モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第17話 青爪の襲撃者

 森の中を進む竜車に揺られながら、クリュウは眠そうに目を擦る。

「眠いのですか?」

 隣でアプトノスの手綱を引いているフィーリアが笑顔で訊いてきた。アプトノスの扱いが素人のクリュウに対し、フィーリアはまるで自分の身体のようにアプトノスを巧みに動かす。やはり踏んで来た場数が違うのだ。

 そんな彼女は村にいる時の私服ではなく、深緑の防具――レイアシリーズを着こなしている。耳には炎のように赤く煌くレッドピアス、背中には防具と同じ深緑のライトボウガン――ヴァルキリーファイアが背負われている。

 もちろんクリュウも防具を着ており、今回が初陣となるランポスシリーズだ。腰に挿したハンターナイフ改は砥石を使ってすでに切れ味は全開だ。

「うん、まあね」

 そう答えると、クリュウは眠そうにあくびをする。穏やかな竜車の揺れが心地良い眠りの世界に自分を引き寄せる。そんなクリュウに、フィーリアはくすくすと微笑む。

「まだあと半日あるんですから、ごゆっくりしていてください」

「えぇ? まだそんなにぃ?」

 昨日の午後にイージス村を出てもう十数時間。手綱はフィーリアに任せ、クリュウはする事もなく外の景色を眺めていた。

 この竜車はどうやらクリュウ達の為に村長が用意してくれていたらしく、所有者はクリュウになっている。ありがたくいただき、フィーリアは早速竜車を引くつい最近成体になったばかりの小柄でクリッとした瞳が印象のうら若きかわいいアプトノスに《シルキー》というかわいい名前を付けた。

 人懐っこいシルキーはすぐに二人にも懐き、フィーリアの手綱さばきに忠実に従っている。

 ここまで来る間に夜こそは寝る為に竜車を止めたが、朝早くすぐに再び出発した。

 ちなみにクリュウは向かい合うようにして寝るフィーリアを変に意識してしまい、そのせいで睡眠不足だったりする。それがこの眠さの根本的な原因だ。

「はい。リフェル森丘はあの山の向こうですので」

 そう言って指差した先には、確かに岩肌がむき出しになり所々に木々が生えている高い山がある。どうやらあの向こうが丘陵地帯らしい。

「リフェル森丘は遠いなぁ」

「そんな事ありませんよ。狩り場の中には竜車に揺られて二日や三日って狩り場なんて無数にあります。ひどい時には一週間以上掛ける場合もありますし」

「一週間も!? 僕にはそれは無理だぁ」

「確かに、私も一週間はちょっと遠慮したいですね」

 苦笑いするフィーリア。どうやら彼女はそれくらいの遠征を経験したらしい。経験者の言う事は信用性がある。

 クリュウはそんなフィーリアを一瞥し、ぼーっとシルキーの走りを見詰める。そんなクリュウに、フィーリアはくすりと笑う。

(私も、竜車が退屈で仕方がなかった時があったなぁ……)

 自分がまだかけだしだった頃の記憶と、今のクリュウが重なり、懐かしそうに微笑む。自分にもこんな頃があったのだ。

「退屈ですか?」

「うん」

「では、軽くドスランポスの生態を教えますね」

「え? あ、うん」

 どうやらクリュウは少し興味を持ったらしく、真剣な瞳でフィーリアを見詰める。相当退屈だったのだろう。そんなクリュウに優しく微笑み、フィーリアは口を開く。

「ドスランポスの行動パターンは基本的にランポスと大きな違いはありません。ただし全ての面において強力です。その大きな爪の一撃はヘタな鉄を切り裂き、鋭い牙は骨を砕きます」

「十分怖いんだけど」

 クリュウにとってのドスランポスの第一印象はあの時の奇襲だ。死ぬ思いまでしたので十分怖いのに、フィーリアの説明は嫌がらせにしか聞こえないほどドスランポスの怖さに拍車を掛ける。

「そうですね。しかし攻撃パターンはランポスと変わりません。ですので常に相手の背後や左右から攻撃していれば恐れる相手ではありません。ですが前はダメです。ドスランポスの武器は全て前に向いているので攻撃を喰らってしまいます。ドスランポスの厄介な所は常に手下のランポスを連れている事です。相手が一匹だと思って近づくと仲間を呼びます。ですのでまずはまわりのランポスを排除してください。その際は私がドスランポスの注意を逸らします。次に、ドスランポスは大ダメージを受けると逃げ出します。ドスランポスなどのドスクラス鳥竜種は走り回る事で自己回復力を上げるという特徴を持ち、急激に体力を回復します。ですのでできれば逃げ出す前になんとしても倒してください。見失ったりすれば、再び会敵した時に手下を先程与えたダメージを回復した上に手下のランポスを編制し直しているような状態ですので」

「ずいぶんと厄介だなぁ。もし見失ったりでもしたら大変だ」

「ドスランポスはテリトリーを決まった順番で回ります。本来なら十分下見してそのルートを見極めてそれを逆手に取るのが良策ですが、今回は急な事ですのでそれはできません。とにかく見失わない事です。確かにドスランポスはかけだしハンターには手強い敵ですが、クリュウ様なら必ず勝利できますよ。私はそう信じてますから」

 そう言って満面な笑みを浮かべるフィーリアに、クリュウは苦笑いする。一体どこからそんな根拠のない自信が出てくるのだろうかわからないが、どうやら彼女は心から自分を信頼してくれているらしい。ならば、その期待には応えなければならないだろう。

「とにかく、厄介な敵には変わりありません。十分心して掛かってください」

「うん」

 クリュウはフィーリアの忠告にちょっと緩んでいた気を引き締め直す。

 それからクリュウはフィーリアに色々な事を質問して教わる事になった。おかげで退屈する事はなかった。そしてそれは実はフィーリアも同じ事であった。

 

 リフェル森丘はなだらかな丘陵地帯に位置し、草食竜アプトノスが生息している。アプトノスは穏やかな性格で向こうから攻撃してくる事はほとんどない。だがその肉は人々の生活に必要不可欠な栄養源であり、狩場ではハンターが腹を満たす為に狩る場合もある。動きは遅いが力は結構強いアプトノスは人に懐きやすいので飼育されて人々の生活の力なったりする事も多い。特に商人などは商隊を率いる際にアプトノスを移動手段として使っている。そんな人々と密接に関わっているモンスター、それがアプトノスだ。

 他にもリフェル森丘にはランポスが生存し、モスやブルファンゴも生息している。特にブルファンゴ同じ野生のイノシシであるモスと違って気性が荒く好戦的で、しかもその威力は強力で、その威力に牙が加わった一撃はヘタな装備なら破壊できるほどに強い。だが攻撃が全て一直線なので冷静にしていれば避けやすく隙も多いので倒せる。後は警戒するとしたら人間の子供くらいの大きさに異常進化したランゴスタという巨大な昆虫くらいだろう。

 そんなのどかなリフェル森丘には今現在ドスランポスがいるのだ。

 吹き抜けの穴を潜った向こうの池の近くにリフェル森丘の拠点(ベースキャンプ)は存在する。高い木々が天を多い、狭い場所なのでモンスターは入って来られない。

 クリュウとフィーリアは拠点(ベースキャンプ)に竜車を横付けする。

「ふぅ、やっと着いたぁ」

 クリュウは竜車を降りるなりうーんと背伸びをする。そんな彼の横ではフィーリアが備え付けの共用アイテムボックスを確認する。

「やはり緊急依頼は分が悪いですね」

「え? 何が?」

「アイテムが必要最低限な物しか入ってません。普通なら補助アイテムも入っているんですが……」

 どうやら支給品が必要最低限なものしか揃っていないらしい。緊急依頼はこういう事があるので困る。

「まあ、依頼者が村長だもの。支給品が出ただけでもありがたく思わなきゃ」

 クリュウの前向きな言葉に、フィーリアも微笑む。

「そうですね。その為に万全の用意をしてきたんですから」

 そう言うと、フィーリア支給品の半分をクリュウに渡し、馬車の中から次々にアイテムを取り出す。回復薬から始まり、布に包まれたこんがり肉、砥石、ペイントボール、閃光玉などだ。それらを自分の分だけ道具袋(ポーチ)に入れ、残りはクリュウに渡す。クリュウもそれを道具袋(ポーチ)に入れる。特に砥石は剣士用の道具なので全てクリュウがもらった。

 クリュウが全てのアイテムを入れ終えると、フィーリアは大量の銃弾を腰や太股に備え付けられたガンベルトに装填する。特に使うであろう通常弾は特にガンベルトに装填しておき、残る別種類の銃弾は専用の袋の中に入れ、ベルトのフックに引っ掛けて携帯する。

「弾は十分持って来てありますので、今回の戦闘の最中に弾切れになる事はありませんのでご安心を」

「わかった。まぁ、弾がなくなったら調合するって手もありだけどね」

 ボウガンが使う弾は全て調合可能。それこそ狩場で採取できる素材と素材を組み合わせて作る事も可能なのだ。だが、どうやら今回はその心配はないらしい。

 フィーリアは最後に馬車から直径五〇センチほどの円盤状の金属を取り出した。

「何それ?」

 今まで見た事のないアイテムにクリュウが首を傾げると、フィーリアは小さく微笑みながら丁寧に説明してくれた。

「これはシビレ罠というトラップアイテムです。地面に置いて安全装置であるこのピンを抜くと、中から麻痺効果を持つ特殊な電撃が発生し、これを踏んだ一定以上の大きさのモンスターを一時的に麻痺状態にできます。この隙に一斉攻撃すれば、大ダメージを与えられます」

「へぇ、そんなアイテムまであるんだ」

「はい。これは対飛竜戦でも使われる重要な道具ですので、クリュウ様もいずれ使う事になるでしょう」

「ドスランポスならともかく、こんな小さな道具で飛竜を足止めできるの?」

「はい。飛竜によっては効かないものもいますが、基本的にどの飛竜にも有効です」

 フィーリアはそう言いながらシビレ罠を腰のベルトのフックに引っ掛ける。一見しただけでは重そうだが、実は軽いのだろうか?

「重くない? それ」

 クリュウが不思議そうに問うと、フィーリアは笑顔で答える。

「軽いという訳ではありませんがそれほど重くはないですよ。でもこういうのに慣れていないと後々大変です。クリュウ様が持ちますか?」

「え? 僕が?」

 途端にクリュウから笑顔が消える。

 何せ今回はクリュウにとって初めての大型モンスターの狩猟である。そんな時に重いものを背負っていては本来の実力の半分も出せないだろう。しかも片手剣は機動力が何よりも重要な武器でもある。

 一人困るクリュウに、フィーリアはくすくすと笑う。どうやらからかわれたらしい。

「ひどいよぉ。笑う事ないでしょぉ?」

「すみません。今回は私が持ちますが、こういったアイテムには事前に慣れておきましょう。時にはあの荷車も使う事になるんですから」

 そう言ってフィーリアは竜車に備え付けられていた荷車を指差す。結構大きめな荷車で、人二人くらい寝かせてもお釣りが返って来そうなほど大きい。

「あの荷車も使うの?」

「爆弾なんかを持ち歩く時に使います。飛竜種には爆弾はかなり有効です。強固な鱗や甲殻をも吹き飛ばせますからね。しかし爆弾は重く危険です。ですので荷車で運び、戦闘の際は邪魔にならない場所に置いて戦うんです。爆弾を持ったままで戦うなんてそれこそ危険極まりないですからね」

 なるほど。やっぱり狩りは奥が深い。改めてハンターというのは色々な事を知ってなければいけないんだと自覚する。

 フィーリアは全ての用意を終えると、にっこりと微笑む。

「では、行きましょうか」

「え? あ、うん」

 先導するように歩き出したフィーリアの後に続いて、クリュウも歩き出す。

 拠点(ベースキャンプ)から外で出るには、ぽっかりと空いた空洞を抜けないといけない。言い方を変えれば、そこから一歩出れば、もう狩り場なのだ。

 トンネルを抜けるとそこは川沿いのなだらかな場所だった。小さな野原があり、アプトノス達がのん気に草を食べている。

 フィーリアは支給品にあった狩り場全体の地図を取り出して見詰める。

「どうやらここは凶暴なモンスターはほとんど出没しない場所のようですね。先を急ぎましょう」

「わかった」

 二人は隠れたりする事もなく堂々と野原を横切る。アプトノス達は一瞬二人を見たが、すぐに気にした様子もなく草を食む。なんとも大人しいモンスターだ。

 二人はのどかな野原を抜け、坂道を登っていく。ここから先は山頂付近に向かってなだらかな坂が続く。密林と違い、深い緑色の木々が生い茂るという事はなく、のどかな草原が続く。視界は良いが、逆にこちらも隠れられる場所がほとんどない。

 しばし歩くと、急にフィーリアが歩みを止めた。

「どうしたの?」

 声を出したクリュウにフィーリアは人差し指を自分の口に当てる。声を出すなという事なのだろう。

 クリュウが黙ると、フィーリアはそっと岩陰から先を覗く。クリュウもそれに続いて覗くと、そこにはランポスが三匹ほど居座っていた。すると、高い岩壁の向こうからまたランポスが飛び降りて来た。その数三匹。すると先程までいたランポスが山頂に向かって走り出し、新たに来たランポスはその平らな野原を見回す。見張りの交代だったのだろうか。

「ここはランポス達の中継地点になっているらしいですね」

 フィーリアが小声でつぶやいた。ふと、クリュウは横を見る。少し先まで野原が続いているのに、その先には急にそれが寸断されている。その向こうは地面がない険しい崖。遠くには高い山が見える。ここまでずいぶん上って来たらしい。崖の上からの景色は目が回るほど高いだろう。そう思うと、吹き飛ばされた時に向こうに落ちれば命はないという恐怖が込み上げる。だが、今いるのはランポスだけ。その心配はたぶんないだろう。

 いつまでも動かないフィーリアに、クリュウは不思議そうに首を傾げる。

「行かないの? 相手はランポスだよ?」

 クリュウが問うと、フィーリアは首を横に振る。

「今回の相手はランポスのボスであるドスランポスです。ランポス達の敵襲の鳴き声を聞いてやって来られたら困ります」

「何で? 向こうから来てくれれば探す手間が掛からないでしょ?」

 クリュウは不思議そうに問う。確かに今回の目的はドスランポスの討伐。ならば向こうから来てくれるなら万々歳なはずだが。だが、フィーリアは首を横に振る。

「先程も言いましたが、ここはランポス達の中継地点になっています。ドスランポスの声に無数のランポスがやって来てしまいます。そうなればこちらが圧倒的に不利です」

 フィーリアの説明に、クリュウは納得した。

 狩りは常にこちらが有利に事を進めるのが常識だ。何も敵のホームグラウンドで無理して戦う必要はないのだ。

「でもどうするのさ。これじゃ動けないよ?」

「任せてください」

 そう言ってフィーリアは背中のヴァルキリーファイアを構える。すぐに腰に下げた弾丸袋から貫通弾LV1を三発取り出すと弾倉に装填し、わずかに岩陰から歩み出て可変倍率スコープを覗きながら正確に狙いを定める。そして、

 バンバンバンッ!

 装填された全弾を撃ち放った。それらの弾は全て見事に一番手前にいたランポスの体を貫く。悲鳴を上げるランポスにフィーリアはすぐさま再装填して撃つ。今度は一発でランポスは倒れた。

「ギャアッ!?」

 突如倒れた同胞にランポス達は驚く。慌ててその亡骸に近づき辺りを警戒する。この時にはすでにフィーリアは岩陰に隠れているので、ランポス達からは見えない。そして、ランポス二匹が別の方向を見た瞬間、先程と同じ要領で岩陰から出て狙い撃つ。もう一匹のランポスが無数の弾を受けて倒れる。残った一匹は何がなんだかわからず辺りをグルグルと見回す。すると、フィーリアは地面に落ちていた小石を自分達の反対側へと投げた。石が地面に落ち、響いた音にランポスの顔がそちらに向く。その瞬間、再三フィーリアは弾倉の中の弾を全部撃ち出した。無数の弾に体を撃ち抜かれてランポスは吹き飛び、そのまま崖下に消えた。

 一分も掛からずフィーリアは三匹をランポスを葬ってしまった。それも、こちらの存在を発見させずに。

「ふぅ、これで安心して通れます」

 そう言ってフィーリアはヴァルキリーファイアを背中に戻すと、岩陰から出る。その後に続いてクリュウも出ると、慌てて倒れているランポスに駆け寄って剥ぎ取る。

「クリュウ様。もうランポスの素材は必要ないじゃないですか」

 辺りを警戒しながら困ったように言うフィーリアに、必要なものだけ剥ぎ取り終えたクリュウは首を横に振る。

「倒した相手への最大の礼として、剥ぎ取るんだよ。僕らはただの殺戮者(さつりくしゃ)じゃない。ハンターだからね」

「そのお気持ちは立派ですが、時と場所を考えてください。早くしないと新たなランポス達が来てしまいます」

 フィーリアの口調はいつになく厳しい。そんな彼女らしくない言葉にクリュウは驚く。こんな冷たいフィーリアは初めて見た。

「う、うん」

 フィーリアはクリュウの返事も聞かずに走り出した。一気にここを通り抜けるらしい。クリュウも慌ててその後を追う。先を走る彼女の背中からはピリピリとした緊張感が流れている。そんなフィーリアに、クリュウは不安そうな表情になる。

 きっと自分の流儀を貫いたクリュウに嫌悪感を抱いているのだろう。彼女は幾多の戦場を翔け抜けて来た歴戦のハンター。自分のした行為が彼女からすればどれほど危険で愚かしい事だったのかはわからないが、きっとさっきの行為に怒っているのだろう。チームを組んでいる以上、相手の事も考えないといけない。そんな基本的な事も、自分は忘れていたのだ。

 情けなくて、言葉も出ない。

 無言で彼女を後を追ってその野原を後にする。その先は幅が五メートルほどの細い道が続く。一方は岩壁で、もう一方は険しい崖。自然と身体は岩陰の方に近づく。

 二人は無言で道を進む。すると、今度も再び小さな野原が見えた。フィーリアは再び地図を出して場所を確認する。

「ここは、この狩り場の分水嶺(ぶんすいれい)のようですね。ここから山頂、森林地帯へと分岐するみたいです。山頂付近への道は狭いので、モンスターは通れません。ですので、ドスランポスが来るなら森林地帯の方からでしょう」

 フィーリアはそう言うと地図をしまう。ここまでほとんど問題なく進んできた二人。ここまではあまりにも無事だった。だが、それもここまでだった。

「ギャアギャアッ!」

 突然の鳴き声に慌てて振り返ると、岩壁の上からランポスが吼えていた。

「しまったッ!」

 フィーリアは慌てて距離を取ってヴァルキリーファイアを構えて通常弾LV2を撃つ。だが、ランポスはその前に岩壁から飛び降り、弾は先程までランポスがいた場所を空しく過ぎる。

「ギャアッ! ギャアッ!」

 クリュウは慌ててハンターナイフ改を構えるとランポスに斬り掛かる。だが、ランポスはジャンプしてクリュウの上を通り過ぎ、後ろにいたフィーリアに襲い掛かる。

「くぅッ!」

 フィーリアはボウガンでとっさに防御するが、元々防御を想定していないボウガンでは受け止めきれず、ランポスの突進に吹き飛ばされる。

「フィーリアッ!」

 あのフィーリアがランポス程度に一撃を入れられるなんて。理由は簡単だった。自分が不用意に突っ込み、ランポスと彼女の攻撃線を邪魔したからだ。だから彼女は弾を撃てず、ランポスの攻撃に対応し切れなかったのだ。

 自分の不注意が悪い。

 クリュウはギュッと柄を握ってランポスの背中から斬り掛かる。これにはランポスも避け切れず、刃がランポスの青い皮を切り裂き赤い血飛沫(ちしぶき)が上がる。

「ギャアッ!?」

「このッ!」

 もう一撃、一撃と連続して剣を叩き込むとランポスは倒れた。だが、事はそれだけでは終わらなかった。

「クリュウ様!」

 フィーリアは立ち上がるとボウガンを構えてある方向を睨みつける。その視線を追うと、そこには五匹のランポスがこちらに向かって走って来た。いや、違う。その奥にまたランポスが四匹突っ込んで来る。そして、その中の一匹の身体は他とは違いふた回り異常も大きく、赤いトサカが生え、禍々しいオーラを放っている。

「ドスランポスッ!?」

 それはクリュウが以前会った事のあるランポスを統べるボス――ドスランポスだった。

 形勢は完全にこっちが不利に陥っていた。八匹のランポスを従えたドスランポスはすさまじい速度で迫る。その速さは人間よりもずっと速い。今から逃げてももう遅い。

「ギャオワッ! ギャオワッ!」

 ドスランポスが叫び、前衛五匹のランポスが襲い掛かって来る。

 フィーリアはすぐに後方に下がって迫るランポスを目視射撃する。一匹に命中するが、急いで撃ったのでそのほとんどは外れてしまった。これでは決定打にはならない。

 クリュウは迫るランポスに剣を向ける。だが、斬り付ける刃をランポスは横にステップしてその攻撃をかわす。クリュウは勢い良く突っ込んだのですぐには反転できずにたたらを踏んだ。その隙に別のランポスが後ろから襲い掛かる。慌てて盾を向け、鋭利な爪は防げたが、無理な体勢で受け止めたので簡単に吹き飛ばされる。転がったクリュウに向かって、獲物を見つけた喜びなのか、不気味な鳴き声を挙げてドスランポスが突っ込んで来た。

「ギャオワァッ!」

「うわぁッ!」

 ジャンプして自分を踏み潰そうとするドスランポスの一撃をクリュウは慌てて横に転がって回避する。先程まで自分がいた所に寸分の狂いもなくドスランポスの巨体が降り立ち地面を揺らす。

 慌てて立ち上がろうとしたら、またも後ろからランポスの突進を喰らう。つんのめり掛けて、慌てて手を着いて転倒だけは避けると急いで立ち上がり距離を取って後ろに下がる。そこへランポスが突進して来る。クリュウはその一撃を回避し、その一瞬に剣を叩き込む。勢いのついたその一撃でランポスは吹き飛び、動かなくなった。続いて迫るランポスを一撃を盾で防ぎ、反撃の一撃を加える。ランポスは悲鳴を上げて後退した。すると、その奥にいたドスランポスが一際大きな声を上げる。

「ギャオワッ! ギャオワァッ!」

「ギャアッ!」

「えぇッ!?」

 すると、突如後ろからランポスの鳴き声。慌てて盾を向けた瞬間、盾にすさまじい衝撃が走った。見ると、ランポスの顔が目の前にある。獰猛(どうもう)な瞳に恐怖するが、すぐに突き飛ばす。押し戻されたランポスの先には、そいつを含めて新たにランポスが五匹。どうやらドスランポスは援軍を呼んだらしい。

「くそッ!」

 クリュウは挟撃を避ける為に横に走る。崖の手前で方向転換し、新たに現れたランポスの後方に移る。

 戦況が見え、クリュウは歯軋りした。

 援軍がこの五匹だけでなく、フィーリアの方にも三匹現れていた。

 クリュウとフィーリアは真っ二つに分断させられてしまっている。フィーリアはランポス八匹を相手にし、クリュウも同じく八匹。しかもこっちはドスランポスもいる。状況は最悪だった。

 クリュウは閃光玉を使おうと急いで道具袋(ポーチ)に手を伸ばす。が、

「ギャアッ!」

「うわッ!」

 突如後ろから何かに吹き飛ばされた。痛みに耐えて立ち上がると、先程まで自分がいた所に新たに四匹のランポスが高らかに吼えていた。クリュウの顔が青ざめる。

「せ、閃光玉……ッ! な、ないッ!?」

 慌てて探すと、新たに援軍として現れたランポスの足下に転がっていた。どうやらさっきの攻撃で落としてしまったらしい。

「くそぉッ」

 クリュウは剣を構えて四匹のランポスに突進する。一匹を斬り飛ばし、二匹目は叩き斬る。だがどちらも致命傷にはならず、ランポスは後退するだけだ。だがそれで十分。残る二匹は無視し、地面に落ちている閃光玉を拾い上げる事に成功。すぐさまピンを抜いて投げつける。

 とにかく無茶苦茶に投げた閃光玉だったが見事に炸裂し、一瞬にして十二匹のランポスの動きを封じる。

「今だッ!」

 クリュウはすぐに先程一撃を入れたランポス二匹に斬り掛かって倒し、先程無視した残る二匹も葬る。次に反転して残りの八匹に突貫する。が、

「ギャオワッ!」

「があッ!」

 突如横からドスランポスが体当たりしてきた。あまりにも突然だったので、防御も受身も取れず、クリュウは無様に地面に倒れた。

「な、何で……ッ!?」

 なぜドスランポスには閃光玉が効いていないのだろうか。答えは簡単。ランポス達の陰にいたおかげで、閃光玉の光を受けなかったのだ。何という悪運の強さだろうか。

 ドスランポスは地面に倒れる哀れな人間に近づき、その大きな脚を振り下ろす。

「あぐッ!」

 金属が軋む嫌な音と、すさまじい衝撃がクリュウを襲う。ギリギリと防具とドスランポスの爪が擦れる嫌な音が聞こえる。もしチェーン装備だったら、今頃斬り殺されているだろう。

 何とか体を起こそうとするが、ドスランポスの重みがクリュウを押さえつける。

 ドスランポスは「ギャオワッ!」と叫ぶと、ガバッと口を開く。真っ赤な口からは嫌な腐敗臭が漂い、クリュウを真っ青になる。

 周りからは閃光玉の効き目が切れたランポスが遠巻きに見詰めている。

 食事の時間だった。

「ギャオォワッ!」

 ドスランポスはクリュウに噛み付こうとする。が、その一瞬の隙に、クリュウは道具袋(ポーチ)から閃光玉を取り出し、口でピンを抜いてドスランポスの口に突っ込んだ。

 腕にドスランポスの鋭利な牙が食い込み、激痛が走る。が、次の瞬間閃光玉が炸裂し、ドスランポスはその衝撃に後退る。その隙にクリュウは転がって離れる。が、閃光玉を至近距離で炸裂させたので、いくら目を閉じていてもその光量はクリュウの体を貫いた。

「くぅ……」

 視界が見えないという事はない。だが、あまりにも強い光を至近距離で受けた身体はフラフラで力が入らずその場に崩れ落ちる。

 ドスランポスの口に突っ込んだ右腕からは血が流れ出る。幸いそれほど深く牙は入っていなかったのか、痛みはあるが何も問題なく動きそうだ。だが、膝をついたクリュウはしばらく動けそうにない。

 ドスランポスはその隙にと突っ込んで来る。

 クリュウはポーチの中から再び閃光玉を取り出しすとピンを抜いて上に放りその場に倒れた。次の瞬間閃光玉が炸裂し、ドスランポスの視界を奪った。

「ギャワッ!? ギャオワッ!? ギャアッ!?」

 混乱するドスランポス。その間にクリュウはなんとか身体を動けるようにする。フラフラと近づき、剣を叩き込む。

「ギャアッ!?」

 両手を使って何度も振り下ろす一撃は、ドスランポスの硬い皮膚を斬り裂く。赤い血が吹き出て、ドスランポスは悲鳴を上げる。

 身体を動かすうちにようやく体の動きが戻った所で、クリュウは後方に下がる。いつの間にかハンターナイフ改の刃はボロボロだった。クリュウは砥石を使ってそれを直す。その間にドスランポスも視界が復活し、クリュウを凶悪な顔つきで睨む。そのまわりでは八匹のランポスが同じように凶悪な顔でこちらを睨んでいる。

 戦いは再び振り出しに戻ったという感じだった。

 一方、フィーリアはガンナーが苦手な接近戦を強いられていた。前後左右様々な場所からランポスが襲い掛かり、反撃もできずひたすら回避している。だが、危険なのはクリュウの方であった。

 八匹のランポスがフィーリアを押さえている間に、同じく八匹のランポスを連れたドスランポスの凶悪な瞳がしっかりと自分を捉えていた。どうやら今までの攻撃で、どちらが弱いかを見極めたらしい。そして、弱い獲物――クリュウに狙いを定める。

「クリュウ様! 逃げてくだ――きゃあッ!」

 フィーリアの悲鳴に驚いて振り返ると、彼女の持つヴァルキリーファイアにランポスが噛み付き身動きが取れずにいた。そして、その後ろからランポスがタックルし、彼女の軽い身体は簡単に吹き飛ばされる。

「フィーリア!」

 転がったフィーリアだが、すぐに立ち上がって距離を取る。さすがレイアシリーズ。その程度の攻撃ではビクともしないようだ。フィーリアはボウガンを構えてすかさず反撃に転ずる。と、そんな流れを余所見していたクリュウにランポスが襲い掛かる。

「うわッ!」

 盾でガードし、足に力を入れて吹き飛ばされる勢いを相殺する。そして剣を思いっ切りランポスの皮膚に振り下ろした。強烈な一撃にランポスは仰け反りその隙に第二撃を与える。その一撃でランポスはかなり弱り、とどめの一撃を放つ。が、

「ギャオワッ!」

 その鳴き声にほとんど反射的に盾を構えた。すると、ランポスとは比べ物にならない一撃が盾ごとクリュウを吹き飛ばす。

「あうッ!」

 地面を無様に転がるクリュウに、ドスランポスが追撃を掛ける。

「ギャオワッ!」

 ドスランポスが跳躍してクリュウの上から襲い掛かる。慌てて横に転がって回避するが、今度はランポスが跳躍。ギリギリ回避して何とか事なきを得るが、これでますますフィーリアとの距離は離れた。

 一方、フィーリは距離を取りつつ射撃。すでに五匹のランポスを葬っていた。距離さえ取ってしまえばランポスなど恐れる敵ではない。

 強い敵に残ったランポスがうろたえている間に、フィーリアは走った。向かうはクリュウの所。見ると、クリュウはドスランポスの追撃で岩壁にまで追い詰められていた。これは一刻の猶予もない。

「クリュウ様! しばらく目を閉じてください!」

 フィーリアはそう叫ぶと、道具袋(ポーチ)から閃光玉を二つ取り出しピンを抜き、時間差で投げて目をつむる。ゆるやかな放物線を描いて飛ぶ閃光玉が炸裂し、すさまじい光が辺りを包む。後ろから追撃してきたランポスやドスランポスの周りにいたランポスが閃光玉の光で視界を奪われてもがき苦しむ。だが、クリュウの方に向いていたドスランポスには効いていない。謎の光にドスランポスは視線をそちらに向ける。まさにその瞬間、二発目の閃光玉が炸裂し、ドスランポスの視界を奪った。

「ギャオワッ!?」

 何も見えなくなったドスランポスはパニックになる。その隙に、フィーリアは周りのランポスを片付けに掛かる。

「ランポスは私に任せてください! クリュウ様はドスランポスを!」

「わかった!」

 クリュウはもがくドスランポスに斬り掛かる。ランポスよりもずっと硬い皮だが斬り付けるたびに真っ赤な血が吹き出し、ドスランポスは悲鳴を上げる。

 ドスランポスも慌てて反撃しようとついばんだり爪を振り回したりするが、フィーリアの教えどおりに側面から斬り掛かるクリュウには当たらない。

 斬って斬って斬りまくる。叩きつける一撃一撃がドスランポスに確実にダメージを与える。

 フィーリアも銃撃で次々にランポスを貫く。視界を奪われ、身動きが取れないランポスなど敵ではない。

 フィーリアは歴戦のハンター。その高速に撃ち出される弾は次々にランポス達を襲い、その皮膚を、肉を切り裂き、命を奪う。

 たった十数秒で周りにいた総勢十一匹のランポスは一匹残らず倒れた。

 閃光玉の効き目がドスランポスに効いているのはあとわずか。フィーリアはすぐさま弾を変えて遠距離射撃をする。

 クリュウはとにかく斬りまくる。その時、まわりのランポスを片付けたフィーリアが撃った弾がドスランポスの体を鋭く貫いた。血飛沫が飛び散る。

 フィーリアの撃った弾は貫通弾LV2。それも至近距離から撃ったので相当な威力持っている。命中した弾は全てドスランポスの体を貫いて反対側から飛び出る。

「クリュウ様! 離れてください!」

 その声にクリュウは慌てて離れると、ドスランポスがしっかりと自分を睨みつけていた。どうやら閃光玉の効き目が切れたらしい。すると、

 バァンッ!

「ギャオワッ!?」

 突如ドスランポスの身体に小さな爆発が起きた。それはフィーリアが撃っ徹甲榴弾LV2だ。一度突き刺さった後に起爆する特殊弾丸だ。

 フィーリアは空|薬莢(やっきょう)を吐き出すとすぐに再装填してもう一発徹甲榴弾LV2を撃ち込む。弾が大型なので一発ずつしか装填できないのだ。

 撃ち出された徹甲榴弾はドスランポスの頭部に突き刺さると起爆。ドスランポスは激痛に悲鳴を上げる。その隙に彼女が狙っているのとは反対側からクリュウが斬り掛かる。

 すさまじい猛反撃にドスランポスは悲鳴を上げるとクリュウ達に背を向けて一気に走り出した。逃げる気だ。

「待てぇッ!」

 クリュウは慌てて追い掛ける。すると、フィーリアは再び別の弾を装填しドスランポスに向かって撃った。初弾はわずかに右に逸れて外れたが二発目が見事にドスランポスの傷ついた皮膚に炸裂し、べっとりとピンク色の発光粘液がくっ付く。そして今度は何ともいえない匂いが辺りを包んだ。

 ドスランポスは気にせず全力疾走で同じ二足歩行とは思えない速度で逃げ、岩陰の向こうへ消えた。

「くっそぉッ!」

 クリュウは疲れのあまりその場に倒れる。ドスランポスと人間とでは根本的に体の作りが違う。向こうは走るのに特化しているので勝てるはずもないのだ。

 肩を激しく上下させて荒い息をするクリュウにフィーリアが慌てて近づく。

「大丈夫ですか!?」

 フィーリアのきれいな顔や金色の髪、レイア装備もすっかり土まみれになっていた。それはクリュウも同じで、新品で輝いていたランポス装備もすっかり土埃を被ってしまっている。

 クリュウは荒い息をなんとか平常に戻すと、急いで立ち上がってドスランポスの消えた方向へ走る。だが、

「待ってください!」

 フィーリアが後ろから呼び止めた。そんな彼女の言葉にクリュウは驚く。

「な、何言ってるの!? あいつは走り回って回復するんでしょ!?」

 それは彼女自身が言っていた事だ。今すぐ追わないとせっかく与えたダメージも無駄になってしまう。だが、フィーリアは柔らかな笑みを浮かべる。

「先程撃ったのはペイント弾です。これでドスランポスの動きは大よそわかります。あとはそれを追って先回りすればいいんです」

 ペイント弾とは割ると特徴的な強い匂いを放つペイントの実をカラの実という中身が空っぽの実を組み合わせた弾で、命中すると破裂し闇夜でも光って見えるペイントと、強い特徴的な匂いを付着させる追跡アイテムだ。その匂いは強烈で、どこに行っても風にのってその匂いが伝わってくる。その為その匂いを辿れば簡単に相手に再び遭遇できる。先程彼女が撃ったのはそれだったのだ。ちなみに投擲(とうてき)用のペイントボール、弓専用のペイントビンなどの種類がある。

 フィーリアはくんくんと鼻を動かして匂いを探る。クリュウも同じように匂いを探ってみる。すると確かにどこからか独特な匂い届いてくる。この方向はどうやら森林地帯から漂ってくるようだ。

「向こうだ! 急ごう!」

「待ってください!」

 走り出そうとしたクリュウを再びフィーリアが止める。不思議そうに振り返ると、そこには今にも泣き出しそうなフィーリアの顔があった。その驚愕の光景にクリュウは戸惑う。

「ふぃ、フィーリア?」

「申し訳ありません……」

「え?」

 フィーリアは突然頭を下げて謝ると、震える手でクリュウの右腕にそっと触れた。その瞬間軽くズキッと痛みが走り顔がゆがむ。忘れていたが、彼は右腕を負傷していたのだ。

 赤い血が流れるその腕を見詰め、フィーリアはポロポロと涙を流す。

「……わ、私が……しっかりしてなかったから……クリュウ様に……こんな怪我を……」

 泣きながら、フィーリアは道具袋(ポーチ)の中からハンカチを取り出して血を拭う。だが、その手は小刻みに震えている。

「私のせいで……すみません……ッ!」

 泣き崩れながら謝るフィーリアに、クリュウは慌てる。女の子に泣かれるという異常事態にものすごく彼は弱い。

「べ、別にフィーリアの責任じゃないよ! これは僕の不注意で怪我したんだから!」

「そんな事ありません! 私は、クリュウ様の援護をすると言いました。しかし、結果はこの通り援護などできず、クリュウ様一人にドスランポスを押し付けた形になってしまいました。そして、クリュウ様は怪我された。全て、私の責任です……ッ!」

「そ、そんな事ないってば……ッ!」

 泣きじゃくるフィーリアをクリュウは必死に励ますが、泣き崩れるフィーリアは一行に泣き止まない。どうしたらいいかわからないが、とにかく話を戻す。

「と、とにかく今はドスランポスだよ!」

 そう言うと、さすがは歴戦のハンター。その言葉にフィーリアも「そ、そうですね」と小さな声で答えるとハンカチで涙を拭った。それを見てクリュウも安堵する。

 その後、クリュウはフィーリアに右腕の応急処置をしてもらうと、ドスランポスの回遊ルートの先回りをする為に移動した。今度はクリュウが前で、フィーリアが後ろだ。

 後ろからついて来るフィーリアはその間一度も顔を上げる事なくずっとうつむいたままだった。


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