モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第64話 それぞれの想いを載せて

 会議は一時間ほどで終了し、クリュウ達は一度シルフィードと別れて準備に掛かった。一時間後に酒場で待ち合わせする事になっている。

 自由行動となったクリュウ、フィーリア、サクラの三人は市場にいた。もちろん対リオレウス戦用の道具や素材を買い入れる為だ。

「ネットとゲネポスの麻痺牙はあるから、あとはトラップツールを買えばいいね」

 クリュウはそう言うと陳列されている品物の中から工具箱のような物を手に取る。これがトラップツール。罠系統の必需品である。

「他にも色々買い入れないとね。結構消費が激しくて残り少ないのもあるから――って、聞いてる二人とも?」

 クリュウはずっと沈黙しているフィーリアとサクラに向き直る。二人は先程からじーっとクリュウを見詰め続けていた。なのに、彼が声を掛けても何の反応も見せない。クリュウはだんだん自分が何か悪い事をしたのかと不安になるが、思い当たる事がない。だからこそ余計に不安になる。完全に負のスパイラル状態だ。

「あ、あの二人とも……」

「クリュウ様、本当にあの方と行かれるんですか?」

 今まで沈黙していたフィーリアが初めて口を開いた。だが、発せられた言葉はクリュウを困らせるしかない。

「え? そ、そのつもりだけど」

「私はあの方を好きにはなれません」

 ピシャリと言うフィーリア。その瞳にはいつになく不機嫌さと警戒が見える。まるで初めてサクラに会った時のようで、社交性のいい彼女にしては珍しい。

「ふぃ、フィーリア?」

「……私も、反対」

 そう言ってサクラは隻眼でじっとクリュウを見詰める。漆黒の瞳はいつもよりも若干細く見える。それは彼女が真剣だという事を表している。

 仲間二人にいきなり狩りの根本を叩き潰されるような事を言われたクリュウは驚きを隠せずおろおろと困惑する。

「ど、どうしたの二人とも。何か変だよ? それにシルフィードさんはいい人だし頼りになるよ?」

「それは、私達が頼りないと仰りたいのですか?」

「そ、そんな事ないってッ! もう、二人ともほんとにどうしたのぉッ!?」

 クリュウが困ったように問うと、二人はツーンとそっぽを向いてしまう。どうやら二人ともものすごく機嫌が悪いらしい。クリュウは頭にハテナマークを無数に浮かべておろおろするばかりだ。と、

「こんな所で何をしている?」

 その声に驚いて振り返ると、そこには巨大な大剣を背負った白銀の髪をポニーテールで纏めた長身の美少女――シルフィードが立っていた。

「し、シルフィードさん」

 刹那、フィーリアとサクラの鋭い視線がシルフィードに集約された。

「どうしたんですか? こんな所で」

「市場でする事は買い物しかないだろう?」

「あ、そっか。そうですよね」

 自分で言っておかしかったのか、クリュウはあははと笑った。そんな彼を見てシルフィードは呆れながらも小さく笑みを浮かべる。

 またも自分達を置いて二人の世界に入るクリュウとシルフィードに、フィーリアとサクラはムッとする。

「狩りの為の準備をされてたんですか?」

「あぁ、閃光玉が尽きててね。安売りで買い溜めした所だ」

「そうですか。あ、すみません解毒薬ってどこで売ってましたか? あまり毒を持つモンスターと戦った事がないので手持ちがなくて」

「確かそこの角の店が安売りをしていたはずだが。何ならいくつかやろうか?」

「え? で、でも……」

 渋るクリュウに、シルフィードは「気にするな」と言って解毒薬が数本入った紙袋をクリュウに押し付けた。クリュウは遠慮がちにそれを受け取る。

「あ、ありがとうございます」

「気にするな。一時とはいえ仲間に変わりはない。助け合いは必要だ」

 シルフィードの何気ない言葉に、クリュウは「そ、そうですよね」と言ってうつむいた。

 ちょっと悲しかった。

 確かにシルフィードはあくまで一時的に組んでいるだけ。クリュウとしてはこんな頼れる人が仲間にずっといてくれたら嬉しいのだが、彼女はその気はないらしい。話を聞く限りチームを脱退してからはずっと一匹狼でハンターを続けていたらしい。誰かと組まないのかと訊いたら「私は馴れ合いは苦手だ。今回のように一時的ならともかく常備誰かと行動をするつもりはない」と一蹴された。

 彼女はこの狩りが終わればクリュウ達とは別離する。そう思うと、寂しかった。

「どうした?」

 シルフィードの問いにクリュウは「い、いいえ。何でもありません」と言って笑って誤魔化した。シルフィードはクリュウのそんな態度に不思議そうに首を傾げたが、すぐに何事もなかったような顔になる。

「私の用は済んだ。すぐにでも出発できるが、君達はどうだ?」

「え? あ、僕らも大丈夫ですよ。必要なものは全部買い込み、今は他に量が少なくなった物の補充でしたから」

「そうか。ならそろそろ行くか。あまり遅くなってはリオレウスが君の村を襲うかもしれないしな」

「……さらっと怖い事言わないでくださいよ」

 そう言いながらクリュウは歩き出したシルフィードにくっ付いて歩き出す。元々かっこいいというよりはかわいいという顔立ちをしているクリュウ。子供の頃エレナに無理やり女装をさせられたら絶世の美少女となってしまい、エレナの心に壊滅的なダメージを与えた実績も持っているが、彼にしてみればそれは触れてはほしくはないトラウマだ。

 だからこそ、笑顔を振りまくかわいいクリュウとそんな彼に懐かれるシルフィードの姿はまるで飼い主に懐く子犬を思わせるのだ。

 だが、シルフィードに笑い掛けるクリュウは気づいていない――フィーリアとサクラの視線に軽い殺気が含まれている事に。

「うぅ、何でシルフィード様ばっかり……」

「……クリュウのバカ」

 そんな二人の言葉が聞こえたのか、クリュウが振り向いた。二人はドキリとして慌てて口を塞ぐが時すでに遅し。二人はクリュウに聞かれたのではないかと不安そうに彼を見る。が、

「二人とも早く行こうよ。ほら早く」

 そう言ってクリュウは二人に駆け寄るとその両方の手を取る。いきなり手を握られて二人は顔を真っ赤にして狼狽するが、クリュウは気にせず(気づかず)二人の手を引っ張る。

「ほら早く行こうよ!」

 優しげな笑顔で手を引くクリュウに、フィーリアとサクラは自然と笑みを浮かべていた。手を伝って伝わって来る彼の温もりが、心地いい。

 シルフィードはそんな三人を見て、小さく口元に笑みを浮かべていた。

 クリュウ達は今日も賑わうドンドルマの自由市場を後にした。

 

 一度シルフィードと別れたクリュウ達は荷物を持って待ち合わせ場所である酒場に向かった。その数分後にはシルフィードも合流し、いよいよ出発だ。

 この酒場から続く裏手にはギルドがハンターに貸し出す船や竜車などが置かれた場所に繋がっていて、事実上ここからドンドルマのハンターは狩りに出掛ける。クリュウも幾度となくここは使っている。

 クリュウはギルドが貸し出してくれた竜車に荷物を積み入れる。その中にはもちろんクリュウが持ち込んだ大タル爆弾Gの姿もあった。

「大タル爆弾Gか。いくつ持って来たんだ?」

「えっと、全部で八個です。他にも大タル爆弾とカクサンデメキンを三人で三個ずつ持ってきましたので、実質十六個になります。本当は大タルと爆薬も持って来ようかと思ったんですが……」

「……いや、大タル爆弾とカクサンデメキンは置いて行ってくれないか? そんなに使わないし、竜車の半分を爆弾に制圧されるのはあまりいい気はしない」

「そ、そうですか? わかりました」

 少し残念そうにクリュウは大タル爆弾を降ろすとギルドの人に後始末を任せた。こういう風に土壇場で道具変更をするハンターもいるので、ギルドには余った道具を一時的に預かる設備があり、帰って来たら預けた道具を受け取る事が可能なのだ――まぁ、その道具達の主が戻って来ないという事も少なくはないが。

 大タル爆弾を九個も降ろすと、幌の中はずいぶんとすっきりした。面積だけでなく威圧感もかなり消えた――まぁ、大タル爆弾Gは八個残っているし小タル爆弾や打ち上げタル爆弾なんかも結構ある。これが全部酒樽なら嬉しいのだが、中には火気厳禁の爆薬がたっぷりと詰まっている。その光景はもはや恐怖でしかない。

「改めて見てみるとすごい量だな。てっきり大タル爆弾が三発くらいだと思っていたんだが」

「相手は空の王者リオレウスですからね。念には念を入れてみました」

「いや、入れるにしても少し手加減をしてくれないか?」

 シルフィードは少々呆れながらもクリュウの真っ直ぐな瞳に苦笑しながら自分の荷物を積み込みに掛かる。クリュウと違ってこっちの手荷物は少ないのですぐに終わる。幌の中の隅っこの方に自分の道具を纏めていると、フィーリアも荷物を持って入って来た。ガンナーである彼女は弾が多いので荷物も結構ある。

「手伝おうか?」

「え? あ、いえ結構です」

 フィーリアはそう言って断ると大量の弾丸が詰まった荷物をシルフィードから少し離れた場所に置き、がさごそと必要な道具を中から取り出す。そんな彼女の背中に、シルフィードはふと問う。

「フィーリア、君に問いたい事がある」

「え? 何でしょうか?」

 フィーリアは手を止めずにシルフィードに背を向けながら耳を傾ける。そんな彼女にシルフィードはふと思った疑問を問い掛ける。

「君はクリュウと付き合っているのか?」

「ひゃぁッ!?」

 驚きのあまりフィーリアは手に持っていた貫通弾LV2のベルトリンクを落とした。衝撃で外れてしまった弾がバラバラと散ってしまう。慌てて拾い上げる彼女の顔はいつになく真っ赤に染まっている。

「い、いいえッ! わ、私とクリュウ様はただのチームメイトですッ!」

 言っててすごく胸が苦しくなったが、「付き合ってませんが付き合いたいですッ!」なんて大声で言えるはずもなく、自分の想いはグッと胸の奥にしまい込む。

 そんなフィーリアの返答にシルフィードは「そうか」とだけつぶやいて自分の方にまで転がって来た弾を拾うと、そっと彼女に渡す。

「あ、ありがとうございます――で、でも何で突然そんな事を?」

「いや、気になっただけだ。他意はない」

「そうですか……」

「ではサクラとは付き合って――」

「絶対にありません」

 キッパリと言い放つ。これは確実な事なので何の後ろめたさも胸の苦しみもない。一瞬外からサクラのくしゃみが聞こえたが、無視した。

 一方即答されたシルフィードは多少驚きながらも「そうか」とだけつぶやいて別の方に散っている弾を拾い上げる。

「こういう男女のチームの場合、恋人関係の者がいる場合があってな。そういう場合ヘタに刺激するとチームの統制が崩れる事がある。だから事前に知っておこうと思ったのが、このチームは問題なさそうだな」

 そう言ってシルフィードは拾い集めた弾をフィーリアに渡すと竜車を降りて行った。その後姿を見送りながらフィーリアは外れた弾をベルトリンクに付け直す。

「付き合うだなんて……そんな事……」

 どこか寂しげにフィーリアがそうつぶやいた事、その時の表情がちょっと泣きそうなほど悲しげにゆがんでいた事を知る者は、誰もいない。

 

 その頃、クリュウはサクラと一緒に道具の最終調整に入っていた。ポーチの中にとりあえず即時使える物を入れておく。クリュウお得意の閃光玉もしっかり持てるだけの数を持っている。他にもペイントボール、砥石、回復薬、回復薬グレート、こんがり肉など、他にもまだまだ入っているポーチはいつになく膨らんでいる。それだけ持ち物が多いという事だ。

「何せ相手はあのリオレウスだからね。何があるかわからないからさ」

 そう言いながらクリュウはさらに紫色の液体が詰まったビンを入れる。シルフィードに分けてもらった解毒薬だ。さらに水色の液体の入ったビンを取り出す。

「……それは?」

「え? あぁ、これは栄養剤だよ。知ってるでしょ? 一時的だけど体力を底上げしてくれるアイテム」

「……えぇ。クリュウ、栄養剤持ってたんだ」

「あはは、高いからあんまり数はないんだけどね。今回は相手が相手だから奮発してるんだ。他にも一つしかないけど秘薬も持ったんだ」

「……それも、買ったの?」

「ううん。これは前にこの一個だけフィーリアに貰ってたんだ。っていうか秘薬は普通市場には流通してないから自分で調合するしかないけどね」

 世の中には市場に流通しない道具も多い。そういう場合は自分で調合して作るしかないのだ。回復薬グレートや秘薬などはそのいい例だ。

「……準備は万端?」

 サクラは砥石で愛武器――飛竜刀【紅葉】の切れ味を磨きながら問う。その問いに、クリュウは笑顔でうなずいた。

「僕にできる事は全部やったよ。後は戦闘だけさ」

「……そう」

 サクラはそう短く答えると、極限まで磨かれて日の光を美しく反射させる飛竜刀【紅葉】を背中の鞘に戻す。こちらの準備も完了だ。

「準備は終わったか? そろそろ出発するぞ」

 ちょうどのタイミングでシルフィードが声を掛けてきた。彼女もすでに準備を完了し、蒼いリオソウルシリーズの背中には巨大な蒼剣――煌剣リオレウスが背負われている。クリュウは一瞬自分の腰に下がっているデスパライズと見比べて苦笑いした。

 大剣と比べると片手剣はおもちゃみたいだ。だが、この武器には飛竜でさえも麻痺させる強力な麻痺毒が仕込まれている――力が全てではない。こういう工夫も狩りでは重要なのだ。

「わかりました。行こうサクラ」

「……えぇ」

 サクラは自分の荷物を持って立ち上がるとクリュウと共に竜車に乗り込む。すでに中にはフィーリアが一人で待っていた。

「フィーリア、もう出発するって」

「え? あ、はい」

「どうしたの? 浮かない顔して」

 クリュウの不安げな言葉にフィーリアは「な、何でもありませんよ」と笑って誤魔化す。クリュウは彼女の不自然さに気づきながらも、あえて何も訊かなかった――なぜか、訊いてはいけないような気がしたのだ。

 シルフィードは三人と違って幌の外、むき出しの運転席に腰を掛けると幌の中を覗き込む。中ではすでにクリュウ、フィーリア、サクラが出発準備を終えていた。

「では出発するぞ。いいか?」

「はい。出してください」

「よろしくお願いします」

「……出発進行」

 シルフィードは三人の言葉にうなずくと正面を向き手綱を握る。竜車を引くアプトノスはすでに準備万端だ。

「はぁッ」

 パシンと軽く手綱で叩き、アプトノスは歩き出した。続いて繋がれた竜車もゴトンという大きな音と軽い衝撃と共に動き出す。

 最初はゆっくりだった速度が徐々に加速し、あっという間にギルド専用のドンドルマの裏口から竜車は飛び出した。周りは森になっている。

 クリュウは幌の隙間から後ろに小さくなっていくドンドルマを見詰めながらグッと拳を握った。

「いよいよリオレウスと戦うのか……」

 今までの相手とは別格の空の王者リオレウス。ついにクリュウも戦う時が来たのだ。

 ついこの間までかけだしだった自分が、こんなにも早くリオレウスと戦えるようになったのはフィーリアやサクラのおかげだ。

 今までも多くのモンスターと戦って来た。その前には必ず恐怖というものが付き纏っていたが、今回は今までとは比べ物にならない恐怖があった。

 上級飛竜であるリオレウスは熟練のハンターであっても命を落とす事が少なくない相手。今まで運良く生き残ってきたが、そんな運など彼の前では無力になるかもしれない。そう思うと、不安になる。何せその先にあるのは死。死ぬかもしれないという闇がある。

 いくら村を救う為であっても、死ぬのは嫌だ。

 今までも死ぬかもしれないと思った事はある。だが、今回は《かもしれない》じゃ済まない相手。それほどまでに強大な存在なのだ。

 不安や恐怖で、胸が押し潰されそうだった。

「クリュウ様」

 そんな時に掛けられた優しげな声に振り返ると、すぐ近くにフィーリアがいた。気が付かなかった。

「フィーリア……」

「そんなに緊張されていては勝てるものも勝てなくなってしまいますよ」

 そう言ってフィーリアは微笑むと、そっとクリュウの手を両手で包むように握った。驚くクリュウにフィーリアは優しく言葉を伝える。

「大丈夫です。クリュウ様ならきっと、リオレウスを倒せます。私達がついてますから」

 その言葉にどれだけ救われただろうか。胸の中にあった黒く重い不安や恐怖がスッと消えた気がした。完全とは言えないが、それでもずいぶんと軽くなる。

 クリュウの表情が変わったのを見て、フィーリアは安堵したように微笑んだ。

「良かった、どうやら幾分か解かれたようですね」

「うん。ありがとうフィーリア」

「お礼なんていりませんよ。私とクリュウ様の仲ではありませんか」

 そう言ってフィーリアはクリュウの横に腰掛ける。肩と肩が竜車が揺れるたびに触れる、そんな至近距離。フィーリアは彼の膝の上に置かれた彼の手の上にそっと自分の手を重ねた。

 彼の温もりを感じ、フィーリア自身幾分か緊張が解れた。いくら歴戦の戦士とはいえ、緊張しない訳ではない。しかも今度の相手はリオレウス。いつになく不安もあったが、彼の温もりがこうして自分を安堵させてくれる。自分の中の黒く、冷たく、重い不安を、彼の温かさがそっと包み込んで溶かしてくれる。本当に不思議な感覚だ。

 フィーリアはちょっぴり頬を赤らめながら少しだけ大胆になってクリュウの腕を取るとそっと抱き締めた。

「ふぃ、フィーリア?」

 驚くクリュウに小さく微笑みながら、フィーリアは彼の腕を抱き締め続ける。お互い鎧を着込んでいるので直接は触れられない。でも、温かかった。

 フィーリアは幸せそうな表情を浮かべ、クリュウはどこか気恥ずかしそうに視線を逸らす。何とも言えないくすぐったい景色だ。と、

「……ずるい」

 そう言ってサクラはクリュウの正面に腰を下ろして正座すると、そのままクリュウに向かって抱き付いた。

「なぁッ!?」

「さ、サクラぁッ!?」

 驚く二人を無視し、サクラは自分の両腕を彼の首に絡め、そのちょっと頼りないが温かく優しい胸に体を密着させる。お互いの温もりが、鎧を通して伝わって来る。

「……クリュウ、温かい」

 そう言ってサクラはクリュウに抱きついたまま離れない。そんなサクラにクリュウはおろおろし、フィーリアはムッとする。

「さ、サクラ様ッ! ご自分ばかりずるいですッ! ここは公平に腕に抱き付くのではないんですかッ!?」

「……関係ない。クリュウは渡さない」

 困り果てるクリュウの前で、二人の恋姫がバチバチと火花が散りそうな勢いで睨み合う。そんな三人を幌の外から覗き見たシルフィードは口元に小さく笑みを浮かべた。

「……私も、こういう仲間がほしかったな」

 そう誰に言うでもなく悲しげにつぶやいたシルフィードは、フッと小さく笑みを浮かべるとちょっとだけ速度を緩めた。

 もう少しだけ、このうらやましい仲間を見ていたかった……


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