楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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第15話「ナゾッテ」

デートをした日の夜。

万里花は寝る前に、ひたすら楽との思い出を反芻していた。

「ああああ今日は…今まで生きて来て一番幸せな日だったのでは!?いえ、そうに決まってます!!あう~~~…♡ああ、観覧車に乗ったときの楽様の男らしい言葉と…大きな…」

ぼふんっ

「ふわああ思い出しただけでも…!!いけませんわ、そろそろ寝ませんと…!」

枕に顔を押し付けながら悶える万里花。

「お嬢様、もうお休みになられますか?」

「あと200回ほど今日のことを反芻したら寝るわ!」

「(あれ、もう300回程反芻されたはずでは…)承知しました。」

そう言うと、本田は部屋から姿を消した。

「…今後は…あまり頻繁に色気で攻めすぎても引かれるかしら?」

万里花はデートのときの楽の反応を思い出す。

「…やっぱりある程度ならやっていですわね♪さあ、また気合を入れて攻めますわよー!♪」

悶えと反省を繰り返し、結局その後4時間眠りにつけない万里花であった。

 

日は変わって、月曜日。

楽の自室。

「…。…またか…」

楽は起きると、ぼそりと呟いて洗面所に履いていた下着を洗いに行った。

「…いくら興奮したっつったって、二晩連続はねえだろ…うう」

欲にまみれた自分にほとほと呆れ返る楽だった。

部屋に戻ると、LINEに通知が来ていた。

「あ、万里花だ。なんだろう?」

以下、万里花からのメッセージ及びそれに対する楽のツッコミ。

「おはようございます、らっくん♪」

「すぐに既読がつかないと言うことは、下着でも洗われてたんですか?」

「なんで分かるんだよ!?ピンポイント過ぎるだろ!?」

「発信機と盗聴器と隠しカメラを使用していますから」

「何サラッととんでもないこと言ってんだ!!!どこどこどこ!?」

「まあそんなことは置いておきまして」

「俺のプライバシー…」

「一日お会いしないだけで、なんだかとても寂しくなってしまいました。学校で会えるのを楽しみにしています♪」

「…俺も、なんか早く顔が見てえな。」

「うふふ♪嬉しいですわ♪」

「あ、そうだ」

「?」

「今日はお弁当を作って参りますので、らっくんはお作りにならなくていいですよ!絶対ですからね!」

「うえ!?わ、わかった…」

「あと、二人で食べましょう!」

「わ、わかっ…うえ!?」

「はい、決定ですわ!」

「んな強引な…」

「それではまた学校で♪」

「お、おう…。」

「(投げキッスのスタンプ×50)」

「多くねえか!?」

以上。

「…あ、朝からツッコミ疲れた…。学校行くか…。」

出発前からくたくたになりつつも、楽は家を出た。

 

そして学校に着く。既に千棘、小野寺、るり、集が登校していた。万里花はまだ来ておらず、鶫は見回りをしている。

「おはよう、ダーリン」

「おう、おはよう、千棘。…そういや土曜日はなんで3人でスケート場にいたんだ?おまえらそんなに仲良かったっけ?」

「え!?あ、う、うんそうなのよ~あははは!ね、ねえ、小咲ちゃん!?」

「う、うんそうなんだよ!あはは!」

「(ウソが下手ねえ…)」

「(あれで隠せてると思ってんのかねえ…)」

精一杯取り繕う千棘たちを見て呆れ返るるりと集。

「ふーんそうなんだ。…あ、千棘に言っておかなきゃいけねえことがあるんだった…。」

楽は伝えるべきことを思い出し、気まずそうにしている。

「え、なになに?」

「実は…土曜日、遊園地で俺、橘におまえとの恋人関係が偽物だってことを伝えたんだ。」

「はあ!!?な、なんで急に…!!」

「わりい!言わなきゃいけないと思ってな…。」

「(うう…万里花がこのことを知ったとなると、いよいよこれから大変なことに…!)だ、大事な秘密なんだから、あんまり広めないでよ…!?全くもう!」

「お嬢、どうかされましたか?」

「あ、つ、鶫!ううん、なんでもないのよ!」

そこに鶫が戻って来たため、千棘は慌てて話題を変えた。

 

そこから数分ほど経つと、万里花が入って来た。

「おはようございます、らっく…楽様♪」

「らっくらく様ってなに…!?」

「おはよう万里花(あ、やっべ…)…ま、マリカ・タチバナ。」

「なんで英語っぽい上にフルネーム!?」

楽と万里花が誤って二人きりのときの呼び名で呼びそうになるも、二人とも極めて曖昧にごまかした。そしてそこにすかさず入る千棘のツッコミ。

「んもう、朝からぎゃーぎゃーうるさいですわねえゴリ崎さんは。ねー、楽様♪」

「お、おい…!」

どさくさ紛れで楽に抱きつく万里花。

「ゴリ崎って何よ!?あんたねえ…!!」

「そう言えば」

千棘の言葉を遮り、万里花が切り出す。

「遊園地ではお三方にお会いしましたが…あれはもちろん、偶然ですよね?」

笑顔で質問しているが、目が笑っていない。

「そそそ、そうよ、そうそう!たまたま暇だったからね!」

ツッコミを遮られた上に、急に痛い所を突かれ慌てふためく千棘。

「へえ…。…あら…?」

3人の様子がおかしいことに気付く万里花。三者三様に目が泳いでいる。

どうやら3人は観覧車を除いたときのことを思い出したようだ。

「ただ遊びに行ったにしては、反応が何やら不自然ですわね…もしかして、覗いてらしたとか?」

「(ぎくっ)」

「例えば、観覧車…とか?」

「(ぎくぎくっ)」

万里花の言葉に対しあまりにも真正直に反応する3人。

「全く…しょうがないですわね。(…どこまで見ていたのかしら…?)」

万里花が呆れかえっていると、るりがあることに気付いた。

「あれ、橘さん…」

「?どうしました?」

「首に…」

嫌な予感がした楽が万里花の首に目をやると、そこにははっきりとキスマークが付いていた。

「「あっ」」

「「「!!??!!??」」」

楽と万里花が声を上げると同時に、千棘・鶫・小野寺の3人が固まる。

「な、な、な、なーにしてたのよダーリン…!?」

千棘の拳は既に発火している。

「(この反応と言うことは…少なくともらっくんが私を攻める場面は見ていないようですわね…)」

3人の様子から、万里花はどこまで見られていたかの見当を付けた。

「ま、待て、千棘、これには深い訳が…」

「ま、万里花、何とか言ってやってくれ…!」

小声で万里花に助けを求める楽。

「わかりましたわ!」

万里花が立ち上がる。

 

「みなさん、楽様は、私が楽様の両頬と首に口付けをしたのに対してお返しをくれただけです!何も悪いことはしていませんわ!」

「あれ、おかしいなこれデジャヴ」

「それにあの日だけで私のお尻と胸の両方を触られたのです!」

「いや、お尻の方は事故で、あ、いや、胸はその」

「特に胸を揉みしだくときの楽様の手の感触は…今もはっきりと覚えていますわ…。」

「あ、やばい」

「で す か ら 。楽様は何も悪くなどないのです(どやあああ…)!!」

「」

 

いつか見たことのある光景であった。そしてこの後の結末も当然踏襲することになる。

「組のみんな…元気でべぶらああああっっっ」

べきばきどこっっっ

どんどんどんどんどんどんっっっ

「走馬灯すら見させてやらないわ…!」

「一条楽…貴様…お嬢がいながらなんと言うことを…!!この変態が!!」

千棘にタコ殴りにされ、鶫にハチの巣にされた上で、きっちり罵声を浴びせられる楽。

「…す、すみませ…でし…ぐふっ」

もはやまともに謝る体力も残っていなかった。

 

ちなみに、小野寺は万里花の言葉を何度も反芻していた。

「一条くんが…お尻と胸を…一条くんが…お尻と胸…一条くんの…うーん」

はらり

「小咲ー!?」

完全に頭がショートしてしまい、儚げに倒れた。

 

休み時間、楽と万里花が話していた。

「おまえなあ…何事細かに話してんだよ…死にかけたってか一回死んだぞ俺…」

「ごめんなさい…。…あんな言葉をかけて頂いただけでもこれ以上無いほど嬉しかったんですけれど…まだ、不安なんです。だから、皆さんを少しでも牽制出来ないかと思ってやってしまいました…ごめんなさい…。」

「…俺のせいでもあるんだな…。ごめんな。」

「いえ、いいんですよ♪楽様はお優しい…♪」

「…!…使い分けると、こっちの呼び方も新鮮ですげえ良く感じる…」

「…あら、そうなんですの?これは研究し甲斐がありますわね!♪」

最終的にバカップルな会話で落ち着いた。

 

そして昼休み。

「楽〜、飯食おうぜ」

「あ、わりい、今日は先約が入ってるんだ」

楽はどことなくそわそわしながら言った。

「あ、ならしょうがな…んん?」

集は言葉を止めて、教室の出口を見た。

万里花がにこにことしながらお弁当、というよりお重を持って立っている。

「さあ楽様!参りましょう!♪」

「お、おい!」

目をきらきらさせながら楽の手を引っ張り駆け出す万里花。

「わ、わりいな集!」

「おうおう、ラブラブだね〜♪楽しんでらっしゃい!」

集はにやにやしながら楽を見送った。

 

「…ふう。どこで食べるんだ?」

落ち着きを取り戻し、楽が万里花に聞く。

「うふふ…屋上ですわ!」

万里花はそう言うと、楽を屋上まで連れて来た。

この時期にしては比較的涼しい風が吹いている。

「…気持ち良いですわね…」

万里花はそう言うと、横髪を耳にかけた。

その仕草と穏やかな万里花の笑顔に、楽は息を呑んだ。

「…綺麗だ…」

「…え?」

「あ、いや、つい…!今、おまえがすげえ綺麗だなって思って…」

「…!」

万里花は無言のまま俯いた。顔が赤くなっている。

「…あ、ありがとうございます…。」

「(…うああなんだその反応はーーー!!かわいすぎるだろう!?)」

万里花の反応に楽が悶える。

「…そ、そろそろ弁当食べたいな!」

話題を切り替える楽。

「そ、そうですね!ではこちらに!」

「え」

万里花が指した先には、屋上には不似合いにも程がある豪華なテーブルと椅子が絨毯の上に置かれていた。大きな屋敷にしか置いていないようなしっかりした代物だった。

「さあ、こちらへ!」

「あ、いや…もっと普通の空間で食いたいんだけど…」

「あら、残念ですわ…ではこちらにしましょう」

ぱちんっ

万里花が指を鳴らすと、どこからともなく数名の黒子が現れ、テーブルと椅子を回収した。そして続けざまにベンチを一つ設置して瞬く間に去って行った。

「…あの人たち、一体どっから…」

呆然とする楽。

「さあさ、らっくん、こちらへどうぞ♪」

今度のベンチは普通の、公園に置かれているような物だった。

二人で並んで座り、食べ始める。

「最初はもちろん…はい、らっくん、あーん♪」

「うお…!…あ、あーん」

恥ずかしがりながらも応じる楽。以前までと比べると、万里花のこういった押しにかなり容易に応じるようになった。正直メロメロも良いところである。

「お味はいかがですか?」

「…超うめえ。」

しみじみと感動する楽。

その後、どんどん食べ進める楽。

「…あれ?」

一口目以降、万里花は何もせずにこにこしながら楽が食べるのを見ていることに気付いた。

「…今日は何もしてこねえんだな。」

「まあ、らっくんったら!私だっていつも攻める訳じゃないんですよ!二人っきりなら邪魔者もいませんし、安心してらっくんのことを見ていられるのです♪」

万里花がにっこり微笑む。

「(…かわいすぎる…)」

打ちのめされる楽。

「それとも…何かしてほしいんですか?」

先程までの表情から一転、急に艶かしい表情を見せる万里花。

太腿にそっと手を添えた。

急な変化に慌てる楽。

「いや、ば、俺は…その…」

楽が口ごもると、万里花はふっと笑みをこぼした。

「…冗談ですよ♪」

「…おまえな」

するっ

「!!」

楽が安心しかけたそのとき、万里花は楽の首に手を回し、急に顔を近付けた。

今にも唇が触れ合いそうな状況になり、楽は再び慌てる。

「…〜〜〜!!?」

もはや言葉にならない声を上げていた。

すると万里花はあっさり離れた。

「うふふ…冗談を畳み掛けてみました♪いかがでしたか?」

唖然とした後、万里花にいいようにやられたことに恥ずかしくなる楽。

「… お ま え は 〜 !」

そのとき、楽の脳裏にいかがわしい案が生まれる。

「(あ、これ…どうしよう…いや、これはおしおきだから良いんだ!よし!)」

脳内会議の結果、いかがわしい案が採用されたようだ。そして万里花に切り出す。

「万里花、ここに、俺に背を向けるように立って」

「!え、は、はい…」

何やら雰囲気が変わった楽に戸惑いつつも、言われた通りにする万里花。

楽のすぐ前に万里花が背を向けて立っている状態になっている。

「そーしーてー!よっと」

つつつー

「ひあう!!?」

がくがくがくっ

唐突に万里花の首筋から腰にかけて指でなぞった楽。

くすぐったさと、若干混じったそれ以外の感覚に突然襲われた万里花はへたりこんでしまった。

「あうう…らっくん、何を…?」

「…!…。今度は…こっちから!」

つつつーー

「ひいいんん…!!」

少し涙目の万里花を見て楽はスイッチが入ったのか、返す刀でへたりこんだ万里花の腰から首筋にかけてなぞる。

万里花は手まで下に付いてしまった。

「はあ…はあ…お仕置きだぞこれは!」

「んん…ううう…らっくん、マニアック過ぎますう…」

息を荒げて立つ楽の前に、お尻を向けて四つん這いになっている万里花と言う異様な状況が、凡矢理高校の屋上で繰り広げられていた。

「(…いかん、何か目覚めたかも…ここからどうしよう)」

「今日はこちらで食べましょう!天気も良いですし!」

「いいわね!そうしましょう!」

がちゃっ

「え?」

「ん?」

「「えっ」」

楽がこの後の展開について考えを巡らせていたそのとき、鶫の提案で屋上にご飯を食べに来た千棘たち一行と遭遇してしまった。千棘たちは楽と万里花の体勢を見て固まる。

「…」

「…」

「…何か、言い残したことはある(にっこり)?」

「…ここから飛び降りた方がすんなり逝けるかな…?」

「さあね…両方試してごらんなさい!!!よ!!!」

どごしゃあああああ

「ぐおあああああ!!!」

魔王の咆哮の様な叫び声を上げて吹き飛ばされる楽。

万里花はその様子を呆けながら見つめていた。

 

ちなみに小野寺はいつも通り固まって呟いていた。

「た、橘さ…い、一条く…あ、あれは…ば、バッ」

「小咲、それ以上はだめよ」

「あ、る、るりちゃん…で、でもあれは…バッ」

「だからだめだって言ってんでしょ、この耳年増!」

「うう…るりちゃん人のこと言えないでしょ…」

 

晴れ渡った昼下がりに似つかわしくない、不埒な光景が広がる屋上であった。

 

 

 

続く。

 

 

 

 




残業ウィークなもんで更新が滞りました~毎日書いてはいたんですが結局5000字を越える量になり時間が…!

感想、一つ一つが本当に嬉しいです。めっちゃ元気をもらえます。マリー愛されてますね。もちろん僕も大好きですよマリー。

この話を書いている途中に丸々一話分思い付いたので、明日の夜か明後日には上げたいと思います!

明日は月イチの土曜出勤ですわ頑張ります(白目)

今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!

ああマリー。

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