楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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第52話「カンサツ」

ある日の昼休み。

 

万里花は、少し離れたところで楽の様子を、いや、正確には、その周りにいる3人の少女の様子を観察していた。

千棘と、小野寺と、鶫。

この3人の動きが、最近、怪しい。

万里花は全力で疑っていた。

 

じー…

 

「ねえ楽、今度の日曜の定期デートなんだけど、いつもの場所じゃなくてちょっと遠くまで行ってみない?」

「え?あ、ああ、別にいいけど…」

「やったー!詳細は当日のお楽しみってことでー♪」

「お、おう…(な、なんか視線を感じる…)」

 

じじー…

 

「い、一条君、今度の土曜なんだけど、またアルバイトに来てもらえないかな?」

「え?(確かその日は、万里花が用事あるっつってたな…なら大丈夫か)大丈夫だよ」

「あ、ありがとう!それで、その…夜まで、空いてるかな?晩御飯食べて行ってくれると、お母さんや春も喜ぶんだけど…あ、いや、私も…その、嬉しいんだけど…」

「(うおおお…!?)あ、えーと…(!視線の主は万里花か…なんだあの観察するような目はー!?でも、別に用事は入ってねえし…)じゃ、じゃあ、頂こうか、な?」

「…!やった…!ありがとう♪」

 

じじじー…

 

「一条楽…その、今週の金曜日の放課後、空いてないか?おまえにお願いしたいことがあるんだ(うう、一緒に買い物したいだなんて直接的に言えない…!)」

「え?(あ、今日の放課後は万里花はお父さんのとこで用事があるっつってたな…)まあ、別にいいけど…」

「ほ、本当か?やったーーー!!!…あ、こほん、では、よろしくな」

「あ、ああ…(うわあああ視線が強くなってる気がするううう!?)…あれ、何で俺の手を握って…?」

「え…ほわあああ!?ち、ち、ちがうんだ、これは、つ、つい、じゃなくて…!!」

 

 

…。

 

 

「(むむむ…やっぱり、桐崎さんも、小野寺さんも、鶫さんも、今までと明らかに態度が違いますわね。何があったのかは知りませんが、まるで3人でチームを組んでらっくんにアプローチしているかのよう、と言うより、確実にアプローチしていますわね…。…ここは一つ、もう少し煽ってみますか。…そーっと…。)」

万里花は何かを決意したと思ったら、席をそっと立ち、楽に気付かれぬように真後ろから近付く。

そして。

 

「ら・く・さ・ま~…♡」

甘い声で楽の名を呼びながら、後ろから突然、耳元へ息を吹きかけた。

「おひやっ!!?」

よほど驚いたのか、訳の分からない声を出す楽。

「お冷って何よ…水でも欲しいわけ?」

すかさず千棘のツッコミが入る。

「まま、万里花!びっくりさせんなよ!」

まだ心臓がばくばく言ったまま、万里花の方を向く。

「あらー♪よいではありませんか~♪皆さんと話しながらでいいですから、私とべたべたしてくださいまし~♡」

「こ、こら、おまえなあ…!」

万里花は3人になるべく見せつけるように、楽にべたつき始める。

 

ちなみにこのとき。

5人から少し離れたところで、るりと集が様子を見守っていた。

「小咲…がんばってるわね…あれ、橘さんが来た…あら、なんか急に攻めて…」

万里花が楽にべたついてきた所で、るりが一瞬固まる。

そして、色々な感情が混ざり集に見せたくないと思ったのか、突然集の目を右手でメガネごと押さえつけた。

「あだだだ!?る、るりちゃん!?なんでー!?」

「教育上、倫理上、その他諸々の理由からよ…」

「あだだだだ!!」

とんだとばっちりである。

 

視点が戻ると。

「えへへ…らっくん~…らーっくーん…♡」

万里花は、見せつける為と言う目的もあって、いつもは多少(本当に多少だが)抑えていたイチャつきを、猫なで声で全力で楽しんでいた。

楽は困惑するものの、内心では『ああもうくっそかわいい…』としか思えないため、中々振りほどけずにいた。

この状況を見た3人は、当然ながら尋常でない程戸惑う。

「こここ、こらー!!万里花ーー!!!あんた一体何してんのよー!!!」

思わず千棘が叫ぶ。

「あらー?いいではありませんか♪私がやりたいと思うことをして、らっくんが受け入れる。何の問題があるんですの?♪」

「ぬぐぐ…そんなこと…って、ちょっと!?この期に及んで何してんのよ!?」

「ま、万里花、そこは…!!」

万里花は人目も気にせず、楽の首筋を舌でなぞり始めた。

更にその舌は、楽の左耳まで到達し、楽の脳内まで犯しにかかる。

「何って、らっくんの好きなところを舐めてるんですよー?如何ですか、らっくん?♪」

「い、いや、そう言う問題…じゃ…」

万里花の責めに、段々と抵抗する力が削がれて行く楽。

「たたた、橘万里花!!!なぜお前は一条楽のそんなことを知っているのだ!?」

気が動転するだけ動転している鶫が、まくし立てるように問いただす。

「え?…さあ、なんででしょうね~♪」

「んな…!?」

「えーいっ♪」

万里花は責めの手を強める。

楽の耳の穴を、より好き放題に舐り始めた。

更に、3人には見えない角度であるが、さりげなく左手で楽の股間をまさぐっている。

「ちょ、万里…花…本当、に…!(やべえ、もうビンビンに勃っちまってる…!)」

「はわわわ…一条君…!?」

楽の恍惚とした表情を見て、小野寺は言いようのないぞくぞくとしたものが背筋に走るのを感じた。

 

ちなみにこのとき。

「あだだだだだだ!!?るりちゃん、力が強くなってる!!やばい、これ死ぬ!!」

「だってあなた、手を放したら見るでしょ…?」

「いやもうこれは手を放してもしばらく視力戻んないし、頭がんがんしてそれどころじゃなくなるよ!だから放しいだいいだいいだい!!!」

…とんだ、とばっちりである。

 

 

そして。

「う、うう、ううう…!!やーーだーー!!!はーーなーーれーーろーー!!!!!!」

ばきどこどこがすぼこすかっっっ

「うごほおあっ!!?」

見るに見かねた千棘が、全力で楽を殴り飛ばした。

「お、お久しぶりです…がくっ」

討ち死に。

「なるほどなるほど、…なるほど…。」

万里花は一人で、うんうんと頷いていた。

 

 

そして放課後。

この日、楽と小野寺は日直になっていた。

教室での仕事を終えて、職員室へプリントを持って行った帰りの廊下でのこと。

「あはは、そうなんだ!私はね…」

「(ああ、やっぱり小野寺と話すのは今もすげえ楽しいなあ…♪…でも、最近妙に小野寺が積極的だから…なんか万里花に悪くてあんまり乗り切れないんだよな…申し訳ねえな…二人に。)」

楽は、そんな風に考えていた。

 

そうこうしている内に、二人は教室へ着いた。

「一条君…お昼休みで言った、アルバイトのときのことなんだけど…」

「ああ、どうした?」

「晩御飯の後、そ、その、もし良ければだけど…と、泊まっていかない?」

「うおえ!!?」

小野寺からのまさかの発案に、楽は飛び上がる程驚く。

言った小野寺本人も、尋常でない覚悟が必要だったのだろう。顔を真っ赤にしながら、しかし顔だけは逸らさぬように、何とか楽の目を見ながら話し始める。

「あ、いや、そのね!?お母さんや春も、もっと一条君とお話してみたいって前々から言ってて…」

「そ、そうなのか…(やべえ、心臓がばくばく言ってら…)」

「で、でも、それ以上に…」

「?それ以上に?」

「わ、私が…もっと、一条君とお話してみたいなーって、思ってるんだ…。」

「!!」

楽の胸がきゅうん、と鳴った。

今は万里花のことを愛している、とは言っても、小野寺に抱く魅力が色褪せる訳ではない。

ましてや、ほんの少し前までは、楽は、この女性にずっと長いこと惚れていたのだ。

そんな状況下で、心が揺らがないはずがない。

「…あ、その…」

楽は断ろうとは思っていたのだが、どう言葉にしたらいいか分からずにいた。

小野寺のあまりに真剣な眼差しに、どう応えていいか、どう答えていいか分からなかったのである。

 

しかし、ここで。

「ふむふむ。中々大胆なお誘いですね~♪よかったら、私も同席させて頂けませんか♪」

「「!!!??」」

二人の間に、万里花がひょっこり現れた。

あまりに突然な出来事に、楽と小野寺は心臓が破裂しそうになる。

「たたた、橘さん…!!?い、今の、聞いてたの…!?」

「ええ、ざっくりですけれど♪小野寺さんのお母様と妹様の名を使いつつ、さりげなく自分の願望を告げると言う二段構えには関心致しましたわ♪」

「そればっちり全部聞いてたよね!?ううう…!!」

散々勇気を振り絞って、恥ずかしさを抑え込んで楽に言ったにも関わらず、それを万里花にも聞かれたと言う事実は、小野寺の羞恥心のキャパシティを溢れさせるのには十分であった。

そんな小野寺の様子を見て、万里花は更に畳み掛ける。

「も~、小野寺さんったら♪お話するだけならもっとお昼にお茶したりするのを何回かやればいいですのに♪わざわざ自分の家に泊めるだなんて…何を、いえ、ナニをするおつもりなんですか~…?♪」

後ろ手に組みながら小野寺を上目遣いで見つめるような角度で近付き、これ以上無い程意地悪な笑顔と言葉で小野寺に詰め寄る。

「はうう…!!い、一条君、橘さん、じゃ、じゃあ、さよならー!!!」

空気に耐え切れなくなったのか、小野寺は超速で荷物を片付け、教室を出ていた。

あまりに飛ばして走ったせいか、彼女が去った後の教室には、若干の埃がしばらくの間舞っていた。

 

 

「ま、万里花、待っててくれたのか…?」

「はい♪でもまさか、少しの間教室を離れている間にあんなことが起きているなんて…らっくん、モテモテですわね♪話し始めた段階で教室の前にはいたんですけども、思わず途中まで聞き入ってしまっていましたわ♪」

「最初から居たのかよ!?ち、茶化すなよ…にしてもなんで小野寺はあんな誘いを…?それに万里花、何もあそこまで畳み掛けなくても良かったんじゃ…?」

「…らっくん、実は、今日の昼休みに後ろからじっと観察していたことも、その後お三方に見せつけるようにイチャついたのも、さっきの小野寺さんとのやりとりにすぐに割って入らなかったのも、全部、あることを検証するためだったんです。」

「え…?」

 

 

「お三方は、前々から、らっくんに想いを寄せていると踏んでいます。」

 

 

「え…えええええ!!?!?!?」

 

楽は人生でベスト(ワースト?)とも言える驚き顔になった。

 

 

「やはりお気付きではありませんでしたか…このまま考えを述べさせてもらいますね?

想いを寄せている、とは言っても、桐崎さんはあんな性格ですから中々好意を言葉や行動で表せず、鶫さんはらっくんと桐崎さんとの関係を気遣い、想いは秘めたまま。そして小野寺さんは、行動に移れないことが多く、移れたときも、中々上手く行かなかった…そんな感じなのだと思います。」

 

「…マジか。」

万里花があまりに真剣な表情で言うため、楽は信じざるを得ない。

 

「先日のデートのとき、3人がそれぞれ仕掛けて来たでしょう?あの辺りから、何かが彼女たちの中で変わったのだと思います。まるで、3人が3人ともお互いの気持ちを告げて、一致団結したかのような…」

女の勘は、鋭い。

 

「そ、そうなのか…」

「ええ、だから…恐らく3人の今のような攻めは、私とらっくんが恋人関係になっていることを知っても止めないと思います。…私自身、らっくんが桐崎さんと恋人関係になっていると思っている状態で、ずっとアプローチしていましたから…。…お三方のお気持ちは、痛い程分かります…。」

万里花が、少し俯いた。

夕陽が教室の窓から差し込み、憂いを帯びた彼女の顔を、美しく照らし出した。

「ま、万里花…」

楽は、どう応えたら良いか、答えを出せずにいた。

 

 

「…ま♪この先どうなるかは置いてお・き・ま・し・て!♪」

「…うえ?」

万里花の急なテンションの変化に、楽は戸惑う。

「まずは、らっくんの頭の中を、もっともっともーーーっと、私のことでいっぱいにして差し上げますわ!♪」

「え、いや、別に今だって…」

「うふふ♪そのお言葉は嬉しいですが…実際はそうでもないでしょう?…あれだけ、魅力的な女性が3人もらっくんに迫っているのですから。」

「あ…」

楽は言葉を返せずにいた。

「で・す・か・ら♪今から私の言葉で、らっくんの頭の中をあることでいっぱいにしちゃいまーす♪」

「な、なんだよ…?」

期待と不安が混じった声を出す。

 

 

「…明日。場所は言いません。いつするかも言いません。…あなた様のモノ。」

楽の股間を指差す。

「…それを、ここで。」

舌をびろっと垂らして、大きく口を開ける。

「…頂きますね♪」

舌をれろれろと、いやらしく動かした。

 

 

「…んおえ!?」

思わず不思議な声を出す。

考えてみれば、まだ口でしてもらったことは無かったのである。

「うふふ…しっかり予習済みですからね♪…楽しみにしていてくださいまし…♪」

そう言った万里花の瞳は、妖しい色気を放ちながら、楽の瞳を見つめていた。

「…今日のこと、吹っ飛んじまった…」

少し呆けた顔で、楽が言う。

「うふふ♪効果抜群でしたわね♪さ、帰りましょう♪」

「あ、ああ…」

呆ける楽を、うきうき顔の万里花が連れて、二人は家路に着いた。

「(あることで頭をいっぱいにって…エロいことかよ…。しかし、インパクトはでかいな…)」

一人、悶々とする楽であった。

 

 

夜は一緒に寝たのだが、万里花が『今夜は抜かないでおきましょうか♪』などと言い、我慢するのが辛そうな楽とひたすら口付けを交わして欲求をごまかし続け、結局、お互いの身体をまさぐる程度で終わった。

 

 

そして、ようやく二人が眠りに就いてしばらく経った頃。

「う~…ん…あれ、何で部屋が少し明るいんだ…?」

楽はふと、目を覚ました。

いつもなら感じない、部屋の光源に違和感を感じたからだった。

「…万里…花…?」

楽が目にしたのは、パソコンを前にヘッドホンを着けて画面を凝視する万里花の姿だった。

「何を見て…うおえっ!?」

楽が驚くのも無理は無い。

万里花が見ていたのは、無修正の、女性が延々と男性のモノを口で卑猥に咥え続ける動画だったからだ。

万里花は何かをぶつぶつと口ずさみながら、画面を凝視し続け、時々真似をするように、練習用に用意したと思われる何か棒状のものを咥えている。

「ここでこう…か…なるほどなるほど。ふふ、これで明日はばっちりですわ…♪」

集中しているのか、楽が起きていることに全く気付かないまま万里花は誇らしげに独り言を呟いた。

 

「…邪魔するのは悪いよな…」

そう思った楽は、万里花に近付くことはせず、そのまま眠りに就いた。

「…ったく…。こういう健気なところが、たまんねえんだよなあ…。…そりゃ、惚れちまうわ、俺も…。」

小さな声で、そんな独り言を呟きながら。

 

 

 

続く。

 




少しずつ、5人(とるり集)の関係性が動いて行きます。

楽とマリーとの甘々な時間のエピソードと、千棘・小野寺・鶫たちが絡んだエピソードの書く割合は気分で変えて行こうと思います。大まかな今後の流れは決めていますが、途中にどんなエピソードを挟むかはまだまだ考え途中です。

何かリクエストがありましたら、感想又はメッセージで是非とも伝えて頂きたいです(^^)!!

次回はエロの方に掲載します。エロの方はマリー&鶫のくだりがずっと更新出来ていなかったので、今回の続き及びマリー&鶫のくだりの続きを今週中に書けたらと考えています。


それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!

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