ソードアート・オラトリオ   作:スバルック

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第3話

「あら?おはようございます、キリトさん!今日はいつもより早いんですね?」

 

 

「おはようございます。今日からさらに気合いを入れていこうと思いまして。」

 

 

彼女の名前はシル・フローヴァ

1週間前偶然にも彼女の働く店の前で出会ってからこうして会話をするようになった。

 

 

「あんまり無茶しないでくださいよ。キリトさんは大事なお客さんなんですから。あっ、これいつものお弁当です!」

 

 

彼女に初めて出会った時もこうして弁当をもらい、お返しにお店に顔を出すという約束を取り付けられたのだ。

彼女はいい人なのだが、かなりしたたかな方ではある。まぁ、こうして出会ってから毎日お弁当をもらっているのだからお店の売り上げに貢献するのはやぶさかではない。

 

 

「いつもすいません!近いうちにまたお店に顔出しますよ。」

 

 

「その時はたくさん注文してくださいね!」

 

 

「ははは…そのためにもしっかり稼がないといけないですね。」

 

 

今の俺の顔はひきつってるに違いない。

いってらっしゃい、という言葉を受けて俺はダンジョンに足を向ける。

 

 

★☆★☆★☆

 

 

現在第1層

もしものために買っておいたスペアの片手剣を手にモンスターと戦う。

エイナさん曰く、冒険者は冒険してはいけないらしい。

一見矛盾している言葉だが、この言葉の意味は冒険者がダンジョンで死なない為のお約束みたいなものだ。例えば、モンスターを複数相手にとらないとか不用意に下の階層にいかないなどだ。

またキリトは半月前に冒険者になったばかりで、仲間もおらずソロでの活動しかできない。

普通ならパーティーを組んで複数の冒険者で挑むのがセオリーである。

基本的なパーティーは4〜5人が理想だそうだ。

そしていま、

 

 

『『『ガアアアツ!』』』

 

 

「ちっ!」

 

 

鋭い牙や爪を武器にする犬頭のモンスターの名前はコボルト。始めは2匹を相手にしていたのだが、背後からまた2匹増えていき、計4匹になっている。

 

 

(これ以上増えると厄介だな…)

 

本来は一度引いて、1対1状況を作った方が安全ではある。

だが、そういった安全策が頭によぎる度にあの剣姫の強さが頭をよぎるのだ。

この程度で逃げてはならない。強くなりたいなら多少のリスクを冒す覚悟が必要なのだ。

 

 

キリトは右手の剣を真横に構える。

すると、刀身はきれいなブルーエフェクトに包まれ、右後方に引き絞られた剣は深い角度で一匹のコボルトの胸に撃ち込まれる。

撃ちきった剣は左腰で一瞬静止し、足を蹴って加速し左から右へのニ撃目を横一文字に薙ぎ払われた剣先が二匹目の敵に痛撃する。

そして、その勢いのまま時計回りに体を回転させ、再び左後方に剣を構える。

思い切り右足を蹴り飛ばし、再び左から右への残撃を三匹目に叩き込む。

そして四撃目、右からのフォアハンドによる斬撃により正方形を描く光を水平方向に拡散させつつ打ち出される。

 

 

水平四連撃技―《ホリゾンタル・スクエア》

 

 

四匹のコボルトは技をくらい斬られた部分からは血が飛びだし、その場に倒れた。

俺は剣を背中の鞘に戻してコボルト達の死体に足を運び胸を抉る。胸部の中心にある、小さく輝く紫紺の欠片を摘出する。

これが、『魔石』。

 

 

モンスターから獲得出来る魔力のこもった結晶という風に考えられている。

この結晶には不思議な力が宿っており、ギルドへ持ち帰れば換金が出来る。

これがダンジョンでの直接の稼ぎとなる。

 

 

俺達のホームにもあった『魔石灯』などが例に当てはまるが、『魔石』はヒューマンの技術で加工する貴重な資源で、ここ迷宮都市(オラリオ)はこの魔石製品を他の地域や国に輸出することど莫大な利益を上げていると聞く。

ここではギルドというのが正しいかもしれないが。

 

 

コボルトから取れたこの魔石は正確には『魔石の欠片』。

手の爪ほど程度で、1~4階層のモンスターから出るのはこんなものだ。

魔石のサイズが大きければ換金額も高くなる。

 

 

魔石を取り除くとコボルトの体は色素が抜け落ちたと思えば、全身が灰となり跡形も消えていく。

魔石はモンスター達の核であり、これを基盤として活動しているらしい。

故に魔石を狙うのはモンスターを倒す上で有効打になりうるのだ。

だけど、魔石が砕けると換金が出来ないのでそこは相手の強さ次第ではある。

 

 

最後の死体を処理すると全て灰になるはずの肉体の中で、右手の爪だけが残った。

これが『ドロップアイテム』。魔石を除去しても希に体の一部が残ることがあり、そのモンスターの中で異常発達した部位らしく、魔石を失ってもなお独立する力を備えている。

これも換金の対象になりうる。具体的には武器や防具の材料として使用され、ものによるが大半は魔石の欠片よりは高く換金出来る。

 

 

これらのアイテムを背に背負っている黒色のバックパックに放り込む。

本来なら魔石やドロップアイテムは『サポーター』と呼ばれる非戦闘員が回収し確保してくれるのだが、あいにく【ヘスティア・ファミリア】の構成員は今のところ俺一人なので割愛。アイテムを全て自分で背負っての戦闘はなかなか窮屈ではある。そろそろフリーのサポーターを雇うべきかと考えていると、再びモンスターが現れる。

 

 

「まずは第5層まで行って攻略してからだな」

 

 

再び剣を構えてモンスター迎えうつ。

今日のダンジョン攻略はまだ始まったばかりだ。

 


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