「なあ、万里花」
朝の学校。気付けば2人はちょっとした時間を見付けては話すようになっていた。
楽はふと、以前から気にかけていたことを万里花に切り出した。
「?なんですか、らっくん?お胸、触りますか?」
「ぶふおっっ!!ば、ばか、ちげえよ!」
全く予想していなかった返しに楽が吹き出す。
万里花は笑顔のまま『紅茶を飲みますか?』くらいの自然さで冗談を口にする。
「うふふ…いつでも良いですのに♪」
「ったく…。…いざやり始めたら、簡単に我を失うくせに…」
「え?らっくん今何か言いましたか?」
「ふ、ふひーふひー…いえ、何も…」
楽は失言を下手な口笛を吹きながら誤魔化す。
「…もう。それでらっくん、お話と言うのは?」
「ああ。端的に言うと、俺はおまえにもっと皆と仲良くなってもらいたいなって思ってんだ。前よりは話すようになったけど、まだまだ距離を感じるっつうか…。なんてえか、皆と仲良くしてるおまえを見ると俺も幸せなんだ。」
「やります頑張ります幸せにします」
「早いな!?」
楽のお願いにノータイムで応じる万里花。
「だって、らっくんのお願いですもの!…それに私も、今のこの状況になってだいぶ心に余裕が出てきましたし♪」
万里花が笑顔を浮かべて答える。
「…そうか。嬉しいな、なんか」
「えへへ…」
無邪気に頬を赤らめて照れる万里花。
「(やばいかわいい)やばいかわいい。あ、そのまま言っちまった…」
「!…もう…。」
いつも通りである。
「じゃあまずは何から始めると良いかな…取り敢えず、万里花の方から話しかけに行ってみないか?」
「分かりましたわ♪お任せ下さい!」
万里花は両手を腰に当て、でーんと胸を張った。
「なんでまたそんな自信満々に…まあいいか。お、ちょうど良いとこに…」
二人が話していると、千棘が教室に入って来た。
「あ、二人ともおはよー。早いね」
千棘は二人に話しかけながら、机に鞄を置いた。
「早速やってみますわ!」
万里花が小声で楽に伝える。
「おう、がんばれ!」
楽の言葉を聞いた後、万里花は千棘に話しかけに行った。
「桐崎さん、おはようございます♪」
「あれ、万里花。どうしたのそんな上機嫌に?」
「いえいえ♪それよりちょっとこれをご覧になって頂けます?」
「ん、なになに?」
万里花が取り出したのは、どう考えても鞄に入っていたとは思えない程のサイズの動物図鑑だった。
「(…んん…!?)」
先が読めない展開に不安が過ぎる楽。
「えーっと…あ、これです!」
万里花はページをめくり、ある動物を指差す。
「…えーっと、これは…ゴリラ…よ、ね。」
「はい♪」
千棘の顔は明らかに怒りで引きつっているにも関わらず、万里花は変わらずにこにこと微笑んでいる。
「これが…どうしたっていうの…?」
「このニシローランドゴリラなんですけど、なんと!学名が『ゴリラ ゴリラ ゴリラ』なんですって!うふふ♪」
「へ、へえ…そうなんだ…それで…?」
「(やばい戦が始まる気配しかしないどうしよう)」
冷や汗をだらだらと流す楽。
「桐崎さんのお仲間の話ですから、よく知っておいた方が良いかと思いまして♪」
「(あれなんだろうホラ貝の音が聞こえたようなあれおかしいな合戦の合図かな)」
楽は冷や汗を流しながら、恐怖の余りぷるぷるとチワワのように震えている。
「お~~~の~~~れ~~~は~~~!!!」
「(古代ローマの戦ってこんな感じで皆咆哮を上げてたのかなあ…)」
楽の現実逃避は止まらない。
「きゃー楽様ー!ゴリ崎さんがー!ローランドゴリ崎さんがいじめますー!握力500kgもあるんですよー!」
「何よその売れない芸人みたいな名前!!?あとそれは本物のゴリラの話でしょうがーーーー!!」
「きゃーー楽様ーー!!ナックルウォークで迫って来ますーー助けてーー!!」
「あんたなんでそんな事知ってんのよ!?指を軽く握り込んで地面に指関節の外側を付けて追っかけてやろうか!!?」
「(何このゴリラの生態勉強の回…)」
二人のゴリラ喧嘩(?)に心の中でツッコミを入れる楽。
二人の様子を見る限り、いつも通り、いや、いつも以上にひどい。
楽は見かねて、二人がぎゃーぎゃーと言い争っている所に向かう。
「こーーらっ」
「ひゃうんっ!」
ひょいっ、と、楽は万里花の襟を掴み、ネコを持ち上げるかのようにして彼女の動きを止めた。
「まったく…仲良くなる気あんのか、おまえは?」
呆れるようにして楽が聞く。
「ぶう…。桐崎さんの所に向かうところまではやる気があったんですが、顔を見たらやっぱりゴリラだなーと思っちゃって…諦めちゃいました☆」
「早いな!?」
万里花の挫折の早さと開き直ったテヘペロ顔に驚く楽。
「ちょっとちょっと、さっきから二人は一体何のことを言ってんのよ?」
状況が一向に理解出来ない千棘が聞く。
「ああ、すまねえな、すぐに説明しなくて。千棘が来る前に、橘にもっと周りの皆と仲良く出来ないかって話をしててな。橘も乗って、まずは自分からもっと話しかけようってなったんだ。そんで千棘が最初に来たからって早速チャレンジしてもらったんだが…この様だよ」
ふう、と楽はしょげながらため息をついた。
「そういうことだったのね。…ってかそのつもりで来てあの喧嘩の売り方とは…いっそ清々しいわね。」
「なんか…すまねえな」
万里花をつまんだまま千棘に謝る楽の姿は、ペットがおいたをしてしまったために相手に謝る飼い主のようであった。
「むう…いきなりローランドさん相手だと中々上手く行きませんわね…」
「なんで電子楽器メーカーみたいになってんのよ!?」
楽につままれたままでも尚、千棘への悪態が止まらない万里花。
「お嬢、どうかしましたか?」
「おはよー!3人でどうしたの?」
3人が話しているところに、鶫と小野寺がやってきた。
2人を見て、万里花はふと閃く。
「…あ、そうですわ、茶話会をしましょう!」
「「「「え?」」」」
万里花の突然の発言に面食らう4人。
「…おい一条楽、これはどう言う流れだ?」
「あ、ああ、実はな…」
楽は鶫と小野寺に話の流れを説明した。と言っても、目的は至極シンプルなものなので、説明自体はものの30秒程で終わった。
「なるほど…な。そういう話をするために、茶話会をやろうと言うことか」
「はい、そうですわ♪勉強会だと内心心が死んでしまっていまいち楽しめませんし、学校だと周りの目を気にする必要がありますから♪いかがです?」
「(心が死んでたのか…)俺は構わねえよ。3人は?」
「わ、私、行ってみたいな」
「お嬢がいいならいいぞ」
「…ま、別に良いわよ」
それぞれの反応の差はあれど、3人共に了承した。
「ありがとうございます♪では場所はゴリ崎…桐崎さんのお宅で良いですか?」
「あんた最初から私の正しい名前を言えないの!?…それになんでまた私の家なのよ?」
「一番敵視している方の家に出向くことで、敵意が無いことを証明するためです!」
「なんでそれを目の前に居る本人に堂々と言ってんのよ…」
千棘は万里花のやたらと堂々とした態度に呆れ返る。
「…ま、良いわよ。お茶とお菓子出して話すくらいでしょ?それくらいなら」
なんやかんやで了承する千棘。
「ありがとうございます♪では日程を―」
こうして後日、5人での茶話会を開くことになった。
そして迎えた、茶話会当日の朝。
鶫は出かける支度をしていると、屋敷の棚においしそうなビスケットが置かれているのを見付けた。
「お、これは…おいしそうだな。お嬢や皆さんにも食べてもらおう♪」
鶫はふふっと微笑んで、バッグの中にビスケットを入れた。
…入れてしまった。
続く。
えーと、千棘のゴリライジりを入れてみたくて書いてみました。万里花はこういう相手を煽るボケがいくらでも出来ますね。千棘のツッコミでぴんと来ないものがあった方はぜひお調べください()
今回はこの話を含めて3話に跨りますが、順に
①コメディー
②コメディー&割とエロ
③どどどエロ
になります。今日考えました。こうします。
以前までのも含めて、これはもう危ないなってものをどう扱おうかな~と考えています。R-18の方に今と同じタイトルにしてエロ回だけ置く(例えば第17・20・21話だけそっちに置く)のもありかと思ったのですがどうでしょうか。このサイトに詳しい方のご意見頂けますとありがたいです!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!