モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第53話 独立貿易都市アルフレアでの絆

 定期的に出ている定期船に揺られながら、クリュウは海の向こうに見えてきた巨大な都市を見て驚く。

「うわぁ、大きいなぁ。それにすごい壁」

「……アルフレアはこの付近の貿易都市。人口も多い。飛竜以外のモンスターならあの壁が防ぐし、飛竜が来ても街には常時二〇人前後のハンターがいるから対処可能。この辺一帯では一番安心」

「へぇ、さすがアルフレアだね」

 サクラの説明に、クリュウは再び巨大な街――アルフレアを見詰める。

 独立自由貿易都市アルフレア。高い壁に覆われて通常モンスターは入る事のできないこの付近一帯の貿易を一手に引き受ける巨大な貿易都市だ。ドンドルマなんかよりはもちろん小さいが、市場の規模は貿易街なのでドンドルマよりも大きい。特に海産物に関してはこちらの方が優れている海辺の中都市だ。

 そして、ラミィとレミィがいる街でもある。

「この街にはラミィとレミィっていう双子のハンターがいるって事は前にも話したよね」

「……(コクリ)」

「すいぶん久しぶりだなぁ。元気にしてるかな」

「……そう」

「え? 何で二人の話をした途端に背を向けるの? ねぇちょっと!」

 後ろでクリュウが声を掛けて来るが、サクラは無視する。その表情はどこか不満そうに子供っぽく頬を少し膨らませている。

「……せっかく、二人っきりなのに……」

 サクラはぽつりと不満そうにつぶやく。

 クリュウはそんなサクラを見詰めながら困ったように頬を掻く。その時、船員が「まもなく到着します! お忘れ物のないようにお願いします!」と言いながら船内を歩いて行った。他に乗っていた客も次々に荷物を纏める。

「サクラ。そろそろ着くって。荷物纏めよう」

「……わかった」

 クリュウとサクラは自分達の荷物を纏めると船内から出て甲板に出る。

 海風を心地良く思いながら近づいて来るアルフレアを見詰め、クリュウは笑みが浮かぶ。

「どんな街だろ。楽しみだな」

 そのまるで子供のような無邪気な笑顔に、サクラは小さく笑みを浮かべる。

 クリュウとサクラ、二人っきりの初めての旅であった。

 

 時は少し遡(さかのぼ)って一週間前、それは突如として起きた。

「クリュウ様ッ! お暇をもらってもよろしいでしょうかッ!?」

 朝の優雅なひと時、ミルクと砂糖をたっぷり入れたコーヒーにサンドイッチで朝食をしていたクリュウ。そんな彼に興奮しながらそう言ったのはフィーリアだ。

「え? ど、どうしたの?」

 クリュウと彼の隣でサンドイッチと紅茶で朝食を取っていたサクラも不審そうに首を傾げる。そんな二人の反応にフィーリアは興奮冷めぬまましゃべる。

「私直々に狩りの依頼が来たんです! ですので行きたいのですがッ!」

 異常なほどものすごく嬉しそうな笑みを浮かべて話すフィーリアに、クリュウちょっと引いていた。一体どうしたというのだろうか。

「べ、別にいいけど」

「ほ、本当ですかッ!? やったぁッ!」

 クリュウの返答にフィーリアは万歳して大喜び。そのテンションの高さにクリュウとサクラは不思議そうに互いの顔を見合う。

「えっと、もしかしてリオレイアの討伐依頼?」

 フィーリアがここまで大喜びをする狩りといえば彼女が最も愛する飛竜、雌火竜リオレイアくらいしかないだろう。だがそれにしてもこの異常なテンションの高さは……

「そうなんですよぉッ! しかもただのリオレイアじゃないんですぅッ!」

「へ? どういう事?」

 クリュウの問いに、フィーリアはもう笑顔が止まらない。クリュウとサクラはいつでも逃げれるように少し腰を浮かせた。

「それがリオレイアの亜種なんですよぉッ! またの名を桜リオレイアッ! もう嬉しくて嬉しくてッ!」

「り、リオレイアの亜種ッ!?」

「……私?」

 亜種というのは主に鱗や皮などの体色が通常体とは異なり、肉質や弱点属性が変化した突然変異モンスターの事を言う。そして、俗に亜種は通常体よりも強力なものが多い。

 フィーリアの言うリオレイア亜種というのは別名桜火竜という桜色の鱗や甲殻に覆われたリオレイアの事。個体数が少なく、幾多の古書の中にも登場する聖なる存在として祭られている幻のリオレイアだ。もちろん通常のリオレイアよりも強い。ちなみに、さらに珍しいリオレイア希少種という黄金のリオレイアがいるらしい。

 とにかく、そんな超珍しいリオレイア亜種の討伐依頼がリオレイアハンターとも言えるフィーリアに舞い込んで来たらしい。ようやく彼女のテンションの高さが理解できた。

「そっか、僕は別に構わないけど。大丈夫なの?」

 亜種は通常体よりも強い。師匠から習った事を思い出してクリュウは不安になるが、フィーリアはえっへんと胸を反らす。

「これでも桜リオレイアはすでに三頭狩っています。もちろん一人ではありませんが、今回も向こうに行ってハンターを集める予定です」

 さすがフィーリアとしか言いようがない。フィーリアの桜リオレイア討伐済みという言葉に、クリュウの食欲が失せたのは不慮の事故としか言えないだろう。

「ですので今日の昼にも出たいと思います! では村の事は任せましたよ!」

「ちょ、ちょっと――」

 クリュウが止める暇もなく、フィーリアは全速力で家に向かって行った。あんなに生き生きとした彼女を見るのは初めてかもしれない。

「えっと……」

「……クリュウと私。二人っきり」

「という事になるよね」

「……(コクリ)」

 こうして、突如として村のハンターはクリュウとサクラだけとなってしまった。

 しかし運が良かった。ここ最近はクリュウ達の地道な努力によってランポスなどが村の近くまで来ていないので、フィーリアがいなくても問題はなかった。それどころかハンターとしての依頼も最近は素材採集ツアーかキノコ狩りくらいしかなかった。

 フィーリアは桜リオレイアとの戦いの為に早速ドンドルマに向かって旅立った。そしてクリュウとサクラはクリュウが思い出したようにアルフレア行きを決め、こうして定期船に乗ってやって来た。という事だ。

 

 イージス村を出て計一週間、行き着いたアルフレアは活気に満ち溢れていた。人々は色々な物を求めて一般人も商人も、そしてハンターも忙しく動き回っている。

 クリュウとサクラはそんなアルフレアの中央に位置する自由市場にいた。市場には多くの店舗が立ち並び、露店の数もすさまじい。都市自体の大きさは劣るが、市場はドンドルマをも超えるような規模だ。商人同士の競りも苛烈を極め、怒号のような怒鳴り声が響いて次々に値段が決まっていく。まるで戦争だ。

 市場の真ん中には街全体から見える巨大な時計塔が立っている。竜人族の技術を用いたその時計はどういう仕掛けで動いてるのかはわからないが、正確に針が動いて時を刻む。そして一時間後ごとに鐘が鳴り響いて人々に時間を知らせている。

 この世界において時計塔が設置されている都市はアルフレアやドンドルマ、ミナガルデなどその他数都市の限られている。アルフレアがどれだけ重要な都市かがわかる象徴だ。

 さらにハンターは対モンスター戦として街の外で戦うのならば、人々の争いや犯罪を守る為に街の中で戦う自警団まで組織されている。おかげで犯罪率はそれほど高くはないし、発生しても自警団のおかげで多くが解決される。

 都市機能としてはドンドルマよりも優れた街、それがアルフレアであった。

 賑わう自由市場を歩くクリュウとサクラ。ちなみに二人ともしっかりと体を武装で包んでいる。こういう場所では武器や防具で相手の力量を測るので重要な事だからだ。と言ってもクリュウは相変わらずヘルムは被っていないが。しかも皆の目線はほとんどサクラに注がれる。やはりここでも凛シリーズはすさまじい威力を見せていた。

「さすがサクラだね。注目の的だよ」

「……私はクリュウにだけ見ててほしい。それだけでいい」

「……あのさ、さり気なく恥ずかしい事を言わないでくれるかな?」

 そんないつもの二人は色々な店を覗きはするが、一切何も買わない。ここに来た目的はハンターとして仕事を探しに来たのだ。遊びに来た訳ではないし、買い物をするにしてもそれは帰る時だ。単純に荷物が増えるだけだ。

 そんなこんなで二人は自由市場を覗いた後に街の中央部から少し外れた、ギルドが設置されている酒場に向かう。ギルドと酒場が一緒なのはどうやらどこも同じらしい。その方が勝手がいいからだろう。

 クリュウとサクラが向かったアルフレアの酒場は木造建築。街の中でも丘の上の位置する為に窓からはオーシャンビューが堪能できる。まぁ、ハンターはそういうのはあまり興味がないのだが。

 二人が中に入ると、中にはかなりの人がいた。特に多いのはハンターだが、もちろん一般人もいる。酒場はハンターの為だけにあるのではないのだ。

 酒やタバコ、様々な料理などの匂いがドンドルマの酒場のように充満していないのは、開け放たれた窓や木造だからこその風通しの良さで海風に消されているからだ。どこかドンドルマより清潔そうに見える。

 クリュウとサクラは奥の受付に行きギルドカードを提示してハンターの登録をする。受付の女性は美人な方が受けがいいのかやっぱり美人だ。と言ってもライザの方がきれいだなぁとクリュウは内心思っていた。

「承りました。ではごゆっくりと。依頼の方はあちらの掲示板に貼ってあります。あと向こうの掲示板はチーム募集の掲示板です。どちらも目を通しておいた方がいいですよ」

 受付嬢は笑顔100パーセントでクリュウ達に説明をする。その笑顔が営業スマイルである事はドンドルマの酒場での経験でちゃんとわかっている。

 二人はとりあえず依頼掲示板を覗いてみる。イージス村以上ドンドルマ以下というくらいで依頼書が貼ってある。下はキノコ狩りから上は飛竜の討伐依頼。結構豊富な品揃えだ。

「さて、どれを受けよっか」

 クリュウは何かいい依頼はないかと探す。だが、なかなか手頃なものがない。上級飛竜の討伐はクリュウではまだ無理だし、ドスランポスとかはあまり乗り気ではない。

「ねぇサクラ。どれがいいと思う?」

 クリュウはサクラに問う。するとさすがはサクラ。

「……私達はまだこの辺の地形を知らない。まずは簡単な依頼を受けて地形を把握する。もしくはここのハンターと合同で狩りをする」

「なるほどねぇ」

 何とも的確な意見だ。やはりこういう時も彼女は頼りになる。

 という事で二人は今度は仲間募集の掲示板へ向かう。すると様々なハンターが仲間を探しているらしい。依頼ごとの仲間を募集するのもあれば恒久的な仲間を募集する紙もある。ただし今回二人が見るのは前者の方だ。

「うーん、やっぱり昼だともうみんな狩りに行っちゃってるせいかいいのがないね」

「……そうね」

 ハンターは時に何日も掛けて狩場へ行かなければならない。だからこそ皆朝に出掛けてしまうのだ。その為、この時間帯は主に仕事のないハンターか狩りを終えて帰って来たハンターが食事や宴会をしているのだ。

「仕方がない。とりあえず今は腹ごしらえをしておこうよ」

「……そうね」

 クリュウとサクラはとりあえず昼食とする事にした。海に面している街という事もあり海産物は豊富。二人は早速魚介類のメニューを注文する。

 サクラは女王エビとココット米のパエリア。クリュウはスネークサーモンや他の魚をウマイ米に盛った海鮮丼を注文した。

 しばらくしてウエイトレスの女性が二人の食事を持って来た。目の前に置かれた料理はもう見るだけでもおいしいそうだ。

「ごゆっくりどうぞ」

 営業スマイルを炸裂させたウエイトレスはテーブルから去る。その途中ハンターの男にお尻を触られそうになったが、神業的な回し蹴りで男を粉砕。「今度そのような行為をされたら死なしますよ♪」と言い残して仕事を再開する。そんな彼女を見てため息する最近女性恐怖症の不安を抱くクリュウであった。

「うわぁ、おいしそう」

「……そうね」

「いただきま〜す!」

「……いただきます」

 二人はほぼ同時に料理を口の中に入れる。味はもちろん最高。魚の身のプリプリ感がまたたまらない。噛めば噛むほど甘味が染み出して来る。イージス村も海に面しているが、アルフレアは漁業に力を入れているだけあって味も抜群だ。

 二人はとりあえず食事をしながらこれからの予定を組む。フィーリアの方は相手がリオレイア亜種という事もありかなりの日数が必要とされると予想。なのでこっちもそれなりの日数を確保してある。ちなみに帰りには魚介類を買っておくようにとエレナに頼まれている。何とも抜け目のない子である。

「とにかくまずは地形に慣れる事だね。とりあえず今日は素材採集ツアーでもする?」

「……そうね。それが一番。今日は情報を集め、そして狩りに出る。それがいい」

「うん、わかった。とりあえずその方向で」

 とりあえず基本路線は決まった。二人はその後細かなやり取りをしながら食事を進める。

 食事を終えた二人はテーブルを囲みながら無料配布されているアルフレア周辺の狩場の概要が書かれた紙を見ながら相談する。

 アルフレアから行ける狩場はドンドルマ並みに充実していた。どの地域にするかによっても大きく変わって来る。特にクリュウはまだ沼地や湿地帯、雪山と呼ばれる場所には行った事がない。その為話し合いは細かく行われるのだ。

 半時ほど経った時、クリュウは突然立ち上がった。

「……クリュウ?」

「あぁごめん。ちょっとトイレ行って来る」

 クリュウはそう言うとトイレに消えた。一人残されたサクラは何をするでもなく適当に先程の紙を見詰める。

「お嬢さん、俺達と一緒に一杯どうだい?」

 その聞き飽きたセリフにサクラはため息した。そんな彼女を囲むのは三人のハンターの男。装備は下級か中級ぐらい。己の力量を理解していない愚かな連中だ。

「お嬢ちゃんかわいいね。どうだ? 一人なら俺達と組まないか?」

「……必要ない」

「そうつれない事言うなよ」

 相変わらずこういう連中はしつこい。明らかに自分の事をいやらしい目つきで見ている。その不快な視線には虫唾が走る。これがクリュウと同じ男。比べるまでもなくこいつらは最悪だ。

「……しつこい」

「なぁそう言うなって。俺達と一緒に――」

「……いい加減に」

「何をしているんですかッ!」

 武器に手を掛けようとした刹那に響いた声に、四人は訝(いぶか)しげにその声の主を見る。それは先程入って来たばかりのハンターの女の子であった。全身ザザミシリーズを身に纏ったツインテールの少女。その背中には巨大な銃槍――シザーガンランスが背負われている。

 サクラは不思議そうに少女を見詰める。少女はサクラを囲む三人のハンターに近寄ると、自分より頭一つ以上大きな三人の男達に向かって堂々と対峙する。

「あなた達! この人嫌がってるじゃないですかッ!」

「あん? 誰だテメェ」

「この街のハンターです! あなた達は外部のハンターですね? 街の雰囲気を乱さないでください!」

「おいおい、俺達は別に普通にこのお嬢ちゃんと親しくなりたいだけだぜ」

「それが迷惑なんです! とにかく離れてください!」

「うーん、そうだなぁ。このお嬢ちゃんほどじゃないけど、あんたもかわいい顔してるからな。あんたが俺達と付き合ってくれるなら考えてやってもいいぜ?」

「え? そ、それはダメですよ……ッ!」

 少女は慌てて距離を置こうとするが、その手を男に掴まれる。

「おいおい、逃げなくてもいいじゃねぇか」

「は、放してくださいッ!」

 今度は三人がかりで少女に標的を変える。サクラは凛とした隻眼を鋭くさせて立ち上がった。

「……ちょっと」

「あん? 何だ嬢ちゃん。あんたも俺達と――ギャアッ!」

 男に対してのサクラの返答は椅子による後頭部強打であった。ババコンガすら太刀一本で岩壁に叩きつけられるだけの見た目に反した強力な腕力によって打ち出された一撃はたったそれだけで男を他のテーブルを巻き込みながら吹き飛ばし、気絶させる。

 残った男達、そしてザザミ少女は目を大きく見開く。その目に映るのは、いつでも太刀を抜き放つ用意が整った、殺気を身に纏う自分達とは明らかに実力差があるとわかる少女――サクラが立っていた。

「……殺すわよ」

 たったそれだけで、男達は顔面蒼白にして慌てて逃げ出す。

「……待ちなさい」

「「はいぃッ!」」

「……このゴミ持って行きなさい」

「「はいいいぃぃぃッ!」」

 ゴミ扱いされた気絶した男を引っ掴み、男二人は逃げるようにして出て行った。周りからは拍手喝采。先程のウエイトレスは苦笑いしながら倒れたテーブルや椅子を直す。

 サクラは気にした様子もなく放出していた殺気を消すと、くるりと背を向ける。と、

「あ、あのッ!」

 その声に振り向くと、ザザミ少女がこちらに屈託のない笑みを向けていた。

「助けてくれてありがとうございました!」

「……いや、元々はあなたが助けてくれた。礼を言うのはこっち」

「いえ、私は口を出しただけですし、そもそも逆に助けられちゃったからダメですよ」

 少女は照れたように笑みを浮かべる。なんとも笑顔がかわいい子だ。

「あの、あなたは外部のハンターさんですか?」

「……(コクリ)」

「そうですよね。あ、それ凛シリーズですよね? ちょっと見せてもらっていいですか?」

「……えぇ」

 少女は嬉しそうに凛シリーズを見詰める。細部まで見ながら「へぇ」とか「うわぁ」とか「すごぉい!」とか声を上げている。ちょっと照れくさいサクラであった。

「すごいです。相当名の知れたハンターですよね。あ、私の名前はレミィ・クレアと言います。ここアルフレアのハンターです。と言ってもまだまだ新入りの部類ですけど」

「……レミィ・クレア?」

 聞き覚えのある名前にサクラがピクリと眉を動かした。と、

「レミィ。またお節介をしおったのか」

 その声に視線を向けると、そこにはフルフルシリーズ(なぜか男性用)に身を包んだとてもかわいらしい顔をした少女が立っていた。肩にさらりと掛かるくらいの黒髪に黒瞳をしたかわいらしい少女だ。

 ――だが、サクラは少女を見て隻眼を丸くする。それは向こうの少女も同じだった。

「……ツバメ?」

「うむ? おぉ、誰かと思ったらサクラではないか。久しぶりじゃのう」

 ツバメと呼ばれた少女は屈託のない笑みを浮かべるとサクラに近づく。サクラもそんなツバメに幾分か瞳を柔らかくする。

「……久しぶり。元気にしてた?」

「無論じゃ。そういうサクラも元気そうで何よりじゃ」

「え? あのツバメさん。お知り合いですか?」

「うむ? そうじゃよ。彼女の名はサクラ・ハルカゼ。ワシと同じ別の大陸の出身でな。小さい頃からの付き合いなのじゃ。ハンターの訓練も一緒に受けたのじゃが、どうもサクラは天才でワシは全然勝てなかったのじゃ」

「ツバメさんが勝てないなんて、すごいんですねサクラさんって」

「……そんな事ない」

「謙遜するでない。しかし本当に久しいのぉ。一年振りになるか」

 久しぶりの再会に言葉を弾ませる二人。

 一方、すっかり忘れられたレミィはどうしようとキョロキョロと辺りを見回す。と、サクラが座っていた席の反対側に食べ終わった食器とバサルヘルムが置かれている事に気づいた。

「あのサクラさん? お連れの方がいるんですか?」

「……え?」

 その時、サクラは思い出したようにレミィに向き直る。

「……あなた、レミィ・クレアって言ったわよね?」

「は、はい。そうですけど」

「じゃああなたが――」

「ど、どうしたのこの有様ッ!?」

 その声に三人は一斉に振り向いた。するとそこにはトイレを終えて戻って来て酒場の惨劇の跡を見て驚くクリュウがいた。その姿を見て、レミィは瞳を大きく見開く。

「く、クリュウさんッ!?」

「え? れ、レミィッ!?」

 二人は互いの存在に驚き合う。レミィはタッと走り出してクリュウの前に立つと、興奮気味に話し掛ける。

「ど、どうしたんですかクリュウさん? なぜアルフレアに?」

「え? あ、ちょっと村の周辺が静かになっちゃったからここまで仕事を探しに来たんだ」

「そ、そうだったんですか――あ、お久しぶりです」

 思い出したように慌ててあいさつをするレミィ。その律儀さは相変わらずのようだ。そんな彼女にクリュウは小さく微笑む。

「元気にしてた?」

「はい。あ、姉さんも元気にしてますよ」

「ラミィは元気の塊みたいな子だからね。ある意味彼女が元気じゃない方が怖いよ」

「そうですね」

 二人はどちらからとなく笑い出す。

 何ヶ月ぶりの再会だろうか。クリュウもレミィも再会をとても喜んでいる。特にレミィなどずっとクリュウにアルフレアに来てほしかったので嬉しそうに話し掛けている。傍から見てもとても仲が良さそう。そんな二人を見詰め、サクラがピクリと眉を動かす。

「サクラ? どうしたのじゃ?」

「……何でもない」

 ツバメは「ふむ」とクリュウを見詰める。どうやら力量を窺っているらしい。彼は今バサルシリーズを着けているのでだいたいはわかるだろうが。

「……クリュウは強い。疑うつもり?」

 クリュウを疑われる事にサクラは知り合いだろうが容赦せずに睨む。そんな彼女の鋭い目つきに対しツバメは「いやいや、疑ってはおらんよ」と首を横に振る。

「うむ。いい目をしたハンターじゃ。お主も良き仲間を見つけたようじゃの」

「……クリュウは強いし優しい。大切な相棒」

「ふむ。どうやらお主も認めているようじゃし、問題はなかろうて」

 ツバメはそう言うと楽しげに話す二人に近づくと、レミィと楽しげに話しているクリュウに声を掛ける。

「話の間に入ってすまない。お主がクリュウというのじゃな?」

「え? あ、うん。君は?」

「申し遅れた。ワシはツバメ・アオゾラと申す。お主の連れのサクラと昔からの知り合いのハンターじゃ」

「サクラの知り合い? そうなの?」

「……えぇ。小さい頃からの知り合い」

「へぇ……。あ、改めまして。僕の名前はクリュウ・ルナリーフ。よろしくね」

「うむ。よろしくなのじゃ」

 ツバメはにっこりと笑みを浮かべるとうむうむと何度もうなずく。その姿にクリュウはつい見とれる。

(かわいい顔した子だなぁ。髪なんてサラサラだし、笑顔もかわいいし。でも何で男用の防具なんて着てるんだろ?)

「うむ? どうしたのじゃ?」

「え? あ、何でもない」

 慌てて視線を逸らすクリュウに、ツバメは「うむ?」と不思議そうに首を傾げる。すると、止まった会話を繋げるようにレミィが口を開く。

「ツバメさんは私達とチームを組んでいる方なんです。とってもお強いんですよ」

「へぇ、そうなんだ」

「いやいや、ワシはまだ修行中の身。まだまだ未熟者じゃよ」

「もう、謙遜しないでくださいよ」

「真実を言ったまでじゃ。ワシより強い者などこの世には大勢おる。ワシなんてまだまだ小者じゃよ」

 ツバメはそう言うと屈託のない笑みを浮かべる。その笑顔は本当に見ているだけでこちらが幸せになってしまうような笑顔だ。

「ツバメさんは十分お強い方です。あ、そういえばクリュウさん。フィーリアさんは元気にしてるんですか?」

 レミィはクリュウとフィーリアが別れた後を知らない。クリュウはフィーリアと再会した事。サクラとの出会い、そして今は三人でチームを組んでいる事を説明した。

「すごいですね。私達も姉さんとツバメさん、あとリーダーのジークフリートさんって方とでチームを組んでるんですよ」

「へぇ、レミィ達もチームを組んでるんだ」

「はい。やっぱり仲間が多い方がいいですから」

 そう言ってレミィは嬉しそうに笑みを浮かべる。その笑顔を見る限り、いいチームなのだろうと推測できる。

「ジークはヘビィボウガンの使い手でな。前衛のワシら後方から支援し、的確な指示をしてくれてとても頼りになるのじゃ。ワシらの頼れるリーダーじゃ」

 ツバメも嬉しそうに語る。本当にいいチームなのだろう。ちょっとうらやましい。

「いいね。やっぱりリーダーは必要だね。僕達のチームにもリーダーがほしいよ」

「……私達のリーダーはクリュウ」

「そうなんですかッ!? すごいじゃないですか!」

「名目だけだよ。実際に指揮してる訳じゃないし、二人とも僕の動きに合わせてくれるから十分統一されてるし」

 そう苦笑しながら言うクリュウに、それでもすごいと言うレミィ。彼の言葉に首を横に振って否定するサクラ。どちらもクリュウがリーダーに適任だと思っているのだ。だが、

「ふむ」

 ツバメだけはそんな彼を見詰めながら他の二人とは違う反応を見せていた。そんなツバメの反応には気づかず、クリュウはふと問う。

「そういえばそのジークフリートさんとラミィはどうしたの?」

「うむ。ラミィとジークは二人で狩りに出ていて今はいないのじゃ。ワシとレミィは二人が戻って来るまでの一週間、レミィと二人で狩りをしようと思っててな」

 どうやらラミィとそのジークフリートというハンターは共に狩りに出ていて今はいないらしい。ツバメの言葉を聞く限り二人が戻って来るのは一週間ほど掛かるようだ。

「ワシらはこの後狩りに出るつもりじゃが」

「へぇ、何を狩るの?」

「うむ。イルファ山脈高地の雪山に現れたドドブランゴの討伐じゃ。本当はジーク達と合流する方がいいのじゃが、二人は出ておるし、ワシら以外にこの依頼を受けるハンターはいのうてな。ちぃとキツいがワシらで狩るつもりじゃ」

 そう言って小さく笑みを浮かべるツバメ。どうやらその狩りはちょっと過酷になるらしい。

 イルファ山脈はアルフレアの北に離れた場所に広がる山脈である。イージス村からも行く事は可能だが、基本はアルフレア経由である。北方地域に位置する為山は一年のほとんどが雪に覆われている極寒の地。そんな場所にもハンターの狩場は存在するのだ。

 雪山と呼ばれるその狩場は気温は余裕でマイナスを下回り、ホットドリンクなしで行くのは余程の防寒装備をしなければ自殺行為となる火山や砂漠とは違った過酷な場所である。

 そして、ドドブランゴというのはババコンガと同じ牙獣系に分類される大型モンスターだ。ブランゴという小型の雪猿を率いるボスモンスターで、仲間とのチームプレーは全モンスターでもトップクラス。一声上げれば仲間が次々に現れる厄介な相手だ。

 ババコンガよりも強力で、ババコンガがパワーを重視したモンスターならドドブランゴはスピードを重視したモンスター。すばやく細かい動きで敵を翻弄し、隙あれば強力な一撃を叩き込んでくる。地形を利用し雪の中から突然現れたり、巨大な雪玉を投げて来たりする。しかもこの雪玉とドドブランゴが吐く氷ブレスと呼ばれる体内で形成した極寒の冷気は当たればたちまちに体が凍り付いて動けなくなったり動きが鈍くなったりする厄介な付加を持っている。間違いなくクリュウが相手してきたどのモンスターよりも強い相手だ。

 それを二人で倒そうとするなんてすごいとしか言いようがない。

「そうなんだ。大丈夫なの?」

「うむ。レミィは動きの鈍いガンランスなので向かない敵じゃし、ワシの武器は奴の苦手な火属性じゃないが、努力するまでじゃ」

 そう言ってツバメは背中に挿した二本の剣をを引き抜いた。双剣と呼ばれる片手剣の剣を両手に装備したような形の武器だ。盾がないのでガードはできないが、その分二本の剣のおかげで手数が増えた、太刀とはまた違ったタイプの攻撃型の武器。太刀は練気が溜まると攻撃力が上がり切れ味も上昇するが、双剣も体内の力を解放してすさまじい連続攻撃を行える鬼人化というものができる。ただし、その高い攻撃性の代わりに太刀よりも短いので攻撃範囲は狭く、体力の消耗も激しく、その手数からどの武器よりも切れ味が落ちるのが早いという多くの欠点を持つ。さらに鬼人化は攻撃本能を一時的に活性化させる為、慣れたハンターではないと理性を失い周りが見えなくなるという怖さも持つ。双剣は全武器の中で最もクセのある武器なのだ。

 ツバメが構えたのはギルドナイトセーバーという貴重な鉱石を大量に使って作られた双剣。最初はギルドナイトというギルド本部に身を置くハンターズギルドの特殊部隊に属するハンターが持つ事を許された剣だが、最近は武器の多様化からギルドナイト以外でも許可制だが保有する事ができるようになった。これもその武器の一つだ。ちなみに許可証をもらうのはかなり難しいらしいが、ツバメは通ったらしい。

 水晶を切り出し作ったかのように美しい刀身は、見る者を魅了するすばらしい武器である。ちなみに付加属性は水。ドドブランゴは火に弱い為今回の狩りでは意味を成さない。

「へぇ、ツバメって双剣を使うんだ」

「うむ。色々な武器を試したが、双剣が一番手に馴染んだのじゃ」

「僕も色々な武器を試したけど、結局片手剣が一番良かったよ」

 苦笑いするクリュウは昔武器の選定をしていた頃に大剣やハンマーなどを無理に振り回して転倒。後頭部を強打した苦い記憶があるが、それは誰にも言えないトラウマだ。

 そんなクリュウに、ツバメはいやいやと首を横に振る。

「片手剣も良い武器じゃ。バランスの取れたその動きは、近接武器の中では一番サポートに適しておるからのぉ」

「そうだね」

 ツバメとの会話でクリュウは自然と笑みが生まれる。結構話が合うので話していてとても楽しいのだ。

 ツバメは背中にギルドナイトセーバーを納めると、ふむとレミィに向き直る。

「レミィ。準備もあるからもう行かないとまずいんじゃが」

「あ、そうですね。わかりました」

 レミィは思い出したように驚くと、ペコリと二人に頭を垂れる。なんとも礼儀正しい子だ。

「では私達はこれで」

「うん。がんばってね」

「はいッ! クリュウさんもがんばってくださいッ!」

 クリュウの言葉に嬉しそうな笑みを浮かべると、レミィはツバメと共に酒場から出て行った。その後姿を見詰め、クリュウは笑顔になる。

 二人ならきっと大丈夫。そう思った。

「……クリュウ。私達も依頼を決めましょう」

 そう言ってサクラはレベルの低い依頼書の束を持って来る。

「そうだね。さてどうしようか――え?」

 その時、何か違和感を感じた。気のせいではない。確かに背後から誰かに見られているような、そんな気がしたのだ。サクラも気づいているのか、口を閉じている。

 クリュウは気になってそっと振り返る。すると、

「あ……ッ!」

 そんな声と共に入り口から顔を出していた顔が慌てて引っ込んだ。今のは……

「れ、レミィ、だよね?」

「……そう見えた」

 クリュウは再び前を向く。するとまたあの視線。振り返ると、彼女はまた慌てて隠れる。一体どうしたのだろうか。クリュウとサクラは顔を見合わせる。すると、

「まったく何をしておるんじゃ」

 そう言いながらツバメが戻って来た。だがその顔は小さな苦笑いを浮かべている。どうしたのだろうか。

 ツバメは「うーむ」と唸りながら困惑するクリュウの前に立つ。小柄なツバメはクリュウよりちょっと身長が低い。その為クリュウは少し視線を下げて対峙する。

「ど、どうしたの?」

「うむ。ちとクリュウに頼み事があるのじゃが」

「何?」

 ツバメはふむと一度口を閉じてしばし何かを考えた後、再びクリュウを見る。そして、驚くべき言葉を発した。

「ちとワシらと一緒に狩りに行ってくれんじゃろうか?」

「へ?」

 クリュウは目をパチクリさせる。いきなりの展開に頭が追いついていないのだ。そんな彼の反応は予想済みなのか、ツバメは気にせず言葉を続ける。

「ふむ。実はさっきも言ったように相手がドドブランゴ相手じゃレミィは不利じゃ。ましてや肉薄するのはワシ一人。ちぃと難しいのじゃ。そこでクリュウと組みたいのじゃが」

「ぼ、僕と?」

「うむ。レミィもそれを望んでおっての。むしろクリュウが来てくれんとレミィの悲しい顔を見ながら狩りをせねばならんのじゃ。それはちぃと精神的にも辛いしのぉ」

 クリュウは再び入り口を見る。レミィは顔だけ出しながら必死にツバメを見ている。クリュウが自分を見ている事に気づくと慌てて顔を引っ込めた。

「すまぬが、同行してくれんか?」

 ツバメも上目遣いで頼む。ちょうと身長が少し低いので、上目遣いの目線は見事にクリュウに直撃する。そのうるうるとした瞳が、クリュウの胸をドキドキさせる。

「え、えっと、あの……」

「……ダメ」

 クリュウの返答よりも先にサクラが拒否の言葉を出す。するとツバメはこれも予想済みだったのかふむと彼女を見る。

「これはワシとクリュウの話じゃ。サクラは関係ないじゃろう?」

「……関係ある。私とクリュウは仲間」

「ふむ。お主の言いたい事はわかるのじゃが、こっちも通したいものがあるのじゃ。もちろんお主にも協力はしてもらうつもりじゃ。これで四人。問題なかろう?」

 そう言ってツバメは再びクリュウを見る。窓から入った海風がふわりとツバメの柔らかな髪の毛を揺らす。

「それで、どうなのじゃ?」

「う、うーん……」

 クリュウは迷う。

 確かにレミィやツバメとは一緒に組みたいが場所は雪山、相手はドドブランゴ。どっちも初体験なのでクリュウとしては正直辛い。そして、何よりもこれが最大の問題なのだが……

「だ、だってレミィ達を組むと僕以外女の子になるんだよ? それはちょっと……」

 もはやズタボロなクリュウの微かに残った男としてのプライドが、これ以上傷つく訳にはいかなかった。

 確かにサクラは強いしレミィも結構な実力者。話を聞く限りツバメも結構な実力者だ。メンバーとしては問題ないのだが、明らかに比率が悪い。

 女の子だらけで狩りに出るのは、ちょっと気が引けたのだ。

「そういう事で悪いけど、今回はパスさせて――」

「……お主もか」

 クリュウの言葉を遮るように出されたツバメの声は、何やらものすごく落胆している。そしてなぜかサクラも何か思い出したようにポンと手を打った。

「……そうだったわね」

 何か納得したらしい。

「ま、まさかサクラ。お主も忘れておったのか?」

「……ごめん」

「……な、なぜなのじゃ」

 ツバメはものすごく落ち込んでいる。一体何がどうなっているのか。

「えっと、僕何かまずい事した?」

「……クリュウは悪くない。悪いのは紛らわしいツバメの方」

「好きでやってる訳じゃないぞ!」

 ツバメはキッとクリュウを睨む。その剣のように鋭い視線に、クリュウは「え? えぇ?」と困惑するばかり。そしてなぜかツバメの瞳には薄っすらと涙が……

「お主は間違っておる! ワシは、ワシは……ッ!」

 そして、クリュウ史上最も驚く事になるツバメの爆弾発言が飛び出した。

「ワシは男じゃぁッ!」

「えええええぇぇぇぇぇッ!?」

 クリュウはめちゃくちゃ驚く。

 ツバメが男? ありえない。だってこんなにかわいくて声もきれいで、口調こそちょっと妙だがそれがまたかわいらしい――どう見たって女の子だ。だが、

「ワシの装備を見よッ! これは男物じゃぞッ!」

 クリュウは改めてツバメの装備を見る。確かに、ツバメの防具は男性用のフルフルシリーズ。それは紛れもない事実だ。

「え? じゃあ、本当に?」

「当たり前じゃッ! ワシはれっきとした男じゃ! 女子(おなご)ではないんじゃッ!」

 そうかわいい声で怒鳴りながら、ツバメはクリッとした瞳の縁に涙を浮かべる。その姿はどう見てもかわいい女の子なのだが……

「ツバメさんってどう見ても女の子にしか見えないので、防具を作る時はいつも説明しないと女物を作られちゃうんです。それに男の人にも何度もナンパや痴漢をされたりするんですよ」

 いつの間にか近寄っていたレミィの説明に、クリュウは納得した。

 彼女――じゃなくて彼はその女の子にしか見えない外見のせいで色々と苦労をして来たのだろう。ある意味彼女――じゃなくて彼を女の子として見るのは、トラウマなのだろう。

「ワシは男じゃッ! だからこのチームは男二人に女二人! 問題なかろう!?」

「う、うん。そうだね」

 確かにその通りだ。ツバメが男の子ならば、これで一番大きな問題は解決だ。ちょっと不安要素は残っているが。

 ツバメはごしごしと涙を拭き取ると、改めてクリュウに頼む。

「クリュウ。改めて問う。ワシらと一緒に狩りをしてくれんじゃろうか? そしてワシは男じゃ。これは忘れるでないぞ」

「う、うん。そういう事ならいいかな?」

 サクラに返事を聞こうとしたが、彼女は首を縦に振った。どうやら昔からの付き合いであるサクラもツバメが男の子という事を忘れていたのか、ツバメが男の子だとわかると一切の抵抗はやめた。

「じゃ、じゃあよろしくお願いね」

「うむ! 良き仲間ができた! ワシにとっても同じくらいの男友達ができて嬉しいぞ!」

 そう言って屈託のない笑みを浮かべるツバメ――あぁ、やっぱりどう見ても美少女にしか見えない。

 ツバメは早速自分が持っていた依頼書をクリュウ達に差し出す。参加者名の所に名前を書く為だ。クリュウは自分の名前を書きながらふとツバメの名前を見る。サクラと同じで見た事もない形の文字で『燕 青空』と書かれている。きっとこれでツバメ・アオゾラと読むのだろう。

 サクラも名前を書き終えると、ツバメは早速受付にこれを提出し、正式にこの依頼を受けた。これで晴れてチーム結成だ。

「ではそちらも準備を行ってください! 一時間後、ここに集合です! では解散!」

 クリュウと一緒に狩りができる事になりものすごく嬉しそうなレミィは重いシザーガンランスを背負いながらピョンピョンと跳ねて喜ぶ。その笑顔はとてもかわいらしい。

「……クリュウ。ホットドリンクを買いに行こう」

「うん。わかった」

 こうして、クリュウ、サクラ、レミィ、ツバメという新たな組み合わせでの初めての狩りが、始まる事になった。


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