また今回から暫く元に戻れますので、宜しくお願いします。
「そっか~、キンちゃんの従姉妹だったんだ。其なら早く言ってくれれば良かったのに」
「は、ははは……うん。そうだったな。すまん」
――夕食も終わったその時間の事である。
先程の白雪とアリアのピリピリと殺気満ちた雰囲気は解消されつつあった。
だが、ほんの少し前、白雪はアリアに丼に盛った飯に箸(しかも割ってない)を立たせたいわゆる死者に出す飯を運ぼうとしたのだ。
いくら嫌ってると言ってもそんなん出されたら、また部屋が世紀末になってしまう。
流石に其は勘弁なので、止めたら『アリアはキンちゃんにとっての何なの?』と絶対零度の声で言ってくるので返答次第では俺が殺られる。
其処で、少し前に家族以外を部屋にいれたことが無いのにと、白雪に言われたのを思いだし、ならば、アリアが、家族だと白雪に言えば、今回の件もある程度は解決するのではと言う我ながらバカな事を考えたのだ。
其処で、今まで、外国にいた俺の従姉妹だと言ってしまったのだ。
ようは、家族関係者であればいいのだ。
なんともマヌケな設定を自分でも作った物だ。
もし、白雪に怪しまれたら、エルに後付けを頼もう。
『ちょっと!』
グイっと突然隣に座っていたアリアが、白雪に背を向ける形で俺の耳を引っ張って顔を近づける。
痛い!離せ!
『何であたしがネクラの従姉妹って事になってるのよ!』
『そうするしか無かったんだよ!じゃなきゃまた部屋が悲惨な事になるじゃねぇか!』
白雪や周りに聴こえない様にヒソヒソと小声で顔を近づけて話す。
従姉妹ってのは俺だって嫌なんだよ。
だけど、もう説明しちゃったし、もうどうしようも無い。
『良いか。此は、
実際は、菊代に気に入られて対等とかになっちまったが、此処はそんなに事など言ってられん。
現にアリアはその事を知らん。
此処は使わせて貰うぞ。
『こう言う時に限って奴隷扱いなんて卑怯よ!悪趣味変態変人』
『だって俺
『言ってくれるじゃないネクラのヒッキーが』
『ウッ……言ってくれるじゃねぇか、チビ助そう言うお前だって学校で俺達以外に話す人いないんじゃないか?』
『あたしは友達とか、恋愛なんて要らないわ!興味も無いの!足を引っ張るだけだわ!』
『その割りにテレビでラブシーンあると顔真っ赤にするのな』
『うるさい!うるさい!うるさい!理子取り逃がしたクセに!』
『あれは見逃したんだよ』
どのみち彼処で理子が捕まってしまったら、知人に渡せる物も渡せなくなってしまう。
どんな結末でどんな事になろうとも、理子にはバスで手に入れた
ぐぬぬぬと、御互いに、顔がくっつくほど睨み合っていると
「二人して何をそんな楽しそうに話しているのかなぁ~」
「いえ、何でも無いです」
きっと、振り向いた俺が見た白雪の周りに黒い霧のような物が漂い髪が物理法則を無視してユラユラと生き物の様に動いているのは俺の目が疲れている正で出来上がった幻だろう。
そうだ。そうに違いない。
「其にしてもまさか、アリアが日本に来るなんて思っても無かったわ~。ね、エル?」
「え!?う、うんそうだね。ボクもビックリだよ………うん。本当に驚いたよ」
先程から、白雪の作った満開全席と言ってもいいほどの中華料理の数々(カニチャーハンにエビチリ、酢豚に餃子にミニラーメンにアワビのオイスターソース和えまで何気に俺の好物ばかり)を黙々と食べていた、二人が話を剃らそうとしてくれている。
因みに隣に風魔もいるのだが、此方は食べなきゃ死ぬとばかりに物凄い早さで口に運んでいた。
「其処のエル君は、キンちゃんがイギリスにいた時の
「うん。そうだね向こうじゃかなりお世話になったよ」
アリアからエルに対象を変えた白雪は、質問と言う名の尋問をエルにし『良く見ると、女の子みたいな顔だね~』と言う言葉に対して『母親の血が濃く通ってるみたいでね』とか、兎に角男として振る舞おうと言う事らしい。
さて、いったい何処までボロが出ずに騙せる事やら。
そう頭の隅で考えながら、風魔に全部取られる前に食事を再会するのだった。
風魔よ、せめてハムスターみたいに膨らんだ頬を萎ませてから新しいおかずを口に入れろ。
暫くして、エルと大体話終わりゲッソリとしたエルが「強敵だった……」とか言ってソファに倒れこんでしまったのをスルーして、ある一冊の本を読んでいたらリビングに白雪がトランプのようなカードを持ってきた。
「ねぇねぇ、キンちゃんこれ
「これまた懐かしい物を……」
「何々占い?」
巫女占札とは、早い話が占いである。
正月何かのおみくじみたいなものだ。
だが、白雪の占いは星伽の占いでもある。
ようは、占いと言うより、予報―――お告げである。
兎に角当たる。
最近の天気予報並みに当たる。
アリアも其処は女の子と言うことなのか、興味を示して、勝手にHDDレコーダーに見ていた動物番組を録画して、近い距離だからか、そのままヨチヨチと赤ん坊の様に四つん這いで近寄って来た。
「良かったら、キンちゃんの事を占ってあげるよ。恋占いとか、金運占いとか、恋愛運を見るとか、健康運を占うとか、恋愛運とかあるんだけど」
何故、そんなに恋愛系の占いを進める。
………だが、待てよ折角の機械だ。
視える物があるなら視て貰おう。
俺がまだ、10にも満たないガキの頃に一回。
そして中学の頃に家に誰もいないところを狙って抜け出してコッソリ会いに行って占って貰ったのが二回目。
そのときの内容が『後数年もしない内にキンちゃんの家庭は崩壊する』と言うものだった。
見事に当たりました。
だけど、一つだけまだ当たっていないのがある。
中学の頃に言われた『キンちゃんは近い内にお兄さんに殺される』だった。
その翌日に当たり掛けたが、其でも家が半分崩れた位でまだ殺されたには至っていない。
もう、占いが外れたのか、其れともまた起きる事なのか。
其処は分からないままだ。
ならば聞くことは一つだ。
「じゃあ………数ヵ月先の俺を視てくれ」
「キンちゃん……」
一瞬目を大きく開き、驚いた顔をする白雪だったが直ぐに何時もの顔に戻り小さく「はい」と答え、カードを星形に伏せて並べ何枚か表に返し始めた。
「どうなのよ?」
特に何も考えていないアリアが横から訪ねて来たので、カードから白雪に視線を移すと、少し険しい表情でカードを見続けていた白雪が顔を起き上がらせニコッと笑ってから。
「えっと、近い内に黒髪の女の子とデートします。なんちゃって」
「お、其は楽しみだ」
―――嘘だな。
今白雪は、誰が見ても分かる位の作り笑いだった。
そして、何かに怯えているように小刻みにカードを捲る手も震えていた。
――俺に関する不吉な事が此れから数ヵ月の間に有ると言うことなのか。
聞いてみたい所だが、こう誤魔化して来ると言うことは余程不吉な事が視えたと言うことなのだろう。
其も命に関わる事が。
今月か来月か、再来月か。
どの道何か対策を取った方が良いだろう。
「はい、じゃあ次はあたしの番!」
ウズウズと目の前に餌を置かれた猫の様に机に乗りだしまだかまだかと、札を白雪の方に寄せつつ「早く占いなさいよ」と子供の様に急かす。
「生年月日とか教えなくて教えなくて良いの?あたし乙女座よ」
生憎そう言う占いでは無いぞ。
此はどちらかと言うと預言に近いからな。
「へー似合わないね」
「ブフッ!」
不意打ちで、白雪が感情を込めずに言った言葉に思わず吹き出してしまった。
確かに似合わない。
イメージで言うなら獅子座の方だ。
「何で笑うのよ!」
「ほらアリア静かにして」
「何であたしだけ」
白雪と俺にカチンと来た顔をするが、取り合えずドカッと乱暴に正座して待つ事にしたらしい。
白雪はと言うと、物凄く渋々っぽい顔で先程と同じ動作で札を並べ、ペラリと一枚開き
「総運、ろくでもないの一言につきます」
適当に言って占い札を片付け始めた。
誰が見ても占ってないのは明らかだ。
「ちょっと!ちゃんと占いなさいよ!あんた巫女でしょ!」
ブチッ!と遂に堪忍袋の緒が切れたアリアが立ち上がりフワリと一瞬スカートがめくれ上がったスカートからはパンツではなく、ガバメントがチラリと見えた(武藤曰くガンチラと言うらしい)嬉しくない。
そのままチャキチャキと張りの有る太股に取り付けたホルスターから二丁取り出して何時でも撃てる構えを取る。
「私の占いに文句言うなんて………!許さないよ、そう言うの」
チャキと、袖の中から僅かに出た短刀の刃が天井のライトの光で輝いている。
「――闘ろうっての?」
ギロリ、ギロロリと、二人が御互いの隙を狙って視殺戦を繰り広げ始めた。
不味い!また、部屋が世紀末状態に!
「アリアが戦いたいんなら、私は受けて立つよ。星伽に禁じられてるからこないだは、使わなかったけど、この間はまだ
「あたしだって切り札……えっと、2枚隠してたもんね!」
ほんとかなぁ~。
そう思ってしまうくらい、アリアはテンパって指でブイサインを作り二つ持っている事を示す。
「私は3枚隠してました」
「ぐぬっ……じゃあ4枚!」
「5枚」
「いっぱい!」
「もういい加減にしな!占いの一つや二つ仲良くやりなっての!」
二人が争っているところに、台所から見かねた菊代の怒りの雷が落ち二人がびくりと肩を震わせる。
台所からリビングまで間にダイニングが有る為部屋一つ分空いていると言うのに届くのだから恐ろしい。
「ふーんだ!」
ばつが悪そうに、アリアがアッカンベーと舌を出してふてくされそのまま二段ベットへと向かってしまった。
子供か。
だが、ボディーガードの件はちゃんと覚えているらしくピーガガガ、ビー!ビー!ビー!と不審な電波を知らせる機械が鳴りまくっている。
すまんアリア。
その電波全て白雪のなんだ。
ドタドタと、寝室からリビングをアリアが無線機の様な機械を持って通過しその電波の発生源まで走って行き、恐らくその発信源までたどり着いたのであろうアリアが「観念しなさい
何故其処にいると思ったし?
全く騒がしい奴だな。
あれを見たなら無理も無いが。
「悪口は言いたくないんだけど」
白雪は、札を手際良く片付けながら、ポツリポツリと独り言の様に語りながらもその言葉は俺へと向けられていた。
「アリアって可愛い子だけど、うるさいよね。其にキンちゃんの事を何一つ分かってない。なのにキンちゃんの事を変な呼び方して、失礼な態度ばっかり取って……男子は皆アリアの事可愛いって言ってるけど、私は……キライ……御免ね。キンちゃんの従姉妹に向かってこんな事言っちゃって」
「いや、気にするな」
実際従姉妹じゃないし。
だが、白雪から人の悪口と言っても良いのか分からん内容だったが其を聞くのは初めてだな。
白雪は、チラリと俺を上目遣いに見てくる。
アリアに着いて一言言えと。
「水と油……じゃなくて、酒と油だな」
「え?」
キョトンと、何を言っているのか分からないと、疑問の目で此方を見てくる。
まぁ、伝わり難いよな。
「黒くてドロドロ飲めやしない。だが、火を付ければ良く燃える。根本的な所では相性良しって事さ――白雪は、アリアの事を本当に嫌ってるのか?」
「え、えと其は」
頷きかけて顔を元に戻しまた、頷きかけて元に戻る其を繰り返す。
其処に俺はつけこむようにして
「白雪もアリアもお互いにハッキリものを言うからな、俺にはキョドるが、こんなに白雪が自分の感情をハッキリ表に出して言うのは、菊代と話すとき以外で見たこと無い」
此は、今の二人を見ていった感想に過ぎないのかもしれない。
だが、酒と油と言ったように、本人達は気づくことも無いだろうが、以外と愛称が良いのだ。
良くも悪くもだが。
白雪は、アリアには本音で話しているようにも見える。
ケンカするなとは、俺の口からは絶対に言えないが、菊代とはまた違った親友と言うより、正反対な
「キンちゃんは……本当に私の事良く見てくれているんだね」
「まぁ、もう何年も一緒にいるからな」
実際引っ越しても金が無いから数日かけて徒歩で会いに行ったし。
菊代の家に住むことになっても毎日とはいかないが、週一の頻度で会いに行ってたしな。
「アリアは、私とキンちゃんの世界に、まっすぐ踏み込んで来た。まるで銃弾みたいに、そして、私の全力を正面から受けて一歩も退かなかった。全体的にはキライなんだけど、ある面では、凄い子だなってそう思ってるよ」
と、一息に言った。
どうやら、単純にキライと言う訳では無く何処か認めている所も有るんだろうな。
最も凄い子と言われたアリアは、白雪の部屋を見て気を失って、目の前を風魔に足を捕まれた状態でズルズルと二段ベットへと引き面れてったけどな。
本当に凄い子だよ。下手なホラー映画よりはな。
ゴホンと、俺はわざとらしく咳払いをし、今目の前で起きた事を強引に無かった事にする。
「まぁ、俺が言えた事じゃ無いが。アイツも、別に悪い奴じゃ無いってついこないだ分かったんだ。俺も良くアイツとケンカするしな」
だが、アイツは子供っぽいだけなのだ。
見た目通り。
そう―――やんちゃな『子供』なのだ。
だからこそ、緋を持っちまったんだろうよ。
★ ☆ ★
「ねぇ、ユキちゃんちょっと―――いいかい?」
其から数時間して、日付も変わり、彼女、菊代の弟達も寝静まり、リビングには、彼女とその親友、白雪、お互いにユキちゃん、キクちゃんと呼び会う仲の二人だけだ。
だが、その場の雰囲気は、友達同士の和気あいあいとした空気ではない。
寧ろ、尋問をする刑事と犯人の図であった。
「うん。分かったいるよ」
そんな白雪も、言われる事は分かっているとまっすぐに真剣な表情で、だが膝に乗せた手は札を見たときの様に小刻みに震えて何かに怯えているようだった。
そんな今にも泣きそうな白雪に菊代は、医者から家族の容体を聞くような、そんな不安そうな表情で白雪に話しかける。
「あの、巫女占札で遠山を占った時―――何が見えたんだい?」
「ッ!」
ビクン!と肩を震わせ白雪の額から頬にかけて一滴の汗が流れる。
「あの時から、ユキちゃんはズット遠山達に札の話から離そうとしている様に見えたよ。遠山も何かを察して聴かない様にしていたからね――けど」
ガシッと白雪の両手を自分の手のひらで掴む。
逃がさないように、そして顔を近づけて、懇願するように
「弟の身に危機が迫ってるって言うなら姉として見過ごせない。アタシは弟みたいに誤魔化したりしないよ―――もう、失うのは嫌なんだ」
ギュも白雪の手を握る菊代の手の力が僅かに強くなる。
其と同時に今度は、最愛の弟を失うかも知れないと言う恐怖が菊代の体を震えさせる。
そんな親友を見て白雪は、覚悟を決める様に目を一度閉じて
「そうだよね。お姉さんには、言うべきだよね」
そう言って菊代の手を解きそのままポツリと落ち着いたけど小さく震えた声で語る。
「でも、言ってしまうと其を認めたみたいで怖い。言わなければ起きない気がして、言わないと取り返しの着かない事になるのは分かってるの―――此はどんなにキンちゃんが抗っても必ず起こる。今度はキンちゃんでも逃れる事の出来ない大きくて深くて暗い渦……其でも聞く?」
じっと覚悟を試すように、その残酷な予言を受け入れられるかどうかを試すために、白雪は菊代へと語る。
「どんな事が合ってもその渦から引き上げるのが姉の役目だよ」
即答。
何の迷いも無く菊代は答えて見せた。
「そう」
短く答え、己れでも認めたくない、予言を伝える為に口を開く。
その予言は
「『キンちゃんは無数の虫憑かれ兄に殺される』……一度回避した運命も二度は無理なんだよ」
そう言って、ボロボロと今まで堪えていた涙を流し、うっうっと僅かに嗚咽を漏らす。
思いっきり泣くことは出来ない。
殺されるであろう本人に聞こえて仕舞うから。
そして、そんな絶望的な予言を聞かされた姉は
「嘘………でしょ?」
ただ呆然と座り混むしか無かった。
何処かで覚悟をしていた事でも、其でも、遥かに重く、残酷な予言の前に。
―――――例え其が、自ら求めた答えだとしても、知らずに恐怖するか。
知って絶望するか。
其だけの話である。
ただ、
「やっぱりそうなんだな……」
扉一枚挟んで、死を言い渡された弟が聞いている事など知らずに。
さて、次回から金次君もやっと家を出ると思います。