モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第138話 離れていても信じる心は共に在りて

「うおりゃあああぁぁぁッ!」

 勇ましい掛け声を上げながらシャルルは必殺の突進をし掛ける。目指すは先程から積極的に前に出ようとはせずに全体指揮に徹しているドスイーオス。

 猛然と翔けるシャルルを妨害するようにイーオス二匹が立ち塞がった。シャルルは怒り狂う。

「邪魔するなあああぁぁぁッ!」

 ハンマーを構えながら力を溜めていたシャルルは一切の容赦もなくイーオスの眼前で急停止し、勢いをそのまま遠心力に変えて回転攻撃。連続して振り殴られる重い一撃の連打にイーオスはたまらず吹き飛ぶ。

 回り過ぎて一瞬フラつくシャルル。その隙を突くように別のイーオスが突っ込んで来る。シャルルは勘で動いた。

 イーオスの眼前で、シャルルが消えた──突然シャルルはイーオスの視界から消えるようにしゃがみ込んだのだ。そのままがら空きのイーオスの脚を足払い。転倒するイーオスの頭に向かってイカリハンマーを叩き込む。

 一撃、二撃……、三撃目で吹き飛ばす。弾き飛ばされたイーオスはそれで動かなくなる。

「……これで五匹目」

 息を荒げながらシャルルは静かにつぶやく。

 ドスイーオスと遭遇したのは今から十分程前の事。ドスイーオスは四人が撤退している間に仲間を呼び寄せていたのか、率いるイーオスの数は十二匹にまで膨れ上がっていた。

 圧倒的な戦力を誇るドスイーオスに対し、シャルルは単騎。だがシャルルは一切の迷いもなく雄叫びを上げながら突撃。戦闘は開始された。

 シャルルは単騎ながら獅子奮迅の活躍を見せ、四面楚歌の状況の中で一騎当千孤軍奮闘。クリュウから受け取った閃光玉は使わずに、すでに五匹のイーオスを葬った。

 徐々にドスイーオスの指示が増え、相手は防戦の構えを見せる。だがシャルルも激しい動きによる疲労で息が乱れ、息を整える為に動かない。

 一種の睨み合いの後、再びシャルルが動く。

 バカ故に小細工はせず、バカ故に突撃しか能がなくて、バカ故に真っ直ぐで、バカ故に強力な突撃力。

 イーオスが二匹またしても立ち塞がるが、シャルルは二匹の間のわずかな空間に向かって飛び込む。地面の上でゴロゴロと転がり、すぐに立ち上がって突撃を再開する。抜かれたイーオスは慌てて反転するがもう遅い。

 他のイーオスも慌ただしく動くが、シャルルの突進には追いつけない。

 シャルルは一気にドスイーオスとの距離を詰め、驚くドスイーオスの側頭部に向かってイカリハンマーを殴りつける。

 シャルルのバカ力が加わった一撃は破壊力絶大。ドスイーオスは為す術もなく吹き飛ばされた。

 地面に叩きつけられ、それだけでは止まり切らずに二転三転して岩に胴体を激突させてくぐもった悲鳴を上げる。

 ドスイーオスが吹き飛ばされた事で動揺するイーオス達を前に、シャルルは力強く大地に足を立たせる。

 構えたイカリハンマーを豪快に振り回して背負い、右手は柄に当てながら左手の指先で頬に鼻を撫でる。泥がついていたのか、泥が鼻にこびり付いた。

 じわじわと後退するイーオスの群れを見回し、そして起き上がるドスイーオスを見詰め、シャルルはニッと不敵な笑みを浮かべる。

「舐めんなよ雑魚ども。シャルはいつまでもテメェらに付き合っている暇はないんすよ――面倒っすから纏めて掛かって来やがれっすッ!」

 シャルルは再び単騎で敵陣に殴り込んだ。

 

 シャルルがドスイーオス及びイーオスの群れと戦っている頃、クリュウ、エリーゼ、レンの三人はガノトトス戦に備えて陣地の敷設を行っていた。

「ねぇ、本当にここでいい訳?」

 半信半疑という感じで問いながら、エリーゼはそっと抱えていた大タル爆弾Gをゆっくりと地面に置く。その隣では同じようにクリュウも大タル爆弾Gを設置している。

 エリア5に戻って来た三人だったが、すでにガノトトスの姿はなかった。この頃にはペイントボールの効果は消え、完全に消失(ロスト)した。しかしガノトトスは水辺でしか行動はできない為、行く先は同じ水辺であるエリア6か地底湖のエリア8だけだ。焦らなくてもこの狩場にいる限りは見失う事はない。

 それを理由にクリュウは追撃戦を望むエリーゼを説得して当初の作戦の大前提であるこのエリア5での迎撃戦を決めた。今はその為の準備をしている所だ。準備と言ってもクリュウが指定した場所に大タル爆弾Gを設置するだけという実に単純なもの。すでに荷車に搭載していた大タル爆弾G四発を狭い範囲に集中配置している。

「決戦兵器とも言うべき大タル爆弾Gをこんな所に集中配置するんだから、それ相応の考えがあっての事でしょうね?」

 大タル爆弾Gは威力が絶大な分使い勝手が悪い。一度設置すると石ころがぶつかった程度の衝撃でも爆発してしまう為、再設置ができなくなってしまう。誤爆の危険性やこの使い勝手の悪さがマイナーな道具(アイテム)と呼ばれる理由だ。

 そんな再設置が出来ない貴重な攻撃力を、クリュウは惜しむ事なく集中配置する。その根拠を、エリーゼは問うているのだ。

 エリーゼの疑問に対し、クリュウは川を見ながら答える。

「さっき気づいたんだけど、ガノトトスは釣り上げられると同じ場所に落ちるみたいなんだ」

 それは先程の戦闘の際にクリュウが気づいた《勝利の鍵》であった。

 ガノトトスをこのエリアで釣り上げる事三回。ガノトトスは全て同じ場所に落下した。理由はわからないが、釣り上げた全てのパターンで同地点に落ちる事など、ただの偶然では片付けられない。クリュウはそれを確信して行動したのだ。

 クリュウの説明に、エリーゼはあからさまに呆れたような表情になる。確実な根拠があっての行動かと思っていたのに、クリュウの根拠はそんな実に運頼みのようなあやふやなものであった。当然、エリーゼは不満の声を上げる。

「そんな不確実な情報を頼りに、貴重な爆弾をこんな無茶苦茶な配置にした訳? あんた、いよいよどうかしてるんじゃないの?」

「ひどい言われようだけど、これが僕の立てた作戦だ。不確実って言うけど、僕はこれを貴重で確実な情報だと信じてる。僕だって運頼みで動いたりはしないよ」

「でもいくら何でも科学的に立証できないんじゃ信じられないわよ」

「……僕を信じて、じゃダメかな?」

 自信なさげに言うクリュウを、エリーゼはしばし無言で見詰める。そして、ため息と共に「あんたを信じるって方がよっぽど根拠がないわよ」と嫌味たっぷりに返す。

 地味に傷つくクリュウを見て、しかしエリーゼは「でもさ……」と静かに続ける。

「あのバカが心の底から信じ切ってる。あたしは、そんなあいつを信じてる。今はあいつに免じて、あんたを信じてあげてもいいわよ?」

 クリュウが驚いて顔を上げると、エリーゼはなぜか不機嫌そうにそっぽを向いて立っている。その頬が若干赤らんで見えるのは見間違いではないだろう。クリュウはそんなエリーゼの素直じゃない言葉に笑顔でうなずく。

「ありがと、エリーゼ」

「ふ、フンッ。言っておくけど、期間限定で更新はできない一回限り。調子に乗るんじゃないわよ」

「……肝に銘じておきます」

 苦笑しながらそう答えると、クリュウは改めて設置した四発の大タル爆弾Gを確認する。これでガノトトスに対する一撃必殺の陣地の敷設は終わった。あとは、ガノトトスがこのエリアに入って来るのを待ち構えるだけだ。

「レンからの信号はまだないの?」

 エリーゼの問いかけに、クリュウは川辺の崖の上を見詰める。崖の中腹にちょっとした出っ張りがあり、そこはツタの葉で昇り降りができるようになっているが、そこにレンが一人で立って索敵を行っていた。

 力仕事は彼女には向かず、もしも爆弾を抱えた状態で転ばれでもしたら大惨事。あとはボウガンにはスコープが備え付けられている為、それを使った索敵が適任との判断からレンは索敵係に徹している。今の所、彼女に動きは見られない。

 とりあえず、自分達の役目が終わった事で二人は一息入れる。近くの岩にそれぞれ腰掛け、レンからの報告を待つ。クリュウはいつでも戦闘態勢になれるよう、レウスヘルムは足元に置いておく。そして、腰の道具袋(ポーチ)の中を探って取り出したのは元気ドリンコ。彼はそれを一気に飲み干した。

「エリーゼも飲む?」

「あたしはいいわよ。若いんだから、そんなのに頼らなくても十分」

「……僕、これ必需品なんだけどなぁ」

 地味に傷つくクリュウを放置して、エリーゼは淡々と装備の確認をしておく。すでに何度も確認しているのだが、準備にし過ぎるという事はない。慎重な彼女らしい。

「……あの子とは、連絡はとってる訳?」

 唐突に、エリーゼはクリュウに話しかけてきた。空になった元気ドリンコのビンを道具袋(ポーチ)に戻していたクリュウはそんな彼女の問いかけに「え?」と零す。

「──だから、あのイビルアイの子よ」

 どこか言いにくそうに顔を逸らしながら言うエリーゼの言葉に、クリュウは彼女の言う《あの子》がルフィールの事を示していると気づく。

「……ううん。僕が卒業してから全く連絡は取ってない」

「ふぅん、あんだけあんたにベッタリだったのにね」

 エリーゼもクリュウとルフィールが共に過ごした時期と同時期に在籍していたから、二人がいつも一緒だった事は知っている。生徒会に属したからこそ、彼を中心とした騒動は特にだ。

 エリーゼの言葉に、クリュウは何も答えずに立ち上がると川の方を見詰める。エリーゼがその背中に追求しようと口を開いた瞬間、クリュウは静かに言う。

「――無茶してないといいんだけど」

 いつになく暗い彼の声に、エリーゼは開いた口を閉じた。何となく、今は何も言わない方がいい。そのどこか淋しげな、二人の間に亀裂を生んだ傷跡が隠れた背中を見て、エリーゼもまた表情を曇らせる。

 学生時代、本当に仲の良かった二人を実際に見ているだけあって、今の二人の距離は遠過ぎる。自分はその仲の良さに振り回さえれた身だけど、何となく寂しかった。

「いつか、また一緒になれるといいわね」

 自然と、そうつぶやいていた。クリュウはその言語に静かに振り返ると、小さく微笑んだ。

「……そうだね。いつか、また」

 見上げた蒼い空の向こう、自分と同じように彼女も空を見上げているだろうか。それさえもわからないけど、きっと彼女はこの自分と同じ空の下で孤軍奮闘でがんばっているのだろう。そう、信じている。

 何となくしんみりとしてしまった空気が嫌なエリーゼは、スッと立ち上がった。

「まぁ、その前にあんたがこの戦いで死んで会えなくなるって可能性もあるけどねぇ」

「……笑えない冗談はやめてよねぇ」

 苦笑するクリュウを見てエリーゼは小さく笑う――そして、その時が来た。

 

 一人崖で哨戒任務を続けるレンはティーガーに備え付けられたスコープで川の下流を見詰めている。この川の下流はそのままエリア6へと繋がり、最終的には地底湖であるエリア8へと至る。そして、ガノトトスが現れるのはその三ヶ所だけだ。そのどれもにいない場合は、村へと繋がるヒルメルン川本流へと逃げられた事になる。

 レンはスコープで偵察しながら、その最悪の予想もまた頭の隅に置いておく。そうなると、今から追撃したとしても追いつけるかどうか怪しい。

 だがクリュウの見通しではガノトトスはまだこの狩場の中にいるとの事。根拠としてはヒルメルン川は理由はわからないが昼夜で水位が変わる特殊な川で、ガノトトスの巨体がヒルメルン川本流の入口に入るには最大水位になる夜中のみとなる。その為、だんだんと夕方が近づいてはいるがまだ水位としては十分ではなく、ガノトトスはこの狩場からはまだ脱出する事はできない。それがクリュウの根拠であった。

 エリーゼも同意見の為、今はクリュウが立てた爆弾による戦局打破作戦の準備が進められている。

 自分はドジでいつも失敗ばかり。クリュウやエリーゼのように頭がキレる訳でもないので、自分にできる事はそんな二人から与えられた役目をちゃんと遂行する事。ドジをせず、精一杯がんばる事だけだ。

 振り返ると、作業を終えたクリュウとエリーゼが岩に腰掛けて何かを談笑しているのが見えた。何となく自分だけ疎外感を感じつつも、自分にしかできない役目を遂行中なのだと言い聞かせて我慢する。

 スコープを使ってエリーゼの姿を見て、その後にクリュウの姿を見る。

 会って間もないのに、何だかすごく前から一緒にいるかのような安心感を抱かせてくれる。今まで、村以外の男の子と話した経験がない為、しかも男性全体に抱く《怖い》というイメージも彼からは微塵も感じられない。

 優しくて、頼れて、かっこ良くて、かわいくて。エリーゼがお姉さんなら、クリュウは何となくお兄さんのような感じ。そんな安心感と信頼感が、レンの中に芽生えていた。

「……不思議な人です」

 先程まで笑っていたのに、今はなぜかどこか遠い目をして空を見上げている彼の姿に、レンはそっとつぶやいた。

 そして、今頃になって自分の役目を思い出し慌ててスコープを川に向けた時――それが見えた。

 川を上って来る水面から飛び出た大きなヒレ。それだけで、レンは動いた。

 すぐにクリュウから預かっていたけむり玉を取り、それを思いっ切り地面に叩きつける。破裂した玉から勢い良く真っ白なけむりが吹き出し、レンはツタを掴んでそこから勢い良く飛び降りた――直後、足がツタに絡まってしまうのであった。

 

 レンのいる見張り台から勢い良くけむりが吹き上がるのを見て、クリュウとエリーゼはそれぞれ戦闘態勢に入る。

 事前の作戦会議でレンにはガノトトスを発見した場合、クリュウが託したけむり玉を使ってそれを狼煙代わりにして発見を知らせるという算段になっていた。これは逸早く全体の指示を飛ばす為に、しかし音に敏感なガノトトス相手に音を発する音爆弾や銃声などは使えないという事からの道具(アイテム)の選出であった。

 レンは見事に役目を達成し、ツタの葉を使って勢い良く飛び降りる。だがまぁ、一種の運命とも言うべきか。レンは降りる最中にツタの葉に足が絡まったのか、きれいに宙吊りになってしまう。

「ふぇ~ん、ごめんなさいですぅ~ッ」

 宙吊り状態のまま、涙目になりながら謝るレンの姿を見て苦笑しながら爆弾の方へ走るクリュウに対し、エリーゼは怒りながらも猛烈に心配している事バレバレな状態で彼女の方へ走って行く。

 そんな二人を横目に、クリュウは一人単独で準備を進める。大タル爆弾Gによる地雷原にすぐ横にしゃがみ込み、そこに腰に下げていた落とし穴を仕掛ける。横から飛び出ているピンを引っ張ると丸い装置から地面を溶かす溶液とネットが同時に展開。これで落とし穴の準備は完了だ。

 クリュウが落とし穴の準備を終えるのと同じくらいのタイミングで、エリーゼも宙吊りになったレンの回収を終える。その頃には肉眼でも川の下流からガノトトスのヒレが近づいて来るのが見えた。当然、クリュウの表情も険しくなる。

「釣竿に走ってッ!」

 クリュウの指示に従い、三人は一斉に事前に川辺に備え付けられた釣竿に走る。その間も、ガノトトスはゆっくりとエリアの中に侵入してくる。ここで発見される訳にはいかないので、三人はできる限り姿勢を低くしてガノトトスに気づかれないようにして進む。

 ガノトトスがエリア内の川の中頃に達する頃には、クリュウ達も仕掛けた釣竿に集まった。クリュウはすぐに釣竿を持ち、ガノトトスを釣り上げる構えになる。水面に浮かんでいる釣りカエルと、その向こうに見えるガノトトスの距離を確認する。

 釣竿を構える彼の右からはエリーゼが、左からはレンがそれぞれ手助けするように竿を握る。今回は力自慢のシャルルがいない分、クリュウにはより一層のタイミングの見極めと力が求められる。クリュウは二人の顔をそれぞれ見て、グッと竿を握り締める。

 水の上に浮かぶ釣りカエル。それに反応してか、遠くにいたガノトトスがゆっくりとこちらに近づいてくる。ガノトトスは目が悪いとは知っていても、目の前にまで迫られるといつバレるかという恐怖に身が震え出す。実際、この状態で気づかれる事もガノトトス戦では珍しくはない。

 クリュウ、エリーゼ、レンの三人は呼吸音すらも消して、文字通り息を殺してその時を待つ。

 そして、水面にゆっくりと浮いていた釣りカエルが突然水中に潜った瞬間――ガノトトスが大きな口を開いてそれを呑み込んだ。

「引けえええええぇぇぇぇぇッ!」

 クリュウの掛け声に合わせて、三人は一斉に力を込めて引っ張る。さすがに三人、しかも力担当とも言うべきシャルル不在だとかなり厳しい戦いになる。それでも、三人は足を突っ張って精一杯にガノトトスの強大な力に対抗する。

 何とか、一進一退の攻防が十数秒続き、双方共に疲労が見え始めた頃合い。クリュウはガノトトスの力が弱まり、こちらに向き直った絶好のタイミングに残る力を一気に解放するように攻勢に出る。

 エリーゼとレンもそのタイミングに合わせて一気に引っ張る。

 一瞬、グッと重い力があった後、耐え切れずにガノトトスが水面から飛び出した。空中で一瞬もがいた後、そのまま彼らの頭上を通り抜けて陸地へと落ちる。そしてその軌道は、クリュウの予想通りのものであった。

 水中から引き摺り出されたガノトトスは地面へ落下。すると、その着地地点には事前にクリュウが仕掛けた落とし穴。ガノトトスはそのまま落とし穴を踏み抜き、下半身が地面に埋まる。

「グゥオッ!? グゥオォッ!?」

 動けずもがくガノトトスだが、その背後にはさらにクリュウが用意した決戦兵器――大タル爆弾G四発による地雷原が展開している。

「レンッ!」

 エリーゼが叫び、レンがすぐさまティーガーを構える。その頃にはクリュウとエリーゼがガノトトスに向かって突進する。そして、レンがスコープで大タル爆弾Gに狙いをつけると、そのまま引き金を引く。

 一発の銃声が轟き、撃ち出された弾丸は一直線に吸い込まれるようにして大タル爆弾Gに命中。その振動で大タル爆弾Gの一つが爆発。その爆風で誘爆するように残る三発も一斉に起爆。ガノトトスは大タル爆弾G四発による大爆発に晒された。

 火炎が迸り、黒煙の中に消えるガノトトス。猛烈な爆風に吹き飛ばされそうになるも前へ前と進むクリュウとエリーゼ。煙が晴れた時、そこにがあれだけの大爆発を受けても暴れるガノトトスの姿が現れた。だが、これも二人は想定済み。ガノトトスの体力の高さもまたトップクラスなのだから。

 もがくガノトトスの至近に最初に達したのはエリーゼ。すぐさま武器を構えると、待ってましたとばかりにガンランス必殺の構えを取る。衝撃に耐えられるように腰を落とし、グッと足に力を入れて体を固定。ガンランスの砲口は真っ直ぐにガノトトスの胴を射抜く。そのままの状態で、エリーゼは砲撃とはまた違う引き金を引く。

 内蔵された砲撃加速装置が作動し、装填されている火薬の詰まった炸薬弾ではなく、砲撃の際に威力を高める為にも用いられる圧力燃料容器内に充填されている液体燃料に発火。燃料が燃え、内蔵されている圧力機が圧力燃料容器内の圧力を上げ、その火力、熱、破壊力を限界にまで引き上げる。その温度は推定でも千度近くに達し、高熱で砲口が赤く染まり、辺りの温度を一気に引き上げる。

 そして、臨界点にまで達した容器と砲口を結ぶ圧力開閉器が開き、その凝縮された熱源が空気に触れる事で大爆発。その勢いは唯一の逃げ道である砲口に向かって爆進。刹那、砲口から猛烈な爆発的勢いで炎が噴き出す。火だけではなく飛び散る液体燃料にさらに引火して外に飛び出た火炎はさらに勢いを増し、爆発的な勢いを持ってガノトトスを襲う。

 ガンランス必殺の奥義――竜撃砲だ。

 すさまじい爆発による衝撃もまた大きい。中の燃料ごと火炎を吹き出した加速装置はすぐさま高熱になった内臓機関を冷そうを圧力燃料容器に接する外壁、ハッチを開く。そこから勢い良く蒸気が吹き出し、それが吹き飛ばす勢いを幾分か軽減する。一種の無反動砲だ。

 それでも勢いは止められず、エリーゼの体は大きく後ろに吹き飛ばされる。突っ張っていた足がその勢いを止めようと悲鳴を上げる。つま先が地面を抉るようにして軌跡を残す。

 大きく後退しながらも、エリーゼは再びガンランスを構える。ハッチが開かれた事で圧力燃料容器が空気に接する事で冷やされる空冷式。これでしばらくは炉の熱を安全温度まで下げるのと、燃料タンクから圧力燃料容器の中に燃料を再注入するのに時間がかかる。

 ガンランスの必殺技にして、最大威力を誇る一撃、竜撃砲。しかしガノトトスは相当なダメージを負っているだろうに、それでもその巨体を激しく揺らして暴れる。大タル爆弾G四発と竜撃砲を喰らってもまだ暴れるだけの力がある事には驚きつつも、想定済みの展開にエリーゼは冷静に前進する。

 エリーゼの竜撃砲が炸裂したと同時に、レンも中距離からの射撃を開始する。スコープで狙うは上部のヒレ。暴れるガノトトスに対して首を狙うのは至難の業という事から、とりあえず安定して狙える場所を選んでの攻撃だ。

 一方のクリュウもエリーゼの竜撃砲が炸裂したのを見て接近。暴れるガノトトスの背中に向かって勢い良くバーンエッジを叩き込む。燃え盛る刀身が大タル爆弾Gやエリーゼの竜撃砲を受けて鱗が焼け落ちて剥き出しになった肉質に炸裂。焼き切るような一撃に血が噴き出し、ガノトトスが苦痛に暴れる。

 踊り狂うように剣を滑らせるクリュウ。準備中に砥石を使って切れ味を最大にまで高めたバーンエッジでの一撃は大タル爆弾Gや竜撃砲を受けて弱った鱗をいとも簡単に弾き飛ばし、中の肉を斬り裂く。振り下ろし、斬り抜き、突き、回転斬り。様々な形で嵐のように剣撃の乱舞を叩き込む。

 次第次第に疲労が腕に蓄積して来て痛みもあるが、クリュウはそれを歯を食いしばって耐えながら構う事なく次々に全力で剣を振るい続ける。

 クリュウの鬼気迫るような気迫に後押しされるように、竜撃砲で後退したエリーゼも戦線に戻る。短い突進のように前進しながらの鋭い突き。その一撃はガノトトスの鱗を吹き飛ばし、刃は深く肉に突き刺さる。一撃を入れると、そのまま横へステップ。一撃を入れ、またステップして横へ移動し、ガノトトスの背後から正面へと回り込む。そして、自分と同じ高さにまで下がった弱点の腹に向かって、エリーゼは連続して突き攻撃を放つ。一撃、二撃、三撃と放ち、そこで砲撃を挟みもう一度突きを放つ。そしてそのまま二発連続で砲撃をぶちかます。

 クリュウ、エリーゼ、レンの総攻撃を受けてガノトトスは怒り狂うようにして落とし穴から逃れようと暴れる。そして地面にヒビが入り、落とし穴の限界が見えた頃にクリュウは一度バックステップで距離を取る。大きな盾を使ってガードを主軸にするガンランスのエリーゼは構う事なくそのまま突き攻撃と砲撃を組み合わせた攻撃を繰り返す。元々距離があるレンも構わずに射撃を続ける。

 そして、ガノトトスがようやく落とし穴から這い上がった。再び三人を圧倒するような高さにまで立ち上がると振り返って正面に位置するクリュウを憎々しげに睨みつける。その足元では依然としてエリーゼがガード突きを放っている。

 ガノトトスはエリーゼを追い払おうとその場で体当たり攻撃を仕掛けるが、エリーゼはそれを巨大な盾で防ぎ切る。そしてまるで何事もなかったかのように再び鋭い突きを攻撃を腹に向かって突き刺す。

 レンもようやく暴れなくなった首を再び狙って攻撃を始める。

 エリーゼとレンのコンビの攻撃に翻弄されるガノトトス。足元にいるエリーゼを排除しようと再び体当たり攻撃をし、さらに旋回攻撃をするも全てエリーゼがガードで防ぎ切る。ガノトトスは逃れようと這いずり突進でエリーゼから距離を取るが、レンの銃弾はそれを的確に追尾して命中する。

 慎重に、かつ大胆に攻め込むレンの攻撃にガノトトスは鬱陶しげに首を振ると、水ブレスを彼女に向かって撃ち放つ。しかしレンはそれを予測してすでに回避行動をしており、その一撃は何も無い地面を穿(うが)つだけ。しかもそのタイミングを見計らっていたクリュウが水ブレスを撃つ事で一瞬低くなるガノトトスの頭に向かって跳びかかるようにしてバーンエッジを叩き込む。顔が燃え、ガノトトスが悲鳴を上げて仰け反る。

 仰け反って一瞬動きが止まるガノトトス。そこへ距離を取られたエリーゼが再び戦線に返り咲く。

「ちょこまか動くんじゃないわよッ!」

 突進の勢いで加速した、刺突のように放たれた一撃はガノトトスの太い脚に突き刺さる。予期しない方向からの鋭い一撃に、ガノトトスは堪らずにその巨体を維持できなくなり、鈍い音を地面に響かせて横転した。

「さすがッ!」

 クリュウはエリーゼの見事な攻撃を賞賛しつつ、この絶好のチャンスを無駄にしない為に一気に前進する。エリーゼも地面に倒れて動けないでいるガノトトスに向かって再び突きと砲撃の嵐を繰り出し、レンも片膝を着いて体をしっかり固定して反動に耐えながら連続射撃を開始する。

 クリュウはついに自分の足元くらいの高さにまで落ちたガノトトスの顔面に向かって燃え盛るバーンエッジを叩き込む。空気に触れ、風を切る度に小さな爆発音を響かせるバーンエッジはガノトトスの頬にブチ辺り、暴れ狂うように炎を絡ませる。鱗が飛び、肉が裂け、焼け焦げる。クリュウは容赦なく連続して剣を振るい続ける。

 三人の総攻撃を受けるガノトトスだが、転倒している状態では反撃する事も逃げる事もできない。ただひたすらにもがき続けるだけだ。

 ゆっくりと起き上がるガノトトス。それを見てクリュウは前線をエリーゼに託してすぐにバックステップで後退する。

 だが、ガノトトスは脚元にいるエリーゼを無視して逃げるクリュウを執拗に狙う。角笛の効果はとっくに尽きているはずだが、どうにも嫌われているらしい。

 冗談を考えている暇ではないとガノトトスから視線を外さない。放たれる水ブレスを横へ跳んで回避し、反転攻勢の構えを取る。しかしガノトトスはクリュウが反撃の為に動きを止めた瞬間を狙って這いずり突進。クリュウは慌てて横へ回避するが、思った以上に距離が詰まっていたので完全には避け切れずヒレの縁が直撃。まるで殴られたかのように彼の体は吹き飛ばされる。

 クリュウの体はそのまま地面に激しく叩きつけられた。背中を強打して咳き込む彼に向かってガノトトスはさらなる追撃を仕掛けようと振り返る。

 だが、振り返ったガノトトスの頭に向かってレンが銃弾を放つ。放たれた二発の銃弾はガノトトスのこめかみ辺りに辺り、一瞬遅れて爆発する。その衝撃にガノトトスは悲鳴を上げて仰け反る。

 クリュウを助けるように攻撃するレン。構えたティーガーから二発目の空薬莢が吐き出されると同時に新たに二発再装填する。装填された球は通常弾や貫通弾よりも大きい弾丸。命中した後一瞬遅れて弾首に仕込まれた爆薬が爆発する、徹甲榴弾LV3。徹甲榴弾シリーズ最強の攻撃力を有し、砲術師である彼女の撃つその一撃はさらに強力だ。

 新たに装填された弾丸を再びガノトトスの頭を狙って撃つ。大型弾丸だけあってその反動も大きいが、扱い慣れたレンは物ともしない。

 撃ち出された弾丸は再びガノトトスの側頭部に命中して起爆する。すると、ガノトトスが低い悲鳴を上げてその場で倒れた。まるで先程の転倒と同じような状態だが、まだ脚に対する転倒蓄積は全く溜まっていない。撃ったレン自身も驚いている様子。

「き、気絶……ですか?」

 困惑するレンを一瞥し、クリュウは静かにレウスヘルムの下で笑う。

「シャルルの置き土産って訳か……」

 モンスターは頭を振動させるような攻撃が蓄積されると、脳震盪(のうしんとう)を起こして一時的に気絶状態になる。主に打撃武器であるハンマーや狩猟笛、そしてボウガンの徹甲榴弾によって陥る。

 これまで、シャルルが地味に当てて溜まっていた気絶値が、レンの徹甲榴弾によって発動したらしい。まさに、シャルルの置き土産だ。

 クリュウは今はこの場にいないシャルルに感謝しつつ、この絶好の隙を活かそうと反転攻勢に出る。エリーゼも同じくガノトトスに攻撃を再開し、レンも通常弾LV2に弾を変更して距離を詰めて射撃を行う。

 暴れる脚を避けながら、低くなった弱点である腹を狙う。それはエリーゼも同じで、クリュウとエリーゼは横に並びながら攻撃する。

 燃え盛るバーンエッジをガノトトスの鱗がほとんどない腹に突き刺す。これまでと違い、その一撃は簡単に刃を通らせる。クリュウは容赦なく連続して剣を叩き込む。その隣ではエリーゼも同様にガンランスを振るう。深々と刃を突き刺し、至近距離で砲撃をブチかます。竜撃砲の絶好のチャンスではあったが、まだ冷却が終っていない。仕方なく突きと砲撃の連携攻撃を繰り返すが、そのダメージもまたかなりのものだ。

 レンの撃つ通常弾LV2の雨もそれに加勢する。堅い鱗で弾き飛ばされる銃弾もあるが、大概はガノトトスの肉に辺り、わずかながらもダメージを蓄積させていく。

 転倒よりも長い気絶状態の間に、三人は一気にダメージを与える事に成功した。

 ガノトトスはゆっくりと起き上がり、すぐさま旋回攻撃で周囲を薙ぎ払う。エリーゼはガードしてこれを防ぎ、接近していたクリュウとレンは一時ガノトトスから間合いを取る。

 ガノトトスの旋回攻撃が終わると、すぐにクリュウは反転攻勢に出ようと走り出す。だがガノトトスはそれから逃れるように彼に背を向けると、そのまま脚を大きく上げるようにして無様な走り方で三人から逃げる。クリュウとエリーゼが慌てて追いかけ、レンも射程範囲内のうちは攻撃していたが、すぐに逃げられてしまう。

 ガノトトスはそのまま川辺に達すると、そこからジャンプするようにして川の中へ入ってしまった。クリュウはすぐに音爆弾に手を伸ばすが、それを遮るようにしてガノトトスは一度深く潜った後に水面に飛び出し、上半身を水面から出しながらクリュウに向かって首を下から上に動かしながら水ブレスを放つ。ガノトトスの正面至近から、クリュウの所まで水ブレスが勢い良く一直線に地面を抉る。クリュウは慌ててそれを横に回避した。だがその結果ガノトトスに音爆弾を投げるタイミングを失ってしまう。

「くぅ……ッ」

 悔しげに唇を噛みながらクリュウは起き上がる。

 ガノトトスを引き摺り出す事に失敗したクリュウに代わってエリーゼが川辺に接近する。だがガノトトスはそれすらも拒むようにして彼女に向かっても同様に水ブレスを放つ。これにはエリーゼも横へ跳んで回避する。ガノトトスの水ブレスは勢いが強過ぎて特殊な施しを行った盾でない限り簡単に弾き飛ばされてしまうからだ。

 エリーゼもまたガノトトスに接近できない。ガノトトスはそれを嘲笑うかのように再び水中に潜る。ヒレだけを出して、ガノトトスは川の中を移動する。レンはすぐにペイント弾をヒレに向かって命中させる。クリュウが慌てて川辺に近づき、音爆弾を投げるがすでにガノトトスはその範囲外に脱し、そのままエリアから姿を消してしまった。

 静かになったエリアで、三人はぺたんとその場に腰を落とす。皆、激しい戦闘の連続にかなりの疲労が蓄積していた。動き回る剣士組はもちろん、元々二人よりも体力がないレンもぜぇぜぇと肩を上下させて乱れた呼吸を整えている。

 クリュウもレウスヘウムを脱ぎ捨てると、腰に下げた水筒を取って一気に中の水を飲む。さらに残った水も頭から被って熱くなった体を無理やり冷やす。

「さすがに三人だとキツイねぇ……」

 クリュウの声に、エリーゼが「当たり前でしょうが」と呆れたような声で返す。その間にレンもクリュウと同じように水筒の水をゴクゴクと勢い良く飲んでいる。

 クリュウは振り返り、エリーゼと視線を合わせる。言葉とは裏腹に、どちらの瞳にもしっかりと希望の光が輝いているのが互いにわかった。

「――でも、これならやれるよね?」

 クリュウが試すように言うと、エリーゼは当然とばかりに腕を組んでいつもの不敵な笑みを浮かべて返す。

「当然よ。言ったでしょ? あたしは勝てる戦しかしない主義なのよ」

 自信満々に言うエリーゼの言葉に、クリュウは満足気にうなずく。そして、水を飲み終えてようやく息が整ったレンの方へ振り返る。その瞬間、レンも同じようにクリュウの方を向いた。彼の視線に対して、レンは無邪気に微笑んだ。

「がんばりますッ」

 その一言で、クリュウは十分だった。嬉しそうに微笑んだ後、表情を引き締める。それに合わせて二人の表情もまた真剣なものに変わった。

「小休憩を挟んだ後、ガノトトスを追うよ」

 クリュウの言葉に、二人は静かにうなずいた。

 

「ずおりゃあああああぁぁぁぁぁッ!」

 豪快にイカリハンマーを振り殴り、イーオスを纏めて二匹ブッ飛ばすシャルル。吹き飛ばされたイーオスは地面に叩きつけられ、低い断末魔の声を上げた後動かなくなる。

 ぜぇぜぇと荒い息を繰り返すシャルルの周りには、無数のイーオスの亡骸が転がっている。その数は十匹以上。

 疲労困憊なシャルルだったが、その瞳には相変わらず強い闘志が宿っている。その瞳で次に睨みつけるのは、仲間を全て失い絶句しているドスイーオス。それを見て、シャルルは不気味に微笑んだ。

「……さぁ大将さんよぉ。小細工はもうなしにして、シャルと正々堂々一騎打ちと行こうじゃないっすか」

 汗に濡れた顔でニヤリと笑うシャルルを見て、ドスイーオスは天高く怒号を放ち、一直線にシャルルに向かって突進して来る。それを見て、シャルルは満足気にうなずいた。

「一対一の真剣勝負っすか、そういうのシャルは大好きっすよッ!」

 シャルルもまたイカリハンマーを構えて突進する。

 血と汗を迸らせながら、シャルルとドスイーオスの壮絶な決闘が始まった。


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