楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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第11話「フタクミ」

デート前日の夜。

 

橘は自室で本田と打ち合わせをしていた。

「本田、作戦開始前と作戦開始後の私の戦績の比較をしたいわ。データを出してもらえる?」

「はい。

以前は一日の中で、お嬢様からのタックルが8回、ハグ12回、ソフトタッチ程度のスキンシップが43回、話しかけた回数はお嬢様からが121回に対し、向こうからはわずかに4回でした。

しかし、作戦開始後の戦績を平均しますと、一日の中でお嬢様からのタックルが3回、ハグ10回、ソフトタッチ程度のスキンシップが25回、話しかけた回数がお嬢様からが50回に対し、向こうからは28回という具合になっております。

お嬢様からの働きかけを減らしたにもかかわらず、向こうからの働きかけが増えると言う結果になっています。

これは、作戦の効果が顕著に現れていると考えて良いかと思います。」

「・・・ぃよっし・・・!!!本田、ありがとう。」

「はい」

本田は部屋から瞬時に姿を消した。

「これは・・・思った通り、いや、思った以上の効果が出ていますわ・・・!この調子で行けば・・・うふふふふ・・・」

自分の顔が緩みに緩んでいることに気付く橘。

「・・・は!いけませんわ、顔がついついゆるゆるになってしまいました。

よーーし、明日もこの調子で攻めて行きますわよー!」

気合を入れ直したところで寝床につく。

 

「・・・でも、楽様から声をかけて頂いたり、純粋に好意的な反応をしてもらえるという事態に慣れていないから・・・照れますわね・・・。明日はテンパらないようにしませんと!

・・・ああ、早く明日にならないでしょうか・・・。

・・・らっくん・・・。」

 

ぽそりと楽の名を呟くと、橘は眠りについた。楽の絵が書いてある抱き枕に身を寄せながら。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

土曜日。

 

集が指定した遊園地の前に9時集合になっていたのだが、緊張で楽は8時過ぎには着いてしまって時間を持て余していた。

「あー、そわそわしちまってついつい早く来すぎちまったな・・・。・・・ヒマだ・・・。」

入口前でうろうろしていると、橘がやって来た。

「あら、楽様!おはようございます!お早いですね♪」

「あれ、橘!おはよう。おまえこそずいぶん早いじゃん」

「・・・その、待ちきれなくなっちゃいまして・・・」

少し俯き気味に、照れ隠しをしながら橘がぽそりと呟いた。

「(そんな恥ずかしがりながら言うなよーーー朝からどきどきしちまう!!)そ、そっか・・・。」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

ここ最近のことが頭を巡り、いまいち会話出来ない二人。

「(・・・うう、ダメですわ、いざ楽様を目の前にすると、何を話したらいいか分からなくなって・・・はわわ・・・どうしましょう・・・いつもならこんな事ありませんのに・・・)」

「(え~と何か話題を何か話題を・・・!)・・・あ!ここあれだよな、前篠原が連れて来た遊園地だな!ボンヤリランド!」

「!あ、ああ、そうですわね!気付くのが遅れてしまいましたわうふふ・・・」

「「・・・あっ・・・」」

なんとか楽が会話を切り出したものの、二人はそのときのことを思い出し急に恥ずかしくなった。

観覧車でキス寸前まで行ったこと。そして、その後二人の関係性が徐々に変わって来ていること。

一つ一つの出来事を思い出し、余計に話せなくなる二人。

この光景は、どことなく、楽と小野寺が会話しているときの空気に似ていた。

 

二人がどもりにどもっていると、集とるりの二人がやってきた。

「お~、お二人さんおはよう!早いね~!」

「おはよう。あ、ああ、二人ともたまたま早く来ちまってな。」

「へ~?」

集がいつものにやにやスマイルを浮かべる。それに気付き慌てる楽。

「そ、そういうおまえこそ宮本と二人で来てんじゃねえか!」

「あ、俺らは途中でばったり会ってそのまま一緒に来たんだよ~。いやーやっぱり運命のぐはあっっ」

集の顔面の側面にるりの手刀が飛ぶ。

「余計なこと言ってんじゃないわよ・・・!二人とも、おはよう。」

集を踏みつけながら、るりが挨拶をした。

「げふっ・・・るりちゃん、そろそろ踏むのを止めて頂けますでしょうか・・・。」

「・・・。」

無言で集を踏む足をどかするるり。

「・・・ふう。んじゃ早速中に入ろうか!」

こうして4人は遊園地に入って行った。

 

 

その後ろに3人程の人影が。

「まったく・・・油断も隙もあったもんじゃないですね。ねえお嬢!」

「そ、そうね・・・いやしかしびっくりしたわ。鶫が早朝に楽と万里花をそれぞれ見かけたのを報告してくれなかったら見逃してたところだったわ。」

「メールで知らせてくれてありがとう、千棘ちゃん。つい来ちゃったけど、本当にいいのかな・・・。」

「いえいえ♪気にしなくいいのよーそんなこと!

それにしても、楽と万里花はまあわかるとして、なんで舞子くんとるりちゃんが・・・?珍奇な組み合わせね~。」

「そ、そうかな・・・?私から見てた感じ、舞子くんとるりちゃんはお似合いな気がするなーと前から思ってたんだけど・・・」

「え!?」

「そ、そうなんですか!!?」

「あ、わ、私の予想だけどね、あくまで!」

「ほえ~そうなんだ~~へ~~~・・・」

「お、驚きです・・・」

鈍感パーティーで鈍感な会話を繰り広げていた。

 

 

一方の楽たち。

「さて、どう回ろうか。」

楽が切り出す。

「敢えて何にも決めてないんだよね~。適当に回って楽しそうって思ったものに片っ端から挑戦してみよう!」

集の提案に一同が乗る。

しばらく歩いていると、コーヒーカップがあった。

「お、コーヒーカップか~。最初はあれで楽しんでみようか!」

「ん、まあ無難じゃねえか?じゃあ乗るか。よし!行くぞ橘!」

「きゃ!あ、はい・・・」

「・・・!」

橘の手を引くも、前回と同様、いやそれ以上に恥ずかしがってしまい、まともに話せなくなる橘。

「だ、だいじょうぶ・・・か・・・?」

「あうう、ご、ごめんなさい・・・。も、もう大丈夫です!」

橘がそう言うと、二人は改めてコーヒーカップに乗った。その後ろ姿は完全に初デートをするカップルでしかなかった。

 

「むふふ~初々しいね~お熱いね~お二人さん!それじゃあるりちゃん俺らもほふっ」

「はーい調子に乗らないの・・・」

集の鳩尾に突きを入れるるり。

しかし、その攻撃はいつもに比べて、少しではあるが軽かった。

それに気付く集。

「ぬああ・・・あれ?なんかるりちゃん、いつもより力入れてないんじゃない?

・・・いやー参ったなーーーるりちゃんも手を繋ぐのまんざらじゃげぼらあっっ」

「ちょ・う・し・に・の・る・な・・・!!!」

集の言葉が終わらぬうちに、飛び後ろ蹴りを食らわせるるり。

「げぼら・・・今まででもベストの蹴り・・・ナイスです・・・

・・・あ、あと良いもん見せてもらったよ☆」

「・・・?・・・!!」

どごっどごっどごっ

ばきばきばきっっ

ごしゃああっっっ

蹴りの際に何を見られたのかに気付き、無言で袋叩きにするるり。

「どれだけ殴っても殴り足りないわ・・・」

「おぶふう・・・し、死んじゃう・・・」

るりに引きずられてコーヒーカップに乗る集。

 

 

「・・・なーにやってんだあいつは・・・千棘や鶫でも、あんな激しい攻撃すんの見たことねえぞ・・・」

 

楽と橘、そして集(死体)とるりを乗せたコーヒーカップはしばらく回り続けた。

 

「・・・白・・・☆あ、ごめんさなさいなんでもないですぶふっ」

 

 

コーヒーカップを乗り終えた4人。

「あ、俺飲み物買ってくるよ。集、手伝ってくれるか?・・・生きてるか?」

「ん、ああ生きてるよかろうじて!オーケー。じゃあ女の子たちは待ってて♪」

そう言って楽と集は飲み物を買いに行った。集は歩き方が明らかに不自然であった。

 

ぽつん、と残された橘とるり。

「(・・・考えてみれば、橘さんとちゃんと話すのってこれが初めてじゃないかしら・・・?

さて、何を話したもんやら・・・)」

元々そんなに人と話すのが得意ではないるりは考えていた。

すると、先に橘が口を開く。

「・・・ふう、だめですわね。変に緊張してしまって楽様にまるでアプローチ出来ていませんわ!もっと力を抜いて、意図的にどんどん仕掛けて行きませんと・・・!」

「・・・あなたは・・・本当にすごいわね。これだけ一人の人に一途になれるなんて、尊敬に値するわ。」

「ふふふ♪それはもう、10年間思い続けてきたのですから!それに楽様にお会いしてからの1年間の想いも加わってますからね!」

 

橘が話しているとき、楽と集が戻ってきた。

集は橘とるりの雰囲気を察すると、楽に言った。

「・・・おお?これは、俺らが聞けない二人の本音を聞くチャーンス!おい楽、今行くのはやめてちょっと聞いてみようぜ!」

「ば、ばか何言ってんだおまえは!」

「いいからいいから。・・・おまえも興味あるだろ?今万里花ちゃんがおまえをどんな風に思ってるのか。」

「・・・。」

何も言わず、そっと集と同じように聞き耳を立て始めた楽。

 

「・・・でも、だからこそ、もう少し振り向いてほしいのです。普段どれだけ真っ直ぐな気持ちで行っても、お茶を濁すような反応ばかりでしたから・・・。

・・・しかし!最近は楽様の反応が変わって来ましたわ!これならば行けるという自信が出て来ました!!

・・・やっと、あの方が私を見るようになってくれた。私のことをかわいいと言ってくださるようになってくれた。あの方の色んな表情が見ることが出来るようになってきた。

・・・それが、私には嬉しくてしょうがないのです。本当に幸せなんです。」

とても優しい笑みを浮かべる橘。

「・・・そう。・・・聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃったわ」

橘のどこまでも真っ直ぐな楽への想いを聞いて、るりは平静を装いながらも耳まで真っ赤になっていた。

聞き耳を立てていた楽も真っ赤になっている。

「・・・ふふ、こんな気持ち、楽様本人にしか言うことがなかったので新鮮ですわ♪

いつもなら興味無いことなんですが、聞いてくれたお礼です。あなたは舞子さんのことをどう思ってるんです?」

「お礼で質問を返すってどういう・・・まあいいわ。

舞子君は・・・この気持ちをどう言ったらいいのかしら・・・最近、少しずつ・・・

・・・ん?」

るりの視線が不意に斜め後ろに動く。

つかつかつかっ

ぐいぐいっ

建物の角に歩いて行き、集と楽をつまみ上げるるり。いつもの無表情ではあるが、顔から明らかに殺意が漏れ出ている。

「これはこれは・・・お二人ともどうされたんですかこんな所で・・・」

「え、あ、いや、ちがうんだ宮本、これは・・・」

「途中から聞き耳立てちゃってた~えへ☆」

「」

集があっさり自供し、言葉を失う楽。

「・・・歯、くいしばりなさい」

「「あっ」」

 

しゅううう・・・

ぱら・・・ぱら・・・

仲良く壁にめり込んだ楽と集。

「まったく・・・」

「まあまあ♪これくらい良いじゃありませんか♪」

るりをなだめると、橘は楽の元へ行き壁から引っこ抜いた。

「うう・・・あ、ありがとな、橘」

「いえいえ♪・・・どこからお聞きになられたのですか?」

「う・・・も、もう少し振り向いてほしい云々ってところから・・・かな・・・」

それを聞くと、橘は顔を赤らめ俯いた。

「うう・・・今までならこれくらい平気でしたのに・・・とても、恥ずかしいです・・・」

橘の予想外の反応に慌てる楽。

「うわわ、ご、ごめんな橘!」

慌てる楽を見て橘はくすっと笑う。

「・・・ふふっ♪良いんですよ♪じゃあ次の場所に行きましょ~♪」

そう言って橘はいつものように楽に抱き付く。

「うおお・・・!ば、ばか薄手の服なんだからそんなに抱き付いたら・・・!」

「え?抱き付いたら・・・なんですか?♪」

「・・・。」

無言で視線を下に移す楽。橘が事態に気付く。

「・・・あら!もう、楽様ったら♪」

楽の状況を把握すると、追い打ちをかけるかのように抱きしめる力を強くする橘。

「うおおおこら・・・!!やーめろって・・・!!」

楽はただただ慌てることしか出来なかった。

 

そんなやりとりを、少し遠目で見ているるり。

「仲のよろしいことで・・・」

「あ、あの~・・・るり様、私の身体も抜いて頂けませんでしょうか・・・」

「だめ。しばらく反省なさい。」

「はい・・・」

もはや飼い主とペットのような関係になっている二人であった。

 

 

橘の声を聞いて、るりは考えを巡らせていた。

「(本当は今回のデート、あの二人の仲を探るついでに多少でも邪魔したり、一条君に小咲のことを思い出させるようなことを言おうかと思ったけど・・・あれだけ純粋な想いを告げられると、何もできなくなってしまうわね・・・。

・・・今日は、おとなしくしておこうかしら。」

 

 

 

続く。




デート編、いざ書き始めたら前後編どころか3話くらいにまたがりそうです。びっくりです。
あと、今まで行間開けすぎてたなって思ったので今回からきゅっと縮めました。
続きも頑張ります。
今年もよろしくお願いします!!

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