その女性の一撃は俺を割り箸を綺麗に割るかのように真っ二つに────する事はなく、止まっていた。いや、止められていた。ちなみに、髪の毛の数本は犠牲になりました。
「お前……なんだ?それは……」
女性の剣撃を止めたそれは、今俺の目の前で浮いている。
こちらから見たら
……と、言うわけで改めて俺を守ってくれている
その扱いに長けた者であるならば、
──その名は……。
「────フライパン(卵焼き専用)……!」
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第4話『フライパンが空を飛ぶ訳がないだろ!』
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「…………貴様、なんだそれは」
それはこちらの台詞なんだが。
何で唐突なピンチを救ってくれたのがヒーローもといヒロインではなくこんな卵焼きにしか使えない(偏見)フライパンなんですかねぇ……?
とにかくなにかしら返事を返しとかないとなんか駄目な気がしたので一言だけを返しておく。
あれだよ。所謂虫の知らせって奴だ。
「知らないんですか?これは卵焼きを作るときにかなり重宝するフライパンですよ?」
「……そんな事は、知っている!」
デスヨネー。
「私が聞きたいのは、何でフライパンが貴様の元に飛んできたのか、と言う話だ!」
そんなの、俺も知るわけが無い。
「……だが、まぁいい。それでお前は得物を得たわけだ」
う~ん。フライパンを武器として扱うことは出来ないカナー。
だってこれ、料理する為の物だし。
と、言うよりあの女性の目が恐ろしく輝いている気がするんだが。
「まさか、怖いのか?少年。まぁ、当然だ。ベルカの騎士であるこの私に勝てる訳がない」
おっとぉ?こんな露骨な挑発、ハハッ笑っちゃうね。
こんなのに引っ掛かる訳がない。
そんな見え見えの見え透いた罠に引っ掛かる馬鹿なんている訳がない。
「試してみますか?俺も元は弓道を少々習ってましたからね」
………無意識なんです。許してやってつかーさい。
つか、弓道が欠片も関係ない件について。
まぁ、確かに習うように誘われた時もあったさ。高町の家が古武術の…………なんってたっけ、確か正式名称が永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術(略して御神流)だったような気がする。
だけどそんなの今はどうだっていい。
「ほう……お前、弓をやっていたのか。道理で少し鍛えられた身体だと思ったぞ」
戦の前の塩は基本。
精神攻撃じゃないだけありがたい。
「さて、少年よ。そのフライパンに名前はあるのか?」
知らん。そんなことは俺の管轄外だ。
「いえ、知りませんが……」
逆に聞きたい。フライパンに名前がいるのか?
あぁいや、ちゃんとした銘があるんだろうが、こんな百均で適当に買ったフライパンに名前がある訳がない。
だが、少し見栄を張るためにちょっとかっこよく言ってみる。
「ふふ……。ただ知っているのはこのフライパンとは様々な地獄を共にして来た……。ただそれだけです」
「ほほう……!それはそれは……。私としても期待せざるをえない」
言ってから後悔。
これが後の祭りか。
ただ、地獄ってのは本当だ。
油を挽き忘れて卵が焦げて大変だったり、まだ熱いのにフライパンを触ってしまい火傷したり、フライパンを洗って乾かしてからそれを仕舞う時に手が滑って右足の小指の付け根部分にダイレクトアタックしてくれやがったり………………ほんに地獄の日々やったでぇ……。
「とにかく、余り俺を嘗めない方がいいですよ?」
顔では何とも無いような顔をしているけど内心はビクビク。
あらやだ、この女性には俺のハッタリが効果がないみたい。
例えるなら高町が大切に取っておいた高町母お手製のシュークリームを知らずに食べてしまい、それを知った後のような感じ。
……あの時は本気で死ぬかと思いました。はい。
「嘗めてはないさ。少なくとも、敵を見た目だけで判断するほど私は慢心してはいない」
してください。
「とりあえず……始めるとしようか」
うわぁ……。完全に殺る気満々じゃないですかーヤダー。
こんなんじゃ、俺、生きる気なくしちまうよ……。
「いざ、尋常に」
でも、やるっきゃない。
俺はとりあえずフライパンを牙突の構えにしておく。ちゃんと、原作通りに左手だ。
「ほう……それがお前の構えか。…………こうしてみるとお前は突きに特化しているように見えるが……なるほど……おもしろい」
女性がなんか色々と考えているが、残念ながら俺には何の考えもない。
とりあえずこうしときゃなんとかなるさって隣のじっちゃが言ってた。
あぁ、こんなことになるんなら高町家の御神流を習っときゃよかった……。
「行くぞ!…………っとと。なんだ!」
女性が地面を思いっきり蹴りあげてこちらに飛んできた。それで『あはは、俺死んだ』って思ってたらいきなり女性がピタリと止まった。
その際になんだ!と大声で問われたがそんなの分かる訳が無い。
それにしても、すごいなぁ……。ちゃんとブレーキが積んである車よりもピタリと止まりやがったよ。
「……そうか。分かったすぐにそちらに向かおう」
女性がいきなり一人言を話し始めたが……やっぱり電波な厨二病患者なのかも知れない。
そんで、頭の中のオペレーターっぽいのからなんか要請が来たから今からそちらに向かうとか?……そんな感じに見える。
…………なんて言うか、この年齢の人でも未だに卒業出来ない人とかいるんだなぁ、って痛感する今日この頃。
「それでは。……すまないが、お前との決着はまた今度になりそうだ」
決着もなにもまだ一合も打ち合って無いんですがそれは。
「えっと……なにかあったんですか?」
「いやなに……。私の仲間達がお前よりも量の多い……丁度いい量の魔力を持った少女を見つけてな」
もう魔力だなんだを俺は気にしない。さっき俺の事をちょいとフォローするように言ったんだろうが、流石の俺も脳内の設定にまで口を出す気は無い。
そんな俺に出来る事はただ1つだけ。
「そう……ですか。頑張ってください」
「あ、あぁ……。ありが、とう?(なんでコイツは笑顔なんだろう)」
笑顔でニッコリ送り出すだけだ。
「ちなみに1つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
とりあえず少しだけこの人の脳内世界に付き合うために聞いてみる。
こうして置くことで『コイツもか……ふふ』とか思わせて、もう絡まれても適当に返す事が出来るからだ。
「その少女達の特徴だけでも聞かせて貰えますか?」
「ふむ……何故だ?」
「いえ、もし仮にその少女達が俺の知り合いだとしたら……少しでも慰める事が出来るかも知れない………そう、思いまして」
まぁ、どうせこの世にいない人物なんだろうがね。
「……ふむ……まぁいいか。瞳が少し紫がかっていて、茶髪のツインテールの少女と……」
ふんふん。…………………ってあるぇ?おっかしいぞぉ?
俺、その子知ってる気がする。
やだ、物凄い嫌な予感がする。
「金髪で赤目のツインテールの少女だ」
携帯を取り出しフェイトさんのGPSをすぐさま確認(いつでもお互いの場所を知れるようにってフェイトさんが……むふふ)。
そしてクラウチングをセッツ&スタート。
幸いフェイトさんの場所はここからたったの3㎞先だった。
この距離ならバリアは張れない(錯乱)。
とりあえず片手にフライパンを握り、自分で最短距離だと思う道を障害物を破壊しながら走る。
待ってて下さいフェイトさん。今行きます。
――これで別人だったら俺は死ねる。
~その後のシグナ……女性さん~
(急ぎの用でもあったのだろうか……。まぁいいヴィータと合流するか)
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フライパンは市販のモノです。
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次回もよろしくお願いいたします。