「うっわ……………本当、ハデにやるねボス………」
PCの淡い光だけが、照らす空間の中目の下に熊が目立ち、クーラからの風を防ぐ為なのか、毛布を此れでもかと分厚く羽織った、中性的な顔立ちの少年が途切れ途切れに言葉を発し中性的な声で小さく呟く
カタカタと、眠たげに半分に開いた眼でじっと見る画面には、戦闘機が、煙を上げて暗い東京湾の海へと落ちていく所と其とロープで吊るされた遠山。
其を引き上げるエルが画面に映し出されていた。
(折角だし、彼等にも見せよう)
マウスを弄りカーソルを合わせてカチリと、キーを押す。
一斉送信
其が、完了したのを見届けると、ん~と、体をほぐしもう、自分のやることは無いと言わんばかりに、後ろの布団へと倒れてクレフトは寝てしまった。
画面には、今正に墜落しつつある飛行機が映っているだけであった。
☆ ★ ☆
「な、生きてたろ?」
「白々し過ぎるよ。等分絶叫体験はしたくない」
どうせ直ぐに嫌でも体験することになる。
その言葉を俺は、グッと飲み込み、横に大の字で倒れているエルの横に座る。
あの後飛行機が墜落する間振り落とされないように、同じくロープを身体に巻き付けていたエルと共に飛行機の翼にしがみつき、何とか目的地の空き地島にたどり着いた。
……うん。予定通りたどり着いた。
其は良い。
証人となる乗客も恐らく無事、なのだろう。
「所でトオヤマ、
「いいや、記憶にねぇ」
エルが指差すその先には、飛行機を包み込む用に受け止めた形をそのままに何十倍にも大きくしたようなサッカーゴールが有る。
見た目まんまサッカーゴールなのだ。
「遠山ーーーー!」
二人してそのあり得ない光景に唖然としていると、反対側からよじ登って来たのだろう、菊代が此方へとやって来る。
そのまま
「あんたすっごいじゃない!」
勢い良く抱きついて来た。
「は?え?き、菊代さん?何が?」
抱きついて来た菊代の体の所々柔らかい感触を残念ながら味わう事も出来ず、俺の頭は追い付けずにいた。
思わずさん付けになっちゃったよ。
菊代は其には気付かず、嬉しそうに
「惚けなくても良いでしょ?あの変な巨大ネットあんたが、ひなちゃん達に予め用意させた代物でしょう?本当に準備良いわねあんた最高よ!」
「あ?え?俺?」
―――俺は、そんな事頼んで無いぞ。
と、言おうとしたが、目の前で、嬉しそうに笑う菊代を見て否定するのを止めた。
まぁ、そう言う事にしておこう。
俺の株が、菊代の中で上がってるみたいだし。
男と言うのは良く見られたいものなんです。身内には尚更。
誰か知らんけどありがとさん手柄は頂く。
「ねぇ、キクヨ。アリアはどうしたんだい?姿が見えないが」
隣で、顎に手を当てて何か考え事をしていたらしいエルが、菊代に声をかける。
「ひなちゃんとききちゃんの二人と一緒に乗客の避難誘導してるわ。あぁ、クギは指して有るから変な事は向こうに集まってるマスコミには、言わないわよ」
菊代は其にしれっと返す。
其なら、良かった。乗客もアリアも俺達の事は確実に伏せるだろう。
アリアは兎も角、乗客達は、テロリスト擬きよりも、別の事にお怒りだろうからな。
その辺は、予めクギを指して有るから大丈夫だろう。
今夜此処に俺達は、居なかった。
此で、一軒落着―――
「今宵は実に良い舞台だったよ。実に楽しかった」
パチパチパチパチ
「「―――!?」」
突然、俺達三人以外の声が、後ろから聞こえる。
エルと、菊代は、その声のする方向へと視線を向ける。
俺も、そのままゆっくりと後ろへと体を向けて
「楽しめた様で何よりだ―――不知火」
ガンッ!
そのまま隣の菊代の太股のホルスターからベレッタM92FSを抜きそのまま発砲する。
不知火の額へと。
「此れは此れは、酷い挨拶だ」
此処からでも、見える。
先程まで、機体の上で観客気取りで拍手をしていた、不知火の額へから血が流れるが、本人は気にした様子も無くやれやれと肩を落とす。
「お前には、調度良い挨拶だろ」
ベレッタを菊代へと返しながら俺は、視線は外さずに不知火へと一歩、歩みよる。
そのまま、挑発を予て
「んで、その可笑しな仮面は何だ?ハロウィンはまだ先だぜ」
そう、今夜の不知火は何処か可笑しい。
何時もなら、邪魔をするときも、顔何か隠さないのに今日に限っては不知火は、真ん中に、青い一つ半分見開いた目のデザインで、中世の盾を型どったような、仮面を付けていた。
上手く言い表せないが、俺はこのような仮面を付けた奴を不知火以外で、何処かで見たような気がする。
不知火は、そんなのお構い無しと此方を見て首を傾げる。
「こう言う格好をすれば少しは、昔を思い出すと思っていたが、僕の買い被りだったか……」
「何の話だ?」
俺の質問には、答えずに、不知火は表情の変わらぬ仮面で此方を見て、あぁと何か一人で納得したように声を上げて
「此れは、失礼した“前の前の君の事”だった」
「ト、トウヤマ!アレ!?」
エルが驚くのも無理は無い。
俺が撃ち穴の空いた仮面の上の額の血は止まりそれどころか、ググッと弾が押し出され、チリリーンと音を上げて落ち不知火の額の穴は最初から無かったように塞がっていた。
分かっては、いたが、不知火には通じないのだ、銃弾も刃物も爆弾も。
ナイフで喉を切り裂こうと、今の様に銃弾で頭を撃ち抜いても、口に手榴弾突っ込もうと
こいつが死んだ試しが無い。
「相変わらず、胡散臭くて気色悪いわね。
菊代が、静かに睨み殺気立ち、ドスの聞いた声で話し掛ける。
だが、不知火はどこ吹く風で
「気色悪いのは認めよう。だが、そうも殺気を振り撒かなくても良いんじゃないかな?」
立ち上がり、トンッと此方に軽くジャンプし俺達のいる翼部分へと降り立つ。
「お前見たいな信用のしの字も出来ない男に其は無理な話だ」
「そう言うと、思っていた……なら、此なら話は別だろう?」
不知火が、胸元から、一枚の写真を出して此方に差し出す。
取り合えず受け取ろうと、手をゆっくり警戒心は捨てずに伸ばしかけて
「待ちな」
すっと、俺の前に菊代が手を出して制する。
「ちゃんと、
菊代が先程よりも、強く睨み付ける。
だが、俺の頭の中には、別の台詞の方が気になった。
俺に、見せて良い内容?其はどういう意味なんだ?菊代。
「害は無い。信じて貰って良いよ」
不知火が写真を左右に軽く振って見せる。
「どの道、私が確認する」
菊代が其を引ったくるようにして、受けとる。
其を見た瞬間にみるみる菊代の顔が青ざめていくのが分かる。
「キ、キクヨ?」
心配し、エルが菊代に話し掛けると、菊代は、エルへとその写真を渡す。
其を見たエルは、冷静に此方へと渡して来る。
「余り見たいものじゃないが、問題は無い……筈だ」
エルが、渡して来た写真に映っていたのは、一列に並べられた四人の男の死体の写真だった。
だが、ただの死体じゃない。
全部内側から殺られている事だ。
映画のプレ○ター見たいに腹が裂かれ肉片やら骨やらが其処らに見えている。
普通なら、このような殺し方は出来ない。
どんなことをしても内側――体内からとなると、
胸に七つの傷の有る男とか、
だが今は、殺し方は頭の隅っこに置いておこう。
「おいおい。不知火………こりゃどう意味だ?この不思議死体を俺らに見せてどうしようてんだよ」
こいつが、この写真を俺達に見せたと言うのが重要なのだ。
だが、不知火は、俺達の方を向かずただ明後日の方を見て
「彼等と過ごした時もなかなか悪くは無かった。だが、いつか別れは来るもの……僕の場合自分から別れを告げたのだけどね」
「彼等は君の仲間だったと言いたいのか?」
「まぁ、そう言う所だ。ワトソン君」
手に持ったハンカチで、額の血を拭いつつ、何でもないようにさらっと
「その人達は、僕と同じ“公安0課”の人達だ。聞いたことくらい有るだろう?」
不知火が言った言葉に、全員が、目を見開き驚く。
菊代が、真っ先に、震える声で不知火に詰め寄る。
「0課ですって……!?あんた殺しのライセンスを持ってるって言うの!?」
「正しくは、“持っていた”だ。今は追われる身さ」
公安0課
正式名称は『警視庁公安部 公安第0課』
武装検事
日本一物騒な国内最強の仕事人だ。
職務上いくら人間を殺しても罪に問われることの無い。
菊代の、言う『殺しのライセンス』を持った闇の公務員だ。
俺が、0課と言われて納得出来たのは、俺がまだ小さい頃殉死した血の繋がった方の俺の親父――遠山金叉がその地位にいた。
だから、この写真を見ても分かる。
不知火も今までの事を思い出せば、そう言う所に居ても可笑しくない。
だか、今の話とこの写真を見る限り、不知火は、その国内最強の自分を除いた四人をどんな手段かは知らないが、殺して見せたのだ。
俺は、動揺を隠すように、震える喉をぽりぽりとかくように然り気無く押さえながら
「その地位を捨てたか」
「君達が現れたんだ。彼処にいると動きづらい。何より君にとっても彼等が消えるのは好都合だろう。此れから先の事を考えれば、目の上のたんこぶが消えたんだ。もっと喜んで貰いたい」
「恩着せるのは良いが、生憎てめぇ見たいに恩着せがましく企みのある危険な奴には、仇で返しても良いって言うのが俺らの暗黙のルールなんだぜ」
俺の皮肉に不知火はあっけらかんと答える。
この態度からも、不知火にとってその組織を抜けると言うのは、大したことじゃないと言うのが分かる。
もう一つ確実に分かることがある。
不知火は、俺達に脅しと警告を含めて言っているのだ。
僕は、此くらい強いんだぞと。
今の不知火には、出来るだけ手を出さない方がいい。
強さが、今までよりも、分からなくなった。
真正面から戦ったら間違いなく三人でも負ける。
「何が目的だ」
兎に角、今は情報だ。
向こうが余裕こいてべらべら喋ってくれれば、何かしら勝つとまでは、行かなくても切り抜けられるヒントはある筈だ。
「目的………目的か……うん。難しい所だね。僕も君も前に比べて何もかも変わったら。変わりすぎた」
「「「!?」」」
いつの間にか、不知火は、俺達の背後にいた。
いつ、後ろに回った。
ジャキジャキ!
エルと菊代が其々銃を構え何時でも撃てる体制に入る。
武器らしい武器は持っていない俺は、何時でも秋水を乗せた蹴りを放てるようにする。
だが、戦わない。
隙を付いて逃げる。
その為の構え。
菊代とエルなら、担いで海を泳いで逃げ切れるだろう。
逃げるが勝ちだ。
「ちょっとしたおふざけじゃないか」
両手を上げて降参のポーズを不知火が取るが、俺達は小さく一、二歩下がり何時でも逃げれる様にする。
不知火は、あぁそうそうと思いましたように此方に表情の隠れた、一つ目の青い目の仮面で此方を見て
「遠山く……いや、●●●● ●●●君。アリアに気を付けたまえ。二つのに意味でね」
「ッ!」
ザザッと耳に又ノイズの用な物が流れ痛みに顔をしかめる。
不知火が其処を見逃す筈もなく、しかめた俺を見てからおぉと、感心したように
「“違和感”は感じている用だね。では、引き続きアリア君の“容姿”と“声”に気を付けて」
「なっ―――何で其を」
「其と、0課潰しの次いでに次配属される人達の候補と、関係者も潰しておいた。暫くは日本で好きに動ける。其だけ、
「ま、待ちな不知火あんたに聞きたい事が――」
菊代の声も空しく不知火の姿は、まるで最初から居なかったかの様に音も無く消えた。
「トウヤマ………彼はいったい」
「分からん。ただ一つ言えるとすれば」
呆然と不知火のいた方を見つめて動かないエルに向けて静かに
「恩着せがましい、観客気取りの道化だと言うことだけだ」
俺は、そう言った。
その時ヒラヒラと、上空から、此方を目掛けて何かが、降って来る。
「何だこれ……?」
パシッと、手に取ると其は茶色い封筒だった。
ビリッと破き中の手紙らしき紙を広げると
『遠山金次君へ
この度は、ご注文ありがとうなのだ!
ご注文された“超合金ワイヤーネットサークル”(恐らく、目の前のバカデカイサッカーゴールの事だろう)の製作費用として、1500万を下記の講座に振り込んで置いて欲しいのだ。
何時でも、ウェルカムなのだ!
平賀文より』
見ようによっては高いのだろうか?安いのだろうか?この値段
其を、多分会った事もないし、聞いたこともない一言で言えば、多分面識の無い名前の差出人だが、
多分同級生――――からの請求書だった。
俺が…………払うの?
付け加える。
不知火は、ドケチな道化だ。
手柄にするんじゃなかったよ。
―――――だが、俺達は後に、渡されたこの一枚の写真が俺達にとっての“パンドラの箱”になるなんて、まだ思ってもいなかった。
次でエピローグでやっと二巻へと行ける予定………てか行かないとですね。はい。