……俺はその後、ナハトに『あとはよろしく』とだけ伝え、職員に転移ゲートとやらの位置を聞き、クロノとリンディさんの制止する声を無視し帰路につく。
……まぁ、理由としてはこんな顔をフェイトさんに見られなくなかったってのが一番だったんだけど。
ボーッと歩いてたら家の前に着いてた。いつもだったら、普通だったら無駄にテンションをあげて『ただいま』って言うんだけど今回はそんな事をするような気分じゃない。だから無言で扉を開け、
「……ただいま」
と、ローテンションになってしまった訳だ。
「あら、あおな、今までどこ行ってたの?……事と場合によってはこってりと絞……どうしたの?その顔。あ、後リニスちゃんとエボニーとアイボリー知らない?」
……母さん、なんであの猫達の名前がデビルハンターの愛用してる銃の名前なんだよ……。
「リニスちゃんなら、親御さんが見付かったのでもう心配する必要はありませんよ。……あと猫二匹については俺も全く知りません。…………それと食欲無いんでもう寝ます」
そうやってのそのそと二階の俺の部屋に行こうとすると、母さんが俺の肩を掴む。しかも、かなり強い力で。
「待ちなさい」
「母さん……。俺、今日は色々と疲れてるんでもう眠りた……あの、母さん?指が俺の右肩にめり込んでてかなり痛いんですが……」
「……あのね。あんたに何があったのかは分からない。……でも、でもね?」
そこから俺の肩を引っ張る。当然そんな事を考えてなかった俺は階段から足が離れ、床に後頭部を打ち付ける。痛いとかそんなちゃちなもんじゃだんじてねぇ。もっと気絶しそうな衝撃を味わったぜ。
痛みで悶絶しそうになっている所にだめ押しとばかりに左腕を腕ひしぎ十字固めでプリィーズ……ってnot please!
「母さん腕がビキビキ言ってますって!これじゃ腕が逝っちゃいますぅぅぅぅ!」
腕が人類の新たなる夜明けの方向に曲がりそうなその時、母さんはニッコリと笑いを張り付けた顔をこちらに向ける。
「飯残すな、後風呂入れ。OK?」
「ア、ハイ」
OK(ズドン)がOK(ドワォ)にならない内に飯全部(リニスちゃんと猫二匹の残したモノも含む)平らげて風呂入って腕と肩を慰めながら寝ました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
第29話『翌日』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目を覚ます。起き上がる。おぅさみぃ。
結局、昨日は色々あったな程度で済むように俺の脳みそは勝手に処理したらしく、あんまり重荷には感じない。……フェイトさんの事以外は。
とまぁ、とりあえず布団から起き上がり、着替える。学校に行かなくちゃいけないし。……正直、はっきり言って休みたい。でも休んだら休んだで母さんに無言の手刀のグォレンダァされたあげく一日中店番をしなくちゃならなくなる。鬼か。
ってな訳でゆっくりと一階に降りる。ほのかに香るいい匂い。今日はパンか。
「あら、あおな。おはよう。……うん。昨日は何があったのかは分からないけど、もう大丈夫そうね」
リビングの
「……おはようございます。まぁ、一応は吹っ切れた、と言った感じですかね」
「それなら良かった」
俺もフランスパンとの戦闘に参加し、辛くも勝利。
最近はフライパンも動くしフランスパンも動くんだな、と勝手に解釈し、フランスパンをカイシャクしてやった。
フランスパン
鈍器としても
使えます
実際にそんな事件があったらしいけど、俺には関係のない話だ。
……さて、時刻が丁度7時半になったので、家を出る。
「あーあおなー今日は店番お願いできるー?」
「……お願い、されました。とりあえず、いってきます」
「ん。いってらっしゃーい」
あー……放課後は携帯を……と思ってたんだがまぁ、仕方ないか。
家を出て、高町家の前を通りかかる。そしたら――
「………あ」
「…………」
今日はどうやら、厄日になるのかも知れない。……おかしいなぁ、俺、今年が厄年?いや、フェイトさんに会えた時点でそれは無いか。じゃあ厄日か。
なぜかって?なのは=高町さんが出現したからだよ。
……こうなるんなら今日は休んだ方が良かった。
…………いや待て。
ここに高町がいる→つまり昨日のあれそれはきっとケッチャコ…→つまりフェイトさんに会える
……なんだ。こう考えると高町も役に立ったんじゃ無いか。でも学校に行ってフェイトさんに会えた時のサプライズ感も欲しかったなーってあおなはあおなは思ってみたり?
「……おはようございます。高町さん」
「……うん。おはよ、あおな君」
……そういや、俺のフライパンどこいったんだろ……。擬人化さした筈だから勝手に帰ってくるモンだとばかり思ってたけど……ま、いっか。
さてさて、しばらく高町と無言で歩いていたらバス停に着きました。
今思うと、聖祥大付属小学校ってすごいよなぁ……だってバスの送り迎えに加えて普通の小学校じゃ習わない事までやる始末。坊っちゃんお嬢様とか周りを見るだけでそこにいたりするもんなぁ……。
ほら、少し見回しただけで一番後ろの座席にはバニングスとか月村とかが手を振っているし。そしてなにより、フェイトさんもいる!
そうと分かれば話は早い。
「おはようございます!フェイトさん!………それとバニングスさんと月村さん」
「おはよ、あおな」
…………なんだ、学校に行くまでもなくフェイトさんに会えるなんて……。今日はいい日になりそうだ。
「……盾街のあの態度が気に入らないんだけど……」
「そ、それは仕方ないんじゃないかな?アリサちゃん」
「…………あおな君……」
あぁ、やっぱりフェイトさんは可愛い。見てて心が満たされるって言うか……なんて言うか。もうこれだけでお腹いっぱい大満足。
そう、これだよ。これこれ。
フェイトさんに挨拶して、フェイトさんと他愛ない会話して、フェイトさんと昼御飯食べて……。
こんな日々だよ。俺が欲しかったのは。
そんな事をしみじみと考えていたらフェイトさんが通学鞄から丁寧に梱包されたモノを取り出してた。
「あ、そうだ。あおな、はいこれ」
唐突にフェイトさんはそれを俺に手渡してくれる。
…………誕生日?いや、俺の誕生日はもうちょい後だし、クリスマス……も早いか。
ま、なんにせよ、フェイトさんからの贈り物は嬉しい。
「あ、あの……開けていいですか?」
「え?うん。勿論」
うわぁ……何が入ってるんだろう。凄い楽しみだ。
丁寧に、丁寧に袋を優しく、破らないように開くと……そこから出てきたのは、なんと!
俺の、フライパンだった。
……そうかぁ……フェイトさんが持っててくれたのか……。迷惑、掛けちゃったな……。
「フェイトさん……わざわざ持ってきて下さるなんて……ありがとうございます!」
「いや、その……そんなにかしこまらなくても……」
……うぅっ……やっぱりフェイトさんは本当に最高の人だよ……。眩しくて直視できないくらいだ……。
女神だ……やっぱりフェイトさんは、女神だったんだ……。
「えっと……あおな?もう着いたよ?」
………………はぅあっ!?
いかんいかん……フェイトさんを見てるだけで時間の事なんてすっかり忘れてしまった……。
フェイトさんがバスを降りるのに着いていく。目の前には聖祥大付属。……毎回思うが、やっぱりデカイ。
靴箱で靴を履き替え、教室がある階まで階段を昇る。
教室の手前でフェイトさんと涙の別れをし、教室に入る。……来年こそは……来年こそはフェイトさんと同じクラスに!
……だが、その為には色々と工作しなくちゃいけないな……。うむむ……。
「おはよ、盾街。……なによその顔。やっぱり昨日食べたテスタロッサさんの料理がいけなかったの?もしなにかあるんだったら、この私になんでも相談しなさい!」
教室に入ると、高町バニングス月村三人娘に次ぐ人気を持つ
長い黒髪を靡かせながら強気な目で、それでいて本気で心配してくれている、それでいて誰にでも別け隔てなく接する、そんな優しい人だから四姉妹の中でもとりわけ人気があるんだろう。
「別になんでもないですよ、徳三さん。だいたい、俺はフェイトさんの料理を食べれて満足してますし」
「なら……いいのかし……ら?」
そう思えば、昨日は本当に色々あったな……。
フェイトさんの手料理食べて、シグナムさんにケンカ売られて、クロノに説教みたいなのされて、八神の料理食べて、猫拾って、リインさんにフルボッコにされて、最終的にはリインさんやナハトと共にジュッてされて……。
……………あれ?俺って食べてフルボッコにされただけのお荷物じゃね?
……そんな事は無いって思いたいけど……。そうとしか思えない不思議。
~その頃のなのはさん~
(あおな君は、フェイトちゃんが好きなんだ……。でも、だとしても、フェイトちゃんには、絶対に負けないんだから!)
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最後の方に出てきた新しい子(徳三さん)はきっと分かる人は分かると思います。
…………勝手な期待を押し付けるような感じで申し訳ないですけれど……。
感想、質問、批評、誤字脱字報告待ってます。
次回もよろしくお願いいたします。