モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第60話 片手剣の役目

 アルフレアから村に戻ったクリュウとサクラだったが、クリュウは早速エレナの跳び蹴りを受ける事になった。

 実質三週間も村を空けていたのでものすごい心配を掛けていたのだ。エレナの涙目で怒鳴る姿を見てしまえば、さすがのクリュウも反撃不能。ただひたすら謝り続けるしかなかった。

 その後三日間エレナは一切クリュウに口を利かず、クリュウは必死に彼女に謝るしかなかった。何とか許してもらっても、クリュウは胸にあまり長い間村を空ける事はしないと誓うのであった。

 一方、フィーリアはまだ戻っていなかった。それだけ桜リオレイアに苦闘しているのかと思うと気が気ではないが、彼女ならきっと大丈夫とクリュウは信じた。

 そして、アルフレアから村に戻って一週間の月日が流れた……

 

「ギャアオワァッ! ギャオワァッ!」

 自慢の茶褐色の皮膚をズタズタにされ、血まみれになりながらも真っ赤な瞳だけは目の前の敵を睨んで敵意を向け続ける。

 肌が焼けるような暑さに体中に汗を掻きながら、クリュウは目の前の敵――ドスゲネポスと対峙する。

 肩で荒い息をするクリュウだが、まだまだ体は動く。それに対してドスゲネポスはクリュウの執拗な攻撃を受け続け、もはやその体力も尽き掛けていた。

 砂塵が舞い、視界を悪くするが二人の間にはそんなものは意味を成さない。互いに殺気を出し合っているので、目を閉じていても互いの位置などわかってしまう。

 ドスゲネポスの周りには彼を守っていたゲネポスの亡骸が数匹転がっている。これももちろんクリュウが倒したものだ。

「グルルルゥゥゥ……」

 鋭い瞳で睨み続けるドスゲネポス。そしてそんなドスゲネポスにオデッセイを構えながら対峙するクリュウ。

 お互いがお互いの射程に入った状態。どちらが先に動くかで、勝敗は決する。

 そして、風が吹き砂塵を消し飛ばした刹那――双方共に動いた。

「ギャオワアアアァァァッ!」

「うりゃあああぁぁぁッ!」

 ドスゲネポスの巨大な爪がクリュウのバサルヘルムを吹き飛ばす。そしてクリュウの刃は――ドスゲネポスの腹に深々と突き刺さった。

「グウウウゥゥゥ……」

 そんな小さな鳴き声の後、ドスゲネポスは力を失って倒れた。クリュウは荒い息のままドスゲネポスに深々と突き刺さったオデッセイを引き抜く。が、抜き終えた途端彼は剣を取りこぼしてしまった。

「……うぅ……まだ痺れが抜けてないか……」

 先程ドスゲネポスとゲネポスに包囲された時に牙攻撃を受けて麻痺してしまった。その時は何とか切り抜けたが、まだ完全には痺れが抜けてはいなかった。

「危なかった……サクラも呼べば良かったなぁ……」

 そう言ってクリュウは疲れた体を投げ出すようにして砂の上に座った。

 サクラは今村にいる。今回はクリュウ単独で受けた依頼だったのだが、思いのほかゲネポスの数が多く、さらに目の前に転がっているドスゲネポスも今までの中で一番大きいだろう。

 久しぶりの単独狩猟だったせいか、ずいぶん自分の単独狩猟の勘が鈍くなっていた。

 フィーリアが村を出て行った後しばらく単独狩猟が連続失敗した事があった。あれがまだ未熟だった上に単身が苦手だったからだ。それを克服しようとクリュウは努力し続け、今では単独でもそれなりに倒せるようになっていた。

 だが、クリュウの本領はチームプレーにある。彼はチームでだからこそより強く自分を前に出せる。後ろは仲間が守ってくれる。そう信じているから。

 今回の依頼はそんなチーム戦をより円滑(えんかつ)にする為の武器を作る為の素材を手に入れる為のものだ。

 クリュウはドスゲネポスの死骸に祈りを捧げると、剥ぎ取りナイフを取り出して解体を始める。そして目的のドスゲネポスの皮を手に入れると、意気揚々と拠点(ベースキャンプ)に戻る。

 依頼内容はドスゲネポス一匹の狩猟。つまり依頼は完遂だ。その他にも素材袋には手に入れたゲネポスの牙や皮やサボテンの花などがある。

 拠点(ベースキャンプ)に戻った彼を待っていたのは一匹のアプトノス。名前はアニエス。雌のアプトノスだ。

 村に戻った彼らに村長がわざわざ用意してくれたのがこのアニエスであった。

 実はシルキーは現在――妊娠しているのだ。

 お相手は村の公用農場で飼われているアプトノスの一匹。常日頃はそちらに預けていたので、その際にカップルになったらしい。

 妊娠してしまったのでは無理に働かせる訳にもいかず、仕方なくクリュウはシルキーの後任のアプトノスを村長に頼んでいたのだ。

 そして、そんなシルキーの代わりにクリュウに配属されたのがこのアニエスという訳だ。性格は大人しく、子供と大人の間くらい。シルキーよりもずっと若いアプトノスだ。人間で言うとクリュウ達と同じくらいの年齢だ。

 日々シルキーで訓練していたおかげで、クリュウもすでに一人で運転できる。なので、今日はアニエスと二人っきりの初旅行という訳だ。

 アニエスは拠点(ベースキャンプ)の隅の大きな水溜りに口を突っ込んで水を飲んでいたが、クリュウの気配を感じると顔を上げて「キュオォ」と鳴く。アニエスは他のアプトノスと違って声がすごくかわいい。クリュウもその声が大好きだった。

「アニエス。待たせてごめんなぁ。終わったから帰ろう」

「キュオォ♪」

 明らかにご機嫌だ。クリュウが近づくと頬擦りまでして来る。本当にかわいらしい。

 クリュウは荷物を整えるとシルキーの頃から使っている竜車に荷物を押し込み、準備を完了する。

 運転席に移動し、手綱を持つ。アニエスはいつもでオッケーと言いたげにこちらを振り返った。それにうなずき、クリュウは手綱を引っ張る。

「出発だ!」

「キュオォッ!」

 クリュウはイージス村を目指してレディーナ砂漠を出発した。

 

 村に帰ったクリュウは早速手に入れた素材を持ってアシュアの工房に向かう。

 アシュアは店先に出て誰かと話していた。それはクリュウもよく知る人物だ。

「アルト兄さん!」

 クリュウの声に背中に大きな荷物を背負った青髪の青年――アルト・フューリアスは振り返った。

「おぉ、クリュウか。久しぶりだな」

「アルト兄さん! いつ村に来てたのッ!?」

「今さっきさ。もうサクラとも会ったぞ。これから三日ほど村で商売するんだ。クリュウも買いに来いよな」

「もちろん。アルト兄さんの商品は良品ばかりだからね」

「当たり前だ。これでも商人の端くれ。半端な物を売ってたら商人失格だからな」

 自信満々に言うアルトに、クリュウは笑みを浮かべる。

 アルトはいつも楽しげで自信に満ち溢れている。クリュウはそんな彼を心から尊敬し、憧れていた。本当に優しい。村の誰からも慕われている――ちなみにドンドルマとかでの仕入れの時は別人のように怖いのだが、その顔を知っている者はこの村にはいない。

「クリュウくん久しぶりぃ。今日は一体何の用なん?」

「あ、アシュアさんこんにちは! えっとですね、今日は新しい武器を作りたいんですけど」

 そう言ってクリュウはその自分が作りたい武器とその使い道を言った。すると二人は納得したような顔になる。

「なるほどなぁ、片手剣の低めな攻撃力よりも最初からチームプレー重視の状態異常に変える訳やな。あんたらしいやり方やなぁ」

「確かに。お前が動きを止めてサクラが叩きのめす。フィーリアはその掩護か。シンプルだがベストな選択だな。片手剣使いがチーム戦でよく使う戦法だ」

 二人の言葉にクリュウは自分で考えた戦法に自信を持った。やっぱり自分は補助に回った方がいいのだ。一番攻撃力が高いサクラの為に自分が動く。それが自分達のチームに合ったやり方だ。

「今のところ僕の作れる武器でできる最善の策ですね。もっといい素材があればいい武器を作れるんですが、僕のレベルだとこれが限界ですね」

「そういう事やったらうちも全力でがんばったるでぇ〜」

「よろしくお願いします」

 アシュアはクリュウから素材と料金を受け取ると早速工房の中に入っていった。そんな彼女の背中を見送るクリュウとアルト。

「それじゃ俺も商売すっかな」

「あ、僕にも見せて。ちょうど品薄状態だったから」

「任しとけって。今日は結構いい品物があるから期待しろよ?」

「もちろん。じゃあサクラも呼んで来るね!」

「わかった。場所はいつもの所だ。早く来ないと売り切れちまうぜ?」

「い、急いで呼んで来る!」

 クリュウは慌てて自分の家に走って行った。そんな彼の背中に小さく微笑むと、アルトはいつものように村の中央の分かれ道の真ん中でシートを敷いて商品を並べて商売を開始する。アルトの市が開くとすぐに村人が大勢やって来る。クリュウがサクラの手を引いて来た頃にはすでに超満員。辺境の村であるイージス村にとってアルトのような行商人が持って来る商品は珍しい品が多い上に村の道具屋よりも安い時があるので人気がある。

 クリュウとサクラは遅れを取り戻そうと人だかりの中に飛び込んだ。

 今日もまた、イージス村は騒がしい一日となりそうだ。


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