楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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第3話「ジッコウ」

翌日。

 

 

「あー、昨日は妙にどきどきしちまって寝つきが悪かったな・・・。」

 

 

「おはよう、楽!いや~楽しみだね~♪」

 

 

「おまえなあ・・・」

 

 

「ん?なんの話かしら?」

 

 

宮本るりが明らかに訝し気な顔でこちらを見ている。

 

 

「おーるりちゃん!おはよー♪いやいや、なーんでもないよ!

 

別に一昨日の遊園地のことなんて何の関係もないから♪」

 

 

固まる楽。

 

 

「おま・・・え・・・はあ!?何勝手にばらし・・・あ・・・」

 

 

隣を見ると、るりがこれ以上無い程の疑惑の目を向けている。

 

 

「一昨日・・・?そういえば一昨日、一条君と橘さん急に早退してたわね。何かそれと関係が・・・?」

 

 

「い、いや、その件は・・・その・・・!

 

(集のばかやろ~~~!!!)」

 

 

楽が睨むも、集はにやつくばかり。

 

 

楽がうろたえていると

 

 

 

 

「楽様、おはようございます♪」

 

 

橘がにこやかに微笑みながら近付いてきた。

 

 

「お、おお、橘、おはよう。

 

 

(なんだ、単純にテンションを落ち着けたのかな・・・?そんなに変わってないじゃん!)」

 

 

楽は少し拍子抜けした。

 

 

そのとき

 

 

ふわっ

 

 

座っている楽を、橘が包み込むように抱きしめた。

 

いつものハグに比べて、顔が明らかに近い。胸をいつも以上に当てている。しかも顔はやや恥ずかしげに赤らめている。目も心なしかうるんでいて、なんとも言えない艶っぽさがある。

 

 

そして唇と唇が触れ合うほどの距離で、上目遣いで

 

 

「今日もよろしくお願いしますね、らっくん・・・♪」

 

 

橘がにこっと微笑む。

 

 

瞬間、楽の脳裏に、観覧車で橘にキスを迫られたときのことが浮かんだ。

 

 

「(う、うおおおおおおお・・・!!!やばいやばいやばいやばい。かわいすぎるだろこの表情は・・・!!!

 

お、お、お、落ち着け、俺!!俺には小野・・・え、えと、あれ・・・頭がこんがらがって・・・!!)」

 

 

動揺により激しく混乱し、顔がこれ以上ないほど赤くなる楽。

 

 

それを見た橘は、くしゃっと微笑んで

 

 

「本当に・・・かわいか人ね、らっくんは・・・。」

 

 

そう言いながら楽の顔に両手をそっと添える。

 

 

 

「・・・!!!」

 

 

ぼしゅっっっ

 

 

楽の顔から湯気が噴き出す。

 

 

それを見た万里花は

 

 

「うふふ、ではまた後で♪」

 

そう言って、嬉しそうにその場を離れた。

 

 

予想を越える事態に呆然とする楽と集。そしてまだ事情も知らないままこの場面に出くわし、頭の中がハテナだらけのるり。

 

 

 

しばしの沈黙。

 

 

 

るりが口を開く。

 

 

「なに、橘さんのあの態度・・・。一条くん、あんたまさか一線を・・・」

 

 

「ななななないないない!!なんもしてないしされてないよ!!」

 

 

「本当に・・・?それにしてもあの態度は・・・。しかもあの方言・・・隠してたの彼女・・・?」

 

 

急にるりは小声になる。

 

 

「これは小咲にはっぱかけないといよいよまずいわね・・・。」

 

 

「ん、宮本、なんか言ったか?」

 

 

「いえ、なにも。」

 

 

るりが振り向くと、集がにやにやしている。

 

 

瞬間、るりのポニーテールが逆立つ。

 

 

「・・・舞子君、なにか・・・?」

 

 

「んー?なんでもないよー?」

 

 

集はるりの怒りを意に介さず飄々と応える。

 

 

「・・・まったく。じゃ、またあとでね。」

 

 

「あ、ああ。」

 

 

その場を去るるり。

 

 

一瞬の余韻の後、集が話し出す。

 

 

「・・・予想以上の破壊力だったな・・・。」

 

 

「・・・。」

 

 

「正直、誰もいないとこで俺が万里花ちゃんにあんな風に囁かれたら・・・」

 

 

「・・・囁かれたら?」

 

 

「・・・押し倒しちまうな。」

 

 

「そりゃそ」

 

言いかけた瞬間、楽は自分の口を猛烈な勢いで塞いだ。

 

 

「(うおおお俺は何を言いかけてるんだああああ!!??)そ、そ、そ、そういう風に思うやつもいるだろうなー!」

 

 

「だよな、おまえもそう思うよな。」

 

 

「いやちがうちがうちがう!!!俺には小野寺・・・が・・・」

 

 

小野寺の名前を出す楽に、いつもの勢いがない。少し考え込んでいる。

 

 

「ま、ここからどうなるかだねー!」

 

 

「・・・そうだ・・・な」

 

 

 

 

 

一方その頃、廊下を歩いている橘は

 

 

「~~~~~~やりましたわ・・・!!!楽様のあの反応!!!

 

ぐふふふふ・・・これは・・・いける・・・!!!」

 

拳を握りしめながら、とんでもないにやつきを見せる橘。

 

 

その様子を少し離れたところから見つめる本田。

 

 

「お嬢様・・・その顔は・・・人に見せられない顔かと・・・」

 

 

「いいのよ、今は」

 

 

「左様ですか・・・」

 

 

「しかし・・・これは・・・

 

 

思った以上に恥ずかしいですわね・・・私も顔から湯気を出さないので精いっぱいですわ・・・。」

 

 

 

続く。


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