『愛』はすべてに打ち克つ!   作:とかとか

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第63話『取捨選択大同小異』

 満たされない。

 物足りない。

 心にも、体にもポッカリと"穴"が開いた感覚がずっと、あの(管制人格に奪われた)時から違和感が存在する。なんというか、痒いのにどこが痒いのかが分からない感覚……。

 

 どれだけ魔力を蒐集しても、どんなに"穴"を埋めようとしても、埋まらない。埋められない。彼女達の代わりなんて、いない。

 

 いないんだ。いるわけない。いたらおかしいんだ。いちゃいけない。いたらダメだ。

 

 

 取り返さなくちゃ。

 私の 大切な家族を 取り返さなくちゃ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

第63話『取捨選択大同小異』

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 あやつらとの会議の後、改めて『U-D』の中に取り込まれている時の、あの感情の奔流を思い出した。

 

 一緒、(皆と)、一つに、(家族)、孤独、寂しさ。

 

 歪みに歪んでしまい、かえって真っ直ぐになってしまったその意思。

 確かに、考えてみれば何千年もの間独りぼっちでずっと牢獄のような所におったのだ。……狂っても仕方がない、とまでは言わないが考えるのを止めるレベルまで行くのは確かだろう。

 だが、あの様子を見るに考えるのを止めず、ずっと悲しみや憎しみを圧し殺して耐えに耐えていたに違いない。

 そのタガが、あやつ(盾町 あおな)の特性が干渉したせいか、壊れてしまったのだろう。更には止めようのない感情の波がそのまま増幅し、増幅されたまま力となった結果……。

 ……『U-D』と一つになってしまったからこそわかる。あやつは辛いことや悲しい事があれば、それを隠す事で耐えるタイプなのだと。だからこそ、辛い感情を覆い隠してきた感情を全て力として脱ぎ捨て(解放し)たから、あとには裸の心だけが……『感情変換資質魔力』にとって最も相性のいい純粋な感情だけが残ってしまった。

 もしも、だとか、あぁだったら、などの『もうどうにもならない事』は考えるだけ無駄だ。もう起こってしまった事実には"今"抗う事しか出来ない。

 ……ならば、"今"我がすべき最も正しい行動は『U-D』を抑え我が力とし、更にはその上でシュテルとレヴィを守る事だ。

 

 なんだ。やることは既に分かってるではないか。

 

 ならばあとは実行に移すだけだ。幸い、データは揃った。ここから逆算してワクチンを作ることなど、我にかかれば造作もない。

 

「あっ、王様こないなとこにおったんか。……まさか、食堂におるとは思わんかったで」

 

「……む?なんだ子鴉ではないか。どうした?何か用事か?」

 

「むぅ……用事が無いとあかんの?」

 

 ……なんというか、こやつといると気が狂わされる。ただ、それがいいのかと聞かれれば首は縦にも横にも振れんが。

 

「守護騎士達や管制人格共と戯ればよいだろうに。なんなら、シュテルやレヴィと戯れる事を特別に許すが?」

 

「シュテルはなのはちゃんとなんか言い争いしとるし、レヴィちゃんはフェイトちゃんといちゃいちゃ(力比べ)してる。ヴォルケンの皆やリインは対策で構ってくれへんし、ナハトに至っては『U-D』ちゃんの足取りを追うのに忙しいって言うとるんよ……」

 

 要するに、暇だからブラブラしていたらたまたま我を見つけたから構って欲しいが為に来たということか……。

 あと、盾街の名前とユーノとか言うやつの名前が無かったように感じるが……まぁ、些細な事だろう。

 

「残念だがあいにく、我も用事があるので無理だ」

 

「そっか。……じゃあ、何も言わんから隣座ってもええか?」

 

「……邪魔をしないのであれば、好きにするがよい」

 

「せぇへんよ」

 

 それだけ言うと、子鴉は我の隣の椅子を引き、そこに車椅子で入ってきた。

 ……折角だ。こやつに少し聞いてみるとしよう。

 

「時に子鴉」

 

「んー?なんや?」

 

「貴様は、もしも貴様の家族や友人が危険に目にあっていたらどうする?持てる全ての力でもってその『火種』を消し飛ばす"砲"。それとも持てる全ての力でその『火の粉』を被る"傘"となるか」

 

「……どしたん突然?」

 

 こんな質問をした所為か、まるで頭が可愛そうな子を見るような目で見られて少し、ほんの少しだがムカッ腹が立つ。

 しかしこんな事で憤慨したとあっては器が知れると言うもの。耐えるべし。

 

「いいから、答えよ」

 

「……。私は、両方や」

 

「両方、とな」

 

「私は家族や友人が危険に晒されるっちゅうのは好かん。それでいて、やられっぱなしっちゅうのも嫌や。……せやから、私は両方かな」

 

「……そうか」

 

 その言葉には、嘘も偽りも無く、ただ心の底からの本心が見えた。

 

「それで、王様はこないなこと聞いて、どうしたいん?」

 

「……どうも、しない。……ありがとうな、子鴉」

 

 さぁ、始めるか。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 さてフェイトさんを探すかと会議室を出た瞬間にゴスラビア君に捕まった。それはもう、鼻息荒げてハァハァと。

 

「君を待ってたんだよ。あおな君」

 

 何事かと引いてたら告白されたので丁重に顔面をぶん殴り六歩引いてみる。

 

「い、いきなり何をするんだ!」

 

「いやぁ、流石に鼻息が少しハッスルしている人に近付かれるとつい脊髄反射で拳が出ちゃうと言いますか」

 

 フェイトさんがするならまだしも、いや、そもそもフェイトさんが鼻息荒げる事なんてあるんだろうか。

 ……鼻息を荒げるのはフェイトさんではなく俺の方じゃないか。そう考えるとそんな俺を気持ち悪いとも言わず笑顔で迎えてくれるフェイトさんマジエンジェル。

 なんだろうか、自分がここまで変態チックなのかと少し悲しくなった。

 ……だからだろうか、フェイトさんに視線逸らされたのは。幻滅されたのかな……。死にたい。

 

「……今の一瞬で物凄い百面相をしたね、君。そんな悲しそうな顔をされたら責めるに責められないよ」

 

「それで、ご用事はなんですか?ゴスラビア君」

 

「そうそう。用事なんだけど…………って待って今君僕の名前なんてった?」

 

「ゴスラビア君にゴスラビア君って言ったらダメなんですか?」

 

「僕の名前はユーノ・スクライアだからね?」

 

 似たようなもんだからそれくらい許容してくれてもいいのになぁ……。

 

「それで、用事ってなんです?」

 

「あぁ……それだけど君の持ってるフライパンについてだ」

 

 フライパン?あぁ、あのフライパンの事か。とりあえずユニコーン(仮)としとこう。未来でもそうらしいし。

 

「でも今は持ってませんよ?」

 

「でもそのフライパン、ワープするよね?」

 

「気分によって来るか来ないか分かんないので知らないです」

 

「気分だって!?それはますますすごいじゃないか!」

 

 なんだこいつ。




~その頃のなのはさん~

(問いたださなくちゃあおな君のこと)


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ネタに肉付けしてたらなんか曲がってしまったりしてたのでこ削ぎ落としてまたつけ直してました。

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