モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第3話 幼なじみの酒場

 クリュウがイージス村に帰って来てから二週間が過ぎた。

 ランポスの異常発生の為にクリュウはこの二週間幾度となくランポス狩りにセレス密林に出掛けた。その際なるべく一対一になるようにし、集団とは戦わないようにしていた。あの時の教訓はちゃんと活用しているのだ。

 今日もまたランポスを三匹ほど討伐して村に帰って来た。

「あら、おかえりなさい」

 村に戻った早々酒場に向かったクリュウをエレナが出迎えてくれた。

 村の中心にある村長の家から少し離れた所に位置するイージス村の酒場。酒場といってもそれなりに用意された彼女の家の一階と雨避けの屋根が付けられたテラスだけで後は木を切り出して作られた机や椅子が置かれた簡素なものだ。

 こんな昼間から酒場に来る人などほとんどいない。現に酒場には給仕として働くエレナが暇そうに本を読んでいた。

 クリュウに気づいたエレナは小さく微笑み本を閉じた。

「あんまり繁盛してないみたいだね」

「当たり前でしょ? こんな真昼間から酒場に来る人なんていないわよ」

「ドンドルマなら昼間から人はたくさんいたけど」

「あんな大都市と村を比べないでよね」

「そうだよね。でもだったら何でこんな時間に働いてるのさ」

 どう考えても閑古鳥が鳴いている時間帯に働いても暇でしかない。それに店だって儲からない時間帯に無駄に時給を出しては赤字一直線のはず。

 クリュウの問いにエレナは小さく苦笑いする。

「だって、私このお店の店長だもの」

「て、店長? エレナが?」

 びっくりするクリュウ。そんな彼にエレナはちょっと胸を反らして自慢げに言う。

「そうよ。元々この酒場を開いたのは私のお母さんだもの」

 エレナの母親は重い病気を患っていて数年前からドンドルマで療養をしている。父親はそんな母の面倒を看る為に同行していた。時たま村の重要な資金源であるキノコなどを売る為に村長自らドンドルマに営業に行く事があるのだが、エレナはよくそれに付いて行って両親に会っている。

 エレナの両親にはクリュウもドンドルマにいた時に時折会っていた。

「確かに、おばさんが元気だった頃はこの店で働いてた記憶はあるけど、おばさんが経営してたんだね」

「知らなかったの?」

「う、うん」

「鈍感ね」

 エレナは呆れた顔を浮かべて小さくため息する。そんな彼女の反応にクリュウは「ご、ごめん」と謝る。すると慌てたのはエレナの方だった。

「べ、別に謝る事ないじゃない。ほ、ほら。お店の利益の為にも座って座って」

「う、うん」

 クリュウがカウンターに座ると、エレナは「ちょっと待ってて」と言って厨房の方に入るとグラスを持って来た。その中には水が入っている。

「はい。のど乾いたでしょ?」

「ありがとう」

 エレナからグラスを受け取ると、クリュウはそれを一気に飲み干す。そんな彼の前、カウンターの向こうにいる彼女も先程本を読んでいたように腰を下ろした。

「お母さん達がドンドルマに行った後、この店は村長が代役で営業してくれてたんだけど、二ヶ月くらい前に私に戻してもらったの。お母さんが病気を治して戻って来た時、びっくりさせようと思って」

 えへへ、とかわいげな笑みを浮かべるエレナにクリュウも小さく微笑んだ。

「がんばってね。応援してるよ」

 そう言うと、エレナは「あ、ありがとう……」と少し頬を赤らめながら小さく礼を言った。

 クリュウはそんな彼女に小さく微笑むと「疲れたから、何か持って来て」とエレナに頼む。するとエレナはカウンターからジュースの入ったビンを取り出した。

「あれ? お酒じゃないの?」

「こんな真昼間からお酒なんか飲まないでよ。それにあんたビール飲めないんでしょ?」

 ちょっと小バカにするようにくすくすと笑いながら言うエレナに、ムッとする。

「飲めない訳じゃないよ、ちょっと苦手なだけだよ」

「それは酒場では致命的よ?」

 言葉に詰まるクリュウにくすくすと笑いながらエレナは空いたグラスにジュースをそっと注ぐ。

 クリュウはエレナに注がれたジュースをぐいっと飲み干すと、机にぐったりと突っ伏した。

「どうしたのよ」

「いやぁ、ちょっとおかしいなって思って」

「おかしいって何が?」

 エレナが首を傾げると、クリュウは小さくため息した。

「村に来てから二週間が経つけど、今までに何度もランポス狩りをしてその討伐数はもう三〇匹は超えてるはずなのに、全然数が減らないんだ」

 クリュウの疑問にエレナも「そういえばそうね」とうなずく。通常いくら異常発生だとしてもそれだけ狩っても減らないなんて事はない。

「私はハンターじゃないからよくわからないけど、普通ランポスってどれくらいの群れで行動してるの?」

「基本的には三匹ないし五匹で行動してると思う」

「じゃあ、もう十分なんじゃないの?」

「でも依頼はなくならないでしょ?」

「……そうよね」

 エレナは不思議そうに首を傾げる。一般人である彼女の知識ではいくら考えても仮定すら考えられないだろう。だが、

「もしかして……」

 ハンターであるクリュウは一つの可能性を導き出したが、すぐに首を横に振ってその考えを否定する。

「まさかね」

「どうしたの?」

「ねぇ、討伐依頼って今のところランポスだけ?」

「え? うーんと……そうね」

「そっか。なら問題ないね」

 そう言ってクリュウは笑顔を戻し、ジュースをグラスに注ぐ。

「何よ。言いたい事があるなら言いなさいよ」

 一人で納得しているクリュウにエレナが不機嫌そうに絡むが、クリュウは「何でもないよ」と返すばかりだった。

 ゆっくりと体を休めたクリュウはエレナにお金を払って家に戻った。だが、そんな彼はやっぱりランポスの異常発生が気になっていた。


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