ソードアート・オラトリオ   作:スバルック

6 / 32
おかげさまでお気に入り数が20を超えました。
お気に入りにしていただきありがとうございます。
これからも頑張っていきたいです。

一応ツインテールなんだよなぁ…


第5話

「どうしよう…キリト君とうとう帰ってこなかったよ…まさか彼の身に何かあったんじゃ…」

 

昨夜バイトの飲み会に参加して、キリトとは別々に夕飯を取ることにしたのだがあのあとから彼はホームに帰っていないらしい。

彼の身に何かあったのではないかと嫌な想像しか出来なくなってきており、いよいよ自分がダンジョンに行って探してくるしかない、とそこまで思考が進んだ時、ホームのドアがゆっくりと開いた。

 

 

「ただいま帰りました。」

 

 

そこにいたのはぼろぼろになったキリトだった。

 

 

「キリト君…何があったんだい!?」

 

「実は昨日の夜にまたダンジョンに潜ってまして…」

 

 

「どうしてそんなことを?稼ぎやステータスだって順調じゃないか。」

 

 

「昨日酒場でちょっと…すいません、話は後でいいですか?もうくたくたで…」

 

 

「えっ…あっ、うん。」

 

 

「すいません、おやすみなさい神様。」

 

 

言い終わる前に既にベッドに倒れ込んでいた。

彼をよく見ると一応シャワーを浴びてきたようだが、ギルドからの装備品である防具や服、剣も傷みきっていた。

さらに服が破れた部分からは痛々しい傷が見えた。

 

 

「ちょっと!キリト君!?傷の手当てしないと!」

 

 

「……」

 

 

どうやらホントに寝落ちしたらしい。

ヘスティアは棚から救急箱を取り出して、せめて見える傷だけでもと治療を始めた。

 

 

「あんまり心配かけさせないでくれよ…君は僕にとってかけがえのない家族なんだから。」

 

 

★☆★☆

 

 

「それで、何があったか教えてもらおうか?」

 

 

あれからキリトが起きてからすぐにヘスティアは何があったのかを問い詰めた。

 

 

「いや、その、実は…」

 

 

 

☆★☆★

 

 

俺は酒場から出たあとに一度ホームに戻って装備を整えてからダンジョンに向かった。

 

 

ドロップアイテムなどは一切取らずにひたすらに先へ進んだのだ。

その結果…

 

 

「はぁ…はぁ…ん?ここどこだ?」

 

 

いつの間にやら随分と奥に来てしまったらしい。

見慣れない階層。

4階層までは頻繁に出入りしていたので、少なくとも5階層より下になる。

 

 

すると、いきなりダンジョンの壁から何か飛び出してきたのだ。

それはモンスターだった。

キリトは初めてダンジョンからモンスターが生まれる瞬間を見て、ダンジョンの秘密に少しだが触れた気がした。

 

 

『ギヤアアアアアアアア!』

 

 

「っ!こいつは…」

 

 

ウォーシャドウ

6階層から現れるモンスターで、特徴は黒いボディとその両腕の部分が刃物になっていることだ。

今までのモンスターと比べてトリッキーな動きに加えて、能力が一段上がっている。

駆け出し冒険者が最初に迎える山場である。

 

 

キリトは今まで5階層の入口付近までしか攻略していない。

正直いって能力的に少し不安がある。

 

 

二体か…

そういえばエイナさんに散々一対一を心掛けろって言われてたのに、最近は守ってないな。

 

 

心の中で謝りつつも、今はこの場を切り抜けなければならない。

気合を入れ直して剣を構える。

 

 

『ギヤアアアアアアアアア!』

 

まず始めに仕掛けてきたウォーシャドウの攻撃を剣で弾く。

続けて追撃を加えようと踏み込もうとした時、

 

「っ!」

 

二体目がその間に割り込んできたために再び攻撃を防ぐために剣を振るう。

敏捷の面ではウォーシャドウとそう能力差はないが、二体というハンデがここにきて重くのしかかる。

 

 

 

思った以上にまずいな…

このまま攻撃を防いで少しずつ攻撃を加えていっても、あちらさんはそんな悠長に構える気はないみたいだな。

 

 

なぜなら、先ほどと同様にダンジョンの壁がうごめいている。

おそらく、次のモンスターが生まれようとしているのだ。

しかし、

 

「クソ!」

 

決定的なダメージを与えるための手数が足りない。

このままじゃジリ貧だ。

 

焦ったキリトが安易に攻撃を仕掛けた。

だが、ウォーシャドウに防がれて、大きく仰け反る。

そして二体目がキリトに襲いかかる。

 

 

能力的には若干上である敵の攻撃をこの無防備な状態で受ければ態勢を整えるのに時間がかかる。

下手したらこのまま押し切れらる。

時間がゆっくりになるのを感じる。

これが命がかかる瞬間。

あの時と同じだ。

あの時俺は何もできなかった。

大切な人を目の前にして。

このまま何も残さないでただ無駄に死ぬなんて、そんなことしたくない。

 

キリトは仰け反った身体を左足で支える。

そして剣を持たない左手を後方に持って、後ろにかかる力を利用して引き絞る。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

その引き絞った左手を右足で大きく踏み込んでから前に突き出す。

 

『ガアアア!』

 

左手の攻撃をくらったウォーシャドウが後ろにいるもう一体のウォーシャドウの方に倒れこむ。

 

ー今だっ!

 

キリトは右手の剣を肩にかける。

剣の刀身赤い光のエフェクトに包まれ、力が溜まっていくような音が鳴り響く。

キリトはウォーシャドウに一気に詰め寄って剣を突き刺す。

 

片手剣重突進技《ヴォーパル・ストライク》

 

前回のミノタウロスとは違って、今度は二体重なっているウォーシャドウの身体を剣が貫通した。

 

『『ギヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!』』

 

その剣先がうまく魔石を捉えたのか、二体とも灰になって崩れ落ちた。

だが、さっきの絶叫が合図だったかのように、ダンジョンの壁から次々とウォーシャドウが生まれた。

今度は二体どころではない。

けれど、キリトは不敵にもこの状況で笑う。

 

さっきので左手での攻撃が有効なのはわかった。

今度は身体こうまく使って手数をもっと増やす!

勝つためなら、なんだって試してやる!

 

「行くぞ!」

 

★☆★☆★☆

 

「ってことまではギリギリ覚えてるんですけど、そこからはあまり…」

 

キリトがヘスティアにこれまでの経緯を話したのだが、ヘスティアは下を向いたまま動かない。

しばらくすると、彼女のツインテールがワナワナと揺れ始めたと思ったらいきなり顔を上げて、

 

 

 

「キリト君のバカー!」

 

「す、すいません!」

 

「ばかばか!死んじゃったらどうするんだよ!君がいなくなった僕生きていけないよ!」

 

ヘスティアは半分泣きながらキリトに抱きつき、ゆっくり諭すように話す。

 

「いいかい、今後こんな無茶なことはしないでくれよ。君が強くなりたいの知ってるし、そのためなら僕も全力で応援するし、サポートもする。でもね、死んだらそれまでなんだ。だから約束してほしい。なるべく無茶はしないでくれ。どんなことがあっても生きて帰ってきてくれ。冒険者に向かって飛んでもない約束を頼んでるはわかっている。でもね、僕を一人にしないで欲しい。君と僕はもう家族なんだから。」

 

「はい、約束します。どんなことがあっても神様を一人にはしません。」

 

それから二人は互いの想いを確認するかのように、しばらくその場に立ち尽くすのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。