やったね!
--俺、決めたんだ。
次にヴィータに出会ったら、手加減なんて言葉を知らない子供のように、フルボッコにしてやるって。
そして、それは今だ。
フライパンを構える。ヴィータも柄が短い尖った杵を構える。
俺は、絶対に殺しはしない。……そんなこと、出来ないし。フェイトさんの前でそんな事をする訳が無い。
--だが、
「絶対に貴女を泣かします」
--泣かしはする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
第9話『交渉と決裂とくっころと』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
フライパン……正直、なんでこんなもんが手元にあるかは知らないし、飛んできたのかは知らないが今は丁度いい。ヴィータはこのフライパンがどれだけ猛威を振るったかを目の当たりにしている。
……だから、少しは警戒してくれているとありがたい。
「--先手必勝っ!」
あぁ、警戒した結果先制攻撃なのね。
「『ラケーテン・ハンマー』!」
目の前でヴィータ持っている柄が短い尖った杵からロケットの噴射口のようなモノが出てきて火を吹き始めた。と、思ったら勢い突けてこちらにやって来た。
………んー……。これ、身体にぶつかったら確実に"く"の文字になるだけじゃ済まないよね絶対。
「食材が!暴れるのはまな板の上と取れ立てだけで充分なんですよ!」
なので、俺は咄嗟にフライパンの裏面(火が当たる面)で防御する。
感覚としては左腰に付けた鞘から刀を居合い風に右手で抜く感じ。
「んなっ!?」
「重っ……」
弾けたって思ったら拮抗し、俺のフライパンとヴィータの持つ柄の短い先の尖った杵……この呼び方面倒臭いな……よし、もう杵って事でいいや。
気を取り直してもう一度、俺のフライパンとヴィータの杵が同時にぶつかり、微動だにしない。
よくよく見れば火花も散ってる。なんだよその杵、金属製だったのか。もしあれなら正月にでも使おうと思ってんだが……臼が壊れちまうからやめとこう。……臼を金属製にするという手もあるか。
まぁそんな事はどうだっていいんだ。今は重要な事じゃない。……霧が出てきたな……。
「っ……」
ヴィータが杵を引き、距離を取る。その結果、俺のフライパンが支えるモノを失い、身体を引き連れて前のめりになる。
「貰った!」
その隙を狙ったヴィータによるまるで瓦割りのような縦の杵の降り下ろし。だが--
「あげません!」
身体を思い切り、ネジ切れるんじゃないかって程に捻る事によりフライパンで杵を打ち上げる。で、そのままの勢いを利用してその場で一回転からの開いた左手での顎を狙った裏拳。
「あぐぇ……」
ヴィータがふらつき、足が地面についたかと思えば、ドサリと地面に崩れ落ちた。で、また立とうとする訳だが足元がぐらついて地面にペタンと座り込む。脳震盪キタコレ。
「ちっ……くしょう……立て、ねぇ……」
悔しいでしょうねぇ……。
勝てるんじゃねって気持ちを与えられ、それをまんまと奪われたあげく反撃にあう。その瞬間こそ相手は一番泣きそうな顔をする。それを実行するってのが、俺の今の目標だったのさ。
そして、それは達成された。ヴィータは目にいっぱいの涙を浮かべている。
そこはかとなく漂う犯罪臭だが、おれまだじゅっさいだからはんざいとかわからないや!……最近は捕まるらしいが。
「さて……」
そんなヴィータに俺はゆらりと近付く。
「く、来るなら来やがれ!相手になってやらぁ!」
普通ならここで降伏するはずでしょう?ですがそれを騎士はしない。何故かって?誇りがあるからだ。
だからこそ、
「口が、悪いようですねぇ……」
まずはその騎士の誇りの一部である武器を蹴り飛ばす。小さな掌でなけなしの力を振り絞っているかはどうかは知らないが、確かに握っていた得物を蹴り飛ばされたその顔は正に今の俺にとってはお笑い草。
これで、後はフェイトさんがやられた事をやって仕返しは終了…………な、訳なんだが。
「ひっ……」
……確かに、ここであれそれして終了は終了なんだが、幾らフェイトさんを傷付けたとしても、フェイトさんの前でこんな女の子を粛正していいのだろうか……。
チラリとフェイトさんの顔を伺って見ると、怯えたような顔をしていた。(アカン)。やりすぎた。
どうしよう………。あ、そうだ。こうしよう。交渉しよう。……駄洒落なんかじゃ、無いんだからね!
「…………さて、ヴィータちゃん」
「な……なんだってんだよ!あ、アタシに何か用でもあるかってんだ!」
相も変わらず牙を剥く。まるで初めて出会った5日後の高町みたいだ。……あの時はビビったなぁ……。いきなり『わたし、あおなくんのことがだいきらい!』だもん。……あの時は本気で俺なんかしたっけ?状態だったし、その日から高町の暴力が始まったんだよなぁ……。
おっと、話は戻る。
「用?用なら掃いて捨ててまた再利用するほどありますよ。…………そうですねぇ、まず、貴女達の目的を教えて下さい」
「あぁ?なんでアタシがお前なんかに「あ"?……おっと失礼」…………ナンデモナイデス」
「いえ、言いたくないんならいいですよ。……ただ、自分から仕掛けておいてこんなザマになる人にそんな拒否権が存在するとは思えませんし」
「ぐっ……」
まぁ、くっころ状態にならないだけましだ。舌を噛み千切ろうとするような行動も見えないし……。恐らくだが、ヴィータの上司……いや、主だっけか?その主ってのはきっとド○クエとかなら全員『いのちだいじに』を選択する人なのかも知れない。
だったら多分その人とは仲良く出来ないだろう。俺は『いろいろやろうぜ』を選ぶ人だし。
「さぁ、早く貴女達の理由目的志……そのどれからでもいいんで、教えて下さい」
「…………」
ほほう……無言を貫くか。だが口を割ってもらわなくちゃいけない。俺は本来なら無関係で巻き込まれる筈じゃ無かった訳だからね。………まぁ、こうして巻き込まれたからこそ、フェイトさんを助ける事が出来…………てないじゃないか。
俺のやった事はザフィーラさんのフェイトさんへの攻撃を防いだだけ。全然守れてない。悔しい、死にたい。
「言わないなら言わないでいいです。……どうせ、貴女が帰ってこないと分かった他の騎士の皆さんがこちらに来るでしょうし」
つまりヴィータには大きな大きな釣り針になって貰うって訳だ。
来たときにヴィータでも人質に再び交渉すればいい。
「………ぐっ…………ッ……!」
唇を悔しさで噛み締めてるヴィータ。端からみたら通報もんだな。大人だったらだけど。ただ、いじめてるようには見えるのは確かな訳だ。
イジメテナイヨータダジョウホウヲシリタイダケダヨー。
……つか、この場面、理由を知らない奴が見たら誤解するだろうな。
「あお、なくん?」
そんな少し悦に入っている俺を呼ぶのは誰?
そこには金髪少年(?)に肩を貸してもらっている高町の姿が。ザm……なんでもない。
………あ、一番見られたら駄目な奴が来た。とにかく一応返事しとこう。
「あれ?奇遇ですね。……どうしたんです?高町さん。………しかもそんなボロボロの格好で」
どうしたんだろ……まるで浦島太郎の亀か花咲か爺さんの犬レベルでボロボロにされてるぞ?しかも手には先っぽに重そうな宝石を付けたヘンテコな杖っぽいモノを持ってるし。
少なくとも、今は俺の知る高町を見ている気にはなれない。
「どうして、あおなくんが、ここに?」
質問に質問で返すなぁぁぁっ!と、言いたい所だが。
「それはこちらの質m「いや、違う。そうじゃない」……え?」
あれ?本当に大丈夫なのか?高町は。頭でもぶつけたのか?割りと深刻なレベルで。
「……あ、あの……高町さーん」
「あおな君もしかしてフェイトちゃんだけじゃなくてヴィータちゃんにまで手を出したの?駄目だなぁそれは駄目だよぉ流石の私でもそれは駄目だと思うんだけどただでさえフェイトちゃんだけでも必死に頑張って耐えてるんだけど流石に二人目は駄目だなぁ」
………あの、高町さん?目に光が灯ってない気がするんですが……。それと流石の俺もヴィータに手は出さないっつの。
チラリとヴィータの方を向くも、ヴィータがいない。……あのガキ逃げやがった!?
「だから……」
あれ?おかしいなぁ……高町の服、ボロボロだった筈なのにみるみる直ってくよ……。後その杖的な奴こっち向けんな怖い怖い。ピカピカ光ってるから。
「粛正、しないとね♪」
虚ろな目で首を傾げる高町さん。……ちなみに近くにいた金髪の少年(?)はどっかに吹き飛ばされた。少年(?)ェ。
それで、高町さんにそう言われた当の俺は、
「えっ」
間の抜けたような反応しか出来ない。
………割りと初めて高町の事が本気で心配になりました。
~その頃のフェイトさん~
(あ、なのはだ。……あれ?どうしてあおなにレイジングハート向けてるんだろう……。もしかして、模擬戦かな?……いいなぁ、私も混ざりたいなぁ……)
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恐らくヤンデレのタグを付けます。
キャラ崩壊……いえ、知らない子ですね(汗)。
感想、質問、批評、誤字脱字報告待ってます。
次回もよろしくお願いいたします。