自宅に戻ったクリュウは今日の戦利品を物置の中に押し込む。物置の中には連日のランポス戦で剥ぎ取った多くのランポスの素材が押し込まれていた。牙や鱗はもちろん皮もかなりの量だ。これだけあればランポスシリーズを作るには十分だが、もし作るとするなら後は鉱石を集めるだけだったが、残念ながらランポス相手に全力だったので採掘はほとんどしていなかったので鉱石はわずかにしかない。しかもこの鉱石の一部はちょっと必要なものだった。
クリュウは物置の中から鉱石の入った麻袋を持って家を出た。
村に来てから数日くらい経った頃、村長にある場所に案内された。今彼はそこに向かっている。
彼が向かったのは村外れの丘の上だ。
他の家とほとんど変わらない造りだが、いつも煙突から煙を噴き出し続けるそれは休む暇もなく職人が働いている証拠だ。
クリュウはその家に近づくと木造のドアを軽く叩いた。
「こんにちは。アシュアさんいますか?」
すると、ドアを開けて長い灰色の髪に空の蒼のようなきれいな蒼色の瞳をした一人の女性が出て来た。全体的に柔らかな印象の優しげな女性だ。
「誰や? 何やクリュウくんやないの。どないしたん?」
彼女の名はアシュア・ローラント。クリュウより十歳も年の離れていない彼女は別の地方からドンドルマに鍛冶の修行に行き、師匠の元を離れてからはこのイージス村に来て鍛冶師をしているこの村唯一の鍛冶職人だ。ハンターの武具から主婦の相棒である包丁まで幅広く取り扱っている。
かなりの実力者なのにどうしてこんな辺境の小さな村に来たかはわからないが、彼女のいた地方はかなり独特的らしい。初めて会った時に彼女の口調には驚いた。今までに聞いた事もない特徴的なものだったからだ。
首を傾げるアシュアに、クリュウは麻袋を差し出す。
「何やこれ?」
「鉄鉱石です」
「鉄鉱石? どないしたん?」
するとクリュウは腰に装備しているハンターナイフを取り出した。
「そろそろこれの強化をしたくて、これだけあればハンターナイフ改にできますよね?」
ハンターナイフ改とはその名の通りハンターナイフの改良型。性能が多少向上した武器だ。
クリュウの問いに、アシュアは自信満々に大きくうなずく。
「十分や。つーかこれならおつりが返って来るでぇ」
「そうですか。なら強化をお願いできますか?」
クリュウの頼みにアシュアはニャハハと特徴的な笑い声を上げると笑顔でうなずく。
「当たり前やないの。こんくらいあたいの腕ならちょちょいのちょいや」
「本当ですか?」
「当然や――でも嬉しいなぁ。これがクリュウくんからの初めての依頼やねん。張り切ってやらんとなぁ」
嬉しそうに微笑みながらクリュウからハンターナイフと強化に必要なお金の入った巾着を受け取る。
「じゃあ、よろしくお願いします」
ペコリと頭を垂れ、来た道を帰ろうとすると「ちょい待ち」とアシュアに呼び止められた。振り返ってクリュウは不思議そうに首を傾げる。
「何ですか?」
「ついでやからあんたの防具も手入れしてあげるわ。そろそろガタがきてるやろうしね」
「え、でも……」
「遠慮すんなや。手入れがちゃんとされてへん防具じゃ動きづらくて戦闘で障害が出ちゃうでぇ?」
笑顔で言うアシュアだが、その意見はもっともだった。確かにこの二週間ずいぶん酷使しているのにまともに整備なんてしていなかった。
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いできますか?」
「任しときぃ。人も武具もテキトーな休憩が必要や。今日はもう休んでてええよ。明日の朝には終わっとると思うから、そん時に取りに来てぇな」
「わかりました。お願いします」
クリュウは防具を脱いでインナーだけになると脱いだ防具を預け、うやうやしく頭を下げた後家に向かって丘を駆け下りた。
アシュアは小さくなるクリュウの背中を笑顔で見送った後、「ほな、始めるかいな」と言って家に入った。
しばらくして、煙突から噴き出る煙が白から黒に変わった。その煙は一晩中消える事はなかった……