ソードアート・オラトリオ   作:スバルック

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第2話

あの日のダンジョン内で俺は彼女と会話した。

 

 

「ふぅー…助かったよ。ありがとう。俺の名前はキリト・クラネル。よろしく。」

 

 

俺は剣を背中の鞘に戻そうとしたが。そういえば、剣が折れてるのを思い出して落ち込む。

 

 

(借金してまで買った武器だけど、ギルドからの支給品だとこの程度が限界か…)

 

 

街に戻ったら新しい武器を買い直そうと思い、とりあえず折れた剣を背中に納めた。

 

 

「…私は、アイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。」

 

 

彼女は俺が無事なのを見てか少し顔を緩ませた。

基本的に感情表現に乏しそうな人でなかなか考えてることが読めなさそうではあるが、悪い人ではなさそうだ。そしてなにより彼女に惹かれるものがあった。

 

 

「一つ聞いてもいいかな?」

 

 

「…なに?」

 

 

「君はなぜそんなにも強いの?」

 

 

「私も強くなりたい。今よりもっと。」

 

 

質問の答えになってはいなかったがそれは彼女の願望であり、悲願であった。

恐ろしいまでに貪欲に更なる力を得るために。

遥か先に至るために。

 

 

「私はもっと強くなる。あなたはどうなの?」

 

 

「俺も強くなるさ。あなたを抜かすぐらいにね。」

 

 

「うん、待ってる。」

 

 

そして、彼女はキリトに背を向けてダンジョンの出口へと向かって歩いていく。

キリトはその背中を見えなくなるまで見つめてから自分もダンジョンを出るために動き出した。

 

 

★☆☆★

 

 

エイナさんとの会話を終え、ホームに帰るとそこには既にバイトから帰っていた神様がいた。

神様がなぜバイトをするのかというと、下界での能力の制限がかかっており破ると即天界送りにされるらしい。

その制限はより下界の子である人間の文化を楽しむために設けられたそうだ。

 

 

「あれ?キリト君今日は早いんだね。」

 

 

「少しトラブルに巻き込まれたんですよ。そのせいで稼ぎも今日は残念なことになってしまいました。」

 

 

「まぁ、そういう日もあるさ!それに君に至っては初日から初心者冒険者ではかなり多くの稼ぎをしてると思うぞ!」

 

 

この俺の愚痴のような言葉に笑って返してくる彼女が俺の主神である女神・ヘスティア様だ。見た目は黒髪でツインテールにしており、顔はとても幼く見える。

そして、なによりその幼く見える顔に反して胸はとても大きく主張している。

男神からは《ロリ巨乳》と言われてるとかなんとか。

今は背中の恩恵(ファルナ)を受けた立派な眷族《ファミリア》、つまり家族だ。

 

 

「あと、1週間はなにもしないで過ごせるくらいにはお金もあるしな。」

 

 

「随分心許ないですね。そうだ、ステータスの更新をしてもらってもいいですか?」

 

 

「ん?なんだそんなことお安いご用さ!」

 

 

このホームは既に廃墟となった教会の地下にある部屋だ。

正方形と長方形を合わせたような構造で、一人と一神が暮らすには十分の広さだ。このホームはヘスティア様が親友である神様から紹介されたものらしい。

そのおかげでホテルなど借りないでこうして寝食ができるスペースがあるのだから感謝してもしきれない。

 

 

俺は上の服を脱いで、ベットに横になる。

神様は俺の腰の辺りに乗っかると、背中の石碑にも紋章にも見える刻印、ステータスに神血(イコル)を媒介にして神聖文字(ヒエログリフ)を刻んでいく。そうすることで様々な能力、可能性を明確な事象として発現させる。

 

 

「うん順調だね!欲を言えばもう少し耐久を上げたいね。」

 

 

「ただで殴られるのはちょっと嫌ですけど、考えないといけないですね。」

 

 

「確かに僕の大事なキリト君の顔がアザで真っ青になられても困るしな!はい、出来たよ!今紙に写すから。」

 

 

普通は神様たちが使う神聖文字は読めない。

一部その言葉を教養で身につけている人を除けば。

なので、紙に写す時は人間が使う共通語を使っている。

 

 

キリト・クラネル

Lv.1

力:H135→H140

耐久:i35

器用:H110→H186

敏捷:H160→H192

魔力:i0

片手剣:H105→H110《魔法》【】

《スキル》

【剣芸】(ソード・アート)

・武器に応じた剣技を発動できる

 

・各々の技の熟練度によって威力が増す

 

・使用武器のアビリティが追加され、熟練度によって使用可能な技が増える

 

 

 

これが俺のステータス。

基本アビリティは、『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』の五つで、更にSから、A、B、C、D、E、F、G、H、iの十段階で能力の高低が示される。

iにあたる熟練度数字は0~99となり、100~199がHとなる。

ちなみに999が上限値で、その分野の能力を使用すればそれに応じて熟練度は上昇する。しかし、アビリティ評価Sに近づくにつれ伸びは悪くなるらしい。

 

 

Lv.は強さを図る上で極めて重要だ。

これが一つ上がるだけで基本アビリティ補正以上の能力強化が行われる。

故にLv.の差は能力の圧倒的差を意味しており、今回戦ったLv.2のミノタウロスに傷もつけられなかったのもある意味当然ではあるのだ。

 

 

手に取ったキリトは歯痒かった。まだこの程度なのかと。

あの圧倒的な力を見た俺は心の中で焦りを隠せない。

 

 

(もっと…もっと速く強くならないと)

 

 

「神様…俺もっと強くなります。誰よりも速く。」

 

 

「なれるさ!君は誰よりも強くね。」

 

 

神様は俺の焦りを悟ったのか、明るく答えてくれた。

だが、彼女にはそう断言できる理由を持っている。

そう神ヘスティアだけは知る、彼自身も知らないスキル。

 

 

(君は強くなれるよ。他の誰よりもきっとね)

 

 

キリト・クラネル

《スキル》

【加速】(アクセラレーション)

 

・経験値の獲得値の上昇

 

・強さを求める想いが続く限り効果持続

 

・想いの丈により効果向上

 

・格上である相手との戦闘での効果向上

 

 

 

冒険者になってから半月。

彼の冒険はまだはじまったばかりだ。

だが、このスキルは彼の冒険をどのように彩りを与えるか。

ヘスティアにもまだわからない。

今はただ、見守っていこう。


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