楽の家までの道中、二人は手を繋いで歩いていた。
時折、楽が万里花の方をちらりと見ると、ふと、目が合う。
「?…♪」
万里花は一瞬首を傾げるような動きをした後、にこりと微笑んだ。
「(あ~、死ぬほどかわいい…)」
たったそれだけのことではあったのだが、それだけで楽は赤面していた。
「あら、楽様?どうなさいました?♪」
楽の反応を見て、万里花が聞いて来た。
「お、おまえなあ、わかってて聞いてんだろ…」
見透かされていることがわかり、恥ずかしくなる。
「えへへ…らっくん、ぎゅー♡」
楽の顔を見て愛おしくなったのか、甘えるように抱きつく。
「!!…ん、んがー!!」
「きゃっ♪ん、んむう…んっ…」
理性の糸が切れたのか、楽は抱きしめ返してキスをした。
舌を深く絡ませて、唾液の交換をする。
「ふぐっ、んむっ、ふうんっ…んんっ…」
万里花の甘い声が漏れる。
それを聞いた楽は、尚のこと興奮してきた。
「…」
「…!んっ、んんっ、んあうう…っ」
楽は万里花のスカートの中に、膝を潜り込ませた。
万里花は少し身をよじったが、楽の膝と自らの下着とが余計にこすれてしまう。
「んんっ、ふうっ、んんっ、んああ…」
路地に、万里花の悩ましい声が響く。
「…は!」
と、ここで、楽は我に返った。
「…い、いけねえ、ここでおっぱじめちまうところだった…」
すっ、と、万里花を掴んでいた手を優しく放す。
「あん…もう♪既に半分始まってましたよ?」
「う…す、すまねえ…」
「うふふ♪いいですよ♪さ、行きましょう♪」
「ああ」
そうして、二人は再び帰り始めた。
途中、楽がふと足を止めた。
「…あ、ちょっとコンビニ寄っていいか?」
少し、落ち着きに無い顔をしている。
「いいですよ♪何かお買いに?」
楽は普段、スーパー等で組の者に作る料理の食材をまとめて買っているため、コンビニであまり物を買わない。
そのため、万里花はふと疑問に思った。
「…いや、その、な…」
少し顔を赤らめて言葉を濁す楽を見て、万里花はぴんときた。
「…あ。ふふ、大丈夫ですよ♪この日に備えて前もってピルは飲んでいますから♪」
ぶぼばっっ
万里花が平然と言った言葉に、楽は思わず吹き出した。
「んなーーー!?…マジか。で、でも、それでも念のため…」
顔を真っ赤にしながらも、楽はコンビニに行こうとする。
すると、万里花が耳元で囁いた。
「…無しで、したくありませんか…?きっと、粘膜同士の接触はすごーく気持ち良いですよ…?」
天使のような笑顔で、悪魔のような誘惑をしてきた。
「…したいです」
「よろしい♪」
あっさり従い、コンビニに立ち寄るのを止めた二人であった。
しかし、このまま真っ直ぐ帰るのかと思われたが、実際はそうもいかなかった。
今まで、唯一していなかったキスをした、という事実は、二人のたがを外すには十分だった。
二人は、その後の道中でも、何度も何度もキスをした。
ある時は楽から、ある時は万里花から。
家に着くまで我慢できないのか、キスをしながら、お互いの身体を貪るようにまさぐった。
…そして、度々我に返って手を止めた。楽が。
万里花は全く止めないので、下手をすれば帰るだけでも一晩かかりそうだったのである。
「…ふう、やっと着いたな…」
ようやく家に着いた。
普通に歩けば20分程で着くであろう道中を、軽く一時間はかかっていた。
「うふふ♪…寄り道、しすぎちゃいましたかね?♪」
「…やりたくてやってんだから、構わねえよ」
「はい♪」
「しっかし、すっかり暗くなっちまったなー」
「そうですわね…」
時刻は19時をまわっていた。
夏とはいえ、既に日はすっかり暮れてしまっていた。
どこからか、虫の鳴き声が聞こえる。
穏やかな、夏の夜だった。
「すぐにでも部屋に…って思ったけど、そういや夕食を組のもんに作ってやんなきゃだな」
楽がため息混じりに言った。
人数が人数のため、作るにも気合と時間が必要である。
この後の、万里花と過ごす時間を考えると、今まで当たり前のようにやってきたことであっても、億劫になってしまうのは当然と言えた。
「あら…それなら、私が作りましょう!♪」
万里花がふと、提案した。
「え、い、いいのか?」
「いいのですよ?らっくんのお家の皆さんと仲良くなれる良い機会ですし♪」
非常に張り切っていた。
「…ありがとな。」
「はい♪」
そう言って、二人は家に入った。
「おかえりなさいやせーぼっちゃん!お、そちらの嬢ちゃんは…まさか、新たな愛人ですかー!?」
「(あ、らっくん、どう答えてくださるのかしら…)」
「ちげえよ、恋人だ、恋人。」
「ふえっ!?」
楽は竜たちにきっぱり答えると、万里花の肩をがしっと掴んだ。
「おおお!!流石ですぼっちゃん!!ささ、嬢ちゃんもどうぞ上がってくだせえ!」
「え、マジか…ま、いいか。」
細かいことを聞かないことに楽も驚いたが、細かい説明は追い追いすれば良いと思ったのか、詳しく話すのはやめておいた。
「らっくん…」
肩をしっかり掴まれた万里花は、ぽーっとした表情で楽を見つめている。
「…聞かれたら、ありのまま答えることにしようと思ってな。…ちょっと、恥ずかしいけど、よ」
そう言うと、楽は照れくさそうに目を背けた。
「…ありがとう、ございます…♪」
穏やかに笑った。
「(…ああもうかわいすぎだろ…抱きしめてえ…)」
組の者がいる手前、必死で衝動を抑える楽であった。
「みなさーん!お料理、私が作りますよ♪」
「そう言うことだ。俺は手伝えることは手伝うって感じになるからよ、まあ、待っててくれ。万里花の料理はうめえぞ?」
楽は、誇らしげににかっと笑った。
その笑顔を見て、万里花がほんのり顔を赤らめたのだが、楽はそれには気付かないのであった。
「え、そうなんですか!じゃあ、ご厚意に甘えて…」
最初は少し驚いた組の者たちも、楽が太鼓判を押したことであっさり納得した。
数十分後。
「出来ましたわよー!♪」
「は、はええ!すげえな嬢ちゃん!」
「おらーおまえら!手を合わせろ!せーのお…」
「「「頂きます!!!」」」
野郎共の威勢の良い頂きますが響く。
「もぐもぐ…うお、すげえうめえ!坊っちゃんに負けず劣らずとは…すげえな嬢ちゃん!」
食べた者が、口々に万里花を褒め称える。
「うふふ♪ありがとうございます♪」
万里花はそれに丁寧に応じる。
「これくらいでしたら、毎日でも♪」
「なんだって!?…うおおおお!!今夜は宴だーーー!!!」
万里花の一言一言で、場が大いに沸く。
「…すげえな、万里花。一発であいつらの胃袋を掴んじまった…」
楽は宴会騒ぎになっているところから少し離れて、万里花に話しかける。
「えへへ…嬉しいです♪そうだ、らっくんはこちらをお召し上がりくださいまし!♪」
どんっ
どどんっっ
どどどんっっっ
含まれている食材:うなぎ、にら、にんにく、山芋etc…
少し前に万里花の弁当で見た面々であった。
「んなー!!?ってこんな食材、一体いつ!?」
楽は驚きを隠せない。
「それは…」
万里花はぱちんと指を鳴らした。
「はいっ!」
万里花の右側に、右助が颯爽と現れた。
「よろしい」
再び指を鳴らすと、あっと言う間に消えてしまった。
「み、右助さん…!」
何故か、涙が込み上げてきそうになる楽であった。
「ま、マジか…。」
料理の意図が手に取るように分かるレパートリーに、楽はたじたじになる。
そんな楽の耳元で、万里花はそっと囁いた。
「…これを食べて、いーっぱい、いじめてくださいね♪」
「!!…オーケー。頂きます!」
そう言うと、楽はばくばくと食べ始めた。
褒め言葉を、ありったけ並べながら。
「あ~食った食った!坊っちゃん、嬢ちゃん、片付けは俺らがやりますんで、後はお二人でゆっくりしてくんなせえ!」
「おお、わりいな。そうさせてもらうわ。じゃ、万里花、俺の部屋に行くか。」
「はい♪」
二人は楽の部屋に向かって、屋敷の廊下を歩き始めた。
すると、万里花は自分の異変に気付いた。
「あ、あれ…私、緊張してるのかしら…な、なんで急に…べ、別に身体のコミュニケーションは初めてではないのに…!」
「?万里花…どうした?」
「!ななな、なんでもないですわ!あははは…」
緊張を悟られまいと、必死で繕った。
「うっし着いた。よっと…さあ、いらっしゃい」
楽が部屋の戸を開ける。
「おおお、お邪魔…し、しま、します…」
部屋に入って、万里花の心臓はもう爆発しそうになっていた。
そんな万里花の様子を気にしながらも、楽はふと、切り出した。
「…万里花」
「ひゃいっ!?」
名前を呼ばれ、飛び上がるように驚く万里花。
「こっちに来てくれ」
そう言うと、楽は座椅子に座り、優しく手招きをしてきた。
「は、はい…(も、もう始まるのー!?)」
万里花はがちがちに緊張しながら、楽の前に座った。
すると、楽は万里花の頭を優しく撫でた。
「…身体、大丈夫か?」
「え…」
「今日は朝からずっと動きっぱなしだし、心の浮き沈みもたくさんあっただろうから…疲れただろうなって思って。おまえに料理を作るって言ってくれたのも、嬉しくてついお願いしちまったけど…内心、ちょっと後悔してたんだ。心配なんだ。今日、その、…やりたいとは思ってたけど、おまえの体調が悪いようなら絶対にしないから、な?」
心の底から、万里花を気遣っての言葉だった。
右手で万里花の頭を撫で、左手を優しく万里花の首にまわす。
「…らっくん…。…大丈夫ですよ、本当に。らっくんとキスすると、もう、体調の悪さなんて綺麗さっぱり吹っ飛んじゃうんです♪それに、お料理もやりたいからやったんですから、気に病まないでくださいまし♪…あ、でも、少し疲れたのは事実ですので…少しだけ、らっくんの腕の中で休ませて頂けませんか…?」
「…ああ、いくらでもどうぞ」
「ありがとうございます…。らっくんは本当に、お優しい…愛しています…んむう…」
疲れていたのか、楽への言葉を言い終えると、すぐに寝付いてしまった。
「…俺も、愛してるよ」
そう言うと、万里花のおでこに優しくキスをした。
「ん…むにゃ、あれ、どれくらい時間が…?」
万里花が起きた。
「小一時間てとこだな。寝顔、かわいかったぞ?」
そう言うと、ふふっ、と笑った。
「…もう。ありがとうございました…もうすっかり元気です♪」
確かに、少し疲れ気味に見えた顔色も、すっかり良くなっていた。
普通にベッドで休むよりも、よっぽど安らいだのだろう。「
それでも、念には念を入れて、楽は万里花に聞く。
「…本当か?」
「はい!…そろそろ…しましょう…?」
「…いいんだな?」
「は…はい…」
語調は優しいまま、徐々に冷たさを帯びてくる楽の声に、万里花は先程までの緊張が蘇ってくる。
「…じゃあ」
そう言うと、楽は立ち上がり、襖につっかえ棒をかけた。
「あ、え、え…?ら、らっくん…?」
楽の行動に戸惑う万里花。
「…これで、おまえがどんな声を上げたって、誰も助けに来れないからな」
楽は妖しく微笑む。
「…は、ふあ…」
万里花の表情は、徐々に『女』のそれになってくる。
「…」
「ひゃんっ!?」
楽が万里花を後ろから抱きかかえた。
そして、耳元で囁く。
「この部屋を出るときは、万里花、おまえはもう、身も心も俺のものだ…いいな?」
万里花の背中を、ぞくぞくっとしたものが一気に駆け抜けた。
「は、はい…♡」
うっとりした声で返事をする。
続く。
後編は同時に上げます。エロの方でご覧くださいませ(^^)!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!