モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第209話 轟竜最終決戦 過去の血塗られた因縁との決着の時

「……で、具体的にはどうする」

 涙を拭い取ったサクラは憮然と、いつもと変わらぬ無愛想っぷりを披露して平然を装う。だがその頬は恥ずかしさに赤く染まり、さっきまで泣いていた事もあって目も赤く、平静は残念ながら装い切れていない。

 そんなどこかおかしな彼女の姿に思わず笑ってしまったシルフィードに、サクラの容赦のない睨みが浴びせられる。慌てて笑みを引っ込めたシルフィードは逃げるように話題を変える。

「ひとまず、私が溜め斬りで奴を叩き起こす。すかさずサクラとクリュウが一斉に斬り込み、フィーリアも残弾でできる限りの援護を頼む。ここはこれまでのエリアと違って狭い。奴の動きを制限できる反面、こちらも動きが制限される。今まで以上に斬り込む隙はあるが、同時に相手にもこちらを攻撃する機会は増える」

「お互いに背水の陣という訳ですね」

「……その方がいい。鬱陶しいのは嫌いよ」

「僕とシルフィはガードできるからいいけど、二人はガードできないから無理はしないでね」

 簡単なミーティングを済ませ、準備は整った。何も言わず、シルフィードはスッと腕を伸ばした。その意味を理解し、三人も同じように腕を伸ばすと、差し伸べられた彼女の手の甲の上にフィーリア、サクラ、そしてクリュウの順に手を重ねていく。

「絶対勝つぞ」

 短くも勇ましい彼女の言葉に、三人は意気込みながら頷いた。

「良し。展開だ」

 シルフィードの指示に従い、四人は一斉に眠るティガレックスを包囲するように展開する。

 眠っていても恐怖を感じずにはいられない相手。警戒しつつ、クリュウはディアブロヘルムを被りながら静かに眠りについているティガレックスの全貌を見詰める。

 改めて見ても、全身は強固な鱗や甲殻に覆われていて頑丈そう。筋肉も大きく硬く、これまでのモンスターとは明らかに違う骨格構造。まさに地上戦に特化した体つきだ。一目見ただけで、強敵だとわかる。

 だがその自然の鎧も、これまでの戦闘でずいぶんと疲弊している。鱗は所々剥がれ、傷口からは今も血が滲んでいる。爆弾を使った事で焦げている箇所もあり、明らかに初めて遭遇した時と比べて弱っている事がわかる。その傷をつけ、ここまで奴を追い込んだのは、紛れもない自分達なのだ。

「あと少しだ」

 まるで自分に言い聞かせるように、クリュウはつぶやく。

 眠るティガレックスの正面に立ち、シルフィードは背負ったキリサキを引き抜き、構える。展開する他の面々もそれぞれ武器を構えており、シルフィードの確認の視線に頷きを返す。三人の返答にシルフィード自身も静かに頷き、キリサキを背負うようにして溜め斬りの構えを取る。その時、

「ギャアッ! ギャアッ!」

 突然巣に響く声。驚いて振り返ると、エリアの出入口からギアノスが三匹現れた。ギアノス達はすでにこちらに気づいており、一直線にシルフィードを目指す。

「こんな時に……ッ!」

 溜めながら迫り来るギアノスを睨みつけるシルフィード。その表情はいつになく焦っている。すぐさまクリュウとサクラが撃退に走るが、ギアノスの方が速い。

「くそぉッ!」

 仕方なくシルフィードは溜め攻撃をやめて迫り来るギアノスに向き直ると、正面を薙ぎ払うようにしてキリサキを振るう。振るわれた一撃はギアノスの胴を叩き、二匹を吹き飛ばした。もう一匹は駆けつけたクリュウとサクラが阻んでくれていた。

 吹き飛ばされたギアノスは怒りの声を上げながら起き上がる。だが、ギアノスの二体程度など、シルフィードの敵ではない。一瞬焦ったが、すぐに態勢を立て直した一行。

 だがギアノスなどランポス系のモンスターは、全モンスターの中でも飛び抜けた頭脳プレーを重んじる種族。そして、彼らは的確に獲物を狙う為には――囮だって使う。

 三人が阻止した事で安堵するフィーリア。その背後に突如何かが着地する音が響いた。驚いて振り返ると、そこには新たにギアノスが三匹立っていた。

「しまった……ッ」

 慌ててハートヴァルキリー改を構えるフィーリアだったが、引き金を引くよりも早くギアノスは散開してしまう。装填されているのは通常弾LV3。使い慣れている通常弾LV2よりも装填数は優れるが威力が低く、散弾のような優れた制圧面積はない。弾を装填し直そうにも、時間が足りない。

 焦りながらフィーリアは近づくギアノスを狙って引き金を引く。撃ち出された銃弾は的確にギアノスの太股に刺さり、ギアノスは悲鳴を上げながら転倒した。だがその背後から残る二匹が現れる。

 続けざまに発砲するが、焦っているせいかいつもの命中率を維持できない。数発外れ、その間にギアノスは目の前にまで迫る。とっさにハートヴァルキリー改でガードしようとするフィーリア。だがギアノスの振り上げた爪は彼女を斬り裂く事はなかった。何せ、悲鳴を上げて吹き飛んだのはギアノスの方だった。

 仲間が飛ばされ、驚いて振り返るギアノスに向かってもう一匹を吹き飛ばす為に振り下ろした剣ではなく、左腕に備え付けた盾で殴りかかる。側頭部から盾で殴られたギアノスは悲鳴を上げてゆっくりと後退する。そして、フィーリアの前に彼女を守るように現れた少年は剣を構える。

「クリュウ様……」

「無事みたいだね。良かった」

 ディアブロヘルムを被っている彼の顔を確認する事はできないが、安堵したように微笑んでいる事はわかる。フィーリアは頬を赤らめながら「あ、ありがとうございます」と礼を言う。

「いいから、さっさとギアノスを片づけるよ」

「は、はいッ」

 態勢を立て直した一行はすぐさまギアノスの排除に掛かる。だがギアノスはちょこまかと動き回り、クリュウ達もティガレックスを起こさないよう動きを制限される為、なかなか倒せない。そんな膠着が一分程続いた時、襲いかかって来るギアノスに向かってサクラは鬼神斬破刀を振り抜いた。雷撃を纏った一撃にギアノスは呆気なく吹き飛ばされる。これで一匹排除、そう思っていたサクラは自らの失態に気づいた。

 ――飛ばされたギアノスが落ちる場所には、ティガレックスが静かに眠っていた。

「……ッ!?」

 気づいた時には後の祭り。ギアノスの亡骸はティガレックスの右腕に激突。そのままズルズルと地面に崩れ落ちる。だが同時に、閉じられていたティガレックスの凶悪な鋭い眼光が開き、煌めき出す。

 ゆっくりと起き上がるティガレックスは、すぐに近くにいるクリュウ達に気づく。気づかれた事に慌てて散開しようとする彼らに向かって、ティガレックスは心の奥底から沸き起こる憤怒を、怒号と共に放出する。

「グギャアアアアアオオオオオォォォォォッ!」

 狭い洞窟の中に、ティガレックスの咆哮(バインドボイス)が轟く。距離が足りず、咆哮(バインドボイス)を受けたクリュウとフィーリアは耳を押さえ、至近にいたサクラは衝撃波で弾き飛ばされる。高級耳栓を備えたシルフィードだけが、急いでティガレックスに向かって斬り掛かる。

 剣を振り上げるようにして構え、剣先を一気に叩きつける。だがティガレックスはそれを払うように彼女を腕で薙ぎ払った。剣を構えていた彼女はガードできず直撃を受け、弾き飛ばされる。そこへ援護するようにクリュウが突撃するが、まるでそれを阻むようにギアノスが立ち塞がった。

「退けぇッ!」

 クリュウはギアノスを斬り伏せようとするが避けられ、そればかりか氷液を吐いて攻撃して来る。氷液は何とか盾で防ぐも、ティガレックスに攻め入れない。苦戦するクリュウを横目にティガレックスにサクラが突貫を仕掛けたのはそんな時だった。

 稲光を迸らせる鬼神斬破刀構えながら突貫するサクラ。ティガレックスは周りのギアノス諸共吹き飛ばそうとその場で一歩身を捩らせる。だがその動き、すでに彼女は見抜いている。

 回転攻撃が来る。そう感づいたサクラはすかさず針路を変える。回転後の方向を計算に入れ、的確な位置に陣取る為だ。目の前で褐色の暴風が渦巻くようにティガレックスが回転する。目の前で沸き起こる旋風に黒髪を揺らしながら、睨みつけるサクラ。ティガレックスの動きが止まると、すかさず突貫する。

 四肢を踏みしめながら振り返るティガレックスの顔面に向かって剣先を翻す。迸る電撃と鮮血。ティガレックスは腕を振るって彼女を追い払おうとするが、それよりも早くサクラは身を翻して距離を取る。そこへフィーリアの通常弾LV3による火力支援が入る。命中した弾丸は跳躍して命中箇所の角度によって様々な方向へと飛ぶ。中にはまた新たな箇所に命中する弾も。これが跳弾だ。

 とにかく残っている弾をかき集めて戦うフィーリア。剣士組の態勢が立て直す時間を稼ぐようにあえて頭部を狙っている為か、ティガレックスは彼女に向かって襲い掛かる。跳び上がり、彼女へと迫るティガレックス。フィーリアはすぐさま反応して後方へ全力で逃れる。結果、ティガレックスは何もない場所へと着地する。

 続けて追撃を掛けようと動くティガレックスに向かって背後からシルフィードが斬り掛かる。右後ろ脚を狙って振り下ろした一撃は容赦なくティガレックスの屈強な脚の筋肉を傷つける。これまでのダメージの蓄積か、それとも長期戦に対する疲労かはわからない。だがその一撃が炸裂した事でバランスを崩したティガレックスはそのまま横倒しに倒れた。

 転倒したティガレックスに対し、シルフィードは少し場所を変えてティガレックスの背中に陣取ると、溜め斬りの構えを取る。その間にクリュウとサクラも合流して斬り掛かり、フィーリアも的確な射撃でティガレックスを攻撃する。

 サクラは気刃斬りで襲い掛かり、クリュウもデスパライズを振るう。あと一回、麻痺状態を起こせれば。そんな淡い期待を抱きながら、彼は剣を振るい続ける。そこへシルフィードの溜め斬りが炸裂した。

 一方でこれまで的確な射撃で後方から攻撃を加えていたフィーリアの表情が苦しげに歪む。今し方撃ったのが、最後の通常弾LV3だった。すでに電撃弾はもちろん、通常弾LV2や貫通弾LV1などは使い切ってしまっている。残る弾丸は徹甲榴弾LV1が五発。とてもじゃないが、火力が足りない。

「ここまでなんて……ッ」

 仲間はまだ必死に戦っているのに、自分はもうこれ以上の援護ができない。悔しさで握り締めた拳が小刻みに震える。その間にティガレックスは起き上がると、シルフィードを狙って突進を仕掛ける。シルフィードは冷静にこれを回避する。

 サクラがティガレックスを追って動くのを見て追従しようとするクリュウだったが、フィーリアの異変に気づいて足を止めると急いで彼女に駆け寄る。

「どうしたのフィーリア?」

 駆け寄って来たクリュウに声を掛けられたフィーリアは申し訳なさそうな表情を浮かべたまま手に持った五発の徹甲榴弾LV1を彼に見せる。彼女の表情とその差し出された弾丸から状況を悟ったクリュウの表情も厳しいものに変わる。

 これまで剣士組が危機的状況に陥った際、フィーリアからの援護射撃でティガレックスはそちらに気を引かれる事で剣士組は態勢を立て直す隙を作る事ができた。ここからは、それがもう使えないのだ。

「罠を使おうにも、もう使えるものが残ってません」

 泣きそうになるフィーリアに対し、クリュウは掛ける言葉が見当たらなかった。ボウガン使いは弾がなければ攻撃手段を失う。しかも今は援護に使える道具(アイテム)も全て消費した後。これでは、攻撃以外での援護も期待できない。

「私、どうすればよろしいでしょうか……」

 弾を失い、自信まで失ってしまったかのようにフィーリアは弱気になっていた。

 どうすればいいか。必死にクリュウは考える。だがいつまでも考えている暇はない。今はたった二人に前線を任せている状況なのだから。

 必死に弾丸を見ながら考えるクリュウ。その時、何かを閃いた。

「フィーリア。これって徹甲榴弾だよね?」

「は、はい」

「そっか……じゃあフィーリア、これで奴の頭を狙って撃ってくれる? できるよね?」

「で、できなくはありませんが、この残弾ではめまいは起こせません」

「いいから。とにかく頭を狙って撃って」

 彼の考えがわからず困惑しながらも、彼からの指示に従う事にしたフィーリア。「任せたよッ」と声を掛けながら前線へと復帰する彼の背中を見送りながら、フィーリアはハートヴァルキリー改に徹甲榴弾LV1を装填(リロード)する。

 彼が何を考えていかはわからない。でも、今の自分にできるのは彼を信じ、彼の期待に応える事だけ。フゥと短く息を吐いて精神を集中させると、銃を構え、スコープを覗き込む。精密射撃となれば、それだけで神経をかなり使う。しかも長期戦を経ている彼女はもう体力も精神力も限界が近い。その中で残っている精神力をかき集めて狙撃するのは、彼女からしてもかなり難易度が高い。でも、

「私ならできるッ」

 自らを鼓舞するように言いながらフィーリアは銃口を動かす。暴れるティガレックスの頭を正確に狙いながら、奴の動きが一瞬止まるのを待つ。常に動き回るティガレックスでも行動の後に一瞬だが動きが止まる。そこを正確に射抜かなければ、狙った箇所に当てるのは難しい。

 仲間の必死の奮闘を見守りながら、フィーリアは静かにその時を待つ。そして、その時が訪れる。

 ちょうどサクラを狙って突進したティガレックスは彼女に避けられ、誰もいない場所で四肢を踏ん張ってその動きを止める。その一瞬止まった隙を狙って、フィーリアは引き金を引いた。

 洞窟内に響く発砲音と共に撃ち出された銃弾は一直線に飛翔し、見事にティガレックスの側頭部に命中する。遅れて中の火薬が起爆し、小さな爆発が生じる。だがティガレックスは何事も無かったかのように背後へと大きく飛び退く。追いかけていたシルフィードは背後を取られて焦るが、そこへフィーリアの第二射が命中し、ティガレックスを仰け反らした。

 空薬莢を排出(イジェクト)し、新たな弾丸を装填(リロード)し、すぐさま狙いを定めようと銃を構えるが、それを阻むようにティガレックスは怒号と共に彼女に向かって突撃して来る。仕方なくフィーリアはティガレックスから逃れるようにし走ってこれを回避。背後を通過したティガレックスの方にただちに向き直るとすぐさま銃を構えて狙いを定める。だがフィーリアからの位置だとティガレックスは背中を向けており、頭を狙う事はできない。すぐさまフィーリアは陣地転換の為に移動するが、同時にティガレックスも背後から襲い掛かったサクラに振り返ると咆哮(バインドボイス)を轟かせる。近すぎたサクラは衝撃波に吹き飛ばされるが受け身をとって大事にはならなかった。

 咆哮(バインドボイス)で一瞬動きを止めたティガレックスの頭を狙って、フィーリアは第三射を放つ。撃ち出された銃弾は一直線にティガレックスに向かうが、運悪くティガレックスは側面から近づいていたクリュウの方へ振り返ってしまい、銃弾はティガレックスの頭のすぐ上を通過。氷壁に命中し、虚しく爆発が起きる。

「もう……ッ」

 一発を外した事に焦るフィーリア。だが焦りは腕を鈍らせる。無理にでも冷静を取り戻さないといけなかった。今度は外さない。そんな決意を胸に再び彼女は銃を構える。スコープを覗きながら狙いを定めるが、クリュウを襲うティガレックスはその場で回転し、回転後も背後を向ける為に頭を狙えない。

 だがティガレックスの背後からシルフィードが斬り掛かると、それに反応してティガレックスは振り返る。そこを狙ってフィーリアは第四射を放った。銃身の中で施条(ライフリング)で回転力を得た銃弾は一直線にティガレックスの側頭部を目指して突っ切る。正確に狙った一撃は見事にティガレックスの側頭部に命中し、爆発が起きる。

「次がラスト……ッ」

 握り締めた最後の徹甲榴弾LV1に全てを込めて、しっかりと装填(リロード)する。最後の一発とだけあって、緊張しながらハートヴァルキリー改を構える。

 スコープを覗き込むと、その先では三人の剣士がティガレックスを包囲するように猛攻撃を仕掛け、動きを押さえてくれている。そんな皆の努力に報いる為にも、この一撃は外せない。

 額に、極寒の中だというのに汗が浮かぶ。ゆっくりと焦りを抑えるように深呼吸すると、吐かれた真っ白な息はゆっくりと冷たい空気の中に溶けていく。

 スコープの向こうで、弱っている事を感じさせない動きでクリュウ達を襲うティガレックス。常に動いていてなかなか狙いづらいが、一瞬動きが止まる瞬間を狙って銃を構え続ける。そして、クリュウ達を弾き飛ばすように回転したティガレックスが一瞬動きを止めた。そこを狙って、フィーリアは引き金を引いた。

 轟く発砲音と共に撃ち出された銃弾は極寒の空気を突き破りながら飛翔し、唸り声を上げるティガレックスの額に命中。起爆の衝撃でティガレックスは悲鳴を上げて仰け反った。

「クリュウ様ッ!」

 仰け反るティガレックスを前に背後からフィーリアの声が響く。クリュウは彼女に背を向けたまま親指を立てて彼女の奮闘を称えると、デスパライズを構えて単身突撃する。頭を振りながら佇むティガレックスに向かってクリュウは突っ込むと、ゆっくりと降りて来たティガレックスの頭に向かって斬り掛かる。一撃を入れ迸る鮮血を物ともせずクリュウは次なる一撃を構える。だがそれは右腕に持った剣ではなかった。拳を握り締め、グッと腕を引いたのは左腕。左手には剣はなく、あるのは腕にしっかりと固定されたこれまでティガレックスの攻撃の数々を防ぎ抜いて来た堅牢な盾。

「喰らえぇッ!」

 叫びながら、クリュウは全力を込めてティガレックスの頭を盾で殴りつけた。頭部を狙った打撃はハンマーなどに比べれば当然弱い。だが、確実に頭部を狙って炸裂した一撃は、これまでフィーリアが積み重ねていたダメージと加わり、その真価を発揮した。

「ギャアッ!?」

 悲鳴を上げてティガレックスは転倒した。フィーリアの徹甲榴弾LV1五発による衝撃とクリュウの盾突きの一撃で脳震盪を起こしたティガレックスはめまいを起こしたのだ。

「やったぁッ!」

 思い通りの展開に喜ぶクリュウ。だが他の三人は彼の行動に驚愕していた。何せ、片手剣の盾で相手を殴りつけるなど聞いた事もないのだ。訓練学校で習う事もなければ、そんな攻撃をしようとする者もいないだろう。片手剣の役目は道具(アイテム)を駆使した機動的戦闘であり、打撃など考慮していない。めまいなどはハンマーや狩猟笛の打撃武器、もしくはフィーリアのようなガンナーの徹甲榴弾など、使える武器は限定される。それをクリュウは、盾での打撃でやってのけたのだ。もちろん、事前にダメージを積み重ねていたフィーリアの協力あってこそだが。

 とにかく、クリュウが作り出した見事な攻撃のチャンス。それを無駄にしない為にもシルフィードとサクラが襲い掛かる。攻撃手段を失ったフィーリアも、まだ残っている回復弾LV2を装填(リロード)して仲間の援護に備える。その回復弾もこれまでの戦闘で消耗し、残り僅かだ。ただその時が来るまでは、彼女にできるのは早く狩猟が終わる事を祈るだけだ。

 倒れたティガレックスに襲いかかる剣士組。クリュウは自分で生み出した隙を使って、さらにもう一撃奇跡を起こそうとしていた。

「あと少し……ッ」

 これまで蓄積していた麻痺毒が効果を発揮するまであと少し。タイミング的にも、きっとこれが最後の麻痺状態にできるチャンスだ。この倒れている間に、どれだけ蓄積でき、そして効果を発揮できるか。とにかく、クリュウは縦横無尽に剣を振り続ける。

 シルフィードはティガレックスの右腕に向かって、サクラは頭部に向かって攻撃している。常に動き回る相手を一方的に攻撃できる隙はほとんどない。このチャンスを活かす為にも、剣を振るい続ける――彼の起こした奇跡に報いる為に。

 だが、奇跡はこれだけで終わらなかった。

 めまい状態が解け、ゆっくりとティガレックスは起き上がる。サクラとシルフィードは危険を感じ取って待避するが、クリュウは構わず剣を振り続けていた。ゆっくりと振り返るティガレックス。目が合った瞬間、一瞬動きが止まったがすぐに気合いで恐怖をねじ伏せる。

「うあああぁぁぁッ!」

 叫びながら、クリュウはデスパライズをティガレックスのこめかみ目掛けて叩きつけた。鮮血と共に麻痺毒が迸り、ティガレックスを染める。そして――

「ガウァッ!?」

 これまで蓄積された麻痺毒が効果を発揮し、起き上がったばかりのティガレックスの動きを封じた。これが本当のラストチャンス。ここで一気に畳みかけなければ、道具(アイテム)のほとんどを失っている自分達は勝つ事はできない。この数秒が、勝負だった。

 剣士組はクリュウがさらに生みだし、延長された拘束時間を利用してさらなる攻撃を積み重ねる。シルフィードの強烈無比な一撃と、サクラの神速の剣撃、そしてクリュウの縦横無尽に振るわれる剣。三本の刃がティガレックスの体を切り裂き、血を迸らせる。

 もはや褐色の体表の上にベットリと自らの血で真っ赤に染まったティガレックスは麻痺状態でも唸り声を上げて辺りを威嚇する。自らの命が尽きかけている事を知っているからこそ、許せない――こんな矮小な生物に負けるなど、許せるはずもなかった。

「ゴアアアアアアァァァァァオオオオオォォォォォッ!!!!!」

 麻痺状態から脱したティガレックスは一際大きな怒号を轟かす。その衝撃波で三人は吹き飛ばされ、それぞれ雪壁に背中から叩きつけられ、激しく咳き込む。すぐさまフィーリアが回復弾LV2で援護を行う。

 一瞬で三人を吹き飛ばしたティガレックスは、ゆっくりと振り返る。全身を真っ赤に染め、怒り狂う瞳はもはや理性を完全に失い、血走っている。口からは呼吸するたびに真っ白な息と真っ赤な血が溢れる。涎と血が混じった真っ赤な粘液を垂らしながら、轟竜は怒りに任せて咆哮(バインドボイス)する。

 回復弾LV2を撃ちながら、フィーリアは剣士組の態勢を立て直す時間を作ろうとする。地面に転がっている石ころを手に掴むと、それをティガレックスに向かって投げつけた。銃弾を失っているフィーリアにできる抵抗は、これくらいしかない。

 投げられた石ころはゴツッという鈍い音と共にティガレックスの頭部に当たる。振り返ったティガレックスはフィーリアを血走った眼光で睨みつけると、怒号と共に突撃する。

 引きつける事には成功した。だが怒り状態となったティガレックスは尋常ならざる速度で突撃して来る。ただでさえ狭い巣の中では逃げる方向も限られる。慌てて回避するが間に合わず、振るわれた腕に掠ったフィーリアの体は呆気なく吹き飛ばされ背中から地面に叩きつけられた。

「かは……ッ」

 肺の中の空気と一緒にわずかに血が吐き出される。痛みのあまり動けずにいるフィーリアに慌ててクリュウが駆け寄ろうとするが、そこへティガレックスの投げた雪玉が飛来。フィーリアしか見ていなかったクリュウは回避が遅れ、横から雪玉の直撃を受けて倒れてしまう。

「クリュウッ! フィーリアッ!」

 シルフィードはすぐさまティガレックスを止めようと斬り掛かる。だが、

「ガアアアァァァッ!」

 ティガレックスは迫るシルフィードに向かって大きく跳躍し、襲い掛かる。突然上から覆い被さるように襲い来るティガレックスに対し、シルフィードは慌ててガードの構えを取るが、巨体の体当たりを受けて大きく後退を余儀なくされる。耐え抜いた手足が痺れる程の一撃に顔を歪めるシルフィード。そこへティガレックスは容赦なく割れた鋭い爪を備えた腕で殴りつけた。手足が痺れていたシルフィードはこの一撃をガードできずに薙ぎ倒され、雪の中に倒れてしまう。

 三人とも何とか無事のようだが、かなりのダメージを負っていた。今さらなる一撃を受ければ、さすがに危険だ。慌てて起き上がろうにもダメージが大きく、なかなか体が言うことを聞かない。その間に振り返ったティガレックスはクリュウを狙って動く。

 遠くにいるティガレックスだが、怒り状態の奴ならこんな距離一瞬で詰める事ができるだろう。不気味なくらいに血走った眼光で睨まれたクリュウは恐怖で身を震わせた。

「ヤバイ……ッ」

 これはさすがに危険だと思ったが、体が思うように動かないのではどうする事もできない。せめて、盾で直撃を避けようとするが、どれだけ役立つかわからなかった。

 ティガレックスが雪上を駆ける為に一歩動いた瞬間、そのこめかみに石ころが命中した。そんな一撃ティガレックスからすれば全く効果がない。だが、意識をそちらに向けるだけには十分だった。

 振り返ったティガレックスと相対するのは、一人の少女。全身を赤い異国の鎧を纏った、長く艶やかな黒髪を優雅に流し、黒い眼帯で左目を隠した東方娘――サクラ。

「……」

 サクラは無言で、左目に掛けられた眼帯を外す。現れたのは幼い頃、轟竜ティガレックスに襲われた際にできた傷。人形のように美しい顔に負った傷跡。左目の視力を失い、そして両親と家族を失った。

 彼女の人生において、最悪の出来事。その原因が、目の前に佇むティガレックスだ。

 奴に全てを奪われてから彼女は、自分のような犠牲者を作らない為にハンターを目指し、ひたすらに実力を磨いていった。そのうち、護衛依頼に関しては絶大な信頼を得るようになり、いつの間にか護衛の女神とも称され、隻眼の人形姫という二つ名を得た。

 そして、愛する彼と再会を果たし、今は心から信頼できる仲間とチームを結成し、因縁の宿敵である轟竜ティガレックスとの戦に身を投じている。

 ゆっくりと背の鞘から引き抜いた鬼神斬破刀は、最後の力を振り絞るように激しい雷撃を迸らせ、薄暗い巣の中を神々しく照らす。

 先程吹き飛ばされた際に頭を撃ったのなか、頬を血の筋が流れる。口の中を切ったせいで広がる鉄の味をプッと吐き出し、神雷を纏う鬼神斬破刀を構える。その瞬間、一際大きな雷鳴と共に辺りの雪を溢れ出る雷が吹き飛ばし、一瞬で蒸発させる。全身に雷を纏う戦姫は、ティガレックスを静かに睨みつける。

「……掛かってこい。これで終わりにしてやる」

「ゴアアアァァァッ!」

 怒号と共にティガレックスは雪上を駆ける。血溜まりの軌跡を残しながら、雪塵を纏い、尋常ならざる速度で突撃する。その速度はこれまでで最速と言ってもいいだろう。やっと起き上がった三人は慌てて追いかけるが、とてもじゃないが追いつけない。

「サクラッ!」

 クリュウはサクラの名前を必死になって叫ぶが、彼女は避ける事もせず、正面から突っ込んで来るティガレックスに鬼神斬破刀を構えたまま動かない。隻眼は愛刀のように鋭く細まり、青白い稲光に晒されたその表情は真剣で勇ましく、凛としている。精神を集中させている、彼女の本気の顔だ。

「……貴様は強い。敵ながら良く戦ったと誉めてやる」

 迫り来る轟竜。血を吐きながら唸り声を轟かせ、雪上を狂気の轟速で突っ込んでくるティガレックスに対し、サクラは勇ましく相対する。瞳の中の黒い宝石に、キラリとティガレックスの姿が写る。

「……だが今回は、私達の勝ちだ」

 ――刹那、サクラは目にも留まらぬ疾さで鬼神斬破刀を振り抜いた。一瞬で迸る雷撃はまさに神鳴。迸る青白い稲光はまるで閃光玉が炸裂したかのように辺りを真っ白に染める。すさまじい光量にクリュウは思わず目を閉じた。そして、光が消え、ゆっくりと瞳を開くと……

「……ガアアァァ」

 両腕を突き、胴を持ち上げて天高く最後の咆哮(バインドボイス)を轟かせるティガレックス。だがその声はもはや山を震わせる力もなく、細く、弱々しい。そして、肺の中の全ての空気を吐き出すように絞り出された声が消えると、ゆっくりとティガレックスの巨体が倒れる。

 ズシン……という重々しい音と共に雪上に倒れたティガレックス。血走っていた瞳からは光と生気が失われ、そしてもう二度とその凶悪な四肢が動く事はなかった……

 

 拠点(ベースキャンプ)に戻る頃にはすっかり闇が濃くなってしまっていた。

 昨日の夜のうちに山に入った為、今晩はこのまま拠点(ベースキャンプ)で一夜を過ごす事にした四人。夜の山を動き回るのが危険というのもあるが、激戦を戦い抜いた四人の疲労は相当なものだったからとも言える。

 拠点(ベースキャンプ)に着いた途端、クリュウは疲れ切ったようにその場に腰を落とした。シルフィードとサクラも同様に座り込み、足を投げ出している。ただそんな中でもフィーリアだけは健気に竜車の中からタオルを取り出して三人に手渡すと、手際良くコーヒーやお茶を作る為のお湯を沸かす為にたき火の用意を行うなど、ちょこちょこと動き回る。クリュウが手伝おうとするが、フィーリアは「休んでてください」と笑顔で言ってそんな彼の申し出を断る。仕方なくクリュウは腰を落としたまま汗をタオルで拭う。

 そのうちフィーリアがシルフィードにブラックコーヒー、サクラには緑茶、クリュウにはカフェオレ、自らは紅茶を用意して戻って来る。それぞれが温かい飲み物を口に含み、喉の奥に流し込むとようやく一息ついた。

「勝てたね……」

 一息ついたクリュウは真っ白な息と共にそんな言葉を漏らした。彼の思わず零れた言葉にサクラが短く「……そうね」と答えながら静かに緑茶を飲む。

「いや、なかなか難儀な戦いたっだな」

 笑いながら言うシルフィードだが、その言葉はどこか重い。正直、これまで様々なモンスターをこの四人で狩猟して来たが、これほどの激戦は無かっただろう。ディアブロスを相手にしている時も大変だったが、今回は全くの未知の相手という事もあって事前情報が無く、さらにティガレックス自体の強さも尋常ではなかったので、その大変さは歴代トップと言える。

「ほんと、疲れました。ヘトヘトですぅ……」

 そう言いながら苦笑を浮かべ、紅茶を飲むフィーリア。チームメンバーでは最も体力がない上にガンナーは剣士と違って防具に弾を装填したガンベルトなどを装着する関係でどうしても防具の装甲が薄くなる。同じ素材を使った防具でも、剣士で耐えられる一撃がガンナーのそれは耐えられない事も多い。しかも今回は相手が尋常ならざるパワーとスピードを持った相手という事もあり、どうしても回避に重点を置いた動きになる。結果、動く量も増えるので体力が低い彼女はかなり厳しかっただろう。実際、後半戦では前半戦に比べて明らかに動きが鈍っていた。それでも、彼女の的確な後方火力支援あってこそ、自分達はティガレックスに勝利できたのだ。

「私もさすがに疲れたぞ。これは帰ったらしばらく寝て過ごしそうだ」

 そう言いながらシルフィードは苦笑を浮かべる。前衛役に加えて仲間の隙を作る為にティガレックスと肉薄する事も多かった彼女の疲労も相当なものだろう。大剣との相性もあって、いつも以上に被弾していたのも大きい。

「だね。僕もしばらく動きたくないかなぁ」

 同じく苦笑を浮かべるクリュウも今回相当活躍した一人だ。機動力に長けるティガレックス相手の関係上、機動力に優れた片手剣は今回十分主力として力を発揮し、デスパライズの麻痺毒も見事にティガレックスを幾度となく拘束する事に成功している。何より、今回の彼は盾を駆使して幾度となく仲間をティガレックスの雪玉から守ったりとその功績は大きい。昔と違って、十分チームの立派なメンバーとして成長している証拠だ。

「……ならクリュウ。私と一緒にずっと寝ていましょう」

 そう言ってほんのりと頬を赤らめながら彼にしなだれかかるのは、今回のティガレックス戦において最も活躍。更に自らの因縁と決着をつけたサクラ。クリュウ同様、チーム随一の機動力を誇る彼女も今回の狩猟ではその自慢の身体能力を駆使して奮闘した。彼女の常軌を逸した機動力はこれまでも何度も脱帽して来たが、今回は特にそれが発揮されたと言えるだろう。当然、その活躍に比例するように疲れているのも事実だ。だが、

「そんなの絶対に認めませんッ!」

 ヘトヘトだと言っておきながら、すかさずサクラの発言に噛みつくフィーリア。すぐさまサクラの反対側に陣取ってクリュウの右腕にしがみついて威嚇する。だが当然サクラはそんなのどこ吹く風。気にした様子もなく、まるで彼女を無視するようにクリュウに甘えるサクラ。

 二人の美少女に挟まれながら照れ笑いを浮かべるクリュウ。ふと正面に座るシルフィードに視線を向けると、彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。

 激戦を繰り広げた狩人達も、拠点(ベースキャンプ)に戻ってしまえばいつもの調子に戻る。今まで生きた心地がしないような戦いの連続だったので、ようやく一息つけたという具合だろう。

「だがしばらくは落ち着けないぞ。何せギルドも情報をあまり把握していないモンスターを討伐したのだからな。ギルドに呼び出される事も考慮しておかないといけない」

 ハンターズギルドは常にモンスターの情報を求めている。それがまだ未知と断定されるようなモンスターならば尚更だ。シルフィードの言葉に、前途多難で思わず三人はため息を零した。そんな彼らの反応を見てシルフィードは苦笑を浮かべる。

「まぁ、捕獲していれば受け渡しの作業も加わって余計に面倒だったんだ。サクラのわがままに付き合ったのが、結果オーライだったな」

「……わがままで悪かったわね」

 シルフィードの意地悪な言い方に、サクラは唇を尖らせて拗ねてみせる。そんな彼女の可愛らしい姿に笑みを浮かべながら、シルフィードは静かにコーヒーを飲む。

「サクラの中で、決着はついたか?」

 コーヒーを飲みながら尋ねる彼女の問いかけに、サクラはゆっくりとうなずいた。

「……えぇ。もう、大丈夫よ」

「そうか……」

 彼女の返答にシルフィードは安心したように微笑む。そんな彼女の笑顔を前にサクラは少し恥ずかしいのか頬を赤らめながらそっぽを向く。二人のそんな姿を見て、クリュウとフィーリアもまた嬉しそうに微笑んだ。

「それでは明日に備えて今日はゆっくり休みましょう」

「そうだな。さすがの私も疲れたぞ」

 フィーリアの提案にうなずき、うーんと腕をシルフィードが伸ばしていると、こっそりとサクラがクリュウに近寄る。

「……クリュウ、一緒に寝よう?」

「いや、ちゃんと人数分の寝具は用意してあるでしょ?」

「……クリュウと寝たい」

「無茶言わないでよ」

 困るクリュウを見て喜んでいるのか、サクラは口元に笑みを浮かべてどこか楽しそう。すると、そんな二人の間に当然のようにフィーリアが割り込み、サクラと言い合いになる。あたふたとするクリュウを、今度は背後からシルフィードが抱きつき、

「なぁクリュウ。寝る前に星空でも見に行かないか? 今日は流れ星が多くてきれいだぞ」

「う、うん。それはいいけど、あの、抱きつかないでくれるかな」

 頬を赤らめながら困る彼が実にいじらしいのだろう。シルフィードは楽しそうに彼をからかう。するとそこへ喧嘩していた二人が抗議に現れ、結局四人で星空を見る事に。全くもって変わらない、四人の日常。

 星空を観る為、四人は再びエリア1へと移動し、そこに静かに腰掛けて星空を見上げる。シルフィードの言った通り、今日は流れ星が多く空は神秘的に煌めいていた。どこに隠れていたのか、雷光虫までも空で踊り、辺りは神秘的な光に包まれた。

 キラキラと輝く空を、同じくキラキラとした瞳で見上げるフィーリア。そんな彼女の隣で腰にこっそり流れ星に何かのお願いをしているシルフィード。

 そして、そんな二人の少し後ろで並んで星空を見上げるクリュウとサクラ。きれいな空を大喜びで見上げるクリュウの横顔は希望に満ちあふれた少年そのもの。サクラからすれば、星の輝きなんかよりも彼のそんな横顔の方がずっと輝いて見えていた。

 そんな彼の輝きを、ずっと隣で見守っていたい。それが、彼女の願いだった。

 そっと彼の手を握り締めると、彼も優しく自分の手を握り返してくれる。すぐ傍に、愛する彼がいる。何気ない幸せなのに、彼女にとっては最高の幸せな時間だった。

「……クリュウ、愛してるわ。心の底から、あなたの事を」

 隣に立つ彼には聞こえないような、そんな小さな声で、彼女は流れ星に向かって自らの想いを伝える。いつか彼が自分に振り向いてくれる、そう信じて。

 星空に、また一つ星が流れていった……


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