岩沢雅美の幼馴染   作:南春樹

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お久しぶりです


第十七話「はじめて」

「おはよー」

 

「おはよ」

 

「うーっす、おはよう、太一、岩沢」

 

 

午前8時30分。

 

俺と雅美は少し早めに朝食を済ませて空き教室に来ていた。

 

今日の集会は無し、各自自由に過ごすようにとゆりから通達が有ったため、こうして気合を入れて練習しに来ているわけだ。

 

 

「早いなー、ひさ子」

 

「お前らだって一緒だろ?」

 

「ちなみに何時からいるんだ?」

 

「7時くらい?」

 

「早っ!?」

 

 

予想より早かった。

 

てっきり8時くらいかと思っていたのに。

 

 

「それより、岩沢」

 

「ん?」

 

「今日はやけに肌の艶が……まさか…」

 

 

ははーん、と、からかうように言うひさ子。

 

雅美の顔を見てみると、赤くなっている。

 

 

「ついにその段階まで行ったかー」

 

 

さらに赤くなって俺の裾を掴みながらもじもじする。

 

 

「じゃあ今夜は私な」

 

「………ん?」

 

 

イマ、ナントオッシャイマシタ?

 

 

「聞こえなかったのか?今夜は私の番だ」

 

 

嗚呼、どうやら聞き間違いでは無かったようです。

 

 

「別に……断る理由はないけどさ……」

 

 

同じ彼女だからね。

 

 

「よし、じゃあ今夜お邪魔するぜ」

 

 

グッと親指を立て、満面の笑みで言うひさ子。

 

まあ、ここまで嬉しそうにしてくれるなら彼氏としても甲斐があるというものだ。

 

 

「よし!今日も一日頑張るぞ!」

 

 

そう言いながらひさ子は天井に拳を突き出す。

 

 

「あれ?どうしたんですか?ひさ子先輩」

 

 

丁度そこへしおりと入江が教室に入ってきた。

 

 

「おはようございます〜」

 

「あ、おはようございます、太一先輩、岩沢先輩、ひさ子先輩!」

 

「ああ、おはよう!」

 

「おはようさん」

 

「おはよう」

 

 

入江につられて思い出したようにあいさつをするしおり。ちゃんとあいさつは返さないとね。

 

 

「それで、ひさ子先輩、なんかいいことでもあったんですか?」

 

「いや〜」

 

 

にへら、とだらしのない表情になるひさ子。

 

 

「た、太一先輩!ひさ子先輩が壊れてます!」

 

「壊れてねえよな〜?太一♪」

 

 

壊れてはいない。ただテンションがハイで思考回路が切れているだけだ。

 

 

「それで、本当に何があったんですか?」

 

 

入江が質問してくる。

 

もうそろそろ正直に答えて良いだろう。

 

昨晩の出来事とさっきの会話の内容をそのまま伝える。

 

 

「ああ〜、だからひさ子先輩が壊れたんですね」

 

「だから壊れてねえって」

 

 

しおりの言葉に反論するも表情が明らかににやけているので説得力がない。

 

 

「完全に壊れているよね?みゆきち」

 

「…………」

 

「みゆきち?」

 

 

見てみると顔を真っ赤にして動かなくなってしまっている。

 

 

「あちゃ〜…みゆきちには刺激が強すぎたか〜……」

 

「相変わらず入江はウブだな…」

 

 

なんというか…イメージ通りだ。

 

ついさっきまでニヤニヤしていたひさ子も少し呆れ顔になっている。

 

 

「おーい、入江。起きろー」

 

「……」

 

 

雅美が呼びかけるも、反応がない。

 

多分もうしばらくこのままなんじゃないか?

 

 

「…だめだな」

 

「起きませんねえ…」

 

「おーい、入江?」

 

 

顔を覗き込んでみる。

 

 

「はわっ!?」

 

「おー、起きた」

 

「わ、私がなにか!?」

 

 

いや別になにもしてないんだけどな。

 

 

「…ひさ子先輩、いつもなら起きませんよね…?」

 

「ああ、起きないな……」

 

「恐るべし太一だな……」

 

 

なんかヒソヒソ話してるぞ?

 

 

「し…篠宮先輩…」

 

「ん?」

 

「その……昨晩……」

 

 

滅茶苦茶顔が真っ赤になっている。

 

次の瞬間、頭から湯気を出し、入江は俺の方に倒れこんできた

 

 

「い、入江!?大丈夫!?」

 

「あーあ、無理するから……」

 

「無理?」

 

「みゆきちはすんごいウブなんです」

 

 

いやいや。ウブってレベルじゃねーだろ。もう高校生ですよ?

 

抱きかかえている入江の顔を見てみる。

 

やはり真っ赤になって目を回している。

 

 

「ね?」

 

「ま、まあ、世の中にはこういう人もいるんだな……」

 

 

そう納得せざるを得なかった。

 

とりあえず椅子を並べて簡易的なベットを作り、そこに入江を寝かせる。

 

恐らく寝相はいいと思うので大丈夫だろう。

 

 

「さて、どうする?こうなったらしばらくは起きないぜ?」

 

「どうしましょうか」

 

 

どうしよう。

 

せっかく練習しようって朝早くから集まったんだ。有意義に使いたい。

 

 

「そうだ太一、麻雀打てるか?」

 

「麻雀?なんで?」

 

「親睦を深めるにはいいだろー?」

 

 

いやいや、もう十分深まってますから。なんなら夜の約束までしましたから。

 

 

「んー、時間あるから別にいいけど……俺、ルールとかわかんないよ?」

 

 

やったことないし。

 

 

「その都度教える」

 

「その都度でなんとかなるもんなの?」

 

「ルール自体は簡単ですからね。役を覚えるのが大変ですけど……」

 

「あと点数もな」

 

「雅美としおりもできるの?」

 

「昔ひさ子先輩に教えられまして……」

 

「私も同じく」

 

 

雅美まで打てるなんて意外だった。

 

 

「じゃあやってみようかな」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

 

ひさ子は卓と牌を持ってくる、と言い残し教室から出て行った。

 

 

「この中だったら誰が麻雀強いの?」

 

「圧倒的にひさ子だな」

 

「ひさ子先輩ですね」

 

「そんなに?」

 

「そりゃあもう豪運の持ち主ですよ!」

 

「藤巻とか松下五段とかいつもカモられてるからな」

 

 

それは藤巻と松下五段が弱いということではないんでしょうか。

 

 

「私も結構やられてますからね〜」

 

「私も」

 

「二人も?」

 

「みゆきちも相当やられてますよ」

 

 

へえ。じゃあ本当に強いんだな。

 

 

「どこからあんな運がくるんだろうな」

 

「生前は1日5回くらいおばあさん助けてたんじゃないですか?」

 

 

そりゃあ運が上がりそうだ。

 

 

「ありえるな……」

 

 

ないだろ。

 

そんなこんなで10分ほど他愛もない雑談をしていると、ひさ子が戻ってきた。

 

 

「お待たせ」

 

「待たせたわね」

 

 

ゆりと共に。

 

 

「あれ?ゆりっぺ先輩?どうしたんですか?」

 

「面子合わせよ」

 

「本当は?」

 

「太一くんに会いたくて立候補したわ」

 

 

なるほど。

 

愛されるとは素晴らしいものですね。

 

 

「んじゃ、始めるか」

 

 

なんかよくわからない作業が始まった。

 

東西南北ってかいてある牌を4人で選んだかと思ったらゆりがサイコロを振った。

 

 

「えっと…これなに?」

 

「親を決めるんだよ。ま、そこらへんは今度じっくり教えるから今は私の指示に従ってくれ」

 

 

今ので親が決まるのか。摩訶不思議。

 

席が決まってようやく見たことのある作業に入った。

 

ジャラジャラと牌が混ざり合う音が教室に鳴り響く。

 

その音が鳴り止んだと思うや否や各自山を作る。

 

みんな手馴れてるなあ。

 

ちなみに俺の分は初心者だからという理由でひさ子がやってくれている。

 

 

「まあ、これは太一に教えるためだから本気でやる必要はねえよ?場合によっちゃこの牌持ってるやつ切ってくれっていうかもしれないしな」

 

「あくまで練習ですから食券かけなくてもいいんですよね?」

 

「え?いつも賭けてるの?」

 

「ああ、賭けなきゃつまんねーだろ?」

 

「確かに面白くはなるけどさ……」

 

 

※賭け事はいけません

 

 

「さて、私と太一が親だ。張り切って行くぜ」

 

 

そう言いながら牌をあげる。

 

 

「………」

 

 

なぜかひさ子の手が止まった。

 

 

「どうしたの?」

 

「……ありえねえ…」

 

「?」

 

 

メンバー全員が頭にハテナマークを浮かべていた。

 

 

「い、いや、なんでもない……始めよう」

 

 

確かに見てみると綺麗な形に牌は並んでいた。一つを除いて。

 

 

「役があと一つの牌で出来るってなったらリーチをかけることができる。別にやらなくてもいいが、今はちょっとやらせてくれ」

 

「早っ!?」

 

「うわ、なに切っていいのかわかんねーよ…」

 

「怖いわねー…」

 

 

ゆりが九萬と書かれた牌を切った。

 

 

「嘘だろ!?」

 

 

ひさ子が声を上げると、ゆりが「ああ、しまった!」という顔をした。

 

多分ひさ子のリアクションから凄いのが揃ったと思ったのだろう。

 

 

「……ロン、純正九蓮宝燈、一発、ダブリー」

 

「はあっ!?」

 

「すっげー…初めて見たぜ……」

 

「私の時じゃなくてよかった〜…」

 

 

ジュンセイチュウレンポウトウ?なにそれ?

 

 

「嘘でしょ!?」

 

「私だって嘘だと思ってるよ……」

 

「ね、ねえ、ジュンセイチュウレンポウトウってなに?」

 

「簡単に言えば物凄い役ですよ。やったら死ぬんでしたっけ?」

 

「し、死ぬ?」

 

 

死ぬ……もう死んでる……死んでいるから問題ない……問題ないから揃った……。

 

 

「なるほど」

 

「太一の想像していることは絶対違うからな」

 

 

ひさ子に心を見透かされました。

 

 

「まー、ゆりっぺ先輩も食券賭けてなくてよかったですねー」

 

「本当よ……もし賭けてたらと思うとゾッとするわ……」

 

「ん?今のゲームは終わり?」

 

「ああ、ゆりが跳ねちまった」

 

 

よくわかんないけど、どうやらまた始めからのようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後。

 

 

「あーもう!なんで勝てないのよ!」

 

 

バンっ!と机に手をつくゆり。

 

なんと6連敗中だ。

 

そんでもって俺とひさ子は6連勝中。

 

 

「なんか先輩方強すぎじゃありませんか?」

 

「そういえば太一って昔から運はよかったよなぁ…」

 

「おかしいわよ!なんで私ばっかりこんなに負けるのよ!」

 

「そりゃあ……ゆりの運が悪いからでしょ」

 

「一応言っとくけど、別にイカサマなんてしてねーからな?」

 

「くっ……」

 

 

眉間にしわを寄せ歯をくいしばる。

 

 

「まあまあいいじゃないですか。おかげで太一先輩も少しはルールを覚えれたようですし」

 

「そうだね。役とかはまだだけど、やり方は大体わかったよ」

 

「……今度こそ負けないわよ」

 

 

次の勝負に移ろうとしたその時。

 

 

「う…うん……?」

 

 

入江が起きた。

 

 

「おっと、みゆきちが起きましたぜ?」

 

「本当だ。おはよう、入江」

 

「お…おはようございます……」

 

 

まだ若干顔が赤い。

 

 

「入江、もう大丈夫なのか?」

 

「あ、はい…多分……」

 

「そういえばなんで入江さんは倒れていたの?」

 

「あー…それは話すと長くなるけど…」

 

 

ゆりにも昨晩からの流れを全部話した。

 

 

「へぇ…岩沢さんとねぇ…」

 

 

ニヤニヤしながら俺と雅美を交互に見る。

 

 

「な、なんだよ……」

 

「別に?ただ、岩沢さんとやったんだからいずれかは私の相手もしてくれるんでしょうね?」

 

「そりゃあするけどさ……」

 

「いよっし!」

 

 

グッと小さくガッツポーズをするゆり。

 

 

「あ、あの〜」

 

「ん?どうしたの?」

 

「そろそろ話題変えませんか?」

 

 

振り返ってみると全力で入江の耳を塞いでいるしおりがいた。

 

 

「おっと…悪い悪い。入江も起きたし、練習しようか」

 

「そーすっかぁ」

 

 

ほんの少し残念そうに言うひさ子。よほど麻雀が好きなのだろう。

 

果たして彼女の中では「音楽≦麻雀」なのか「麻雀≦音楽」なのか……。

 

それは後々聞いてみればいいや。

 

 

「じゃあ私は校長室に戻るわね。邪魔するのも悪いし」

 

「あれ?聴いていかないのか?」

 

「気持ちは嬉しいけど……他にも仕事があるのよ」

 

 

雅美が呼びかけたがどうやら忙しいようだ。

 

ってか仕事あるのに麻雀立候補したのか……。

 

 

「そっか。じゃあ頑張ってこいよ」

 

「ええ、遊んだ分取り返すわよ」

 

 

あ、自覚はあるんですね。それなら安心です。

 

じゃ、頑張ってという言葉を残してゆりは校長室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜疲れた疲れた……」

 

「しおりんお疲れ様〜」

 

 

丁度お昼時になった頃、ひさ子から休憩のコールが出た。

 

それと同時にしおりと入江のいつもの会話が出たというわけだ。

 

 

「午後からどうするの?」

 

「んー…私は書きかけの曲があるからそれを仕上げる」

 

「私たちはちょっと予定が入ってまして……」

 

「私は暇だ」

 

 

ひさ子のみが予定が入っていないようだ。

 

 

「じゃあ午後は各自自由行動だね」

 

「そうなるな」

 

「お昼ご飯くらい一緒に食べませんか?」

 

 

そういえばまだお昼ご飯食べてないんだった。

 

しおりの提案により5人で食堂に行く。

 

それぞれ思い思いのメニューを頼み、食べ始め、色々して、食べ終わる。

 

色々っていうのは何かって?

 

色々だよ。

 

 

「さて、太一」

 

「なに?」

 

「これから夜までどうやって過ごすんだ?」

 

 

どうしよう。特に決めてない。

 

このまま部屋に帰ってだらだらしてもいいし、日向辺りと遊んでもいい。いや、遊ぶというか訓練だとかこの世界について教えてもらうだとかだけど。

 

 

「う〜ん……特に決めてないよ」

 

「じゃあさ、私と一緒に過ごさないか?」

 

 

多少は予想していましたよ、この展開。

 

嬉しいからいいんだけどね。

 

 

「もちろんいいよ」

 

「よし、じゃあ私の部屋に行こうぜ」

 

「オッケー」

 

 

ひさ子の部屋へと移動する。

 

移動中はもちろん手を繋いだ。

 

例のごとく、正面から入るのはまずいので窓から入った。

 

 

「さ、いらっしゃい」

 

「お邪魔しま〜す」

 

 

カレーをご馳走になって以来のひさ子の部屋だ。

 

 

「二人……きりだな……」

 

「え?あ、うん。そうだね」

 

「……」

 

「……」

 

 

少しだけ無言が続く。

 

そんなこと言われたら意識しちゃうじゃないか。

 

 

「……き、キスくらい昼間からしてもいいよな?」

 

「うえぇ!?い、いいと思うけど……」

 

 

突然の要求に変な声が出てしまった。

 

 

「じゃ…じゃあ……」

 

 

頬を赤らめ、目を閉じて、唇を少し尖らせてきた。

 

俺の方からやれということなのか。

 

ま、まあいいだろう。やってやろうじゃないか。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

雅美とはまた少し違った雰囲気に緊張してしまう。

 

 

「……太一?」

 

「ちょ、ちょっと待って!今息整えるから……」

 

 

ひさ子を待たせてしまってるのは申し訳ない。

 

ただ、緊張が半端じゃないというのは言っておきたい。

 

呼吸を整え、よし、行くぞと意気込んだ瞬間。

 

 

「隙あり!」

 

「むぐっ!?」

 

 

ひさ子の方からキスをしてきた。

 

 

「ん……」

 

「……ぷはっ」

 

「ふふ、どうだった?」

 

「どうって……気持ちよかったよ」

 

「そうか…」

 

 

そっと抱きついてくるひさ子。

 

 

「太一がなかなか来ないから待ちきれなかったぞ…」

 

「ご、ごめん……」

 

「今夜は太一の方から来てくれるの待ってるぜ」

 

 

そう言うと案外早い段階でひさ子の方から離れた。

 

 

「このままだと我慢できなくなっちまうかもしれないからな……」

 

 

なるほど。Me too.

 

 

「さて、本題に入るか」

 

「え?今のが本題じゃないの?」

 

「今のは私が突発的にしたくなってしただけだ」

 

「ふーん」

 

「なんだよ。嫌だったか?」

 

「全然。むしろ嬉しかったよ」

 

「そっか。んじゃあ本題に入るぞ」

 

 

口元が若干緩みながら話題を戻すひさ子。とっても可愛いです。

 

 

「今日は再びギターを教える」

 

「おお!……ん?」

 

「以前あんだけ教えないって言ってたのになんで教えるんだっていう顔だな」

 

 

ええ、そうです。その通りです。

 

 

「教えてくれるのは願ったり叶ったりなんだけど…どういう風の吹きまわしで?」

 

「なんかさ、せっかくの太一の才能を私の嫉妬で殺しちまってるみたいでさ」

 

「そんな才能なんて……」

 

「謙遜なんかいらねえよ。間違いなく私なんかより才能がある。そんでもって化ける」

 

 

ひさ子のような技術の高い人に言われると嬉しくなる。

 

 

「それにさ、岩沢に教えられて上手くなるより私が教えて上手くなった方が私的に嬉しいじゃん?」

 

「なにそれ」

 

「単なる独占欲と我が儘だよ」

 

「ふーん…」

 

 

やっぱりひさ子でもそういうのはあるんだな。

 

 

「じゃあ前回の復習から行くぜ?ほれ」

 

 

部屋に置いてあったギターを手渡される。

 

 

「えっと…Aマイナーは…」

 

「ちょっと待て」

 

「ん?」

 

「なんでAマイナーからなんだ?」

 

「えっと……なんかロックじゃん?」

 

「……さっぱり意味わかんねえ…。やっぱり岩沢と長い時間過ごしてきただけあるな…」

 

「それって褒めてる?」

 

「太一がそう思うんならそれでいいさ」

 

 

やれやれと、あきれ顔になった。

 

 

「よーし、じゃあ始めるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後。

 

 

「ふんふんふ〜ん♪」

 

「ちょっと待て」

 

「うん?」

 

「もうCrow Song弾けるようになったのか?」

 

「うん」

 

「いや『うん』じゃねーよ!」

 

 

状況を説明しよう。

 

ひさ子から一通りざっと教えてもらった。

 

その後、自由にやってていいと言われ自由にやった。

 

いつも雅美が弾いてるのをイメージしてCrow Songを弾いてみた。

 

弾けた。

 

 

「弾けたじゃねーよ!私たちがどんだけ苦労してきたと思ってんだよ!」

 

「いやいや、ひさ子の教え方が上手かったからだって」

 

「え?ああ、そっか。ってなるかぁ!」

 

 

おお、ノリツッコミ。珍しい。

 

 

「吸収早いっていうレベルじゃねーだろ!頭どうなってんだよ!」

 

「いやぁ…どうなってんすかねぇ…」

 

「こっちが聞いてるんじゃー!」

 

 

ちょっとしおりとキャラ被ってませんか?

 

まあいいや。しばらく観察してみよ。

 

 

「大体なんだ!?その成長速度は!?」

 

 

なんなんでしょうねえ。

 

 

「私や岩沢が長年かけて築いてきたものをたったの10時間足らずでマスターだと!?」

 

 

お、そう聞くとすげえな。

 

 

「すげえで済むかぁー!」

 

 

あ、壊れた。これアカンやつや。

 

別に力ずくで押さえようと思えばできるけど、そういうのはあんまりしたくない。

 

でもこのまま放っておくのもやだ。

 

どうしよう。

 

 

「と、とりあえず座ってお茶でも飲もうよ。ね?」

 

「…………」

 

 

渋々ではあるが座ってくれた。

 

 

「あ、座って早々悪いんだけど、お茶煎れてきてくれない?俺お茶どこにあるかわかんなくて……」

 

「わからずに提案してたのかよ!」

 

「ご、ごめん…」

 

 

なんだかんだで台所に行ってお茶を煎れてくれた。

 

 

「落ち着いた?」

 

「ああ…少しは…」

 

「そっか、よかった」

 

 

ずっとあの調子じゃひさ子も疲れちゃうからね。

 

 

「それにしても、改めてとんでもない奴に恋しちまったって思うよ。ほんと、頭ん中どうなってんだ?」

 

「え…さ、さあ?」

 

「ギルドの連中って脳波とか計測する装置って作れんのかな…」

 

「いやいやいや、それはやめて」

 

 

脳裏に浮かぶのはあの適当に作って爆発した大砲。

 

記憶にないものを適当に作ったらまたああなるかもしれない。

 

別にあのくらいの威力なら大丈夫だけど、怖いは怖い。

 

 

「ふふ、冗談だよ冗談」

 

「なんだ…冗談か…」

 

 

冗談を言う余裕が出てきたか。よかった。

 

 

「ふぅ……ごめんな、取り乱しちゃって」

 

「え?ああ、大丈夫だよ」

 

「それにしても、私は本当にとんでもない奴に惚れちまったんだな」

 

「どうしたの?急に」

 

「昨日の夜ゆりから聞いたぜ?」

 

「何を?」

 

「身体測定の結果」

 

 

ああ、その話か。

 

 

「その気になればこの世界とか簡単に手に入れられるんじゃないか?」

 

「多分できる……じゃないかな?」

 

「手に入れたらどうするんだ?」

 

「別にどうもしないよ。強いて言うならみんなが仲良く過ごすことって命令するかな」

 

「ふーん…優しいんだな」

 

「ひさ子ならどうする?

 

「私か?私なら最低でも1日1回は麻雀をすることっていうルールを作るな」

 

「ひさ子らしいや」

 

「だろ?」

 

 

どの道平和そうな世界が待っていそうだね。

 

 

「さて、ちょっと岩沢のところに行って3人で合わせてみるか」

 

「ん?何を?」

 

「Crow Songだよ。まあセッションってやつだ」

 

「おお!いいね!」

 

 

ギターを弾けるようになるとそういう楽しみも出てくるわけだ。

 

 

「岩沢、きっと驚くぞ」

 

「それも楽しみに行ってみよっか」

 

 

二人してニヤニヤしながら女子寮を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの空き教室前。

 

教室の窓を覗いてみると、雅美が一人で熱心に作曲をしていた。

 

 

「あれ、途中で入っちゃって大丈夫かなあ?」

 

「構やしないさ。あいつ、そうでもしないと飯を食うのすら忘れて作曲し続けるからな」

 

「それもそうだね」

 

 

二人で教室の中に入る。

 

 

「岩沢ー」

 

「……」

 

「岩沢!」

 

「……」

 

 

全然反応しない。

 

 

「しゃーねえ……ライブが始まるぞー!」

 

「え?ライブ?ひさ子!チューニングできて…ってここ教室じゃねえか」

 

「ようやく気づいたか?」

 

「あれ?ひさ子に太一?何してんだ?」

 

「本当に気づいてなかったのか……」

 

「昔っからそういうところがあったよね……」

 

 

ひさ子と二人で呆れる。

 

 

「それで?どうしたんだ?せっかく二人なのに私のところに来るなんてよっぽどのことがあるのか?」

 

「ああ、実は3人でセッションしたいと思ってな」

 

「なんだ。そんなの結構やってるじゃないか」

 

「違う違う。今回は太一もギターだよ」

 

「…は?」

 

「へへ、実は雅美に内緒でひさ子に見てもらいながら練習してたんだ」

 

「つってもほんの2日だけどな」

 

「ふ、2日?」

 

 

半信半疑の雅美。

 

 

「ま、百聞は一見に如かずってことで…いや、この場合は一聴か?」

 

 

どっちでもいいよ。

 

 

「まあいいや。ちょっとやってみようぜ」

 

「あ、ああ…いいけど…」

 

 

雅美の返事を聞くや否や早速準備に取り掛かるひさ子。

 

手際よく作業をしたためすぐに準備は終わった。

 

 

「曲はCrow Songでいくぞー。岩沢と太一がメロディ弾いてくれ」

 

「あ、ああ…」

 

「わかった」

 

 

ひさ子が本体の木の部分を叩いて演奏が始まる。

 

弦を弾いた直後、体に電撃が走った。

 

初めてアンプに繋いで弾いてみたがこんなにすごいものなのか。

 

ちらりと隣の雅美を見てみる。

 

目をぱちくりさせ、驚きの表情で俺を見ている。

 

1番だけを歌い、そこで演奏を止めた。

 

 

「……」

 

「どうだ?岩沢。すげーだろ?」

 

「……」

 

「雅美たちにはまだまだ敵わないけど…どうかな?」

 

「………」

 

「岩沢?」

 

 

反応がない。

 

 

「……すげぇ…」

 

「ん?」

 

「すげーよ太一!!」

 

 

目をキラキラさせ、興奮気味で聞いてくる。

 

 

「そ、そう?ありがと」

 

「ふふふ…こりゃあ太一用にも曲を書かないとな……」

 

 

不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「よし!今から私は新たに作曲する!」

 

 

そう言うと再び机に向かって筆を走らせ始めた。

 

 

「はぁ…相変わらずの音楽キチだな」

 

 

やれやれとひさ子は首を振る。

 

 

「私たちは片付けして戻ろうぜ」

 

「そうだね。多分もう俺たちのこと見えてないし」

 

 

ちらりと雅美のほうを見てみるとやはり俺たちのことは見えていないようだ。

 

俺とひさ子はアイコンタクトをとり、片付けを始めた。

 

別にアイコンタクトをとる必要はないけど、流れ的にそうなってしまっただけだ。

 

片付けが終わった後は二人で食堂に行き、少し早めの夕食をとり、今度は俺の部屋にやってきた。

 

 

「たーいち♪」

 

「うおっ!?」

 

 

部屋に入った瞬間、後ろからひさ子が抱きついてきた。

 

 

「一緒に……風呂入るか?」

 

 

そう耳元で囁いてくる。

 

 

「ふ…不束者ですが……」

 

「……」

 

「……」

 

「ぷっ…はは!なに緊張してんだよ!」

 

「い、いいじゃん!それよりほら!入るよ!」

 

「はいはい」

 

 

なんかニヤニヤしてんなこのやろう……。

 

 

「じゃ、先に行くから」

 

 

そう言って一人で脱衣所に入っていった。

 

良いよって言うまで入ってくるなってことかな?

 

俺は3分程ベッドに座って待っていた。

 

 

「おまたせ♪」

 

 

ひさ子の声が聞こえ、顔を上げるとそこにはバスタオル一枚のひさ子が立っていた。

 

 

「……」

 

 

思わず見とれてしまった。

 

それはそうだろう。自分の彼女が生まれた姿に布を一枚だけ巻いた状態で目の前にいるのだから。

 

 

「……何か言って欲しいんだけど……」

 

「あ…え…っと……凄く…綺麗だよ…」

 

「ほ、本当!?」

 

「ち、近い近い!」

 

 

ぐいっと顔を寄せてくるひさ子。それに伴い豊満な胸の谷間も露わになる。

 

 

「なんだよー…嫌かー?」

 

「嫌じゃないし…むしろ嬉しいけどさ…」

 

「よし、なら早速風呂場へレッツゴー!」

 

 

強引に俺の手を引っ張る。

 

 

「ほら!さっさと脱いだ脱いだ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 

お風呂に入る前に再び脱衣所にきた。

 

そこでひさ子に急かされながら俺は服を脱いでいる。

 

 

「岩沢からも聞いてたけど、すっげー筋肉だな…」

 

 

ペタペタと身体を触ってくる。

 

 

「こりゃあこの後が楽しみだ!」

 

 

そう言うと俺とひさ子は風呂場へと消えていった。

 

風呂からあがった後、ひさ子と俺はオトナの階段とやらを登るのだった。




ユイと天使についての方向性がまとまりました。
ぜひ、活動報告を覗いていってください。

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