翌日、学校。
教室で楽は昨日一日を振り返っている。
「(あ~、あの御影って子、嵐のように去って行ったな・・・疲れた・・・。早退した理由がばれなきゃいいけど・・・」
・・・昨日の橘、なんかいつもと雰囲気が違って、かわいらしかったな・・・。
・・・は!!!いかんいかん何反芻してるんだ俺は!!!俺には小野寺が・・・!!」
(御影の言葉を思い出す)
『せっかく万里花が婚約者んため言うて毎日揉んで大きくしたとに・・・』
『毎日揉んで大きくしたとに・・・』
『揉んで大きくしたとに・・・』
・・・いかーーーん!!!無心無心!!俺には小野寺がーーー!!!」
「一条君おはよう!どうしたの、顔真っ赤にして・・・?」
ズガッシャーーー
「うおああああ!!!
おおお小野寺か!!おおおおはよう!あははははいやなんでもないよ!!」
「・・・?・・・それならいいけど♪」
きょとんとした表情で、首を傾げながらも笑顔で小野寺は言った。
「あ、ああ!
(あぶねー・・・!・・・しかしきょとんとした顔もかわいいなあ小野寺は・・・」
にやけて顔が崩れている。
「なーににやけてんのよ、朝から気持ち悪いわね!」
「・・・はっ!!千棘か!なんだとこのや・・・そんなににやけてたか?」
「そりゃもうひどいもんよ。人様に見せられる顔じゃなかったわ!」
「なんだとこのゴリラ女!」
直後、千棘の背景が発火する。
「あん・・・?今何て言った?」
「(しまった・・・)あ、いや、なんでもないです千棘お嬢様・・・」
「こんのばかもやしがーーーーー!!!!!」
「ぎゃああああああ!!!」
いつも通り街のどこかへかっ飛ばされる。
学ばない男、一条楽。
「あーいててて・・・なんでこう毎日毎日ぶん殴られなきゃいけないんだ・・・あの怪力女め・・・」
「楽様ーーーーー!!」
どどどどどど
がしいっ
「うおお橘!!だからいきなり抱き付いてくるなって!」
「楽様!私決めましたの!」
「決めたって・・・何を?」
「アプローチの仕方を変えるのです!今まではがんがん行くことで楽様を攻め落とそうとしたんですけど・・・」
「攻め落とすって・・・城じゃねえんだから・・・。それをどうするって?」
「少し、緩急を付けてみようかと思いまして♪
楽様、昨日の遊園地デートのとき、いつもと反応が違いましたよね?」
「(ギクッ)ん、んん~さてなんのことでしょ~?」
「うふふ~ばればれですわよ♪そこで私考えましたの。あのときの・・・言うなればしおらしい私に楽様が好反応を示されたのは、今までのイケイケな態度とのギャップによるものなのでは、と。
ですので、明日からは・・・
いつものイケイケの私・しおらしいノ私の2つを使い分けて行きますわ!覚悟してくださいまし♪」
「お、おう・・・わざわざありがとう・・・?」
「ではでは、また後で!」
「あ、ああ・・・。」
呆然と立ち尽くす楽。
「・・・橘のやつ、昨日のノリでくるだなんて・・・それはかなりやばいんでは・・・?
・・・いやいやいや何を考えてるんだ俺は!何があろうと俺には小野寺が・・・!!」
「(いやしかしあのときのかわいさでそう何度も来られたら正直本当に落とされるんじゃ・・・)」
「・・・いやだからそんなことは・・・!!
・・・ん?今の心の声、俺じゃないぞ?」
右に振り向く。
「・・・おい集、おまえなに人の葛藤に心の声をアテレコしてんだよ・・・。」
横を見るとそこには舞子集がにまっと笑みを浮かべながら立っていた。
「んふふ~いや~~~面白いこと聞いちゃったなーと思って!
っていうかな~に、お二人さん昨日突然早退したと思ったら遊園地行ってたの?しかも万里花ちゃんと良い雰囲気
になってたんだって~?へ~ふ~ん・・・♪」
「ば、ばか、別に良い雰囲気になんて・・・!!
(観覧車でのことを思い出す)・・・雰囲気に・・・なんて・・・」
楽の顔が明らかに赤らんでいる。
それを見てますますにやつく集。メガネの奥の瞳がイタズラ心に満ちている。
「おやおや・・・これはまんざらでもない感じですかな・・・?」
「ちがうちがうちがーーーう!!!俺には小野寺が」
「あれ、一条くん、呼んだー?」
「ほぎゃあああ!!なんでもない、呼んでないよ小野寺!!なんかごめんな!!」
「・・・?うん、ならいいんだけど」
小野寺はにこっと微笑んでその場を離れた。楽は無理やり作った笑顔で応じる。
ものすごい形相で集を睨む楽。
「おおこわいこわい。でも実際楽しみなんだよね。俺はそのしおらしい万里花ちゃんを見たことが無い訳だし。た
だでさえかわいい、女の子らしい、ナイスバディでしかも楽一筋っていう反則にも程がある子なのに、更にパワーアップしちゃう訳だ。
このこの~しあわせものめ~♪」
楽の肩を肘で小突く集。
「だーかーら!そんなこと言われたって・・・!」
ふと集の表情が変わる。
「気持ち、変わるかもよ?」
「え・・・?」
「おまえが小野寺を好きなことも、約束の女の子が誰なのか気にしてることも分かってる上で言うけど、これだけライバルがいる状態で万里花ちゃんはずっと健気にアプローチしてくれてる。
しかもおまえは気付いてないだろうけど、十年越しにおまえと逢えたからなのか、最近あの子はどんどんかわいくなってるよ。」
「そ、そうなのか・・・。
(言われてみれば確かに・・・。デートのときの橘、すげえかわいかったしこんなにかわいかったかなっても思ったな・・・)」
「そんな万里花ちゃんが、最近おまえが慣れて来ていたであろうアプローチのやり方を変えてくるんだ。
・・・気持ちが動いたって、なんにもおかしくないぞ?」
「・・・。」
考え込む楽。集は言葉を続ける。
「おまえに本物の恋人がいない以上、いつコロッと恋に落ちたっておかしくないと思うよ、俺は。万里花ちゃんは桐崎さんと恋人じゃないことを知らないにも関わらずあのアプローチを続けるとんでもない強さのハートを持ってるしな。」
「・・・。」
「おまえが小野寺のことを好きなのは、別に義務じゃないだろ?その気持ちが動いたからと言って、別に誰かがそれを責めるようなものでないぞ?」
「・・・そう、だな・・・。」
「・・・と!言う訳で!」
急に口角を上げる集。
「おまえの恋路がどうなるのか、楽しみにしてるよー♪♪」
「・・・おまえなあ・・・!」
「じゃ~ね~♪」
「・・・おう。」
「・・・いつ恋に落ちたっておかしくない、か・・・。」
そのとき楽の心には、いつも最後に浮かぶ「俺には小野寺が・・・!!」というフレーズは不思議と出てこなかった。
その夜、万里花の自室。
「うふふ~さ~て明日の朝一番のやり方と・・・休み時間のときと・・・廊下で出くわしたときと・・・お昼ご飯のときと・・・放課後と・・・ふふふ、チャンスはたくさんありますわね♪楽しみですわ♪」
続く。