お姉様のSEKKYOUから、1週間とちょっと。その間、【ティアナ・ランスター】の自主訓練にちょっかいを出す形で、お姉様が直接指導する事数回。
【高町なのは】の教導を邪魔する気は無い事もあって、内容は限定的。しかも、考えさせることを優先しつつ早めに休ませる方向に持って行ってるから、体調も少し回復気味。
個人での強さではなく、グループを利用した戦術的な強者を目指すように誘導する事を目標とする内容で、若干は効果が出てる感じがするから、当面はこの流れを維持する方向。【スバル・ナカジマ】の参加も阻止出来てるみたいだし。
その他の状況としては、情報収集も着々と進み、
順調じゃないのは、【ゼスト・グランガイツ】の決断。
同じく遅れていた【
今は【八神はやて】が先に話をしてて、お姉様は【高町なのは】と【フェイト・T・ハラオウン】の2人と一緒に聖王教会にやってきた。
「高町なのは、一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」
「エヴァンジュ、だ」
びしっと敬礼してる2人と比べて、お姉様は自然体。
別に緊張するような相手でもないし。
「いらっしゃい、初めまして。
聖王教会、教会騎士団、騎士カリム・グラシアと申します。
どうぞ、こちらへ」
出迎えたのは、本人の名乗りの通り、この世界の【カリム・グラシア】。
窓辺の席にいる【クロノ・ハラオウン】と【八神はやて】の方へ……って、お姉様の存在以外は、どこかで見たような構図と流れ。
そう固くならないでとか、お兄ちゃんとかいうじゃれ合いの後で、カーテンで窓を塞ぎ。
真面目なお話の開始。
「さて、その少女が大きな鍵を握っているそうだが。
いったいどこから話してくれるのかな」
「エヴァンジュ・テスタロッサという名前についてから、ですか?」
【クロノ・ハラオウン】と【カリム・グラシア】の声は柔らかいけど、目はあまり笑ってない。
大真面目な話だから、そのほうがいい。
「そうだな……はやて。私達や目的について、どの程度話してある?」
「見た事と聞いた事は、一通りや。
並行世界の私達とか、聖王オリヴィエのクローンの存在まで含めてやけど……簡単に信じてもらえる話や無いからな」
「リンディ母さんも、ある程度は説明してあるって言ってたよ。
アルフも本局の方で手伝ってもらってるし」
「耳にはしているが信じられない、と。内容を考えると当然だな。
とりあえずは……この2人か」
お姉様が呼び出したのは、連れてきたヴィヴィオとカリム・グラシア。
「初めまして、と言うべきなのでしょうか。
聖王教会、近衛騎士団、団長。カリム・グラシアと申します」
「オリヴィエの力と記憶を継承したクローンの、ヴィヴィオ・テスタロッサです。
だからと言って、変に崇めたりはしないで下さいね」
2人はにこやかに挨拶してるけど、初対面で挨拶されてる
「何と言うか……絵画に残された姿、そのままなのですね」
「絵から出てきたような、と聞いてはいたが」
「両手が無事ですから、ちゃんと違いはありますよ」
「さて、とりあえずの役者は揃えた。
次は、本人だと言う証明代わりだ。カリム、頼む」
「はい。予定通り、ですね」
小さい方のカリム・グラシアが紙の束を取り出し、その紐を解き。
光り輝いて、周りを取り囲むように整列してく。
「それは……
「はい。私なのですから、当然使う事が出来ます。
その中で関連すると思われる予言が、これです。ヴィヴィオ様、訳をお願いします」
「様付は禁止、ですよ。
では。
『隔たれた地を渡り、消えゆく絆が受け継がれる時
旅人は新たなる命を得る
親愛なる者達が自らを導き、闇の船を砕く光の剣と成す事で
未来は鎖から解き放たれ、新たな時を刻み始める』
この予言が、私達から見た現状を示していると判断しています」
「これまでの経緯を説明するとだ。
私達の世界で3か月前、この世界では10年近く前に、並行世界に対する影響調査を兼ねてこの世界から消滅寸前のリニスを連れて来てアリシアの使い魔にしたんだが……恐らくはこれが前半だな」
「その言い方やと、エヴァンジュさんの手出しが発端って事なん?
確かに、リニスさんはこの世界出身や言ってたけど」
「私が並行世界に移動した場合の影響を調べる意図もあったから、そう判断せざるを得ないな。
この時に並行世界の分岐やら相互影響の状況の変化やら、色々あったのは事実で、この世界と私達の世界が比較的密接な繋がりを持つようになったのは確かだ。
その上で私達は、ある程度落ち着いた状況を変に崩されたくないから、この世界での事件を少し良い方向に変える手伝いをするために来た、というわけだ。
前提はともかく、意図についてははやてやリンディにも伝えていたはずだが」
「良い方向、なんか?」
「実力があるとされている政治家が死に、黒幕が闇に葬られ、実行犯達は反省も捜査協力もせずに長期間の投獄生活を送る。
実力があるとされている政治家が平和の為に活動し、実行犯達は違法行為を止めた上に証拠を提出し、黒幕が裁かれる。
さて、どちらの方が“良い結果”だろうな?」
「確かに、その話だけならば後者だ。
それぞれの名も聞いているし、この世界がそうなる可能性が高いから行動しているのだろうが、どんな手段を使うつもりなんだ?」
我慢できなくなったと言うよりは、内容的に口を出すべきと判断したのか。
【クロノ・ハラオウン】が会話に参加してきた。
「予言の後半に相当する部分だな。
とりあえずは、連れてきたはやてやフェイト達が、この世界の機動6課メンバーやらを助けつつ黒幕を断罪する事で、未来を変える。
少なくとも、私達はそれが可能だと判断した上で動いてるし、手助けも始めている。
手を出す相手は6課メンバーだけではないしな。向こうの準備も出来た事だし、追加で呼ぶぞ」
お姉様がそう言いながら、数歩離れた場所に転送したのは2人。
「スカリエッティ!?」
「ここで呼ぶん?
先に説明しとかんと、色々問題があると思うんやけど」
【クロノ・ハラオウン】は、即座に戦闘態勢。
反応はいいけど、転送したのがお姉様というのを忘れ……る前に、お姉様も信用されてない?
【八神はやて】は、自分なりに納得したらしい。けど。
「ふむ、やはり勘違いされている様だ。
ごきげんよう、管理局と聖王教会の若き英雄候補達よ。
いや、初めまして、の方が良いかね?」
「初めまして、からでしょうね。
私はクーネ・テスタロッサ、しがない魔導書ですよ。解りやすく言えば、リインちゃん……こちらで言うアインスの弟、エヴァちゃんの兄ですね」
「私については知っている様だが、改めて言っておこう。
この世界で、次元犯罪者として手配されているジェイル・スカリエッティが私だよ。
つまり、クーネやエヴァンジュ達が連れてきたジェイル・スカリエッティとは別の存在という事になる」
うん、これは“StrikerS的な意味で本物”の、つまりはこの世界の【ジェイル・スカリエッティ】本人。
色々調査した結果、この【ジェイル・スカリエッティ】に魔導具埋め込みは無かった。代わりに魂や遺伝子の改造てんこ盛り、強制認識や記憶の埋め込みもましまし。
多少改善したとはいえ影響がまだ残ってるけど、とりあえず“最高評議会の罪を暴く事”に関する協力はしてくれることになってる。
「……エヴァンジュさん。これはちょっと予想外や」
「だが、黒幕側の実行部隊のトップが協力してくれると言うんだ。
感情や盲目的な法の運用で、この機会をふいにする事も無いだろう?」
「これでも、少々危ない橋を渡っているのだよ。
私の因子を持つ戦闘機人が4人いるのだが、ウーノ以外、特にクアットロは私の方針変更が気に入らないらしくてね。
どうやら、事情を知らない他の者達を扇動するつもりらしい」
「人を見下す思想が仇になっているか。
因子を持つ4人は、最悪死んでもこちらに大きな影響は出ないと思うが……どうしたい?」
「私としては、自由にさせてみたいところだがね。
どの様に行動し、どの様な結果が残るのか。実に興味深い」
「いや、それはあかんやろ」
【八神はやて】が頭を押さえながら、力の無いツッコミ。
【クロノ・ハラオウン】と【カリム・グラシア】は、頭を抱えたそうな雰囲気になってるし。
「それをすれば、お前の責任も問われる事になる。
暴走する兵器を製造し運用しようとした、くらいは言われる事になるだろうし、それでは私が面白くない。
早めに止めた方がいいと思うが」
「そう言われても、動ける者は出払っていてね。
通信を妨害されては説得も出来ないが、それはクアットロの得意とするところだ。
くくく……いやはや、困ったものだよ。ここしばらくは、騎士ゼストとルーテシアにも色々と吹き込んでいるようだからね」
「笑い事ではない。
今は聖王のクローンの確保に動いている、のか?」
「うむ、素晴らしい情報と予測の確度だ。
数日中にクラナガンに運び込まれるのは確実、放置すれば早々に最高評議会が関係する研究所に届けられるだろう。だが、管理局として検問以上の積極的な妨害は難しく、仮に確保しても“しかるべき部署”に引き渡せば最高評議会の関係者に渡る事になる。
どこかに隠したところで、場所が判明してしまえば力尽くで奪いに来るのは確実だ。当然、周囲の被害など気にも留めない。
さて、どうするかね?」
「表側で何とかするなら、何とかして確保、聖王教会の預かりにした上で、6課で保護。
裏側で処理するなら、私が確保してそのまま保護。
確実性なら後者かもしれんが、前者でも確保の手伝いくらいは出来るだろうから極端な差は無いだろうな。
さて、この世界のお偉方はどう判断する?」
必要と思われる情報は、今の会話で概ね出揃ったはず。
【ジェイル・スカリエッティ】はお姉様を見たままだけど、この先は、2人だけで進める話じゃない。
「見捨てるという選択肢はエヴァンジュさん達には無い、と思ってええの?
どの程度の手助けを期待していいか、って事やけど」
お姉様に話を振られた【八神はやて】の心配は、お姉様の前提を見逃してる。若しくは、点と点の結び方が足らない。
ヒントは、色々出てる。
「オリヴィエのクローン、つまりは私達が連れてきたヴィヴィオに対応する存在だぞ?
この世界では外見こそ5歳の少女だが、同じヴィヴィオの名を持つ、オリヴィエの血の継承者だ。妙な影響を避けるために、最悪の事態は避ける方向で動きたい。
具体的には、お前達が当てにならないと判断したら私達が勝手に動く。その程度には期待してもらっていい」
「放置しても解決され……てへんな。こういう言い方は好きやないけど、不正や違法行為の明確な証拠やし。保護するにしても、経緯の説明も出来んようでは怪しまれる。
全部ひっくるめて、私達がどう対応するか、って事やね?」
「聖王陛下のクローンとなれば、聖王教会として放置するわけには参りません。手放すという選択肢もありませんから、何としても保護する事になるでしょう。
もちろん、違法な出自に対する調査等は必要ですが」
ようやく、この世界の【カリム・グラシア】が再起動。
というか、このまま手をこまねいてるわけにはいかなくなっただけかもしれない。
「時空管理局としても、放置は出来ないだろう。
少なくとも、違法行為の追及は必要だが……問題は、他の部署だけでなく上層部にも隠して動かなければならない点か。
話半分や妄想と切り捨てるわけにはいかない状況や情報が揃い過ぎている」
ずっと様子を見ながら考え込んでいた【クロノ・ハラオウン】も、ため息をつきながら歩調を合わせる方向に。
とりあえず原作やお姉様の想定通り、聖王教会と機動6課で保護する方向に持って行けそう。
「方針はこれでええとして、問題はどうやって敵さんより先にその子を見付けるかや。
陸士部隊にも、余計な情報を知られたらあかん人はおるはずやし……」
「なら、4日後にでもフォワード連中に休暇を出して、街に遊びに行かせたらどうだ?
裏の意図さえ漏れなければ、ギンガ達が動くのも問題無いだろう。
人を動かしておけば、意外な場所でばったりという可能性もあるかもしれんぞ。私もフォローしやすいしな。」
というか、原作的な意味でそれが一番確実かもしれない。
私的な外出中に遭遇して対処するなら、越権だの管轄外だのと言われにくいだろうし。
今のところは【ジェイル・スカリエッティ】の関係者が関わってないあたりに、原作で強引に奪おうとした事情が透けて見える。
「フォローって、どれくらいの事が出来るん?
というか、4日後って根拠は?」
「秘密裏に奪うなら今すぐにでも可能だと言えば、概ね想像出来るか?
クアットロも情報を見ている様子があるらしいし、争奪戦になりそうだな」
「笑い事や無い! というか、私らは完全に当て馬や!」
「クアットロや最高評議会が優勢だと思っているのか?
正確には……はじめてのおつかい、か?」
「もっと悪いわ!」
【八神はやて】が叫んでるし【クロノ・ハラオウン】は頭を抱えてるし。
お姉様の例えがピンと来てない【カリム・グラシア】が一番平和なのかもしれない。カリム・グラシアが説明してるから、時間の問題かもしれないけど。
オマケ情報:【ウーノ】は、ウーノやクアットロとお話なう
2015/02/27 1行目→前半 に修正
2019/09/23 並行世界に対する影響調査を兼ねて を追加