モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第234話 進む覚悟と留まる覚悟 揺れる心の狭間

 キティからの信じられない話――クリュウの母、アメリア・ルナリーフが東方大陸で生きているかもしれないという話を持ってクリュウ達はすぐさまイージス村へと戻った。

 村の各所には仮設の天幕(テント)があり、今はそこに住人が暮らしている。

 数々の家屋が破壊された中で、奇跡的に残された建物がある。それは村人達の憩いの場であったエレナの酒場だ。フィーリア達と一度別れ、酒場へと向かったクリュウはそこで人払いを行い、エレナと二人きりで話し合う事となった。

「そんなの、デマに決まってるじゃない」

 話を聞いたエレナは開口一番に自らの結論を述べた。考える余地もないと言いたげに断言したエレナだが、正直クリュウも同じ想いだった。

「だよね。母さんが生きているかもなんて、考えた事もなかったよ……」

 腕を組みながら考えるクリュウの表情は複雑だ。正直、キティの話はあまりにも突拍子がなさ過ぎる。普通ならエレナの言う通りデマだと切り捨てる事ができただろう。だが、

「でも、情報源がキー姉ぇなんだよね」

「……だとしても、さすがに今回はないでしょ」

 エレナも情報源がキティだと言われると少し声がトーンダウンした。

 昔から、キティは何かと疑り深くて徹底検証しないと気が済まないタイプだった。しかもそれを調べると必ず新事実が発見されるのだ。つまり、彼女が気になった事は全てが何か裏があった。これまで、その疑りが外れた事は二人の記憶する限りにはない。

 あの勘の鋭いキティが気になった情報だ。いくら信じられない情報だとしても、どうしても気になってしまう。

「クリュウ。あんたとしては、どう思ってる訳?」

 自らの意見は言った。次は当人であるクリュウの番だとばかりに彼を促すエレナ。そんな彼女の問いかけに、クリュウは少し黙って、ゆっくりと口を開く。

「もちろん、僕も正直今でも信じられない。あの母さんが、もしかしたら生きているかもなんて。そんな夢物語はあるはずがない。でも――」

 そこで言葉を一度切り、少しだけ考えた後、静かに己の決断を下した。

「ずっと考えたんだ。息子として、もしも仮に母さんが生きているとしたら、会いたい。それに、あのキー姉ぇの頼みだからね」

「じゃあ……」

 エレナの言葉に、クリュウは小さく頷く。

「――村の復興が一段落したら、僕は東方大陸に渡るよ」

 

「……私もついて行く」

 クリュウ達が暮らしている仮設の天幕(テント)にてクリュウは集まった仲間達、フィーリア、サクラ、シルフィード、ツバメ、エレナ。更に現在も村に常駐してくれているルフィール、シャルル、ルーデルを集めて自らの決定を話した。

 黙って彼の話を聞いていたその場に居た全員が、彼の決定に驚きはしなかった。予想はできていたし、ある種の覚悟もできていたからだ。そんな中、開口一番にこう言い放ったのは、激しい陣取り合戦の末にクリュウの隣を勝ち取ったサクラだった。

「いや、今回ばっかりは僕一人で行くよ」

 遠い異国の地。それもこれまでのような隣国ではなく、全く違う大陸へと向かう事になる。更に言えば、今回ばかりは完全に自分の勝手だ。仲間達に迷惑は掛けられないと単独での渡洋する気でいたクリュウは、いきなり出鼻を挫かれる形となった。

「……ダメ。私とクリュウは二人で一つ。つかず離れず、一蓮托生」

「サクラはこの大陸の商人に必要とされてるんでしょ? その期待を裏切っちゃダメだよ」

「……私はクリュウにしか従わない。クリュウにしかついて行かない。クリュウとしか生きていけない。だから私達はいつも一緒。絶対ついて行く」

「サクラ……」

「……お願い、私を一人にしないで」

 手を握って必死に置いて行かないでとアピールするサクラ。その隻眼は真剣で、今にも泣き出してしまいそうな程に悲痛に染まっている。そんな目で見られれば、クリュウとしても強く突っ返す事もできない。どうしたもんかと困っていると、

「その情報の信憑性はかなり不確かです。ですが、クリュウ様がその可能性に一縷の望みをかけて東方の地へ赴くと仰られるならば、その旅路には私もご同行致します」

 そう言って静かに、そして力強く同行を宣言したのはフィーリアだ。彼女は席から微動だする事なく強い眼差しでクリュウの事を見詰めている。その瞳が、彼女の本気を物語っていた。

「いや、でもフィーリアだって実家との色々がある訳だし……」

 サクラは大陸通商連合、つまりは商人達からの信頼が厚く、常に様々な護衛依頼が彼女宛に届けられる身分だ。そしてフィーリアはエルバーフェルド帝国の名門貴族であるレヴェリ家のお嬢様だ。二人共、独り身の自分と違ってあまり無茶はできない立場にある。だからこそ、クリュウは二人を説得しているのだが、そんな彼の配慮もこの二人には全く無意味であって。

「サクラ様の言葉を引用する訳ではありませんが。私はクリュウ様に忠誠を誓っております。クリュウ様の赴く所には常に私も居ます。私は、クリュウ様のお側で御使いしたいのです」

「フィーリア……サクラ……」

 二人の真剣な表情、真剣な想い、真剣な願い。それを直に感じ、クリュウは思わず目頭が熱くなった。だが、彼は決して首を縦には振らなかった。

「それでも、やっぱり二人を連れては行けないよ」

「クリュウ様ッ」

「身勝手かもしれないけど、僕が居ない間の村の守りを二人に任せたいんだ。もちろん、二人共有名人だから忙しい身分だって事はわかる。それでも、やっぱり故郷を託すんだから、信頼できる人に任せたいんだ」

 何がなんでもついて行くと更に強く言おうとしていた二人だったが、クリュウの説明に開きかけた口を閉じてしまう。何か言いたそうに何度か開くものの、やはり言えず、浮いていた腰をゆっくりと落とす。

「……クリュウの意地悪」

「クリュウ様、ずるいです……」

「……ごめん」

 謝る彼に対しても、二人は何も言えなくなってしまう。

 故郷を任せる。それは、彼が自分達の事を本当に信頼しているからこそ託しているのだ。そんな風に言われてしまえば、それを拒否してでも、という気持ちが揺らいでしまう。彼がそれを計算して言ったとは思えないが、結果は二人を黙らせてしまった。

「僕が村を離れている間。その期間がどれ程になるかはわからない。早くても半年は掛かるだろうし、下手すれば二年とか三年とか掛かっちゃうかもしれない。その間、村を任せられるのは、やっぱり信頼できる人じゃないと」

「で、でも、そんなに長い間クリュウ様と離れ離れになるなんて……やっぱり嫌ですぅッ!」

 一度は納得しかけたフィーリアだったが、やはり彼と長い間会えなくなるという現実に耐えられず、涙ながらに「やっぱり私はついて行きますッ」と叫ぶ。サクラも無言でクリュウの手を掴んだまま離さないし、二人の視線にクリュウも困り顔だ。こんな時にいつも助けてくれるシルフィードも、今回ばかりは無言を貫いていた。気になって彼女の方へと振り向くと、シルフィードが静かに口を開く。

「君の気持ちはわかる。だがな、もう少し仲間の事も考えてくれないか? 君は以前のアルトリア行きでも自分一人で決めてしまった。少しは私達仲間を信じて相談する事を覚えろ――寂しいじゃないか」

 怒っているようで、でも悲しんでいるようで、そんな複雑な表情を浮かべる彼女を前にしてクリュウは一言「ごめん……」と短く謝る。そんな彼に対し、シルフィードは小さくため息を吐いて言葉を続ける。

「君が東方大陸へ行きたいと言うのなら、私は止めない。好きにすればいいさ」

「シルフィ……」

「シルフィード様ッ!?」

「――だが、その時は私とフィーリア、サクラの三人も一緒だ。その同行を許さずに君一人で勝手に行くと言うのなら、私は君を幻滅し、軽蔑し、ドンドルマへ帰るぞ」

 冷たく、しかし熱く彼に対してある種の最後通牒を突きつけるシルフィード。彼女からすればいつも勝手に決めて、その度に振り回されている身だ。毎度の事とはいえ、今回ばかりはさすがに看過できない。そこまで彼が身勝手を貫くと言うのなら、こっちだって勝手にさせてもらう。そんな想いすら抱いてしまう程、内心で彼のわがままに怒っているのだ。

 シルフィードの冷たい怒りに、クリュウは思わず黙ってしまう。そんな彼を見て軽く深呼吸をして落ち着きを取り戻したシルフィードは続ける。

「別に君の東方大陸行きを止める気はない。だがな、私達はもうチームなんだ。勝手に行動されては困る。私達は四人で一つなのだからな」

 そう言いながら、シルフィードは小さく口元に頼もしい笑みを浮かべた。何だかんだ言っても、結局は見捨て切れない。彼女はクリュウの事をお人好しだと言うが、実際は彼女の方が十分お人好しだ。

 シルフィードの言葉に同意見だとばかりにフィーリアとサクラはコクコクとうなずく。

「私達は、もうバラバラにはなれないんです。だって、家族みたいなものなんですから」

「……私は、クリュウ無しでは生きていけない」

 二人の言葉がダメ押しとなり、クリュウもどこか諦めたように小さくうなずくと、静かに三人に微笑み掛けた。

「正直、僕は世間知らずだからさ。一人旅ってすごく不安なんだ。その点は三人の方が先輩だし……何よりやっぱり、一人だと心細いよね――みんな、付き合ってくれる?」

 クリュウの問いかけに、待ってましたとばかりに三人は大きく頷いた。

「例え東方大陸だとしても、私はクリュウ様にどこまでもお付き合い申し上げますッ」

「……問題ない。ハネムーンみたいなものよ」

「全く違うぞサクラ。だがまぁ、やはりこの四人でないと始まらんしな」

 クリュウの誘いに対し、三人はすぐさま快諾した。これまで幾多の危険を共に乗り越え、西はエルバーフェルド、南はアルトリアと自分について来てくれたフィーリア、サクラ、シルフィードの三人。今度は東、それも全く別の大陸へと渡ると言うのに、ついて来てくれる。自分の無茶に、どこまでも付き合ってくれる。そんな三人の存在に、クリュウは思わず胸が熱くなった。

「兄者が行くなら、シャルも行くっすよッ!」

 クリュウ達が東方大陸へと渡る決意を決めるのを目の前で見ていたシャルルも、その流れに続けとばかりに同行宣言を放つが、そんな彼女を止めたのは意外な人物だった。

「シャルルさん。あなたはなぜそう深く考えもせずにノリと勢いだけで行動するのですか? バカなのですか?」

 呆れ返るのは隣に座るルフィール。大きなため息を吐いて相方の無茶っぷりを嘆く彼女に対し、シャルルが食って掛かる。

「ルフィール、お前は兄者と離れ離れになってもいいって言うんすかッ!?」

「そのような事は言っていません」

「じゃあ……ッ!」

「――シャルルさん。あなたは、故郷のアルザス村を捨てるのですか?」

 淡々と、しかしバカな相方を説得するようにゆっくりとした口調で尋ねる彼女の問いに、これまで血気盛んだったシャルルの口が閉じる。

 そう、彼女にだって守るべき故郷がある。大切な家族が居る。そのような存在を捨てて、本当にクリュウについて行けるのか。ルフィールはそう尋ねているのだ。

 案の定そこまで考えていなかったのだろう。シャルルは口を閉じて複雑そうな表情を浮かべる。そんな予想通りな相方を前に、ルフィールは再度大きなため息を零す。

「何かを決断するというのは、確かにその場の勢いというのも大切です。しかし、それによって生じる不利益の事も考慮しなければなりません」

「そ、そうっすよね。アルザス村と、離れ離れにならないといけないんすよね」

 トーンダウンするシャルルだったが、やはりどうしても諦め切れない様子。何としてもクリュウの役に立ちたい。そんな想いが、隣に座るルフィールに強く伝わる。

 大好きな彼の為に何かしたい。そう想うも、うまくできずに悩む相棒の姿を見ながら、ルフィールは小さく苦笑を浮かべる。

「別に、先輩と共に居る事がイコール先輩の手助けになるとは限りません」

「……それ、どういう意味っすか?」

 ルフィールの言わんとしている事の意味がわからずに困惑するシャルルに対し、ルフィールは改めてクリュウの方を見やると、自らがすでに決めた決意を高らかに宣言した。

「――ボクは本日付けでイージス村に拠点を置きます。先輩がお留守の間、この村の防衛に全力を注ぎます」

 ルフィールの宣言にクリュウは目を大きく見開いて驚く。隣に座るシャルルも「マジすっかッ!?」と驚きの声を上げる。そんな彼女の問いに答えるように、ルフィールは静かにうなずく。

「先程先輩は、フィーリアさんやサクラさんに自分が不在の間の村の防衛を頼まれていました。先輩が不在の間、誰かが先輩の故郷を守らなければなりません。ボクはまだまだ未熟者ですが、それでも先輩の為に役立ちたいのです。だから、決めました――ボクが、先輩が居ない間この村を守ってみせます」

 そう言いながらルフィールはクリュウを見詰めながら、優しく微笑む。自らの人生を大きく狂わせた二色の瞳をキラキラと輝かせながら、ルフィールは続ける。

「……本当は、ボクも先輩にお供したいです。でもボクはまだまだ未熟で、先輩の隣に立つだけの力がありません。今の自分では、同行しても先輩の迷惑になってしまいます。それに、ボクには放っておけない残念な相棒が居ますから、この大陸から離れる事もできません。そんなボクが先輩のお役に立つ役目は、これくらいしかありませんから」

「ルフィール……」

「ルフィール、お前……」

 クリュウとシャルルの視線を受けながら微笑んでいたルフィールだったが、ほんのりと頬を赤らめたと思うと視線を下げる。

「か、勘違いしないでください。ボクはあくまで先輩の為にこの決断に至ったんです。シャルルさんの事がこの決定に至る要因となったのは、極めて微量です」

「……何恥ずかしがってんすかぁ? 素直じゃないっすねぇ」

 ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながらルフィールに絡むシャルル。その笑顔から、彼女がどれ程嬉しいかが見て取れるようだ。一方のルフィールはしまったとばかりに狼狽している。顔を真っ赤にしながら「勘違いしないでください。シャルルさんの為ではありません」と先程の発言を撤回するが、時すでに遅し。

「素直じゃないルフィールってムカつくっすけど、可愛い所もあるじゃないっすか」

「ちょ、調子に乗らないでください。シャルルさんの考えているような事ではありません」

「ニヒヒヒ、好きなら好きって言えっすよ。お姉ちゃん、抱き締めてあげるっすよ?」

「誰がお姉さんですか。シャルルさんがボクより優っているのは年齢くらいじゃないですか。そんな人をどうして敬う必要がありますか」

「いつもならムカつく発言も、今だと全部可愛いっすねぇ」

「……ッ!」

 珍しくシャルルに主導権を握られてしまっているルフィール。先程までのルフィールは可愛くもかっこ良かったが、今はただただ可愛いだけ。

 いつの間にか、本当の親友になった後輩二人の姿を見て、クリュウも思わず顔が綻ぶ。そんな彼を見て「何ニヤついてるんですか先輩」とルフィールはジト目で睨んで来るが、シャルルに頬ずりされている状態では全く怖くない訳で。

「あぁ、二人揃って騒がしいわねぇ」

 そこへ今までほとんど会話に参加していなかったルーデルが頭を掻きながら間に割って入って来る。

「何っすかルーデル。何か用っすか?」

「……シャルルさん。とにかく離れてください。張っ倒しますよ?」

「このルーキー二人じゃ厳しいでしょ? 仕方ないから、私も力貸してあげるわよ」

「ルーデルも?」

「何よ、不満でもある訳? これでもあんたよりランクは上なんですけど?」

「いや、不満なんて……でも、いいの?」

 クリュウが心配するのは当然だ。彼女だって今はエルバーフェルド帝国のレヴェリに拠点を置いてハンター業をしている。そこでの活動を兼任しながらこのイージス村でも活動するのは、かなり大変だ。だがそんな彼の心配をルーデルは笑い飛ばす。

「バカね。今だってドンドルマとレヴェリの二ヶ所で活動してるのよ。っていうか、ハンター業のほとんどはドンドルマが中心。今更この村が増えたって何の問題もないわ」

「でも、ルーデルまでそこまでしなくても……」

 ルーデルの負担が増える事を危惧するクリュウに対し、「別にあんたが気にする事じゃないわ」と言ってルーデルは優しく微笑む。そしてクリュウ、フィーリア、サクラ、シルフィードの四人を見回し、小さく肩をすくめる。

「さすがに東方大陸までは行けないけどさ、一応力にはなりたいって思ってんのよ。ありがたく受け取っておきなさい。それに言ったでしょ? 私はあんたが好きなのよ。好きな奴の為に力になりたいってのは、ダメな訳?」

 不敵に微笑みながら語り掛ける彼女の発言に、クリュウが慌てたのは言うまでもない。事実、この場に居た面々のほとんどがざわつく。ただ一人ツバメだけがおかしそうに笑っているだけ。

「る、ルーデル、何でこのタイミングでッ!?」

「あら? 今この場で言われるとあなたに何か不利益でもある訳?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど……ほら」

「……貴様、私の旦那に手を出そうとは、いい根性してるわね」

 クリュウの前に立ち塞がるようにして、すでに抜刀して敵意むき出しなのはもちろんサクラ。隻眼を恐ろしいまでに鋭く細め、ルーデルを威嚇する。構えた鬼神斬破刀は主の怒りを表すかのようにバチバチと稲妻を迸らせる。

 サクラ程血気盛んではないが、すでにシルフィードやルフィール、シャルルもルーデルを睨みつけている。そしてフィーリアは、

「いや、あのねルー。確かに諦めるなっては言ったけど、こうも真正面から来られるとどうしたもんやら……」

 彼女が初恋を諦めようとしていたのを止めて、前に進むよう促したのは自分だ。だが、同時にその相手は自分にとっても初恋の相手な訳で。複雑な心境を抱える彼女からすればこの状況はどういう顔をすればいいか正直わからないのだ。その表情からも、彼女の複雑な心境が見て取れる。

 一方のルーデルは、むしろこの状況を楽しんでいるようだ。

「まぁ、今は何よりも団結が必要な訳で、不用意な発言はやめにするわ。とにかく、あんたの留守中は私とこのバカ二人に任せなさい」

「誰がバカっすかッ!」

「……ぼ、ボクがシャルルさんと同次元だなんて」

「お前は傷つくポイントが何か違うっすよッ! シャル、本気で泣くっすよッ!?」

「あぁ、騒がしいのぉ。少しは静かに語り合う事はできんのか」

 騒がしくなる皆を戒めたのは、これまで黙っていたツバメだった。皆の視線を一身に受けながら、ツバメは静かに語り始める。

「当然、ワシも残ってこの村を守るぞ。元々、主らの留守中のこの村の守りはワシの役目じゃからのぉ。故に、登場頻度が少なくてエレナと同じく主要キャラなのに存在感が薄いのじゃが」

「そこで何で私の名前が出て来る訳? っていうか、何の話よそれ」

「まぁそれはさておきじゃ。ワシはこれまで通り、この村を守る事にするぞ。ワシにとっても、もはやこの村は故郷も同然。サクラとかクリュウを抜きにしても、ここを守るのはワシの責務じゃからのぉ」

 そう言って、彼は頼もしげに微笑んだ。呆然としているクリュウに向かって、ツバメは「なぁ、クリュウよ」と優しく言葉を続ける。

「お主は本当に幸せ者じゃと思うぞ。お主を想い、それぞれで決断し、行動してくれる仲間がこんなにも大勢居るのじゃ。お主は少し自分で抱え過ぎるのが玉に瑕。少しはそんなワシらを頼るが良い。決して、バチは当たらんぞ」

「ツバメ……」

「そうっすよ兄者。一人でできる事なんてたかが知れてるっすよ。1+1は2とは限らないっす」

「……シャルルさん。1+1の答えは2ですよ。ついにそのレベルの計算もできなくなってしまったのですか? お悔やみ申し上げます」

「例えの話っすよッ! テメェはシャルの事をどんだけバカにするっすかッ!? いよいよ本気で泣くっすよッ!?」

 かっこいい事を言おうとしても、まるでシャルルがかっこいい事を言う事は似合わないとばかりに揚げ足を取りまくるルフィール。そのある種息の合った掛け合いは、如何に二人が親密な関係かを証明しているかのようで、クリュウは思わず笑みを浮かべた。

「確かにシャルルの言う通りだ。一人でできる事には、絶対に限界がある。正直、今回の事は僕の勝手だから君達を巻き込みたくはない。でも、結局はみんなに迷惑を掛ける訳だから」

 そう前置きし、クリュウは改めてこの場に集まった皆を見回す。その一人ひとりの顔をそれぞれ見比べた後、クリュウは静かに頭を下げた。

「みんな、どうか――僕の東方大陸行きを助けてほしい」

 

 クリュウの頼みは、満場一致で可決された。

 

 クリュウ達四人の東方大陸行きはすぐに村長にも報告し、その出発予定日は一ヶ月後となった。ちょうどその頃に中間経過観察の為にイリスとカレンがそれぞれアルトリア王政軍国とエルバーフェルド帝国から来る予定になっているので、そこで二人に東方大陸行きを伝えてからの出発となった。

 村長は最初こそ驚いていたものの、クリュウの東方大陸行きを「寂しくなるね」と寂しそうに笑いながらも応援してくれた。

 こうしてクリュウ、フィーリア、サクラ、シルフィードの東方大陸行きが確定したのであった。


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