金次に転生しました。   作:クリティカル

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第二部のプロローグです。
場面が変わる所が多数有ります。
ご注意下さい。


第2幕赤靴の少女と囚われの白雪姫
33 そして、幕が上がり観客も舞台に上がる。


教授(プロフェシオン)の言っていたのは、こう言う事だったのね)

 

イ・ウー船内。

その一室、階段上に積み重ねられ横にズラリと並ぶ椅子。10人の人にこの場所の感想を聞いたとしたら、間違いなく10人が『映画館』と答えるだろう。

そんな映画館の中では、ポツンと二人の女性が、映画館のスクリーンほどの大きな画面に映る少年――遠山金次の空に向けて、親指を下に向けてそのまま首に持っていき首をかっ切る仕草をすると言う誰もが見ても異様と思う動作を静かに見ていた。

 

 

やがて、一人の女が言葉を発する。

 

「わざわざ部屋から持ち出してまで妾に見せたい物が何かと思えば……ほほっ、アレがカナの言う元弟なのじゃな?」

 

「残念な事にね」

 

その女性の言葉に淡々と事務的に答えたのはつい先程までその教授(プロフェシオン)と話しをしていたカナと呼ばれる女性の隣でニヤニヤと意地悪く笑う女性は裸と見間違える程に過激な何処かのゲームの踊り子を思わせる格好だ。

胸当ては冗談の様に細く、その上から黄金の飾りがジャラジャラと胸を覆い腰回りは細い金の鎖で留めた帯のような絹布を一本垂らした衣装に、足は、高いヒールのサンダルを履いて此れから海にでも行くのかと言うような格好。

ツンと高い鼻に、切れ長の目おかっぱ頭の此方も見るものが見れば間違いなく美少女と言うだろう。

そんな二人の女性は、画面の中で金次がミサイルを蹴り返し戦闘機を破壊した辺りで修了した画面から目を剃らして。

カナの方から口を開いた。

 

「よく伝わったわ―――『第二の可能性』は、たった今消え『第一の可能性』のみとなった」

 

肘掛けに寄りかかり其れは絵になりそうな仕草で頬杖をつきながら言う。

その言葉に、隣の女性は何処か楽しそうに問い掛ける。

 

()()揃って入学とは、また奇妙な縁もあるもんじゃのう」

 

「感動の再会とは遠く因縁が、お互いを結び付ける事もある……この場所は、真に無法。如何なる法も無意味とし、内部にも一切の法規が無いこの場所は、あの子にとっては正に理想郷(ユートピア)ねぇ、あの子が入ってきたら、どうしたいの?パトラ」

 

「ほほほっ」

 

パトラと呼ばれた、女性は心の其処から楽しそうに笑いながら

 

「玉座を狙うと言うのなら御主の弟であっても殺してしまって構わんのじゃろ?祭りに贄は付き物じゃ、妾に相応しい―――所で、分かっておるのだろうな?」

 

ジロリとパトラは、カナに疑惑の目を向ける。

その視線を当たり前の様に受け流しえぇと頷く。

 

「此れからのお手伝いをしてくれるのなら、教授(プロフェシオン)に頼んで貴女の『退学』を取り消して貰うように掛け合うわ」

 

「其なりの報酬を用意するのは当然じゃな」

 

ほほほっと深紅のマニキュアを塗った長い爪と掴んだら折れてしまいそうな細い指が特長的な手の甲を口元に当てて嬉しそうに笑う。

 

(浦賀沖の事も今回の事を何一つとして大きく取り上げられなかった)

 

その女性の隣で静かに目を閉じてこの先を考えていたカナは、弟、遠山金次について考える。

 

(行方不明その次は、留学先のイギリスにて呪いの男(フルヒマン)との戦闘にて死亡と言われていたのに、やっぱり、情報を曲げる位の力は得ていたのね)

 

ギリッと奥歯を噛みしめ忌々しそうに、暗く何も映さなくなったスクリーンを睨み付ける。

 

「『緋弾のアリア』―――その子を使って『第一の可能性』を狙ってるんでしょうけど、緋弾は儚い夢として消す『遠山家の正義』に乗っ取って」

 

彼女は、呪いの様に又決意を新たに決め

 

「姉より優れた弟など存在しない――義を捨てた遠山には、遠山を名乗らず死あるのみ」

 

殺意を込めてこの場に居ない弟に呟く。

ギュッ!と強く右肩を痛みを堪えるかのように押さえながら。

 

 

★ ☆ ★

 

「クッハハハハハハハハハハ!」

 

「チチチチチチチチチ!」

 

「何が可笑しい!」

 

ドン!とテーブルを力強く叩くブカブカのスーツを着て右手首には斜め逆卍が、あしらわれたリストバンドを付け頭には牛を思わせる2本の角を生やした〈小さな男の子〉―――いわゆるショタである。

 

その両脇でソファに座り笑うのは、左目に金色のモノクルを付けワカメの様にヘリャリとした灰色(鼠色)の髪の右目に当たる部分を緑に染め首から親指サイズの瑠璃色の笛を下げている。

もう一人は、いかにも魔女と言えよう。

おかっぱ頭に右目に臙脂色の斜め逆卍を刺繍した眼帯をした14歳のくらいの少女―――カツェ=グラッセだ。

 

そんな二人に挟まれて笑われている、子供は、《獄卒》牛頭(ゴズ)こと、原沢和雪――遠山金次がパスポート製作の為に付けた名前である。

 

そんな原沢は、またドン!と机を叩く。

いつまで笑ってるんだと。

 

「いや~悪い。悪い本来の姿は初めて見るからよ今流行りのギャップつっうの?少し不意を疲れてな。ケケケッ」

 

「でしょう?昔から魔力使いきるとこうなるんすよ変化が解けて元通りおちびちゃんの完成っす」

 

チチチと笑うのは、旧鼠と呼ばれた男。

旧鼠は、原沢の頭の角を指差して

 

「だから、弄るのが楽しいんすよ~―――そう思いません?サティさんも?」

 

『フフッ。確かに其れは否定しないわぁ~』

 

原沢のブカブカなスーツの胸ポケットから突然声がした。

 

「うわっ!な、なんだ!?」

 

その異様な出来事にカツェが驚きの声を上げる。

 

『けど、人の使い魔(ペット)を虐めるのは感心しないなぁ。……後でリーダーに報告しちゃおうかしら?』

 

「うへぇ其は、流石に勘弁すよ~」

 

ひょっこりと、胸ポケットから顔を出してそのまま、出てきたのは、血の様に真っ赤な長い髪を後ろでまとめ先の方を三つ編みにし、海を思わせる青い目そして、手足の丸い関節を持った小さい人形が誰に操られるでもなく意思を持って生きているかの様に自然な動作で話している。

カツェは、落ち着きを取り戻してからその人形に

 

「こいつは驚いた。……〔灼熱の魔女〕サティか………本当に死んでたんだな」

 

そう聞いた。

 

「あらぁ~そう言う貴女は、〔厄水の魔女〕カツェ=グラッセねぇ~お話は、皆からも聞いてるわぁ~」

 

球体関節の腕を曲げ来ていた赤色のドレスの両端を摘まみ初めましてと、上品にお辞儀をする。

そして―――

 

「それでぇ~〔眠り姫〕様はどう~?緋は食べさせたんでしょ~」

 

底の冷えた声で問い掛ける。

おどけてるように見えておどけてない。

感情の無い、ロボットの様に淡々とヒヤリとする程の低い声で問い掛ける。

全員の視線が旧鼠の隣の毛布に包まれた銀髪の少女に向けられる。

旧鼠だけが、口を開き

 

「二度寝っすよ、遠山さんから貰った(押し付けられた)緋色のナイフは食べさせたんすけどね~今度はお腹いっぱいで寝てるって感じっすかねぇ……起きたのもほん数秒すけどね」

 

見てなかったんすか?と、ヒラヒラと剣先が折れてグリップのみとなったバタフライナイフの残骸を左右に振って見せる。

 

「あら~、寝てて分かんなかったわ~」

 

その言葉にピクリと眉を僅かに動かした原沢が

 

「む、かなり眩しき光だと思ったのだが?」

 

そう疑問の声を上げるが

 

「ポケットの中じゃ暗くて分かんないわ~貴方だって正確には馬頭(メズ)の方が出てたんじゃなくて?」

 

煽るようなその言葉に、ぴょんと、ソファから立ち上がりサティの所まで詰め寄ると

 

「あんな気持ち悪い妄想ロリコン妖と一緒にすんな!変化さえ解けなきゃオレはゆっくり向こう側で寝れたしお前なんかにも会う事もなかったんだよ!」

 

先程までの底冷えた声は消えのんびりと間の抜けた声でからかうサティに汚ならしくアウトな指を突き立てギャンギャンと喚く。

端から見た通り人形に話しかけて突然キレる子供と言う何て説明していいのか分からない構図が出来上がっている。

 

――が、そんなのはもう見慣れた光景と、無視を決め込み旧鼠はカツェと顔を見合わせて話を進めていた。

 

「――んで、さっきの()()を見る限りお前ら鏡高はどっちに付くんだよ?」

 

カツェも旧鼠に合わせて此処は隣の騒ぎは、無視して良しと判断し思考を切り換えて、此れから起こるイベントを楽しみにしていると言うニヤリとした笑顔を見せる。

映像と言うのは、勿論遠山金次のパフォーマンス映像と言う名の挑戦状の事だろう。

その意味が直ぐに伝わったようで腕を組み数秒考える素振りをしてから

 

「休暇中に起きた事っすから、何とも言えないんすけど……遠山さんの組織力への拘りから恐らく主戦派(イグナテイス)すかね……まぁ、帰国してみなきゃわかんないんすけど」

 

「ま、其処しか考えられねぇしな」

 

世間話でもするかのように、軽い口調でお互いに話す。

 

「だが、今まで疑問だったんだ。何であの姉弟が日本で武偵何かやってたのか………其が分かった」

 

カツェの方がポツリと、独り言の様に言う。

 

「と、言うと?」

 

「……あの映像が、送られて来たのと同時に、イギリスのイカれ貴族からの手紙も付いてきたんだ。今日この日にこの時間に届く様にな。最初から、こうなると分かっていたとしか思えないほど、早く」

 

旧鼠に促されたカツェは説明の途中で、マントの内側から、折り畳まれた一つの紙を出す。

 

「『急ですまないが、鏡高にイ・ウーの名前を貸すように手配して欲しい』ってな。まぁ、あたしらも鏡高には、大きな借りがある。其も一回や二回では返せない程のな」

 

「まぁ、国に喧嘩を売るようなマネが、まだ表だって出来る程まだ大きく無いすもんねぇ」

 

「其も有るが……」

 

ニィ、と意地悪く笑い続ける。

 

「『第一の可能性』『緋弾のアリア』『神崎かなえ』『三色の色金』此が全て東京の武偵校に又はその付近に集まっている。……此は偶然か?」

 

その言葉にハッと、旧鼠も何か合点が言ったと言う顔をして

 

「そう言えば、やたら遠山さんもお嬢も東京の武偵校に拘ってたっすね」

 

「そうだ。あの二人ほど……いや、姉は兎も角弟の方だ。あんな思考の狂った奴が取り締まる側なんて似合わねぇにも程がある。あたしらから見ても()()じゃない。あたし達ですら、男と分かっていても正式にメンバーとして欲しいくらいの狂いっぷりだ」

 

「否定できないすねぇ……」

 

おお、怖い怖いと自らの体を抱き締め大袈裟に身震いするその姿には何処かの胡散臭さが漂う。

 

「其に加えて、側近の貴族からの鏡高へのイ・ウー名貸しこの時期にイ・ウーへの加入だ。前に誘った時は断られたのに」

 

思い出して機嫌を損ねたのか、頬を膨らませて不満を露にする。

其を宥めるかのように、旧鼠が話を促す。

 

「誘った事があったんすか?」

 

「なんだ、知らなかったのか?あぁ、言ったぜ、そしたら欠伸しながら『興味無いし関わりたくない』とか抜かすんだ。なのに此だぜ不満も有るさあたしの勧誘は断るくせにイギリスのはOKするんだぜ、嫉妬の一つや二つくらいのするさ」

 

ケケっと魔女らしく笑うカツェを見て旧鼠も確かにと、何処か感心したような顔をして頷く。

確かに、周りから見たら『その通りだ』と納得の出来る言い分。

遠山本人から見たら『残念ハズレ』と、大きく手で×(バツ)を作るだろう程に間違えている。

勿論当たっているところもあるが、結果論としてはやはりハズレである。

そんな五人(と言って良いのか分からないが)の中にバンッと扉を勢いよく開けて慌てながらカツェの元へと駆け寄るカツェと同じような格好をした少女が、カツェの耳元で何かを囁き、

その瞬間、カツェの目は動揺で大きく震え何度か瞬きしてから、耳打ちで何かの指示を出す。

部下らしき少女は、慌てながら走って扉を閉めてそのまま何処かへと行ってしまった。

 

シンと先程までの騒がしくしていた二人も静かになり軈て、カツェがまだ、信じられないと口をわなわなと震わせながらも

 

「数日前に、遠山と……その姉菊代が―――日本の零科全メンバーを潰したそうだ……今、イヴィリタ様もその証拠写真を今あたし達を除いた全員で確認したと」

 

 

―――はたして、この根も葉もない濡れ衣が、遠山達にとって凶と出るか吉と出るか。

其れは、まだ誰にも分からない。

だが、一つ言える事とすれば、其れは、周りが遠山の思う通り間違った解釈をしてくれたと言うことだろう。

どんな結果がこの先待っていようと此だけは、吉と出たと自信を持って言えるだろう。

 

★ ☆ ★

 

一方で、そんな濡れ衣がおまけで付いていったなんて事は、知る良しもない遠山達は

 

「天誅!テエエエェェンチュウウゥゥ!!」

 

ギラリと光る日本刀を武装巫女が目の前の少女に嬉々として振りかざし

 

「ネクラ、何でアタシが狙われてるのか説明しなさいよ!」

 

ピンク髪の探偵が二丁の拳銃を手に身を守り

 

「知らん。お得意の勘とやらで答えを見つけてみろ」

 

部屋の隅で大きな鋼鉄製の盾を構えて身を隠すヤクザ少年

そして、其を外の物置小屋から見守る親友と姉妹と言う何ともカオスな光景の中

 

(ま、後三時間もすれば、体力も切れるだろう)

 

 

盾の中で静かに、出ていくタイミングを伺いながら今を日常だと〈思い込もう〉とするのだった。

 

いつか、本当の平凡を手に入れたいと、そんなのは無理だと交互に思いながら。

彼は、今この時を普通と思い込もうとしていた。




暫くしたら章をつけます。

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