現在PS4も届き、VITAよりもぬるぬる動くSAOを楽しんでおります。
ヴェルフとの冒険はキリトにとってとても新鮮だった。
リリと共にパーティーを組んだ時にも似たような感覚を持ったが、やはり共に戦ってくれるというのはとても心強かった。
今までのダンジョン攻略とは明らかに自身の負担が減り、パーティーの重要性を認識した。
この日の魔石の量は過去最高で、3人で分けても多い。
「いやぁ、ヴェルフが加入しただけでここまで変わるなんてな。パーティーってのは凄いって思い直したよ。」
キリトが抱いた感想を素直に述べると、ヴェルフも悪い気はしないようで景気良く返事をする。
「俺でよければいつでも加勢するぜ。」
男二人で盛り上がっている中で、一人未だに納得してないリリがムスッとした声で答える。
「確かに、今日はいつもより格段に効率が上がりましたがリリはまだ認めていませんからね。」
「なんだリリ助?まだそんなこと言ってるのか?これからパーティー組んでいくんだし、仲良くやっていこうぜ。」
少しガサツなところがあるヴェルフにしっかり者のリリ。
なんだかんだでこの二人はいいコンビになれるかもしれない。
リリが聞いたらまた反論されそうだが、キリトは勝手にそう思っている。
この二人がいれば13階層の攻略もいけるような気がしている。
「それで、大変申し訳ないのですがリリは明日下宿先の仕事を手伝わないといけなくなったので明日の探索は…」
「わかったよ、リリ。それじゃあ、次の探索は明後日いつもの場所で待ち合わせしよう。」
「わかりました。」
リリの先日に事件の後からお世話になってる下宿先のおじいさんは先日腰を痛めたらしく、思うように仕事ができないみたいなのだ。
リリもはやくヘスティアのファミリアに入れればいいのに、と思うキリトだが現状ではなかなかに厳しいだろうとも考える。
もっと強くなる必要がある。
レベル2程度では満足していられない。
「それじゃあキリト、明日はお前の装備でも作ろうか?」
「ほんとかヴェルフ?それは助かるよ!」
今後下の階層にいくには今の装備では心許ない。
明日はゆっくりと装備の整備に努めることにしよう。
「なら、明日俺の工房に来てくれ。」
「わかった。」
みんなと別れたあとすぐにリリがキリトの元に駆け寄る。
何か伝え忘れたのだろうか?
「リリ?どうかしたの?」
「えーと…ヴェルフ様について少しお話があります。」
「パーティーに認めないって話のこと?」
「そのことに関して、耳に入れたいことがあるのです。」
それからヴェルフについてリリから色々聞かされることになった。
★☆★☆★☆★
鍛治師のファミリアとも呼ばれる大規模ファミリアである《ヘファイストス・ファミリア》。
その鍛治師一人一人に工房が与えられるらしく、ここヴェルフの工房もまたヘファイストスから貸し与えられたものだ。
「へぇ〜!ここがヴェルフの工房か!もっと散らかってると思ったけど、意外と綺麗だな!」
「ここは俺の誇りと信念もって打ち込む仕事場だからな。物の整理くらいはするさ。」
仕事場に入ってからのヴェルフはいつもの兄貴のような雰囲気ではなく、一人の職人を感じさせた。
キリトは早速この間のミノタウロス戦で手に入れたドロップ品をヴェルフに渡す。
それを元に新たな武器を作ってもらおうとしたのだが…
「え?足りない?!」
「あぁ。ナイフとかならこれで作れるんだが、キリトが使う片手剣となると少し材料が足りねぇな。」
なんてこった。
武器を作るのにどれだけの材料が必要なのかわからないばっかりに、ここまで来て武器が作れないなんて。
気落ちするキリトにヴェルフは笑いながら、
「そんな気落ちするなよ!他のを混ぜていいなら、それでも作れるんだからな。」
「え?そうなのか?!いや、でも俺今手元にそんなもの…」
「俺の持ち合わせの金属でよければそれで作るがそれでもいいか?」
キリトにとって目から鱗の提案に二つ返事をすると、ヴェルフは早速作業に取り組み始めた。
何か手伝えることはないかとヴェルフに聞いたが、ここからは鍛冶師の仕事だといってそれ以来キリトはただ黙って見守ることしかできなかった。
だがそれは決して退屈な物ではなく、普段攻略で使う武器がどのように作られるのかを間近に見られるいい機会だった。
しばらくして、キリトの新しい武器は姿を現した。
「できたぜ!」
ヴェルフが持つその剣はあの特殊の赤いミノタウロスを彷彿させる赤色に、ヴェルフが今回用いた金属によって黒色が混じったような刀身の色をしていた。
そして、剣自体にも今打ち終わったばかりだけではない熱を感じる。
「よかったら少し振って感触を確かめてみてくれ。」
「ああ!」
キリトはゆっくりと構えると、何度か剣を振るう。
そのずっしりとした重さにキリトは大いに気にいった。
「気に入ったよこの剣!ありがとうヴェルフ!」
「いいってことよ!」
自分の装備を間近で評価されたことがうれしかったらしく、ヴェルフも上機嫌のようだ。
だが、そこでヴェルフは急に黙りこくった。
「どうかしたのか?」
キリトがヴェルフに尋ねると、意を決したようにキリトに問う。
「キリトよ。お前、あの話聞いているんだろう?」
「クロッゾ一族のことか?」
「リリ助やお前んとこの神様から聞いてるんだろう?」
「聞いたよ。」
「なら、なおさらだ。お前は俺に『魔剣』を求めないのか?」
そう、あの日リリから聞かされたこと。そしてヘスティアがヘファイストス・ファミリアのお店でバイトしながら聴いたこと。
それはヴェルフの家系、クロッゾ一族が引き起こした惨劇。
初代は上記のスキルが発現しなかったが、世代を重ねるうちに魔剣を作れるようになる
しかし、ある世代が魔剣を王国(ラキア)に売り込んだことで貴族の地位を得た事から一族は驕り始め、大量の魔剣を送り出した事で数々の国を滅ぼした。
特に国を焼き払われた事でエルフ全体がこれを蛇蝎の如く嫌悪しており、結果として精霊の住処も焼き払った事で彼らの怒りを買い、戦争の最中に全ての魔剣が砕け散り一気に連戦連敗を喫し、一族も魔剣を作れなくなる。
王国は敗北の責任をクロッゾ家に押し付け、魔剣を作れなくなったクロッゾ家は没落する。
そんな忌まわしい過去が彼、ヴェルフの家系にはあった。
しかし、なんの因果かヴェルフにその魔剣を作る力が宿っていた。
そのせいで彼に魔剣を作るように依頼する客が後を絶たなかったようだ。
けれど、ただ一つとしてヴェルフは魔剣を作らなかったそうだ。
その訳はキリトにはわからない。だが、それは今は問題ではない。
「俺はヴェルフに魔剣を求めない。少なくとも今はな。」
「なんだ、それ?」
キリトの返答にヴェルフは納得いかず、再度理由を問う。
キリトはただ剣士であるが故に当たり前だと言わんばかりにこう答える。
「俺は魔剣がなんなのかよくわからない。けれど使いきることで、その形を失うこと。それは、剣士としてとても悲しいことだと思う。剣っていうのは、剣士にとって戦いの中での相棒みたいなものだからな。だからこそ、剣が折れた時なんかとても悲しい。そんなところかな。」
「………」
「だけど、俺はレベル2なんかで満足してはいられない。俺はもっと強くなってダンジョンの奥底にいかなきゃならない。そのためには自分が強くなるのはもちろん、仲間が必要になる。その時に、ヴェルフが作る魔剣が仲間を窮地から救えるかもしれない。だからこそ、俺はヴェルフにはいつかその時までに魔剣を作ってくれるように信じて待つだけさ。」
キリトが一通りに話し終えると、ヴェルフはある想いとの板挟みで悩んでいるように見えた。
キリトもこれ以上を掘り下げるのは厳しいと思い、話題を変えるように話しかける。
「さて、この剣に名前をつけなきゃな!」
キリトの陽気な態度につられてたか、一度思考を止め名付けの作業に入る。
「ミノタウロスの剣だから『牛鬼』か…いや、『ミノタン』とかどうだ?」
「なぜ、最初の名前で納得しないんだよ!」
「なんだ?『牛鬼』でいいのか?」
「むしろそっちで頼む。」
ネーミングセンスのなさは多分これからずっと付き合わなければならないだろうとキリトはこの時思ったのだった。
★☆★☆★☆
「それで、結局ヴェルフ様は私たちの正式なパーティということになったわけで。最初のダンジョン攻略がまさかの中層攻略なんて、展開がはやすぎませんか?」
「俺はもっと早くてもいいと思ってるけど?」
「ははは!俺たちは置いて行かれないようにしねぇとな、リリ助?」
赤いローブを身に纏った三人の冒険者。
『精霊の護符』とよばれるローブで、精霊が作成に手がかりその効果も絶大だ。
この先『ヘルハウンド』とよばれるモンスターが使う火炎を防ぐために今回は『サラマンダー・ウール』とよばれる火の精霊サラマンダー製のものを身にまとい、いよいよキリト達の中層攻略が始まる。