モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第213話 荒神の如し古龍の猛攻 鋼鉄の暴風吹き荒れし戦場

 雪上を翔けるクシャルダオラは舞い上がる雪と風を纏いながら突っ込んで来る。飛竜種のそれが地面を震わす程の足音と共に突っ込んで来るのに対し、雪上だという事を引いてもクシャルダオラのそれは軽やかだ。雪上とは思えない速度で突っ込んで来るクシャルダオラに対し、クリュウ達は左右にそれぞれ回避行動を取った。

 足場の悪い雪の上を走ってクシャルダオラの針路から飛び退いたクリュウはすぐに振り返ってクシャルダオラの姿を探し、そして驚愕した。クシャルダオラは自分達が先程までいた場所にピッタリと止まっていたのだ。通常飛竜種の多くは突進を終える際はその巨体が仇となって止まれず、最後には身を投げ出して止まるものが多い。例外は強力な脚力で倒れる事なく滑走しながらも停止する角竜ディアブロス、そして先日戦った四本の脚を持ち前脚に翼膜を備えた轟竜ティガレックスくらいのものだろう。

 通常の飛竜種と違ってピッタリと止まって見せたクシャルダオラ。だがその動きは実はクリュウの中である程度予想はできた。四本脚で地面を走るティガレックスは見事な停止を見せた。ならば同じく四本脚のクシャルダオラも同様の動きができるのではと疑う事は安易だった。なので、正直な所この動きはそれほど驚きはなかった。だがクシャルダオラは突然体を持ち上げて後脚二本で立ち上がると、その場でくるりと反転してこちらに向き直り、再び前脚を地面に下ろした――何と、一瞬にしてこちらへと向き直ったのだ。

「な……ッ!?」

 これにはクリュウだけでなく同じように回避行動を取ったフィーリアとサクラも驚く。四本脚で驚異的な機動力を見せたティガレックスをも超える旋回速度だ。だが驚く三人に対しシルフィードだけはこの動きに驚く事はなく、ただただ苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 シルフィードは剣聖ソードラント時代に、一度クシャルダオラと交戦経験があった。当時はまだ腕も未熟で、圧倒的な力で古龍であってもねじ伏せるアインやツヴァイ、チェルミナートルが主力となり、自分はほとんど剣を振るう事はなかった。その為戦ったとはあまり言えない。だがこの中の誰よりも、鋼龍クシャルダオラに対する知識はあった。

「だからこそ、厄介な相手だと嫌というくらい知っているんだ……ッ」

 泣き言を言っていても何も始まらない。戦いの火蓋は切って落とされてしまったのだ。嫌がおうでも戦う他に選択肢などないのだ。

 奴の攻撃手段を記憶の奥底から引っ張り出す間、シルフィードの横を通り抜けてクシャルダオラへと近づく者がいた。吹雪を物ともしない突貫で鋼龍との間合いを詰める戦姫、サクラだ。

「バカッ。無防備に突っ込むなッ!」

 シルフィードの忠告を無視して更に加速してサクラはクシャルダオラに斬り掛かる。が、

「……ッ!?」

 剣先がクシャルダオラの頭部を捉えた瞬間、突如猛烈な風がサクラの体を押し返した。振り下ろした飛竜刀【紅葉】の刃先は鋼の龍鱗に触れる事もできず、サクラの体まるでクシャルダオラから追い払われるように吹き飛ばされ尻餅をついてしまう。

 突然の事に困惑しながら腰を落とすサクラ。だが鋼龍はそんな隙を与えようとはせずにすぐさま攻撃に転じる。右前脚を振り上げると、彼女に向かって振り下ろす。

「……ッ」

 振り下ろされる鋭い前脚を前に、サクラはすかさず飛び退いた。雪の上をゴロゴロと転がるように回避。一瞬遅れて彼女がいた場所にクシャルダオラの爪が振り下ろされる。新雪が舞い上がり、その下の降り積もって固まった氷を容易く斬り裂き、地面を抉る。冗談ではなくシルフィードのキリサキに負けず劣らずの切れ味だ。クシャルダオラの爪は、硬く鋭い剣のように斬れるらしい。

 地面が一瞬で抉られたのを見て、前傾姿勢のまま凝視していたサクラの頬を大粒の汗が流れる。だがすぐにその顔が悔しげに歪む。

 あと少しで刀で斬りつけられたはず。なのに、その直前でまるで見えない何かの力で突き飛ばされたように体が飛ばされた。普通の飛竜種が着陸時などに発生させる風圧とはどこか違う、明確な意志を感じられる風だ。

 続いてフィーリアがサクラを援護しようと動く。すぐさま通常弾LV3を装填してハートヴァルキリー改を構える。速射機能を持つ通常弾LV2ではなく通常弾LV3を選択したのは様子見を兼ねているからだ。

 一瞬だけスコープを覗いて狙いを合わせる。狙うはクシャルダオラの右後脚。いつものように冷静に狙いを定め、引き金を引く。銃声と共に打ち出された弾丸は吹雪の風など物ともせずに飛翔し、鋼龍を捉える――だが着弾の寸前、まるで見えない壁に弾かれたかのように弾丸は跳ね返された。

 跳ね返された弾丸はそのまま元来た方へと針路を変えて飛翔する。そして――

「……ッ!?」

 ――驚愕するフィーリアの頬を掠めて、空の彼方へと消えて行った。

 固まるフィーリアの頬を赤い筋が浮かび上がる。熱を感じて指先で頬を撫でると、わずかな血が指先についていた。

「な、何これ……」

 呆然とするフィーリアの横を通り抜け、クシャルダオラへと突っ込むのはクリュウ。すでにバーンエッジを構えながら雪上を走る。サクラもフィーリアもクシャルダオラの纏う風を前に未だ呆然から脱し切れていない。この間に二人が狙われないように動くクリュウ。

 風に対する勝算はあった。クリュウの纏うディアブロシリーズは風圧【小】スキルがある。多くの飛竜種が着陸時や離陸時に使う風圧はこのスキルで相殺できる。だからこそ、クシャルダオラのそれも打ち消せるのではないか。そんな淡い期待があった――だが、そんな彼の期待はあっさりと砕かれた。

 接近する自分に気づいて振り返るクシャルダオラに対しクリュウはバーンエッジをその頭部目掛けて振り下ろすが、サクラ同様に接近するのを阻むように風が体を持ち上げて押しやってしまう。足に力を入れて吹き飛ばされないようにするが、その甲斐もなく彼の体は簡単に吹き飛ばされしまい、雪の上に尻餅をついてしまう。

 風圧【小】スキルの甲斐なく吹き飛ばされたクリュウは舌打ちする。そこへクシャルダオラは首を持ち上げるような動作をする。それを見てとっさにブレスが来ると思ったクリュウは反射的に盾を構えた。周りの空気が歪み、鋼龍の口の中へと吸い込まれていくのが見えた。次の瞬間、まるでクシャルダオラの前で嵐が発生したかのような猛烈な風が発生し、一直線に撃ち放たれた。迫り来る可視の風塊の直撃を覚悟した時、ブレスと自分の間に突っ込む者がいた――シルフィードだ。

 シルフィードはクリュウの前でキリサキを抜き放つと、剣先を氷に突き刺した。そのままガードの構えを取り、直後に風ブレスが直撃する。猛烈な風に全身が斬り刻まれるような感覚。だが体へと直撃するはずだった風の大半はキリサキが防いでくれ、実際には大したダメージは追っていない。

 嵐の塊が背後へと吹き抜け、爆散する。その弾道にいた二人は何とか無事だった。

「あ、ありがと」

「礼は後だッ! 下がれッ!」

 いつになく焦り気味な声で怒鳴られ、クリュウは慌てて立ち上がって後方へと下がる。それを気配で感じ取ったシルフィードは逆に前へ挑み出る。クシャルダオラの正面から迫り、サクラやクリュウよりも長いリーチを活かしてキリサキを振り上げ、一気に叩き落とす。風の壁の外から振り下ろされた一撃は壁を破ってその鋭い刃先を鋼龍の角に叩きつけられる。

 ギャンッという金属音が辺りに響き渡る。鋼龍は文字通り全身が鋼のように硬い金属質の龍鱗で守られている。弾かれるも力業で何とか刃は通った。だがその衝撃は腕を襲い、ビリビリと痺れさせる。想定していたとはいえ、かなり硬い。

「チッ」

 舌打ちし、シルフィードは続けて横から腰を回しながらキリサキを薙ぎ払う。これもまた鋼龍の角に直撃するが、クシャルダオラはまるで何事もなかったかのように飛び上がると、大きく後方へと後退した。

 風を纏いながら着地し、唸り声を上げる。そこへ呆然を脱したばかりのフィーリアが放った銃撃が襲いかかる。だがまたしても見えない風の障壁に弾かれ、銃弾は元来た方へと戻る。慌てて身を屈めたフィーリアの直上を弾丸が通過していく。ほっとするのも束の間、シルフィードに名前を叫ばれ視線を上げると、クシャルダオラがこちらに向かって突っ込んで来た。慌てて横へ跳んでこれを回避するが、クシャルダオラはフィーリアが一瞬前までいた場所で止まると再び反転して倒れているフィーリアの方に向き直る。鋼龍の碧眼と目が合った瞬間、恐怖のあまり凍り付くフィーリア。

 動けないフィーリアに対し、クシャルダオラは容赦なく爪を振るう。だがその鋭い爪先がフィーリアを斬り裂く寸前、彼女の体を抱き起こしてその場から一瞬にてサクラが離脱した。結果、クシャルダオラは氷の上に鋭い爪痕を残すだけに終わる。

 フィーリアを救い出したサクラは彼女の礼の言葉も待たず、飛竜刀【紅葉】を携えたまま再びクシャルダオラに向けて突貫する。だがクシャルダオラはそんな彼女を無視して背後から近づいていたクリュウの方に向き直ると、彼に向かって突進。サクラは振り切られてしまう。

「……チッ」

 舌打ちしつつも、すぐさまクシャルダオラを追いかけて針路を変える。

 一方、迫り来るクシャルダオラに対してクリュウは横へ逃げてこれを回避する。自分が一瞬前までいた場所に急停止したクシャルダオラは素早く反転し、再びクリュウと目が合う。次の瞬間、彼を狙って風ブレスが撃ち放たれる。猛烈な暴風の塊の接近に回避が間に合わないと悟ったクリュウはバーンエッジの盾を前に突き出してガードの構えを取る。直後、鋼龍の風ブレスが着弾。全身を四方八方から攻撃されているかのような衝撃と、荒れ狂う風の中で一瞬息ができなくなる。ディアブロメイルなどが軋み、重量があるはずの鎧を纏っているのに、彼の体は簡単に弾き飛ばされた。

 雪上に倒れた彼を援護するように他の三人が動く。しかしフィーリアは弾丸が弾かれる為に慎重になり過ぎて攻撃を渋り、サクラは接近を阻む風を前に思うように斬り込めず、シルフィードも動き回るクシャルダオラ相手に翻弄され、いずれも決定打を与えられずにいた。

 一方、雪上に転がったクリュウは頭を振ってフラフラとする視界を正して立ち上がる。そして気づく。

「……ッ!? 凍ってる……ッ」

 ディアブロメイルやアームなど、鎧の至る所が凍り付いていた。恐らく風ブレスで巻き上げられた雪がこびりつき、そのまま強風による冷却で凍り付いたのだろう。厄介な事に防具の関節部分も凍り付いてしまい、可動域が制限されて思うように動けなかった。

「解氷剤……ッ」

 クリュウは急いで道具袋(ポーチ)から解氷剤を取り出す。解氷剤は火薬草とはじけイワシを調合して乾燥させた粉末だ。氷に触れると粒の一つ一つが弾ける。氷の粒子の隙間にも潜り込んで弾けるので氷が砕ける代物であり、雪山戦では必需品とも言える道具(アイテム)だ。

 クリュウも例外ではなくしっかりと解氷剤を用意していたおかげで助かった。すぐに解氷剤を使って鎧にこびり付いた、特に関節部分に付いた氷を砕く。おかげですぐに可動域が戻り、動きの阻害がなくなった。

 動きを回復したクリュウはすぐに他の三人に任せていた前線へと復帰する。前線では三人が苦戦を強いられていた。

 銃声と共に撃ち出された通常弾LV3は寸分違わずクシャルダオラの前脚に吸い込まれるが、着弾の寸前で風の障壁に阻まれて反転。初速と変わらぬ速度で撃った本人であるフィーリアに襲い掛かる。狙撃と同時に滑るような足捌きで横へ移動したフィーリアのすぐ隣を銃弾が掠め飛ぶ。背後に着弾したのを確認したフィーリアは悔しげに唇を噛んだ。

「これでは掠り傷一つ与えられない……ッ」

 ハンターにとって、自らの武器が通用しないという現実は何にも代え難い苦痛であり不安だ。先程から一撃も与えられない現実に、フィーリアの中で焦りだけが先走る。

 サクラも果敢に攻め込むがそれを阻むように可視の風が彼女の体に纏わりついて、彼女の突貫を押し返す。闇雲に刀を振るっても、剣先でわずかにサビ付いた鋼龍の体表を削るだけ。踏み込みたくても踏み込めないもどかしさにサクラの苛立ちが募る。

 そしてシルフィードもサクラ同様に風の障壁の影響でうまく近づけず、決定打を欠いていた。記憶の中でアインやチェルミナートルがどう動いていたか思い返すが、とても常人の動きではなく真似できそうにない。ならばクシャルダオラの動きはどうかと問われれば、あの時の自分は必死に剣を振るっていて正直あまりよく覚えていない。冷静さを取り戻す頃にはアインとツヴァイ、そしてチェルミナートルの猛攻でクシャルダオラは倒されていた。

 チーム唯一の交戦経験者でありながら、役立てずにいる。その無力さもまた彼女を追いつめ、焦りを募らせていた。

 鋼龍の風の鎧を前に三人の戦意は著しく失われていた。これ以上の戦闘は難しいが、だからと言って逃げ切る事はできない。できると判断すればとっくに背を向けて逃げ出している。

 一方的に体力と精神力を消耗する戦いに皆の心が挫けそうになった時――彼が現れた。

「目を閉じてッ!」

 彼の声にほとんど反射的に三人が目を閉じた瞬間、瞼越しでもわかる程に強烈な閃光が炸裂した。

「ギャアッ!?」

 初めてクシャルダオラが悲鳴にも似た驚愕の声を上げる。目を開けば、先程までその機動力で四人を翻弄していた鋼龍は闇雲に爪を振るったり、唸り声を上げている。まるで四人の姿を見失ったかのようだ。

 驚く事はない。ようやく動きを封じたクシャルダオラを前に動きを止めた三人の所に、クリュウが戻って来る。その彼が閃光玉を投擲して鋼龍の動きを封じたのだ。

「みんな無事ッ!?」

「何とかな。皮肉にも風の鎧のせいで踏み込めないでいた事でこちらもダメージは最小だ」

 苦笑を浮かべるシルフィードの言葉にクリュウはほっと胸を撫で下ろした。他の二人もやって来て、そのいずれも大した怪我はしていなかった。元々本格的な戦闘を行う気はなく、更にシルフィードの言う通りクシャルダオラの未知の能力、風の鎧のせいでうまく踏み込めなかった事も幸いしていずれも逃げに徹していたおかげだ。

「二人とも大丈夫?」

 こちらに駆け寄って来るフィーリアとサクラに声を掛けると、二人は無言でうなずいた。だがそのどちらの表情にも余裕はなく、いつにも増して不安と焦りの色が見える。

「……風が邪魔。近づけない」

 悔しげに唇を噛むサクラの言葉に、シルフィードもうなずく。

「クシャルダオラは別名【風翔龍】とも言い、何らかの力で自らの周りに風を纏っていると聞く。その風の障壁がある限り、不用意に近づく事はできない」

「その風の障壁のせいで、私の銃弾も届きません」

 苦しげに語るフィーリアの言葉にも、クシャルダオラの風の障壁に対する悔しさが滲んでいた。自らの武器が通用しない事が、彼女を追いつめているようだった。

「クリュウ。閃光玉はあと何発残っている?」

「僕は残り二発だけ。みんなは?」

「残念ながら私は持ち合わせていない。二人はどうだ?」

「すみません。私も一発も持っていません」

「……持っていない」

 慎重な性格のクリュウだからこそ持参していた閃光玉。他の三名は討伐依頼ではない事を理由に持っていなかった。だがそれは決して非難されるような事ではない。ハンターの持ち込める道具(アイテム)には限界があるし、本来の依頼とは異なる状況に陥っているのだから。特にフィーリアなどは弾丸など他の面々よりも道具(アイテム)制限が大きいのだ。

「二発しかないのではなく、二発もあるのだ。それだけあれば、奴の目を潰して洞窟に逃げ込む事ができる。そのまま下山して一気に山を出る。現状の方向性としてはこれだ」

 鋼龍クシャルダオラは今の自分達が敵うような相手ではない。しかも万全の状態でもそのような有様なのに、今の自分達は決してクシャルダオラの討伐でこの山に来ている訳ではない。なので当然装備も不十分なのが現状だ。

「そろそろ閃光玉の効き目が切れる。クリュウは隙を見て閃光玉で再び奴の動きを止めてくれ。その隙に全力で撤退する。残る一発は予備として使ってくれ」

「……つまり、チャンスは二回って事?」

「そうだ。君に全てを押しつける訳じゃないが、閃光玉の扱いが君が一番長けている――頼まれてくれるか?」

 シルフィードの言葉に、クリュウは少し考える。背後ではまもなくクシャルダオラが視界を回復させるだろう。考えている時間はない。だがそれは決して彼の決断を早計にさせるものではない。むしろこの状況だからこそ、自分に頼んでくれる彼女の言葉に信頼を感じた。だからこそ、

「わかった。その役目、引き受けたよ」

 彼女の期待と信頼に答える為にも、その大役を引き受ける事にした。

「頼むぞ」

 彼の言葉に安堵したように微笑むシルフィード。フィーリアとサクラもクリュウに任せる事に異論はなく、彼に現状の打破を託す。彼に対する信頼の高さがなせる判断だ。そんな三人の想いに応えるべく、クリュウも「任せておいてよ」と努めて笑顔を浮かべて応えた。

 四人の行動指針が決まった所で、辺りの空気が変わった。振り返れば、鋼龍クシャルダオラが唸り声を上げてこちらへと振り返る。閃光玉の効き目が切れたらしい。心なしか、今まで弱まっていた風が勢いを盛り返したように見える。

「……風が、弱まってた?」

 その微妙な変化に気づいたのはクリュウだけだった。だが確証もなく、今はそんな事を考えている余裕はない。雑念を抱きながら戦えるような相手ではないのだ。

「行くぞッ!」

 シルフィードの掛け声と共に四人は一斉に走り出す。それに対してクシャルダオラは牽制するように風ブレスを撃ち放つ。迫り来る暴風に対し四人は左右に分かれてこれを回避。右翼にクリュウとフィーリアが、左翼にサクラとシルフィードと分かれ、その間を暴風が突き抜ける。

 至近距離を通過する暴風を見送るクリュウ。新雪の下の氷ごと砕く猛烈な暴風を前に、改めてあれの直撃を受けたらただでは済まないと悟る。

 鋼龍に接近する四人のうち、まず最初にフィーリアが通常弾LV3で銃撃する。だがこれまで同様に風の障壁が阻み、跳ね返って来た銃弾が足下に炸裂し、足が止まる。

 フィーリアが止まった事に気づいてはいても、剣士組は止まらない。ガンナーと違って剣士は相手の懐に潜り込まなければ攻撃を加えられない。距離が空いていては一方的にやられるだけだ。危険を承知でも、空いての懐に飛び込まなければ一矢すら報いる事はできない。

 迫り来る三人を相手に、クシャルダオラは雪上を翔けて突撃して来る。雪上とは思えない速度で迫る鋼龍相手に三人は散開してこれを回避する。

 散開した三人のちょうど中央を抜ける形で通過したクシャルダオラを相手に、回避した三人は反転して三方向から攻撃を仕掛ける。真っ先に迫ったのは俊足のサクラ。紅蓮の炎を刀身に纏う飛竜刀【紅葉】を構えながら、突貫する。だが燃える剣先が鋼龍の鎧にあと一歩で届く寸前で、クシャルダオラは突然飛び上がった。

「……ッ!?」

 振り抜いた刀は空を切り、勢い余った体はたたらを踏む。

 飛び上がったクシャルダオラはそのまま大きく後退し、合流を果たしたフィーリアを含めた四人から一気に距離を取って着地。唸り声を上げながらこちらを威嚇すると、再び風ブレスを撃ち放つ。

 迫り来る風ブレスを前に、クリュウは大きく回避してしまう。その横を轟音を立てながら通過する風の塊を一瞥し、クリュウは悔しげに唇を噛んだ。

「間合いがわからない……ッ!」

 クシャルダオラの放つ風ブレスは不可視の一撃だ。正確には圧縮された空気が通過する際に空間に歪みが起きるのでぼんやりとした輪郭は見えるのだが、正確な範囲がわからない。リオレウスの火球ブレスがその範囲がわかりやすいのに対し、ほとんど目に見えない鋼龍の風ブレスは厄介極まりない。どこが安全でどこが危険なのかがわからず、自ずと回避も大きくなってしまう。そしてそれは次への行動へ移行する時間が余計に掛かる事を意味し、結果的に反撃の機会を失う事になる。

 それは他の面々も同じようで、いつも以上に慎重に動いている。その為どうしても攻撃に移れないでいる。ただし今回に限っては相手を討伐するのではなく、あくまで撤退戦だ。相手を威嚇する程度でそれほど踏み込んだ戦いはしなくていい。だが回避の動きが大きくなっては、その肝心の撤退行動にも移れない。閃光玉の範囲外へと飛び、そこから不可視のロングレンジ攻撃。頼みの綱のフィーリアによるこちらのロングレンジ攻撃は風の障壁の前では無力。正直、笑えてくるくらいの劣勢だ。それでも――

「……ッ!」

 諦めず、立ち向かう者がいる。

 雪上を翔け、クシャルダオラが一瞬で開いた距離を、すさまじい速度で突貫して詰め寄る少女。煉獄の炎を纏い、下段に構えられた剣先から吹き出る炎は氷を一瞬で蒸発させる。水蒸気を立てながら吹雪の中を猛然と翔け抜けるサクラ。正面から迫る彼女を相手にクシャルダオラは凶悪な爪を振り上げて、彼女に向けて叩きつける。サクラはその一撃を横に跳んで回避すると、鋼龍の右側面から炎を纏った刀を振り下ろす。だが再び風の障壁が彼女の攻撃を阻み、あっという間に彼女の体を吹き飛ばしてしまう。尻餅をついた彼女の方に首を振ったクシャルダオラの碧眼が不気味に煌めく。

「……くッ!」

 ゆっくりと振り上げられる凶悪な爪を前に為す術がないサクラ。ただその瞬間を前にしても彼女は決して目を逸らそうとはしなかった。隻眼でしっかりと、鋼龍を睨み続ける。その時、一発の銃声が轟いた。刹那、クシャルダオラの胴体に火花が飛び散った。

「……え?」

 驚くサクラの前で、クシャルダオラは腕を下ろしながらゆっくりと長い首で振り返る。その先には、こちらに銃口から煙を噴くハートヴァルキリー改を構えたフィーリアが、サクラ同様に驚愕の表情のまま立っていた。

「あ、当たった……?」

 驚く彼女の口から思わず零れる言葉。だがすぐに表情を引き締めると、こちらを凝視したまま尻餅をついているサクラに向かって叫ぶ。

「今のうちに逃げてくださいッ!」

 そう言って彼女は再び引き金を引いた。銃声と共に撃ち出される銃弾は先程と同様に風の障壁を突き破ってクシャルダオラの胴体に命中する。硬い金属の鎧の為か当たってはいても大した傷にはなっていない。その証拠に火花が迸り、銃弾が弾かれている事がわかる。それでも、銃弾は確かに風の障壁を越えたのだ。

 風の障壁が突破されたと知るや、クシャルダオラはフィーリアに向き直ると彼女に向かって風ブレスを撃ち放った。雪と氷を砕きながら進む一撃にフィーリアは慌てて横へ回避する。だがそこへ今度はクシャルダオラ自体が突っ込んで来る。

 逃げきれないッ!

 心の中で思わず弱音を叫んでしまう。だがフィーリアの足では迫り来るクシャルダオラから逃げ切る事はできない。そんなの、自分の事なのだからわかっている。それでも、諦めずに走り続ける他はない。

 その時、誰かに首根っこを掴まれた。そしてそのまま力強くクシャルダオラの針路から投げ出される。雪の上に尻餅をついたフィーリアは見た――迫り来るクシャルダオラを前にして、勇猛果敢に挑むシルフィードの姿を。

「シルフィード様ッ!」

「くぅ……ッ!」

 ガードの構えを取り、クシャルダオラの突進を正面から受け止めたシルフィード。だが圧倒的な力の差を前に、彼女が踏ん張れたのはほんの一瞬だ。すぐに弾き飛ばされ、雪の上に倒れた。だが初撃をガードで耐えたおかげで、大した怪我もなくシルフィードはすぐさま起き上がる。

 そこへクリュウが躍り出る。意識をこちらに向けようと彼が投げつけたのはペイントボール。放物線を描きながら飛翔する玉は吸い込まれるようにしてクシャルダオラの頭寄りの首に命中した。途端に辺りに嗅ぎ慣れた匂いが充満する。

「届いた……?」

 だがクリュウはそれよりも、ペイントボールが命中した事自体に驚いていた。自分で投げたものの、それが命中するとは正直思っていなかったのだ。クシャルダオラの風の障壁は人間自体も吹き飛ばすようなものだ。それがペイントボールを防げないというのは理屈に合わない。

 その時、クリュウは思い出す。シルフィードが一度だけ真正面から風の障壁に妨害される事なくクシャルダオラに一撃を入れていた事を。

「もしかして……」

 クリュウの中で、ある可能性が生まれた。

 一方、シルフィードを援護するように銃撃を再開したフィーリア。先程まで弾丸は全て弾かれていたのに、突然今度は全ての弾丸が風の障壁を突破できるようになった。クリュウ達はその事に疑問を抱いていたが、当のフィーリアだけは、その理由を知っていた。

「貫通弾は、跳ね返されないんだ」

 そう、フィーリアはこの時これまで使っていた通常弾LV3から、貫通弾LV2に切り替えていたのだ。確信があった訳ではなく、単純に通常弾では効果がない事から貫通弾へと切り替えたに過ぎない。だが結果的にそのおかげで難題だった風の障壁を見事に突破する事ができたのだ。

「これで、私も戦える……ッ!」

 自らの武器が通用するようになった。これ以上にハンターにとって心強い事はないだろう。戦意を取り戻したフィーリアは続けざまに貫通弾LV2を撃ち込む。撃ち出された弾丸はいずれも風の障壁を突破し、クシャルダオラに命中する。しかしそのどれもが鋼龍の硬い龍鱗を貫通できずに弾かれてしまう。風の障壁を突破する際にその威力のほとんどを失っている事も痛い。だが、確実にクシャルダオラはフィーリアの攻撃に気を削がれていた。

 起き上がったばかりのシルフィードを狙って動こうとしたクシャルダオラはフィーリアの攻撃を鬱陶しく思ったのか、今度はそちらに向き直り風ブレスを撃ち放つ。距離が離れていた事もあってフィーリアはこれを横へ走って回避した。

 フィーリアへの一撃が失敗し、彼女を追うように視線を動かすクシャルダオラに向かって、クリュウとサクラが左右から挟撃する。サクラはクシャルダオラの右後方から飛竜刀【紅葉】を構えて突貫するが、風の障壁に阻まれる。無理矢理前に突っ込んで強行突破を試みるが失敗し、彼女の体はまたしても吹き飛ばされる。

 一方のクリュウはサクラと違ってクシャルダオラの左前方へと移動。そのまま鋼龍の正面に現れると、視線を自分に向けるクシャルダオラの目の前からバーンエッジで斬り掛かった。

 サクラ同様にまたしても風の障壁で防がれる。誰もがそう思っていた――だが、彼の振るった剣は風の障壁に一切の邪魔を受けず、その剣先は確かに鋼龍の角にぶち当たり、甲高い金属音を響かせた。その金属音は、吹雪と戦闘の音に支配された山頂に、不思議と良く響いた。

「やった……ッ!」

 思った通りだ。クシャルダオラは確かに風の鎧を纏っているが、何も全方位全てをカバーしている訳ではない。獲物を攻撃する為にはむしろこの風の障壁は邪魔となるのだろう。そのせいかはわからないが、風の障壁は正面には展開していないのだ。先程のシルフィードの一撃とペイントボールでそんな仮定を導き出したクリュウは自らそれを実践する事にした。結果は、彼の考えは見事に的中した。

 今まで、風の障壁のせいで近づく事すらできなかった。一方的になぶられるだけの展開だったが、光明を得た瞬間であった。

 古龍に対して、やっと一撃を入れる事ができた。歓喜するクリュウだったが、そんな彼の心の隙を狙ったかのように、クシャルダオラは彼の攻撃など物ともせず、彼に向かって爪を振り払う。とっさに盾で防いだが、足下に力が入っていなかった彼は衝撃に耐える事ができずに雪上を転がる。

 倒れた彼を見て援護に移ろうと、彼の見出した勝機を無駄にしないようにサクラが正面から斬り掛かろうと迂回しながら鋼龍に迫る。だがそんな彼女の動きを察知したクシャルダオラは突然翼を大きく広げると、ギシギシと錆び付いた金属音を響かせながら翼をはためかせ、天空へと舞い上がる。上空へと飛び立とうとするクシャルダオラに対し、サクラは悔しげにそれを見送る。

 誰もがそのまま飛び去るのではと甘い期待を抱いた。だがクシャルダオラは飛び去る訳ではなかった。人の背丈程の高さにまで上ると、そこで何と滞空(ホバリング)したのだ。これにはクシャルダオラと初めて戦う三人は驚いた。唯一交戦経験のあるシルフィードだけが、クシャルダオラの行動を見て唇を噛む。

 鋼龍は通常の飛竜種よりも卓越した飛行能力を持つ。それは自身の周りに展開している風の影響もあるのかはわからないが、常に滞空(ホバリング)しながら自由に動き回る事ができるのだ。事実、この行動に驚いたものの援護しようと銃撃を再開したフィーリアに向かって、クシャルダオラは羽ばたきながら低空で迫る。慌てて逃げようとする彼女に向かって、クシャルダオラは容赦なく風ブレスを放った。しかも三発連続だ。

 一発目と二発目は何とか避けたフィーリアだったが、三発目は至近弾となり弾き飛ばされて雪上に倒れた。ゆっくりと起き上がる姿を見る限りダメージは負っているようだが、致命傷にはなっていないらしい。だが先程のクリュウ同様に体が凍り付いてしまったらしく、動きをかなり制限されているようだった。

 解氷剤を使う為に一時的とはいえ戦線から離脱するフィーリア。その隙を突いて背後から迫っていたシルフィードに空中で隙なく振り返ったクシャルダオラは突如その動きを加速。彼女に向かって勢い良く突っ込むと彼女の正面から前脚を振り上げ、まるで押し潰すように体ごと叩きつけた。

 クシャルダオラの凶悪な攻撃の数々の中でも一、二を争う破壊力を持つ空中からの蹴り攻撃。ブレスなどに比べれば地味だが、クシャルダオラの全体重を押しつけての衝撃と鋭い爪が加わった一撃は硬い氷すらも粉砕する威力だ。クシャルダオラのこの動きを以前の戦闘で知っていたシルフィードだからこそとっさに回避できたのだ。

 凍えるような寒さの中で、四人は汗を掻きながら戦闘を続けていた。

 諦めずに接近を試みるサクラに対し、ゆっくりと羽ばたきながら迫るクシャルダオラ。その動きを見てチャンスだと思ったクリュウは道具袋(ポーチ)に手を伸ばし、閃光玉を構える。そしてサクラの背後に炸裂するように計算して閃光玉を投擲した。後はそのまま閃光玉が炸裂して空中から引き吊り下ろすだけ。そう考えていたクリュウは次の瞬間には自らの計算の甘さを痛感する事となった。

 クシャルダオラは突如大きく翼を羽ばたかせると、まるで空中で滑るかのように一瞬にしてクリュウの右側面へと回り込んだのだ。それはいくら飛行能力が優れているとしても、物理的に不可能な動きだ。身に纏う風を使ったとしか思えないような鮮やかな回り込みに、クリュウは自らの目を疑った。だがそれは現実で、閃光玉はクシャルダオラの右斜め後ろで炸裂し、不発に終わる。慌てて逃げようとする彼の背中に向かって、クシャルダオラは容赦なく風ブレスを撃ち放った。

「……クリュウッ!」

 逃げる彼の横からサクラが突っ込み、彼に抱きつくようにして自らと共に風ブレスの射線から離脱した。肩から雪上に倒れた二人の足下を、風ブレスが轟音を立てながら通過したのは一瞬遅れての事だった。

「あ、ありがとうサクラ……」

「……いいから、早く立って」

 礼を言うクリュウの言葉にも淡々と返すサクラ。いつもの彼女らしからぬ言動だが、強敵クシャルダオラを前に余裕などないという事なのだろう。彼女に言われた通りすぐに立ち上がったクリュウ。その間、クシャルダオラの意識を逸らすようにシルフィードが奮戦していた。

「このぉッ!」

 風の障壁のせいで懐に入り込めない煩わしさに苛立ちながらも、シルフィードはうまく立ち回って剣先でクシャルダオラの体表を削り取る。だがそれは決して致命打にはならない。それでも鋼龍の意識を削ぐ事には成功した。

 横薙ぎにキリサキを振り抜いた後、離脱を図る彼女を追って視線を巡らせるクシャルダオラ。そして、その凶悪な瞳が不気味に煌めくのを、クリュウは見逃さなかった。

「シルフィッ!」

 クリュウの叫び声にシルフィードが振り返る――次の瞬間、彼女の体が宙を舞った。

 全身を引き裂くような風の刃の中に晒され、激痛に声すら上げる事ができない。暴れ狂う風が呼吸すらもさせてはくれず、呼吸困難に陥る。だがそれは一瞬の事で、数秒の浮遊感の後に背中から地面に激突する。違う痛みに顔を顰めながら、歪む視界の中でクシャルダオラの姿を探す。

「くそぉ……ッ」

 痛みに耐えながらゆっくりと身を起こすと、背中に衝撃を感じた。その瞬間、全身に走っていた痛みが和らぐ。それがフィーリアの撃った回復弾LV2のおかげだという事はすぐにわかった。

「助かる……」

 キリサキの剣先を雪上に突き立て、杖代わりにしてシルフィードは立ち上がる。そんな彼女の視線の先でサクラがやっと着陸したクシャルダオラに斬り掛かる。だが風の障壁が彼女の体を吹き飛ばしてしまう。それでも彼女は諦めず、何度も何度も突貫を仕掛ける。

 クリュウは閃光玉のタイミングを図っており、フィーリアは貫通弾LV2にてサクラを援護している。いつまでも前線を任せておく訳にはいかない。シルフィードは回復薬グレートを二本一気に飲み干すと、まだ若干痛む体にムチを打って駆け出す。

 悪戦苦闘する面々を見て、クリュウは一人焦っていた。

 自分が閃光玉でクシャルダオラを足止めできずにいるから、自分達は圧倒的不利な状況下で古龍との戦いを強いられている。今すぐにでも握り締めた閃光玉で隙を作り、一刻も早くこの場を離脱しなければならない。なのに、そのタイミングが掴めずにいた。

 一発が失敗し、残るは今手に持っているこの一発だけ。これを失敗すれば、古龍相手での無謀な撤退戦となる。それだけは何としても避けなければならない。

 早く投げなければ。でも失敗は許されない。そんなプレッシャーに挟まれながら、クリュウの焦りは増していく。どうすればいいかわからず、必死に悩み続ける――だからこそ、彼は鋼龍の動きを見逃してしまった。

「――クリュウ様ッ!」

 フィーリアの声に伏せていた顔をハッともたげると――目の前にクシャルダオラが浮かんでいた。凶悪な碧眼に見下され、突然の事態と恐怖に体が動かない。鋼龍と目を合わせたまま動けずにいるクリュウを助けようと三人は一斉に走り出すが、間に合わない。

 クシャルダオラは巨大な翼で風を発生させながら、空中から呆然と立ち尽くすクリュウを睨みつける。そして、その凶悪な鋭い牙が並ぶ口をガパッと開くと、凍てつく空気をスゥと吸い込む。

「あ……」

 ――刹那、クシャルダオラの風ブレスがクリュウを直撃した。全身を切り刻むような風の刃に晒され、はね飛ばされた彼の体は全身を襲う痛みと浮遊感を同時に体感する。高く舞い上がった彼の体は、すぐに重力に捕まって降下を始める。

 そして、彼の体は地面に叩きつけられた――その瞬間、地面に真っ先に激突した左足に彼がこれまで体験した事のある痛みの中でも最上級の激痛が襲った。

「あがぁあああぁぁぁ……ッ!」

 雪の上に倒れ、左の足首を押さえながら言葉にならない悲鳴を上げて悶え苦しむクリュウ。激痛に悶絶する彼を見て、三人は顔を真っ青に染めながら駆ける。だが、それを妨害するように振り返ったクシャルダオラは彼女達の前に立ち塞がった。

「……退けえええええぇぇぇぇぇッ!」

 激しい憤怒に満ちた怒号と共に、サクラは紅蓮に燃え盛る飛竜刀【紅葉】を槍のように構えながら雪上を翔け、クシャルダオラに向けて突貫する。それに続くように声を上げながらシルフィードもキリサキの柄を握ったまま突っ込み、フィーリアは貫通弾LV2を連射する。

 少女達の怒りに満ちた戦声も聞こえずに、クリュウは一人悶え苦しみ続けていた……


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