楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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鶫。第63話「キンヨウ」(4)

「い、一条楽、この後なんだが…」

楽の背中で、何やら鶫がもじもじとしている。

明らかに様子がおかしい。

「?どうした鶫、お手洗いか?」

「どうしてそうなるっ!!」

どごすっっ

「おぶふぅっ!!」

鶫の強烈な手刀が楽の首を直撃した。

「おふぅっ…」

「まったく…。…こ、この後なんだが…」

「げほっ…。…?まだ行きたい場所があるのか?」

「…そ、その、もうじき夕飯時だろう?わ、私の家に来ないか?ぜひ、私の料理を食べてほしいんだ。」

「(女の子の自宅&手料理だと)」

楽の顔が固まる。

「(ヤヴァイ)」

発音にvが入るくらいの危機感を抱いた。

「…ぜひ、来てほしいんだ」

楽の耳元で、少し甘えるように囁く鶫。

きゅっ、と抱き付く腕に少し力を入れたことで、鶫の顔は更に近くなり、胸がより押し付けられた。

「(あかんとです)」

心の声の方言が、もはや全国各地を飛び回っていた。

「ま、まあ、良いよ」

もはや断れないと悟ったのか、誘いに乗る楽。

「本当か…!?やった…嬉しい…!!」

「おい待てばかあんまりくっつくな。胸がーーー!!!」

「!?あ、す、すまない!」

我慢の限界だったのか、たまらず本音を口に出す楽であった。

 

 

 

その頃。

「…ふう。そこまで手助けをするまでも無くもう帰り道に着いちゃったわね…って、あれ、おんぶしたまま私たちの家に入って行った…?あれ、すぐに出てこない?送るだけじゃないの!?えーーーーー!!?」

双眼鏡で楽と鶫を監視していたポーラが、尋常でない程動揺していた。

 

「お邪魔しまーす…っと」

鶫の部屋に入ると、楽はそっと鶫を下ろした。

「ありがとう。まずは応急処置を…」

そう言って、鶫は救急箱を取り出し、手際よく処置を施した。

「ふう、助かったよ。では早速料理をするから、少し待っててくれ」

「ああ」

鶫はエプロンを取り出すと、手際よく夕飯の準備を始めた。

 

「…鶫…」

「?なんだ?」

「エプロン、似合うな♪」

「!!…あ」

するっ

しゅばっ

すこーーーーんっっっ

「おわぁっ!?あぶねぇ!!」

「す、すまない!」

楽の褒め言葉に動揺して、手を盛大に滑らせた鶫。

その包丁は、楽の耳のすぐ横に見事に突き刺さった。

「どんな手の滑り方だよ…」

「だ、だって急にそんな嬉しいことを言われたら、動揺するだろう…?」

「!…。」

「…。」

二人とも、俯いたまま顔が真っ赤になった。

その後は、鶫は照れ隠しなのか超速で料理をして、あっと言う間に食卓に並べた。

 

数十分後。

「ふー、美味かったー!つぐみ、お前ってやっぱり料理上手いな!良い嫁さんになりそうだな♪…あ」

何気なく、以前ここに初めて訪れたときに、つぐみが振る舞った料理を食べた時と同じことを言った楽。

そのときは、深いことは何も考えていなかったのだが…今のこの状況で同じ言葉を口にしたのは、楽にとっては失敗と言えた。

「そ、そうか…」

鶫は頬を真っ赤に染めながら、手を両手で覆って俯いている。

そして、ゆっくりと顔を上げると、楽の方を向いた。

 

 

「なあ、一条楽、話があるんだ。」

 

 

鶫の真剣な表情に、楽はごくりと息を呑む。

「…!なんだ…?」

「…少し前にな、聞いたのだ。貴様とお嬢の恋人関係が、ニセコイ関係だと言うことを。」

「!!そ、そうなのか…」

鶫にだけは立場上、楽からはずっと言えないでいた。

鶫がそのことを知った後も、楽はその事実を知らなかったのである。

「でもそのことはもう良いのだ。心の整理はついたからな。…そして、これは私の予想なのだが…」

「!…なんだよ?」

楽は得も言われぬ緊張感に包まれる。

 

「貴様は…橘万里花と…恋人の関係…なのだろう?」

 

「!!」

核心を突く言葉だった。

「今日のデートで、改めて確信したんだ。私がどれだけアプローチをしても、貴様はどこかで一線を引いた反応をしていたから…。」

「…そう、か…。そうだよ…俺は今、万里花と付き合ってる。」

「…!!」

楽から改めて告げられたことで、鶫の胸はきゅっと締め付けられる。

「…ちゃんと、言葉にしてくれてありがとう。」

鶫は涙が溢れ出しそうになるのを必死で堪えながら、笑顔で答えた。

「つぐみ…」

そんな鶫の心中が分からぬ筈も無く、楽の心に強烈な痛みが走った。

「…でも、それでも…」

「?」

鶫は凜とした表情で顔を上げた。

 

 

「私は貴様に、伝えたい事がある。」

 

 

「…!!」

楽の心拍数が、一気に上がった。

楽にぐっと近寄る鶫。

「なあ、『楽』…」

「え…!?」

呼び名が変わった。

「以前、『あなた』は言ったな…?」

「!?な…」

二人称も変わる。

楽は、この二つの出来事だけでも、大いに動揺した。

 

「女を捨てた身で、お嬢が幸せならそれで、と言った私に対して、

『…でも、それだけ誰かの為に一生懸命になれる奴なら、お前の事好きになる奴は絶対いると思うぜ?

…じゃあつまり、お前の初コイはまだこれからなわけだ。想像つかねーな。そん時お前ってどんな顔すんだろな』

…と。」

「つぐみ、お前そんな事細かに…」

「…忘れる訳が無いよ。一言一句覚えている。」

「…!」

鶫の言葉で、楽の胸はきゅん、と音を立てた。

そして。

 

「今の私の表情、きちんと見えているか?」

「…?あ、ああ、見えてるけど…」

 

 

 

「…これが、私の『初コイ』の顔だ…。」

 

 

 

「!!!」

幸せなような、切ないような、あらゆる感情を含んだ表情で、それでも優しく笑って、鶫は言った。

「つ、つぐみ…。」

「分かっている。今ここで想いを告げたからと言って、今すぐ私に振り向いてもらえるなんて思ってはいない。だけど、それでも、今の私の気持ちを、あなたに知ってほしかった…。」

そう言って、楽の頬にすっと両手を伸ばす。

「今は…二人きりだ。少しでも良い、ほんの少しでも良いから、私のことを見てくれ…。」

今にも泣き出しそうな表情で鶫が言う。

「お前…」

何故だかは分からない。しかし、楽も泣きになった。

「ふふ、喋っているのは私だぞ。なんであなたまで泣きそうになっているんだ?」

鶫がくすっと笑う。

「だ、だってよ…」

楽の気持ちと立場を考えれば、気持ちを聞いた上で断る以外の選択肢等無い。

それでも、鶫の気持ちを知ってしまって、あまりにも心が揺れた。

それ故、どんな顔をしたら良いのか、どう言葉を紡いだら良いのか、分からずにいた。

「ふふ…あなたは本当に優しいな。でも、私はだからこそ…あなたのことが好きになったんだ。」

「つぐ…んんっ!?」

鶫は、楽の顔を引き寄せ、優しく唇を重ねた。

一瞬の静寂。

二人は互いに目を瞑っていた。

あまりに多くのことが頭の中を巡り、何を考えていたかも思い出せない。

そして、数秒後。

「…ぷはっ」

鶫はゆっくりと、唇を離した。

「…はっ、はっ、はっ…な、なんで急に…」

楽はいやがるなどせず、ただただ戸惑っていた。

「ふふ、少しでもあなたの心に爪痕を残したくてな。

…私の、はじめてだぞ?」

鶫は、頬を赤らめながらにっこりと微笑んだ。

「…!!」

ぼしゅっ、と楽の顔から湯気が噴き出した。

 

楽の頭がパンクしてるのにも構わず、鶫はもう一度顔をずいっと近付ける。

「なあ、楽…もう一度、良いか…?」

「なっ!?ば、ばかっ!…んっ…」

楽の言葉を遮り、鶫はもう一度唇を重ねる。

「んむっ、ふむぅっ、んんっ、んっ…んんっ…」

今度は、ゆっくりと舌を楽の口内に入れ、互いの唾液を交換し合う。

先程の口付けは数秒で終わったが、今度は数分にも及んだ。

鶫が楽に覆いかぶさるようにして抱き付く体勢。

鶫はその細い指を楽の指に絡め、気付くと二人は両手を重ねていた。

 

「…ぷはっ!!…はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

楽は顔を真っ赤にしながら、下から鶫を見つめる。

「ふふ…どうしたんだ?私より初心な反応をして…♪」

鶫は楽しそうに楽をからかう。

「お、おまえなあ…」

楽は悔しそうに言った。

 

「なあ、まだ時間は19時を回ったばかりだぞ…?夜は、まだこれからだから…」

鶫は誘うような言葉をかけ、もう一度、ゆっくりと楽に覆いかぶさる。

「(…は、恥ずかしい…死ぬほど恥ずかしい…!!でも、これくらいやれば、きっと…!!)」

内心、平気な筈は無かった。

しかしそれでも、必死だった。

「なあ…楽…どうだ…?」

「…!!」

鶫は妖しく微笑み、楽の頬に手を伸ばしゆっくりとさする。

 

 

 

カチッ

 

 

 

そのとき、楽の中で何かのスイッチが入った。

「…つぐみ」

「え?」

「あんまり、調子に乗るなよ…!!」

「え、え、急にどうしたんだ…!?」

突然雰囲気が変わった楽に、恐怖にも似た戸惑いを覚える。

「なあ、楽、どうし…んむぅっ!?」

楽は鶫の下になったまま、目の前まで寄って来ていた鶫を引き寄せ、口付けをした。

左手は鶫の後頭部に回し、右手は背中に回す。

抱き締めて、決して逃さないようにするためだった。

舌を鶫の口内にねじ込み、舌を絡ませ、壁中を舐め回す。

「んむぅっ!?んっ、ふぐっ、んむっ、んんんんっ…んあっ、んむぅぅぅっ…!」

鶫のくぐもった甘い声が、室内に響き渡る。

数分程舐り尽くした後、くるりと回って、今度は楽が上になった。

「もう一度だ…」

「んむぅっ!?んあぅ、んん、んむぅ…!!」

再び唇を奪う。

今度は楽が上になっている分、より能動的に鶫の口内を犯す。

その行為は、数分に及んだ。

 

「…ぷはっ、あ、うぁ…んぁぁ…」

唇を放すと、既に鶫の顔は蕩けきっており、抵抗など出来ない状態になっていた。

「誘ったのはおまえだからな…?」

「…あ…うぁっ…」

そう言って、楽は鶫の両胸に手を伸ばす。

そして、ゆっくりと手を添えると、大きく握り込んだ。

「んああああっ!!!」

その瞬間、鶫は背筋を大きく反らせ、びくっと飛び跳ねた。

「…手加減なんて、しねえからな…」

「…ひっ、ひぁっ…」

楽の冷たい目と冷ややかな言葉に、鶫は背中にぞくぞくとしたものが駆け抜けるのを感じた。

 

 

 

続く。

 




考えたくだりが多すぎて、デート一つでえらい字数になりましたw

次話はエロの方に掲載します。めっちゃ書きかくてしょうがなかった()頑張ってエロくします()


それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!

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