明くる日。
朝の登校時間、楽は集と歩きながら話している。
「いや~万里花ちゃんのここ数日の破壊力はやばいね~。元々おまえの周りはかわいい子ばっかりだったけど、その中でも群を抜いてきたね。いやはやたまらない!」
「おまえな・・・いや、でもまあ・・・」
「まあ?お?何か言いたげだね楽くん?」
集のいつもの煽り。明らかに顔が怪訝になる楽。顔は赤らんでいる。
「(このやろう・・・)か、かわいいのは、認める・・・。」
珍しく素直に意見を口にする楽。
それを聞いてますますにやつく集。
「おお~~?俺にそんな真面目なトーンで人のことをかわいいって言ったの、小野寺以来だね~!こりゃあいよいよ・・・?」
「ば、ばかやろう!そんなことは・・・」
いつもに比べて反論に勢いがない楽。
「(考えてみれば・・・今までこんな真剣に考えた上でかわいいって言葉を口にしたのは、確かに小野寺だけだった・・・
他の子だってもちろんかわいいし、良い子だし、ドキッとしたことはあったけど、ノリで本人に軽くかわいいって言っただけだったしな・・・)」
その時点で世の男性の9割5分は敵に回していることに気付いてくれ、楽。
「・・・おまえが小野寺のこと好きなのは十分分かってる。
でも、前にも言ったけど、別に気持ちが変わったってなんにもおかしくないし、なんにも悪いことじゃないんだよ。
だから、さ。今は気楽に構えてればいいんじゃないか?それで気持ちが変わらなければそれまでだし、変わったらそのときはそのとき!どっちにしろ応援してやるよ~♪」
「・・・それもそうだな。集、ありがと・・・な・・・何をしてる?」
よく見ると、真面目に話しつつも楽の表情を観察しながらものすごい勢いでメモをとっている集。
「ん?いや~この場にるりちゃんが居たら後でこの件について話し合えると思ったんだけどさ、基本的に小野寺と一緒にいるからおまえの話を聞けないじゃん?だから敢えておまえと二人で話して、その内容を後でるりちゃんに伝えて面白おかしく話そうと思って♪」
極めて爽やかな笑顔で喋る集。罪の意識0である。
首を傾げて顔中に血管を浮かび上がらせながらぴくぴくしている楽。
「ほう・・・なんとまあ仲の良いことで・・・
てめえこのやろーーー!!」
「はっはっはー楽しく見守らせてもらうよーーーーー♪」
朝から全力疾走での追いかけっこをする二人。
「ママー、あの人たちなにー?」
「しっ、見ちゃいけません!」
周りの視線は冷たい。
そして学校。
「おはよう一条くん!」
「おはようダーリン」
「おう、おはよう」
いつものように隣の千棘と小野寺に挨拶をする。
だが、しばらく経って違和感を覚えた。
「あれ・・・橘がいない・・・?」
昨日までの猛攻が心に根強く残っているため、彼女がいない状態にすぐ気付いた。
「どうしたんだあいつ・・・?」
ここで先生が教室に入ってきた。
「おらー席につけおまえらー。HR始めるぞー。
まず連絡なんだが、今日は橘が体調を崩して欠席だそうだ。風邪と聞いた。この頃夏風邪が流行っているようだからみんなも気を付けるようにー。
で、次の連絡だが・・・」
「・・・橘が休み・・・?そうか・・・大丈夫かな・・・」
HRを終え、どこかぼんやりした楽の様子に小野寺が気付く。
「一条くん、大丈夫・・・?どこか具合わるいの?」
「あ、ああ小野寺、なんでもないよ。心配してくれてありがとな。」
しかし楽の浮かない表情は消えない。
「(なんなんだろ、なんか虚しいな・・・。あいつが居ないとにぎやかさに欠けるっつーか、・・・でもそれだけじゃないよな・・・んー、なんなんだろ・・・)」
一方その頃、橘宅。
「うー・・・私としたことが・・・この時期にただの風邪をひいてしまうとはなんたる不覚でしょう・・・!せっかく楽様へのアプローチが功を奏してきましたのに・・・。
・・・会いにいけないのは・・・寂しいですわ・・・楽様・・・。」
ベッドで横になりながら悶々としている橘。
「・・・あーーー!!!会いたいですわ会いたいですわーーーーー!!!」
じばたばし始める。ぬいぐるみがあちらこちらに投げ出されるものの、それを全てキャッチする本田。
「お嬢様、暴れすぎは身体によろしくないかと・・・」
「ううう・・・わかってますわ・・・」
しおしおと小さくなる。おちょぼ口でしょげている。
再び学校。
「・・・やっぱり心配だ・・・。
うーん・・・
・・・よし、決めた!」
「おーい、楽ー。」
「ん、集か。どうした?」
「今日さ、帰りにマックドバーガー寄ってかないか?
むふふ・・・小野寺も来るよ?」
「!(マジか・・・いや・・・でも。)
そうなのか。わりい、今日は行きたいとこがあるから外させてもらうわ。」
「ん、行きたいとこ・・・?」
何かに気付いた集。
「おお~~そうかそうか!それはしょうがないな!
どこに行くかはわかんねえけど、行く前に一旦家に帰ってお粥とか作るのもありかもよ~?
ではでは、どこに行くかはわかんねえけど楽しんで~♪」
「(こ、こいつ・・・完全に分かってやがる・・・)・・・おう。
・・・ありがとな。」
一人学校を出る楽。
「・・・そうだな、お粥の一つでも持って行くか。」
その頃の橘。
「・・・すー、すー・・・」
どうやら寝ているようだ。
「・・・らっくん・・・。」
続く。
本来1話でまとまるかなーと思ったら、意外と長くなりそうなので2話に分けました。今晩中に次話を投稿したいと思います!