モンスターハンター ~恋姫狩人物語~   作:黒鉄大和

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第11話 エレナの逆鱗

 イージス村に戻るまでの間にクリュウはフィーリアに色々な事を教えてもらった。

 フィーリアは無所属で各地を回っている流浪ハンターで、貴重品は基本的にドンドルマのハンターズギルド本部に預けているらしく、余程の事がない限りそれらの物を出す事はなく自給自足して旅をしているらしい。

 フィーリアはすでに多くの飛竜を倒して来ているらしい。それは彼女が身に付けているレイアシリーズを見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。一つ疑問に思ってどうして頭はレッドピアスを付けているのか尋ねると、「私はガンナーなので、風を感じていた方が命中率がいいんです。風の向きや強さで弾は大きく威力や方向を変えますからね」と返してきた。確かにそれは一理ある。だからこそ彼女は裸の頭にせめてもとレッドピアスを付けているのだ。ピアス系は特殊なエネルギー波を出して微弱だが防御力を上げる事ができるがないよりはマシというレベルだ。だが、ピアスの本来の能力は色に応じてある一つの属性攻撃に対する能力を向上させる事だ。これもどうやらそのエネルギー波が能力を上げているらしいのだが、いかんせんクリュウはそんな事詳しく知らないし、ギルド自体も多くは公表していないので不明だ。

 すると今度は逆にフィーリアが質問してきた。

「クリュウ様こそどうして頭の防具をされていないのですか? クリュウ様はガンナーではありませんし」

 そう一応訊いているが、彼女の瞳には確信があった。きっと頭の防具を揃える素材や資金が足りなかったのだろうと、初心者にありがちなパターンを予想しているに違いない。実際彼女はそう思っている。

 クリュウはそんな彼女の誤解を解こうと笑いながら説明する。

「これは好きで外してるの。僕はフィーリアみたいに風の動きを感じたいとかそんなんじゃなくて、ただ単に頭の防具が嫌いなんだ。邪魔だし、物によっては視界が悪くなったりするでしょ? そんな事になったらいくら防御力が高くなっても飛竜の攻撃なんか喰らったらひとたまりもないからね。だったら避けやすいように視界を確保して少しでも避けやすくしようと思って」

 そう説明するとフィーリアは「そうなんですか」と納得した。もう少し問われるかと思ったが、それはなかった。逆に訊き返すとどうやら自分のように頭に防具をしたがらないハンターはそれなりにいるらしい。みんな考える事は同じようだ。

 そんな風にお互いの事を話している間に二人はイージス村の麓(ふもと)に到着した。

 後は長い階段を上って村の中を目指すだけだ。階段を上る途中フィーリアが「こんなに階段があるんですか?」と力なく尋ねてきたので苦笑いしながらうなずいた。どうやらいくら熟練のハンターだからといってもこれだけの階段を上ればへばってしまうらしい。慣れているクリュウだってちょっと辛いのだ。初めてのフィーリアはかなりのものだろう。

 やっとの思いで階段を上り終えて村の入り口をくぐる。するといつも迎えてくれる門番の青年が笑顔で駆け寄って来た。

「やあおかえりクリュウくん――って、そっちの女の子は誰だい?」

 門番はクリュウの隣にいる絶世の美少女であるフィーリアを不思議そうに見詰めている。そんな彼にフィーリアはペコリと頭を垂れる。

「フィーリアと言います。クリュウ様と同じくハンターをしている者です」

「ハンター? 君みたいな女の子がかい?」

「はい」

 門番は「本当かい?」とクリュウに訊いてくる。

「本当ですよ。僕なんかよりもずっと強いですよ?」

「そっか、女の子がねぇ」

 門番の言葉にフィーリアは苦笑いする。

 この世界において世間一般的には女性の方が地位が低い。特に下克上(げこくじょう)のように力こそ正義というハンターの世界ではより女性の地位は低い。基本的に筋力や体力が男よりも下回る女性は男ハンターからバカにされる事が多い。少なからず存在する女性ハンターはそうしていつも肩身の狭い思いをしている。それがこの世界だ。

 だが、フィーリアのように女性でも相当な実力者になれる事も多い。むしろ女性ハンターはそうした迫害(はくがい)をバネにして伸びる事が多く、時たますさまじい実力を持ったハンターが生まれる事もあるので、実は侮れない存在なのだ。

 クリュウの言葉に門番も納得してくれた。彼は人を見た目や性別なんかでバカにしたりはしない心優しい成年なのだ。

「いやぁ、世の中わからないね」

 うむうむとうなずくと、門番はふと何かを思い出したように二人を見比べ、なぜかニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべる。

「な、何ですか?」

「いやぁ、クリュウくんも隅に置けないね。こんなかわいい子をゲットしてたなんて」

「はあ?」

 クリュウは訳がわからないといった具合に首を傾げる。すると門番は「またまた、とぼけちゃって」と言ってニヤニヤとしながら軽く肘を突いて来る。とぼけるも何もクリュウは本当に何がなんだかわかっていないのだ。そんな彼に門番はこのこのと肘をさらに突く。

「だってクリュウくん、ハンターとしての仕事が急がしいのに間を見つけてこんなかわいい彼女を作っちゃうんだから」

「はあッ!?」

 これにはさすがのクリュウも驚いた。クリュウが不安そうにフィーリアに振り向くと、彼女は顔を真っ赤にしてうつむいている。そんな彼女にクリュウは慌てて門番を怒る。

「な、何言ってるんですかッ! 僕とフィーリアはそんな関係じゃありませんよッ! そもそもさっき会ったばっかりなんですよッ!?」

「またまた、別に隠す事ないじゃないか」

「だから違うって言ってるでしょッ!? フィーリアも何か言ってよッ!」

「えぇッ!?」

 いきなり話を振られたフィーリアはなぜか顔を真っ赤にしてクリュウを見詰めていた。どうやらクリュウの恋人に見られた事が恥ずかしいらしい。

「えっと……私とクリュウ様は本当に先程会っただけで、それ以外の関係はないですぅ……」

 フィーリアは頬を桜色に染めたまま勇気を振り絞って説明してくれた。だがせっかくの説明もその赤みを帯びた表情が全てをぶち壊していた。

 いまだニヤニヤと笑い続ける門番にクリュウはどうにか話を変えようと話題を模索する。と、そんな彼に門番の方から話題を振ってきた。

「でもクリュウくん。エレナちゃんきっとカンカンに怒るよ? もうそりゃ飛竜なんてかわいく思えちゃうくらいに」

 どうしてそこでエレナの名前が出てきたのかさっぱりわからなかったが、クリュウはとにかく早く話題を変えようと再び頭を回転させる。と、

「あ、クリュウおかえりなさい。今日はちょっと遅かったわね」

「のうわッ!?」

 タイミング良く近くを通り掛ったエレナがクリュウに気が付いて声を掛けてきた。だが、予想していたのとずいぶん違う反応にエレナは不機嫌そうに唇を尖らせる。

「何よその反応」

「あ、いや、ちょっと驚いただけで」

「何で驚く必要があるのよ」

 睨み付けるエレナの視線にクリュウは苦笑いを浮かべた。だがそのハッキリとしない態度が余計彼女をイラ立たせる。

「笑って誤魔化されると――って、誰?」

 ここにきてようやくエレナはフィーリアの存在に気づいたようだ。じっとフィーリアを見る目は驚きと警戒に満ちている。そんな彼女にクリュウは慌ててフィーリアを紹介する。

「彼女はフィーリア。さっき密林で助けてもらったんだ」

「助けられたのは私も同じですが」

「あんなの助けたに入らないだろ? それにそれだと余計話がややこしくなるし」

「で、ですが、それはフェアではありません」

「別にフェアにするつもりはないんだけど……」

 そう言ってクリュウとフィーリアはエレナにはわからない二人だけの話題で話し始める。どちらも謙遜した性格の為か相手を思いやった行動が多い。そんな二人だけの会話を楽しそうに見詰める門番に対し、エレナは明らかに不機嫌さを増していた。

(何なのよ、この女)

 エレナはクリュウと仲良さげに話しているフィーリアを睨む。

 確かに顔はかなりかわいい。外見なら自分だって負けてはいないだろうが、口調を聞く限り性格もずいぶん優しそうだ。それに対して自分は強気な性格なので優しさなんてほとんど出ない。

 そんな自分とはまるで違ったタイプの女の子と仲良さそうに話すクリュウをエレナは不機嫌そうに睨み付ける。

(何よ。何でそんな女なんかと楽しげに話しているのよ)

 すさまじい殺気を含んだ視線を感じてクリュウが慌てて振り返ると、エレナがこれまで見た事のないような冷たい視線で睨み付けていた。

 さっきまで良かったエレナの機嫌がなぜか急激に悪くなっていくのが嫌というほどわかった。その中に含まれる殺気にクリュウは身を震わせる。

「え、エレナ? 何でそんな怖い目してるの?」

「うるさいッ!」

 突如怒鳴られ、クリュウは「え? え?」と戸惑うばかり。もちろんどうしてエレナが不機嫌なのかなんてクリュウにわかる訳もなかった。

「ふんッ! クリュウのバぁカッ!」

 ついにツンと背を向けてしまうエレナ。一方何がなんだかわからないクリュウは首を傾げるばかりだ。

「あ、あの……」

 その声に振り返ると、困ったような表情を浮かべているフィーリアが。

「あ、ごめん」

 すっかりフィーリアの存在を忘れていたクリュウは慌てて彼女に向き直る。背中に突き刺すような冷たい視線を感じたが今はとりあえず無視した。

 クリュウは両手を大きく広げて満面の笑みを浮かべて彼女を迎えた。

「――ようこそ! イージス村へ!」


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