遊戯王GX お隣さんに縁がある   作:深山 雅

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今回はデュエルの描写は出てきません。主人公が現状を把握するだけです。


プロローグ 1 転生していたらしい

 突然だけど、質問だ。

 『転生』。この言葉を聞いたら、どんな状況を想像する?

 死んだと思ったら次の瞬間には赤ん坊?

 ふと気付いたら不思議空間で神様とご対面?

 OK、それならそれでもいいだろう。

 ただ俺の場合ならその答えは、『ある日唐突に前世の記憶を思い出す』だ。

 そう、今この瞬間のように。

 

 元々妙な違和感はあったんだ。

 この人、知ってるような気がするなぁ、とか。

 この場所、知ってるような気がするなぁ、とか。

 それでも、こういうのをデジャブっていうんだろう、俺は人よりもそう感じることが多いんだろう、そう思って特に気にしていなかった。

 しかし、それは間違いだったんだ。俺は確かに知っていた。

 今俺の目の前でニコニコと微笑んでいる人も、その人が首からぶら下げているアクセサリー(?)も、俺たちが向かい合っている現在地が何なのかも、全てだ……と言ってもそれはあくまでも知識に過ぎず、『全て』を知っているなどというのは傲慢なんだろう。それでも少なくとも、俺はもう無知では無かった。

 

 俺の名前は上野(うえの)優(ゆう)。平凡な名前だろ? だからかなり気に入っている。女みたいな名前だってからかってくる奴がたまにいるけど、それぐらいは別に気にならないし。むしろ変なDQNネームじゃなくて良かったって、凄くホッとしてる。

 で、だ。そんな名前からして極々平凡な俺だけど、ちょっとばかしオカルトというか、非ィ現実的な事態に見舞われてしまったようだ。

 そう。さっきから言っているけれど、俺は思い出してしまったのだ。前世の記憶を。

 それは本当に唐突だった。何の前触れも無く、前世とやらの記憶が降って湧いたように一瞬で頭の中に蘇ったんだ。

 前世の記憶を思い出して精神的に混乱するでもなく、膨大な情報量に頭がパンクするでもなく、むしろまだ短い今生で常に頭の片隅に引っ掛かってきた違和感やら、心を変にざわつかせてくる焦燥感やらがあっと言う間に霧散し、逆にストンと納得してしまったのだから。

 それは正に『蘇った』、そんな感じだった。俺という人間を構成する上で欠けてしまっていた『何か』、それが戻ってきたかのような感覚だった。

 勿論、だからといって今生での記憶が消えたわけじゃない。前世の俺と今生の俺、本質的には同一人物だった2人。今の俺は、いわばその融合体と言えた。

 前世……それもこことは違う、所謂異世界での記憶を取り戻したにも関わらず、この世界での常識だとかには順応できているし、今の家族も間違いなく家族として大切に思っている。むしろ、前世での家族を他人のように感じている時点で、今の俺のベースは今生の俺と言っていい。

 だが、前世の意識が精神に多大な影響を及ぼしているのも事実。そうでなければ、いくら何でもこんなにつらつらと物事を考えるなんて出来っこない。

 

 だって現時点での俺、幼児だし。

 大事なことだから2度言おう。

 現時点での俺、幼児だし。

 

 いや、幼児は言い過ぎかもしれない。でもとにかく、ちびっ子には違いない。具体的には、遊園地でジェットコースターの制限に引っ掛かりそうなサイズだ。正直笑えない。大人の体を知る身には、これはキツイ。某平成のホームズは偉大だったのだと深く思う。いや、マジで。

 まぁ、大人とは言っても、成人はしてなかったんだけど。前世での最後の記憶は、大学に合格した後の春休みだ。折角合格したんだから、大学生活を味合せてくれても良かったのにと思う。尤も死んだ記憶も無いから、単に思い出していないだけで実際には大学生もやってたのかもしれないけど。その辺のことは確かめようが無いから何も言えない。

 

 さて、唐突に前世の記憶を取り戻した俺だけれど、原因が無いわけじゃない。

 

 『デュエルモンスターズ』というものをご存知だろうか? いや、もっと簡単に『遊戯王』と言ってもいい。実を言えば俺も前世でハマっていたOCG。

 そして今生の俺がいるこの世界の名前でもある。こここそが、そのカードゲームの本家本元だ。漫画の世界なのかアニメの世界なのかまでは現時点じゃ解らないけれど、俺がしたのは単なる転生じゃなくて異世界転生だったらしい。先ほど俺が前世と今生は異世界と言ったのはそういう意味である。

 何でここがその異世界だとすぐに理解したのか、という説明はひとまず置いておく。というのも、すぐに解るからだ。

 

 そのデュエルモンスターズだが、前世の世界ではただのOCGの1つに過ぎなかったけれど、遊戯王世界ではまるで話が変わってくる。

 カードゲーム界が政界・財界と並び称されたり、デュエルに勝てば犯罪も見逃されたり、カードの為に人が死んじゃったりするような世界である。ぶっちゃけ怖い。既にこの世界の常識に馴染んでるはずの俺でも怖い。むしろ声を大にして叫びたい。

 まるで意味が解らんぞ!!

 ……失敬、少し取り乱した。

 俺がこう感じるのにも、理由がある。

 というのも、現時点でのデュエルモンスターズはいくら人気があるとはいえ、この世界においてもまだただのカードゲームとしか認識されていないからだ。

 アメリカでペガサス・J・クロフォードにより生み出され、ここ日本でも徐々に浸透しつつある黎明期。恐らくはこれから、ソリッドビジョンの普及などにより爆発的に広まるのだろう。

 デュエルモンスターズの原型とも言えるディアハは古代エジプトが発祥だし、5000年ぐらい前から戦い続けてる精霊さんたちとかも世界にはいるみたいだけど、少なくともカードゲームとしてのデュエルモンスターズは近年に誕生した。

 話が逸れた。今重要なのはそこじゃないんだ。

 俺は……前世の記憶を取り戻す前のただのちびっ子だった俺は、そんなデュエルモンスターズに興味を持ちつつも手が出せずにいた。

 何故ならカードゲームは本格的にやろうと思えば金がかかるもので、俺の家は経済的に恵まれていなかった。食うに困るというほど困窮しているわけじゃないけど、余裕も無かった。更に言うなら、この世界のカードは高い。今だから言えることだけど、前世とは比較にならないぜ、チクショウ。

 そんな俺に救いの手(?)を差し伸べてくれたのが、お隣に住むお兄さんだ。俺は1人っ子な上に両親共働きなので、よくお隣さんに預けられている。お隣さんには高校生のお兄さんがいて、よくゲームで一緒に遊んでくれる。少し自惚れてもいいのなら、それこそ弟のように扱ってくれてるんじゃないかと思っている。俺の方でも、それこそ本当に『お兄さん』のように慕っていた。

 そんな優しいお兄さんもデュエルモンスターズをやるらしく、俺に自分が使わないカードをいくつか譲ってくれると言い出したのだ。しかも、誕生日のプレゼントとして新品のパックも少しくれた。心の底から感謝しました。

 

 でも、結果的にはそれが俺に前世を呼び起こさせることとなる。

 

 ドキドキしながら人生初のパックを開けてカードを取り出し……その瞬間、俺は前世の記憶を取り戻した。

 そのパックに入っていたカードは、前世で俺が愛用していたカードだったのだ。それも5枚入りパックの内全てが……何であんたら、普通にパックに入ってんの? 

 いや嬉しいよ、お気に入りのカードだったし。この世界じゃレアカードは凄く出にくいはずだから、余計に嬉しい。でもさ。

 カードが原因で前世の記憶を取り戻すとか、これ何てオカルト?

 しかも。

 

 『全く、窮屈だった。ようやく会えたな、我が主よ。』

 

 聞いてない。俺は精霊の声なんて聞いてない、聞いてないぞ!

 視界の端に黒衣で仮面付けて長い杖を持った魔法使いがいる気がするけどきっと気のせい! 気のせいだ!

 だって俺、平凡なのが自慢だったのに! 精霊が見えるなんて、声が聞けるなんて、変な予感しかしないじゃんか!

 あぁ、でも……。

 

 「どう、優君? いいカードが出た?」

 

 ニコニコと優しげな笑顔で聞いてくる『お隣のお兄さん』に、俺は些か引き攣った笑みを浮かべて答えた。

 

 「うん。ありがとう、遊戯さん。」

 

 お隣さんが『あの』武藤遊戯な時点で、既に何かが起こるようなフラグしかしないし、同じことか。

 

 ある日の亀のゲーム屋。遊戯さんの首からぶら下がっている、金に輝く千年パズルを見詰めながら妙な諦観を覚えてしまった俺を、どうか誰も責めないでほしい。

 




次回もデュエルシーンは無し。むしろ、次回もプロローグの続き。現状把握に続き、幼少期を駆け足で行きます。

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