ドアの前に呆然と立ち尽くすアリアは驚愕に満ちた表情でクリュウを見詰め立っていた。その姿を見て同じように驚くクリュウと、そんな二人の様子を交互に見て何やら意味深な笑みを浮かべるフェニスとシグマ。そして、突然の新たな女の子の登場にフィーリア達は驚きと共に警戒感を露わにしている。
逸早く驚愕から脱したクリュウは久しぶりに再会した友を前になるべくいつも通り振舞おうと気さくに片手を上げて笑顔で彼女の前に立った。
「久しぶりアリア。元気にしてた?」
クリュウとしてはその後に腰に手を当てて髪を掻き上げながら「お久しぶりですわね。私がいなくて寂しかったのではなくて?」といつも通りちょっと上からという彼女なりのかっこいいポージングと振舞いで出迎えられるものだと思っていた。だが実際は――
「クリュウッ!」
「あ、アリアッ!? うわぁッ!」
貴族らしい振舞いも、プライド高い高飛車な態度もなくアリアは突然クリュウに勢い良く突っ込み、まるで子供が宝物を取り戻したかのように強く彼の体を抱き締めた。
突然抱きつかれたクリュウは慌てている。その周りではフェニスは「あらあら」と楽しそうに微笑み、シグマは口笛を鳴らして二人を見守る。一方、この突然の展開にまたしても驚き固まるフィーリア達。一人先行してすでにサクラは背にした飛竜刀【翠】を抜き掛けているが、少し遅れて我を取り戻したシルフィードが慌てて彼女の背後から羽交い締めにして取り押さえる。
「あ、アリア? ちょっと、どうしたのさいきなり――」
頬を赤らめながら困ったように彼女に声を掛けようと彼女を見た時にようやく気付いた――自分の胸に顔を埋めていた彼女の一瞬見えた頬を流れる一筋の涙を。
「あ、アリア……?」
「――背、少し伸びまして?」
スッと上に上げられた彼女の手がそっとクリュウの髪を撫でた。驚いて上げた視線を下げると、そこには自分の見知った優しげな笑みを浮かべたアリアの笑顔があった。記憶の中のアリアより少しだけ大人びたように見えるのは、一年という時がクリュウの思い出の中の彼女よりも成長している事を示していた。ただ唯一違う所と言えば、彼女の真っ白な肌に薄っすらと赤らんだ頬を流れる一筋の涙。
「あ、アリア……。もしかして泣いてる……?」
誰が見ても明らかなのに思わず問うてしまう。するとアリアはスッと離れたかと思うと頬を赤らめたまま拗ねたように唇を尖らせて彼を見詰める。
「そ、それは……久しぶりにクリュウに会えたのですもの――ずっと、寂しかったですのよ?」
恥ずかしそうに、最後の方は聞き取れるギリギリくらいの小声になってしまうアリア。きょとんとするクリュウの背後では恋姫達が驚愕から次第に警戒態勢、戦闘態勢へとシフトしていたり、フェニスとシグマの意味深な笑みが濃くなっていたりする。
アリアの言葉に一瞬きょとんとしてしまったクリュウだったが、すぐに平静を取り戻すと表情を苦笑に染めた。
「そうだね。僕もちょっと寂しかったなぁ」
「ちょ、ちょっとッ!? こ、この私(わたくし)と一年も会えなかったのに、ちょっととはどういう了見ですのッ!?」
「お、怒んないでよッ! もちろんすごく寂しかったッ!」
「……そんな取って付けたような言い方じゃ、嬉しくありませんわ」
フンッとそっぽを向いてしまうアリア。どうやら完全に機嫌を損ねてしまったらしい。どうしたらいいか困るクリュウは思考に集中してしまい目の前の光景が見えなくなる。だから気づかなかったのか、こちらに背を向けるアリアの横顔がチラチラと彼を見ては嬉しそうに赤らんだ頬を緩めている事に。
「おいおい、一年ぶりの再会だってのに味気ねぇなおい」
そう言って二人の間に入って来たのはシグマだ。シグマはクリュウを見て「お前も少しは空気読めよな」と呆れながら忠告を一つし、今度はアリアの方を向いてそっと耳打ち。
「……テメェも何意地張ってやがんだよ。せっかく会えたんだろうが」
「だ、だってクリュウが人の気持ちも知らないで……」
「あいつが情けねぇ朴念仁だってのは今に始まった事じゃねぇだろうが」
「む、むぅ……」
シグマと何事かを話して黙ってしまうアリアを見ながら、クリュウは時折彼女が自分の方をチラチラと見て来る為にどうしたらいいか困ったような笑みを浮かべ続ける。何となく、シグマがこっちを見ながら蔑んだ目をしてるのが気になるけど……
「――コホン」
そのうち話し合いが終わったのかシグマが離れると、アリアはわざとらしく咳払いをすると改めてクリュウの前に立った。クリュウが想像した通りに腰に手を当ててふぁさッと長いクリーム色の髪を手で掻き上げ、優雅なポージング。何というか、アリアは本当にこういう格好を付けた仕草が良く似合う。皮肉でもなく、本当に似合うのだからさすがは貴族と言った所か。同じ貴族でも終始ビクビクしているフィーリアと違って、アリアは常に威風堂々と立ち振る舞う。まさに貴族、という感じの女の子だ。
キッと意志の強い瞳を細める。その視線に射ぬかれたクリュウはとりあえず彼女の次の言葉を待ってみる。
「ようこそアルトリアへ。私達はあなた方を歓迎いたしますわ」
凛々しく、エレガントに、アリアは自信に満ちた声でそう宣言した。が、返って来たのは沈黙。あまりにも唐突過ぎる展開に全員がついて来れていないのだ。そして、自信に満ちた顔は見る見るうちに真っ赤に染まり、
「私に恥を掻かせるおつもりですのぉッ!?」
「その怒りは理不尽でしょッ!?」
呆れながらツッコミを入れるクリュウの首元を持って、アリアは恥ずかしさを隠すように怒鳴りなら彼の体をガクガクと前後に揺らす。散々サンドバッグのように揺れ終わると、目の前にはまだ恥ずかしそうに頬を赤らめているアリアがこちらを見上げるように睨んでいた。薄っすらまだ涙が残っている瞳ではまるで怖くはないが。
「フン、クリュウは相変わらず紳士的な配慮が致命的に欠落しているようですわね」
「君もかっこつけようとしてスベる所は相変わらずだね」
「な……ッ!?」
「おぉ~いクリュウ。事実だけど今のはシビレ罠な。もうすぐ爆弾が起爆するぞ」
シグマの冷静な指摘の後、確かに爆弾が起爆した。もちろん、アリアの怒り爆弾だ。
「かっこつけようとッ!? 私は己の信念を貫いてエレガントに振舞っているだけですわッ! その言い方だと私が無理をしているように聞こえますわねッ!?」
「いや、だって実際無理してるでしょ? あの妙な高笑いだって時々咳き込んでたし」
「な……ッ!? そんな事ありませんわッ! このように、オーッホホホホホッ! オーホホホゲホォッ!? ゴホォッ!」
「ほら」
「む、むぅ……」
顔を真っ赤にして、でも言い返せなくて、悔しさと恥ずかしさで泣きそうになる瞳でキッと睨みつけるが、当然そんな瞳じゃまるで効果はない訳であって、クリュウは苦笑しながら「アリアって、相変わらず背伸びしたがるんだね」とあっけらかんと言ってみる。
「せ、背伸びだなんて、私は別に……」
「まぁ、それが君らしいと言えば君らしいんだけどね」
「むぅ……何だか、まるで私の事なら何でも知っているみたいな言い方ですわね。気に入りませんわ」
「これでも一応一年君の参謀を務めてたからね。ずっと見てただけあって他の人よりは君の事を知っているつもりだよ。さすがにシグマやフェニスには敵わないけど」
他意はなく、屈託の無い笑みと共に何気なく言うクリュウのセリフ。その言葉にアリアは「な……ッ!?」と言葉に詰まった後、恥ずかしそうに頬を赤らめながらうつむいてしまう。そして指先を遊ぶようにイジりながらボソリと、
「……ず、ずっと見てた」
その部分だけを口の中で繰り返し、思わず頬が緩んでしまう。
一年ぶりの再会に加えて、嬉しい言葉まで貰ってしまい、実はものすごく喜んでいるアリア。これまではルフィールやシャルルといった強敵に妨害されててあまりアタックはできなかったが、今度こそ自分のターンだ。そう確信し、さらなるステップへと移行しようとした時――彼女は思い知る事になる。今のクリュウの周りにはかつての二大恋姫と同等、もしくはそれ以上の強敵がすでに臨戦態勢になっている事を。
「……調子に乗るな脇役」
「な、何ですってッ!?」
自らを侮辱する言葉に瞳を鋭くさせてうつむかせていた顔を上げると、いつの間にか音もなく自分とクリュウの間に割り込んでいる少女と目が合う。長く艶やかな漆黒の髪を流した人形のように美しい異国の娘。その容姿を見るに、東方人の末裔だという事がわかる。左目に黒い眼帯をし、残る右目は鋭い隻眼となってまるで刃物のように煌き、自分を威嚇する。その瞳の鋭さ、纏う気から只者ではないと察する事ができる――だが、その瞳の奥に燃えている炎は、自分と同じ《恋の炎》だ。
「さ、サクラ?」
二人の間に割って入った少女――サクラは鋭い隻眼でアリアを威嚇しながらクリュウを守るように彼の前面で構える。隙のない構えは、いつでも背負った飛竜刀【翠】を引き抜ける事を示す。
一瞬、サクラとアリアの間で火花が迸った。が、もちろん本当に迸ったのではなくあくまで比喩表現だ。だが、この表現は決して間違いではなく、二人の視線は今まさに鍔迫り合いを見せていた。
「あなたは?」
「……人に名を尋ねる時は自分から名乗れ。無礼者」
サクラの容赦のない発言にアリアの表情がビシッと引きつる。プライド高いアリアにとって侮辱は何にも代えがたい苦痛であり、尚且つ目の前で戦闘態勢になっている明らかに自分よりも礼儀というものから逸脱している相手から無礼者扱い。アリアの中で沸々と怒りの炎が燃えたぎる。
「失礼。私の名はアリア・ヴィクトリア。このアルトリア王国で王家の次ぐ血統の由緒正しい貴族、ヴィクトリア家次期当主ですわ」
こめかみに血管をビキビキと浮かしながらも若干引きつった笑顔であいさつするアリア。誰が見ても怒り心頭という感じだが、サクラはそんな彼女の怒りなどどこ吹く風。クールな振る舞いのまま至極簡潔に「……サクラ・ハルカゼ」と名前だけを名乗る。
「ハルカゼさん、でよろしいかしら?」
「……好きに呼べば。私は貴様の事など眼中にない」
「な……ッ!?」
驚愕に染まるアリアと、一切表情を変えずに憮然と対峙するサクラ、そしてそんな二人のやり取りを見ながらややこしい事になったなぁとため息と共に頭を抱えるクリュウ。するとそんな彼に向かって当然のようにアリアの怒号が飛ぶ。
「クリュウ、何なのですのこの無礼なお方はッ!?」
「……あぁ、サクラはそれが素なんだ。その、ちょっと取っ付きづらいかもしれないけど、根はいい子だから」
「信じられませんわッ! 初対面を相手にこの無礼極まりない言動からどう真実の姿を受け取れとッ!?」
アリアの疑問は当然だ。こんな無茶苦茶な子相手に「本当はいい子なんだよ」と言われても信じられる訳がない。そろそろ本気でサクラには自身の第一印象の悪さを直してもらわないといけないだろう。
クリュウに回答を求めようと詰め寄ろうとしたアリアを、サクラは「……クリュウに近付くな」と彼女の前に立って行く手を阻む。その瞬間、またしても二人の間で火花が迸った。
「……あぁ、すまんな。こいつはどうにも人と仲良くするという概念が喪失しているらしい。信じられないかもしれないが口は悪いが根はいい奴だ。仲良くしろとまでは言わんが、まぁ嫌いにはならないでくれ」
そう言って大人な振る舞いと共に三人の間に入って来たのはシルフィード。さすがチーム一の常識人だけあってさりげなく会話に入りつつサクラのフォローも忘れない。
「あなたは?」
突然間に入って来たシルフィードにアリアは訝しげに尋ねる。さすがに第一印象最悪だったサクラに比べれば、比較的穏やかな空気が流れる。
「私はシルフィード・エア。一応、クリュウ達のチームのリーダーを引き受けている身だ。まぁ以後お見知りおき、だな」
「よ、よろしくですわ」
サクラとは違った意味で物怖じしないシルフィードのあいさつに、アリアは少し押されながら受け答えする。学生時代はともかく、ここ一年では彼女はヴィクトリア家の令嬢として扱われてきたのだろう。こういう風に家の身分を気にせずに接して来る初見の者が久しぶりなのだ。
「あぁ、それと向こうで仁王立ちしながらクリュウを睨んでいるのは彼の幼なじみのエレナ・フェルノ。その隣で会話に参加したくても糸口が見つからなくて右往左往しているのはフィーリア・レヴェリ。彼女は君と同じエルバーフェルド国の由緒正しきレヴェリ家という名門貴族の娘だそうだ」
登場と同時にさり気なく会話に入れていない二人の紹介も忘れない。しかも彼女の紹介を突破口に残るフィーリアとエレナも近づいてきて会話の輪の中へと入る。個性豊かな面子に囲まれている為か、元々の素質の為か、シルフィードはこうした配慮というか気遣いが実にうまい。そういう所が皆からの信頼に直結しているのだろう。リーダーという立場が実に彼女によく合っている証拠だ。
「レヴェリ家……聞いた事がありますわ。我がヴィクトリア家よりも古い家柄の、エルバーフェルドの名門貴族ですわね」
アリアは驚いたように自分と同じ、しかも自分の家よりも古い家柄の貴族の末裔であるフィーリアに興味を持ったらしい。アルトリアは歴史の古い西竜洋諸国の国々に比べればまだまだ新興国の部類に入る。当然、歴史の古いエルバーフェルドのレヴェリ家の方が発祥は古いのだ。
「と言っても、私はそこの三女ですので。家はお姉様が継ぐ事になっていますから、私のレヴェリの名は飾りみたいなものですよ」
そう謙遜するが、彼女だって立派な貴族の娘だ。それを思い知ったのはついこの間の事だが。
「……そうよ。貴族の名なんて飾り。いいえ、飾りにすらならない意味のないものよ」
一方平民出身のサクラは自身の壮絶な人生経験から以前自身が言っていたように貴族というものを毛嫌いにしている。当然その物言いは厳しく、アリアの眉がピクリと上がり、フィーリアもまたビクッと身を震わせた。すると、それまでの憮然とした態度から一変してフィーリアの方をチラリと一瞥し、ポツリと零す。
「……貴族の娘なんて無意味なものじゃない。そこのアホの子は私達のかけがえの無い仲間よ」
「え……?」
驚いて振り返ると、まるでその視線から逃れるようにサクラはプイッと背を向けてしまう。フィーリアからは見えないが、クリュウからだと丸わかりだ――照れているのか、珍しく頬を赤らめて憮然と立つ彼女の姿が。その姿に、クリュウは思わず微笑んでしまう。
「もう、素直じゃないね君は」
「か、勝手に話をしないでほしいですわッ! 人を踏み台にして何をいい雰囲気を作ってくれてやがりますのッ!?」
一方彼女の言う通り見事に踏み台扱いされたアリアは怒り心頭という具合だ。容赦無くサクラを睨みつけるが、もちろんサクラの鋼鉄のハートはそんな視線など微々たるダメージにもならない。
まだ会って五分と経っていないのに、すでに険悪ムード全開。どうにもアリアとサクラは相性が悪いらしい。
しばしサクラを憎々しげに睨んでいたかと思うと、ふとアリアは目の前の異常な光景に気がついた。
クリュウを囲むように並ぶのは――どれも美少女ばかり。しかも皆親しげに接している事から、その五人が親しい関係だと見て取れる。さらに言えば、これは彼とそれなりに長い間一緒にいたからこそわかる空気――その五人の関係性がクリュウを中心としたものであり、尚且つ女子全員が自分と同じ気持ちを抱いている事に、気づいた。
それまでのクリュウに向けていた屈託の無い笑顔が引っ込み、再び彼の前に立ったアリアは今にもブチギレそうなのを無理くり我慢して引きつった笑顔で向き合う。
「……クリュウ、この方達との関係性を詳しく教えてもらえます?」
「え? あ、うん。えっと、フィーリア、サクラ、シルフィの三人が今僕と一緒にチームを組んでくれているハンターで。エレナは前にも言った幼なじみだよ」
そういえば五年生の頃、何気なしに故郷の話になった事があった。自分は一応正確な身分を隠して在学していたのであまり多くは語れなかったが、彼は嬉しそうに自分の故郷の話をしていた。その時に自分には村に幼なじみの女の子がいると話していた。自分以外の女の子の話を嬉しそうにする彼にイラついてほとんど覚えていないが、どうやらその幼なじみというのが彼女らしい。
だが、それも問題と言えば問題だが本当に問題なのはその他の女子三人だ。自分の中の人名一覧には彼女達の名前はない。という事は、卒業後に知り合ったという事。わずか一年の間に、これだけの美少女を三人も揃えてしまう彼はもはやそういう運命を背負っているとしか思えない。しかもその全員が彼を好いている事くらい乙女の勘でわかる。
それだけでも厄介なのに、問題は更にある――彼女達の装備だ。
フィーリアはリオレイア亜種から剥ぎ取れる素材を使ったリオハートシリーズにハートヴァルキリー改。
サクラはラオシャンロンから剥ぎ取れる希少素材を用いた凛シリーズにリオレイアの毒棘を仕込んだ毒太刀、飛竜刀【翠】。
シルフィードはリオレウス亜種から剥ぎ取れる素材を使ったリオソウルシリーズにショウグンギザミの鋭いハサミの刃を用いたキリサキ。
全員が上位ハンターに程近い凄腕のハンターだという事がその装備から見てもわかる。そして気付いていたが、クリュウもまたリオレウスのから剥ぎ取れる素材を使ったレウスシリーズにドスゲネポスの麻痺牙を仕込んだ麻痺毒剣、デスパライズ。いつの間にか、愛しの彼もまた自分を圧倒するような凄腕のハンターへとこの一年で成長しているらしい。
学生時代の頃は、実技ではわずかながら自分の方が上だったはずなのに……それがちょととだけ悔しい。
「……クリュウ、あなた学生時代から進歩が無いですわね」
「え? これでもこの一年で結構強くなったと思うけど……」
「腕っ節の話じゃねぇよ。ったく、テメェは本当に変わってねぇな」
もはや呆れるしか無いのだろう。ため息と共に呆れ返るシグマのセリフにもクリュウは首を傾げる。その様子を見て女性陣が一斉にため息を零したのは言うまもでないだろう。おぉ、見事な一体感。
「コホンッ。なるほど。あなた方は今のクリュウの仲間という訳ですわね?」
わざとらしく咳払いしてアリアが話を進めると、それに答えるようにシルフィードが「まぁ、そういう事になるな」と肯定の意味も込めてうなずく。それを確認し、もう一度目の前に居並ぶ少女達を見回した後、クリュウに向き直って一言。
「……最低」
「何でッ!?」
ジト目になってバッサリと切り捨てた彼女の言葉にクリュウは驚く。なぜ自分がそんな言われ方をしたのかまるで見当もつかないという様子だ。それが余計にアリアの機嫌を損ねる。
「女の子ばかりに囲まれて、ずいぶんといいご身分になりましたわね」
「いや、こいつは学生時代からこんな感じだったと思うけどな」
不貞腐れてしまうアリアの横で苦笑交じりにシグマがつぶやく。確かに彼女の言う通りクリュウは学生時代はルフィールにシャルル、それにアリアという面子に囲まれていた。状況は特筆して変わってはいないが、それでも単純なライバル数が倍以上になった訳だ――ちなみにアリア達は知らないが、クリュウはこの他にも各地に種をバラ撒いて(もちろん無意識で)いるので、単純なライバル数は学生時代の三倍と言った所か。これがわずか一年の間にやり遂げた彼の功績(?)だというのだから、クリュウの天然ジゴロの凄さを物語っている。
「あぁ、クリュウ。ちょっと付き合えや」
部屋の空気がどんどん険悪になっていくのを感じたシグマがクリュウの首をロックして無理やり彼を部屋から引きずり出そうとする。もちろんクリュウが「な、何するんだよッ!?」と反発するが、シグマの有無も言わせない迫力で「お前、ここで死にたいのか?」と言われた言葉に首を激しく横に振ると、黙って彼女に引きずられる。
驚く一同を前にシグマはフェニスに仲介役を頼みつつ、「お前ら、一度話し合え。ライバルかもしれねぇが、同じ気持ちを持ってる者同士だろうが。少しは互いに腹割って話して頭を冷やせや」と言い残してクリュウを引っ張ったまま部屋を去った。
その後、残された恋姫六人は監督役のフェニスを間に挟んでしばしクリュウの事について話し合う事になった。当然話し合いは紛糾し、フェニスは何度もため息を零すのであった。
「あのさ、何でいきなり部屋を出ようなんて言ったのさ」
「……お前、ハンターなのにあの殺気立った空気を微塵も感じなかったのかよ」
呆れ果てながら頭を軽く押さえるシグマにクリュウは頭の上に疑問符を浮かべながら彼女の後に続く。モンスターの殺気や狩場の空気の変化には鋭いクリュウだったが、事恋愛関する事になると途端にラオシャンロン並みに鈍くなってしまうのだ。学生時代の彼を知っているシグマからすれば予想はできていた事だが、それにしても全く進歩していない事には呆れを通り越して少し感心してしまう程だ。
「とにかく、今はフェニスに任せておけ。これからしばらくこの国にいるんだろ? 今のうちにとりあえず最低限の関係だけは築いてもらわねぇと、これから厳しいぞ」
「……うーん、そうだね。アリアって結構見栄っ張りだから最初のウチはいつもあまりいい関係じゃないんだよね。そのうち話してればすぐに仲良くなれる所が彼女のすごい所だけど」
「……よく見てんだか節穴なんだかわかんねぇなテメェは」
苦笑しながらそう零すと、シグマは適当に城の中を散策する。アリアとフェニスはどちらも政界の重役の娘達という事からシグマは一応彼女達の武官としての役目を負っている為、こうして城の中を自由に出歩く事ができるのだ。まぁそれは建前であり、一番の理由は彼女の父が聖騎士団の総団長だからそれなりに自由が利くからなのだが。
「ったく、ハンターとしては成長したみてぇだが、男としちゃまだまだ半人前って訳か」
「君を前にしていると、一人前だとは言い切れなくはなるけどね」
「テメェ、それはどういう意味だ?」
「別に。他意はないさ」
「……テメェ、一年の間に嫌味なんか覚えやがったのか?」
「さぁね?」
イタズラっぽく笑う彼の笑顔を見て、「調子に乗るなバカ」と彼の頭を小突くシグマ。そう言いつつも彼女の顔には楽しそうな笑みが浮かんでいる。久しぶりに友人に会えて嬉しいのは何もアリアだけではない。シグマもまた、自分のクラスで問題を起こしまくった中核人物であるクリュウは特別な存在なのだろう――もちろん、アリアなどが抱いている特別とはニュアンスが違うが。
「そういえば、お前ルフィールとはあれから何かやり取りはしてんのか?」
「ううん。音信不通で今どこで何をしているのかもわかんないよ」
「意外だな。あいつの事だから卒業したらすぐにでもテメェの所に押しかけていきそうだがな」
「でも無事卒業したらしいよ。シャルルと一緒に卒業したんだって」
「あのアホの子か。あいつとは会ったのか?」
「うん、ちょっと彼女の村まで行く事があってね。その時に――あ、あとエリーゼとも会ったよ」
聞き慣れない名前にシグマが首を傾げたのを見てクリュウはすぐに「ほら、クリスティナが生徒会長をやってる時に副会長だった女の子」と、フェニスに話したのと同じような補足説明をすると、ようやくシグマも思い出したように手をポンとする。
「あぁ、あの気難しそうな奴か。お前、あいつと親しかったっけか?」
「ううん。学生時代は全く交流はなし。何でも僕らが卒業した後にシャルルと組んでたらしくて、その関係で彼女の村に行った時に親しくなったって感じ」
「ふぅん。クードのアホは?」
「そっちも音信不通だよ」
「……ったく、卒業したらみんなバラバラって訳か」
悪態づくように言うものの、その言葉にどこか寂しいものが感じられる。学校という環境でこそ親しくなれる友もいる。そういった人は卒業という旅立ちの後、まるで連絡を取り合わなくなってしまう事もある。特にこの世界には互いの連絡手段が郵便のみなのだから余計だ。
「みんな、それぞれの道でがんばってるといいね」
「どうだか。ハンターという職業上同学年の連中で命を落とした奴もいるかもしれねぇしな」
「……笑えない冗談だよ、それ」
シグマの言う通り、彼らは普通の人間ではない。ハンターという、モンスターを相手に死闘を繰り広げる者達だ。当然、その死闘に敗北し、大怪我を負ってハンターの道を諦める者もいれば、最悪命を落とす者もいる。実際、正確な統計を取った訳ではないので憶測の域を出ないが、卒業後一年の間に命を落としたり、ハンター生命を断たれる新人ハンターは全体の一割から二割と言われている。
音信不通の連中は、単純に連絡を取ろうとしていない為にそうなのか。それとも二度と筆を手に取る事ができなくなってしまっているのか。それは誰にもわからない。
「俺はテメェは卒業後すぐに死ぬと思ってたけどな」
「うわぁ、それひどくない?」
「冗談だ。テメェはそう簡単に死ぬような奴じゃねぇだろ」
試すようなシグマの物言いにクリュウは「さて、どうかな?」と惚けたように返す。それを見て「テメェ、ムカつくようになったなオイ」と嬉しそうに彼の頭を小突く。クリュウも久しぶりにシグマと話せて嬉しいのか、そんな彼女の小突きを楽しげに受けていた。
そんな風に会話しながらしばらく歩いていると、前から誰かがやって来るのが見えた。クリュウはその人物に心当たりがなく首を傾げたが、隣を歩くシグマの表情は不機嫌そうに染まったのを彼は見逃さなかった。
現れたのは燃えるような炎髪をポニーテールに結った女性。鋭い眼光と身を包む刃物を思わせる雰囲気から、彼女が只者ではない事がわかる。周りを威圧するような迫力は、これだけ距離を取っていてもヒシヒシと感じられた。
「デアフリンガー。こんな所で何をしている?」
「ただの散歩っすよ。アトランティス少佐」
シグマにアトランティスと呼ばれた女性は立ち止まるとジッと彼女を見詰めたかと思うと、今度は隣に立つクリュウを見る。その瞬間、彼女の表情が不機嫌そうに歪む。彼が装備している一式を見て、すぐに彼がこの国の人間ではないと見抜いたらしい。
「そちらの少年は?」
「聞いてるっすよね? 今日フェニスの親父が独断で連れてきた大陸人。こいつがそうっすよ」
「貴様が……」
睨みつける、とまではいかないが決して友好的な視線ではない。そんな彼女の視線はお世辞にも心地良いものではなく、クリュウも自然と表情が硬くなる。
長いようで実際は数秒程度だったのだろう。見詰め合いは突然彼女の方から終わりを告げ、再び女性はシグマの方へ向くと彼女に向かって「部外者をあまり城内で徘徊させるな」と忠告すると、二人の横を通り抜けて去って行った。
女性の背中が見えなくなると同時に横にいたシグマが疲れたようにため息を零す。
「ったく、お固い空軍軍人には困ったもんだぜ」
「知り合いなの?」
「ん? 別に知り合いって程親しい訳でもねぇよ。俺は陸軍であいつは空軍。基本的には関わり合いのない相手さ」
「空軍って、王軍艦隊の事だよね。聖騎士団と仲が悪いの?」
「……どこの国の軍隊も似たようなもんさ。軍事費ってのは決まってるから、それを三軍が奪い合ってる関係上どうしても仲良くはなれねぇんだよ。それに皆自分の面子やプライドがあるからな、そう簡単に引き下げらんねぇんだよ」
呆れたように言うシグマの言葉に、クリュウも何となくわかった。陸海空三軍はそれぞれの分野でプロの集団だ。お互いをライバル意識し、プライドを持っている。だからこそ他軍に弱い姿を見せられない。かっこいい事言っても、やっている事は子供の背比べみたいなものだ。
「あいつは王軍艦隊参謀とクルセイダー総軍師殿の補佐官を兼任するエイリーク・アトランティス空軍少佐。まぁ、テメェには関係のない相手さ」
忘れた忘れたと言いたげに歩き出すシグマは彼がついて来ない事を不審に思って振り返ると、クリュウは女性――エイリークが去った方向を凝視したまま止まっていた。
「おい、クリュウ。ボケっと立ってないで早く来い。置いて行くぞ」
「あ、うん……」
クリュウは後ろ髪引かれるように背後を気にしながらもシグマを追いかけて歩き出す。時々振り返ってみてはエイリークの姿を探すが、当然すでに彼女の姿はない。そんなクリュウの態度を訝しげに思いながらシグマは彼を連れて城内を回った。
部屋へ戻ると、どうやらこちらも事態が解決したらしく、それどころかフィーリア達とアリアがずいぶんと親しげに会話している事も部屋へ戻って来たクリュウは驚いた。実質、自分達がここを離れていたのは一時間も経っていないはずだが。
シグマも驚いたらしく、目の前の光景に困惑していると近づいてきたフェニスがそっと耳打ちする。
「お互いにクリュウ君のかっこいい所を言い合ってたら、あんなに仲良くなっちゃって」
「……バカだな、あいつら」
呆れ半分感心半分という具合な反応を見せるシグマの横を通り抜けて室内へと戻ったクリュウを出迎えたのは、サクラの抱擁であった。
「……おかえりクリュウ」
「あ、うん。ただいま」
「サクラ様ッ! 抜け駆けは禁止だと何度言えば気が済むんですかッ!?」
「サクラッ! 今すぐクリュウから離れなさいッ! さもないと許さないですわよッ!」
クリュウに抱きついたサクラを排除しようとフィーリアとアリアが拘束して無理やり引き剥がすと、そのまま暴れるサクラを部屋の奥まで引きずっていく。呆然と取り残されたクリュウにそっと背後からシルフィードが近づき、ポンとその肩の上に手を置く。
「まぁ、何だ。互いの想いは相容れる事はないが、想いの行く末は同じ者同士という訳だな」
「どういう意味?」
「こういう事は人に尋ねずに自分で考えるんだな」
がんばれと言うように肩を軽くポンポンと叩くとシルフィード正座をさせられて二人がかりで怒られているサクラを助けに向かう。どうせ助けたとしても彼女から礼の言葉などないとわかっていても、そこは彼女達のリーダー。放ってはおけないのだ。
シルフィードが離れると、今度はそれと入れ替わるようにしてエレナが近づいてきた。クリュウの前で一度止まると、ため息と共に零す。
「……あんたさ、そろそろ本気でその鈍感さ何とかしなさい。これ以上増えたら私達の方が心労で倒れるわよ」
「どういう意味?」
「はぁ……」
深い深い疲れ切ったため息だけを残してエレナは立ち去る。クリュウが意味がわからずに首を傾げていると、またしても入れ替わるように今度はアリアがやって来た。見るとサクラはシルフィードに助けられたようだが、当然のようにサクラは無言でその場を離れ、残されたシルフィードは苦笑を浮かべていた。
「フィーリアもサクラもエレナも、そしてシルフィードもいい人達ばかりですわね」
「あれ? みんなの事名前で呼ぶようになったの?」
「え? あ、まぁ……そう、ですわね」
自分でも無意識だったのだろう。指摘されて初めて気づいたらしく照れたように頬を赤らめながら視線を逸らす。そんな彼女の仕草が可愛らしくて、思わずクリュウは笑ってしまった。
「そうやって、最初は拗れていてもすぐに仲良くなれるのがアリアのすごい所だよね」
「べ、別にこれくらい大した事じゃありませんわッ」
「後は、最初から仲良くなれるようにその無駄に高い自尊心を何とかすれば完璧なんだけどね」
「む、無駄とは何ですの無駄とはッ!? 失礼ですわねッ」
からかうようなクリュウの物言いにアリアは声を荒げるが、クリュウはそんな彼女の声をさらりと躱(かわ)しながら今はシグマとフェニス達と話しているフィーリア達を見詰める。
「……どうかな、僕の今の仲間は?」
「――いい人達ばかりですわね。すぐに友達になれましたわ」
「そうでしょ? 僕は友達運がいいみたいだからね」
「……だから余計に厄介なんですのよ」
「え? 何か言った?」
「何でもありませんわ……」
はぁと大きなため息を零すアリアにクリュウは首を傾げながら「どうしたの? もしかして体調でも良くない?」と心配そうに彼女の顔を覗き込む。するといきなり顔の目の前に彼の顔が現れた事に驚いたのか、アリアは「な、何でもありませんわッ!」と顔を真っ赤にして彼の視線から逃れるようにそっぽを向く。クリュウはそんな彼女の反応に怪訝そうに首を傾げている。
「……クリュウ、私を放っておいて何をしてる?」
「うわッ!? さ、サクラ?」
突然音もなく忍び寄って来たサクラにクリュウは驚く。彼女は本当に足音一つ立てず歩けるらしく、本当に気配もなくいつの間にか背後に立たれる事は珍しくない。彼女の基本ポテンシャルの高さというか異様さにはいつも驚かされる。
「……クリュウ、こんなアホ達放っておいて、デートしよう」
「いや、勝手に出歩いちゃマズイし……」
「……大丈夫。私にはどんな国家権力も意味を成さないから」
「すごくかっこいいセリフだけど、サクラの場合は絶対力づく的な意味だよね?」
長年一緒にいるだけあって、彼女の考え方など手に取るようにわかるクリュウ。するとそんな彼の問い掛けにサクラはなぜか自信満々に「……当然」と答え、なぜかVサインまでしてみたり――前言撤回、この子の思考は誰にもわかりません。
「……クリュウ、デートしよう」
「いや、だからね……」
「あぁッ! またサクラ様は抜け駆けをッ!」
サクラがクリュウの腕に絡み付いて彼を外へと連れて行こうとした時、それまでシルフィード達と話していたフィーリアが大声を上げる。こちらを凝視、特にサクラを睨みつけて近づいてくると――なぜか当然のように反対側の腕に抱きついた。
「……あのさフィーリア。何で君も当たり前のように腕に抱きついてるのかな?」
「こ、これは……あッ、サクラ様がクリュウ様を誘拐しないように、私が身を挺して守っているんですッ!」
「今『あッ』って言ったよね? 絶対今思いついたよね?」
クリュウのツッコミを無視し、早速彼を挟んでフィーリアとサクラの睨み合いが開始される。三人共防具一式を装備しているので狩場でのいつもの光景と言えばそれまでだが、今回はここにさらに二名ほど対抗馬がいる訳であって……
「ちょ、ちょっとッ! 何してんのよバカクリュウッ!」
「は、破廉恥ですわッ! エロクリュウなのですわッ!」
「僕なのッ!? 非難轟々されるのは僕の方なのッ!?」
エレナとアリアが揃って彼の正面から詰め寄る。前方に左右を塞がれたクリュウは逃げるように当然残された退路、後ろへと逃げようとする。が、
「ぬおッ!? い、いきなり下がってくるなッ。びっくりするだろうッ?」
「……シルフィ? 何で僕の防具の裾を掴みながら背後に立ってるの?」
「あ、いや、これはそのぉ……」
珍しく言い淀むシルフィードに興味はあるが、今はそれどころではない。前方をエレナとアリア、右をサクラ、左をフィーリア、そして後方をシルフィードが塞ぐ形で自分を囲んでいる。もはや逃げ場はなし。絵に描いたような四面楚歌だ。ただ意味合いが違うとすれば、歌は歌でもラブソングなのだが。
見事に美少女に囲まれて狼狽するクリュウの姿を見て、少し離れた場所でそれをシグマとフェニスは呆れ半分感心半分という感じでそれを見守っていた。
「……ったく、どんだけ女に好かれりゃ気が済むんだ。あれじゃアリアが報われないぜ」
「そうね……うふふ、でもアリア、すごく楽しそうじゃない?」
「……そうだな。恋敵(ライバル)は多いが、久しぶりにクリュウに会えたんだ。それだけで嬉しいんだろ……ったく、アリアらしくない純情っぷりだぜ」
「そうかしら? アリアらしいと思うけど」
外野は外野での会話を楽しみ、クリュウを囲む女子達の対抗心が本格的に燃え始める頃、まるでそれを制するように部屋のドアがノックされた。一番ドアに近かったフェニスが開けると、そこには思いも寄らぬ人物が立っていた。
「失礼する」
現れたのは炎髪のポニーテールに軍人らしい鋭い瞳で周りを威圧する女性――エイリーク・アトランティス少佐だった。その姿を見てシグマはあからさまに嫌そうな表情を浮かべ、応対したフェニスも、クリュウに詰め寄っていたアリアも表情が硬くなる。
全員がいる事を確認するように部屋の中を見回すと、エイリークは憮然と言い放った。
「女王の間へ来い――イリス女王陛下がお待ちだ」