それと、フライパンの出番はまだです。
今回(恐らく)フェイトさんに独自設定っぽいのが付きます。
……地面に、崩れ落ちる。この
鼻に付くような刺激臭が思考回路を狂わせる。
なんで、なんでこんな事に……。
あの高町どころか、バニングスさん、月村さんまで倒れている。……こんな事があって、いいのだろうか……。
……恐らくそれは……ちっぽけな俺には永遠に分からないだろう。
だが、食してみせる。
これは、フェイトさんの手料理なのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
第3話『あおな、暁に沈む』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
フェイトさんが聖祥大学付属小学校に転校してきて、2~3日経ったある日の事だ。何時ものように高町に追いかけ回されている俺が廊下の壁紙で見つけた
『二クラス合同調理実習』
調理実習──。それは、数多の少年少女達のある意味での初めての手料理。これこれを作って誰々にあげるんだ……などと言ったそんな家族以外の誰かの為に作る料理だ。
それを見たと同時に俺はフェイトさんの手料理が食べれると思い、テンションが鰻が天駆ける龍に成るが如く最高にハイになった。
だが……調理実習の当日。予想外の事実と現実が俺の……いや、俺達の目の前に叩き付けられる。
「えっと……胡椒を少々?……胡椒って、これかな?」
フェイトさん。それは胡椒じゃなくて黒糖です。
「紅生姜……あ、それなら分かる。これだ!」
それは紅生姜とちゃうねん。豆板醤やねん。
「後は……そうだ!困ったらオリーブオイル、だったっけ……」
おのれオリーブオイル、こんな所まで侵食してきおったか。後、それオリーブオイルじゃなくて酢ですよフェイトさん。
ちなみに言うが、作ろうとしているモノはカレーだ。
だが、フェイトさんの作っているカレーは明らかに色がSAN値を削る色をしているし、匂いもかなり強烈だが、そんな些細な事を気にしてはいけないだろう。
有志によるフェイトさん説得隊が即席で結成されたが、フェイトさんの『任せて(ニッコリ)』には勝てず、任せてしまう事になった。その結果がこれである。
「出来た!……じゃあ、これをなのはと……あおなに……」
えへへーって言いながらもじもじとこちらにカレーとスプーンを渡してくるフェイトさん。やっぱり可愛い。
「あ……うん。ありがとうフェイトちゃん……」
「ありがとう……ございます!フェイトさん!」
見て分かる位にテンションがただ下がりの高町と違い、俺は無理矢理にでもテンションを上げる。
ほら、料理は愛情って言うじゃないか。
見てごらんよ。フェイトさんのカレー。色合いがちょっとアレなだけできっと美味しいよ。
「「いただきます」」
俺と高町はほぼ同時にカレーにスプーンを突っ込み、掬い、口へと運ぶ。
あぁ、美味しいじゃないか……。なんだ、ただ見た目が悪いだけで美味しいんじゃないか……。この天にも昇りそう気持ちになる味は素晴らしい……。
もっと食べたいって思った。……だけど、腕が動かないし、視点もどこか高い。ふと、下に目をやると、床に倒れている俺を見付ける。どうやら幽体離脱して今まさに昇天する所だったらしい。
「……ハッ!」
なんとか身体に戻れた。危なかった……。今の一瞬、フェイトさんに似た少女っぽい人がこちらにおいでと手を振っていた気がしたが、なんとか戻れた。
よかった良かっ「ひぐっ……あぅ……ごめん……ごめんなさい……あおな、なのは……」……。
前言の即時撤回を求める。こんなの、全くと言っていいほど良いわけがない。フェイトさんが泣いているんだ。
──男なら、好きな人の作った手料理をなんとする?
勿論、食べる。
──例えそれが、想像を絶する、この世のものではないほどの不味さでも?
当たり前だ。
俺は、立ち上がる。
そして、泣いているフェイトさんに向かって、サムズアップをする。
「大丈夫ですよ、フェイトさん。ちゃんと食べれますから」
「え……あおな……でも、倒れ……」
「誰にだってこんな事はあります。俺だって、最初はそうでしたから……。だけど、フェイトさんの料理は大丈夫です。絶対に上達します。そんな味が、しましたから……」
「あおな……」
自分でも何を言っているのかがさっぱり理解出来なくなっているが、それはきっと愛情のスパイスが強すぎた結果だと脳に上書きする。
さぁ、食べようじゃないか。行くぞ、フェイトさんの料理よ──食べられる準備は充分か?
「さて……もう一度。いただきます!」
スプーンを振るう。ただ、笑顔を守るために。
男がスプーンを振るう理由なんてたった1つ。
好きな人の涙も一緒に掬いたいから、だ。
「はぐはぐもぎゅもぎゅあむあむぅぅっっ!」
ただ、食べる。口とか食道とかからジュンジュワーって音が聞こえるが、そんなものは無視する。今の俺はリスクを度外視して最高のリターンを得ようと頑張っている。
これ食べきれたら好感度UPじゃね?そんな事を考えながら。
そう、下心が満載だったからこそこんな事が出来るんだ。
これもひとえに愛。そう思いながら。
気付くと、皿は空になってたうえ、鍋にあった分も食してしまったらしい。
周りから拍手が巻き起こる。
いや、それは俺の幻覚なのか幻聴なのかどうなのかは知らない。不自然に視界がぼやけ、聴覚は綿を詰めたかのようにくぐもって聞こえる。更に味覚は痺れ嗅覚は完全に破壊されている気がする。
だけど………
「あおな……ありがとう!」
フェイトさんの手の温もりは理解できる。触覚だけはどうやら生き残っていたみたいで俺の手をフェイトさんが握っているのが分かる。
俺も、『どういたしまして』と『ごちそうさまでした』を言おうとしたのだが、残念ながら呂律どころか喉が仕事を休んだ所為で声が出ない。
「私……絶対に料理うまくなるから!」
だけど、フェイトさんのその声は聞こえる。俺の言葉は出てこない。だけど、幾ら耳の機能がやられてもフェイトさんの声はハッキリと聞こえる。
「だから…………その時はまた食べてくれる?」
──────だから、その言葉には頷く事が出来た。
結局、俺はその後倒れてしまったらしい。
らしい、って言うのは倒れたその瞬間の記憶がないから。ただ、覚えているのはフェイトさんの手料理がまた食べれるヤッターって事ぐらいだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、俺が保健室で目を覚ます頃には既に五時頃を回っていた訳だが。夏ならこの時間帯でも明るい。だけど今は12月。よって空は夕闇と宵闇の中間というよくわからないくらいの暗さだった。
とにかく、家に帰ろう。そしてフェイトさんとのツーショット写真を見るかメールで話そう。
──そう考えていた矢先の事。
俺の目の前が歪む。そして、その歪みが元に戻ったと思ったら、そこの空気はどこか、重苦しかった。
ふと空を見ると、空はどす黒い紫色だった。
………明らかにこれはおかしい。
とりあえず、今日フェイトさんの作ったカレーの色程じゃないが、おかしい。いや、フェイトさんの料理はどこもおかしくない。OK?OK(ズドン)。
そうやって思案に暮れていると、後ろから声を掛けられた。
「お前の魔力、もらい受ける」
『おい、デュエルしろよ』ばりの自然な流れで魔力を要求してくる、既に抜剣している高身長で、ピンクの長いポニーテール、更には刃そのものなんじゃないかと思えるくらいに鋭い瞳を持った女性がそこにいた。
なんとなく、なんとなくだけど自分が今ピンチに立たされているんだって事は分かった。だけどどうしようも無いんだよなぁこれが。
「はて、なんのことやら……」
ともかく、今はすっとぼけて時間を稼ぐくらいしか出来ない。
「ふざけるな。そんな強大………………でもないが、そこそこの魔力を持っているのに何故とぼける必要がある」
……これは、ドッキリかなんかなのか?
魔力とか、訳が分からないよ。あれか?厨ニの人なのか?
そうでもないと説明が付かない。
「あの……恐らく人違いだと思われますが……」
「ふむ……。そうか……」
どうやら分かって貰えたようだ。いやぁ……話の分かる厨ニの人で良かっt「だがその魔力は貰っていく」……What?
今、なんて言った?
そんな、呆けているような、隙がありまくりの俺を目掛けて、その女性は持っている剣を──振り下ろす。
~その後のなのはさん~
(ごめん……フェイトちゃん。お姉ちゃんの料理を食べて鍛えられてる筈の私でも……半分が、限、か……い)
◆◇◆◇◆◇
フェイトさんって料理得意なんですかね?
その辺が分からなかったのでこうなった訳ですが。
感想、質問、批評、誤字報告待ってます。
次回もよろしくお願いいたします。