楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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長めのエピソードの後の恒例の後日談です。


第26話「プンスカ」

茶話会の後日、教室で会ったときの万里花・千棘・小野寺・鶫の反応があまりにも違い、楽は死の恐怖に追い立てられていた。

 

<ケース①千棘>

会った瞬間、顔を真っ赤にする。

「…おはよう」

「(うわー色々勃発しそうな予感しかしないわ)おはよう」

ふわっ、と言う効果音がぴったりな調子で挨拶をする楽。

「い、いや~今日すげえ良い天気だよな!今日3限外で体育だよな!気持ち良いだろうな~ははは!」

信じられないくらい下手な世間話で場の空気をもたせようとする楽。

もちろん、こんな会話でもつ訳もない。

「…あ、あんたさ、この間途中で倒れちゃってたわよね…どこまで聞いてた…?」

恥ずかし気に聞いてはいるが、回答次第では自分の命が危ない。なんで朝からこんな命を削ったゲームをしなきゃいけないのだと言う思いがあふれ出す楽。

「え、そ、そんな聞いてないよ…その…DとかCとかGとかその辺までのことで」

「事細かに言うなーーーー!!!」

どむっっ

「うごほっ!!?」

シンプルなボディーブローである。多分これもう一発来るしそんときは俺の最期だななどと腹を括る楽。

顔を真っ赤にして恥じらってはいるが、攻撃力はえげつないにも程がある。

「お、おぐほお…」

痛みの余韻で変な声が出る楽。

「…本当に、そこまでだったのね…?」

千棘の質問に、先程のボディーブローによりまともに思考が回らない状態で答える楽。

「本当に…そこまでだって…優しいところが好きとか…性体験が無いとか…頻度が少年ジャンプと同じとか…全然聞いてな」

朦朧としながらも、もはや先日の薬の効果が今出ているのではと思うくらいに聞いたことを全部口走ったことに気付く楽。はっとして前を見ると、瞬間的にではあるが不思議な光景を目にする。

千棘の後ろ姿、だろうか。腰が楽の顔の辺りまで来ている。

つまり、飛び上がっているのだ。

「…え」

次の瞬間。

スカートだから下着が見える危険性がなどと言う心配がどうでもよくなるくらいの速度で、千棘の飛び後ろ回し蹴りが飛んで来る。

「な~~~~~~~に聞いたこと全部ぺらぺらと垂れ流してんだこら~~~~~~~~~!!!!!!」

ずどごっっっ

「えぶっっっ」

ずどんっっっ

ずどんっっ

ずどんっ

ごっごっごっ

ぱたっ

壁を3枚突き破って遥か向こうの教室まで達し、水切り石のごとく床を跳ね、3つ目の教室の後ろで力無く倒れ込んだ。

「…ぐふっ…武芸の嗜みもおありなんですか…いや、これは…センスかな…ぱたっ」

ツッコミなんだか褒め言葉なんだか分からない言葉を発して、楽は力尽きた。

 

<ケース②鶫>

「おおおおはよう一条楽!!今日も良い天気だな!!あははは!!」

先程楽が千棘に言っていた下手極まりない挨拶を鶫からしてきた。

しかし、これは例の話をしなくて済むのでは、という淡い希望を抱いて楽はそれに乗っかることにする。

「おおおおはよう鶫!!本当にな!!あはは!!ってこええよ何でそんなもん取り出してんだよ!!?」

一瞬思考を巡らせて同じように挨拶を返した楽は気付くのが遅れたのだが、鶫が笑顔のままあまりにも自然に、『あははは!!』の『ははは』の部分で1文字言葉を発するごとに右手・左手・そして背中に銃がセットされたのである。ぱっと見CGと見紛うレベルの早業だが、これは以前、まだ楽が鶫のことを男だと思っていたとき、決闘が始まった瞬間に見た光景とまるで同じだったので、瞬時に事態が飲み込めたのだった。

「なんで笑顔キープで銃取り出してんだよ!?ある意味決闘のときよりこええよ!!」

必死でツッコミを交えながら、尻餅をついた状態で後ずさりする楽。

「ううううるさーーーい!!!一条楽、お、おまえも、あ、あれを聞いたのだろう!?」

「な、何をだよ!?」

「ええいとぼけるなーーー!!!ううう…」

顔を真っ赤にしてうなっている様だけを見たら、ときめきを覚えるくらいのかわいさがあるのだが、うなっている間にちょくちょくと教室のあちらこちらに銃を乱射しているのでそれどころではない。ヒットマンとしてあるまじき行動の上に、朝の教室にしては血生臭すぎる状況だった。

「おいいい!!撃ってる撃ってる!!」

「はっ!?し、しまった…」

そう言って、乱射をせぬように銃をしまう鶫。

しかし、一丁だけは引き続き持ったまま、今度は両手で銃を構えて銃口を楽に向けた。

もう一度言うが、顔だけ見れば非常にかわいいのである。その他が物々しすぎる。

「(全部はしまってくんねえのかよー…!!)お、俺途中でぶっ倒れたのをおまえも見たろ!?そこからは何にも聞いてねえよ!まず銃をしまってくれ!」

「…そうか」

鶫は楽の言葉を信用し、銃をしまった鶫。安堵の表情を浮かべている。

「…本当に…その…さ、サイズのところまでしか聞いてないんだな…?」

鶫は確認のためとは言え、自ら恥ずかしい言葉を口にする。

頬に両手を当て、顔は火が出そうな程赤くなっている。

「…ああ!そんな、たくましい背中が好きとか、性体験が無いとか、頻度がコンスタントにランニングしてる人と同じくらいとか…全然聞いてないって!…あ」

なぜ口走ったのか。しかもさっきと同じように例えを入れたのか。千棘の攻撃のダメージのせいもあるだろうが、理由は定かではない。

楽はそろろっと鶫を見た。

頬に両手を当てたまま、口から血がつつつっと流れている。表情は不自然な程笑顔だ。

「…なあ、一条楽?」

血がいつのまにか消え、更に不自然ながらも眩い笑顔になり、両手を背中に回し、腰を曲げて楽に顔を近付ける。

そこだけを見れば、本当にかわいいのだが。今は状況がまずい。本当にまずい。

「…は、はい、なんでござんしょう」

楽の組の者のような言葉遣いになる。冷や汗が止まらない。

「放課後、私の家に来てくれないか…?」

すごく笑顔ですごくどきっとするお誘いをしてきた。すごく笑顔で。

「…な、なんででござんしょう…」

楽は違う意味でどきっとしている。心臓があと一歩で止まる勢いである。

「…」

「…」

「私の家にな、置いてあるんだ」

「…何を?」

「…」

「…」

「記憶を、消す装置」

「こええよ!!なんだよそれ!?大体どう使うんだよそれ!?」

「心配するな!装置は拘束椅子とハンマーの2つだ。シンプルだから故障も無い!安心しろ!」

「思いの外原始的だったよびっくりだわ!!なんでそんなんで安心させられると思ったんだよ!?」

「なんだと!?じゃあこの場で射殺してやろうか!!」

「いやだよこんなとこで!!俺は幸せになりてえんだよ!!大体ちゃんと狙ったとこの記憶飛ばせんのかよ!?」

「…まあ、実験結果では、大体皆生まれた頃まで遡るかな…」

「全部飛んでんじゃねえかそれ!!よくそれで装置とか言えたもんだな!!」

「う、うるさーい!!!…それに記憶を飛ばせば、私にだってチャンスが…」

「え」

「あ」

「…え?」

「…」

ごっごっごっごっ

「わーーー!!!無言で蹴るな蹴るな!!!」

ひどいやり取りは続く。

 

<ケース③小野寺>

「…」

「!?いやちょっと!朝からいきなり逃げ出さないでくれ小野寺~!!」

「こここ来ないで一条く~~~ん!!!」

楽を見るなり全力で教室から逃げ出す小野寺。

「待てっ…て!」

「ひゃっ!?」

がしっ、と小野寺の腕を掴み、引き止める楽。

「ああああのそのこの間のはね…そのあわわわわ」

掴んで腕が熱い。よく見ると、小野寺は全身が赤くなっているのではと思うほど真っ赤になっている。言葉もまとまらない。

「…小野寺、大丈夫だよ、俺はその…サイズのところまでしか聞いてなく後はぶっ倒れてたから…」

その言葉を聞いて、小野寺は若干ではあるが楽の方に顔を向ける。

「ほ、ほんと…?」

「…ああ。だから大丈夫。安心出来る笑顔が好きとか、性体験は無いとか、休みが週1日しか無い人と同じ頻度だとかそんなことは聞いてな…あ」

歴史は。

繰り返される。

ぼしゅうううううううう…

「…きゅうう…」

「小野寺ー!?」

風船から空気が抜けて行くかのように湯気を噴射し、果てた小野寺。不憫である。

 

<ケース④万里花>

「おはようございます楽様ーーー!!」

どどどどどっっっ

ばきっっっ

「ぐはっ!?お、おはようまり…ばな」

「まりばなって誰よ!?ってこら何やっとんじゃーー!!」

すかさず入る千棘のツッコミ。

「楽様~~~…えへへ…」

ものすごく幸せそうに楽の胸板に頬ずりをする万里花。

「(うおおこれは…もう…ベッドに連れて行きてえ…はっ、いかんいかん!)こ、こらこら、橘、だめだぞ~」

にやけるのを必死で我慢する楽。引き離し方も体裁上やっている感じが丸出しである。

そんな楽を見て、万里花がにへらっ、と笑う。

「(あー…抱きしめ返してえ…)」

楽は両腕をそろっと万里花の背中に伸ばしそうになっている。腕がぷるぷると震えている。

「ううう…こらー!!!離れなさーい!!!」

千棘がたまらなくなって間に割って入る。

「あーらまたお邪魔虫さんが…そんな怪力で私たちの邪魔をしないでください、桐崎さん♪」

「誰がゴリ崎…って普通に呼ぶんかーーーい!!」

「…何をおっしゃっているのかしら…」

「…はあ…はあ…あんた、わかって言ってんでしょ…」

千棘のツッコミの反射速度を逆手にとって弄ぶ万里花。

「…こらこら、あんまり千棘をイジめんなよ」

そう言うと、楽は万里花の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「ふえ…?…えへへ…♪」

「…!」

万里花のあまりにも幸せそうな表情に、千棘も思わずどきっとする。

「(この子…こんな表情前まで見せたことなかったでしょ…?…うう…)」

千棘のもやもやは止まらない。

「楽様~…このまま、HRが始まるまでこうしてましょ~?」

「い、いやさすがにおまえ、それは…こ、こら…」

万里花は甘えるように言うと、楽を抱きしめる力を更に強める。

強める、とは言っても、基本的に優しく抱きしめているので、楽にとっては心地良いばかりなのである。

そんな訳なので、楽のにやけは止まらない。

 

「うう」

「う、うう…」

「ううう…」

「!?え!?」

楽の周囲から、呻き声が聞こえてきた。

そして、次の瞬間。

「「「だめえええええ!!!!!」」」

ばふっ

ごしゃっ

ずどごっっ

「うぼおおおっ!!?」

楽の後方から小野寺のタックル(結果的にハグ)、右側から鶫の掌底、左側から千棘のパンチがほぼ同時に入る。

小野寺のタックルは、結果的に楽の頭部を固定し、更にダメージを深める効果を上げてしまった。

「きゃー!!楽様!!」

「おふ…」

吹っ飛ぶことも出来ずに、万里花の腕に抱かれたまま死にかける楽。

 

「…はっ!あれ、鶫、小咲ちゃんも!?」

「あ、お嬢、小野寺様!」

「え、あれ、千棘ちゃん、鶫さん…?」

3人とも事態を一瞬遅れて把握した。

「ご、ごめんもやし!」

「お、おまえら…なあ…」

しゅー、と、楽の頭から煙が上がっている。

「も~~~楽様をイジメないでください!!」

そう言うと、万里花は楽の自らの胸元に埋めた。

普通なら色気たっぷりのシーンになるのだろうが、今のこの状態だと万里花は聖母のようであった。

「一条楽…す…すまない…」

「はわわ…一条君…ごめんね…?」

 

ふと3人が気付いた。万里花は楽が落ち着いたと見るや、彼女の背後が炎上し始めたのだ。

「「「…!!?」」」

「桐崎さん、鶫さん、小野寺さん。ここに、正座なさい。」

「「「!!は、はいっ!!」」」

まるで軍隊の上官の様な威圧感で3人に命令する万里花。

「…あなた方は…あ、小野寺さんは今回だけですが、ど~にも…楽様への配慮が足りないようですね…」

「「で…でも…」」

千棘と鶫が何かしらの言い訳をしようとする。小野寺はびびりにびびって携帯バイブの如く震えている。

「おだまり」

「「は、はいい…」」

身体能力で言えば万里花に余裕で勝っている千棘と鶫も、今回ばかりは万里花に気圧されていた。

「いいですか、今後、全く楽様を攻撃するなとは言いません。あなた方にも事情があるでしょうから…。しかし、もし今回のようにやりすぎるようなことがあったら…」

万里花の炎が更に燃え上がり、それに反比例して目は冷たくなる。

「…わかっていますね?」

「「「い、イエス、マム!!!」」」

何故か小野寺まで揃って軍隊のような返事をする。

「…よろしい」

 

と、ここで楽が目を覚ました。

「…う、うーん」

「!!楽さま!!♡」

炎が一瞬で消え、再びラブラブモードに一瞬で切り替わる万里花。

「大丈夫ですか?保健室に行きましょう?歩けますか?」

「あ、ああ…すまねえな…」

そう言って、楽に肩を貸して教室を出る際、万里花は一瞬だけ発火して3人を見詰めた。笑顔のままで。

3人はびくっと飛び上がる。正座のまま。

「(…いいわね?)」

と、言葉にせずとも、人を射殺すかのような目つきで3人とアイコンタクトをしてドアを閉めた。

ドアの向こうではまた2人の通常通りの会話が聞こえてくる。

 

「…女って…怖いな…」

と、女3人が痛感した朝だった。

 

 

続く。




気付いたら大体朝のHR前の時間帯に色々やってます()

書いているうちに万里花強い子になりました。

あ、前回も書いたのですが、もうじきR-18部分を分割したいと思ってます。そのときは最新話でお知らせだけ書く回を作ろうかと。

そちらはこのストーリーに沿ったものもあれば、もう少し自由にエロの対象を広げたもの(今まで出て来た女の子も、出てきていない女の子(『子』と呼べない年齢の人も)も書くつもりでいます。それは追い追いと言うことで。

それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!

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