翌日。
「あー、昨日は妙にどきどきしちまって寝つきが悪かったな・・・。」
「おはよう、楽!いや~楽しみだね~♪」
「おまえなあ・・・」
「ん?なんの話かしら?」
宮本るりが明らかに訝し気な顔でこちらを見ている。
「おーるりちゃん!おはよー♪いやいや、なーんでもないよ!
別に一昨日の遊園地のことなんて何の関係もないから♪」
固まる楽。
「おま・・・え・・・はあ!?何勝手にばらし・・・あ・・・」
隣を見ると、るりがこれ以上無い程の疑惑の目を向けている。
「一昨日・・・?そういえば一昨日、一条君と橘さん急に早退してたわね。何かそれと関係が・・・?」
「い、いや、その件は・・・その・・・!
(集のばかやろ~~~!!!)」
楽が睨むも、集はにやつくばかり。
楽がうろたえていると
「楽様、おはようございます♪」
橘がにこやかに微笑みながら近付いてきた。
「お、おお、橘、おはよう。
(なんだ、単純にテンションを落ち着けたのかな・・・?そんなに変わってないじゃん!)」
楽は少し拍子抜けした。
そのとき
ふわっ
座っている楽を、橘が包み込むように抱きしめた。
いつものハグに比べて、顔が明らかに近い。胸をいつも以上に当てている。しかも顔はやや恥ずかしげに赤らめている。目も心なしかうるんでいて、なんとも言えない艶っぽさがある。
そして唇と唇が触れ合うほどの距離で、上目遣いで
「今日もよろしくお願いしますね、らっくん・・・♪」
橘がにこっと微笑む。
瞬間、楽の脳裏に、観覧車で橘にキスを迫られたときのことが浮かんだ。
「(う、うおおおおおおお・・・!!!やばいやばいやばいやばい。かわいすぎるだろこの表情は・・・!!!
お、お、お、落ち着け、俺!!俺には小野・・・え、えと、あれ・・・頭がこんがらがって・・・!!)」
動揺により激しく混乱し、顔がこれ以上ないほど赤くなる楽。
それを見た橘は、くしゃっと微笑んで
「本当に・・・かわいか人ね、らっくんは・・・。」
そう言いながら楽の顔に両手をそっと添える。
「・・・!!!」
ぼしゅっっっ
楽の顔から湯気が噴き出す。
それを見た万里花は
「うふふ、ではまた後で♪」
そう言って、嬉しそうにその場を離れた。
予想を越える事態に呆然とする楽と集。そしてまだ事情も知らないままこの場面に出くわし、頭の中がハテナだらけのるり。
しばしの沈黙。
るりが口を開く。
「なに、橘さんのあの態度・・・。一条くん、あんたまさか一線を・・・」
「ななななないないない!!なんもしてないしされてないよ!!」
「本当に・・・?それにしてもあの態度は・・・。しかもあの方言・・・隠してたの彼女・・・?」
急にるりは小声になる。
「これは小咲にはっぱかけないといよいよまずいわね・・・。」
「ん、宮本、なんか言ったか?」
「いえ、なにも。」
るりが振り向くと、集がにやにやしている。
瞬間、るりのポニーテールが逆立つ。
「・・・舞子君、なにか・・・?」
「んー?なんでもないよー?」
集はるりの怒りを意に介さず飄々と応える。
「・・・まったく。じゃ、またあとでね。」
「あ、ああ。」
その場を去るるり。
一瞬の余韻の後、集が話し出す。
「・・・予想以上の破壊力だったな・・・。」
「・・・。」
「正直、誰もいないとこで俺が万里花ちゃんにあんな風に囁かれたら・・・」
「・・・囁かれたら?」
「・・・押し倒しちまうな。」
「そりゃそ」
言いかけた瞬間、楽は自分の口を猛烈な勢いで塞いだ。
「(うおおお俺は何を言いかけてるんだああああ!!??)そ、そ、そ、そういう風に思うやつもいるだろうなー!」
「だよな、おまえもそう思うよな。」
「いやちがうちがうちがう!!!俺には小野寺・・・が・・・」
小野寺の名前を出す楽に、いつもの勢いがない。少し考え込んでいる。
「ま、ここからどうなるかだねー!」
「・・・そうだ・・・な」
一方その頃、廊下を歩いている橘は
「~~~~~~やりましたわ・・・!!!楽様のあの反応!!!
ぐふふふふ・・・これは・・・いける・・・!!!」
拳を握りしめながら、とんでもないにやつきを見せる橘。
その様子を少し離れたところから見つめる本田。
「お嬢様・・・その顔は・・・人に見せられない顔かと・・・」
「いいのよ、今は」
「左様ですか・・・」
「しかし・・・これは・・・
思った以上に恥ずかしいですわね・・・私も顔から湯気を出さないので精いっぱいですわ・・・。」
続く。