キーンコーンカーンコーン
4限終了のチャイムが鳴った。昼休みだ。
「どれ、昼飯だな。」
楽は自作の弁当を取り出す。
そこに千棘や小野寺、続いてるりや鶫、集が続々と集まってくる。いつもの昼休みだ。
「わ~千棘ちゃんのお弁当、相変わらず豪華でおいしそう・・・」
「そう?ありがと!」
「るりちゃ~ん俺にあ~んしてよ~」
「踏まれたいのかしら・・・?」
「いけず~。じゃあ桐崎さんの豪華な弁当をぜひあ~・・・」
「舞子集・・・貴様・・・お嬢に何を要求している・・・?」
「冗談冗談冗談です。銃をおろして~」
・・・いつもの昼休みだ。
そこに飛び込むように彼女がやってくる。
「楽様~!私の愛を受け取ってくださいまし~!」
どどどどど
ばきっ
「ぐはっ!?」
「え、ちょっ、ダーリン!?ちょっと万里花!」
「あら桐崎さん、いらしたんですの?」
「お~の~れ~は~・・・!!」
髪を逆立て血管が顔中に浮かび上がる千棘。
「ゴリラのことなど放っておいて、楽様、ぜひ私の弁当をご賞味くださいまし♪」
どんっ
どどんっ
どどどんっ
机に置かれたのは見事なお重。とても学校で食べる弁当には見えない。
「ええええ!?すごーい!!」
弁当の豪華さに驚く一同。
「全部私が一人で作りましたのよ♪
さあさあ楽様、どうぞ!」
「(誰とは言わないが見た目だけということもあるから安心はできないな・・・)お、おう・・・では一口」
ぱくっ
「!!うまー!!!!」
「よかったですわ♪」
「すげーうまい!!橘、おまえ本当にこれを一人で・・・!?」
「それはもう!うふふ、楽様によろこんで頂けてうれしいです♪」
橘の弁当に一同の目が行っている中、るりは一人考えている。
「橘さん、いつも通りね・・・。朝の橘さんはなんだったのかしら・・・?」
一方、楽の心中は
「本当にすげーうまい・・・感動もんだ・・・
・・・しかし、橘のあの朝の雰囲気は今はさっぱり無いな。いつもの橘だ。まあ今はみんなもいるしそんな頻繁には・・・」
「楽様」
「?」
「あーん♪」
ぱくっ
「!!」
顔を赤らめる楽。
「お、おまえなあ・・・」
戸惑いが隠せない。
しかしここまでならいつものことと言える範囲だったので、周りはある程度落ち着いていた(小野寺を除く)。
だが、この矢先。
橘が顔を楽の顔にすっと近付ける。距離がまたしても近い。
そして
「らっくん、おいしい・・・?」
今まで見たことがない程穏やかな笑顔。甘えたように首少しだけを傾げている。
「・・・!!!」
楽、再び顔から湯気が爆発。
「(なななななんだその笑顔はーーーー!!!今まで見たことないぞそんな表情。理性がもってなかったら窓を開けてかわいいいって叫んじまいそうだ・・・!!
っていうかその呼び名と標準語でタメ口だとおおおずるいだろーーー!!??)」
言葉が何も出ない楽。
瞬間、横がやたら熱いことに気付く。千棘が燃えている。
「なーーにーーをーーイチャついてんだこーのバカもやしがーーーーーー!!!!!」
ばきばきばきばきばきっ
「ぎゃあああああああ!!!」
隣の校舎まで貫通して行った。
「あらあら、桐崎さんったら乱暴ですわね~。」
「う、うるさい!だ、大体あんたもなんで急に・・・!」
動揺を隠せない千棘。橘の様子がいつもと違ったことに気付き、焦りや嫉妬など様々な感情がごちゃまぜになって混乱していた。
「あら、恋は攻めあるのみですわよ。今回もこのやり方を思い付いたから即座に試しただけですわ♪手応えがある限り続けて・・・これで楽様を攻め落としてみせますわーおーっほっほっほ!!」
「く、くう・・・!」
千棘の表情は敗北感に包まれている。
この会話を聞いているるりと集がひそひそ話している。
「どういう感じでくるのかなあって思ったら、こんな狙いすまして来るんだねえ。こりゃあ楽もいよいよもって・・・」
「うーん・・・朝に引き続きこの雰囲気・・・一条くんもまんざらじゃないようだし・・・これは本当に小咲に・・・ん、小咲?」
ふとるりが横を見ると、小咲が椅子に寄りかかって落書き状態になっている。
「・・・高校受験で落ちたとき以来見てないわよ、小咲の落書き状態・・・。よっぽどショックだったのね」
「ライバルがものっすごい速さで追い抜いて行ったようなもんだしねえ。おや、鶫ちゃんは・・・」
集が千棘の脇を見ると、鶫が顔を真っ赤にして湯気を顔から出したまま固まっている。何故か楽より反応が激しい。
「・・・楽へのアプローチにもなるし、周りへの宣戦布告にもなって一石二鳥だったのかな・・・」
「・・・悔しいけどそうなるわね・・・。」
ここで二人が気付く。橘がするりと居なくなっている。
「あれ・・・?」
一方その頃、楽はと言うと。
体育館の壁に突き刺さっていた。
シュー・・・パラパラパラ・・・
「いってえ・・・あのゴリラ女め・・・。
しかし橘かわいかったな・・・まさかあんな不意打ちで来るとは・・・。まーだ心臓がばくばく言ってやがる・・・。
・・・誰か・・・壁から抜いてくれねえかなあ・・・。」
壁に刺さった楽を訝しげに見ながら通り過ぎる生徒たち。それもそうだろう。
楽が途方に暮れていると
「よい、しょ・・・っと!」
「お、お、おお?」
楽が壁から引っこ抜かれた。助けてくれた人を見ると橘が立っていた。
「橘・・・!助けに来てくれたのか・・・ありがとう。」
「えっへん!楽様の伴侶たるものこのくらいは当たり前ですわ!
・・・あら、どうしましたの?」
「・・・いや・・・なんでもない・・・。ありがとな。」
赤面する楽。
「(どうしたんだ俺・・・伴侶って言葉自体は聞き慣れてるはずなのに・・・!いやそれはそれでおかしいけど・・・!今こいつを見るとやたら意識しちまうっつうか・・・!)」
と葛藤していると、ふと橘の様子に目が行った。
よく見ると息が切れているのを必死にごまかしている。
無理もない。教室から体育館まで100m以上あるにも関わらず、橘は全力で走ってきた以外考えられない時間で駆け付けてきたのだから。
「橘・・・おまえ・・・息・・・」
「(・・・ハッ・・・ハッ・・・)あ、ああ息ですか?気にしないでくださいまし♪」
橘はにこやかに微笑んだ。
「・・・ありがとな。」
「はい♪」
キーンコーンカーンコーン
「あ、やばいチャイムだ!行こう!」
「はい!」
「うふふ・・・お昼休みを有効活用できましたわ・・・♪この調子で行けば・・・ぐふふ・・・あ、いけませんわ、ついよだれが・・・」
「お嬢様、よだれはさすがに・・・」
本田がいつの間にか並走して話しかけてきた。
「わかってるわよ!」
なんとか教室に戻った二人。午後の授業が始まる。
続く。
ここからは適宜他の場所にも移して行こうかと思います。
マンガの中にある単発のエピソードでも「マリーにもっとスポットが当たったら」という風に考えて書いて行きます!
よろしければこの後もぜひご覧頂ければと思います。