鶫が喫茶店の窓から見付けたもの。
それは、集とるりが仲睦まじく(?)歩いているところだった。
千棘と小野寺は、慌てたように二人の位置を確認しようとする。
表情は、真剣なような、にやけたような、何とも言えない顔をしていた。
「(ど、どこどこ!?)」
「(あ、あそこです!通りの向かいの、あの本屋の前…ほら、今談笑してます!)」
「(ほ、ほんとだ!るりちゃんと舞子君、こっちまで来てたんだ…わーわーわー!どうしよう、気持が舞い上がっちゃって…!!)」
店の中にいるため、本来ならそんな必要は無いのだが、何故か小声でごにょごにょと話す3人。
「(あ、二人が横断歩道を渡って…ど、どうしよう、こっちに来たよ!?)」
「(邪魔しちゃ悪いわよね…ばれないようにしないと!大丈夫よ、自然に振る舞ってればかえってばれやしないわ!)」
「(そうですねお嬢!では、自然に、自然に、自然に…!)」
こう言うとき、しっかりとテンパる面々。
自然に、と言っておきながら急に、まるで貴族のティータイムであるかのように上品に振る舞い始めた。
…会話が聞こえずとも、少し遠くから眺めているだけで楽しめるくらいには、3人の表情は豊かであった。
「…それでね、そのときにあの本を読んで…あら?」
「どうしたのーるりちゃん?」
「あれ…」
るりがふと店の窓に目をやると、見慣れた制服姿が。
この街では見かけることがまず無い、自分たちの学校の制服である。
目線を上にやり、その制服を着た面々を確認すると、るりはため息を漏らした。
「…何してんのかしら、小咲たち…。あれでバレてないと思ってるのかしら?」
るりが呆れたように窓を一瞥し、集と目を合わせる。
集がるりの見ていた場所に目をやると、3人とも『私たち、優雅にお茶を楽しんでいるんです。2人のことになんて気付いていませんよ?』と言っているかのような振る舞いをしていた。
…集とるりを、不自然な程にちらちらと見ながら。
「見てるだけで面白いね~♬」
バレバレである。
「…あれ、冷や汗じゃない?」
るりの指摘通り、3人はるりと集が近付けば近付く程、溢れんばかりの冷や汗を流していた。
3人は集とるりにまだバレてないと思っているのか、引き続き上品な振る舞いを続けている。
千棘に至っては生まれてこの方一度もやったことのない、『おっほっほ!』と言う笑い声まで上げている。
店内も、ざわついていた。
時と場合と、時代と、自分のキャラをどう鑑みたのか、キャラの完全なるチョイスミスだった。
「ちょっと挨拶でもしてく?」
「…そうね」
そう言うと、二人は喫茶店に入って行った。
からんからーん…
「あれ?」
小野寺が、素っ頓狂な声を上げた。
「いらっしゃいませー♪」
集とるりが店内に入って来て、3人は呆気にとられる。
二人が店員に話したかと思うと、3人の方を指差し、そのまま向かって来た。
3人が目を丸くしたまま固まっていると、集とるりが3人の前にやってくる。
「やっほー♪こんなところで会うもんなんだねー♪」
「偶然会うのは良いとして…3人とも、なんであんな不自然な振る舞い方をしてた訳…?」
…ばれてた。
3人は互いに目を合わせると、ばつの悪そうな顔をした。
「あ、まさか2人を見付けるとは思わなくて…それで、ばれたら2人のことだから気にかけてくれて、それで時間をとっちゃってデートの邪魔になるかなって思ったんだ」
「なるほどね~。でも、そんなこと気にしなくてもいいのに♪」
集が飄々と言ってのけたことで、3人は安堵の表情を見せた。
「そうよ、そんなこと気にしなくて良いのに。大体、別にこれはデートじゃないわよ。舞子君が新しく出来たスイーツの店に行かないかって言うから、仕方なく来ただけで…なによ?」
るりは途中で気付いた。
るり以外の4人が、何とも言えない顔をしていることに。
鈍感3人衆と言えど、流石に呆れたようである。
「(小咲ちゃん…)」
「(なに、千棘ちゃん?)」
「(るりちゃんは…私と同じタイプってことかしら…?)」
「(うーん…ベクトルはちがうけど、『ツンデレ』って言う括りでは同じだと思うな…)」
「(へえ…そうなんですね…)」
「…そこ、聞こえてるわよ」
るりが背後に禍々しいオーラを漂わせながら、目を光らせて言った。
「はっ、はいいいい!!!」
るりの言葉に反応して、3人がびくんっ!と跳ね上がる。
「まーまー!もーるりちゃんてば、そんなに怒んなくていいでしょー?」
集が仲裁に入る。
「それに…いくら恥ずかしいからって、デートって言葉まで否定しなくても…」
少ししゅんとした顔をして、俯く集。
それを見て、るりは慌てだした。
「あ、舞子君、ごめんなさい、そんなつもりじゃ…」
おろおろと慌てるるり。
千棘と鶫はもちろん、小野寺も初めて見る光景であった。
「「「(か…かわいい…)」」」
3人の感想は見事に一致した。
そんなるりの様子を、声の調子から察する集。
俯きながら、目をキュピーンと光らせ、口角を思い切り上げた。
「…なーんちゃって!これくらい、ツンデレのるりちゃんなら言うだろうって思ってたから大丈夫だよー!二人でいるときなら、たまにだけど『好き』って言ってくれるもがっ!?」
「ちょっと黙ってなさい…!!」
集の言葉を遮るように、るりが集の顎を鷲掴みにして、ぎりぎりと力を入れて握りこむ。
「もが…る、るりちゃん、顎、折れるってか砕ける…ご飯食べられなくなる…」
大きく仰け反りながら、集がもがく。
「ま、まーまー!ところで、二人は今からそこに向かうの!?」
千棘が慌てて止めに入った。
「そうよ」
千棘の言葉を聞いて、集を鷲掴みにしていた手を放するり。
「いてて…危うく下あごとおさらばするところだっ…あ、すいません、何でもないです」
るりの眼光に気付き、集が言葉を止める。
「あはは…舞子君、尻にしかれてるね」
小野寺が苦笑いしながら言った。
「!?ちょっと、小咲!?」
こう言う話はひたすら恥ずかしいのか、小野寺の言葉に思い切り反応するるり。
「まー、皆の前ではね♪二人きりのときはちょくちょく甘えておげぐっ!?」
るりの、容赦ないリバーブローが集に突き刺さる。
「…まったく…」
悶絶する集をよそに、ぱんぱんと手を払いながらるりが呟く。
「お二人は仲が良いんですね!」
鶫がその光景を見て、屈託の無い笑顔で言った。
「…!」
「せ、誠士郎ちゃん…これ以上は、俺が死んじゃうから…」
「…あ」
鶫の言葉で顔を赤くして、八つ当たりの為に拳を握るるり。
るりの行動に気付き、制止にかかる集。
そして、二人の状況に気付き俯く鶫。
「「「「「…」」」」」
瞬間的に、5人全員が黙った。
…仲はすごく良いのだが。どうしてこうなったのか。
「それじゃ、俺らはそろそろ行くね?注文しないで居座るのも悪いし」
集が切り出したことで、やっと場の空気が動き出した。
「あ、い、行ってらっしゃい!楽しんで来てね♪」
小野寺が若干不自然に笑顔で言った。
「…行ってきます」
とてもデートの途中とは思えない表情を浮かべながら、るりは集と共に店を出た。
からんからーん…
「…」
二人が去った後、3人は少しの間俯いていた。
「…私たち、悪いことしちゃったかな?」
「ううん、そんなことないと思うよ。るりちゃん、照れちゃってるんだと思うんだ。本当に舞子君のこと好きじゃなかったら、付き合ったりしないはずだしね」
「そう、だよね。よかった!♪」
「…つ、付き合うと、先程の宮本様のような、今まで見せなかった、その、かわいらしい一面が出たりするのでしょうか…?」
鶫がふと切り出した。
「そ、そうなのかもね。…ら、楽と付き合えたら…」
「一条君…」
「一条楽…」
…。
ぼしゅうううっっっ
3人がそれぞれに楽の名を呟いた後、一瞬の間を置いて、3人同時に湯気を噴き出すのであった。
一方その頃。
集とるりは、目的のスイーツの店に辿り着いていた。
「へ~、綺麗なお店ね…」
「そうでしょ?さ、ここで美味しいものを食べて機嫌直してよ♪」
「な、べ、別に私は…あっ」
集の言葉に、るりはほんのり頬を赤らめて、目を背けた。
しかし、そんなるりの手を集が引っ張ったと思うと、そのまま店の中に入って行った。
からんからーん…
「いらっしゃいませー♪お二人様ですか?…」
集が店員と話している間、るりはずっと、集と繋いでいる手を見つめていた。
「(こ、こんなことされたら…緊張して話せないじゃないのよ…)」
こんな風に思っていると。
「るりちゃん、あそこの席に行こう」
「うえっ!?あ、ええ…」
「?どうしたの?」
「な、なんでもないわ…」
過敏に反応した自分が、猛烈に恥ずかしくなるるりであった。
「お待たせしましたー♪当店お勧めの、チーズタルトでございまーす♪」
「…おお…」
るりの表情が、ぱっと見では分からないのだが、ぱぁっと明るくなった。
そんなるりを見て、集がにこやかに微笑む。
「るりちゃんが美味しそうなものを見たときの表情、好きなんだ」
「!?な、なんで、そんな…」
照れてすぐに否定しようとしたのだが、集が真剣な目つきで褒めてくるため、語尾が弱々しくなった。
どうも、彼のこの表情には弱い…。
るりは、集と接してこの表情を見る度に、胸の高鳴りを止められないでいた。
「い、頂きます!」
恥ずかしさを振り払うかのように、いつもより元気に手を合わせる。
「ぱくっ、もぐもぐ…。…!」
るりの目が、キラッと輝いた。
その表情を見て、集がにこやかに微笑む。
「おいしい?」
「ええ、とっても」
溢れ出る感情を抑えたような返事をするるり。
それを見た集は、じれったい気持ちになってしまう。
「も〜♪みんな居ないんだから、そんなに照れなくてもいいんだよ!」
「…だって…」
集の言葉に対して、俯いて歯切れ悪く言葉を紡ぐるり。
「だって?」
「…あなたが、見ているじゃない…」
「…!!」
顔を真っ赤にしながら、集の顔をちらりと見た。
俯いている状態から目線だけ動かしたため、自然と上目遣いになる。
きゅーーーーーん
そんなるりの言葉と仕草に、集はハートを見事に撃ち抜かれたのだった。
「…超どきっとした。」
「な!?そ、そんな…ウソつかないでよ」
「本当だって。俺の胸すげえどきどきしてるから触ってみて、ほら♪」
「!!?ちょ、ちょっと、こんな店の中で…!!」
集がるりの手を引っ張り、自らの胸に当てようとする。
それに反応して、がたっ、と大きな音を立てて立ち上がるるり。
「ははは…るりちゃんの方がよっぽど目立ってるよ?」
「!」
るりが気付くと、周りからひそひそ声が聞こえて来た。
『あそこの高校生カップル…かわいいね…初々しい♡』
『ねー!ああ、女の子が顔真っ赤にしてるわよ…かーわいい♡』
そんな声が聞こえてきた。
「…!!」
そんな言葉を聞いて、るりは顔を益々真っ赤にして座った。
「はは、ごめんね♪困らせちゃって♪」
「まったく…あ、あなたって人は…」
るりはそう言うと、眉をしかめて集を睨んだ。
「もー、そんなに睨まないでよ♪…俺、るりちゃんにもっと笑ってほしいな。」
「な、え、ええっ!?」
「だって、いつも照れ隠しやらなんやらで怒ってばっかりでしょ?すごく綺麗な顔をしてるんだから、もっと笑ってほしいんだ。…だめ、かな?」
「…。」
るりは戸惑いながら、俯いている。
真剣に褒められた上に、彼女にとっては本当に恥ずかしいリクエストをされたのだから、反応に困っても仕方がない状況ではあった。
「(…こりゃ、中々時間がかかるかな…。本当に綺麗なのにな…)」
集がそんな風に思っていると、るりが意を決したように顔を上げた。
「…集、君…。」
「…え?」
突然名前で呼ばれ、集は呆気にとられる。
そして。
「…♪」
次の瞬間、るりはにこっ、と微笑んだ。
少しぎこちなくはあったが、それでも、今彼女が出来る最大級の笑顔だった。
「はうわっ!!!」
がたがたがたっ
どさっ
「?ちょ、集…舞子君!?」
集は大声を上げて椅子から崩れ落ちた。
るりは慌てて駆け寄ったが、名前を呼ぶのは一度が限界だったのだろうか。
咄嗟に呼んだ呼び名すら、慌てて訂正した。
「…い、今、俺のこと名前で…しかも…笑顔…や、やばい、るりちゃん…かわいすぎ…好きだ…愛してるよ…」
まるでうわ言のように、喜びの言葉とるりへの好意を口にする集。
予想外に次ぐ予想外で、いつも飄々とした集でも大ダメージを受けたようだった。
この場合のダメージは、喜びのダメージなのだが。
「…!!!!」
集の言葉を聞いて、顔から湯気を噴き出しそうになるるり。
そんなるりの様子に構わず、集は言葉を続ける。
「…今のは…本当にやばい…一生忘れない…も、もう一回、もう一回名前で呼んで笑って!お願い!」
「!!だ、だめよ、どれだけ恥ずかしかったと思ってるのよ!名前で呼ぶのも当然無し!!」
「そんなー!!」
周りのひそひそ声にも構わず、仲良くやりとりをする集とるりであった。
「くそー…キス責めにしたら、また言ってくれるかな…」
「ちょっと!?そう言うのはあなたの心の中で考えなさいよ!?」
…本当に、仲の良い二人である。
そんなこんなで、次の金曜からの3日間は、楽・万里花・鶫・小野寺・千棘にとって、激動の3日感となりそうである。
1番手、鶫誠士郎、Gカップ。
「おい!!その情報、要るのか!?」
天の声にツッコミを入れる鶫であった。
続く。
最初の頃にこの二人のことをちょっと書いて(ダブルデートの辺りまでですね)、その後時間を置いてまた書き始めた訳ですが…これめっちゃ楽しいんですけどどうしましょう← るりがかわいくて仕方ないです。
次からはいよいよデート(?)3連チャンです。当然ながらエロにも行きますので←、両方チェックして頂ければと思います(^^)
あと、3月3日に向けて、お話をこれから書きます。甘々にしたります←
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!