazy baby」

 

「し…死ぬ……」

 

「いや、事故のようだぞ」

 

「な?ロックだろ?」

 

 

どんなタイミングで同意求めてるんですか、雅美さん。

 

とりあえず俺はユイの救助に向かいますか。

 

 

 

 

 

5分後。

 

 

「とんでもないお転婆娘だぜ……」

 

「ガールズデッドモンスターのメンバーとしては如何なものかと」

 

「入れないほうが良いんじゃ無いか?」

 

「そうだな」

 

 

上から藤巻、高松、松下五段、日向。

 

 

「コルァー!ちゃんと歌えてただろ!?」

 

 

ユイ、復活。

 

 

「これでも岩沢さんの大ファンで全曲歌えるんだからな!」

 

 

ほう、と小さく呟く雅美。

 

そこまで熱狂的なファンだと知って口元が少し緩んだみたいだ。

 

 

「とりあえずおっぱいが無いな」

 

「ありませんね」

 

「ねーな」

 

「コルァー!そんな的確な身体的な特徴をピックアップして若い芽を摘み取りにかかるなー!それでもお前ら先輩かー!」

 

「……確かにユイ、おっぱい無いな」

 

「岩沢先輩まで!?」

 

 

おっぱいは関係無いだろ……。

 

 

「うるさいやつだな」

 

「既に言動に難ありだぜ」

 

「どうするの?」

 

「おっぱいは無いけどやる気だけはありそうね」

 

「単に貧乳なだけだぜ」

 

「まあ入れるって約束しちゃったし、岩沢さんも異論無いわよね?」

 

「ああ、おっぱいが小さくても歓迎するぞ」

 

「本当ですか!?やったぁー!ってなるかぁー!」

 

 

どんだけおっぱいいじられてるんだよ……。

 

 

「大丈夫だ、入江もかなり貧乳だぞ」

 

 

ああ…本人の知らないところでなんか暴露されてる…。

 

 

「ま、そんなことはどうだって良いわ。次の議題に移りましょう」

 

 

知らないところで暴露された挙句どうでもいい扱い受けてる……。

 

 

「また今年も球技大会の季節がやってきたわ」

 

「球技大会?そんなものがあるのか」

 

「そりゃああるわよ。普通の学校なんだから」

 

「今年はどうするんだ?おとなしく見学か?」

 

「もちろん参加するわよ」

 

「参加したら消えてなくなるんじゃ無いのか?」

 

 

音無から疑問の声が上がる。

 

 

「もちろんゲリラ参加よ」

 

 

なるほど、普通に参加しなければ消えないっていうことか。

 

 

「また今年も種目は野球か?」

 

「当たり前じゃない」

 

 

野球かぁ……ボール投げられないんだけどなぁ……。

 

 

「いい?あなたたち。それぞれメンバーを集めてチームを作りなさい。一般生徒にも劣る成績を収めたチームには、死よりも恐ろしい罰ゲームよ」

 

 

うわこっわ。

 

うちのリーダーこっわ。

 

人間が最も恐れていることよりもさらに恐ろしいものってなんだよ……。

 

他のメンバーにも若干のどよめきが走る。

 

 

「こっちを無視すんなー!」

 

 

あ、ユイまだ喋ってたんだ。

 

 

「はーい、じゃあ解散!各々チームを組めー!」

 

 

ゆりの一言で一気に校長室にざわめきが起きる。

 

 

「雅美、チームどうする?」

 

「ん?私たちは毎年ガルデモ+NPCでちょっとしたチームを組んで出てるから…今年もそうなると思うぞ」

 

 

へぇ、NPCと組んでるのか。まあファンに声をかければすぐに人は集まるか。

 

 

「太一はどうするんだ?私たちのチームに入るか、他のチームに入るか」

 

「え?他のチームに行っても良いの?」

 

「第一線にも所属してるしな。オペレーションの時は別にわがままは言わないさ」

 

 

あら意外。

 

てっきりガルデモチームに入れられるのかと。

 

 

「本当は同じチームが良いけど……」

 

 

ボソッと本音を言いますね。

 

そういうところも可愛いよね、うちの彼女。

 

雅美と校長室の隅っこで話してると、日向がやってきた。

 

 

「篠宮、俺にはお前が必要だ」

 

 

開口一番に何言ってんだこいつ。

 

 

「お前アレなのか?」

 

「ちげーよ!なんでみんな揃いも揃ってそうなるんだよ!」

 

 

雅美が思ってたことを代弁してくれた。

 

 

「なんか日向がチームを組みたいから入ってくれだって」

 

「別にいいけど……」

 

「なんだよ?歯切れ悪いじゃねーか」

 

「俺ボール投げれないんだよね」

 

「ノーコンってことか?大丈夫だ、そんなことは問題じゃない」

 

 

結構な問題なようにも思えるが……俺が抱えてる問題はそんなレベルではない。

 

 

「なんか俺が投げるとボールが耐えきれないみたいで、破裂しちゃうんだよね」

 

「ああ、そうだな。多分そうなると思う」

 

「いやいや、岩沢、そこ納得するポイントじゃないぜ?」

 

 

幼馴染ゆえのリアクションに音無も冷静にツッコミを入れる。

 

 

「篠宮!どういうことだ!?」

 

 

一瞬フリーズしていた日向が戻ってきた。

 

 

「説明のまんまだけど…」

 

「説明されてわかんねぇから訊いてんだろうが!」

 

 

何でキレてるのこの人。

 

 

「百聞は一見に如かずってことで太一、見せたら?」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうわけで所変わってギルド。

 

 

「……お前ら何しに来た?」

 

 

チャーの言うお前らとは俺、日向、音無の3人である。

 

雅美は今回のオペレーションを他の3人に伝えるために教室へと戻った。

 

 

「ちょっと実験をだな」

 

「実験?何の実験だ?」

 

「こいつの」

 

 

そう言って日向の手が俺の頭の上に乗る。

 

 

「ああ、わかった。自由に使え」

 

「話が早くて助かるぜ」

 

「話が早いっていうか考えるの面倒くさくなってやめたって感じじゃないか?あれ」

 

「細かいことはいいんだって、音無」

 

「そうだ。細かいことは気にするもんじゃねーぞ」

 

 

完全に面倒くさくなった感じの返答だ。

 

 

「ま、とにかくやってみようよ」

 

 

そう言って俺は早速ボールを手に握り、投球フォームに入ろうとした。

 

のだが。

 

 

「待て待て待て!お前どっからボール出した!?」

 

「なに?投げようとしてるんだけど……」

 

「ああ、そっか。わりぃ…じゃねーよ!」

 

 

なんだよ……。

 

 

「さすがに物理の法則を無視できませんから!」

 

「何言ってんだ日向。こいついっつも無視してんじゃねーか」

 

「いやそうだけど!そうじゃなくてだな……そう!なんでボール持ってんだって聞いてんだよ!」

 

「同じこと聞いてるぞ」

 

 

チャーと音無はいたって冷静だ。

 

 

「普通に土から作ったよ。この世界じゃ命あるもの以外作れるんでしょ?」

 

「作ったってお前……いまの短時間でか?」

 

「ボールくらい十数秒もあれば作れるでしょ?」

 

「は?」

 

 

おーっと、チャーの目つきが変わった。

 

 

「お前、今ボールくらいなら十数秒でできると言ったか?」

 

「う、うん。言ったけど……」

 

「ちょっと見せてみろ」

 

 

チャーに指事されるまま、俺は足元の土塊を適量拾って集中する。

 

そして十数秒後、宣言通り手の中には立派な野球ボールが出来上がっていた。

 

 

「ほら」

 

「…………」

 

 

ボールを手渡すとそれを食い入るようにまじまじと眺めていた。

 

 

「本当にできてんじゃねぇか……」

 

「なぁ、二人とも何に驚いてるんだ?この世界じゃ土塊からなんでも作れるんじゃないのか?」

 

「いやな、音無。作れるには作れるんだが、普通じゃ何時間も集中してやっとできるんだ。それをこいつはわずか十数秒でやりやがった」

 

 

俺を指差す。

 

なんでなんかタブーを踏んだみたいになってるんですかね……。

 

 

「おい篠宮」

 

「…なんでしょう?」

 

「お前ギルドに入らないか」

 

「え…?」

 

「いやなにもずっとここにいろとは言わない。時間のあるときでいいからここに来て作業をしてくれないかとお願いしている」

 

 

柄にも無く俺に向かって頭を下げてくる。

 

 

「お誘いは嬉しいけど……」

 

「なんだ?だめなのか?」

 

「いや、俺個人としては別に大丈夫なんだけど、人事のことに関しては全部リーダーが握ってるから俺の一存で決められないんだよね」

 

「そうか、そういうことなら俺の方からゆりっぺに相談しておこう。時間とらせて悪かったな」

 

 

そう言ってチャーは作業員のいる方へと戻っていった。

 

さて、この一件も片付いたことだし、早くボールを投げれるように練習しなければ。

 

 

「お前本当にすげーな!ギルドにも長から直々に指名されるなんてよ!」

 

 

……と思っていた矢先、日向が興奮気味に話しかけてきた。

 

 

「そ、そう?」

 

「ああ!あんなにチャーが下から出てるの初めて見たぜ!だってチャーのやつ…」

 

「おい日向、篠宮の実験やらなくていいのか?」

 

「なんかそう言われると俺の体が改造されるみたいでちょっとアレだね」

 

「いやもうお前改造済みだろ」

 

 

おっと、音無から辛辣な一撃。

 

まあそんなことはどうだっていい。

 

 

「おお、そうだったそうだった。よし篠宮、今度こそ投げてみてくれ」

 

 

今回ギルドに来た目的はボールをまともに投げられるかどうかチェックすること。

 

ようやく目的の本線へと戻り俺は投球フォームに入る。

 

フォームが合っているか間違っているかわからないが、とりあえず振りかぶった。

 

ランナーがいない時にやるあれだ。

 

腕を大きく振りボールを手から離すと、案の定ボールは大きな音を立てて破裂した。

 

 

「ね?投げれないでしょ?」

 

 

ポカーンとしてる日向。

 

 

「さも当たり前みたいに言うことじゃないだろそれ…」

 

 

どこまでも冷静な音無。

 

 

「マジかよ……」

 

「マジだよ」

 

「ちょっと腕を振る速度を落としてもう一回投げてみてくれるか?」

 

「ええ…もう一回投げるの?」

 

「あったりまえよ!こうなったらお前が投げれるようになるまでみっちり特訓すっからな!」

 

 

……なんか面倒なことになった気がする。

 

そんでもって日向は球技大会に出るためのメンバーを集めるのを忘れている気がする。

 

まあいいか。なんとかなるっしょ。

 

そして、そのことに俺と音無が何もツッコミを入れないまま特訓開始から2時間が経過した。

 

 

「おっかしいなぁ〜…フォームも腕の振りの速さも問題ないのになんで見えねえんだ?」

 

 

特訓の成果かボールが破裂することはなくなったが、それでも未だに目視ができないようだ。

 

 

「手首のスナップじゃねーか?」

 

 

声の方を振り返るとチャーがいた。

 

 

「手首のスナップ?」

 

「ああ。フォームも問題なし、腕の振りのスピードも問題なしときたら後は手首のスナップしかなかろう」

 

「おお!なるほど!そりゃあ盲点だったぜ!」

 

「…元野球部がそこに気付かないってどうなんだ?」

 

 

チャーが毒突く。

 

 

「ま、その話は一旦置いておくとして、ちょっと手首のスナップに注意しながらもう一度投げてみてくれ」

 

「うん、わかった」

 

 

言われた通り手首のスナップに注意してもう一度投げてみる。

 

すると。

 

 

「おお!すげぇ!ボールが見えた!」

 

「え?本当?」

 

「ああ!マジだ!篠宮の投げたボールが見えたぞ!」

 

 

どうやら見えるようになったようだ。

 

だが、日向だけではまだ確信は持てない。

 

 

「音無は見えた?」

 

「ああ、見えたぞ」

 

「チャーは?」

 

「バッチリだ」

 

 

どうやら本当に見えるようになったようだ。

 

 

「ぃよっしゃー!これで球技大会優勝に……球技大会?」

 

 

あ、この人やっぱり忘れてたよ。

 

 

「しまったああああああああああ!!!!」

 

「なんだようるせえな」

 

「やべええ!すっかり忘れてた!メンバー集めねぇと!」

 

「アホだ……」

 

「こんなことしちゃいらんねぇ!」

 

 

今こいつ俺にやらせてたことを「こんなこと」って言ったよ。

 

 

「音無!篠宮!急いで戻るぞ!チャー!場所ありがとな!」

 

「おう、なんかよくわからんが頑張れよ」

 

 

こうして俺たちは急いで地上に戻りメンバー集めを再開した。

 

再開したのだが……。

 

 

「クッソ……もう殆ど誰かしらのチームに入っちまってんじゃねーか……」

 

 

案の定というか、残っているメンバーは殆どいなかった。

 

 

「あと6人集めるとか無理じゃね?」

 

「うぐっ…」

 

 

音無の一言に動揺を隠せない日向。

 

そういえばガルデモチームはどうなっているのだろうか。

 

NPCを入れて参戦すると言っていたが、もしかしたらそこに入れてもらえるかもしれない。

 

 

「えーっと……」

 

「あ?なんだ篠宮」

 

「ガルデモチームとかどうかな〜って……」

 

「ガルデモチームか………」

 

 

結構考えてるようだ。

 

 

「ま、現状このザマだしな、当たって砕けろで行ってみるか」

 

 

別に砕かれないとは思うが。

 

とりあえずいつもの空き教室へと俺たちは足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空き教室に着くといつも通り練習をして……いなかった。

 

何やら円になって話し合っているようだ。

 

 

「だから、私としてはここで思いっきってこれを切ればいいと思うんだよ」

 

「いや〜!怖いです!ここは現物ですよ!」

 

「それ捨てたら二翻減るだろ!?」

 

 

うん、なんか麻雀中みたいだ。

 

雅美がユイとペアを組んで打って言うようだ。

 

 

「なあ、ガルデモって結構麻雀やるのか?」

 

「ん?ああ、結構やるよ。今回は多分ユイの親睦会としてやってるんじゃないかな?」

 

 

まあなににしても今なら入っても大丈夫だろう。

 

 

「ロン!」

 

「ほらああああああああ!!!!!」

 

 

よし入ろう。

 

 

「お邪魔するぜ〜」

 

「お邪魔します」

 

「やっぱりやられたじゃないですか〜!」

 

「はっはっはー!岩沢もまだまだだな!」

 

 

どうやら麻雀に熱中しすぎて俺たちが入ってきたのに気づいていないようだ。

 

 

「おっかしーなー……ひさ子の癖というかそういうのはわかってるつもりだったんだけどなぁ……」

 

「ま、そう簡単には見破れないってことだな」

 

「クッソ〜……」

 

「おーい」

 

「あ、太一先輩……に日向先輩と音無先輩?」

 

 

入江さんところのみゆきさんが最初に気づいてくれた。

 

 

「やっと気づいたか……」

 

 

ポリポリと頭をかく日向。

 

 

「なんの用だ?」

 

「あーっと…お前ら球技大会どうするんだ?」

 

「もう直ぐNPCに声かけてメンバーを集める予定だ」

 

「よかったあ〜!」

 

 

はぁ?とういう表情のひさ子。

 

対照的に雅美はなんとなく全容を理解したようだ。

 

 

「おおよそ太一のことで時間がかかって、チームを組むメンバーがいなくなったってとこか?」

 

 

どんぴしゃり、お悩みが見透かされた。

 

別に一月一日に自分が生まれた年にできた一セント玉を拾ったことはないですよ。

 

 

「太一のこと?なんだそりゃ」

 

「さっき言っただろ?ギルドに行ってボールが破裂しないか確認するって」

 

「あれ?岩沢先輩そんなこと言ってたっけ?」

 

「みゆきち、そういうことは言ったというふうに処理するのが大人への第一歩というものだよ」

 

 

なんか間違った第一歩がみゆきに教えられてる……。

 

 

「ふーん。そういうことか。どうだ?でかい音立てて破裂しただろ?」

 

「それがよぉ!ちゃんと投げれるようになったんだぜ!篠宮のやつ!」

 

「マジか!?えっ、マジか!?」

 

 

ひさ子が目をまん丸くして驚嘆した。

 

そこまでびっくらこく事じゃないと思うんですがね……。

 

 

「んで、篠宮を戦力にしている間にメンバーの勧誘忘れちまってなあ……」

 

「そんで私たちとチームを組もう魂胆か」

 

「まあ…そんなところだ」

 

 

音無が力なく返す。

 

 

「頼む!もう後がないんだ!一緒に球技大会に…」

 

「いいぜ。なあ?岩沢、入江、関根」

 

「へ?」

 

「ああ、問題ない」

 

「私も大丈夫ですよ」

 

「私もさんせ〜い!」

 

 

ほら、やっぱり砕かれる事はなかった。

 

 

「ぃよしっ!これで罰ゲーム回避も見えてきたぞ!」

 

「ああそうか。負けたらお前らは罰ゲームがあるんだっけな」

 

「あれ?ガルデモは罰ゲーム無いの?」

 

「本来私たちの役割は陽動だからな」

 

「なるほど……じゃあ罰ゲームを受けるとしたら日向と音無ってわけか」

 

「お前だって受けるだろ!」

 

「あ、俺一応メインは陽動部隊だから」

 

 

事実、俺が最初に配属されたのは陽動であり、第一線は兼任という形でやっている。

 

多分ここにギルドも追加されると思うが。

 

 

「くっそー……こうなったら音無!死んでも勝つぞ!」

 

「お、おう」

 

 

もう死んでるじゃん、という誰もが思いそうなツッコミを心の中で入れる。

 

 

「安心しろ、太一がいれば勝てるさ」

 

「ああ、もとよりこいつをフルに活かすつもりだ。そのためにボールを投げる練習をしたんだからな」

 

「あんまり無茶させないでよ?」

 

「逆に太一が無茶って思うことってなんだ?」

 

「え?えーっと……」

 

「考えなきゃ出てこねえのかよ」

 

「………一週間白米だけしか食べれないとか?」

 

 

おかず無いときついし。

 

 

「よーし、球技大会で酷使しても問題無いなー」

 

 

なぜそうなった……。

 

 

「そういえば日向。野球って9人だろ?1人足りなく無いか?」

 

「ああ、そのことなら大丈夫だ。あてはある」

 

 

自信満々といった様子だ。

 

 

「とりあえず篠宮、ちょっとまた来てくれ」

 

 

そう言われて俺は再びどこかへと連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうわけで来たのは体育館裏の倉庫。

 

ってことは……。

 

 

「椎名を勧誘する」

 

 

やっぱりか。

 

 

「お前が言えば椎名は確実に首を縦に振る」

 

 

いや肩に手を置かれても…。

 

まあ、やるだけやってみますよ。

 

 

「おーい、椎名!」

 

「篠宮!」

 

 

早!出てくんの早!

 

 

「なんだ?どうした?」

 

 

普段のクールさからは想像できないような満開の笑顔だ。

 

 

「球技大会あるじゃん?一緒に」

 

「出る」

 

 

回答も早いなー。

 

お兄さんびっくりしちゃうよ。

 

 

「おい、あれ誰だ?」

 

「俺に聞くなよ」

 

 

同行している2人も困惑を隠せてないし。

 

 

「最近会えてなかったから寂しかったんだぞ?」

 

「ごめんごめん」

 

 

そう言いながら椎名の頭を撫でる。

 

そして顔を真っ赤にしながらも抱きついてくる。

 

可愛い。

 

 

「ん゛、ん゛ん゛!」

 

「なんだ、いたのか」

 

 

日向の咳払いによっていつもの調子に戻る椎名。

 

ONとOFFの切り替えすげえ。

 

ん?ON?OFF?

 

どっちでもいいか。

 

 

「いたのかじゃねぇよ…砂糖吐くかと思ったぜ」

 

「吐くわけないだろ」

 

 

椎名さん、そんな冷たく言わないであげてくださいな。

 

 

「ひとまずメンバーは集まったな」

 

「これからどうするんだ?」

 

「今日のところはここで解散。明日ちょっと練習して来週本番だ」

 

「明日ちょっと練習するだけで大丈夫なのか?」

 

「ああ、こっちにはそこのとんでもねえ2人がいる。余程のことがない限り大丈夫だ」

 

 

随分と期待をかけてきますね…。

 

正直不安なのだが……。

 

まあそん時は日向に声かけて個人練習お願いするか。

 

 

「うっし、じゃあ解散!岩沢たちに明日練習だって伝えてといてくれるか?」

 

「うんいいよ」

 

「サンキュー!じゃあまた明日な」

 

「うんまた明日」

 

 

日向と別れの挨拶を交わし2人の背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして訪れた球技大会本番。

 

我々はもちろんゲリラ参加だ。

 

トーナメント表に目をやると他の戦線チームは一回戦目にしっかりと勝利を納め、準々決勝へと駒を進めたようだ。

 

 

「戦線チームはどこも順調に勝ち残ってますよ!」

 

「んじゃ、俺らも一丁行きますか」

 

 

日向はそう言うと主審の方へ向かって歩きだし、自分たちのチームも出場すると交渉を始めたようだ。

 

 

「またか…」

 

「この次に進めるのは俺らのチームに勝った方ってことで、じゃんけんで決めてくれない?」

 

 

訂正。

 

交渉というより決定事項を伝えに行っただけのようだ。

 

 

「どんどんチームが増えて行きやがる…」

 

「だって!俺たちもこの学校の生徒だぜ?ほら、お前もお願いしろよ」

 

 

ユイにも頭を下げるように言っているようだ。

 

 

「本気で来いやゴルアアアアァァァァァ!」

 

「ドス効かせてどうすんだよ!」

 

「いたたたたたたた!関節が折れます!ホームランが打てなくなりますぅ!」

 

「んな期待最初からしてねぇよ!」

 

 

最近のユイと日向はいつもこんな調子だ。

 

別に喧嘩をしているというわけではなく、お互いに気の置けない仲になったと言った方が適切だろう。

 

そんなこんなで出場権を獲得した俺たちはベンチの前で円陣を組んでいた。

 

 

「そんじゃあオーダー発表するぞー。1番キャッチャーひさ子、2番ファースト椎名っち、3番セカンド俺、4番センター篠宮、5番ピッチャー音無、6番サード岩沢、7番レフト入江、8番ライトユイ、9番ショート関根だ」

 

 

パパッと日向からオーダー発表された。

 

音無にはピッチャーの素質があるらしい。

 

初めの頃日向は俺にピッチャーをやらせようと思っていたらしいが、そうなるとキャッチャーが務まる奴がいないということになりこの計画はおジャンに。

 

俺だって普通の球速で投げたかったよ。

 

その代わりと言っちゃあなんだが、外野に飛んだ打球はほぼ全て俺が任されることとなった。

 

確かにどんな打球でも来れば取れるし、俺的には全然可能なのだが、問題はレフトとライトを任されている2人だ。

 

守備の時間にやることが無くなるというのは如何なものだろうか。

 

と、聞いてみると意外や意外に返事はあっさりしたもので、みゆきは「私が取ろうとしてミスするよりは先輩に任せた方が良いかな〜って」、ユイは「ホームランしか狙ってませんので!」という回答だった。

 

ユイの発言は承諾かどうか微妙だが、とりあえず守備に重きを置いてないということで良いだろう。

 

正直ユイにホームランは打てないと思うのだが……それは言わないでおこう。

 

 

「ここで負けたら罰ゲーム決定だかんな!気合い入れていくぞ!ファイットォー!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……お、おー?」

 

「……驚くべき団結力の無さだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、初戦は勝った。

 

1番のひさ子が流石の運動神経で三遊間にボールを送り出塁し、2番の椎名が流石の俊足でランナーを送りながらも出塁。

 

3番日向が謎のデッドボールをくらい出塁。

 

ノーアウト満塁という大チャンスで迎えた俺の打席。

 

試合前に日向から「ピッチャーのボールをよくみてバットに当てろ。当てたら押し返すようにしてボールを飛ばせ」とアドバイスをもらっていたので、その通りにやってみた。

 

椎名の攻撃を見極められる俺にピッチャーのボールを見極めるのは他愛もなかった。

 

タイミングを合わせてバットにボールを当て、そのまま場外へとボールを運んだ。

 

まあ、そんなこんなでひさ子に打順が回ってくれば得点はほぼ約束されたようなものなのだ。

 

もちろん音無以降の5人も健闘して、1回表に一挙5点を入れることができた。

 

守備も内野に飛べばそれぞれが処理してくれるし、外野にくれば俺のテリトリーだ。

 

この調子で3回までに13点を取り、この試合はコールド勝ちとなった。

 

あれ?このチーム意外と本当に強いんじゃね?

 

 

「日向チーム、3回コールド勝ちです」

 

 

ん?この声は遊佐?

 

 

『よし、順当に戦線チームが勝ち上がってきてるわね。みんな死より恐ろしい罰ゲームとやらを恐れて必死ね。滑稽だわ』

 

 

この声はゆりか。

 

トランシーバーを介しているところから推測するに、1人だけ校長室から双眼鏡か何かを使ってこちらの様子を見ているのだろう。

 

校長室の窓を見てみると案の定こちらを双眼鏡で見ていた。

 

 

「戦線ではゆりっぺさんの罰ゲームを受けたものは発狂して人格が変わると有名ですからね」

 

『そうね…ってどんな罰ゲームよ!』

 

「いえ、私は受けたことがありませんので」

 

 

と、2人の会話を聞いていると

 

 

「来やがったぜ…天使だ…」

 

 

日向がつぶやいた。

 

みんなの視線の先には天使がいる。

 

後ろにいるのは……誰だろう?すんごい野球強そう。

 

隣には直井もいる。

 

 

「あなたたちのチームは参加登録をしていない」

 

「別にいいだろ?参加することに意義がある」

 

「生徒会副会長の直井です。我々は生徒会チームを結成しました。あなたたちの関わるチームは我々が正当な手段で排除していきま……す」

 

 

最後の方、俺と目があって言葉に詰まってたね。

 

 

「なに?そっちは全員野球部のレギュラーってわけ?」

 

 

コクンと天使が頷く。

 

 

「……幾ら何でも厳しいぞ…」

 

「ッハ!頭洗って待っとけよな!」

 

「お前が一番足引っ張ってんだろ!」

 

 

再び日向の関節技がユイに決まる。

 

 

「それとそれを言うなら「首を洗って待っとけ」だ!頭だったら衛生上の身だしなみだ!」

 

「い゛た゛い゛て゛す゛う゛ぅ゛〜!」

 

 

痛がるユイを横目に野球部の軍団はその場を離れる。

 

おそらく練習前のアップにでも行ったのだろう。

 

いくらNPCとはいえども野球部は野球部、その道の熟練者の集いだ。

 

素人を寄せ集めたチームで勝つのは相当厳しい。

 

 

「これ本当にやばいかもな……」

 

 

ひさ子の口からボソッと呟かれた一言に俺たちは共感をせざるを得なかった。




次回、球技大会後編。

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