遊戯王GX お隣さんに縁がある   作:深山 雅

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改名致しました。今後ともよろしくお願いいたします。


第13話 精霊世界と再会

 シンクロ召喚のテストプレイに付き合うようになって、数日が過ぎた。刻々と年の瀬が迫っているってのに、そんなの関係ねぇと言わんばかりにデュエルに明け暮れる日々だ。

 

 そんな俺の行動は現在、多少制限されている。初日に暴れ過ぎたからだと言われたけど……解せぬ。

 初めは『好きにデッキを組め』と言われていたのが、それよりもまずあらかじめ構築済みのデッキを渡されるようになってしまったのだ。ストラクチャーデッキを使っているようなものと言えば解ってもらえるだろうか。一応、改造は許可されているが。

 自分で組んだデッキでデュエルが出来るのは、そのノルマを終えてからだ。ちぇ~、今の内にはっちゃけたかったのに……あ、勿論今だけだよ? エンディミオンを捨てる気は無いからな? 嘘じゃないよ?

 

 それでも流石に大晦日と三箇日は休ませてくれるらしく、本日12月31日午後、俺はお節づくりの仕上げに奔走していた。これまでも夜帰って来てから地道に用意を続けてたんだよ。あとは簡単なものを作ったり、お重に盛り付けたりするだけなのだ。

 大掃除はね、うん……諦めた。だってここ一軒家(店舗付き)だもの。1日じゃ無理。申し訳ないけど軽い掃除しか出来ない。

 

 だがしかし、そんな中でも事件は起こった。

 

 「はーやーくーこーいーこーい♪ おーしょーぉーがーつー♪」

 

 「…………」

 

 「せめてツッコんでくれませんかね、磯野さん」

 

 ここは走行中のリムジンの中、目的地は勿論KC。俺はまたもや拉致られています。

 

 ちょっと待て落ち着こう何があった。

 

 あれは丁度、俺が栗きんとんに使うサツマイモを潰している時のことだった。他の料理は既に重箱に詰めてしまっていたため、最後の仕上げである。俺は毎年、栗きんとんは最後の最後に作るのだ。何故なら、甘い栗きんとんはお節のメニューの中でも俺の好物だからである。

 いつも最後にちょっと多めに作っておいて、お重に詰める前に出来たてをつまみ食いするのが密かな楽しみだったりする。

 ボウルの中のサツマイモはくちなしと一緒に茹でたお陰で鮮やかな黄金色に染まっていて、俺には輝いて見えた。

 その口の中に広がるであろうサツマイモと栗の濃厚な甘味や仄かな香り、ねっとりとした舌触りに思いを馳せるだけでついつい顔がにやけてしまうのが止められない。人には見せられない顔と言えるだろう。

 双六じいちゃんが出かけていて良かったと心底思う。双六じいちゃんも今日はもう店は開けておらず、のんびりと散歩に出かけていた。

 だがそんな平和な一時は、無粋なチャイムによって強制終了させられる。

 誰だろうと思い、覗き穴から外を確認してみるとそこには、見知った黒服サングラスの男がいた。磯野さんですね解りません。

 俺の顔は盛大に引き攣った。果てしなく嫌な予感がした。いっそ居留守を使おうかとすら考えた。

 けれど再度インターホンが鳴らされ、渋々ドアを開ける。よくよく考えてみれば、ここは俺の自宅では無いのだ。人様の家の留守を預かっておいて、居留守は宜しくない。

 

 「何ですかね、磯野さん」

 

 「海馬様の命により捕獲に来た」

 

 あれ? 数日前にも同じセリフを聞いたような気がするんだけど、気のせいか?

 そこで一瞬だけ現実逃避をしてしまったのがいけなかった。気が付くと俺はまたもやリムジンの後部座席に押し込められ、いとも簡単に拉致されていた。

 

 そして今に至る。

 

 持ち物はポケットの中の携帯電話、そんな状況でもデュエリストの本能で咄嗟に掴んだデュエルディスク+デッキ、そしてうっかり手に持ったままだった潰しかけのサツマイモが入ったボウル……いや、何で俺こんなの持ってリムジンに乗ってるんだ?

 しかもまたもやエプロン姿。何でいつもいつもエプロン着用時にお呼びがかかるんだ……!

 

 ふと我に返ってからは携帯で双六じいちゃんに連絡を取って謝り倒した。だって戸締りできてない!

 それでも双六じいちゃんは許してくれた。『海馬君じゃから仕方があるまい』と言って。なんかもう、それが魔法の言葉のように思えてきた。

 

 「俺が何で呼ばれたのかって、知ってます?」

 

 現実逃避をしていても仕方が無いので、気を取り直して尋ねる。しかし運転する磯野さんは難しい顔をしたままだ。これは……言いたくないというよりも、どう言えばいいのか解らないって感じに見えるなぁ。

 

 「恐らくだが……ペガサス氏が来日したことと関わりがあるだろう」

 

 「…………は?」

 

 ぱーどぅん?

 

 「ペガサスさんが来日……って……そんなニュースは見てないっすよ?」

 

 何せ世界のI2社会長だ、もしも来日したのならば間違いなくニュースになるはずである。

 なので聞き間違いか、そうでなければ性質の悪い冗談かと思ったのだが、残念ながらそうでは無かった。

 

 「極秘で緊急来日した。プライベートジェットでKC社のヘリポートに来たためにニュースにはならなかったのだ」

 

 うそーん……。

 確かにそれなら外部にはそうそう漏れないだろうけど、何だって大晦日に来るんだよ。よっぽどの緊急事態なのか? あ、それとも単に年末年始を重要視してないだけとか? あの人はアメリカ人だし。

 しかも何故俺が呼ばれるのか。冗談じゃねぇよ、これからお楽しみの栗きんとんだったのに。

 くっそぅ、せめて早々に用事を終わらせて帰るぞ。晩飯の年越しそばに乗せる海老天も揚げたいし!

 

 

 ……そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

 連れて来られたKC本社は、酷く閑散としていた。そりゃそうだろう、殆どの社員が休みだろうし。ガードマンがチラホラと見える程度だ。まぁ、それ以外の人間が1人もいないわけじゃないだろうが、少なくとも俺が目にすることは無かった。

 だがしかし、エプロン姿でサツマイモ入りボウルを抱える俺は、そんな数少ない人々にはもの凄く胡散臭そうに見られた。泣きたい。

 そんな羞恥プレイに耐え、俺は最上階へとたどり着く。

 

 「社長、上野優を引っ立てて参りました」

 

 いやだからさ、『引っ立てて』って言うぐらいなら逃がしてくれよ。しかし即座に社長の『入れ』という言葉が聞こえ、俺は促されて中に入る。

 そしてそのまま行ってしまう磯野さん。社長室に残ったのは前回と同じ、社長・モクバ・俺、それに。

 

 「ハーイ! お久しぶりデース! 優ボーイ!」

 

 「確かに直接会うのは久しぶりですね、似非外人さん」

 

 「……痛烈デース」

 

 「すみません、苛立っていたものでつい本音が。お久しぶりです、ペガサスさん」

 

 いつもの真っ赤なスーツに身を包んだ、似非外人ことペガサスである。彼は社長が少しばかり胡散臭そうに見ていることは特に気にせず、ソファで寛いでいる。

 モクバに手招きされて、俺も席に着く。今回はモクバの隣……というよりも、ペガサスの正面らしい。

 

 「で? 新年に向けて準備を進めていた俺に何の用ですか?」

 

 「アー……ユーは今、何をしているのデース?」

 

 「サツマイモを潰してますね」

 

 手に持ったままだったボウルのサツマイモを木べらで潰しながらそう答えると、もの凄く微妙な顔をされた。だって持って来ちゃったものは仕方が無いし、それならせめて時間の短縮だい。

 ペガサスは諦めたように首を振った。どうやらスルーするらしい。賢明な判断である。ちなみに社長とモクバは始めっからスルーしてる。

 

 「実は……コレをユーに見て欲しいのデース」

 

 さっさと本題に入ることにしたらしいペガサスは、自身の横にあるジュラルミンケースをデスクの上に置いてそのまま開いてこちらに見せた。それを認め、俺は。

 

 「んな!?」

 

 驚きのあまり手元を滑らせ、サツマイモのカケラを少し飛ばしてしまった。幸いにもそのカケラは俺のエプロンに飛んだので、社長室の高そうな……いや、間違いなく高いであろうソファやカーペットに被害は出なかったが。

 だが、そんなことをいつまでも気にしていられなかった。何故なら、そのジュラルミンケースの中に入っていたブツは俺の想像の範疇を超えていたからだ。

 そこにはケース一杯のカードが……入っていなかった。

 ケースの中、クッションの上に鎮座するのはたった6枚のカードのみ。ただし、ただのカードでは無い。

 

 【レッド・デーモンズ・ドラゴン】

 【ブラックフェザー・ドラゴン】

 【ブラック・ローズ・ドラゴン】

 【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】

 【パワー・ツール・ドラゴン】

 それに何より……。

 

 「【スターダスト・ドラゴン】……」

 

 シグナーの竜たちじゃないですか。まさか、こんな所で目にすることになるとは。

 目を丸くする俺に、ペガサスは納得したように頷く。

 

 「やはりそうだったようデース」

 

 視線をカードからペガサスの顔に移し、どういうことかと視線で問いかける。ペガサスは少し芝居がかった様子で肩を竦める。

 

 「かつてユーたちに聞いた【スターダスト・ドラゴン】……それはこのカードで間違いありませんネ?」

 

 「ああ」

 

 間違えるはずが無い。そのカードに描かれているのは間違いなく【スターダスト・ドラゴン】の姿。ザッとテキストに目を通したところ、効果も全く同じである。

 

 「一応確かめておきたかったのデース。何しろ実物を見たのハ、ユーと遊戯ボーイだけデース」

 

 パラドックスによる歴史改竄未遂事件。その話に出て来た『特別なカード』の内の1枚、【スターダスト】。なるほど、確かめておきたかったという気持ちは解る。

 しかし。

 

 「……本題は何ですか?」

 

 俺はかなり真面目に話を聞く気になった。サツマイモを潰すのなんて、当然のごとく中断している。

 

 「確認を取るだけなら、テレビ電話ででも見せれば済んだはずです。それをせずに、わざわざ国を跨いでまで実物を持って来た理由は、他にあるんじゃないんですか?」

 

 そう、そのはずだ。事実、これまでにも幾度となく画面越しにシンクロモンスターやチューナーモンスターを見てきた。

 俺のその問いに、神妙な顔になるペガサス。気付けば社長やモクバも真剣な雰囲気を出していた。まぁ、この年の瀬にアメリカから突撃されたのだから、真面目な話でなきゃ彼らもやってられないだろう。

 

 「OK。では、初めから話しまショウ」

 

 ペガサスの話、それはこの6枚のカードを作るに至った経緯から始まった。

 

 以前……と言っても、それほど昔のことではない。ほんの少し過去に遡った頃、南米のナスカの地で6枚の石版が発見されたらしい。マジで見付かったのか、それ。

 1枚に1体、計6体のドラゴンが掘られたその石版を見た時、ペガサスの脳裏にはあるビジョンが浮かんだのだとか。

 それは、6体のドラゴンが赤き竜に率いられて強大な敵と戦う姿だったという。

 そしてペガサスはそのビジョンにインスピレーションを受けて、石版を元に6体のドラゴンをデザインした。それがこの6枚のカードのドラゴンたちだ。

 1度デザインをしてしまうと何故かそのまま置いておけず、まだ名前も効果も考えていなかったというのにカードに起こしてしまった。

 それはかつて、何かに憑りつかれたように三幻神のカードを作り上げた時とよく似た衝動だった、とペガサスは語る。尤も、その時と比べればよっぽど弱い衝動だったようだが。

 そして絵柄のみのそのカードをしばらく置いておくと、不思議なことに。

 

 「カード名と効果テキストがいつの間にか浮かび上がっていたのデース」

 

 「「「……………」」」

 

 何と言っていいか解らず、俺とモクバは顔を見合わせた。だがそんな俺たちに比べると、社長は遥かにメンタルが強いらしい。

 

 「非ィ科学的だ! ペガサス! 貴様、そのような与太話をするためにわざわざ日本にまで来たと言うつもりか!」

 

 言い切った! 流石は社長!

 モクバは勿論、今回ばかりは俺も心からの尊敬の眼差しを社長を向ける。

 けれど真正面のペガサスは、変わらぬ神妙な顔付きで首を横に振った。

 

 「海馬ボーイがそのように言いたくなるのも解りマース。バット、これは全て事実なのデース」

 

 いやいやいや。

 

 「呪いの市松人形じゃあるまいに……」

 

 ボソッと呟いてしまってから後悔した。例えに市松人形なんて出してもペガサスには恐らく解るまい。ビスク・ドールとでも言っておくべきだった。

 だがしかし、その後悔は杞憂となる。

 

 「オー! ナイスジョーク! 気付かない内に浮かび上がっていたテキスト、気付かない内に伸びる髪……確かによく似たシチュエーションデース!」

 

 ……何故知ってるし、アメリカ人。そして何故ウケた。俺はジョークを言ったつもりは無いぞ。だからお願いします、睨まないで下さい社長。

 

 「そ、それでその話の先は?」

 

 社長の視線から逃れるため、俺はペガサスに話の先を促した。

 ペガサスは目を細め、ケースの中のカードたちに視線を落とす。

 

 「不思議なのはそれだけではありまセーン。実はこの内の1枚は、初めにデザインした姿と変わっていたのデース」

 

 「変わっていた、だと?」

 

 良かった、社長も食い付いてくれた。

 

 「イエース。このカードデース」

 

 言ってペガサスがしみじみとした様子で手に取ったのは、【パワー・ツール・ドラゴン】……あ、オチが見えた。

 

 「そいつだけドラゴン族じゃねぇんだな」

 

 俺の隣に座っているのだから、当然モクバからもケースの中のカードたちはよく見える。なので深い意味は無く、ただ見て感じたことをそのまま口にしたのだろうが、その感想にペガサスは苦笑した。

 

 「このカードも、デザインの段階ではドラゴンでシタ。私が見たビジョンの中でも、ネ。バット、気付いた時にはこの姿へとチェンジしていたのデース。けれどその面影は残っていマース……まるで仮初の鎧を纏っているかのように」

 

 それ大当たりだよね。間違いなく隠れてるよね、【ライフ・ストリーム・ドラゴン】が。あの、ゴッズで約2年もの放置プレイを食らった、【ライフ・ストリーム・ドラゴン】が。

 思わず遠い目になる俺と、ますます胡散臭そうな顔でペガサスを見る社長。

 

 「……それで? そんなオカルト話をするためにわざわざ来日したんですか?」

 

 【パワー・ツール】の話もまた、電話で事足りる……というかぶっちゃけ、聞かなくても特に問題は無い……話だ。

 いい加減来日の、もっと言うとわざわざ俺を呼び付けた理由を教えて欲しい。でないと社長の堪忍袋の緒が切れそうだ。

 

 「そうデスネ……実は優ボーイ。実はユーにと言うよりも、精霊と心通わせることの出来、なおかつシンクロ召喚を知るデュエリストに手を貸して欲しかったのデース」

 

 ……いやあの、それって多分、俺の他には遊戯さんぐらいしか選択肢が無いんじゃなかろうか。

 

 ペガサスの話を纏めるとこうである。

 ある理由から条件に合うデュエリストに手を貸して欲しかった。その条件とは前述した2つ。

 精霊と交流できるデュエリストというだけなら、俺たちの他にもいる。

 シンクロ召喚について承知しているデュエリストというだけなら、これも俺たちの他にもいる。

 だがしかし、この2つの条件を兼ね備えるのは俺たち2人だけなのだ。

 

 けれどその2人の内の1人、遊戯さんは音信不通で行方知れず。

 となるともう俺一択なのだが、その俺は学生で普段は孤島のアカデミアにいるし、そんな所にペガサスが訪れるわけにもいかず。この冬休みも、てっきりアカデミアに残っているものだと思い込んでいたのだとか。

 なので初めは、遊戯さんが帰って来るか、俺が夏休みに入るまで待つつもりだったらしい。

 それが先日【DDB】のエラッタ要請を受け、初めて俺が童実野町に滞在していることを知った。

 アレが原因だったのかよ。DDB……つくづく不吉な存在だな。

 とにかく、それでこれ幸いと来日して呼び付けたのだとか。

 

 あのさぁ、せめて事前に連絡してくれないかな? サプライズとかいらねぇんだよ。

 え、何、気持ちが逸ってうっかり忘れてた? もっとダメじゃん。

 

 「それで、俺は何をすればいいんですか?」

 

 「……微かに声が聞こえたのデース。何かを訴えるような声が」

 

 そういえばこの人。精霊と交流までは出来なくとも、その存在を感じ取ることは出来るんだった。

 でもさぁ、それはそれとして。

 

 「どこから?」

 

 何となく嫌な予感がしながら問うと、ペガサスは徐に1枚のカードを手に取った。それはケースの中の1枚であり、どんなカードなのかに気付いた時、俺は先ほどの嫌な予感が決して気のせいでは無かったことを悟った。口元が引き攣るのを止められない。

 

 「このカードデース」

 

 ペガサスがわざわざ手ずから差し出してきたカード、それは。

 

 「【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】……」

 

 他力本願鰻キター! 

 やべぇ、手に取ってはいけない気がひしひしとする。コイツに声を掛けられるって嫌すぎる。他力本願されかねない。

 

 「あのですね、具体的に何を言ってたとかは解らないんですか?」

 

 「それを知るためにこうして訪ねて来たのデース」

 

 「ですよね」

 

 無駄なあがきをしてみるものの、一蹴された。

 でも確かに、これなら例の2つの条件が必須だろう。精霊と交流できることは勿論、【エンシェント・フェアリー】がシンクロモンスターである以上はシンクロ召喚について認知している必要がある。

 ……仕方が無い、か。

 

 「それでは、失礼しますよ……っと」

 

 一言断り、【エンシェント・フェアリー】を受け取る。こんな状況でなければ、シグナー竜を手に出来た感動に打ち震えることも出来ただろうに。

 内心でそんな罰当たりかつ失礼なことを考えつつ、【エンシェント・フェアリー】を手に取った、その瞬間。

 

 『私の声が聞こえますか?』

 

 「!?」

 

 確かに聞こえた。いや、聞こえたというのは正しくない。脳内に響いてきたとでも言えばいいのだろうか。とにかく、女性的な声音のそれに、俺は一瞬身を固めた。

 

 『私の声が聞こえるのですね?』

 

 精霊として目の前に現れているわけではない。あくまでも次元を隔てて声が聞こえてくるだけだというのに、俺の様子が解ったらしい。流石は精霊界の女王と言うべきか。他力本願だけど。鰻だけど。

 

 『頼みます……聞いて下さい』

 

 やっぱりキター。他力本願キター。

 い、いや、落ち着け俺。何だか声の感じが必死っぽいっていうか、懇願してるような感じだぞ。本当に助けを求めているのかもしれない。まずは聞いてみよう。

 俺は腹を括った。しかし。

 

 「えーっと、何ですか?」

 

 不用意にそう返事をしたのがいけなかった。

 

 『まずはこちらへ来てください』

 

 「へ?」

 

 え、あんた何言ってんの? と思った時には、【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】のカードから強い光が溢れ出て来た。

 

 「え、ちょ、待」

 

 いきなりかい!

 

 「ホワッツ!?」

 

 「く……何が……」

 

 「優!? 何してんだ!?」

 

 室内の面々も急なことに驚愕の声を上げる。だがモクバ、俺は何もしていない。濡れ衣だ。

 しかしますます強くなる光に狼狽えてしまい、そう反論するだけの心的余裕も持てなかった。

 とうとう目が明けていられなくなって瞼を降ろすと、その次の瞬間には。

 

 「痛ッ!」

 

 『主!?』

 

 俺は尻餅をついたように倒れ込んでしまった。そんな俺に慌てて駆け寄るエンディミオン。お前さぁ、いつもあんなに偉そうなこと言ってるんだから、もっとちゃんと守ってくれないかな?

 ……いや、甘えるな。自分の身は自分で守るしかないんだ。

 

 「俺は大丈夫だ。心配いらない」

 

 実際、突然のことに驚いて声を上げてしまったものの、落ち着いてみれば大した痛みでは無かった。座っていたソファが無くなって、その分後ろに倒れ込んでしまったというだけの話だ。しかも地面は生い茂る草。それがクッションになって……草?

 

 「……あのさぁ、エンディミオン。フェーダー」

 

 『何だ?』

 

 「ここ、どこだか解る?」

 

 『恐らくは……精霊の森であろう』

 

 「デスヨネー」

 

 言い難そうに、けれど淡々と告げるエンディミオン。それにコクコクと頷くフェーダー。2人とも、魔力を使っている様子ではないのに実体化している。それこそがここが精霊界のどこかだという証左だろう。

 

 1つ深呼吸をして落ち着き、周囲を見渡す。青々と茂る木々に囲まれた森の中。けれど鬱蒼とした雰囲気は無く、暖かな光に包まれている。俺は龍可じゃないってのに……。

 俺……ただ、長閑な冬休みを送りたかっただけなのに……何で精霊界に放り出されてるんだろう? 何がどうしてこうなった?

 ……よし。

 

 「嘆いてても仕方が無い。状況を整理しよう」

 

 頷くエンディミオンとフェーダー。1人っきりでないだけでも大分ありがたい。

 

 「ここは精霊界、俺は迷子。OK?」

 

 『そうであろうな。しかし、人間界に帰る手段が無いわけでは無い』

 

 え?

 

 『デッキは持っているであろう? ならば我が魔法都市を経由すれば良い』

 

 俺の疑問に、得意げな顔をするエンディミオン。え~っと、それはつまり。

 

 「1度魔法都市へ行って、それから人間界へってこと?」

 

 『魔力の消費は激しいが、さすれば確実に戻れるであろう』

 

 次元移動は魔力の消費が激しいし、それを2回もするとなると相当だ。けれど確かに、確実に帰還できる。

 

 「なら……一安心か」

 

 現金なものだが、帰る手段が確保できていると解ると、急激に精神的余裕が生まれてきた。

 けれど確かにホッとしたのだ……あれ?

 

 『? どうしたのだ、主よ』

 

 「いや……」

 

 急に黙りこくった俺の顔を覗き込むエンディミオン。それに生返事を返しながら、俺はふと頭に浮かんだ可能性に思いを馳せる。

 あれ? どんな異世界からでも魔法都市を経由すれば人間界に戻れるのなら、3年時……再来年か。ユベルに異世界転移させれても問題無いんじゃね? 魔力は凄まじく消耗するだろうけど。

 うん、そうだそうだ。何だろう、色んな意味で気が楽になった。

 

 「何でも無い。んで、俺たち……ってか俺がここにいるのは、何故か【エンシェント・フェアリー・ドラゴン】に呼ばれたから。だよな?」

 

 急に明るい表情になった俺を訝しみながらも、エンディミオンは特に深くツッコむことはなく首肯した。

 

 「問題は何故呼ばれたのかってことなんだよなー」

 

 呼ばれて来ちゃった以上は、話ぐらいは聞いた方がいいだろう。こう思えるのも、帰る手段があるという事実から生まれた心の余裕のおかげである。

 それにしても、肝心の【エンシェント・フェアリー】はどこにいるんだろう。人を呼びつけておいて顔を見せないなんて。

 彼女は、俺を名指しで呼んでいたわけでは無い。恐らくは、彼女の声が聞こえた人間なら誰でも良かったのだろう。それはつまり、それだけ切迫した状況であるということなのかもしれない。

 一応腹は括っているから、話は聞こうと思う。内容によっては可能な限り力を貸すのも吝かでは無い。だがしかし、出来ることならば早めに戻りたい。

 多分俺はいきなり社長室から消えてしまったのだろうから、モクバたちは気を揉んでいるはずだ。

 それに俺自身、出来ることならば早く帰って海老天を揚げたい。そして紅白を見ながら年越しそばを食うのだ。

 

 『それより主よ』

 

 「うん?」

 

 『その手に持っている物は何だ?』

 

 俺が小脇に抱えるブツを指差し、溜息を吐くエンディミオン。何って、そりゃあ。

 

 「サツマイモ入りボウルだよ……仕方が無いだろ、膝に乗せてたんだから」

 

 相変わらず手に持ったままのボウル。状況にそぐわないってのは、俺が誰よりも解ってる。自覚してる。でも持ってたものは仕方が無いだろ。

 それもこれも、有無を言わさず俺をリムジンに押し込んだ磯野さんが悪いんだい。あぁ、思い出したらムシャクシャしてきた。

 腹立ち紛れにサツマイモをガシガシと潰していると、ふと視線を感じる。

 

 「うん?」

 

 その視線の元を見ると、そこには。

 

 『『『『『!?』』』』』

 

 やたらちっさくて愛らしい精霊たちが木の影からこちらを見ていた。何となく物欲しそうな視線だな、と思うと同時、それが俺の手元のボウルに注がれているのに気付く。

 試しにスッとボウルを動かしてみると、精霊たちの視線もそれを追うように移動する。

 う~~~~ん。

 

 「食うか?」

 

 たっぷり10秒は迷ったが、こんな状況でこんな物を持ち続けてるのも緊張感に欠けると思ってそう声を掛けてみた。仕方が無い、栗きんとんは後でスーパーで出来合いのを買おう。

 すると彼らはビクッと震え、やがてその内の1人がおずおずと近寄ってきた。

 

 『いいの?』

 

 問いかけて来たのは、とんがり帽子を被った妖精のような見た目のモンスター。確か、キーメイスだ。随分とビクビクしているように見えたので、俺は安心させようとにっこり微笑み、ボウルを差し出した。

 

 「どうぞ」

 

 キーメイスは恐る恐るボウルに手を突っ込み、僅かに手に取ると匂いを嗅ぐ。お気に召す匂いだったのだろう、微かに喉を鳴らしたのが見えた。

 警戒が全く無いわけでは無かっただろうが、彼はそのままサツマイモを口に入れる。と、すぐにその顔を喜色に染め、未だ様子を窺っているらしい仲間たちを手招きする。美味かったらしい。

 仲間たちもそれを合図にワッと近寄ってきた。

 キーメイス、プチテンシ、ワタポン、スポーア、サニー・ピクシー、ジェリービーンズマン、それに……。

 

 「クリボン……」

 

 『クリ~?』

 

 クリッとした目で見上げてくるクリボン。

 何だろうこの面子。やたらと可愛らしい連中というか、心当たりのある連中というか。

 どれ程未来に来るのかは解らないけど、龍可ちゃん。お兄さんは君の先輩になったみたいだ。

 

 「……美味いか?」

 

 先を争うようにサツマイモを食う精霊たちに聞いてみると、勢いよくコクコクと頷いてくれた。喜んでくれて何より。

 

 『良かったぁ。また怖い人が来たのかと思っちゃった』

 

 ホッとしたように言うキーメイス……また?

 

 「誰か怖い人が来たのか?」

 

 何気なく訊ねたそれに、皆一様に怯えた顔を見せた。

 

 『10日ぐらい前にね、ピカーって光ったの』

 

 『そしたらアイツが来た』

 

 「アイツ……」

 

 『たくさん暴れるの』

 

 『レグルス様が抑えようとしてくれるけど、ダメなの』

 

 『正気を失ってるって言ってた』

 

 口々に言い募る精霊たち。精霊界も大変なんだなぁ……うん? レグルスもいるのか。コイツらといい、ここは5D`sかよ……。

 あ。まさか俺、その対処のために呼ばれたとか? いや、件の『怖い人』が来たというのは10日ほど前。となると丁度冬休みが始まった頃だ。けれどペガサスの話では、彼が【エンシェント・フェアリー】の存在を感じたのはそれよりも前らしい。時期がズレている。

 

 『主よ』

 

 「うん?」

 

 『来るようだ』

 

 エンディミオンの視線は、森の木々の向こうへと向けられていた。精霊的な勘でも働いているのか?

 俺も体ごとそちらを向いて暫し待つと、ガサガサと茂みが掻き分けられる音がした。やがて姿を現したのは。

 

 『何者だ』

 

 それは言葉を話す白毛も獅子だった。しかし今は、その見事な毛並も草臥れている。

 

 『レグルス様!』

 

 『お兄ちゃんにこれ貰ったの!』

 

 あぁ、彼がやっぱりレグルスか。精霊たちが嬉しそうにボウルを指差すと、レグルスもチラとそれを見る……あ、腹が鳴った。

 

 「良ければどうぞ」

 

 『何?』

 

 「ほらお前ら、このライオンちゃんにもあげような?」

 

 『『『『『は~い!』』』』』

 

 うん、素直でよろしい。

 満足げに頷く俺に、エンディミオンは些か呆れたような顔をしていた。

 

 『これが噂に聞く餌付けか。見事に手懐けたものだ』

 

 お前はちょっと黙ってろ。

 

 「さ、どうぞ」

 

 精霊たちから返してもらったボウルをレグルスに差し出すと、彼は憮然とした雰囲気を醸し出した。

 

 『私はライオンではない』

 

 「細かいことは気にするな。話は少しだけ聞いた……大変みたいだな。腹が減っては戦も出来ぬ。ここは素直に受け取っておけ」

 

 『……礼を言う』

 

 そして素直に食べ始めるレグルス。やっぱり腹は減ってたんだな。

 

 『ふむ。このような食物は初めてだ』

 

 しかも嬉しそうだ。

 でもそりゃそうだろう、この世界にマッシュポテト(サツマイモVer)があるとは思えないし。

 そんなに美味そうに食ってくれれば、作成者冥利に尽きるってもんだ。

 そして食べ終えて落ち着いたレグルスは、俺の腕のデュエルディスクに気付いたらしい。

 

 『そなた、デュエリストか?』

 

 心なしか雰囲気が柔らかい……自分でやっといてこんなこと言うのもアレだけど、サツマイモで餌付けされるレグルスって見たくなかったような気がする。

 

 「そうだけど、何?」

 

 俺の問い返しにレグルスは気付いているのかいないのか、こちらに身を乗り出して来る。近い。

 

 『頼みがある。どうか、ヤツを倒してくれ!』

 

 「……は?」

 

 え? 

 

 

 

 レグルスの言う『ヤツ』とは即ち、ちんまい精霊たちが言っていた『怖い人』のことらしい。

 ちびっちゃい精霊たちの話では漠然としたイメージしか湧かなかったその詳細が、レグルスによって明かされる。

 『ヤツ』は10日ほど前に、突如として現れた。その日、森の外れで突如として光が弾け、『ヤツ』はそれによって現れた。恐らくは何処か別の次元から弾き飛ばされてきたのではないか、というのがレグルスの推測である。

 『ヤツ』もレグルスたちと同じ精霊ではあるようなのだが、明らかにこの世界の住人では無く、初めは促して帰らそうとしていたのだとか。

 しかし『ヤツ』には話がまともに通じず、『生贄を』、『肉体を』、『デュエルを』と繰り返す。刺激すれば暴れ出す。レグルスたちの中にデュエルが出来る者はおらず、こうなったら肉体言語で黙らせようとしたのだが、単純な攻撃力ではどうあっても敵わない。

 そこでデュエリストにデュエルで何とかしてもらおうと思ったのだとか。精霊界でもデュエル脳は健在らしい。

 

 取りあえず、話は解った。

 

 「デュエルなら、まぁいいよ」

 

 快諾すると喜ぶ精霊たち。どうやら本気で懐かれたようだ。

 そんな彼らに和んでいる俺に、エンディミオンがコソッと耳打ちする。

 

 『主よ、良いのか? エンシェント・フェアリーに会わねばならないのではないのか?』

 

 それに俺は、同じく耳打ちで返した。

 

 「どこにいるのか解らないんだから、仕方が無い。どうやら本気で困ってるみたいだし、それを見てしまった以上は放っておけないよ。リアルファイトしろって言われたら二の足を踏んでただろうけど、デュエルならまだ何とか」

 

 『だがここは精霊世界。闇のゲームほど悪質ではあるまいが、デュエルをすればそのダメージは実際に受けることとなる。むしろ実力行使の方がまだ安心できたであろう』

 

 「どういう意味だ……それが怖くてデュエリストなんてやってられないさ。大丈夫、俺を信じろ。それに自分自身もな。お前は俺のデッキのエースなんだぞ」

 

 エースと言われ気を良くし、鷹揚に頷くエンディミオン。やっぱ単純だな、コイツは。いや、本心から言ったことではあるけど。

 

 

 レグルスに先導されて辿り着いた先には、よく見知った精霊がいた。

 顔見知りというわけではない。そのカードをよく使っていた人を知っている、ということである。だがしかし、あの人が使っていたあのカードは、こんな風では無かった。

 

 『生贄を……生贄をよこせ……』

 

 ブツブツと呟くソイツの特徴は、一言で言えばハゲだった。

 

 「サイコ・ショッカーじゃんか」

 

 そう、そこにいたのはサイコ・ショッカーの精霊。城之内さんが愛用しているアレだ。尤も、城之内さんの【サイコ・ショッカー】に精霊は宿っていなかったけど。

 茂みの影からヤツの姿を確認し、俺は傍らで同じく身を潜めているレグルスに向き直る。

 

 「でも、大人しいじゃん。暴れてるんじゃなかったのか?」

 

 『ああ、大人しい。刺激さえ与えなければな』

 

 レグルスは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

 『しかし一度刺激が加われば、錯乱したように暴れ出す。故に私はこうしてヤツを見張り、いざという時には可能な限り抑えている。先ほどは異変を感じ取り、何事かと思い様子を見に行ったのだ』

 

 で、そうしたら俺がいた、と。ご苦労様です。

 視線をサイコ・ショッカーに戻してみると、傍目にはヤツはボウッと突っ立っているだけのようにも見えた。けれど絶えずブツブツと何事かを呟く姿は不気味であるし、虚ろな様子は危うげな印象を抱かせた。

 よく見てみれば周囲の木々は倒れているし、地面の草花は吹き飛ばされて茶色い土を曝け出している。暴れるというのは事実なんだろう。

 

 『どうやらヤツは、何者かとデュエルをしたらしい』

 

 およそ10日間、ヤツを見続けているらしいレグルスはそう述べる。

 

 『錯乱した中で叫んでいた要領を得ない言葉の断片を繋げれば、多少の経緯は読めた』

 

 「ほう」

 

 それは是非聞きたいね。

 

 『ヤツは現実世界でも肉体を得ようと、人間界で生贄を集めていたらしい』

 

 「そりゃ厄介な」

 

 想像してみよう、その光景を……うん、嫌すぎる。ぶっ飛ばして教育的指導をせねば。

 

 『そんな最中、極めて質の良い波動の持ち主を見付けたのだが、その者とのデュエルには破れてしまったようだ』

 

 「ってことは、アイツをここに吹っ飛ばしちまったのもその『質の良い波動の持ち主』ってのか。面倒なことしてくれるもんだな」

 

 まぁ『質のいい波動』なんて訳の解らんものを持ってるようなヤツだ。きっと何らかの力があったのだろう。例えば十代のように。

 

 『どうやら最終的には、【神の宣告】によって【リビングデッドの呼び声】による自身の蘇生を阻害されたことが決定的な敗因となったらしい』

 

 「へぇ」

 

 【神宣】で【リビデ】を潰すって、リアリストなデュエリストもいるんだな、うん。

 それにしても本当に傍迷惑なヤツだ。段々と顔も名前も知らないそのデュエリストに腹が立って来た。あんな性質の悪そうなのとデュエルするんなら、最後まで責任持って対応しろっての。

 そのせいでこの世界のこんまい精霊たちが怯えてるじゃねぇか。レグルスもボロボロになってるし。もしも顔を合わせるようなことがあったらとっちめて……。

 

 『何でも、『オシリスレッドの十代』と名乗っていたそうだ』

 

 「…………………………」

 

 あ、それ俺の知ってるヤツだ。そういえばアイツ、情け容赦躊躇一切なくダメ押しの【神宣】ぶっ放せるヤツだった。流石だ覇王。

 って、おい十代! お前は折角の冬休みに何やってんだ! 彷徨い出たサイコ・ショッカーとデュエルだと!? それ殆ど闇のゲームみたいなモンだろうが!

 

 『? どうした、優殿』

 

 急に明後日の方向を見て冷や汗を掻きはじめた俺に、レグルスは不思議そうな顔をした。エンディミオンも頭痛を堪えるように頭を押さえている。

 あ、ちなみに自己紹介はとっくに済ませている。

 

 「いや、その……ごめん」

 

 俺は何一つ悪くは無いのだが、何故だか果てしなく申し訳ない気持ちになった。特に、実際にボロボロになっているレグルスには。

 それと同時に泣きたくなってきた。何だって俺は、世界の壁を越えてまでアイツの後始末をしてるんだろう?

 

 「レグルス……もしもまたこの世界に来ることがあったら、何か美味いもの作ってやるからな……」

 

 『何故そうなったのだ』

 

 申し訳なくて仕方が無いんだよ。

 

 「と、とにかく! デュエルしてアイツを落ち着かせればいいんだな?」

 

 『ああ。よろしく頼む』

 

 「よし!」

 

 精霊がデュエルをするとなると、大抵のヤツが自分自身をデッキに投入している。恐らくはヤツもそうだろう。

 ならば、トラップカードに頼らない戦術を取るのが望ましいかもしれない。俺はデッキのカードを数枚、サイドデッキのものと入れ替えた。

 そして茂みから飛び出し、サイコ・ショッカーの前に立つ。

 

 「サイコ・ショッカー。俺とデュエルだ」

 

 『デュエル……デュエル!』

 

 初めはよく理解しきれていなかった風情のサイコ・ショッカーだったが、すぐさま覇気を取り戻していた。

 

 『デュエル! 貴様を生贄に私は肉体を得る! デュエル!』

 

 同時に狂気も取り戻していたが。

 うわ、そこまで賭ける気は無かったんだけどな……仕方が無い、乗りかかった船だ。

 

 「『デュエル!』」

 

 俺がデュエルディスクを構えるのと同時、サイコ・ショッカーの前にはカードのビジョンが現れた。それは昔、この腕に付けるタイプのデュエルディスクが開発される前に存在していた円盤タイプのディスクによる映像とよく似ていた。アレ、1度だけ見たことあるんだよね。

 

サイコ・ショッカー LP4000 手札5枚

優 LP4000 手札5枚

 

 『私の先攻! ドロー!』

 

サイコ・ショッカー LP4000 手札6枚

 

 先攻はサイコ・ショッカー。ドローとは言うけれど実際にはデッキからカードを引き抜くような動作は無く(そもそもデッキがどこにあるのかが解らないが、精霊とのデュエルではままあることである)、彼の前に広がるカードのビジョンが1つ増えただけだった。

 

 『私は永続魔法、【エクトプラズマー】を発動!』

 

【エクトプラズマー】

永続魔法

お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のエンドフェイズ時に1度だけ、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選び、そのモンスターを生贄に捧げ、そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。

 

 【エクトプラズマー】とは、また懐かしいカードを出してきたもんだ。昔はフィールド魔法だったが現在は永続魔法のあのカード。俺は今、あのカードが永続魔法としてエラッタされたことが猛烈に悔しい。

 何せあのカードは、互いのプレイヤーに影響を与える。問題なのはバーン効果よりもむしろ、毎ターン強制的にフィールドのモンスター1体を除去させられることだと思う。嵌れば嫌らしい動きをする1枚なのだ。

 今の俺の手札に、アレを除去できる手は無い。その一方で例の如く【魔法都市】は来ているため、フィールド魔法だったら割れたのに。

 

 まぁ、それならそれで俺の最善を尽くすまでなのだが。

 

 『そして【怨念のキラードール】を召喚!」

 

 うん、【エクトプラズマー】が来た時点で少し予測はしてたけど、やっぱりそれか。

 

【怨念のキラードール】

効果モンスター

星4 闇属性 悪魔族 攻撃力1600/守備力1700

このカードが永続魔法の効果によってフィールド上から墓地に送られた場合、自分のターンのスタンバイフェイズ時に墓地から特殊召喚する。

 

 『さらにカードを2枚伏せ、ターンエンド!』

 

 ターンエンドを宣言するサイコ・ショッカー。しかしヤツのターンはまだ終わらない。

 

 『そしてこのエンドフェイズ、【エクトプラズマー】の効果発動! 【怨念のキラードール】を生贄に、その攻撃力の半分のダメージを与える!』

 

 【怨念のキラードール】から抜け出た魂がこちらに飛んでくる。うわ、ホラーっぽい。

 

 「くっ……」

 

優 LP4000→3200

 

 白い靄のような魂に纏わり付かれ、軽い倦怠感を感じた。やはり精霊界での精霊とのデュエル、通常のソリッドビジョンとは違う。

 だが、デュエルに支障が出る程では無い。故に、弱気になる必要など欠片も無い。

 

==========

 

 時を同じくして、サイコ・ショッカーと優がデュエルをしている現場からほど近い茂みの中でのこと。

 

 『レグルス様、お兄ちゃん大丈夫かな?』

 

 優にサツマイモで餌付けされた精霊たちが、彼の事を心配して陰ながら応援に来ていた。ハラハラとしながら見守る彼らに、レグルスは緊張の面持ちで頷く。

 

 『信じるのだ。あの者の力を』

 

 「うん、そうだね。優君ならきっと大丈夫だよ」

 

 『そっか。そうだよね』

 

 心強い言葉を胸に、精霊たちは再びデュエルに視線を戻し……ふと、妙な事に気が付いた。

 はて、背後から聞き覚えの無い声がしたような……?

 全員がほぼ同時にバッと振り返ると、そこには見知らぬ男性が1人、穏やかな笑みを湛えて立っていた。

 

==========

 

 

 

サイコ・ショッカー LP4000 手札2枚

  モンスター 無し

  魔法・罠  (永続魔法)【エクトプラズマー】

         伏せ2枚

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP3200 手札6枚

 

 取りあえず1ターン様子を見てみたけれど、サイコ・ショッカーは長い事錯乱しているという割にはちゃんとしたデュエルをする。少なくとも、破綻しているような部分は見受けられない。これならば、ちゃんと決着を付ければ本格的に正気を取り戻してやれる可能性が高い……と、思う。

 

 ヤツのフィールドは今、がら空きだ。しかし自身で【エクトプラズマー】を発動してこの状況を作っている以上、あの2枚の伏せカードでこの俺のターンを凌げる自信があると見てまず間違いあるまい。

 

 さて、俺はどう動く? 【エクトプラズマー】は優先的に破壊したいカードだが、除去カードは手札に無い。ならば……。

 

 「俺は【マジカル・コンダクター】を召喚」

 

 現れたお姉さんは、いつもよりもさらにリアリティのある立ち姿だった。やっぱり精霊界でのデュエルだしね。

 

 「フィールド魔法【魔法都市エンディミオン】を発動、魔法カードの使用によって【マジカル・コンダクター】に魔力カウンターが2つ乗る。そのカウンターを2つとも取り除き、手札からレベル2の魔法使い族【ナイトエンド・ソーサラ-】を守備表示で特殊召喚」

 

 『ハァッ!』

 

 とりあえず、フィールドが空になるのはこれで避けられるだろう。しかもそれだけじゃない。

 

 「【ナイトエンド・ソーサラ-】の効果発動。このカードが特殊召喚に成功した時、相手の墓地に存在するカードを2枚まで除外できる」

 

 『何だと!?』

 

【ナイトエンド・ソーサラ-】

効果モンスター

星2 闇属性 魔法使い族 攻撃力1300/守備力 400

このカードが特殊召喚に成功した時、相手の墓地に存在するカードを2枚までゲームから除外する事ができる。

 

 OCGではチューナーだった【ナイトエンド・ソーサラ-】。こいつも勿論、来年にはOCGと同じチューナーとしてエラッタされる予定のカードである。だがしかし、今はごくありふれた効果モンスターとして存在している。

 

 「俺はお前の墓地の【怨念のキラードール】を除外する」

 

 『クッ!』

 

 悔しそうなサイコ・ショッカーだが、さもありなん。【怨念のキラードール】には永続魔法の効果によって墓地に送られた場合、スタンバイフェイズに蘇生できる効果がある。【エクトプラズマー】と【怨念のキラードール】のコンボは、嵌れば中々厄介なのである。だがそれも、除外されては意味が無い。

 確かに俺の手札には、【エクトプラズマー】をどうこう出来る手は無い。けれどそれならば、別の視点でコンボを瓦解させるまでのこと。

 さて。

 

 「バトル」

 

 攻撃表示の【マジカル・コンダクター】にアイコンタクトを送り、攻撃に転じる。さて、この攻撃が通るとは思えないけれど、どう来るか。

 手札にチラと目を落とす。うん、これなら恐らく大丈夫だろう。

 

 「【マジカル・コンダクター】でダイレクトアタック」

 

 『トラップ発動!』

 

 サイコ・ショッカーの声に応え、伏せられたカードの1枚が持ちあがる。

 

 『【聖なるバリア ‐ミラーフォース‐】! その効果によって【マジカル・コンダクター】は破壊される!』

 

 おぉ、【ミラフォ】だったのか。

 しかし教えてやろう。【ミラフォ】は仕事をしないのだ。

 

 「残念だったな。チェーンして手札から速攻魔法、【月の書】を発動する」

 

【月の書】

速攻魔法

フィールドの表側表示のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを裏側守備表示にする。

 

 「対象は勿論、【マジカル・コンダクター】だ」

 

 【マジカル・コンダクター】はにっこりと微笑むとカードの裏に引っ込んでセット状態となり、【ミラフォ】によって跳ね返された攻撃はその上を素通りしていくだけだった。初めから守備表示だった【ナイトエンド・ソーサラ-】もノープロブレム。というか、こういう時のために守備表示で召喚したんだし。

 けれどそれは、俺の場に攻撃可能なモンスターがいなくなったということでもある。

 

 「カードを1枚伏せてターンエンドだ。そしてこのエンドフェイズ、【エクトプラズマー】の効果によって【ナイトエンド・ソーサラ-】を生贄に捧げる」

 

 体を支える力も失い、ガクリと膝を付く【ナイトエンド・ソーサラ-】。そんな彼から抜け出た魂がサイコ・ショッカーに絡みつく。

 

 『くっ……これしき……』

 

サイコ・ショッカー LP4000→3350

 

優 LP3200 手札1枚

  モンスター セットモンスター (【マジカルコンダクター】)

  魔法・罠  (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター0→1

         伏せ1枚

 

 『私のターン! ドロー!』

 

サイコ・ショッカー LP3350 手札3枚

  モンスター 無し

  魔法・罠  (永続魔法)【エクトプラズマー】

         伏せ1枚

 

 さて、本来ならばヤツはこのスタンバイフェイズに【怨念のキラードール】を蘇生するつもりだったのだろう。しない理由が無い。恐らくはそうしてアドバンテージを稼ぎつつ地道に攻めるのがヤツの戦略なんだと思う。

 だがその肝心の【怨念のキラードール】は除外された。こうなってくるとヤツは、自分が発動させた【エクトプラズマー】に首を絞められこととなるかもしれないな。

 

 『手札から【人造人間-サイコ・ジャッカー】を召喚!』

 

 現れたのはハゲ頭のサイコ・ショッカーとは違い、ドレッドヘアの人造人間……あ、でもアレ、本物の髪じゃないや。やっぱハゲか。

 

【人造人間-サイコ・ジャッカー】

効果モンスター

星4 闇属性 機械族 攻撃力 800/守備力2000

「人造人間-サイコ・ジャッカー」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「人造人間-サイコ・ショッカー」として扱う。

(2):このカードを生贄に捧げて発動できる。

デッキから「人造人間-サイコ・ジャッカー」以外の「人造人間」モンスター1体を手札に加える。

その後、相手の魔法&罠ゾーンにセットされたカードを全て確認する。

その中に罠カードがあった場合、その数まで手札から「人造人間」モンスターを特殊召喚できる。

 

 予想はしてたが、やはりヤツは【サイコ・ショッカー】を使うらしい。でなきゃ【サイコ・ジャッカー】なんてデッキに入れないだろうし。

 

 『そして【サイコ・ジャッカー】の効果発動! このカードを生贄に捧げ、デッキから【サイコ・ショッカー】を手札に加える!』

 

 デッキから己の分身と言えるカードをサーチしたサイコ・ショッカーだが、それだけでは終わらない。

 

 『更に! 相手の場の魔法・トラップゾーンのカードを確認し、トラップカードの数まで手札から【人造人間】を特殊召喚する!』

 

 そう、【サイコ・ジャッカー】の効果はサーチだけではなく、ピーピングと特殊召喚を同時にこなす。まぁ、特殊召喚に関しては相手に依存する部分が大きいけれど。

 そして今回の場合、俺の場に伏せられているのはトラップカードでは無い。

 

 「残念だったな。俺の場に伏せられているのは速攻魔法の【禁じられた聖杯】のみ。よって特殊召喚は出来ないぜ」

 

 俺の場に伏せられていたカードは、ヤツが望んでいたであろう赤紫ではなく緑だ。

 

【禁じられた聖杯】

速攻魔法

フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は400ポイントアップし、効果は無効化される。

 

 そもそも、俺は相手がサイコ・ショッカーだと解った時点でデッキのトラップカードを極力減らしている。元々魔法カードに比重の寄ったデッキだから、それはそう難しいことでは無かった。

 一方で目論見が外れた【サイコ・ショッカー】はといえば、ギリギリという音が聞こえてきそうなほど悔しそうに顔を歪めている。

 

 『くぅっ……! ならば【強欲な壺】を発動! デッキから2枚ドロー! 更に【天使の施し】! 3枚ドローして2枚捨てる!』

 

 手札の増強・入れ替えに出たか。

 

 『カードを2枚伏せ、ターンエンド!』

 

 ふぅん……手札に【サイコ・ショッカー】がいる状態で【天使の施し】、そして伏せカード……狙いが良く見える。

 

サイコ・ショッカー LP3350 手札1枚

  モンスター 無し

  魔法・罠  (永続魔法)【エクトプラズマー】

         伏せ3枚

 

 「俺のターン。ドロー」

 

優 LP3200 手札2枚

  モンスター セットモンスター (【マジカルコンダクター】)

  魔法・罠  (フィールド)【魔法都市エンディミオン】 カウンター1→3

         伏せ1枚

 

 さっきのヤツのターンは効果が発動しなかったとはいえ、やっぱり【エクトプラズマー】って嫌だな。カード効果としても鬱陶しいし、視覚的にも面白くない。ならば早々に決めてしまうに限る。幸いにも、最高のカードを手にすることが出来た。まだヤツが体勢を立て直せていない、今の内に一気呵成してやる。

 必要なのは、手札だ。

 

 「【マジカルコンダクター】を反転召喚。そして手札を1枚伏せ、【天よりの宝札】を発動。互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにドローする。俺は6枚ドローだ」

 

 『私は5枚ドローする!』

 

 俺の手札は補充されるが、相手の手札も補充される【天よりの宝札】。それは大きなデメリットとも言えるが、このターンで決めてしまえば問題は無い!

 

 「OK。魔法の使用によって魔力カウンターが溜まる。手札から【魔導戦士ブレイカー】を召喚。召喚に成功したことによって自身に魔力カウンターが乗って攻撃力が300アップ。そして効果発動。【ブレイカー】自身と【魔法都市】のカウンターを代用してお前の伏せカードを2枚破壊する。《マナ・ブレイク》」

 

 『グッ!』

 

 【ブレイカー】が剣先を向けた2枚の伏せカードが、一瞬捲れ上がってすぐ破壊される。どうやら【サイコ・ショックウェーブ】と【リミッター解除】だったようだ。

 

【サイコ・ショックウェーブ】

通常罠

相手が罠カードを発動した時、手札から魔法・罠カード1枚を捨てて発動できる。

自分のデッキから機械族・闇属性・レベル6のモンスター1体を特殊召喚する。

 

 でもな。

 

 「まだ終わりじゃないぜ。手札から【魔力掌握】を発動して、【ブレイカー】にカウンターを乗せる。そして再び効果発動。残る伏せカードを破壊する」

 

 『リバースカードオープン! 【リビングデッドの呼び声】! 墓地から【サイコ・ショッカー】を特殊召喚する!』

 

 あれまぁ、やっぱり。

 フィールドにハゲが現れたその瞬間、俺とデュエルしていたハゲ本人が僅かに姿を消した。しかしすぐにフィールド上に現れたので、おそらくは自分で場に出たのだろう。

 ふむ……ならば、今アイツを思いっきりブッ飛ばせば正気に戻せそうだな。頼むぜ、エース。

 チラリと傍らを見上げると、エンディミオンは心得たという表情で頷く。

 

【人造人間-サイコ・ショッカー】

効果モンスター

星6 闇属性 機械族 攻撃力2400/守備力1500

このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにフィールドの罠カードの効果を発動できず、フィールドの罠カードの効果は無効化される。

 

 【ブレイカー】の効果で【リビデ】は破壊されるが、【サイコ・ショッカー】の効果によってフィールド上のトラップカードは無効化されている。つまりは【リビデ】の『このカードが破壊された時に対象も破壊される』というデメリットも無効化されていた。

 そのおかげで【サイコ・ショッカー】は場に留まり続け、ヤツは得意げな様子を見せた。

 

 『フフフ……ハハハハハ!』

 

 これで勝ったも同然とばかりに笑うが、その認識は大きな間違いである。

 

 「勝ち誇るのはまだ早いぜ」

 

 チッチッと指を振って警告する。

 エースを召喚出来たからとって勝てるわけじゃない。第一お前、話を聞く限りではエース召喚しても十代に負けたんだろ?

 それにヤツの場にあるのはもう、ヤツ自身と【エクトプラズマー】のみ。手札は豊富だが、俺はもうヤツにターンを回す気は無い。

 さて……カウンターも溜まってるな。もう一息か。

 

魔力カウンター 【魔法都市エンディミオン】 3→4→3→4

          【マジカル・コンダクター】 0→4

          【魔導戦士ブレイカー】 1→0→1→0

 

 「【マジカル・コンダクター】の効果発動。自身のカウンターを2つ取り除き、手札から【見習い魔術師】を特殊召喚。そして【見習い魔術師】の効果によって、【魔法都市】にカウンターを乗せる」

 

 『ハアッ!』

 

 颯爽と現れた【見習い魔術師】により、また1つ魔法石を蓄える【魔法都市】。さぁ、あと1つ。

 

 「さらに、手札から【おろかな埋葬】を発動。デッキからモンスター1体を墓地に送る。デッキの【神聖魔導王エンディミオン】を墓地へ」

 

【おろかな埋葬】

通常魔法

デッキからモンスター1体を墓地へ送る。

 

 さぁ、これで準備は整った。【魔法都市】にはカウンターが6つ、墓地には【エンディミオン】。

 

 『フン……我の出番か』

 

 その通りだぜ、エンディミオン。

 

 「行くぞ、サイコ・ショッカー。俺は【魔法都市】の魔力カウンター6つを取り除き、墓地から【神聖魔導王エンディミオン】を特殊召喚する」

 

 魔法石によって創られた光の門から出て来る魔導王。今回はカイザーとのデュエルで呼んだ時とは違い威風堂々、それなりの威厳を保っての顕現である。

 

 「そしてこの方法での特殊召喚に成功した時、墓地から魔法カードを1枚サルベージする。【魔力掌握】を手札に」

 

 俺が効果を続けている間も、サイコ・ショッカーは【エンディミオン】の登場にショックを受けているようだった。

 

 『私よりも攻撃力が高いモンスターを特殊召喚しただと!?』

 

 【サイコ・ショッカー】の攻撃力は2400だ。【マジカル・コンダクター】と【ブレイカー】、【見習い魔術師】はそのラインを超えていないから余裕を持っていたのだろうが、その余裕はあっさりと崩れた。

 

 「そうだ。【エンディミオン】は姫や女王には勝てないヘタレだけど、人造人間には勝てるのさ!」

 

 『主よ、一言多い』

 

 ビシッと得意げにサイコ・ショッカーに指先を突き付ける。あ、エンディミオンのツッコミはスルーの方向で。

 

 「それに実の所、攻撃力は関係無いぜ。【エンディミオン】にとってはな」

 

 『何だと? どういう意味だ』

 

 「こういうことさ。【神聖魔導王エンディミオン】の効果発動。手札の魔法カードを1枚墓地に送ってフィールド上のカードを1枚、破壊する。【魔力掌握】を墓地に送り、【サイコ・ショッカー】を破壊。《パニッシュメント》」

 

 1枚の魔法カードから吸収された魔力が【エンディミオン】の杖先へと集まり、彼がそれを振るうことによって魔力の球は解き放たれ、【サイコ・ショッカー】を直撃する。

 

 『グ……ゥアアアアアアアア!!』

 

 何度も言うようだが、あの【サイコ・ショッカー】は精霊そのものである。故に、破壊の力を真正面から受けた衝撃で苦痛からの絶叫を上げる。

 さぁ、畳み掛けるぞ!

 

 「さらに【マジカル・コンダクター】、【魔導戦士ブレイカー】、【見習い魔術師】、【神聖魔導王エンディミオン】でダイレクトアタック!」

 

 サイコ・ショッカーの残りライフは3350。そうなるとただ勝つためだけならば総攻撃を仕掛ける必要は無いが、このデュエルの本来の目的はあくまでも、ヤツを正気に戻すことだ。

 なので心を鬼にしてフルボッコにした。とりあえずブッ飛ばせば頭も冷えるだろうし。罪悪感? 何それ美味しいの?

 まぁ、あいつも生贄を手にして人間世界に現れようとか画策してたみたいだし、お灸を据えるという意味でも丁度良い。

 

 『アアアァァァァァァァァァァ!!!』

 

サイコ・ショッカー LP3350→0

 

 【見習い魔術師】にその細腕と小さな杖で殴られ、【ブレイカー】に切り捨てられ、【マジカル・コンダクター】の波動技を食らい、【エンディミオン】に魔法攻撃をブッパされ。

 哀れサイコ・ショッカーは華麗に吹っ飛ばされて錐揉みしながら頭から墜落、意識を失った。

 うん、きっと次に目が覚めた時には彼も正気を取り戻してくれているだろう。

 

 とても良い事をしたという達成感を胸に、俺はディスクを元の待機状態に戻す。すると背後からわっと歓声が上がり、俺は少し驚きながらそちらを見る。

 

 『わー!』

 

 『お兄ちゃんすごーい!』

 

 『ありがとー!』

 

 デュエルを始める前にはレグルスしかいなかったはずのそこには、精霊ズが勢揃いしていた。

 やんややんやと喜びの声を上げる彼らは間違いなく可愛いし、何の衒いも無く慕ってくれているらしい姿をみるのはとても嬉しい。

 けれど今、俺には彼らの対応をするだけの余裕が無かった。

 彼らの後ろに、懐かしい人を見付けてしまったからだ。

 

 「遊戯さん……?」

 

 「久し振りだね、優君」

 

 え? 本物?

 

 




<今日の最強カード>

優「あ、ありのままに今話起こった事を話すぜ……俺は遊戯王GXという学園モノのカードゲームアニメの世界にいたはずなのに、気付いたら異世界に紛れ込んでRPGのようなことをする羽目になっていた……な、何を言っているのか解らないと思うが、俺も何が起こったのかイマイチ解らん……」

王『しかし主よ、元々GXは異世界でRPG紛いなことをする話では無かったか?』

優「……あ、そういえばそうだな。じゃあ問題無いか、遊戯王ではよくある事で納得すれば。ちなみに俺が精霊界に呼び寄せられたのは、5D`sのダークシグナー編で龍可が牛尾さんの車から消えたのと同じような状況となってます……というわけで、今日の最強カードはコイツ」

王『見事な切り替えだ』

【人造人間-サイコ・ショッカー】

優「ご存知、トラップ封じのモンスター。規制対象だったこともあるけど……ぶっちゃけ俺のイメージでは、城之内さんか『検診のお時間だ!』かのどっちかなんだよね」

王『世に出たのがもっと遅ければ、機械族ではなくサイキック族だったかもしれんな』

優「ま、それはそれとして。決して弱いカードじゃないんだけど、コイツの弱点はハッキリしてるよね。自分のトラップも潰してしまうってこと。【電脳増幅器】と併用すればそれも回避できるけど」

王『主は危なげなく勝利を収めたな』

優「だって本編でも言ったけど、デッキをちょっと弄ってトラップカードは極力抜いてたし。ちなみにラストターンに俺が場に伏せたのは【拡散する波動】だよ」

王『メタっていたか』

優「そりゃあ、対策ぐらい立てるって。元々俺のデッキ、魔法カードに比重が寄ってるしね。俺のデッキに【サイコ・ショッカー】は効果が薄かったこと、【エクトプラズマー】+【怨念のキラードール】のコンボが早々に破られたこと。こういった要因が相まって、アイツは割とあっさりやられたってわけ」

王『成る程。そして遊戯が出て来たな』

優「このタイミングでね」

王『しかし遊戯はまだしも、レグルスを始めとした精霊たちも出るとは……』

優「でもさ、前話のあとがきでもちゃんと言ったじゃん。暫くはGX勢の出番は無いって。5D`s勢の出番が無いとは言ってないのさ」

王『詭弁だな』

優「日本語は難しいのさ。さて、俺はどうしてここで遊戯さんと出会ったのか? エンシェント・フェアリーは何故人を呼び寄せたのか? ついでに、サイコ・ショッカーはどうなるのか? それは次回にて」

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