やはり『過負荷』は青春ラブコメなんて出来ない。   作:くさいやつ

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球磨川みたいな性格を書こうとしたけどキャラがブレブレになってしまった……。
まぁ、球磨川自体元々キャラがブレブレなんだが。


比企谷八幡の入部

千葉市立総武高等学校。

 

この学校は周辺の地域にもそれなりの名門として有名な高校だ。

勿論、漫画や小説にでも出てきそうなお嬢様や御曹司がうじゃうじゃと居るわけではない。が、この高校に入学する時点でそれなりに教養がある事は確実だ。

 

そのような理由もあり、この高校において"表立った"いわゆる虐めと言われる物は非常に稀だ。しかも、生活指導である平塚静の尽力により、ここ数年の生徒間の争いは無い。

 

そう。無い筈なのだがーーー

 

 

「『おいおいおい』『誰が僕の弁当にゴミを入れたんだい?』」

 

面倒な午前の授業が終わり皆がワイワイと騒ぎ始めた頃、一人の男が態とらしく教室に響くような声量で言う。

 

シーンと静まり返る教室。

 

その発言をした男の机を見ると確かに彼の弁当であろう物に埃やら髪の毛やらが明らかに人為的だろうというレベルで大量に入っている。

誰の目にも昭然な虐めだ。

 

こんな事をされている男の名前は比企谷八幡。

見た目は教室内でも上の方に居るであろう容姿だが、それを打ち消すどころかマイナスまで持って行くぐらいに見ているだけで気持ち悪くなってしまうような雰囲気がある。

まるでこの世に存在するあらゆる気持ち悪さを集めて、煮詰めて、灰汁を取り、濃縮凝縮させたような気持ち悪さ。

 

「『まったく』『誰が僕にこんな事をするって言うんだ!!』」

 

プンプンと擬音が聞こえてきそうな程に怒ってますという雰囲気を出す比企谷。

 

そんな比企谷を見ながら数人の男子がニヤニヤと笑っている。

そのうちの1人が比企谷に近寄り、机にダン!と手をつき話しかける。

 

「あ〜、ごめんなぁ!それやったの俺なんだわぁ!なんかムカついてさぁ?許してくれるよね」

 

謝ってはいるがニヤニヤとした笑みより深めて、全く反省した様子は無い。

比企谷は無残な弁当から顔を上げて、話しかけてきた男子の顔を見る。

教室は今だに静まり返っており、その2人の様子を静かに見守っている。

 

「『えーと、』『ごめん』『モブキャラくん』『きみの名前がわかんないんだけどなんだったかな?』」

 

うーん、と頭を捻りながらすまなそうな顔をする。

 

その瞬間、ブチッと何かが切れる音がして男子の顔が真っ赤に染まる。

 

「あぁ!?何がモブだコラ!俺の名前は泉だ!なぁんで覚えてねぇんだ!」

 

モブ改めこの泉という男はまるで好きな女の子をからかう小学生男子の様に事あるごとにこの比企谷を虐めてきた。その為、有る程度は認識されていると思っていたのだ。だが事実は名前さえ知られてないという真実だった事に短気にも怒ってしまった。というか、泉がやる虐めのような行動がモノを隠すやら落書きをするやらで犯人がよく分からないものだったのが原因なのだが。

 

「『ああっ!』『怒らないで』『暴力はいけないよ』」

 

泉に胸ぐらを掴まれて椅子から立ち上がらせられた比企谷は、両手を顔の辺りまで上げて降参の意を示す。

 

「『僕は君に感謝しているんだ』『最近』『弁当が足りないと思っていた僕にトッピングをくれたんだろう?』『こんな嬉しい事は生まれて初めてだよ』『僕が知らないだけで今日はエイプリルフールなんじゃないかと疑ってしまったくらいだよ』」

 

ゾゾッ

 

「………………ッ」

 

ニコッと笑ってそう言う男につい手を話してしまう泉。

そのまま男は椅子に座り、埃まみれの白米をニコニコと嬉しそうに食べ始める。肝心の泉はと言うと呆然とその様子を見ているだけだった。

 

「『……………?』『ああ!』『僕としたことが忘れてしまっていた』『勿論』『泉君にはお礼をしないといけないよね』」

 

泉のその視線に気づき、ハッとした表情をする。

 

「『うーん』『何がいいだろうか』『そうだ!』『同じ事をしてあげたら良いんだ』『うん』『そしたらおあいこだね』」

 

そう言って立ち上がり、掃除道具入れに入ってあるT字ほうきを取り出して泉の机に置いてある弁当に向かって思いっきり振り下ろした。

 

ガシャァンッ

 

「!!!!!」

 

教室中に衝撃が走る。その後もガンガンと何回も振り下ろす。

 

「『ふぅ』『こんなもんでどうかな』『泉君』」

 

汗が滲んだ額を腕で拭い、一息ついてから成し遂げたと言った風に達成感らしきものを顔に浮かべてまだ呆然としている泉に対して確認をとる。既に弁当は無残に撒き散らさかされている。

 

「……………」

 

だが、反応はない。

 

「『あれ?』『納得できない?』『まだやった方がいいかな?』『まぁ』『愛しの泉くんの為なら吝かではないけど』」

 

そう言って更に振り下ろそうとしている男に制止の声をかける男がいた。

 

「ちょっと、待ってくれ。そろそろやめてあげてくれないか?泉には俺から言っておくから」

 

声をかけたのは、クラス内でもトップカーストたる葉山隼人。金髪イケメンでサッカー部のエースだ。

 

「『うん?』『急に僕と泉くんのコミュニケーションに入ってこないでよ』『それに』『泉くんに何を言うって言うんだ!』『まさか!』『よからぬ事を吹き込むつもりじゃあないだろうな!』『そんな事はさせない!』『泉くんは僕が必ず守る』」

 

バッと両手を広げて、葉山に対して泉を庇うような姿勢を取る。

 

「い、いや。そんなつもりはないから安心してくれ。ただ、そこら辺で泉を許してあげてくれないか?僕の方からも言っておくから」

 

「『そんなつもり?』『じゃあ、どんなつもりだったって言うんだ』」

 

ヘラヘラと薄気味悪い笑みを絶やさずに言う。

 

「………………ッ」

 

何も言えない葉山。

 

「『でも』『どうやら泉くんは優しさで僕の弁当にふりかけをかけた訳じゃなさそうだね』『じゃあ、泉くんには謝罪と感謝を貰わないと』」

 

「え?」

 

男の言っている言葉の意味が分からずに惚けてしまう。

 

「『だってそうだろう?』『まずは僕の弁当にイタズラをした謝罪』『そして次は僕がお礼としてやった弁当にゴミをかけるという行動への感謝』『ほら完璧だ』」

 

さも当たり前のように言う男に葉山は悪寒が走る。

謝罪は分かる、だが感謝とは……。

 

「それで君が許してくれるというのならそうした方がいいだろうね」

 

思うところが無い訳では無いが、今回は泉が全面的に悪いのだ。この学校で虐めがあると発覚すればそれなりに大事になってしまう。ただ、それだけで許してくれると言うなら安いものだ。

 

「ほら泉くん」

 

葉山に声をかけられてハッとする泉。

 

「悪かった比企谷。それとありがとう」

 

こんな奴に頭を下げるのは酷く嫌だが、渋々頭を下げる。

 

「これで許してくれるかい?比企谷くん」

 

 

 

 

 

 

「『え?』『嫌だけど?』」

 

比企谷はケロっとした表情で

 

ゴシャ

 

と泉の頭を踏みつけて言った。

 

 

ーーーーーーなっ!

 

 

今迄、成り行きを見守っていた教室の生徒たちもこれには口を揃えて驚いてしまう。

 

「『だって』『今僕が謝って貰ったのは』『僕の弁当にイタズラをしたことだろう?』『「優しさでイタズラをした」って僕を騙した事には謝って貰ってない』」

 

グリグリと泉の頭の上に乗せた足を動かしながら言う。

 

「『でも僕はそんな事を許さない鬼じゃない』『それに騙される事には慣れてるんだ』『だから誠心誠意謝れば許してあげないこともないよ』『頭のいい泉くんなら分かるよね』『土下座だよ』」

 

泉は確かに自身の心がポキリと折れる音を聞いた。

 

「『なーんて』『僕が大切なクラスメイトに土下座させるわけないじゃないか』『もしかして皆騙された?』『あはは』『これは名役者も夢じゃないね』」

 

バッとずっと乗せていた足を退けて、白々しい顔で言いながら机の方に歩いていく。

 

「『うーん』『でもこんな弁当は正直食べたくないなぁ』『碌なものはないだろうけど購買にでも行ってみるか』」

 

ゴミ塗れの弁当片付けながら、独り言を言う。

 

ーーー……………………。

 

そのまま比企谷は教室を出て行くがしばらく、誰も一言も喋れなかった。

 

 

☆ ☆ ☆

 

放課後

 

「『それで』『僕はなんでこんなところに呼ばれたんでしょう?』」

 

学内で、しかも生徒の前だというのにポケットからタバコの箱を出して、口に加えたタバコに100円ライターで火をつけようとしている目の前の女教師に対して白々しくわかりませ〜んという態度を全面に出しながら比企谷が肩を竦めて言う。

 

「…スー………プハァ。そうだな。本当に分からないか?」

 

女教師……平塚静は何か苛ついているのか、いつもよりもタバコを吸うペースが速い。

 

「『ええ』『まったく』」

 

「…………今日、お前のクラスメイトの泉が退学届の用紙を受け取りに来た」

 

「『ええ!?そんな!?』『なんでです?!』」

 

溜息混じりに力無く言う平塚とは対照的に比企谷は身を乗り出して食いつく。

 

「それは私の方が聞きたい。取り敢えず今は説得してまた後日ということになったが、いくら理由を聞いても答えなかった。

それで、私が見た限りでは虐められている様子でも無かったが一応泉の親しい友人辺りに聞いてみるとどうやらお前が関係あるらしい。お前が自分から何かするような奴とは思っていないがお前は何か知らないか?」

 

「『ええ』『まったく』」

 

比企谷は即答する。

 

「………………ッ。そうか………、なら仕方が無い」

 

平塚は一瞬顔を歪めるが、すぐに戻す。

 

「ところで話は変わるんだが、お前友達いるか?」

 

「『いるに決まってますよ』『愛と勇気だけが僕の友達です』」

 

ハハッと見た目は無邪気に笑いながら応える比企谷。

 

平塚はそんな比企谷に「お前はアンパンマンか……」と軽くツッコミを入れながら、頭を捻る。

 

「でも、教室で浮いているのも確かだろう?」

 

「『?』『僕が浮く?』『過負荷(マイナス)である僕が?』『何の冗談ですか静先生』『過負荷(ぼく)が浮くわけないじゃ無いですか』『寧ろ沈んでるまである』」

 

「……………。

まぁ、どちらにせよ。教室に馴染んでないのは事実なんだ。それでお前に提案がある。部活もやってないんだ。お前には奉仕活動をしてもらう」

 

比企谷は奉仕活動と聞いて頭に美少女が裸エプロンで傅いてる姿を妄想する。

 

「着いてこい」

 

椅子から立ち上がり、職員室のドアに向かって歩く平塚に少し遅れてついていく比企谷。

 

「『何処に向かってるんです?』」

 

比企谷は無言で目の前の歩いている平塚に質問する。

 

「それはついてからのお楽しみだ」

 

平塚は歩きながら少し振り向きウインクする。

 

「『…………』」

 

これは聞いても無駄だと思い、比企谷も無言になる。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

目の前の教室。

こんなところ使われてたかな?と思いながらプレートを見ると何も書かれていない。比企谷は立ち止まった平塚に聞く。

 

「『ここどこです?』」

 

「入るぞ」

 

比企谷が質問するが、それに応える事はなく先に戸を開く。

 

教室の後ろには無造作に机が並べられており、倉庫のような役割をしているように見えた。それ以外に特に見るべきものは無く、いたって普通の教室だ。

 

教室の中央に静かにこちらを見る少女が居なければ、だが。

 

比企谷はこの少女を何処かで見た事があるような気がした。

うーん、と頭を悩ましてみるがすぐに覚えてないということは大したことはないだろうと考えるのを止める。

 

他人に興味が無い比企谷でさえ見覚えがあったのも無理はない。

この少女の名前は雪ノ下雪乃。

国際教養科である2年J組に属しており、学力テストでは常に学年1位、運動神経も並外れて良く、さらりと艶やかな黒髪の長髪が綺麗な美少女、そんな彼女は校内ではかなり有名である。

 

彼女は読んでいた本を膝に置き、溜息混じりの息を吐いて

 

「平塚先生。入る時にはノックを、とお願いしていたはずですが」

 

「ノックをしても返事をした試しがないじゃないか」

 

静はコツコツと雪ノ下に近づきながら片手を上げて言い訳する。

 

「返事をする暇なく、先生が入ってくるんですよ。

それで……」

 

雪ノ下は平塚の後ろに隠れるように立っている比企谷を見る。

 

「そこの……気持ち悪い人は誰は?」

 

直球。見て直ぐに思った感想をオブラートに包む事をせず直球で言う。

 

「『僕かい?』『僕は比企谷八幡』『探偵さ!』」

 

ニコニコと薄っぺらい笑みを浮かべて平塚の影から出てくる。そして、某身体は子供頭脳は大人な探偵のように人差し指を雪ノ下に向けながらキメ顔で言う。

 

「………貴方、それ面白いと思ってるの?それに真実どころか事実も見つけられなさそうな顔してるわ、貴方」

 

「『あはは』『手厳しいなぁ』『でも心配しないで!』『僕は確かに事実も真実も見つけられないけど』『隙なら見つけられるから』」

 

比企谷は自分が誰よりも弱く貧弱で脆弱で薄弱で虚弱で軟弱で微弱で情弱でそしてなにより卑怯だということを自覚している。

あらゆる弱さの塊であるからこそ比企谷は相手の弱点や隙を見つけるのが得意だ。

 

「貴方は嫌な人間ね。初見で嫌いだと思ったけれど話してみると更に嫌いになったわ」

 

「『大丈夫』『嫌われる事には慣れてるから』」

 

キッと睨みつける雪ノ下。それにニコニコと笑顔で返す比企谷。

 

そんな2人を宥めるように手を動かしながら2人の間に入る。

 

「まぁまぁ。それで用件なんだが…

こいつを入部させたいんだ」

 

比企谷を親指でクイッと指差しながら平塚が言う。

 

「嫌で『先生』」

 

雪ノ下は即答で拒否の言葉を言うが、比企谷がそれに被せるように平塚を呼ぶ。

 

「『入部なんて聞いてないなぁ』『ホウレンソウは社会人には大切なことなのに』『つまり、先生の言うことを聞かずに入部しなくても』

 

『僕は悪くない』」

 

いつものニコニコとした笑みを浮かべたまま飄々と言い放つ。

 

「ッ」

 

何故か雪ノ下はその笑顔を見て、姉である雪ノ下陽乃を思い出す。

それは無理からぬ事だ。比企谷が浮かべている笑顔が雪ノ下陽乃と一緒で仮面であるから。

 

「確かに急な話だが、それでも入ってもらうぞ。お前の異論反論講義質問口答えは一切認めない」

 

平塚はそんな比企谷をばっさりと一刀の元切り捨てる。

 

「『はぁ』『でも仕方ないか』『こんな理不尽は何時ものことだ』『うん』『ヘラヘラ笑え僕』」

 

「私は認めたわけではありませんよ」

 

何か勝手に納得してしまった比企谷をジト目で見ながら雪ノ下は不満気に言う。

 

「見ての通り、こいつはこんな性格をしているからな。クラスに馴染めて無いんだ。だから、この部でこいつの性格を更生してもらう。それが私の依頼だ」

 

それを聞き、雪ノ下は別に乱れてもない襟元を整えながら身を守るように腕で胸元を隠す。

 

「お断りします。見ているだけで悪寒が止まりませんし、何やら裸エプロンにされそうな視線をしてます」

 

その言葉に心外そうな顔をする比企谷。

 

「『裸エプロン?』『そんなもの、幼稚園児にでも見せておけ!』『僕の今のトレンドは!』『手ブラジーンズさ!!』」

 

ドヤ顔でこれなら構わんだろ!みたいな目をする。

 

「……………」

「……………」

 

それに何とも言えない顔をする雪ノ下と平塚先生。

 

「ま、まぁ、こんなやつだから頼むよ」

 

平塚先生は気を取り直す様に言ってからソソクサと扉の方へ向かいピシャッと戸を閉めて出て行ってしまう。

 

「………はぁ、確かに更生どころか矯正した方が良さそうだけど。まぁ、取り敢えずは歓迎するわ。ようこそ、比企谷くん」

 

そう言ったきり、本に目を向ける雪ノ下。

 

「『歓迎されるなんて生まれて初めてだよ』『座ってもいいかな?』」

 

比企谷は教室の後ろに山積みにされた教具の中から余った椅子を引っ張りだして雪ノ下の数メートル隣に座る。

 

「……………」

「『……………』」

 

無言。

 

どちらも会話を切り出さない。そのせいで又はそのおかげで、窓の外の小鳥の鳴き声が、校庭の運動部の声が、車のエンジン音が、普段は聞き漏らすような雑多な音がよく聞こえ2人の間に流れる。

 

「『〜〜♪』」

 

暫くすると比企谷はやる事も無く、暇になったのかカバンの中から週刊少年ジャンプを取り出して鼻唄混じりに読み出す。

 

「……………」ペラ

 

雪ノ下が小説のページをめくる。

 

「『〜〜♪』」ペラ

 

少し後に比企谷もジャンプのページをめくる。

 

「……………」ペラ

 

「『〜〜♪』」ペラ

 

「……………」ペラ

 

「『〜〜♪』」ペラ

 

その状態が数分続いた後、唐突に雪ノ下がぱたんと本を閉じた。

 

「ねぇ、貴方この部活が何なのかとか、どんな事をしたらいいのかとか、気にならないの?」

 

「『〜〜♪』『ん?』『別に?』『無理矢理入らされたこの部活に興味なんてミジンコ一匹分も無いし』『過負荷(ぼく)に出来ることなんて一つも無いからね』」

 

雪ノ下は頭が痛そうに手で額を抑える。

 

「…………はぁ、取り敢えず貴方が面倒な人間だということが良く分かったわ。たとえ出来なくてもやらない理由にはならないでしょう。取り敢えずは自己紹介でもしましょうか。私は雪ノ下雪乃。貴方は?」

 

「『さっき名前を呼ばれた気がするけど』『まぁいいや』『僕は2年F組比企谷八幡』『よろしくね』」

 

「全然よろしくしたくないけれど、平塚先生直々の依頼だから仕方ないわね。それでこの部活が何部だって話だったわね。そうね、なら逆に質問しましょう。貴方は何部だと思うの?」

 

「『そうだなぁ』『さっきから言ってる「依頼」って台詞から察するに』『「何でも屋」的な部活かな?』」

 

雪ノ下が意外そうな顔をする。

 

「当たらずも遠からず、というところね。

…持つ者が持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。人はそれをボランティアと言うわ。

改めて、ようこそ奉仕部へ。歓迎したくないけれど」

 

ただ依頼を解決するんじゃなく、依頼者のサポートをして依頼者自身の手で解決に導くのがこの部活だ。

 

「『奉仕部ねぇ』『持たざる者の代名詞と言っても良い僕に何かを施させるなんて』『全くどれだけ僕から絞り取れば気が済むんだ』」

 

「今回の貴方は施される側の人間よ。良かったわね。感謝して咽び泣きなさい」

 

雪ノ下はフンと鼻で笑う。

 

「『こんな哀れな僕に何か施してれるのかい?』」

 

「既に居場所を与えてるじゃない。良かったわね。 居場所があるだけで、 星となって燃えつきるような悲惨な最期を迎えずにすむのよ」

 

「『何の引用かは分からないけど』『僕に居場所なんて無いよ』『辛うじて』『僕の部屋のベットの上だけが僕のいるべき場所かな』」

 

「宮沢賢治も知らないなんて、少しは勉強した方がいいんじゃないかしら。一般教養よ」

 

「『過負荷(ぼく)に普通を求めたらダメだよ』」

 

それに雪ノ下は呆れた様にため息を吐く。

 

「取り敢えず、会話シュミレーションはこれでお終いね。私のような美少女とお話しできるのだったら、誰とでもできるでしょう」

 

ニコリと天使の様な笑みを浮かべて、慈愛に満ちた表情をする雪ノ下。

 

「『いやいや』『僕は元々誰とでもお話しできるよ?』『ただ』『相手が耐えられないだけで』」

 

比企谷は会話をしようと思っても、相手が先に気持ち悪さに耐え切れずに終わってしまうのだ。

 

「じゃあ、その気持ち悪さを直しましょう。貴方は変わらないと社会的に問題だわ」

 

「『例え社会的に問題だとしても』『それは社会が問題であって』『僕が問題なわけじゃない』『つまり僕は悪くない』」

 

そう言った瞬間、ガラと戸が開く音がした。

 

「雪ノ下ー。じゃするぞー」

 

そこから、ヒョコと顔を出したのは先程退室した平塚先生だ。

 

「先生。ノックを」

 

ツカツカと入ってくる平塚に対してさっきと同じことを雪ノ下は言おうとするが「悪い、悪い」とあしらわれる。

 

「どうやら、比企谷の更生に手間取っているようだな」

 

チラッと比企谷を見ながらも言う。

 

「本人が問題点に自覚がないせいです」

 

そこに比企谷が待ったをかける。

 

「『おいおい』『欠点だろうと弱点だろうと問題点だろうと』『それも合わせての個性だぜ』『大切にしろよ』」

 

「確かにそうね。貴方の言うことは一理あるわ。だけど、社会では個性より協調性が求められるのよ。学校とは社会に出られるように(そだ)(はぐく)む所よ。貴方がまともな職に就けるようにしなくちゃならないのよ」

 

「『じゃあ』『やっぱり問題点があるのは』『僕じゃなくて社会じゃないか』」

 

白熱しそうになる比企谷と雪ノ下の言い合いに平塚が間に入る。

 

「まぁ、2人とも落ち着きたまえ。

古来より二つの正義がぶつかる時は勝負で雌雄を決するというのが少年マンガの習わしだ」

 

「『最近のジャンプは変化球も多いですけどね』『アンチヒーローとか』『ダークヒーローとか』」

 

比企谷はそれに見当違いのツッコミを入れる。

 

「つまりだ!この部でどちらがより奉仕できるか勝負だ!」

 

平塚は比企谷のツッコミを無視して、ビシ!と2人に指差してポーズをとる。

 

「『強引だし唐突だなぁ』『まるで週刊連載のようだぜ』」

 

「勝った者は負けた者になんでも命令できるというのはどうだ?」

 

それに比企谷と雪ノ下両名が反応する。

 

「『言質は取りましたよ』『先生』『つまり!』『雪ノ下さんを手ブラジーンズにしても構わないということですね!』」

 

いつも濁っている眼をキラキラと輝かせて期待の眼差しを向ける。

 

「いやそれはダメ。警察沙汰になる」

 

「…………なん……だと」

 

その言葉に膝をガクと床につけて、いつも付けている括弧すら外して本気で凹む比企谷。

 

その本気さに流石に哀れんだのか平塚が

 

「パ、パンツくらいなら……」

 

と口走ってしまう。

 

ガバッと起き上がる比企谷。

 

「『久し振り本気で勝ちに行きますよ』『僕は』」

 

いつものヘラヘラとした気持ちの悪い笑みをやめて、やる気溢れる顔をする。

平塚はいつもこんな調子だったら少しはモテるだろうに、と思ったのは内緒だ。

 

「先生、何勝手な事を言ってるんですか……」

 

雪ノ下がジト目で平塚を見ながら、責めるように言う。

 

「す、すまない。つい、な。まぁ雪ノ下なら負けることは無いだろう。あいつは勝てないからな」

 

その言葉に雪ノ下が首を捻る。

 

「?……どういう意味です?」

 

「あいつは不幸の星の元に生まれたと言っても過言ではない。友達もできず、努力もできず、勝利も出来ない。一度でも勝てれば変われるとおもうのだが、な」

 

雪ノ下は何か思うことがあったのか「分かりました。その勝負お受けします」と意思のこもった顔で言った。

 

「決まりだ」

 

こうして2人の仁義なき戦いが始まる?




思いつきで書いたので続きが有るかは不明。

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